英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜アルセイユ・ブリッジ〜
「―――安定翼、格納完了。そのまま最大戦速で加速しつつ、湖上の浮遊都市に向かえ。」
「イエス・マム。」
「敵の迎撃があった場合は?」
部下達に次々と指示をしているユリア大尉に砲撃士の席についているミュラー少佐は尋ねた。
「……そうですね。困難ならば強行突破を行いますが、都市への着陸を最優先とします。」
「了解した。ちなみに、自分に敬語は無用だ。階級はともかく、こうして砲術士として手伝っている以上、貴官の指揮下にあるのだからな。」
「……了解した。」
「へえ、ミュラーさんって砲術士なんかもできるんだ?」
ミュラー少佐が砲術士を務める事に驚いたエステルはミュラー少佐に訊ねた。
「帝国軍で最も導力化された機甲師団で鍛えられたからねぇ。顔に似合わず、その手の業務は一通りこなせるわけさ。」
「……顔に似合わずは余計だ。」
自分の代わりに答えたオリビエにミュラー少佐は顔を顰めて指摘した。
「なるほど、そういう事か。ところでオリビエってばいつの間に着替えちゃったの?」
「帝国皇子として視察するんじゃないんですか?」
軍装からいつもの白いコートに着替えたオリビエを不思議に思ったエステルとヨシュアはオリビエに訊ねた。
「ハッハッハッ。そんなのただの建前さ。これが終わったら、ボクの自由で優雅な時間は終わりを告げてしまうからねぇ。せめてそれまでは気楽な格好でいさせてもらうよ。」
「はは……最後のモラトリアムというわけか。」
「はあ、エレボニアの国民が知ったらどう思うことやら……」
「フン、間違いなく幻滅するだろうな。」
「ア、アハハ…………(私やヨシュアは”元”になりますが、そのエレボニア国民なのですが……)」
「フフ、彼の気持ちは私もわかるよ。今回の件が終わったら、私の放蕩生活も終わりだからね。」
「ふふっ、そう言う所はリチャードに似ているね。」
オリビエの説明を聞いたジンは苦笑し、呆れた表情で溜息を吐いたシェラザードに続くようにリオンは鼻を鳴らして呟き、ステラは冷や汗をかいて苦笑しながら心の中でシェラザードに指摘し、レイスは苦笑しながらオリビエの意見に同意し、ソフィは微笑みを浮かべてオリビエを見つめていた。
「ボクとしては知られても一向に構わないのだがねぇ。どうだい、記者諸君たち。リベール通信でスッパ抜いては?」
「おっと、いいんですかい?」
「だったらバンバン写真撮っちゃいますけど〜。」
「頼むから、そいつの戯言をいちいち真に受けないでくれ……」
オリビエの言葉を真に受けている2人にミュラー少佐は怒りを抑えた様子で指摘し
(フフ、以前から感じていましたが彼とジェイドは似ている所がありますね。)
(あ〜、それについては俺も感じていたぜ。声が似ている事もそうだが、掴み所のない性格とかも似ているよな。)
イオンに小声で囁かれたルークはある人物とオリビエを比べて苦笑していた。
「えっと、それはともかく……。どうしてナイアルたちがいつの間に船に乗っているわけ。」
「竜事件の時のようにお祖母様が手配したんですか?」
「ええ、お察しの通りです。陛下がカシウス准将に口添えをしてくれましてね。従軍記者扱いで乗艦させてもらったんですよ。」
「ハーケン門での、姫様たちのカッコイイ姿も撮っちゃいました♪現像、楽しみにしててくださいね〜?」
「あ、あはは………」
「やれやれ……どうにも緊張感がねえな。」
いつもの調子でいるナイアルとドロシーの様子にクローゼは苦笑し、アガットは呆れた表情で呟いた。
「そういえば、おじいちゃん。『零力場発生器』の調子はどう?」
「うむ、今のところ順調じゃ。何も起きなければ浮遊都市に着陸するまでは持ってくれるじゃろう。」
「ちょ、ちょっと待った。ってことは……何か起こったらヤバイとか?」
「うむ。問答無用で墜落じゃろうな。」
「サラッと言わないでよ……」
ラッセル博士の話を聞いたエステルが疲れた表情で溜息を吐いたその時、レーダーに反応があった。
「レーダーに反応あり……!ステルス化された艦影が5機、急速接近してきています。」
「来たか……」
「”グロリアス”に搭載された高速艇みたいですね……」
「ふむ、敵のステルスも何とか見破れたようじゃの。」
部下の報告を聞いたミュラー少佐は気を引き締め、ヨシュアは真剣な表情で呟き、ラッセル博士は安堵の表情で溜息を吐いた。
「―――主砲展開用意!最大戦速のまま強行突破する!立ち塞がる艦のみ撃破せよ!」
「「「イエス・マム!!」」」
アルセイユは結社の飛行艇の攻撃を躱しながら主砲で2機の飛行艇を撃ち落とした後突撃してくる敵機を回避し、先を阻む残りの一機を撃ち落として戦域から離脱した。
「1番、2番、5番を撃墜。3番、4番も完全に引き離しました。」
「やった!」
「……見事だ。」
「いやはや……これが最先端の空中戦か。」
部下の報告を聞いたエステルは明るい表情をし、バダックとオリビエは感心していた。
「ふむ……。この主砲は素晴らしいな。かなりの威力のはずだが、大した精度と反動の小ささだ。」
「わはは、当然じゃ。本来なら、レーダーと連動した迎撃砲も付けたかったが……。ま、それは次の課題じゃの。」
主砲を操作していたミュラー少佐の感想を聞いたラッセル博士は得意げに答えた。すると再びレーダーが反応した。
「レーダーに反応あり……!」
「8時の方向から全長250アージュの超弩級艦が接近中……!」
「そ、それって……!」
「例の”方舟”ってヤツか……」
「クソッ、やっぱり出てきやがったか……!」
「……ヨシュア君。”グロリアス”の基本性能と武装は分かるか?」
新たな報告を聞き、”グロリアス”が現れた事を悟ったエステルとケビンは真剣な表情をし、ルークは舌打ちをし、ユリア大尉はヨシュア敵艦のスペックを尋ねた。
「機動性、最大戦速共に”アルセイユ”には及びません。ですが、強力な主砲に加え、無数の自動砲台に守られています。攻撃・防御ともに完璧でしょう。」
「そうか……。4時方向へ全速離脱!敵戦艦の追撃をかわしながら浮遊都市の上空を目指せ!」
「アイ・マム!」
そして雲の切れ間から”グロリアス”が現れ、”アルセイユ”に向かって大量の砲弾を撃ってきた!砲弾の中には追尾する砲弾もあったが、”アルセイユ”は急旋回することで全ての砲弾をかわし、最大戦速のまま”グロリアス”との距離を引き離した。
「……”グロリアス”の射程圏内から離脱しました。」
「ふう……」
「何とか山は越えられたようだな……」
「こ、恐かった〜……」
「さすがに緊張したわね……」
”グロリアス”から完全に逃げる事ができた報告を聞いたクローゼやレイス、ティータとシェラザードは安堵の溜息を吐き
「うふふ、結構スリルがあってレンは楽しかったわよ♪」
「あの状況を楽しむとか、度胸がある嬢ちゃんだな……」
笑顔で答えたレンの答えを聞いたフレンは苦笑していた。
「全く、この娘は……それにしても、もうドキドキだわ。でも、これで敵の妨害は全部かわせたんじゃないかな。」
「いや……油断しない方がいい。」
「ああ、常識は通用しねぇ相手だ。最後の最後まで気を抜かねぇ方がいいだろ。」
「そうね。今までの事を考えたら予想もつかない事をしてくる可能性は十分に考えられるわ。」
ジト目でレンを見つめた後安堵の表情で呟いたエステルの推測を聞いたヨシュアやアガット、アーシアはそれぞれ忠告した。その後アルセイユは雲を突き抜け、浮遊都市の上空に出た。
「と、都市上空に到達しました……」
親衛隊員は上空から見える浮遊都市の景色――さまざまな建物や緑豊かな庭園に目を奪われながら報告した。
「………すごい………………」
「これが……古代ゼムリア文明の精華ですか……」
「……想像以上の代物やな。」
「ええ……古代ゼムリア文明は一体どれほどの技術が進んでいたのでしょうね……」
「少なくても、今の時代では、決して再現する事はできない、でしょうね。」
(……あの浮遊都市にレーヴェが……)
エステル達がそれぞれ浮遊都市に目を奪われている中、ケビンとイオン、アリエッタは真剣な表情をし、ステラは辛そうな様子で浮遊都市を見つめていた。
「ふむ……向こうの方に巨大な柱のようなものが見えるな。おそらく、この都市にとって重要な施設の一つであるはずじゃ。着陸するならまずはあの近くがいいかもしれん。」
「了解しました。エコー、周囲の状況はどうだ?」
「……はい。50セルジュ以内に敵艦の反応はありません。”グロリアス”も完全に引き離せたと思われます。」
「よし……。ルクス、速度を落としながら前方の”柱”付近に着陸するぞ。」
「アイマム。」
「あれ〜?」
親衛隊が浮遊都市に着陸する為に行動を開始すると突然ドロシーが声を上げた。
「どうしたの、ドロシー?」
「なんだ?感光クオーツでも切れたかよ?」
「あ、ううん。それは大丈夫ですけど〜。なんか、向こうの方から変なものが近づいて来るな〜って。」
「なに!?」
「う、うそ!?」
ドロシーの言葉を聞いたエステル達は慌てて前を見つめ
「―――な、なんだあれは!?」
ユリア大尉は前方にいる黒い竜の形をした人形兵器を見て驚いた!
「―――さあ、見せてもらおうか。希望の翼が折られた時……お前たちに何が示せるのかを。」
人形兵器に乗っているレーヴェはアルセイユに急接近して、剣で左翼を攻撃した!
すると左翼が爆発を起こし、アルセイユは安定を失って瞬く間に墜落していった…………
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第88話 | ||
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