あるパイロットの手記
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――戦闘において乱戦ないしは混戦でない限り、頭数の多い方が大抵の場合有利である。

とは誰の弁であったか。

 今はそれを思い出す間も無く、しかし自分の無力さを思い知ることは出来たのだった。

ある程度チューンナップが施されたとはいえスティレットタイプ一機に対し、フレズヴェルグ型とマガツキ型が一機ずつ。それも各々が随伴機として3機のアントを従えている。

 この場にいない者でも、この状況が多勢に無勢であることは火を見るよりも明らかだ。

 

「こちらセイバー3、セイバー3、二機の月面型及び随伴機に包囲された。至急高火力機とTCSC搭載機による支援及び補給を要請――」

しかし、聞こえるのはザ、ザ、という砂埃のようなノイズだけである。

「ッ……この砂漠じゃ無理も無いか。挙句、奴さんのTCSのノイズで通信なんて出来たもんじゃねえな」

一度マウントしたライフルに手を掛け、深呼吸と共に握り直す。

そして一気に引き抜く。

 初動はこちらの方が確実に早かった。

二機が武器を取るより早いか、引き金を強く引き銃口より放たれた鉛弾は、フレズヴェルグのTCSオシレータへと吸い込まれていく。

金属が弾ける音。

だが、オシレータは陽光に照らされて今もなお水晶の如く煌いていた。

「TCrystal……Shield」

二機の周囲に張り巡らされた半透明の力場は、TCSが発動していることを何よりも雄弁に語る。

そして、力場同士は針一つ通さないほどに、強固に絡み合っていた。

引き金を引いてからおよそ1秒も経たない。それも不意打ちのはずだ。

しかし、奴らは難なく、それも息をするかのように力場を展開した。そんなものは人間業では無いことは自明で、そもそも奴らは人間の手により稼動していないことが明らかだった。

またそれは、自分に本能的な恐怖を植え付けたことも、明らかであった。

《嬲り殺しにされる》

 そう悟った自分は砂塵を巻き上げ、可能な限り巻き上げ、機体を翻す。

怯え、震え、歯をカチカチと鳴らしながら操縦桿を握り締める。

ボディスーツ越しに握り締められた掌に一層強く皺ができる。

僅かな充填時間を終え、全力の逃避行を私は始めた。

 

 しかし直後、私の視界は暗転した。厳密には私ではなく、全天式のモニタがぷつりと切れたのだ。

私は急いでサブカメラへと接続を切り替え、映し出す。メインカメラよりも精度は劣るものの、十分はっきりと周囲の様子が把握できる。

舞い上がる砂塵と共に現れたのは、大鎌へと手をかけたフレズヴェルグ。その左手には先ほどまでこの機体に繋がっていた、スティレットの頭を愛しげに抱えている。

逃げることすら叶わない。

嬲り殺しへの恐怖は、私の正常な判断能力を奪った。

 

 ライフルのトリガーへと指を掛け、ひたすらに握り締める。ライフル弾が駄目ならばEN弾、EN弾が駄目ならば――

全ての弾を撃ち尽くしたのに気づいたのは、残弾0のアラートがモニタに表示されてから暫くのことだった。

悉く無下にされた弾がフレズヴェルグの足元へと散らばる。こちらには既に手が無い事に気づいたのか、フレズヴェルグは動き出す。マガツキも動き出す。

文字通り、嬲り殺しの為に。

 

 冷や汗が流れ、嘔吐し、糞尿がだらしなく垂れ流れる。

死の恐怖とはこんな物だったのか。

呻き、悶える。錯乱し、操縦桿を握った拳でひたすら殴る。

 

 マガツキの刀が、フレズヴェルグの大鎌が、私の四肢を次々と串刺しにしていく。

鈍い振動が機体を揺らし、次々とアラートがモニタに表示される。警告ウィンドの隙間から辛うじて二機の姿が見えた。

 

 彼らは得物を全て私の体へと突き立ててなおも、その手を休めない。その手でコックピットブロックを引き剥がそうというのだ。

その手がスティレットのフレームへと掛けられた瞬間。爆風。

ごう、ごう、という風切音が僅かにした後、視界が砂塵で塗りたくられる。

 

「――レヱル・ガン。壱禅・弐臓」

 

 暫くすると砂塵の嵐が止み、視界が開ける。そこに居たのは文字通り上半身が「こなごなに」砕かれた2機だった。

断面は醜く潰れ、溶け出している。

佇むのは、この砂漠におよそ相応しくは無い橙色の機体。マガツキ型の派生種であることは辛うじて把握できた。

 

 だがしかし、それは私の恐怖を加速させた。せめて何かしらのパーソナルマークが見えれば、敵でないことさえ分かれば。

次の瞬間、「それ」は私に新たな恐怖を植えつけることとなる。

ゆっくりとこちらを向いた機体。

その左肩に添えられているキリンの紋章。

 

 誰が流布したのか、防衛機構全体で都市伝説のように扱われ、果ては上層部が問題として取り上げる詳細不明の部隊「グルックス」

その中でも精鋭のみが集められたという集団、橙色のFA乗り通称「オレンジライダー」

都市伝説に過ぎなかったそれらが、今自分の眼前に居る。

 

 彼はこちらへと歩みを進め、機体を屈めた。

そのまま拳をこちらの胸部に密接させると回線が強制的に開かれる。

接触回線である。

 

『こちら言祝、規定に基づき貴官が稼動させていた戦闘中のレコーダーの回収・破棄をさせてもらう』

 

 その後のことはよく覚えていない。幽鬼のような顔の男性か、それとも年端のいかない少年だったような。彼はレコーダーを引き千切ってから機体へと戻ると、こちらを一瞥して砂煙の中へと消えた。

そんなことはどうでもいい。

暫くすると何故か回収班が来たことも、どうでもいい。

ああもう、どうでもいい。

 

 

 

 4日後、営倉内で首を吊っている男性パイロットが発見された。

本文は、彼の遺品整理の際に発見された手記より一部を抜粋したものである。

説明
こう、オレンジライダー的なアレコレ。
もし受からなかったら、こういうロールプレイをしているゲームプレイヤーが居るってことで。
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タグ
ロボ メカ フレームアームズ オレンジライダー 

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