38(t)視点のおはなし その1
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私の名は38(t)戦車。

チェコスロバキアで生を受けながら、ドイツ軍で運用される数奇な運命に翻弄された車輌で御座います。

世界を血の紅と炎の朱に染めた先の大戦にて私は、激化と拡大の一途を辿る戦線での戦闘車輌の不足を補う為

欠員補充の増援として東部戦線に送られますが、そこで遭遇したソ連の新鋭戦車、

後の世にてT-34ショックと表されるほどの一時代を築いた傑作戦車・T-34の砲火に晒され、

無惨にも撃破され、守るべき乗員の全てを失ってしまいます。

遠い異国の名も知れぬ雪原にて何も果たせず鉄屑と化し、後は大地に帰るのみかと思えた

私の運命は、再び奇妙な巡り会わせの元、流転する事となるのです。

 

極東の島国より訪れたというその人々は、私を雪原から引っ張り上げ、

船に乗せて海を渡り、自分達の母国へと連れ帰りました。

そして私を新品と見分けが付かないほど丁寧に修理し、乗員区画に見慣れぬ内張りまで施して、

民生品として売りに出したではありませんか。

程なく買い手の付いた私は、再び海を渡り、そこに辿り着いたので御座います。

買い手の名は、大洗女子学園。

町一つが収まるほどの巨大な艦の上にある、うら若き女学生の集う学び舎。

なんという運命の悪戯か、敵を討ち倒す殺戮機械として生を受けた筈の私は、

技術の革新によって絶対の安全が保証された健全なスポーツ、

「戦車道」なる競技の為の道具として、この学園に買い取られたので御座います。

私の内側に施されたあの内張りも、その絶対の安全を保証する為の堅牢不落なる処置の一つで有りました。

 

第二の人生を与えられた私はその頃、正直な処ささやかではありますが幸せで有りました。

いかに戦闘機械として生まれたとは云え、敵と言えども命を奪う所業も、

乗り手の命を奪われる仕打ちも、決して快いものでは御座いません。

変わってこの戦車道なる競技は、十重二十重に施された安全への配慮によって、命を奪い奪われる心配などする必要は無く、

それ処か、不撓不屈の努力と、信頼する仲間達との協調と、万難苦楽を乗り越える忍耐を養い、

健全なる婦女子を育成する手助けにも携わる事の出来る、とても有意義なお役目なのです。

貧弱な装甲と非力な火砲しか持たぬ私は、専ら斥候や軽戦車の露払い程度しか果たせませんでしたが、

元より戦闘車両としてはいささか消極的な性分の私としては、むしろ分相応とも言えましょう。

しかし、そんなささやか幸せも、長くは続かなかったのであります。

 

戦車道人気の衰退。それに伴う、学園における戦車道予算の度重なる削減。

強い車両を沢山揃えたチームが勝利する、単調で面白みの無い戦術への硬直化に陥っていた当時の戦車道は、

健全な婦女子を育成する尊い競技から一転、鉄臭く油臭く泥臭く汗臭い、人の集まらない斜陽競技に足を踏み入れて行きました。

私と同じ運命の元、学び舎に集った他の車輌達は一輌、また一輌と、次第に予算補填の為に売り払われて行き。

私達を駆り乗りこなしてくれた乙女達は一人、また一人と、飽いて諦め離れて行き。

最後に残った私も含め八輌と、それを駆る諦めを知らぬ乙女達も、公式戦で録に戦果を残せず続きだった事から、

戦車道科目そのものの廃止を食い止めることは叶わなかったので御座います。

 

最後の戦いの損傷も十分に修復できず、最後まで買い手の付かなかった私達は、

一山幾らの鉄屑として廃棄処分となる筈でしたが、共に戦い抜いた乙女達は、せめてもの抵抗にと、

艦内の人目につかぬ場所へと手を尽くして隠し、紛失書類まで捏造して廃棄処分の魔の手から逃してくれたのです。

人気の無い山奥へと私をひた隠したいたいけな少女達は、口々に私へ謝罪の言葉を紡ぎます。

 

ちゃんと使ってあげられなくてごめんね。

活躍させてあげられなくてごめんね。

こんな寂しいところに置いていくしかできなくて、ごめんね。

 

ああ!どうか泣かないでください!

せめて私の装甲がE/F型基準の50o厚であれば!

せめて私の火砲がマルダーV並の75mm砲であれば!

皆さんにこれほど悔しい思いをさせずに済んだかもしれぬのに!

 

こんな凡骨の私の為に涙を流し、悔恨の言葉を零す乙女達に向かって、

聞こえる筈も無い謝罪と慰めの言葉を放つ私。

かくして私は、束の間の夢の様な幸せだった日々を終え、再び物言わぬ鉄の塊として、長い雌伏の時を過ごす事と相成りました。

山の木々が幾度と無く色彩を変え、手入れされる事の無い装甲板が錆と苔と土に塗れ、地色を隠してしまう程長い長い年月が流れ。

もはや考えを巡らせるのも億劫な程の時を経た末、私の目前に、あの頃共に戦った乙女達と

似通った雰囲気を窺わせる、決意の宿った瞳を持った女学生達が現れたので御座います。

その日から、再び止まっていた私の運命の転輪は、三度動き始めたのです。

 

つづく

説明
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うそです
某所で一時期流行った戦車視点のおはなしです
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