ハートオブクラウン・エキシビションマッチ 2/4
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「皆様こんにちは、クラムクラムです。それでは、早速ですが只今より予選第二試合を開始させて頂きます」

予定通りの三十分後に姿を現した稀代の豪商は、再び朗々とした声を会場へと響かせていく。

「今更ではありますが、第一試合が予定の進行時間を多少超過していた状況で、よく中断時間を予定の三十分のまま押し通しましたね」

「準備時間を削った結果お迎えの用意に手抜かりが生まれでもすれば、そちらの方がよほど大きな問題となりかねませんからね。お迎えするのが今回お集まり頂いたような帝国にとっての重要人物の皆様方であれば、なおさらでしょう」

続いて姿を現したベルガモットの言葉へ当然のように答えを返し、クラムクラムは続ける。

「ただ、それでも時間に多少余裕がないという状況には変わりありませんので、進行時間短縮のため、予選第二試合に出場なされる選手の皆様方には中断時間の間に既にご入場を頂いております。事後報告となり申し訳ありませんが、悪しからずご了承下さい」

その後に頭を下げるクラムクラムの告知通り、円卓の周囲には思い思いの表情を見せる四人の姫たちが既に座していた。

「やれやれ、妾たちにはまともな入場シーンもなしとはのぉ。同じ皇族であるというのに、第一試合の面々と比べて少々扱いがぞんざいではないかえ?」

「仰る通りですね。進行上の都合であるとはいえ、次期皇帝候補の皆様方へご無礼を働いてしまったことは事実です」

四人の姫たちのうちの一人である、フードが付いた毛皮のローブを着込んだ際どい衣装の女性の嫌みを、クラムクラムはいかめしい表情で肯定する。

「ですので、このクラムクラムがスタッフ一同を代表し、この場をお借りして皆様方にお詫びを申し上げます。申し訳ありませんでした」

「よいよい、言うてみただけじゃ。少なくとも妾ば、衆人環視の中を光に照らされながら歩いていくのなんぞは性に合わんしのぉ」

そして、起立して円卓の方向へと頭を深く下げるクラムクラムであったが、際どい衣装の女性はそんな彼女へといたずらっぽく笑いかけた。

「ウチもアナスタシアと同意見やな。メンツを保つんはウチらの世界には必須やけど、それと必要以上に目立つんは必ずしもイコールやないしなー」

アナスタシアと呼ばれた際どい衣装の女性の言葉に、褐色の肌が強い印象を残すこれまた際どい衣装の少女も頬杖をつきながら同意する。

「とはいえま、何事にも例外っちゅーもんはあるけどな」

その後、彼女は意味深な薄笑いを浮かべながら視線をある一点へと流した。

「えっ?」

視線の先の影──蛇の図柄が刻まれた眼帯と頭の両サイドに付けられた二つのお団子、そして身にまとった極東特有の意匠のドレスが特徴的な気弱そうな少女は、エムシエレの視線に狼狽する。

「いくらメンツを保つんと目立つんがイコールやないっちゅーても、それが必要最低限未満っちゅーのはなー」

「え、えーと、一応私なりには頑張ってるつもりなんですけど……」

褐色の少女の物言いへおずおずと反論を行う眼帯の少女であったが、褐色の少女はそれを耳に、細く静かにため息を吐いた。

「うーん、ルウェリーちゃんには残念なお話やけどな。頑張っても結果が出んと意味がないんがウチらみやいな表舞台の人間の宿命なんやわ、これが」

「……私、そんなにダメなんでしょうか」

そこから続く褐色の少女からの容赦ないダメ出しに、ルウェリーと呼ばれた眼帯の少女はたちまち肩を落としていく。

「そこまでにしておいてはどうじゃ、エムシエレ殿。お主とて、別に言葉攻めがしたい訳でもあるまい」

そこへ、見かねたように、着物や髪飾りで豪奢にめかしこんだ赤紫がかった髪の女性が口を挟んだ。

「そやな。ウチの性分とはいえ、ルウェリーちゃんにはちーと言い過ぎたかもしれんわ。堪忍な」

「あ、いえ、とんでもないです! 事実なんでしょうから……」

着物の女性の言葉を受けた、エムシエレと呼ばれた褐色の少女が少々ばつが悪そうに頭を下げると、ルウェリーと呼ばれた眼帯の少女は慌てて首を横に振る。

「そうじゃの。エムシエレ殿の言うことも、決して全てが的外れという訳ではない。それだけは、ルウェリー殿にも分かって欲しいところではあるの」

「分かってます、オウカさん。そんな状況を少しでも変えたいから、私はこうして衆目が集まるこの場に参加させて頂いたんですから」

オウカと呼ばれた着物の女性を真っ直ぐに見据え、ルウェリーは大きく頷く。

「そうじゃな。なら、儂から言うべきことはこれ以上ないかの」

そして、それに応えるように、オウカもまたルウェリーを見つめ返した。

「しかし、妾にとって不思議なことは、どうにもぱっとせぬこの小娘が、出遅れがひどいにも関わらず各方面の有力者どもをたんまりと引き連れて継承権争いの場に登場できたことじゃな」

オウカとルウェリーのやり取りが終わると、アナスタシアはルウェリーの現状についての疑問を切り出す。

「ルウェリーさんがどのような方であるかはともかく、彼女への支持を表明している有力者が、極東辺境領付近の有力者を中心に多数存在しているのは事実ですね」

「それほどの辣腕があるにも関わらず、妾たちが普段目にしている小娘は先程のような体たらくじゃ。であれば、妾たちが今この時に目にしているこの頼りない小娘の姿は、妾たちを欺くための小娘の演技なのではないかなどとも思ったりもするのじゃがのぉ」

ベルガモットの補足の後、アナスタシアはルウェリーへ疑念に満ちた眼差しを向ける。

「そ、そんなことないですよ! どうして皆さんが私なんかについてきて下さってるのか、私にも本当に不思議で……」

「……まあ、妾とて、そなたがそのような腹芸をできるほど器用な人間とは本気では思っておらぬがな」

アナスタシアは、雨に濡れた子犬のように震えながら必死で疑惑を否定しようとするルウェリーの姿を目に、困惑した表情を浮かべた。

「ただ、取り立てて優れた技能を有せずとも人を引き付ける人物というのは、歴史を紐解けばたまに見かけたりもしますよ。特に、ルウェリーさんの出身地である極東はそういう人物が出てきやすいお土地柄みたいですしね」

「では、そなたはこの小娘もそのような手合いであるとでも言うつもりなのか? 妾にはどうにも理解し難い話じゃが……」

その光景を目にベルガモットは自分の意見を述べるが、アナスタシアは首をかしげる。

「うーん……。そういう眉唾もんな話以外で思い当たる節があるとすりゃ、ルウェリーちゃんの血統やろーな」

そこへ、エムシエレが横から口を挟む。

「ルウェリーちゃんの血統は今でこそ錆びつきまくりの骨董品な血統やけど、時代が時代ならルルナサイカ並の超一級品の血統やしなー。そういうのをありがたがる連中が現代にまだおっても、別に不思議やないわな」

「そういうこともあるにはあるのじゃろうが、それだけではあそこまで多く人は集まらんよ。この現象こそ、ルウェリー殿が我々に推し量れぬほどの何かを持ち合わせているいうことの証拠ではないか? 取り立てて優れた技能を有さないなどというそしりなど恐れ多いほどの、な」

「つまり、この小娘には妾の呪術やオウカの算術と並び立つような何かの才があり、それをもって人を惹きつけているとでも言いたい訳か? 仮に本当だとしても、にわかには信じがたい話じゃがな」

「いずれにせよ、現実としてルウェリーさんの元に人が集まっている以上、彼女にそういった人心を惹きつけるような何かがあることについては間違いないことなのでしょう。それが何であるのかは、さておくとしましてもね」

そうして、選手たちとベルガモットはルウェリーについての考察に花を咲かせていく。

「……それはそれとして、司会進行という立場と致しましては、そろそろタッグの組み合わせ発表に入らせて頂きたいのですがよろしいでしょうかね?」

そんな中、不意にそれを遮るように差し挟まれた声。

「まあまあクラム、急いどーからって無理に慌ててもええこと──」

減らず口を叩きながら声の主の方向へと振り向くエムシエレであったが、程なくして、彼女は絶句した。

「時間に余裕がないと、試合冒頭に申し上げさせて頂いたはずですが?」

彼女の見た声の主は、その口調こそ慇懃で、声色や表情も至って平静ではあるが、その背後からは見る者に思わず上体を後ずさらせるほどの凄まじい威圧感が放たれていた。

「あ、あ、あああ……。すいませんすいませんすいません! すぐ試合しますから!」

クラムクラムの背後から漂う威圧感を感じ取ったルウェリーは、瞳を潤ませると、怯えながら必死に謝罪を連呼する。

「……おっと、これ以上の脱線はどうやら命の危機に直結しそーやな。こっからは真面目にやるから、堪忍堪忍やで」

続いて、表情を引きつらせ額に脂汗をにじませるエムシエレは、減らず口を投げ捨てて静かに実況席から目を逸らす。

「ふむ、余興の場とはいえ流石に無駄話が過ぎたか。反省反省」

「そうじゃな。では、クラムよ。進めてよいぞ」

そして、前の二人とは対照的に、オウカとアナスタシアは特に応えた様子もなく平然とクラムクラムへ謝辞を述べた。

「……では、このまま試合を進行させます。選手の皆様方におかれましては、どうぞ頭を切り替えて頂けますようよろしくお願い致します」

選手たちの謝罪大会が終了すると、クラムクラムは背負った威圧感を消し、疲れたように深く息を吐いた。

「進行のためとはいえ、憎まれ役を買って出るというのも大変ですね」

「あなたも進行遅延の片棒を担がれておられたということを、お忘れではありませんよね?」

他人事のようなベルガモットのコメントに対し、隣席から鋭い言葉のトゲが突き刺さる。

「もちろん、忘れてなどおりません。この通り反省しておりますので、ご容赦下さい」

それを受け、ベルガモットはすまし顔のまま頭を下げた。

「まったく、この方は本当に反省なされているのでしょうかね……」

「曲がりなりにも謝罪をしている以上、一応それなり以上には反省はしていると思うぞ。ベルガモットの性格を考えると、納得がいっていないのなら謝罪の前にまず反論が出てくるはずだしな」

相変わらずなベルガモットへ愚痴をこぼすクラムクラムであったが、そんなベルガモットを弁護する凛々しい声がクラムクラムの耳に届いた。

「フラマリア選手の仰ることは、私も理解はしております。ただ、ふと、たまにはそれらしい表情で反省をして頂けてもよいのではないかという考えが頭をよぎっただけのことですよ」

声の方向へと振り向いたクラムクラムは、フラマリアの意見を否定することはしないながらも愚痴を引きずる。

「その程度のことなら、これ以上気にすることもないんじゃない? ベルの性分がひねくれてるのなんて、クラムも知ってのとおりなんだし」

「そうだね。それに、これ以上余計な話を続けてると進行遅延がもっとひどくなると思うよ」

「……レイン選手とシオン選手の仰る通りですね。このようなただの愚痴で私自らが進行遅延を招いていては選手の皆様方への申し訳が立ちませんし、この話はこれにて終了と致しましょうか」

そこへ続く双子の占星術師の言葉を聞き、クラムクラムは今度こそベルガモットへの追及を打ち切った。

「そこでそのようにあっさりと納得されると、まるで私が札付きのひねくれ者であるかように思われてしまうではないですか……」

「このような些末事をお気になされるとは、細かいことを気にするとハゲるという趣旨の言葉を、よりにもよって私へと仰った方の態度とは到底思えませんね。自ら進んでハゲられたいのですか?」

クラムクラムたちのやり取りを傍で聞いていたベルガモットからの抗議を、クラムクラムは辛辣に一蹴する。

「……私からすれば、あなたも他人のことをどうこう言うことができるような上等な性格ではないと思うのですがね」

「私自身のことは存じませんが、ベルガモットさんのことについては完全に身から出たさびというものですよ。お嫌であれば、日頃の態度を猛省して下さい」

それに唇を尖らせながらもなおも食い下がろうとするベルガモットへ向けて、クラムクラムはベルガモット張りのすまし顔でとどめを刺した。

「……」

「なお、申し遅れましたが、今後はこれまで解説へご協力頂けておりましたレイン選手に加え、予選第一試合で惜しくも敗北なされたフラマリア選手とシオン選手にも解説へのご協力を頂いております」

ベルガモットが返す言葉を失ったことを確認すると、クラムクラムは一連の会話へきりをつけるように正面へと向き直り、話題を切り替える。

「では、レイン選手には改めて、フラマリア選手とシオン選手にはこれから先、それぞれよろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしく頼むぞ」

「よろしく!」

「よろしく」

続けて、クラムクラムが実況席に座しているフラマリアと双子へ頭を下げると、彼女たちも揃ってクラムクラムに頭を下げ返した。

「……さて、前置きが少々ぐだぐだとしてはしまいましたが、いよいよこれから本試合におけるタッグの組み合わせを発表させて頂きます!」

その後、クラムクラムは声高らかに次の予定を告げる。

「では、早速組み合わせの発表を。本試合のタッグは、オウカ・ルウェリー組とアナスタシア・エムシエレ組。この二組による対戦となります!」

「極東領組と南北領組、ということですかね」

クラムクラムの口から発表された組み合わせ内容を聞き、ベルガモットは所感を漏らした。

「いやいや、そんな安直な発想やなくて、たとえば服の露出度を基準に決め──」

ベルガモットに続いてエムシエレが何かを口走ろうとすると、即座に先刻の威圧感が実況席からエムシエレへと放たれる。

「……イエ、ナンデモナイデス。ハイ」

そして、彼女はそのまま言葉を失った。

「さて。発表して早速ではありますが、予選第一試合と同じく、各組には代表者を決定して頂きましょう。では、各組、よろしくお願い致します」

クラムクラムは、彼女の放つ威圧感に怖気づくエムシエレを捨て置いたまま、引き続き着々と状況を進行させていく。

「こちらはどうする? お主が引くか?」

「い、いえ、オウカさんにお任せします! 私がそんな大役を任されるなんて恐れ多いです!」

クラムクラムの言葉を受けてオウカがルウェリーへ話を振ると、彼女からは間髪入れない遠慮が返ってくる。

「まあ、お主の性格を考えるとそう言うだろうとは思っておったがな。では、こちらは儂が引くとしよう」

予想通りのルウェリーからの返答内容を聞き、オウカは仕方がなさそうに微笑んだ。

「こちらは決まったが、そちらはどうじゃ?」

その後、オウカがもう一組へと声をかけると、すぐさまエムシエレが手を上げた。

「ほう、意外とすんなり決まったな。もう少し揉めるかと思っておったが」

「ちゃっちゃと決めんと実況席の司会者様がお怒りになられるやろ? それはご勘弁願いたいしなー」

「レインも言うておったが、どちらが引くかで大幅に何かが変わるという類のものでもないしの」

思いがけない結果に少々驚くオウカへ、二人は事も無げに返答した。

「ということで、各組の代表者はそれぞれオウカ選手およびエムシエレ選手と決定致しました!」

そして、代表者の決定を見計らったクラムクラムの言葉の後、予選第一試合と同様に、二枚のカードを携えた宮廷侍女がしずしずと円卓へ歩み寄る。

「では、早速カードを引いて頂きましょうか。どうぞ!」

クラムクラムに促されたオウカとエムシエレは、宮廷侍女の手から同時にカードを引くとそれを表へと返した。

「……ふむ、二番手か」

今にも茶器を割りそうな粗忽者の姿が描かれたカードを目に、オウカは呟く。

「ちゅーことは、こっちが最初やな」

その後、オウカの呟きに呼応するように、エムシエレは表返した一面の小麦畑が描かれたカードを顔の横にかざし、会場へと見せつけた。

「これにより、本試合ではエムシエレ選手が一番手、オウカ選手が二番手、ルウェリー選手が三番手、アナスタシア選手が四番手となりました!」

順番決定の宣言後、予選第一試合と同様、クラムクラムは声の調子を落として続ける。

「ここで、本試合におけるサプライ構成を発表致します。本試合のサプライ構成は、洗礼、転売屋、近衛騎士団、サムライ、結盟、御料地、十字軍、裁判官、破城槌、独立都市という内容となっております」

「予選第一試合に比べると、大幅に複雑な構成ですね。全体としてはコスト4と5のカードが多めですので、それらに効果の高いサムライの使い方次第で試合展開が大きく左右されることになるのではないでしょうか」

サプライ構成が発表されると、ベルガモットも予選第一試合と同様にそれに対し意見を述べていく。

「サムライの他にキーカードがあるとすれば、何が考えられますでしょうか?」

「洗礼と裁判官ですかね。どちらも、サムライの影響を受けない強力なカードでありますので」

「なるほど。では、本試合はそれらのカードの動向に要注目ですね。ベルガモットさん、ありがとうございました」

クラムクラムは、ベルガモットへと一礼すると、サプライ解説へきりをつけ正面へと向き直った。

「それでは、皆様、長らくお待たせ致しました。これより、予選第二試合、オウカ・ルウェリー組対アナスタシア・エムシエレ組の試合を開始致します」

静まり返る会場の中、クラムクラムは静かに平手を高く掲げる。

「……ここにお集まりの皆様方は、いずれも曲者との定評がある方々ばかりです。そのような皆様方が矛を交える時、果たしてどのような局面が展開されるのか。世の中は予測不可能であるからこそ面白いものではありますが、今回の皆様方の勝負もそのようなものであることを、このクラムクラムも期待させて頂きたく思います」

そして、深く息を吸い込み──。

「それでは、いざ、皇帝の座へ。ソード・オブ・ブレイブ!」

勢い良く振り下ろされた手と共に、勝負の幕は再び切って落とされた。

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予選第二試合:1ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

近衛騎士団*2 転売屋*1 御料地*1 サムライ*3 裁判官*4 破城槌*3 独立都市*5 皇帝の冠

 

デッキ構成:

エムシエレ  農村*7 見習い侍女*3

オウカ    農村*7 見習い侍女*3

ルウェリー  農村*7 見習い侍女*3

アナスタシア 農村*7 見習い侍女*3

 

擁立した姫(後見人):

エムシエレ  none

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

サポートカード:

エムシエレ  none

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

継承点:

エムシエレ  none

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

 

「ウチからか。じゃ、手始めにこいつをもらうで」

「……ほう」

エムシエレが農村五枚を並べ独立都市を手に取ったのを横目に、オウカは農村三枚で都市を購入する。

「えっ? エムシエレさん、コスト2のカードがサプライの中に一枚もないのに、いきなり独立都市なんですか?」

「ほほう。とすれば、あやつの狙いはおおかた速攻擁立となるかのぉ」

それを対照的な様子で眺めつつ、続くルウェリーとアナスタシアの二人は、それぞれ農村三枚を並べ都市を手に取っていった。

「で、当然やけどウチの次はやることなし、と」

「しかし、エムシエレ殿も最序盤から随分と大きな博打に出たものだ。そうまでして手に入れた独立都市が、儂のこいつで斬られることにならねばよいがの」

エムシエレが手札を全て捨て札置き場へと送ったことを受け、オウカは薄笑いを浮かべながらながら農村四枚を並べ、サムライを購入した。

「私もサムライを買います。独立都市の使用さえ阻止すれば、エムシエレさんを出遅れさせることができますから」

「ふむ、それはよろしくないな。では、そなたらに先んじて使用できることはあまり期待しておらぬが、妾も一応サムライを買っておくとしようかのぉ」

続くルウェリーとアナスタシアが共にサムライを手に取ったところで、静かに序盤は終了する。

嵐の前の静けさという言葉の存在を、会場の誰もが忘れたままに。

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予選第二試合:3ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

近衛騎士団*2 転売屋*1 御料地*1 サムライ*1 裁判官*4 破城槌*2 独立都市*4 皇帝の冠

 

デッキ構成:

エムシエレ  農村*7 見習い侍女*3 独立都市*1

オウカ    農村*7 見習い侍女*3 都市*1 サムライ*1

ルウェリー  農村*7 見習い侍女*3 都市*1 サムライ*1

アナスタシア 農村*7 見習い侍女*3 都市*1 サムライ*1

 

擁立した姫(後見人):

エムシエレ  none

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

サポートカード:

エムシエレ  none

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

継承点:

エムシエレ  none

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

 

「……クックック」

開始早々、手札の内容を確認したエムシエレは、他の選手たちへ見せつけるように含み笑いを漏らす。

「さて、開幕早々でなんやけど、オウカとルウェリーちゃんに残念なお知らせや。ウチはこれから、あんたらが処理したがっとった独立都市を使わせてもーてさくっと擁立させてもらうで」

続けて、彼女はわざとらしくもったいを付けながら宣言通りに独立都市を卓上へと配置し、その後に農村三枚を並べていった。

「エムシエレ選手、早くも擁立宣言! 決して単純ではない本試合のサプライ構成の中で彼女が選ぶプリンセスカードとは、ひいては彼女の狙いとは、一体どのようなものなのでしょうか!?」

「でも、これだとサポートカードを付けるにはコインが一枚足りないですね。独立都市は擁立時にサポートカードを付けやすくするためのカードって意味合いが大きいですから、ここで擁立するのはちょっともったいないような……」

実況席からの張りのある声が響く中、ルウェリーは卓上に並べられたエムシエレの手札を目に、杓子定規な所感を漏らす。

「うーん、ルウェリーちゃんはあったま硬いなー。サポートカードなんちゅーもんは、あくまでもおまけやっちゅーのにさ」

エムシエレは、そんなルウェリーを鼻で笑うと、その手をゆっくりとプリンセスカード置き場へと伸ばしていく。

「擁立っちゅーもんの最重要事項は、機先を制してその場に合ったプリンセスカードを選ぶこと。サポートカードがあるかないかなんぞは、そいつに比べりゃささいなこっちゃ」

そうして、彼女の手が辿り着いた先のプリンセスカードには、彼女自身の姿が描かれていた。

「……エムシエレさんが仰るその場に合ったプリンセスカードというのは、エムシエレさんご自身のことですか」

「そや。ウチのカードこそが、この勝負環境における必勝のためのプリンセスカードっちゅーこっちゃ」

エムシエレは、硬い表情のルウェリーに向けて手に取ったばかりの自分のカードをひとしきり見せつけると、それを自分の直轄地へと配置した。

「やろ、アナスタシア?」

それと同時に、エムシエレはアナスタシアへ向けて意味深に目配せする。

「……ああ、そうじゃな。この後、その意味を小娘はもとよりオウカも嫌というほど思い知ることになるじゃろうのぉ」

不意をうったエムシエレの視線にアナスタシアは僅かな戸惑いを見せるが、程なくして、その意味を解したように薄笑いを浮かべてエムシエレへと頷いた。

「擁立が遅れたせいで、この必勝カードを先にルウェリーちゃんやオウカに使われたり後見人で抑えられたりなんてことになったらかなわんしな。やから、多少のリスクを取ってでも擁立を急がせてもらったっちゅーわけや」

続けて、エムシエレは後見人として選んだベルガモットのカードを裏向けにして自らの直轄地へと配置し、その後にオアシス都市ネフェルティリを自身の捨て札置き場へと移動させる。

「あとは、ウチの効果で使えるようになった禁制品トークンをご覧の通りに移動させて、ウチのターンは終了やで」

最後に、彼女は三個の禁制品トークンを全て都市の上へと移動させ、自分のターンを終了させた。

「……なるほどの。都市の購入を阻止することで、儂らの手を大幅に遅らせようという腹か」

禁制品トークンの配置を目に、オウカはエムシエレの意図を察する。

「ならば、こちらはエムシエレ殿の効果が及ばぬコモンカードを使ってこの局面を乗り切るまでよ」

そして、彼女はサムライと農村三枚を並べ、転売屋を購入した。

「あっ……」

その横で、ルウェリーは手札のサムライを除外しながら思わず残念そうな声を漏らす。

「む……、サムライの使用前にお主の手札を確認しておくべきじゃったな。すまぬなルウェリー殿、儂としたことがそこまで気が回らなんだ」

ルウェリーの声を聞いたオウカは、表情を曇らせながらルウェリーへと頭を下げた。

「き、気にしないで下さい! 失敗なんて私もしょっちゅうですし!」

そんなオウカを励ましながら、ルウェリーは農村を三枚並べて破城槌を購入する。

「じゃが、世の中には取り返しのつかぬ失敗というものも確かに存在する。今回のオウカの失敗がそういうものでなければよいがのぉ、キヒヒ……」

その光景に薄笑いを浮かべつつ手札のサムライを除外したアナスタシアは、農村四枚を並べて二枚目のサムライを購入した。

「ん……?」

アナスタシアの購入したカードを見てベルガモットは僅かに首をかしげるが、それに気づく者はいないまま試合はなおも続いていく。

「さて、ウチは農村三枚で洗礼を購入するわ。トークンは動かさんで」

「……先程の失態、どこかで埋め合わせをせねばな」

エムシエレのターン終了を確認し、オウカは農村三枚と都市を並べて独立都市を購入する。

「オウカさんはあくまでもコモンカードに未来を見てるんですね。なら、私も……!」

続いて、ルウェリーは農村三枚を並べ、サムライが売り切れた後にマーケットへと補充された洗礼を購入する。

「じゃが、コモンカードに逃げようがそなたらに未来はない。今からそれを教えてやるとするかのぉ」

そして、最後にアナスタシアが手に取ったのは──。

「サムライ……ですか」

ベルガモットの疑念は、そこで確かな形を持つに至った。

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予選第二試合:5ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

近衛騎士団*2 十字軍*1 御料地*2 洗礼*1 裁判官*4 破城槌*1 独立都市*3 皇帝の冠

 

デッキ構成:

エムシエレ  農村*5 見習い侍女*3 洗礼*1 オアシス都市ネフェルティリ*1

オウカ    農村*7 見習い侍女*3 都市*1 独立都市*1 転売屋*1 サムライ*1

ルウェリー  農村*7 見習い侍女*3 都市*1 洗礼*1 破城槌*1 サムライ*1

アナスタシア 農村*7 見習い侍女*3 都市*1 サムライ*3

 

擁立した姫(後見人):

エムシエレ  エムシエレ(ベルガモット)

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

サポートカード:

エムシエレ  なし

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

継承点:

エムシエレ   -4

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

 

「ん、ベル、どうしたの? アナスタシアの買ったサムライになんか気になるとこでもあった?」

ベルガモットの呟きを耳に入れたレインは、アナスタシアを注視するベルガモットの方へと振り向いた。

「ええ。ようやく彼女の……いえ、彼女たちの描く戦術図が見えてきたような気がしましてね」

「彼女たち? それって、アナスタシアだけじゃなくてエムシエレも含めてってこと?」

ベルガモットの含みのある物言いに、レインは頭に疑問符を浮かべる。

「はい。私の推測が確かであるなら、アナスタシアさんとエムシエレさんの戦術はおそらく不可分のものとして成立しているでしょうから」

ベルガモットは、レインへ向けて頷くと自らの推測を彼女へと論じ始めた。

「まず、エムシエレさんがご自身のプリンセスカードの効果により都市の上へと禁制品トークンを集中させたのは、レインさんもご承知の通りです。これにより、オウカさんとルウェリーさんは必然的にコモンカード中心の戦術を展開せざるを得なくなりました」

「うんうん、現状はそんな感じだよね」

ベルガモットの推論展開に、レインは相槌を打つ。

「さて、ここでレインさんに問題です。本試合の開始前、私は本試合のサプライ構成について全体的にどのような内容であると言いましたか?」

「えっ? えーと……コスト4と5のカードが多い、だったっけ?」

続けてのベルガモットからの唐突な出題に、レインは少々面食らいながらも会話内容を思い起こし、回答する。

「そうです。レインさんのことですから、てっきり気にも留めておられないのではないかと思っておりましたが。これは猛省ですね」

レインの回答内容を聞き、ベルガモットはそれを肯定しつつも目を丸くする。

「……そういうものの言い方するから、ひねくれ者って言われるんじゃない?」

「私はただ、私の性分がひねくれていると仰っておられた方が望まれる通りの私を演じさせて頂いているだけです。本来の私がひねくれ者であるなどとは、ゆめゆめ思われないで下さい」

そんな彼女へ向けてレインは鋭い嫌みを放つが、対するベルガモットは眉一つ動かさずにそれを真正面から受け止める。

「うーん……。ひねくれてるのも、ここまで徹底してると逆にすごいよね……」

「黙って下さい。では、続けます」

彼女のあまりのひねくれ具合へレインはついに感心を始めるが、当のベルガモットはレインをそっけなくあしらい推論展開を再開した。

「では、これらの状況に、アナスタシアさんがコスト4と5のカードに対して強力な効果を持つサムライを三枚も確保したいう事実を付け加えます。すると、オウカさんとルウェリーさんはどうなりますか?」

「また問題? えーと、行動カードもろくに使えなくなるからお手上げ……あっ!」

再度ベルガモットから行われた出題に対し回答していくレインであったが、その途中、何かに気づいたように声を上げる。

「つまり、エムシエレとアナスタシアはそれぞれベーシックカードとコモンカードの妨害を分担して担当することで、オウカとルウェリーにまともな身動きを取らせないようにする戦術を取ってるってこと?」

「おそらくは」

その後、レインがベルガモットへ自分の考えを述べると、彼女はそれを肯定した。

「さて。それではここで、レインさんに最後の問題です」

「さっきから問題ばっかだよね……。ベル、クイズとか好きだったっけ?」

それから間髪入れずに出されるベルガモットからの出題予告を聞き、レインは食傷気味に疑問を発する。

「特にそういうことはありませんが、レインさんご自身がお考えになられる余地を残した説明の方が、レインさんのご理解に繋がりやすいと思いましたから」

ベルガモットは、レインの疑問に対し教育者然とした返答を行った後、話を続けていく。

「では、改めて問題です。これから先、アナスタシアさんはご自身が大量に保持なされているサムライを間断なく使用なされるだろうと考えられます。ここで、エムシエレさんが最も気をつけなければならないことは何でしょう?」

「それは簡単だよ。サムライの影響を受けるコスト4と5のカードを持たないこと、でしょ?」

ベルガモットからの最後の出題に、レインはそれまでとは違い自信満々に回答した。

「その通りです。これにより、エムシエレさんご自身はサムライの効果を気にすることなく戦術を展開することが可能となります」

「でもさ、それだとエムシエレも買えるカードの幅が狭くなるんじゃない? 都市に置いた禁制品トークンはエムシエレにも影響があるわけだし」

レインの回答内容に対して満足げに頷くベルガモットへ向けて、レインはふと心に浮かんだ考えを口にする。

「……まったく。先程の問題が最後のつもりでしたが、どうやらあなたにはもう一問ほど設問を行わなければならないようですね」

しかし、それを聞いた途端、ベルガモットは見る見ると肩を落としていった。

「げっ、藪蛇だったか……」

「今更ご自身の迂闊さを後悔されたところで、後の祭りです。では問題です。エムシエレさんのカード効果で獲得できるカードとその効果を答えて下さい」

そんなベルガモットの姿を目に顔を引きつらせるレインへ向けて、ベルガモットは容赦なく追試を課す。

「そんなの、さっきの問題以上に簡単でしょ。獲得できるカードはオアシス都市ネフェルティリ、効果は使用時にコイン三枚を獲得……あっ」

それに対し軽快に答えを返していくレインであったが、その途中、先程の気づきの時とは正反対な気の抜けた声を上げる。

「ネフェルティリの持つコイン出力があれば、都市やコモンカードを買わなくても大都市を十分狙っていけるし、エムシエレにとってこの状況は大した問題にならないってことだね……」

そして、彼女はようやく、ベルガモットの落胆の理由へと辿り着いた。

「そういうことです。最後の最後に少々悪い意味で意表を突かれましたが、ともかく、以上がこれまでの事実から私が導き出した彼女たちの戦術に対する推測となります」

ベルガモットは、レインの最後の回答内容を確認すると、今度こそ推論展開を終了した。

「……いやいや、なかなかおもろい寸劇やったで。おかげでウチも楽しませてもーたわ」

すると、程なくして推論展開を終えたベルガモットへ向けて円卓から拍手が送られる。

「しっかし、さすがは腐っても帝国の知恵袋。あんたにかかりゃ、急ごしらえの仕掛けなんぞあっという間に丸裸やな」

「……腐ってもという言葉が少々気になるところではありますが、それはひとまず置いておきます」

ベルガモットが音の方向へと顔を向けると、そこには感心した様子を見せる南方の交易王の姿があった。

「ともかく、私の推測は概ね正しかったという認識でよろしいのですね、エムシエレさん?」

「うん、大正解やで。もっとも、仕掛けが終わってからネタが割れたとこで、オウカとルウェリーちゃんにはどーしよーもあらへんけどな!」

エムシエレは、自らの推論内容に対する確認を取るベルガモットへ事も無げに頷くと、続けてオウカとルウェリーに向かって自分のしたり顔を見せつけた。

「……この戦術、アナスタシアさんの協力なしには成立しませんよね。でも、お二人が相談した様子は特にありませんでしたし、どういうことですか?」

エムシエレのしたり顔に歯噛みしながら、ルウェリーはエムシエレとアナスタシアへ疑問を発する。

「ん? あんたが気づいとらんだけで、ちゃんと相談はしとーで。な、アナスタシア?」

「キヒヒ、そうじゃな。小娘のためにヒントをやるなら、妾とエムシエレが最後に直接言葉を交わしたのはいつじゃったかを思い返せ、というところかのぉ」

しかし、彼女たちはそれに直接答えることはせず、ルウェリーに足がかりを渡して彼女の次の言葉を待つ。

「……そうか、エムシエレさんが私に自分のプリンセスカードを見せた時ですね。思い起こせば、あの時、アナスタシアさんに目配せもしていたような気がしますし」

アナスタシアの示唆した場面を記憶の海から手繰り寄せると、程なくしてルウェリーは顔を上げる。

「でも、あんなに短いやり取りだけでここまでの連携が取れるなんて、普通は思わないですよ……」

「ま、そりゃたしかに言えとーわ。やったウチが言うのもなんやけど、あれだけでここまでちゃんと伝わるとは思わへんかったしな」

半信半疑にこぼすルウェリーの言葉を、エムシエレは否定する素振りすら見せずに肯定した。

「そのあたりは、目配せの後にそなたが取った行動を見ながら想像を修正した面もあるがのぉ」

エムシエレに連携の取れた理由を補足説明しつつ、アナスタシアは続ける。

「ともかく、名高いオアシスの美姫にご満足頂けるだけの働きができたのなら、このアナスタシアも鼻が高いわ」

「いやいや、ホンマに大満足やで。よーやってくれたわ、アナスタシア」

自分の意図を汲み取りそれを完璧に実行に移したアナスタシアへ、エムシエレは素直な賛辞を送った。

「正直なところ、あんたがそのへんの機微をここまで読める人間やったとは思わんかったわ。人は見かけによらんっちゅーのは、まさにこういうことやな」

「……そういう余計な言葉がなければ、妾も気分よく話を終える事ができたのじゃがな」

だが、その後に付け加えられた蛇足を耳に、アナスタシアは表情を渋くする。

「それにしても、今回のお二方の連携は、以心伝心という言葉の意味を体現したかのような素晴らしいものでした。蛇の道は蛇とはよく言ったものですね」

「……うん。一言多いってことで言うたら、さすがのウチもあんたには勝てる気がせんわ」

そして、最後に、一連の光景を目に彼女なりの素直な感心を示すベルガモットへ向けて、エムシエレは呆れ気味に所感をこぼした。

「んじゃま、こっからは気を取り直して試合再開や。ウチは農村二枚と洗礼、ネフェルティリで大都市を買わせてもらうで。禁制品トークンは今回もそのまま都市に三個や」

会話が一区切りされたところで、エムシエレは再びゲームを進めていく。

「エムシエレ、捨て札に見習いがないのに洗礼をキープせずそのまま使ったね。ルウェリーの破城槌を警戒してなのか、それともここで洗礼を使わなきゃ大都市を買えないからなのか……」

エムシエレの洗礼の使い方を目にし、シオンは違和感を口にする。

「それらは共に正しいじゃろうな、シオン殿。では、儂はこいつを頂くとしよう」

シオンに一言、オウカは農村二枚と都市を並べて御料地を購入した。

「……アナスタシアがサムライを大量に持っているのを承知で、まだコスト4と5のカードを買うか。これは完全な飽和攻撃狙いだな」

オウカが手に取ったカードから、フラマリアは彼女の戦術を推測する。

「なるほど。サムライが一度に処理できる枚数は一枚だけですから、それを上回って余りある枚数のカードを保持してしまえば、多少サムライが出てきたところでさしたる問題もなくコモンカードを使用できるということですね」

「それはそうなのだが、問題は、このゲームで飽和攻撃という戦術を指向するとデッキのカード枚数が一気に膨れ上がることだな」

続くベルガモットの戦術分析に同意をしつつも、フラマリアはオウカの戦術に対する懸念を漏らした。

「まして、このサプライには複数枚ドローや複数枚追放の効果を持つカードも、手札をリフレッシュするカードもない。身動きを大幅に制限された状況を打破するためであるということは理解できるが、それを加味しても少々苦しい戦術に見えるな……」

オウカの先行きをおもんばかり、フラマリアは表情を曇らせる。

「……身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ。極東にはそういう言葉があるのじゃよ、マリア殿」

オウカは、そんなフラマリアへ泰然自若に自分の覚悟を口にした。

「初耳だな。どういう意味だ?」

「捨て身の覚悟で物事に当たってこそ、窮地を脱して活路も見出せる。確か、そういう趣旨の言葉じゃったかのぉ」

フラマリアは聞き慣れない言葉の意味をオウカへと問うが、そこへ横から口を挟んだのは、白銀の世界に咲き誇る一輪の黒薔薇。

「詳しいな、アナスタシア」

「地理的にそこそこ近いせいか、極東領の文化は北限領にもよく入ってくるからのぉ。その関係じゃよ」

アナスタシアは、彼女の知識に感心するフラマリアへ理由のあらましを語った。

「そういうことじゃ。現状で儂らが不利であることは認めざるを得んからして、それを打破するには相応の危険性を覚悟せねばならんのは道理じゃろ?」

その後、オウカは改めてフラマリアへと覚悟の程を述べる。

「それは分かるが、しかしな……」

「……まあ、マリア殿の言わんとしたいことも分からぬではないのじゃよ。もしかすると、儂の愚考など及びもつかぬもっとよい打開策が埋もれておるのかもしれぬしの」

オウカは、自分の覚悟を聞いてもなお表情を曇らせ続けるフラマリアの心情に理解を示しつつ、言葉を続ける。

「しかし、そもそもの話として、儂がこの場で思いついた打開策はこれだけなのじゃよ。なれば、儂としてはこれで動くより他はあるまい」

「……そういうことなら、確かにな」

オウカの心情を察したフラマリアは、ようやく彼女の選択に理解を示し始める。

「儂の身の程では、そうそう己の限界を超えるようなことはできぬということじゃ。仮に他の打開策が埋もれておるとするならば、それの発掘はルウェリー殿に期待させて頂くとしようかの」

そして、自分の心情を語り終えたオウカは、静かにルウェリーの方へと顔を向けた。

「……ベーシックマーケットのカードがまともに買えない以上、やっぱりこっちはサムライの存在を承知でもコモンカードを買っていくしかない」

ルウェリーは、オウカと同じく、自らの置かれた状況に対する打開策を模索する。

「でも、その影響を受けるカードをむやみに買っていくのは色々と危険性が高いし、影響を受けないカードを中心にできる戦術で行かないと……!」

その後、彼女は顔に焦燥感をにじませながら、農村二枚と都市を並べて洗礼を購入した。

「……ほう、小娘は洗礼を集めおるか。それを使ってできることがあるとするなら、見習いを追放してのデッキ強化か、あるいは擁立後にそれの効果によってカードを追放していくことによる継承点稼ぎといったところかのぉ」

ルウェリーの戦術を推測したアナスタシアは、精彩を欠く表情で農村三枚とサムライを並べ、洗礼が売り切れた後にマーケットへ補充された転売屋を購入する。

「ふーん、そりゃ難儀やな。こりゃ、場合によっちゃ困ったことになるかもしれんな……」

続くエムシエレも、アナスタシアと同様にぱっとしない表情を浮かべると、禁制品トークンを移動させないまま農村三枚を並べて破城槌を購入した。

「む……。あやつら、何を考えておる……?」

そうしたアナスタシアとエムシエレの様子にどことなく違和感を持つオウカであったが、その正体へ思い至ることができないまま農村と転売屋、サムライを並べ、手札の見習い侍女を追放しつつ二枚目の御料地を購入する。

「ん? エムシエレさんとアナスタシアさんの反応を考えると、もしかして、洗礼を集めるのって思った以上に効果があるのかな……?」

一方のルウェリーは、彼女たちの様子に手応えを感じながら農村二枚と洗礼を並べ、捨て札の見習い侍女を追放しつつ三枚目の洗礼を購入した。

「……さて、アナスタシア」

続くアナスタシアのターン開始前、エムシエレは不意にアナスタシアへと声をかける。

「どうした、エムシエレよ?」

「いや、そろそろルウェリーちゃんに現実っちゅーもんを教えたってもえーんやないかと思うてな。ルウェリーちゃんは、もー後戻りできんとこまで洗礼を買うてくれたわけやしさ」

アナスタシアが声の方向へと振り向くと、彼女の目に映ったエムシエレの表情は先程までのぱっとしないものではなく、普段の彼女が見せている小憎らしい笑みに戻っていた。

「……そうじゃな。では、オウカも真には至れておらぬようじゃし、これから妾たちのターンを進めつつ、オウカと小娘に分かりやすく教えてやるかのぉ。洗礼を集めたところで小娘に未来はないという、無慈悲でむごたらしい現実をな」

アナスタシアは、エムシエレの提案を了承すると、自分も表情を普段見せている含みを感じさせる笑みに戻してターンを開始した。

「では、妾からは見習い追放関係の解説をしよう」

自らの説明速度と合わせるように、アナスタシアは手札から出した農村をゆっくりと卓上へと並べる。

「端的に言えば、この状況で小娘が見習いを全て追放したところで小娘のコイン出力が劇的に上がる見込みはないから、見習いを追放することにさしたる意味はないということじゃ」

次に、彼女は手札からもう一枚農村を出し、それを先程配置した農村の隣へと並べる。

「……妾とエムシエレのやっていることを考えれば、小娘にとっては是が非でも六コイン以上のコイン出力が欲しいところじゃろう」

その後、彼女は二枚目の農村の隣に手札のサムライを並べる。

「しかしながら、小娘はそんな状況で、デッキの大半を占める農村を追放できぬ上に一コインしか出せぬ洗礼を三枚も抱えることを選んだ。さて、それは本当に賢い選択だったのかのぉ?」

そして最後に、マーケットの御料地を一枚手に取り自分の捨て札置き場へと移動させると、アナスタシアは誰にともなく問いかけながら自分のターンを終えた。

「……それは、エムシエレさんのように洗礼を一枚だけ持って、見習いさんとの枚数差分だけデッキ枚数を減らすという使い方であるほうがよかったということなんでしょうか?」

アナスタシアの最後の言葉を耳にして、ルウェリーは冴えない表情を浮かべながら恐る恐るアナスタシアへと質問する。

「知ったところでもはや手遅れじゃから答えてやるが、そういうことじゃ。そうすれば、小娘の虎の子である都市の回転率は上がることになったじゃろ?」

「なんとなくそんな気はしてましたが、やっぱりそうですか……」

アナスタシアから半ば予想通りの内容の返答が突きつけられると、ルウェリーは大きく沈みこんだ。

「そういう使い方やったら、こっちもそれなりの対応を考えんとあかんよーになったかもしれへんけどな。じゃ、次はウチから、この状況において洗礼のカード効果で継承点を稼ごうとすることついての解説や」

アナスタシアの解説が終わったことを確認すると、ルウェリーへと声をかけつつ、エムシエレは自分のターンを開始する。

「ざっくりゆーたらな、この状況でそれを狙うこと自体にほとんど意味がないねん。そいつは、コスト効率的にも継承点的にも、宮廷侍女を一枚づつ使ってくんと大差ないからな」

禁制品トークンをそのままに、彼女も先程のアナスタシアと同様、自らの説明速度に合わせてゆっくりと手を動かしていく。

「このサプライの行動カードをちまちま買うてったとこで、そいつらから洗礼で取れる継承点は一枚あたり二点前後。そんなチンタラした継承点の稼ぎかたじゃ、ウチに追いつくんは夢のまた夢や」

エムシエレは、まず、手札のオアシス都市ネフェルティリを卓上へと並べる。

「……継承権稼ぎの軸として洗礼を使うんやったら、行動カードは買うもんやのーてカード効果で取ってくるもんや。でなきゃ、旨味はまるであらへんからな」

次に、手札から大都市を出しネフェルティリの隣へと並べる。

「けどな、このサプライにある行動カード獲得効果を持つカードは、即効性もリンクもない上にサムライで切り飛ばされる十字軍だけ。そんな状況でそういう戦法に走ったんは、どう考えても悪手やっちゅーんがウチとしての結論や」

そして最後に、マーケットから二枚目の大都市を手に取り、自らの捨て札置き場へと移動させた。

「さて、以上二点のウチらの解説。ルウェリーちゃんには当然ご理解頂けたことやと思うけど、オウカのほうはどーやろな?」

エムシエレは、自らの見解を述べ終えるとオウカの方へと顔を向ける。

「……ああ。お主らの分かりやすい解説のおかげで、儂のような飲み込みの悪い愚か者にも概ね理解できたわ」

エムシエレのしたり顔へ強烈な皮肉をぶつけつつ、オウカは自分のターンを開始した。

「今思えば、ルウェリー殿が二枚目の洗礼を買った時にお主らがしょぼくれておったのは、ルウェリー殿にその効果を勘違いさせてより多くの洗礼を買わせるための方策であったということなのじゃな……」

「そういうことじゃ。あのような三文芝居でも、そなたらのような人間相手には意外と通用するものなのじゃのぉ」

先程の光景を振り返りつつ農村三枚を並べるオウカへ、アナスタシアは嫌みたっぷりに言葉をかける。

「お主らの策が成功してしまった以上、何も言い返せぬのが腹立たしいの……」

その後、オウカは歯噛みをしながら破城槌を購入し、自分のターンを終えた。

「でも、ここまで洗礼を買ってしまった以上、私にはもう洗礼を買い続けるしか道はないです。それに代わるような考えがあるわけでもありませんし……」

続いて、気落ちから抜け出せていないルウェリーは、不安げな手つきで破城槌と農村三枚を並べると、宣言通りに最後の洗礼を購入する。

「ふむ。己の苦境を正面から見ようともせず、その場しのぎの安易な逃げ道に走るか。これでは、小娘の今後が思いやられるのぉ……」

その後、そうしたルウェリーの姿に目をやりつつ、アナスタシアは農村二枚と都市を並べて二枚目の御料地を購入した。

「……アナスタシア、また御料地を買ったか。アナスタシアのデッキは御料地の効果を使いやすいデッキじゃないし、単純にオウカが御料地を集めだしたことへの対抗策かな」

アナスタシアの購入カードを確認したシオンは、それに対する所感を口にする。

「そうですね、私もそう思います」

ベルガモットは、シオンの所感を耳に入れると彼女へ向けて同意を示す。

「アナスタシアさんのこれまでから考えるに、おそらく、彼女は徹底してエムシエレさんの援護に回るつもりなのでしょう。たとえ、それによってご自分の戴冠式が遠のく結果になったとしても」

「たしかに、その節はあるね。御料地のこともそうだけど、それ以前にアナスタシアはリンクのないサムライをリンク二つのカードも持たないまま大量に抱えてるし」

それから、ベルガモットがアナスタシアの戦術に対して言及を行うと、シオンはさもありなんとばかりにその内容に納得した。

「やれやれ、ようやっと気づいたか。賢智を売りにしているという訳ではない双子の占星術師はともかく、俊英を誇る大方博雅の姫ともあろう者ならば、この程度の単純な事実などは妾がサムライを集め出した時点で気がついておってもよさそうなものなのじゃがな」

シオンとベルガモットの様子を遠巻きに見つめていたアナスタシアは、二人の会話が終わるや否やベルガモットを軽く小馬鹿にする。

「……予想はしていましたが、確信に至るには少々情報が足りなかったというだけのことですよ。あなたが仰った場面の時点では、サムライをリンク二つかつサムライと合わせて継承点を獲得できる結盟と絡めて運用していく可能性も捨て切れませんでしたし」

「キヒヒ、そうムキになるでないわ。そなたの名誉のため、この場はそういうことにしておいてやるのでのぉ」

ベルガモットがアナスタシアへ刺々しい視線を送ると、アナスタシアはそれを柳に風と受け流す。

「まあ、ともあれ、妾のしていることはそういうことじゃ。エムシエレが攻めて妾が守るこの鉄壁の布陣、果たしてあの二人に突き崩すことができるかのぉ?」

そして、彼女はベルガモットから視線を外すと、試すような笑みをオウカとルウェリーの座する方向へと投げかけた。

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予選第二試合:8ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

近衛騎士団*4 十字軍*4 結盟*3 御料地*1 裁判官*4 転売屋*1 独立都市*3 皇帝の冠

 

デッキ構成:

エムシエレ  農村*5 見習い侍女*3 大都市*2 洗礼*1 破城槌*1 オアシス都市ネフェルティリ*1 

オウカ    農村*7 見習い侍女*2 都市*1 破城槌*1 独立都市*1 転売屋*1 サムライ*1 御料地*2

ルウェリー  農村*7 見習い侍女*2 都市*1 洗礼*4 破城槌*1 サムライ*1

アナスタシア 農村*7 見習い侍女*3 都市*1 転売屋*1 サムライ*3 御料地*2

 

擁立した姫(後見人):

エムシエレ  エムシエレ(ベルガモット)

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

サポートカード:

エムシエレ  なし

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

継承点:

エムシエレ   -4

オウカ    none

ルウェリー  none

アナスタシア none

 

 

「さて、ウチの番やな。下準備の結果も上々やし、こっからは攻めて攻めて攻めまくるで!」

エムシエレは、これからに向けての景気付けとばかりに勢い勇んで農村三枚を並べていく。

「ではでは、ここでウチの仕掛けをおひろめや。ウチは、都市の上の禁制品トークンを独立都市の上に一つ、御料地の上に二つと分けて移動させるで」

次にエムシエレが都市の上からトークンを移動させると、会場に僅かなどよめきが沸き起こった。

「クックック、なかなかえー反応やんか。満を持してのこの仕掛け、驚いてもらえたようでなによりやわ」

会場のどよめきを耳に、エムシエレはしてやったりと含み笑いを漏らす。

「んじゃま、最後に都市を購入して、ウチの番は終了や」

そして、彼女は都市をマーケットから自身の捨て札置き場へと移動させ、自分のターンを終えた。

「えーと、これって要するにさ、都市が欲しかったけど使える手札が農村三枚だけだったから仕方なくトークンを動かしたってだけのことでしょ? 妙にもったいつけたわりには、中身がたいしたことないっていうかさ……」

「……うん、確かにそういう意味もあんねんけどな。もうちょいマシな言い方もあったんとちゃうんか?」

エムシエレは、自分の仕掛けを身も蓋もなくこき下ろすレインを前にげんなりと肩を落とす。

「それはともかく、事情がどうであれ、エムシエレが今回自らの基本戦術を覆すような真似をしてきたことは事実だ。であれば、現状の彼女は、もはやその程度の危険性などものともしないくらいには手が進んでいると考えるべきだろうな」

「うんうん、さすがはフラマリア。言い回しもちゃんとしとーし、ウチがトークンを動かした第二の理由までばっちり把握できとーな。いろんな意味でレインとは大違いやわ」

しかし、続くフラマリアのコメントを聞いたエムシエレは、先程とは打って変わった満足そうな顔でフラマリアを持ち上げる。

「レインはさ、もうちょい人の機微とかものの道理とかを勉強し直した方がえーんとちゃうか? ベルあたりに教わってな」

「ついさっきベルの講義を受けた結果が、今のこれなんだけどね」

その後、レインへ嫌みを飛ばすエムシエレであったが、当のレインは悪びれる様子もなくエムシエレへと返事をする。

「……うん、なら、しゃーないか。理解力が足らんのはともかく、言い方がアレなんはな」

エムシエレは、先程のベルガモットによるクイズ大会の模様を回想すると、レインの意見に対し心からの納得を示した。

「待ってください、エムシエレさん。なぜ言い回しの方は納得をなされたのですか? 私としては、まったく解せないことなのですが」

「そりゃ簡単や。あんたの常日頃を考えれば、そっちには有無を言わせんだけの説得力があるからな」

そうしたエムシエレの姿を目に入れたベルガモットは、露骨に顔をしかめながらエムシエレへと抗議するが、彼女は事も無げにベルガモットへ即答する。

「なー、レイン?」

「ねー」

そして、エムシエレとレインは、含みのある笑みを浮かべながら顔を見合わせて頷きあった。

「まったく、どうして私ばかりがこのようなそしりを受けなければならないのでしょうかね……」

「ま、まあ、とりあえずここは気持ちを切り替えて試合を追っていくことに戻ろうじゃないか。な?」

エムシエレとレインに愚痴をこぼすベルガモットをなだめるべく、フラマリアはベルガモットを説得していく。

「常識人がアクの強い集団の中に放り込まれると、色々大変だよね……」

シオンはひとり、その光景を我関せずと遠巻きに眺めつつ、フラマリアの気苦労をおもんばかった。

「……えーと、試合の方は現在オウカ選手のターンですが、表情に今一つ冴えが見られませんね。どうなされたのでしょうか?」

程なくして、混沌が満ちていく現状を修正すべく、クラムクラムは多少強引に場の流れを試合の方へと戻していく。

「ん……?」

クラムクラムの実況に気づいたシオンは、真っ先にオウカの方へ顔を向け、認めた彼女の姿に首をかしげる。

「む……。この手札、どうしたものか……」

シオンに続いて会場の一同もオウカへと顔を向けると、彼女たちの目に映ったのは、クラムクラムの言葉通りに複雑な表情を浮かべながらじっと手札に視線を落としているオウカの姿であった。

「……まあ、いつまでもこのままという訳にもいかぬか」

オウカはしばらく複雑な表情のまま手札を見つめ続けていたが、やがて、意を決したように手札の農村二枚、御料地二枚、独立都市一枚を順番に並べていく。

「なるほど。このような幅広い戦術が考えられる手札内容であれば、オウカさんが悩まれるのも当然ですね」

白日の下に晒されたオウカの手札内容を目に、ベルガモットはオウカの表情の理由を悟った。

「サポートカードを付けた擁立、大都市あるいは三枚目の御料地の購入、公爵の購入。他にもいくつかの選択肢がある中で、彼女が選ぶ選択肢はどのようなものなのでしょうかね……」

ベルガモットは、未だその選択を決めかねているオウカを見つめ続ける。

「……ただ、それらの選択肢全部に共通して言えることはある。それは、どれを選んでも今後に重大な影響を与えるということ」

そこへ、横から、ともすれば眠たげにも聞こえる抑揚のない声が届く。

「そうですね、シオンさん。オウカさんたちを取り巻く種々の状況を考慮すると、オウカさんが次にこれだけのコインを出せる頃には、オウカさんたちの劣勢は覆せない状況となっている可能性が高いですから」

彼女が声の方向へと振り向くと、目に映ったのはシオンの姿。

「……逃げ場のない状況で重要ななにかを決めなきゃいけないってのは、重いよね。それが自分のことだけならまだしも、誰かの運命を背負ってるならなおさらのこと」

苦渋の色が濃いオウカの顔を眺めながら、シオンは、ふとそんな言葉を口にする。

「それは、オウカさんがルウェリーさんの不調さを補って余りある一手を打たなければならないこの状況のことですか? それとも、この大会の終了後に私たちが向きあわなければならない別の何かのことですか?」

「どっちだろうね。まあ、ただ言ってみただけのことだし、別に気にしなくてもいいよ」

ベルガモットがシオンへと問いかけると、シオンは曖昧な笑みを浮かべながら答えをはぐらかした。

「……『最善の選択をしたという自負があるのなら、どのような結果であろうとそれを疑うな。それが自分で何かを決めるということ』。どのような状況においても、結局のところ、行き着く答えはそこになるのではないでしょうかね」

そんなシオンへ、ベルガモットは静かに語る。

「……っ!」

ベルガモットの言葉を耳に入れ、シオンは思わず大きく目を見開いた。

「そう、他ならぬあなた自身の言葉です。先程の言葉に対する答えを、あなたは既にご自分の手で見つけていらっしゃるのですよ」

「そっか……。そんなにいいこと言ったつもりもなかったからすっかり忘れてたけど、よくよく考えればベルの言うとおりかもしれないね」

ベルガモットが柔らかく微笑むと、シオンの表情にも心からの笑顔が戻る。

「……これから先、あなたは私たちが立っている争いの舞台から黙って降りられるつもりはないのでしょう?」

ベルガモットの問いかけに、シオンは黙して頷きを返す。

「ならば、あなたの歩まれる道の行く末がどのようなものであろうと、最後までその道程を疑わないで下さい。それが、あなたの歩む道を信じて下さった方々に報いることであると、私は考えます」

「……ありがと、ベル。ちょっとだけ気が楽になった気がする」

そして、ベルガモットが話を終えると、シオンは肩の荷を下ろすように静かに息を吐いた。

「素直なお礼、ありがとうございます。シオンさんのその殊勝な振る舞いを拝見すると、クラムやレインさんやエムシエレさんやアナスタシアさんのひねくれ具合がことさらに際立ちますね」

そこへ唐突に付け加えられる、完全無欠の蛇足。

「……最後の一言がなければ、いい話で終われてたのにね」

「私は事実を述べたまでです。では、オウカさんの選択に、我々も謹んで立ち会わせて頂くことと致しましょうか」

それにため息を吐くシオンへ捨て台詞を一つ、ベルガモットは再びオウカの方へと視線を戻した。

「……ルウェリー殿の手札はこうであるか。ならば、これで行こうかの」

会場の視線が注がれる中、オウカは硬い表情でルウェリーの手札を確認すると、いよいよ意を決する。

「まず、御料地の効果で得た継承点カウンターは二つともレイン殿とシオン殿のカードに乗せよう。そして、次に擁立を行うぞ」

そうして、オウカは、擁立宣言と共にプリンセスカード置き場から継承点カウンターの乗せられた双子のプリンセスカードを手に取った。

「さあ、この重大な局面においてのオウカ選手の選択は擁立となりました! この選択がオウカ選手とルウェリー選手にもたらすものや、いかに!?」

オウカが双子のプリンセスカードを直轄地へと移動させていく中で、クラムクラムは淀みなく朗々と弁舌を振るう。

「手持ちの御料地が全て直轄地に移動することを承知での擁立ですか。これは勝負に出ましたね」

「言うたはずじゃろ? 劣勢を打破するためには相応の危険性を覚悟せねばならぬ、とな」

ベルガモットは、クラムクラムの声を聞きながらオウカの下した決断にコメントを行うが、オウカはそれに動じた様子もなく、続けてプリンセスカード置き場から裏返しにしたクラムクラムのカードを自身の直轄地へと移動させた。

「ふむふむ、オウカの選んだ後見人はクラムか。この展開では誰も使わなさそうなカードだけど、いずれ擁立をするだろうルウェリーの選択肢を多くするためかな?」

「そうかもしれないけど、個人的にそこはあんまり重要じゃないと思う。それより、私としてはこっちのほうが気になるかな……」

レインがオウカの意図を読み取ろうとする横で、シオンはオウカが手に取ったサポートカードに目を凝らす。

「……なるほど、確かにね」

姉の視線の先を追っていったレインの目には、月下に微笑む真紅の魔女──アウローラの姿が映った。

「公爵どころか継承権カードすら誰も持ってない状況で、アウローラか。狙いが今一つ読めないとこだけど……」

「ま、そりゃ、十中八九ウチのこいつやろーな」

横から口を挟んだエムシエレは、オウカの選択を訝しむレインに手札から抜き取った大都市をちらつかせる。

「ウチの大都市を追放させてウチの手を遅らせつつ、自分は掠め取った大都市と転売屋、あとは双子の追加ターンで一気呵成の大逆転って腹やったんやろーけどさ。ところがところが、そうは問屋が卸さんってやつなんやわなー」

その後、エムシエレは得意満面に残りの自分の手札全てを自ら卓上へと晒した。

「大都市が一枚に、農村と破城槌。あとは見習いか……」

「そや。ご覧の通り、ウチの大都市は全部手札ん中。アウローラの効果の範囲外や」

それに視線を落としながら呟くオウカへ、エムシエレは改めて現実を突きつける。

「あんたが捨て札にできたネフェルティリはレアカードやからアウローラじゃ獲得できへんし、これにてあんたの目論見は完全に破綻したっちゅーわけや。あてが外れて残念やったなぁ?」

調子づいたその勢いのまま、彼女は続けてしたり顔でオウカにとどめの一撃を放った。

「……まあ、確かに、儂の目論見は概ねエムシエレ殿が語った通りのものであったし、今回それが失敗したことも事実じゃ」

しかし、オウカはそれを受けても顔に落胆を表すことはなく、しっかりとした口調で自分の置かれた現実を言葉にして紡ぎ出していく。

「しかし、その程度はどうということもない。勝機はまだ残り続けておるのじゃからな」

そして、確かな希望の光をその目に灯しながら、アナスタシアが追放した転売屋を手に取り自らの捨て札置き場へと移動させた。

「ほう、勝機か。一か八かの仕掛けに失敗したそなたのどこにそのようなものが残っておるのか、妾にもぜひご示教願いたいところじゃな?」

そんなオウカを試すように、アナスタシアは薄笑いを浮かべながらオウカへと彼女の言葉の真意を問う。

「それはじつに簡単な真理。これはタッグ戦であるからして、儂が駄目でもルウェリー殿が勝てばなんの問題もない。ただ、それだけのことじゃよ」

オウカは、自分を射抜くアナスタシアの視線に気後れすることもなく、彼女へ改めてこの試合のルールを簡潔に述べた。

「なるほどのぉ。確かにそれは真理じゃが、この小娘がそのような大役を担えるような器であるかについては、いささか疑わしいところがあるのではないかえ?」

「う……。そ、そうですよね……」

ルウェリーは、アナスタシアに値踏みされるかのごとくねちねちと眺め回され、思わず身を縮こめる。

「……世の中には、その良さが見えやすい人間と見えにくい人間の二通りがおる。儂は、ルウェリー殿は後者なのではないかと思っておるのじゃよ」

しかし、アナスタシアの疑念を受けてもなお、オウカの瞳に灯る希望は揺るぎない。

「おやおや、今までの小娘を見てもなおその所感が出てくるとはな、極東の算法姫の慧眼も、存外に大したことはないのかもしれぬのぉ」

「いやいや、今までを見ているからこそじゃよ。極東という場所に長らくおると、ルウェリー殿の評判や行いについてはお主ら以上に見聞きする機会が多いでな」

オウカは、自分をからかうアナスタシアに感情を乱すこともなく、なおも自分の考えを語り続ける。

「それを踏まえて、儂は思うのじゃ。市井で言われておるような気弱で頼りないルウェリー殿の姿はただの物の一面で、その裏側には王者としての力強くまばゆい輝きがひっそりと隠れておるのではないかとな」

「……ふん。ならば、これからの小娘の手並みを拝見させて貰うとするかのぉ。そなたにそこまで言わせるだけの何かがこの小娘にあるのか、妾も改めて吟味してやるわ」

オウカの意見を聞き終えると、アナスタシアは表情から笑みを消し、侮るでも小馬鹿にするでもなくただ静かにルウェリーへと視線を向けた。

「……さて、ルウェリー殿」

アナスタシアとの会話を終えたオウカは、ルウェリーの方へ振り向く。

「はい……」

先程のオウカの言葉に秘められた重圧を感じてか、返事をするルウェリーの表情は硬く暗い。

「儂は先程かように言うたが、あれは所詮、儂の勝手な思い込みにしか過ぎぬ。ルウェリー殿は、気負うことなく今まで通りにやってくれ。負けても別に責めはせぬし、先程の言葉に関する責任も全て儂が負うのでの」

そんなルウェリーを安心させるべく、オウカはにこやかな表情で、穏やかに自分の想いをルウェリーへと語りかけた。

「……オウカさん」

それを聞いたルウェリーは、静かに口を開く。

「どうした、ルウェリー殿?」

「オウカさんも知っての通り、私にはなんの取り柄もありません。だけど私は、そのことを、私を信じてくれた人を裏切るための言い訳にするような人間にはなりたくありません」

軽く返事をするオウカへ向けて、ルウェリーは粛々と言葉を紡いでいく。

「だから、私は今まで以上に力を尽くします。力を尽くして、そして勝ちます。オウカさんが私に託してくれたこの勝負に、必ず勝ってみせます!」

そして、彼女はその瞳に覇気を宿すと、力強く自らの決意を表明した。

「……お、お、おおおおおおおおおお! なんと、なんと、なななんとっ! ルウェリー選手から、まさかの必勝宣言が飛び出しましたあぁぁぁっ!」

必勝宣言──。

「……ほう。まさか、お主の口からそのような言葉が出るとはの。これは頼もしい限りじゃな」

「はい。これまで不甲斐なかった分も埋め合わせができるよう、頑張ります!」

会場の中に、今まで円卓に肩をすぼめて座していた気弱な少女から、そのような言葉が出てくることを予想する者は誰一人としていなかった。

「……小娘の目つきが変わったか。オウカの奴が言うことも、あながち的外れではないのかもしれぬのぉ」

「とはいえ、勢いとか意気込みだけでどうにかなんなら世の中苦労はせーへんわ。さて、ルウェリーちゃんのひねり出す逆転の策はどないなもんなんやろな?」

しかし、時に現実は予想を超える。

「……なるほど。これまでそれなりに勉学に励んだつもりではありましたが、それでも世の中には私の知らないことがまだまだ眠っているものなのですね」

「世の中とはそういうものだよ。お前も帝都や魔法図書館にこもっているばかりではなく、たまには地方領に現地調査へ出かけてはどうだ。きっと新たな発見があると思うぞ?」

「人には向き不向きというものがありますので。遠慮しておきます」

これが更なる予想外の引き金であるのか、それとも一度限りの偶然でしかないのか。

「ところでさ、オウカは別に気負わなくてもいいって言ってたよね? ルウェリーも案外人の話を聞かないっていうか……」

「なら、レインは同じことを言われたとき、はいそうですかと引き下がるの?」

「……いや、引き下がらないけどさ」

「なら、それが答えじゃない? ルウェリーだって、本質的なところは、私たちとそんなに変わらないんだよ」

それを知る者はいないまま、こうして、試合は大きなうねりを見せていった。

「そうだ、人の考えた策が人に破れない道理はないって、シャオリンちゃんも私に教えてくれてたんだ。なら、この状況を打破するための一手だって、きっとどこかに眠ってるはず……!」

会場のざわめきが残る中、ルウェリーは目を閉じ、次の一手を模索する。

「では、及ばずながら儂にもお主の力添えをさせてもらえるかの? 先程の汚名返上もしたいことじゃしな」

そこへ横から顔を近づけたオウカは、ルウェリーへ模索への協力を申し出る。

「もちろんです! オウカさんが協力してくれるのなら、きっと、私だけで考えるよりもっともっといい考えが出てくると思いますから!」

目を開けたルウェリーがそれを快諾すると、オウカとルウェリーは、顔を合わせて次の一手へ到達するための相談を始めた。

「……ふむ。今しがた、小娘の口から少々気になる名前が出てきた気がするのぉ」

ルウェリーが呟いた言葉の内容を思い返し、アナスタシアは所感を漏らす。

「それはシャオリン殿のことか? 噂では極東でも高名な軍師殿らしいという話なので、私も気にはなったのだが」

「そうじゃよ。まあ、個人的には、その評価には色々と語弊があると思うがのぉ」

フラマリアの確認に、アナスタシアは含みを持った返答を行う。

「しかし、最近あやつの姿を見ぬとは思うておったが、よもや小娘のところへ転がり込んでおったか。類は友を呼ぶとはよく言ったものじゃのぉ」

その後、彼女は羽扇を手にするのらりくらりとした少女の姿を頭に思い浮かべた。

「ほう。その口ぶりだと、アナスタシアはシャオリン殿と面識があるようだな」

「一応じゃがな。それを踏まえて言わせて貰うならば、あれはその見た目と同様に胡散臭いただの自称軍師。そなたが考えるほど上等なものではないと思うのじゃよ」

続くフラマリアの言葉を肯定した後、アナスタシアはシャオリンをこき下ろす。

「それはまた、随分と手厳しい評価だな。シャオリン殿と何かあったのか?」

「あったかないかで言えばあったが、大したこともないことなのでな。そなたが気にするほどのことではないわ」

そうしたアナスタシアの態度の理由を問いただすフラマリアだが、アナスタシアはそれをはぐらかそうとする。

「そうですか。ところで、今しがた思い出したことではありますが、私が過去に極東の現地調査員から受け取った報告書の中に、少々興味深い内容のものがありましたね」

だが、それを許さぬ帝国の知識の掌握者は、アナスタシアの逃げ場を塞ぐように横から口を挟んだ。

「ほう、どのような内容だ?」

「報告書によれば、少々前、北限領の領主が極東領の領主にちょっとした論戦を仕掛けたらしいです。そしてその際、偶然そこに居合わせた軍師風の少女が、北限領の領主をぐうの音も出せないほど完膚なきまでに叩きのめしたという──」

「……知らぬな、そのようなことは」

アナスタシアは、フラマリアに問われるまま受け取った報告書の内容を語り出すベルガモットの言葉を、ベルガモットから視線を逸らしながら遮る。

「なるほど、昔のことを根に持っているということか。お前も案外、可愛いところがあるじゃないか」

アナスタシアの態度の理由を察したフラマリアは、からかうような眼差しでアナスタシアを見つめる。

「う、うるさいわ! そ、それよりほれ、そろそろ小娘どもが何かやってくれるようじゃぞ?」

アナスタシアは、フラマリアの視線に顔を赤らめてわめくと、話をそらすようにオウカとルウェリーの方へと再び顔を向けた。

「やれやれ。人をからかうのには慣れていても、からかわれることには不慣れのようだな」

そんなアナスタシアを微笑ましく思いつつ、フラマリアが続いてオウカとルウェリーの方へと顔を向けると、彼女たちは既に互いの顔を離していた。

「……行きます。これが、私とオウカさんとシャオリンちゃんの導き出した、この状況を打破するための一手です!」

満を持し、決意をみなぎらせるルウェリーは迷うことなく農村四枚と都市を手早く並べていき、プリンセスカード置き場からアナスタシアのカードと裏向きにしたフラマリアのカードを手に取った。

「さあ、オウカ選手に続いてルウェリー選手も擁立を選択しました! そして、ルウェリー選手が使用するプリンセスカードはアナスタシア選手のカードです! このカードで、ルウェリー選手はどのようにして新たな局面を切り開いていくつもりなのでしょうか!?」

「……なるほど、アナスタシアね。そういや、そんな選択肢も残っとったな」

クラムクラムが声を張る中、ルウェリーの選択したプリンセスカードを目にし、エムシエレは表情から笑みを消しながら呟いた。

「アナスタシアさんのカード効果であれば、私が大量に持っている洗礼の効果を十二分に引き出せますからね」

そこへ不意に、控えめながらも芯のしっかりした声がエムシエレの耳に届く。

「ん……?」

声に気づいたエムシエレは、声の方向へと顔を向ける。

「擁立で一番重要なことは、その場に合ったプリンセスカードを選ぶこと。そして、洗礼を継承点獲得の軸として使うなら、行動カードは購入するものではなくカード効果で獲得するもの。これらは全て、エムシエレさんから教えてもらったことです」

そこには、毅然と彼女を見据える、古き血の継承者の姿があった。

「ほー、ここで意趣返しかいな。ルウェリーちゃんがそんな根に持つ性格やったとは思わんかったで……」

「えっ? い、いえ、そういうつもりはなくてですね、その……」

エムシエレが非難がましい視線をルウェリーへと浴びせると、彼女は途端に狼狽する。

「なーんてな、冗談や。ま、身から出たさびっちゅーやつやな」

そんなルウェリーへ軽く笑いかけたエムシエレは、苦笑いを浮かべながら自省の弁を口にした。

「まったく、調子に乗った結果がこれとはのぉ。何をやっておるのやら……」

「そうは言うけどな、アナスタシア。それを言うた時、あんたかてなんも言わんかったやないか」

「……まあ、確かにな」

大きくため息を吐くアナスタシアにエムシエレが唇を尖らせ反論すると、アナスタシアはその内容に納得する。

「それを考えたら、この件はお互い様やろ」

「そうじゃな。妾も、自分が考えておった以上に小娘を侮っておったということかのぉ」

エムシエレの言葉に頷くと、アナスタシアは、エムシエレと同じく苦笑しながら自らを戒めた。

「さて、それはともかく、妾のカード効果には行動カードと同時に呪いも獲得するという代償がある。小娘が持っておる洗礼の枚数が多かろうとも、そなたの手の速さには追いつくべくもないじゃろうよ」

その後、試合を再開したアナスタシアは農村三枚とサムライを並べ、転売屋を購入する。

「それもそうやな。ウチが公爵を安定して買ってくための手はずはもう済んどーし、やることさえきっちりやっとりゃどーとでもなるわな」

アナスタシアの意見に納得を示しつつ、エムシエレはまず禁制品トークンを大都市の上に一つ、都市の上に二つと分けて移動させ、次に破城槌と大都市二枚、農村二枚をそれぞれ並べると、最後に公爵を購入して自分のターンを終えた。

「……細工は流々、仕上げを御覧じろ」

二人のターンの後、オウカは静かに呟きつつ双子カウンターを一つ取り除き、まずは手札の破城槌をキープしてそのままターンを終える。

「ん? どういう意味や?」

「これも極東の言葉じゃな。物のやり方は色々あるから、とにかく結果を見て判断しろ。そんな意味合いじゃったかのぉ」

馴染みのない極東の言葉に首をかしげるエムシエレへ、アナスタシアは先程に続きその意味を解説する。

「そう、企てとは、常に深謀遠慮をもって行うもの。目の前の結果だけに一喜一憂するようでは、エムシエレ殿とアナスタシア殿の修養もまだまだ足りぬということじゃな」

それを確認すると、オウカは追加のターンでまず転売屋を使用して見習い侍女を追放し、次にリコールした破城槌と農村二枚、都市を並べ、最後にベーシックマーケットから都市を手に取り自らのターンを終了した。

「ほう、言うてくれるわ。その深謀遠慮とやらが具体的な成果を出す前に、勝負の決着がつかねばよいがのぉ?」

「そのあたりは心配しておらぬよ。ルウェリー殿が考えた今回の仕掛け、その中核を成す二つ目をこの後ルウェリー殿が直々にお披露目してくれることじゃろうからな」

オウカは、アナスタシアの買い言葉を軽く受け流すと、期待に満ちた表情でルウェリーの方へと顔を向けた。

「私のターンですね。私はまず、アナスタシアさんの効果で呪いを山札の一番上に置いてマーケットの十字軍を手札に。次に、破城槌を使って山札から一枚ドロー。最後に、農村三枚と十字軍を使って、十字軍置き場に遠征カウンターを一つ置きつつ宮廷侍女を買ってターンを終了します!」

オウカが見守る中、ルウェリーは予定通りに次の仕掛けを実行する。

「ほほー……。そういう戦術の方向性があったっちゅーことを忘れとったとは、我ながら迂闊やったわ。アナスタシア、十字軍のカットやカット!」

それを目の当たりにしたエムシエレは、自らの戦術眼の至らなさに歯噛みをすると、慌ててアナスタシアへ指示を飛ばす。

「ああもう、喚くでないわ! その程度、見れば分かるというに……」

狼狽するエムシエレに顔をしかめてぼやくアナスタシアは、御料地二枚と農村、サムライを並べてプリンセスカード置き場のルルナサイカの上に継承点カウンターを配置すると、エムシエレの指示通りに十字軍を購入した。

「なるほど。これが、オウカさんとルウェリーさんの第二の仕掛けということですか……」

明らかにされたオウカとルウェリーの戦術を目に、ベルガモットは所感を口にする。

「十字軍のカード効果で置ける遠征カウンターを使えば、普通に継承権カードを買いながらカード効果でまた別の継承権カードを獲得できる。ただ、普通に十字軍を買って使おうとしても、今の状況だとアナスタシアが持ってるサムライに妨害される」

「だけど、アナスタシアのカード効果で獲得したカードなら、獲得後に即使用できるからアナスタシアが持ってるサムライを気にしなくてもいい。ルウェリーがプリンセスカードにアナスタシアを選んだのには、単に行動カードを獲得するだけじゃなくて、十字軍を使いやすくするためって意味もあったんだね」

ベルガモットの所感に続いて、双子はこれまでのルウェリーの行動から彼女が意図していたであろうことを推測していていく。

「……オウカが言うには、この策はルウェリーが考えたものということだが。だとすれば、彼女の底力には目を見張るものがあるな」

そんな中、ルウェリーの方へと顔を向けたフラマリアは、普段のルウェリーの頼りなさからは想像もできない彼女の力強い表情に目を凝らした。

「そうですね。もしかしたら、ルウェリーさんの支援者の皆様方は、彼女のそういったところを垣間見る機会があって、そこに未知の可能性を見たのかもしれませんね」

ベルガモットは、フラマリアの意見に大きく頷いて同意を示す。

「では、まだ試合も続いていることですし、ここはひとまず試合の方に戻りましょうか」

そして、彼女は、話にきりをつけるとエムシエレの方へと顔を向けた。

「さて、今後の試合展開についてですが、私個人としては、先程の策をもってしてもルウェリーさんにとっては依然として厳しい状況が続くと考えますね」

渋い顔のエムシエレが禁制品トークンを宮廷侍女の上に二つ、議員の上に一つと分けて移動させ、次に農村三枚と都市、ネフェルティリを並べて二枚目の公爵を購入したのを確認しつつ、ベルガモットは今後の展開を推測する。

「そうだな。エムシエレが既に公爵を二枚持っているということはもちろんだが、何より、ここでエムシエレがルウェリーにとってはかなりいやらしいトークンの置き方をしてきたからな」

ベルガモットへ続いてエムシエレの方へと視線を向けたフラマリアは、ベルガモットの言葉を肯定した。

「それはオウカとルウェリーの今後の戦術展開を見越してなんだろうけど。こうなると、コイン出力の低いルウェリーのデッキじゃ、購入って方法っで継承権カードを手に入れるのはがぜん厳しくなるよね」

「ここからのルウェリーは必然的に継承点を行動カードに頼らざるを得ないけど、行動カードで獲得できる継承点って基本的には低いからね。そういう速度の遅い戦術で先行する相手を追わなきゃいけないってのは、本当に厳しいね……」

その後、ベルガモットとフラマリアを追うようにエムシエレと顔を向けた双子は、ルウェリーの今後に対する更なる懸念を述べていく。

「……儂もルウェリー殿も、このような展開になることなどは百も承知じゃよ。そこをルウェリー殿とは別方向からどうにかするのが、今の儂の役目となる訳なのじゃがな」

そうした実況席のコメントに対し、オウカは誰にも聞こえないように気を配りながら反論すると、転売屋二枚で農村と見習い侍女を追放し自分のターンを終えた。

「私の番ですね。まず、私はアナスタシアさんのカード効果で山札の一番上に呪いを置いてマーケットの十字軍を手札に。次に、手札の洗礼二枚で捨て札置き場の見習いさんと十字軍を追放して、継承点カウンターを三つ直轄地のアナスタシアさんの上に置きます。続けて農村と十字軍を並べて、十字軍置き場に遠征カウンターを一つ追加。最後に、コイン五つで宮廷侍女を買って終わりです!」

「ふむ、小娘は十字軍を使い捨ててくるか。妾のサムライの存在と勝負を急がねばならない状況を考えれば、妥当な選択ではあるかのぉ」

続くルウェリーの行動内容を見て、アナスタシアは所感を口にした。

「そんなことよりアナスタシア、十字軍のカットはどうなんや? ウチらの戦術は、あんたがきっちり向こうのカードを封じることが肝の一つなんやからな」

「今回は無理じゃよ。そなたも分かっておろうが、妾のデッキ構成では、コスト5のカードを入手することですらそう簡単ではないのでのぉ」

それから、彼女は気を揉むエムシエレへ向けて、冷静に自分の置かれた現状を述べる。

「じゃが、実況席の面々が言うておったように、そなたの優位がそう簡単に揺らぐことのない状況には変わりない。ならば、この程度のことでおたおたせずにどっしりと構えておれ」

そして、彼女は手札から農村二枚とサムライを並べると、転売屋が売り切れた後にマーケットへと補充された破城槌を購入し自分のターンを終えた。

「向こうの逆転につながりそうな要素はできるだけ放置しとーないけど、ま、対策できんもんはしゃーないか。それならそれで、向こうがこっちに追いつく前に逃げ切りゃええだけの話やしな……」

エムシエレは、ままならなさを見せ始める状況に多少の焦りといら立ちを感じつつも、手札の中にある公爵二枚を見つめ、ひとりほくそ笑んだ。

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予選第二試合:11ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

近衛騎士団*5 十字軍*2 結盟*4 御料地*1 裁判官*5 転売屋*1 独立都市*3 皇帝の冠

 

デッキ構成:

エムシエレ  農村*5 見習い侍女*3 都市*1 大都市*2 破城槌*1 オアシス都市ネフェルティリ*1 公爵*2 

オウカ    農村*6 見習い侍女*1 都市*2 破城槌*1 転売屋*2 サムライ*1

ルウェリー  農村*5 見習い侍女*1 洗礼*4 破城槌*1 十字軍*1 呪い*2 宮廷侍女*2

アナスタシア 農村*7 見習い侍女*3 都市*1 破城槌*1 転売屋*1 サムライ*3 御料地*2 十字軍*1

 

擁立した姫(後見人):

エムシエレ  エムシエレ(ベルガモット)

オウカ    レイン&シオン(クラムクラム)

ルウェリー  アナスタシア(フラマリア)

アナスタシア none

 

サポートカード:

エムシエレ  なし

オウカ    大魔女アウローラ

ルウェリー  なし

アナスタシア none

 

継承点:

エムシエレ   -4

オウカ     2

ルウェリー   -1

アナスタシア none

 

 

「さーて、ウチの番か。なら、ウチはこいつらを直轄地に入れさせてもらうわ」

エムシエレは、自分の順番が回るや否や、禁制品トークンをそのままに、表向けにかざした手札の公爵二枚を他の選手たちへと見せつけるようにしてゆっくり直轄地へと移動させた。

「おお、これはちとまずいことになってきたな。では、儂は農村四枚と都市を使って大都市を買わせて貰うかの」

それを見たオウカは焦りを口にするものの、その言葉とは裏腹なゆったりとした佇まいで、薄笑いを浮かべながらエムシエレによる封鎖が解かれた大都市を悠々と手に取っていった。

「私のターンですね。私はまず、アナスタシアさんのカード効果で山札の一番上に呪いを置いてマーケットの十字軍を手札に入れます。次に、手札の洗礼二つで捨て札の呪いと十字軍を追放。そして、破城槌と農村、十字軍を並べて遠征カウンターを一つ追加。最後に、宮廷侍女を買ってターンを終わります!」

ルウェリーも、オウカと同様に、さして焦った様子もなく着々と自分の取るべき手を推し進めていく。

「うーん……。いつものルウェリーなら、このあたりで思いっきり慌ててるはずなんだけどなぁ。そういうルウェリーが見れないのは、それはそれでなんか寂しいっていうか……」

揺るぎのない意志の強さを感じさせるルウェリーの瞳を覗きこみつつ、レインはどこか寂しそうに心情を漏らす。

「それは妾も同感じゃのぉ。まあ、オウカの言うておった、小娘の奥底に隠れておる王者の輝きとやらが出てきた結果がこれなのかもしれぬがな」

そんなレインへ同意を一つ、アナスタシアは都市と破城槌、そしてサムライを一枚ずつ並べ、マーケットに残る最後の御料地を購入して自分のターンを終えた。

「ふむ、アナスタシアさんは最後の十字軍をカットするだけのコインは出せませんでしたか。となれば、次のエムシエレさんの選択は重要ですね」

「そうだな」

ベルガモットの所感に相槌を打ちつつ、フラマリアは続ける。

「最後の十字軍のカットに行ってルウェリーの手に公爵が渡る可能性を下げるか、それとも自分の継承権カードの確保を優先するか。この二択の結果は、今後の勝負の展開へ少なからず影響を与えるだろうな」

そうした彼女の推測が真実であると証明するかのように、エムシエレは硬い表情で自らの手札に視線を落としていた。

「……ふん、ウチはなにを考えとーんや。今さら自分でカットやなんて、そんな中途半端な真似してどないなるっちゅーねん」

だが、程なくして、エムシエレは自分自身を鼻で笑うと晴れやかな表情で顔を上げる。

「ウチのやることは、あくまでも攻めること。守りはアナスタシアの領分や。それを覆すんは、ウチがアナスタシアを信じとらんっちゅーことにもなるからな」

そして、彼女は両手で自分の頬を叩いて気合を入れなおすと、またしてもトークンを動かすことなく破城槌と農村二枚、大都市二枚を一気に並べて公爵を購入した。

「ほう、カットよりも継承権カードの購入を優先したか。やはりというか、エムシエレらしい判断ではあるな」

「まあ、どちらにも一長一短がありますから、概してどちらが正解ということはないと思いますが。その成果は、今後のオウカさんとルウェリーさんの出方によって左右されるところも大きいでしょうしね」

ベルガモットとフラマリアは、エムシエレの判断に対する所感を交わし合うとオウカの方へと顔を向ける。

「なるほど、エムシエレ殿はそう来るか……」

二人が見つめる中で、オウカは言葉少なに破城槌と都市、そして農村三枚を並べて三枚目の都市を購入した。

「ん? オウカの奴め、先程から継承権カードには目もくれず都市を買い続けておるのぉ。どういうことじゃ……?」

ふと、アナスタシアはオウカのカードの買い方に引っかかりを感じ、それを訝しむ。

「……私はまず、アナスタシアさんの効果で山札の一番上に呪いを置いてマーケットの最後の十字軍を手札に。次に、獲得した十字軍を使用して、十字軍置き場から遠征カウンターを三つ全て取り除いて公爵を獲得。最後に、手札の宮廷侍女三枚を全て直轄地に移動させてターンを終わります」

そんなアナスタシアを尻目に自分のターンを進めていくルウェリーの表情には、僅かに警戒の色が浮かんでいた。

「……そうか、そういうことか。まったく、オウカの奴め、こういった悪知恵だけはよく働くものじゃのぉ」

ルウェリーのターンが終わるのとほぼ同時に、自らの疑問の答えに思い至ったアナスタシアは思わず声を上げる。

「お、どないしたんやアナスタシア。オウカがどんな悪巧みをしとーんかでも分かったんか?」

「推測ではあるが、そういうことじゃ」

アナスタシアは、頭に疑問符を浮かべながら自分の方へと顔を向けてきたエムシエレに頷くと、続けて自らの推測を述べていく。

「簡単に言えば、オウカは裁判官の購入による小娘の側面支援を目論んでおるのじゃろう。その下準備と考えれば、この局面で継承権カードを無視して都市ばかりを買っておったことにも説明がつくしのぉ」

「……ほほー。そりゃ確かに、筋の通った話やな」

アナスタシアの推測を聞いたエムシエレは、顔から笑みを消した。

「裁判官の効果で継承権カードを捨て札にされる影響は、小娘よりもそなたの方が断然大きい。それに何より、小娘のデッキでは裁判官を買うのも一苦労じゃろうしな」

「つまり、オウカはそうやって稼いだ時間をルウェリーちゃんに使わせて、ウチとの差を埋めさせよーっちゅー腹なんか?」

引き続き推測を述べ続けるアナスタシアへ、エムシエレは一連の推測の中から生じた疑問をぶつける。

「おそらくはのぉ」

アナスタシアは、エムシエレの疑問の内容を肯定すると、手札から出した転売屋を卓上へと並べ手札の農村一枚を追放する。

「妾の話はこれで終わりじゃ。あくまでも推測ではあるが、オウカのこれまでを考えるとほぼ間違いはないじゃろうな」

その後、彼女は農村二枚と十字軍を並べ、十字軍置き場に遠征カウンターを一つ置きつつ独立都市を購入すると自分のターンを終えた。

「なるほどなるほど。助かったで、アナスタシア。おかげで、これからのトークンの動かし方を考えんのが楽になりそーやわ」

アナスタシアの推測の終了後、彼女へと謝辞を述べたエムシエレは、直前のターンからトークンを動かすことなく手札の農村三枚と都市、ネフェルティリを並べて四枚目の公爵を購入した。

「エムシエレ選手、ここで四枚目の公爵を購入しました! これで、エムシエレ選手は戴冠式を目指すのみ! オウカ選手とルウェリー選手は、果たしてここからエムシエレ選手に追いつくことができるのでしょうか!?」

クラムクラムは、エムシエレが戴冠式に届くだけの継承権カードを確保したことを確認すると、そうした状況をすかさず盛り上げに入る。

「エムシエレは、オウカの狙いに目星をつけただろうにも関わらずトークンを動かさないな。デッキがリシャッフルされるまでであれば、直轄地の公爵を捨て札にされても問題ないという判断か」

「エムシエレさんのデッキはリシャッフル直後ですし、おそらくはそうでしょうね。先程彼女が購入なされた公爵も、デッキリシャッフルが行われるまでは使用できませんし」

その横で、フラマリアとベルガモットはエムシエレがトークンを移動させなかったことに対する推測を交わしていく。

「……私としては、アナスタシアの買った独立都市のほうが気になるかな。戴冠式を目指す気なら、いまさらそんなものを買ったとこで遅すぎるし」

「たしかに。アナスタシアの役割を考えたら、さっき買った独立都市もエムシエレの支援に使うものになるんだろうけど、それをどう使うつもりなのかは私にもちょっと読めないね……」

そんな中、双子は含みのある笑みを浮かべるアナスタシアを見つめながら、彼女の意図を訝しむ。

「ふむ、儂の狙いを割ったアナスタシア殿の考えることじゃ。それがどのようなものであれ、儂らにとっての厄介事には違いないじゃろうな……」

そうした双子の会話を耳にすると、オウカは転売屋二枚で手札の農村と見習い侍女を追放し、続いて農村を並べると、最後に四枚目の都市を購入して自分のターンを終えた。

「私のターンですね。私はまず、手札の洗礼二枚で捨て札の十字軍と見習いさんを追放。次に、アナスタシアさんの効果で山札の上に呪いを置いて結盟を手札に入れます。その後、結盟を使用して、サブタイプに兵力を選択。そして、手札の十字軍を使用して、十字軍置き場に遠征カウンター、直轄地のアナスタシアさんの上に継承点カウンターをそれぞれ一つずつ置きます。最後に、コイン四枚で二枚目の破城槌を買って終わります!」

マーケットの十字軍が売り切れたことを受けて、ルウェリーはアナスタシアのカード効果を使用した新たな戦術を仕掛ける。

「ほう、小娘め、ここで結盟を絡めてきおったか。じゃが、その程度の速度では、オウカの支援があってなおエムシエレに追いつくのは厳しいじゃろうな」

それを目にしたアナスタシアは、さして驚いた様子も見せずに悠々と農村三枚とサムライを並べて二枚目の独立都市を購入した。

 

こうして、勝負はいよいよ佳境を迎えていく──。

説明
*http://www.tinami.com/view/835590の続きとなります。これの続きはhttp://www.tinami.com/view/835598となります。
 なお、予選第二試合については、一度に投稿できる最大文字数の都合上、二分割してお送り致します。



まああれですよ。
ハートオブクラウンの絵は描かないと言ったが、ハートオブクラウンについての文書を書かないとは言っていない(キリッ ということですよ。
あ、石は投げないでくださいお願いします。
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ハートオブクラウン ハトクラ 

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