ロイヤルガーデン if 〜非・御子神ハルルコ√〜 『ソワレ』 |
ザザーン…ザザーン……
潮騒が聞こえる。
正面には大きな赤い太陽。
もうすぐ、水平線に沈もうとしている。
常夏の陽気も、少しひんやりとしてきた。
「…………」
私は誰も通らない海沿いの道で一人、沈みゆく太陽をぼんやりと眺めていた。
それが、今の私にはとてもお似合いのような気がして。
「……こんな所に、いたのね」
「え――」
俄かに聞こえた声へと振り返る。
階段の上には、ハルルコさんが膝に手をつき、肩で息をしながらこちらを睨んでいた。
どうして、ここに…?
「…何か私にご用ですか?赤の他人のハルルコさん?」
思わず口から出たのは、先ほどの皮肉。
こんなことを言いたいわけではないのに…
「別に、アンタに用なんか無いわよ。この嘘つきサボり魔さん?」
サボり魔、ということは、私も学園を休んでいたことがバレたのでしょう。
「嘘はついてませんよ?私はお仕事とは、一言も申しておりませんもの」
そう。和服姿を見て、ハルルコさんが勝手に勘違いしただけ。
もちろん、そう仕向けたのは私ですけど。
「……何の真似よ」
「なにが、ですか?」
「惚けてんじゃないわよ。学園をサボってまで私のこと…心配、してくれたんでしょ?」
「…………」
「何故あなたが私にそこまでするの?クラスメイトだから?デュオだから?それとも、何か他に理由でもあるの?」
詰問するように、一歩ずつ階段を降りてくるハルルコさん。
そして私の前に立つと、
「答えて」
そう言って、私をまっすぐ正面から見てくれた。
初めて、私の((心|舞台))にハルルコさんが上がってくれたような気がする。
その瞬間、胸の奥でことりと歯車が動き出し、本音を隠していた心の緞帳が上がり始めた。
「…これは、少し昔のお話でございます。あるところに、一人の女の子がいました」
そして私はハルルコさんに背を向けると、あの劇のナレーションのように語り出した。
突然の語りにも、ハルルコさんが止める気配は無い。
私は続ける。
「その子は、ある由緒正しい家に生まれ、小さい頃から色々と厳しく躾けられました。
そのおかげもあり、その子は華道で才能を開花させ、齢十を数える頃には自分の流派を興し、多くの弟子を抱えるほどになりました」
「…………」
「その子は何不自由ない生活を送っていました。でもただ一つ、その子が他の子とは違うところがありました。
その子には一人も、友達と呼べる人がいませんでした」
――
――――
――――――
「お〜い!秋月がまた変な服着てるぞ〜!」
「きゃははっ!変なの〜!」
「こら!皆さん、変な服ではありませんよ。秋月さんの着ている服は和服といって……そもそも秋月さんは――」
…………
……
「秋月さん、今日の放課後遊びに行かない?」
「え?あ…」
「ダメだよ。秋月さんはお花のお稽古があるんだから」
「あ…ごめんなさい、秋月さん…」
「……いえ。お誘い頂いたのに、申し訳ございません」
「ううん、お稽古だもん。しょうがないよ」
「しょうがない」
「しょうがない」
「しょうがない」
――――――
――――
――
「………………」
空しい、無色透明の記憶。
だからこそ、色鮮やかなお花が面白かったのかもしれません。
「…そんな子が、ある時、親から携帯電話を持たされることになりました。
いつでも連絡が取れるように、という理由でしたが、そのケイタイのおかげで、その子の世界が格段に広がったのです」
クラスメイトの間でよく話題に上がっていたゲーム、というものがある事は知っていた。
前から興味はあったので、毎日少しずつ操作し、何とかダウンロードすることが出来た。
「家人が寝入った頃、布団の中で光る小さな画面には、胸躍る世界が広がっていました」
「…………」
「ただ、初めてのゲームでしたので四苦八苦しました。何とかアカウントを作ってログインしたものの、何をしていいか分からず最初の広場で右往左往。
そこに『初めてですか?』と、私に声をかけてくれた方がいました。見るからに強そうな格好をした剣士の方…」
一つ、大きく深呼吸。
「お名前を、英語でH・A・L…『HAL』さん、といいました」
「――っ」
「そのお方のおかげで、最初のチュートリアル、といわれる部分は無事に終わりました。
HALさんに導かれるまま異世界の街を歩き回ったあの高揚感は、今でも忘れられません」
辺りを行き交う色々な種族の、様々な武具で彩られたキャラクターたち。
支給された武器や防具を装備すると、連動して変わる私の((アバター|分身))。
ミッションを受け、街の外で初めて倒したモンスター。
日常では味わえない体験に、胸の高鳴りを抑えられなかった。
「…ちょうどキリもよく、時間も時間でしたのでお別れ、と相成ったのですが、最後にHALさんが
『よければまた明日、同じ時間に遊ばない?』と仰って下さったのです。
その子にとって初めての遊ぶ約束…フレンドという欄には、HAL、というお名前がありました。
HALさんが……私の、初めての友達でした」
――――――
――――
――
灯花の物語り、いや、回想が唐突に終わる。
これが全て、ということなのだろう。
そういうこと、だったのね…
今まで不可解だった灯花の行動も、これで合点がいった。
だから自然と、私の口も動いた。
「……HALにとっても『しゆうけつ』は、かけがえのない、特別仲の良い友達だったわ」
面白い名前だな、と思って声をかけたのがきっかけで仲良くなった、とあるネトゲでよく一緒に遊んだユーザー。
双方向でレスポンスがある、という意味では、初めての友達。
ほんの些細な行き違いで疎遠になったのだけれど…
まさか、こんな近くに居るなんて、ね。
こちらに背中を向けてる灯花の顔は見えない。
だけど、確かに空気が変わった。
私はゆっくりと、灯花の隣に並ぶ。
「そのHALって子も、小さい頃は度重なる親の転勤で、友達のいない子だったの」
今度は、私の物語りの番、かしら。
「HALにとっての初めての友達で、初めての恋の相手は…テレビの中で活躍している、ある男の子だった」
ゴメンね、神狗郎……
「その子の名前は、月宮神狗郎、といったわ」
………………
…………
……
「……こうして、HALの長年の恋は成就せず、振られてしまいましたとさ。おしまい」
灯花の語りから始まった舞台は、これにてエンディングを迎えた。
「……ずいぶんと、長い物語でしたね。まだ高かった陽が、もう沈みきってしまうくらいに」
そう。私たちを照らしていた((太陽|スポットライト))は((沈み|消え))、((今日|舞台))の終焉を告げる。
陽が沈み、微かに明るい水平線を灯花の……友達の、隣で眺める。
どちらからともなく、手を取りあう。
「「……泣いて、いるの?」ですか?」
辺りを闇が包み込むと同時に街灯が点く。
その光がピンスポットのように、二人を優しく、照らしていた。
説明 | ||
DTKです。 普段は恋姫夢想と戦国恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI(仮)という外史を主に紡いでいます。 今回は、恋姫を製作しているBaseSonと同じネクストンブランド、あざらしそふとの作品『ロイヤルガーデン』の二次創作を投稿します。 ヒロインの一人である御子神ハルルコ。 もし彼女が選ばれなかったら… これは、そんな悲しい『外史』の物語です。 主題歌の『Welcome☆Garden』を聞いていて、ふと頭に流れた欠片を紡ぎました。 物語のここに入る、という訳ではありません。 でももしかしたら、この世界のどこかであった、一場面。 この『外史』に興味があるという人のみ、この扉を開いて下さい… |
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