案内をする兵士に連れられパパスとタダオは玉座の間に辿り着いた。

玉座に座っているレナス王はパパスを見ると懐かしそうに微笑むが、咳払いをすると厳しい目に戻りパパスを見据え、パパスもその玉座の前に膝を付いて平伏し、タダオも慌てて頭を下げる。

「そう硬くならずとも良い、お主の高名は儂の耳にも届いておるぞ。

そしてその子がお主の息子の」

「はい、陛下。我が息子のタダオです」

「こ、こんにちは、タダオです」

タダオは城に入る前にパパスに話し方などを指摘されて、何時もより丁寧な話し方をしている。

「成程な、既に何匹かの魔物を従えている筈だ。良い目をしている」

「タマモたちはワイの友だちなんや、したがえてるんやないで！」

「こら！国王陛下に対して何と言う口の利き方だ！」

「これ、タダオ」

「ははは、よいよい。その子の友達を侮辱した様な言い方をした儂が悪かった。すまぬな坊やよ」

「ううん、いいんや。ワイの…僕の方こそごめんなさい」

激昂しかけた兵士もタダオが謝った事で落ち着きを取り戻し、話は続いていく。

「ではパパスよ、そなたを呼んだ用事だがな……、すまぬが此処は儂とパパスの二人だけにしては貰えぬか」

「は？しかし…」

「この者は信頼が置ける人物だ。下がっていてくれ」

「御意。では失礼いたします」

「タダオよ、此処からは大人の難しい話だ。お前は城の中を見せてもらいなさい。一回り回る頃には話も終っているだろう」

国王の傍に控えていた兵士は命令通りに玉座の間を後にし、タダオも下の階へと降りて行く。

降りて行った下の階には豪華な扉があり、その扉が開くと一組の親子が出て来た。

母親の方は煌びやかなドレスに身を包み誇らしげな笑みを浮かべており、子供の方はいかにも王子様という様な格好だったが何処となく俯き加減で表情は暗かった。

「おや、そなたは？」

「は、はい。サンタローズから来たタダオｙ…です」

見た目からこの城の王妃だろうと察したタダオはパパスの為にも問題を起こさない様に丁寧口調で挨拶をし、頭を下げた。

「ほほほほほ、中々行儀の良い子ですね。その様に身の程をわきまえておけば将来、デールの良い部下になるでしょう。頑張って精進なさい、ほほほほほほ」

それに気を良くしたのか、王妃は笑い、息子の事を誉め立てる様に担ぎ上げて笑いながらその場を後にした。

デールと呼ばれたその子供はそんな母の傍で増長する訳でも無く、申し訳なさそうにタダオに頭を下げるとそのまま王妃の後についていく。

「何や、イヤな感じの王妃さまやったけど、あのデールっていう王子さまはどことなく寂しそうな感じやったな」

デールはタダオ達から離れる時にタマモを抱きしめているタダオを羨ましそうに見つめていて、タダオはそんなデールの目を寂しそうだと感じていた。

実際にデールの傍にやって来る子供達は王妃によって厳選され、家臣としての態度しか取る事を許されてはおらず、動物と触れ合う事も汚らわしいと禁止されていた。

一階に降りて、兵士や城に仕えている人達と話をしているとこの城にはもう一人の王子が居るとの事だ。

その王子の名はキョウヤ。

キョウヤの父親はシロウという名で本来ならばラインハットの王位を継ぐ者であったが、政事（まつりごと）には興味を見せずに武力のみを磨（みが）き、王位を弟のレナスに譲り渡すと修行だと言って旅立ったのである。

数年後、旅の途中に息子のキョウヤを連れて城に立ち寄った時に魔族による襲撃があった。

ラインハットの地を護る為にに先陣を切って闘ったキョウヤの父だが敵を退けるのと引き換えにその命を落としてしまった。

既に母親を亡くしており、行く当ての無いキョウヤはレナスに引き取られ城で暮らす事となった。

だが、それを良しとしない王妃はデールの地位を奪いかねないキョウヤに辛く当り続けている。

実はレナス王がパパスを呼んだのもその事に関してであった。

タダオが玉座の間を後にして少しした時、レナス王は態度を変えてまるで旧友にでもあった様な口調になる。

「はぁ〜、お前相手にあの様な話し方は肩がこっていかん」

「ははは、仕方あるまい。何しろ今の私は少し名の売れているだけの一介の剣士にすぎぬのだからな」

「まったく…兄上とは違い、お前は一国の王だというのに……。困った男だよ、デュムパポス・エル・ケル・グランバニア国王陛下」

「……私にその名を名のる資格など無いよ。マーサを救う為とはいえ、国を捨てた男にはな」

シロウがラインハットを出奔し、レナスが王位を継いだのと、パパスが前王崩御で王位を継いだのはほぼ同じ時期の為、二人は国王同士としての交流があった。

そしてサンタローズに戻ったパパスを呼び出したのは兄シロウの遺児、キョウヤの事であった。

兄の子で、息子デールよりも年上とはいえさすがにキョウヤに王位を譲る気は無かったが周りは気弱なデールより行動力に溢れ、性格はきつめだが隠れた優しさを見せるキョウヤを次期国王にと望む者は多かった。

だがそれが妻である王妃は気に入らないらしく、キョウヤに辛く当たる事が多く見受けられていた。

なのでこのままキョウヤを城に留めて国を割る様な事になるよりはパパスに預けて国から離すのが得策だと思っていた。

何よりもキョウヤ自身が城から離れる事を望んでいた。

このまま放っておけばいずれは兄の様に国を飛び出してしまうであろうし、それよりは勇猛で名の知られているパパスに預けるのならば周りの者達も反対はしないだろうと考えての事だった。

「なるほどな」

「あの子は本当に兄上そっくりだよ。国王となる資質は十分なのに身内同士での争いを良しとせず自ら身を引く。まあ、心から自由を求めているのも確かだがな」

「分かった、引き受けよう。どうせ暫くはサンタローズに腰を落ち着けるつもりだったからな。それにタダオにも良き友になるだろう」

「ああ、よろしく頼む」

その頃タダオは、何故か中庭でそのキョウヤと向き合っていた。

お互いに武器を握りしめて。

（ったく！何でこうなったんや？）

事の次第はこうである。

・給仕見習いの少女が運んでいた壺を落として割ってしまった。

・うろたえている少女の所にキョウヤが通りかかり、怒られると思った少女が泣き出してしまった。

・その声に何事かと駆けて来る兵士、その足音に怯えて余計に泣きだす少女。

・キョウヤは手にしていた小太刀で割れた壺を更に粉々にし、やって来た兵士には力試しに壺を割ってしまい少女を泣かせてしまったと嘘の報告をして少女を庇う。

・兵士達は呆然としている少女とそっぽを向いているキョウヤを見比べて事態を悟るが、キョウヤの思いを悟り割れた壺を片づけた後注意をしてそれで終わりにした。

・少女はキョウヤに何度も頭を下げ仕事場に戻っていく。

・そしてキョウヤがその場を立ち去ろうとしたら、一部始終を眺めていたタダオがニヤニヤ笑いながら立っていた。

「…何を笑ってやがる。馬鹿にしやがって…、決闘だ！」

＝冒険の書に記録しました＝

《次回予告》

つーわけで決闘したんやけど、強かったなキョウヤは。

でもやっぱり一番はワイの父ちゃんやで。

そんな時、キョウヤがさらわれてもうた。

ワイは男や、絶対に助けたるで！

次回・第十七話「救え！攫われたキョウヤ」

「待ってろや、キョウヤ！」