英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版
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〜グランセル城内・謁見の間〜

 

「先ほど話に出たように全てはカシウス准将の指示でね。王都に危機が訪れることを前もって察知されていたんだ。だが、導力兵器が主武装である正規軍では守りきれそうにない……。そこで白兵戦の経験が豊富な特務兵の投入を決断されたわけだ。」

「無論、服役中の我々を投入するための名目は必要だ。そこで我々は、王都へ護送中に今回の騒動に巻き込まれて、結果的に市街を守った形になる。」

「な、なるほど……。って、どう考えても無理があると思うんですけど。」

「フン、下らん茶番だ。」

シード中佐とリシャールの説明を聞いて納得しかけたエステルだったが、呆れた表情で溜息を吐き、リオンは呆れた表情で呟いた。

「どうやら陛下たちはご存じだったようですね?」

「ええ、この件に関してはカシウス殿と話し合いましたから。後々、様々な批判を受けてしまうとは思いますが国民の安全には代えられません。何よりも、リシャール殿の愛国心をわたくしは信じることにしました。」

「……もったいないお言葉。」

ヨシュアの質問に答えたアリシア女王の答えを聞いたリシャールは軽く頭を下げて会釈をした。

 

「そっか、そういう事なら……。そういえば……あたしたちをお城に呼んだのはその事と関係していたんですか?」

「ええ、それもありますが……。実は、クローディアのことでお伝えしたいことがあったのです。」

「えっ……?」

「……クローゼの?」

アリシア女王の話を聞いたエステルとヨシュアは驚いた後仲間達と共にクローゼに視線を向けた。

「はい、実は……略式ではありますが、今朝、立太女の儀を済ませました。今の私は、リベール王国の次期女王という身分になります。」

「ええっ!?」

「わぁ……!」

「……ついに決心がついたのね。」

クローゼの答えを聞いたエステルは驚き、ティータは嬉しそうな表情をし、アーシアは微笑んだ。

 

「いえ……ただの我がままなんです。エステルさん、ヨシュアさん。それから他の皆さんも……。学園のみんなを助けてくださったそうですね。本当にありがとうございました。」

「あ……うん。でも、協力してくれたのはあたしたちだけじゃないわ。アネラスさんたちやジークも助けてくれたしね。」

「ピュイ♪」

エステルの言葉に答えるかのように玉座の近くにいるジークは嬉しそうに鳴いた。

「うふふ、エステル?学園の時もそうだけど、マルガ鉱山の時もレンのお陰で助けてくれた人達もいるでしょう♪」

「あー、はいはい。ゼノさん達に莫大な金額の報酬を支払ってあたし達を手伝わせた事に関しては感謝しているわよ。」

「”銀(イン)”だったか?最初レンに紹介されて説明してもらった時はマジで驚いたぜ……」

レンの問いかけにエステルは疲れた表情で答え、ルークは苦笑していた。

 

「ふふ……話を続けますが事件のことを知った時、私は自分に何ができるのかを真剣に考えさせられました。大切な人たちを守るために自分が何を果たせるのかを……」

エステル達の様子を微笑ましく見守っていたクローゼは話を続けた。

「それが……王位を継ぐことだったんだね?」

「はい。未熟な私には、王国全てを背負える力も自信もありません。それでも、私が王位を継ぐことで大切な人たちを守れるのなら……。そして、その事が結果的に王国を守ることに繋がるのなら……。―――そう思い至ったんです。」

「そっか……」

クローゼの決意を知ったエステルはクローゼに近づいて、クローゼの手を握った。

「クローゼ、おめでとう!とうとう自分の道を見つけることができたんだね!」

「エステルさん……ありがとう。でも、まだまだ未熟ですし、自分に何ができるのかも判りません。困った時は……力をお借りしてもいいですか?」

「あはは!そんなの当たり前じゃない!第一、未熟なのはあたしたちも同じなんだし。」

「君が今まで僕たちを助けてくれたのと同じように……必要な時はいつでも力になるよ。」

「エステルさん、ヨシュアさん……。……本当にありがとう。」

(……自分の愚かさが今更ながらにこたえるな。未来を担う若者たちの可能性に気付くこともなく、あんな事をしでかしたのだから……)

(リシャールさん……)

エステル達の様子を見て自嘲げに呟くリシャールをシード中佐は静かに見つめた。

(ふふ、何を言っているのです。貴方だって、未来を担う若者のうちに入るでしょうに。)

(ふふ、その意見には同感です、祖母上。)

(ご、ご冗談を……)

そしてアリシア女王とレイスの意見を聞いたリシャールは信じられない表情をした。

 

「も、申し上げます!」

するとその時、一人の親衛隊員が慌てた様子で謁見の間に入って来た。

「い、いえ、そちらの方は何とか収拾がつきました。猟兵たちもことごとく王都から撤退した模様です。」

「ならば、どうした?」

「さ、先ほどハーケン門と連絡が取れたのですが……。国境近くに、エレボニア帝国軍の軍勢が集結し始めているのだそうです!」

「ええっ!?」

「やはり来たか……!」

「……軍勢というのはどの程度の規模なのですか?」

驚愕の報告を聞き、一同が驚いている中エステルが声を上げて驚き、リシャールは表情を歪め、アリシア女王は真剣な表情で尋ねた。

 

「現時点で集結しているのは1個師団程度のようですが……。ど、どうやらその中に戦車部隊が存在するらしく……」

「なんだと!?」

「ちょ、ちょっと待て!導力停止現象の中でどうして戦車が動かせる!?」

「まさか”結社”と同じ技術を使っているの!?」

さらに驚くべき報告を聞いたシード中佐は声を上げ、アガットは信じられない表情をし、シェラザードは真剣な表情で声を上げた。

「いえ……どうやら導力機構を搭載していないタイプのようです。観察した限りでは『蒸気機関』で動いているとか……」

「蒸気……機関?」

「えとえと……内燃機関よりも原始的な蒸気の力を使う発動機だけど……。オーブメントの普及と共にすぐに廃れてしまった発明なの。」

初めて聞く言葉に首を傾げているエステルにティータが説明した。

 

「……そんな物で動く戦車などどの国も保有しているはずがない。導力戦車と比較するとあまりに経済効率が悪いからな。」

「ならば答えは一つ……。秘密裏に帝国内で製造されていたわけですな。」

「そ、それって……」

「……この事態を見越していたということか。」

「でも、どうしてこんなタイミング良く現れたんだろう?」

「……考えたくはねぇが、帝国の上層部の誰かが”結社”と繋がっているかもしれねぇな……」

リシャールとジンの話を聞いたエステルが信じられない表情をしている中、バダックが重々しい様子を纏って答え、ソフィの疑問にフレンは厳しい表情で答えた。

 

「と言う事は先程、結社の連中が言っていた『次なる試練』というのは……」

「ええ……恐らくこの事だと思います。そして彼らは、今度の事件で王都を人質に取ってしまった。」

「その気になればいつでも王都を狙える……そういう意図もあったわけか。」

シード中佐に続くように答えたヨシュアの話を聞いて結社の意図を理解したリシャールは皮肉気な笑みを浮かべて答えた。

「加えてもう一つ……。恐らく父は、あなたの存在を隠し札として考えていたはずです。緊急事態が発生した時に自分の代わりに派遣できるとっておきのジョーカーとして。ですが、そのカードはすでに切られてしまいました。」

「………………………………」

「”身喰らう蛇”……そこまで狙っていたのか。」

更にヨシュアの推測を聞いたリシャールは表情を唖然とさせ、レイスは厳しい表情で呟いた。

 

「……お祖母様。どうか私をハーケン門に行かせてください。」

「ええっ!?」

「クローゼ……」

するとその時クローゼが決意の表情で申し出、クローゼの驚愕の申し出を聞いたエステル達はそれぞれ驚いた。

「ここで動かなかったら私たちを逃がすために負傷した小父様たちに申し訳が立ちません。必ずや、お祖母様の代理として帝国軍との交渉を成し遂げてみます。」

「……分かりました。不戦条約が締結されたとはいえ、リベールとエレボニアの間の天秤はいまだ不安定と言えるでしょう。今回の事件は、さらに大きな揺り戻しにつながりかねません。…………その天秤のバランス取り……どうかよろしく頼みましたよ。」

「……はい!」

「レイシス……クローディアの事を引き続き頼みます。」

「ハッ!」

アリシア女王とクローゼ、レイスが話し終えると、エステル達はそれぞれお互いに目配せを行い、エステルが仲間達を代表して申し出た。

 

「あの……。だったら、あたし達も一緒に付き合ってもいいですか?」

「え……」

「王太女殿下をハーケン門まで無事、送り届けさせて頂きます。」

「それと万が一、戦争が起こりそうになったら出来るだけの協力はしてやるぜ。」

「無論、ギルドの規約により戦争には協力できませんが……」

「中立的な立場からの仲裁なら幾らでもさせてもらいましょう。」

「勿論最悪交渉が決裂して王太女殿下の身に危険が迫った時は、王太女殿下を撤退させる時間も俺達が稼ぐぜ!」

「うふふ、それがレン達遊撃士の役目だもの♪」

「こんな時くらいは真面目に答えなさいよ……―――ともかく、遊撃士協会としても国家間で戦争が起こるかもしれないという状況は見過ごせません。ですから、どうか私達にも協力させてください。」

「皆さん……」

「ふふ……。願ってもないことです。どうかよろしくお願いします。」

遊撃士達の心強い申し出を聞いたクローゼは明るい表情をし、アリシア女王は微笑んで答えた。

 

「……エステル君、ヨシュア君。”結社”の動きに関しては我々に任せておいてくれたまえ。」

「例え、報告にあった巨大人形が王都に現れても対処できるよう万全の体勢を整えておくつもりだ。」

「2人とも……」

「よろしくお願いします。」

そしてリシャールとシード中佐の心強い言葉を聞いたエステルは明るい表情をし、ヨシュアは頭を下げた。

 

こうしてエステルたちはクローゼたちを護衛しながら一路ハーケン門を目指した。グリューネ門を越え、ロレント地方をできる限りの早さで通過してから……エステル達はついにハーケン門に到着した。

 

 

説明
第85話
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