冷たい秋空の下で |
「ん〜! 久々の休みはいいモンだわーっ!!」
「わかるわかる。 最近俺もバイト尽くしだし」
「それにしても、今日は寒いなぁ。 季節の変わり目とはよく言うよぉっ」
「確かに寒いわね。 でも、懐かしいな」
と、とある喫茶店に4人の男女がいる。 だが、よくみて見ると、多少の違いこそあれ、それぞれの顔が似通っている。 そう、俗に言う、4つ子の兄妹なのだろう。
「何が〜?」
と、今時の女子高校生の格好をしている子 ―― 花梨 (かりん) が言う。 どうやら、口調のほうもそのようである。
「ほら、覚えていない? 私たちが小さかったときのこと」
と、今度は花梨と同じ顔をし、少し大人びた風体の子 ―― 花奈 (かな) が言う。 こちらは、歳よりも大人びた感じだ。
「って言ってもなぁ。 いろいろとあったじゃんよぉ」
と、次は最近の若者らしい髪とよい具合におしゃれをしている子 ―― 優也 (ゆうや)が言う。 彼の場合、のんびりしている性格のせいなのか、語尾が少しのびている。
「何がいろいろだ。 いつも花梨と優也がやらかしてるんだろ。 俺と花奈はとばっちりを受けているんだからな」
と、今度はこれまた同じ性別である優也と瓜ふたつの顔を持っている子 ―― 龍也 (たつや)が言う。 彼の雰囲気は、ひと言でいうなら優等生タイプ 、である。 その横にいる花奈は、彼の言葉に、うんうん、と深くうなずいた。
「ひっでぇ〜! オレら何もしてないじゃんよぉっ!!」
「そうだよーっ!! ひどいわよーっっ!!!」
「よく言うよ。 さっきの話に戻すけど、そんときだってあんたらが悪かったんだから」
「まったくだ」
「ええ〜っ!! 何でだよっ!?」
「ええ〜っ!! 何でよぉっ!?」
と、優也と花梨は声をそろえて講義する。 そんな様子を、ため息ひとつでかき消した花奈は、
「しょうがないな。 私が話してあげるよ」
と、そのときに起こった出来事を話し始めた。
時は今からさかのぼること、9年前。 1997年のことだ。 とある県内にある、とある公園がある。 別に何ということもない、その辺にある公園である。 だが、その中にいる一部の子供たちはそれとは違っていた。 そう、近所でも有名な幼い4つ子の兄妹がいたのだ。 彼らは、室内で遊ぶよりも、外に出て元気に遊ぶ子供で、毎日この公園に来て遊んでいる。 しかも、その日は季節はずれの雪が降っており、気温も例年より低かった。
「うわ〜っ!! まだ秋が始まったばっかりなのにもう雪が降ってるよぉ〜っ!!」
「よーし、あそこのすべり台まで競争! ここでビリになったやつは、鬼ごっこの鬼に決定な!!」
「じゃあ、鬼は龍也に決定だねっ!!」
「な、何でだよ!?」
「頭と運動能力は別、ってことだよ」
「それはどうかなー?」
と、いたずらっぽく笑う龍也の手には、白いものがあった。 彼は、適当な大きさに握ると、他の3人の顔に命中させる。
「つ、つめてぇ〜っ!!」
「ほら言っただろ? んじゃ、お先にーっ!!」
「んの〜! まて〜っ!!」
「……やられた」
龍也に先を越されてしまった優也、花梨、花奈はそれぞれ最大のペースで彼に追いついた。 だが、先ほどの不意打ちが功を奏したようで、結局は花奈が最後となった。
「じゃあ、花奈が鬼な」
「わかったよ。 でもその前に――」
「? なあに??」
と、今度は意地の悪い笑みを浮かべた花奈は、手に持っていたもので龍也と同じよこうなとをす ―― るはずがなかった。 彼女はそれを頭のほうへとばら撒き、皆が上をむいた瞬間、地面を思いっきり蹴り飛ばしたのだ。 龍也に対する仕返しと日頃の恨み……とでも言い表わしておこうか。 命中すると、彼女は優也へとタッチする。
「んじゃ、あんたが鬼ね!」
「こ、こんの〜っ!!」
と、まんまと騙された優也は、いらだちまがいに3人を追いかけまわした。 だが、後先考えず走り回るためか、なかなかつかまりはしない。 しまいには、数10分後に走り疲れてしまったようで、その場にへたり込んでしまった。
「あ゛〜っ!! もう疲れたっっ!!!」
「だらしな〜! 男なんだから、しっかりしなってば!!」
「んなコト言ったって、疲れたモンは疲れたんだよ〜っ!!」
「まぁ、しょうがないか。 なら、ちがう遊びにしよう」
「はいはい! でっかいカマクラ作ろうぜ〜っ!!」
「……あんた、本当は疲れてないんじゃないの?」
「いやだな〜、マジで疲れたっば〜」
と、元気いっぱいに手を上げた優也に対して、花奈はジト目で言う。 そんな彼女をよそに、他の兄妹より150mぐらい離れた位置で、花梨はさっさとカマクラ作りへとはいっていた。
「ねぇ〜! カマクラ作るんでしょーっ!? はーやーくーっ!!」
「……いつのまにあんなところに行ったんだよ……」
と、少々マイペースな花梨に呆れながら、龍也は彼女の元へと向かった。 残った2人も、彼の後を追う。
「どうせなら、でっかいのを作ろうぜ〜!」
「さんせ〜い!」
「おいおい、もうそろそろ4時だぞ。 あまり遅いとまた叱られるじゃないか」
「ケチケチすんなって! 6時までに帰ればいいんだから〜」
「そうそう! 私たちが入れるぐらいのやつつくろうよ! ねっ、花奈!!」
「時間内に帰れれば、私はいいよ」
「うっし! ならさっさと作ろうぜ〜っ!!」
と、やる気マンマンの3人に押され、龍也はしぶしぶOKしてしまった。 だが、これがいけなかった。 もしこのときに龍也がこのまま、NO、と言っていれば事件は起こらずにすんだからだ。
現時刻は夜の8時。 4つ子の育ての親たちは血眼 (ちまなこ) になって子供たちを捜していた。 普段なら、遅くても6時過ぎには帰ってくるはずの彼らが、未だに音沙汰無しだったからだ。
「どうだ!? いたか!?」
「いいえ、商店のほうにも行っていないようなの……」
「とにかく、この町からは出ていないだろう。 もう1度よく近所を捜してみよう」
と、彼らの父親と母親が家の前で息を切らしながら会話する。 やはり、まだ10にも満たない子供のこと、行き所がわからないと心配で仕方がないのだろう。 しかもこの家族が住んでいるところは、町内でも県境の川の近くにある。 もしものことを考え、他の大人たちも協力して走り回っており、その辺はにわかに騒がしかった。
「奥さん! うちの子がお宅の子を公園で見たと言っていたよ!!」
「こ、公園ですか? しかしあそこには誰もいませんでしたが……」
「どうも雪遊びをしていたらしいよ」
……まさか。 と、両親は思った。 そう、そのまさか、である。 まったく子供というのは目を放すと何をするかわかったもんじゃない。 おそらく、個人差にもよるだろうが、小学生を卒業するまではいろいろな意味で危険が伴うものだ、と思ったに違いない。
……もちろん、4人の身に起こった出来事は言わずもがなであった……。
「……そんなことあった〜?」
「あーぁ、当事者が覚えてないなんて」
「花梨、お前がライターを買ってきただろ? んで、優也は木を折って、カマクラの中に持ってきただろ?」
「あんたらが 『ここで火をたいてあったまる!』 って言って、火をつけたよねぇ? 私と龍也が止めるのにも聞かないでさ」
「そ、そーだったっけか〜??」
と、優也は言うなり、花梨のほうを見た。 同じく彼女もそうするが、今度はふたりそろって首を右に左に振る。 どうやら、本当に覚えていないようだ……。
「まったく。 俺がいっつも怒られてたなぁー。 いくら長男だからってさー?」
「本当。 私なんて次女なんだけど、なー?」
と、龍也と花奈は皮肉たっぷり嫌味たっぷりで言いつのった。 なるほど、とばっちりとはよく言ったものである。
「まっ、まぁさっ! もう終わったことじゃんよ〜!! そうだオレ、トイレに行ってくる!!!」
すたこら、と、優也はその場を後にしてしまった。
「……相変わらず逃げ足は速いなぁ」
「まぁ、いいじゃないか」
と、龍也。 しかし、笑顔で言っている彼のその口元は、少しつりあがっていた。
「ん〜! すっきりした ―― って、あれ〜??」
と、優也が戻ってきたとき、その席には誰もいなかった。 彼は、家から電話があって先に帰ったのだろうと思った。 とりあえず、自分も帰ろうとしたら、
「お客様。 お連れの方々にお会計を頼まれたのですが……」
「へっ?」
と、間の抜けた返事をした後、何気なく外を見ると、にやにやとした兄弟たちの姿が。
「あーっ!! はめやがったなぁーっっ!!!」
とそのとき、ブルルブルル、と、優也のポケットにある携帯がなる。 なんだと思って取って見ると、“宛名 : 龍也、本文 : 早くこい (笑) ” と書いてあった。
「〜〜〜〜〜!!!」
「あ、あの、お客様……」
「―― いぐらでじょーが?」
「は、はぁ……。 5,326円です」
「―― じゃあ、ごれでっ!!」
「は、はい。 ありがとうございました……」
と、何があったかわからない店員は、優也のキリキリした態度に、終始びくびくしたままであった。
「うわ〜、店員さんかわいそーっ」
「うるせぇ! お前ら高くつくからなっ!! つーか、何でいちばん下のオレが払わにゃなんねぇんだよっっ!!!」
「俺今金欠だし」
「私も。 このあいだ、参考書に使っちゃった」
「私も〜。 給料日前だし」
と、龍也、花奈、花梨の順で言う。 その言葉たちに、ぐっ、と引いてしまう優也。
「まぁ、ほら。 優也は進路決まっているからいいじゃん。 その分の余裕のおごりってことで!」
「なっとくできっかぁぁぁっ!!!」
と、冷たい秋空の下に、今日も4つ子の声が響いていたのであった。
説明 | ||
短編第2弾です^^ 2006年の秋ごろに書きました。 ジャンルは現代で、ほんわかとした雰囲気だと思います。 秋空の下を歩いている、子供から大人になる4つ子が小さい頃の思い出を話している、という話です。 今回も楽しんでいただければ幸いです^^ |
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