戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ十九
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戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ十九

 

 

 躑躅ヶ崎館の西、荒川を越えた先に在る小高い丘。

 連合軍の宿営地として用意され、馬競走のゴール地点に選んだ場所で夕霧は困惑していた。

 

「おかえりなさい、夕霧ちゃん♪」

「た………ただいまでやがる…………やがるが………」

 

 出迎えた夕霧の妹の薫が満面の笑顔で聖刀と腕を組み、甘える様に寄り添っているのだから当然だろう。

 

「いったい何があったでやる?」

「運命の出会いだよっ♪」

 

 夕霧には薫が正気を失っているとしか思えなかった。

 聖刀を見れば、仮面越しだが困った顔をしているが判る。

 先に到着した者から事情を聞こうと見渡すが、貂蝉と卑弥呼はイジケて座り込み地面にのの字を書いているし、突然現れた巨馬の二頭は祉狼に甘えて犬の様に顔をベロベロ舐め回している。

 美空は自分と同じで困惑しているので問い掛けても意味は無いのが判る。

 しかし、一葉が面白そうに笑っていて、久遠が溜息交じりに考え込んでいるので事情を判っていると踏んで問い掛ける事にした。

 

「一葉さま、久遠どの、夕霧が来るまでに何があったでやがりますか?」

 

「余と久遠が到着した時は既にああなっていたぞ。」

「我等に訊くより昴に訊いてみよ。我の口で言うより聖刀の従者であった奴の言葉の方が説得力は有ろう。」

 

 久遠の言葉で聖刀に要因があるらしい事は判った。

 言われた通り昴に振り向けば、かなり困った顔をしている。

 

「こ、昴どの………」

「夕霧ちゃん………ごめんなさい…狸狐が聖刀さまから離れているのに、私も目を離すなんて……二条館と同じ失敗をするだなんて………」

「ど、どういう意味でやがりますか!?」

「聖刀さまの素顔を見た女性はほぼ間違いなく魅了されてしまうの………あの仮面はそうならない為に着けていらっしゃるのだけど、聖刀さまからお聞きしたらあんな風に………」

 

 昴は黒王と風雲再起に顔を舐められている祉狼を指差した。

 

「なるほど…………仮面が取れてしまった所を薫が見てしまったでやがりますね………」

 

 本当は風雲再起が咥えて外したのだが、それは些末な事だ。

 どちらにしろ結果は変わらないのだから。

 

「昴どの、先程二条館でもと仰りやがりましたが、その相手とはどなたでやがりましょう?確か北郷さまには五人の奥方がいらっしゃった筈でやがるが……」

「二条館では白百合さん…松永弾正さんが聖刀さまの素顔を見てしまって………」

「あの松永久秀が………何であの女が突然聖刀さまの妻になったか、ようやく得心がいったでやがる……」

「ああ、やっぱりその情報も伝わってたのね。」

「それまで聖刀さまと何の接点も無いのに、突然でやがりましたから………あの梟雄と呼ばれた女でやがりますから、何か企んでいるのかと思ってやがりましたが、この道中で見た姿は聖刀さまにベタ惚れでやがりましたからなぁ………薫もああなってしまうのでやがるか………」

 

 聖刀はいずれ天の国に帰ると久遠から教えられていた夕霧は、このままでは桙ェ連れて行かれてしまうとかなり焦っていた。

 ほんの四半刻前に風雲再起と黒王が空から降りてきた光景を見た所為で、それまで漠然としていた『天の国』のイメージが現実味を帯びたというのも在る。

 今まで姉妹三人で力を合わせて来ただけに、大きな喪失感を覚えていた。

 

「とにかく、この事は姉上に決断を仰ぐでやがります………」

 

 

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 馬競走に参加した者、馬周り衆と次々に到着し、本隊も順次到着し始めた。

 

「夕霧ちゃん。光璃お姉ちゃんから公方さま、織田久遠さま、美空さまと聖刀お兄ちゃん達天人衆を先に躑躅ヶ崎館にご案内する様に言われてるんだけど、いいかな?」

「それはまあ、公方さまや他家の御当主をいつまでもここでお待たせする訳にはいかないでやがるが…………」

 

 流石に聖刀から離れて仕事をする薫だが、気持ちは早く聖刀を館に招いて持て成したいとソワソワしている。

 夕霧は久遠、一葉、美空に向き直り、頭を下げた。

 

「これから躑躅ヶ崎館にご案内するでやがりますが、供廻りの人選はお任せするでやがります。但し、絶対に連れて来ていただきたい方が数名居るでやがりますよ。」

 

 これに久遠達三人は察して頷く。

 

「鞠は絶対であろうな。」

「後は聖刀の妻となった者達か。」

 

 一葉と久遠の落ち着いた態度に夕霧が安堵する。

 

「察していただき、有難いでやがる。」

「光璃がどんな顔をして、どんな沙汰を出すのか楽しみだわ♪」

 

 美空はひとり、意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「それは夕霧にも見当がつかないでやがりますよ…………」

 

 溜息を吐く夕霧を労ってから、久遠達は早速人選を始めた。

 大評定の前の話し合いなのでそこまで人数は連れて行けない。

 鞠、狸狐、葵、悠季、白百合、桐琴は確定しているので、先ずは国持ちの当主という事で眞琴、熊、雪菜が選ばれた。

 次に軍師となる詩乃、雫、幽、沙綾。

 ザビエルと鬼の事を伝える為にエーリカも必要なひとりだ。

 祉狼の護衛に小波も外せない。

 

「これだけ居れば充分だろう。」

「ぞろぞろ連れて行っても話が纏まらなくなるしの。」

「まあ、妥当でしょうね。」

 

 選出した者でこの場に居ない者を呼びに行かせて待つ事暫し。

 

「躑躅ヶ崎館に殴り込みとは!まっこと腕が鳴るわっ♪」

 

 桐琴が来るなり上機嫌で物騒な事を宣った。

 桙フ事を知らされていないのにこの状態である。

 知ったらどうなるのかと、句伝無量で事情を知らされている詩乃と雫は頭を抱えた。

 しかし、久遠は大して気にしておらず笑っている。

 

「桐琴。噂の武田衆の腕を存分に見極めよ♪」

「がっはっはっはっはっ♪流石は殿じゃ♪話が判る♪」

 

 この遣り取りを聞いて詩乃は夕霧が気を悪くするのではとハラハラして視線を向けるが、夕霧も笑顔で桐琴を見ていた。

 夕霧もこう見えて武闘派である。

 正面から挑まれて、受けて立つ気は充分といった感じだ。

 

「祉狼さま…」

 

 詩乃が祉狼に万が一の時は早急対応をと言おうとしたが、祉狼は雪菜に濡れた手拭いで顔を拭かれている最中だった。

 

「祉狼さ、あのでっけぇ馬っこにすんげぇ懐かれてんだな♪ヨダレでベトベトでねか♪」

「あの二頭はあんなに大きくても甘えん坊でな♪」

 

(しまった!祉狼さまのお世話をする機会をみすみす逃すなど!………雪菜さまの天然癒し力……本当に侮れません………)

 

 そんな事をしながら夕霧と薫の案内で荒川を越え、一行は躑躅ヶ崎館の前へとやって来た。

 

「おらおらおらおらぁあああああああああああっ!!武田の山猿共がぁああああっ!河内源氏が棟梁、八幡太郎の裔!悪名高き鬼侍!鬼の三左たぁあワシの事よっ!ちっとでも腕に覚えがあるなら、この鬼の頸を獲ってみせろやぁああああああっ!!」

 

 桐琴の啖呵が大手門の前で鳴り響く。

 愛槍『蜻蛉止まらず』の石突きを地面に突き刺し、腕を胸の下で組んで仁王立ちをする姿は実に堂々とした物だ。

 

「うむ♪見事♪正に五条大橋の弁慶か長坂橋の張飛翼徳といった感じじゃの♪」

 

 一葉が実に楽しそうに言った事に、祉狼が首を傾げる。

 

「聖刀兄さん、鈴々伯母さんは長坂橋であんな見栄を切った事が有るのか?」

「この外史の話だよ♪でも鈴々母さんは恋母さんと一緒に美羽母さんの軍を待ち構えた事が有るって言ってたけどね♪」

「それは美羽伯母さんも災難だったろうな♪」

 

 祉狼や聖刀にとって美羽とは優しく聡明な軍師であり、かつては我が儘なポンコツ姫だったとはまるっきり知らないのだった。

 それはさて置き、桐琴の啖呵に応える様に大手門が開く。

 中から現れたのは、赤い鎧を身に纏い赤い槍を持った長髪の少女。

 

「威勢のいいおばちゃんなんだぜ!泣く子も黙る武田の赤備え隊隊長!山県源四郎粉雪昌景が相手をしてやるんだぜっ♪」

 

 しかし、桐琴はそれまでの上機嫌から一瞬で不機嫌になり顔を歪めた。

 

「ああっ!?おいっ!でこ娘!甲山の猛虎、((飯富虎昌|おぶとらまさ))はどうしたあっ!!」

 

「ね、姉ちゃんなら信濃の内山城を任されて、そっちに…………って!あたいじゃ不満だって言うのかだぜっ!!」

「おうっ!不満じゃ不満!貴様みたいな小娘では力不足よ!ワシのクソガキの相手でもしておれ…………ああ、クソガキは置いてきたんだったな。全く使えんクソガキじゃ。仕方ない、殿から託された役目も有るし、相手をしてやる。ほれ、掛かって来い。」

「ば、馬鹿にしてるんだぜぇ…………っ!」

 

 粉雪は身に着けた鎧と同じ位、怒りに顔を赤くして悔し涙すら浮かべてキレた。

 

「その頸叩き落としてやるんだぜっ!!」

「ふん♪」

 

 粉雪は手にした愛槍『紅桔梗』を疾風の如き速さで突き出す。

 それを桐琴は蜻蛉止まらずで軽々と受け止めた。

 

「じゃから力不足だと言っただろうが。ほれ、稽古をつけてやるからもっと掛かって来い♪」

「こ、このぉ………このっ!このっ!このっ!」

 

 頭に血が昇った粉雪は我武者羅に紅桔梗を振り回す。

 その姿が小夜叉とダブって、桐琴は笑いが込み上げてきた。

 

「がっはっはっはっはっ♪そうじゃ♪余計な事を考えるなっ♪ただ目の前の敵をぶっ殺す事だけに集中せいっ♪」

 

 笑いながら粉雪の攻撃を弾き返す桐琴は一歩も足を動かしていない。

 粉雪の強さを知る夕霧と薫は、桐琴の強さに舌を巻いた。

 

「歩き巫女の伝えた情報以上の強さでやがる………」

「そうだね、夕霧ちゃん…………歩き巫女の話ではもっと荒々しい戦い方をする人だって聞いてたけど………」

「それは少し前までの話だな。最近の桐琴は角が取れて丸くなってきた。」

 

 二人の会話に久遠が割って入った。

 

「それって、聖刀お兄ちゃんの奥さんになってから………ですか?」

「その情報は聞いていたのか。」

「はい♪」

 

 屈託なく笑顔を見せる薫に、久遠は薫の度胸の強さを見た。

 知った上での聖刀へあの態度を取るのだから、危うく見た目と雰囲気に騙される所だったと薫の評価を改める。

 その時、桐琴と粉雪の戦いに動きが有った。

 

「さてと、いつまでも貴様だけにかまけておる訳にはいかんからな。稽古を終いにするぞ。」

「はあ……はあ……な………なにを………」

 

 粉雪の息が上がって攻撃の手が緩んだ所に桐琴の攻撃が始まった。

 

ガシィィイイイイッ!!

「ぐぎぃっ!!」

 

 桐琴の重いひと振りを受け止めた粉雪は何とか踏ん張ったが、腕が痺れて反撃どころではない。

 

「祉狼っ♪貴様への手土産じゃ!受け取れいっ♪」

 

 桐琴は一歩踏み込んで蜻蛉止まらずを横薙ぎに振り抜く。

 穂先ではなく柄の部分を叩きつけると、まるで野球のノックの様に粉雪を祉狼に向けて吹っ飛ばした。

 

「ぎゃうっ!」

「おっとっ!」

 

 祉狼は飛んできた粉雪の体をお姫様抱っこの形で受け止める。

 

「デコ娘の治療は任せたぞ、祉狼♪」

「ああ♪了解だ、桐琴さん♪」

 

 二人は笑って頷き合うが、祉狼の嫁達はいきなりの展開に動揺した。

 そんな嫁の動揺は怪我人を前にした祉狼の目には入らない。

 

「俺の名は華?伯元。通称は祉狼。今から治療をするぞ!」

 

 言われた粉雪は自分が桐琴に吹き飛ばされた事すらまだ把握出来ていなかった。

 叩きつけられた脇腹の痛みと目の前の少年の顔だけが意識を支配する。

 祉狼は左手で粉雪を支え、右手を振って器用に手甲から鍼を抜いた。

 

「はぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああっ!

 我が身!我が鍼と一つなりっ!

 一鍼胴体!全力全快!必察必治癒!病魔覆滅!!

 ゴットヴェイドオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 元気にっ!なれえぇええええええええええええええええええええええええっ!!!」

 

 凰羅で輝く鍼がツボに打ち込まれると、粉雪の全身を祉狼の氣が駆け巡り傷を癒していく。

 

「な、なんなんだぜっ!?…………って………痛みが消えてくんだぜ………」

 

 痛みが消えるだけではなく、心まで温かい物に満たされ粉雪はこれまで味わった事の無い幸せな気分になっていった。

 

「ふぅ♪もう痛い所は無いと思うが、どうだ?」

「な、無いんだぜ…………これが噂の薬師如来の力なんだぜ………」

「俺は薬師如来とやらじゃ無いんだが…………ああ、内腿の傷も塞がっているが、痕が残っていたら言ってくれ。早く処置すれば消せるからな。」

「うちもも?」

 

 粉雪は自分の足を見ると、確かに斬られて出た血が既に乾いて付いていた。

 血の量から皮を切った程度だと判る。しかし、粉雪は我が目を疑った。

 

「なあ、鞠。なんや赤い布がヒラヒラ飛んどるけど、なんやろ?」

「え?熊ちゃん、どこ?…………あ♪見つけたの♪なんだか赤い蝶々みたいなの♪」

 

 それは粉雪のパンツだった。

 桐琴は粉雪を吹き飛ばした時に、一瞬で粉雪のパンツの紐も切ったのだ。

 内腿の切り傷はその時に穂先が掠った為に出来た傷だった

 

「っーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 粉雪は慌ててミニスカートの裾を両手で押さえるが、角度から言って祉狼に見られたのは間違い無い。

 

「俺は医者だ♪気にするな♪」

 

 祉狼は笑顔で力強く言い放つが、当の粉雪は桐琴に軽くあしらわれた上に、初めて男の腕に抱かれて、あまつさえ股間を晒すという恥辱に塗れ、顔をまた真っ赤にして目に涙を溜め口を固く結び唸り声を上げる事しか出来なかった。

 

「桐琴め…………余計な事をしおって………」

 

 久遠の呟きが祉狼の嫁達全員の代弁をしていた。

 その桐琴は次に誰が出てくるかとニヤニヤしながら、また仁王立ちをしている。

 

「粉雪っ!そんなんで赤備え隊隊長とは情けないの((ら|・))っ!」

 

 現れたのは粉雪よりもずっと小さく、小夜叉よりも更に小さい鎧兜姿の幼女。

 何しろ腰に佩いた刀は地面を引きずっている。

 正確には鞘の先端に小さな滑車が付けられていて、地に着けて歩く事を前提とした作りになっていた。

 

「…………なんじゃ、お前は?」

「兎々は高坂弾正昌信なのらっ!森三左衛門可成!いざ尋常に勝負なのらっ!!」

「…………………………………」

 

 桐琴に臆する事無く、胸を張って対峙する兎々。

 その姿は勇ましいと言うより、誰が見ても可愛いと評しただろう。

 

「おい、昴!」

 

 桐琴は完全にやる気を失った顔で昴に振り向いた。

 

「お前にやる。好きにせい。」

 

 そう呟く様に言って兎々に背中を向ける。

 

「待つのら!兎々に背を向けるということは負けを認めたのらな!」

「あー、あー、負けた負けた。」

 

 桐琴は兎々に背中を向けたまま手を振って久遠の所に下がって行く。

 

「ふふふ♪戦わずして敵に勝つ!これぞ兵法の極意なのら♪」

 

 言っている事は間違っていない。

 ある意味兎々の容姿は護身を体現しているのかも知れない。

 しかし、それは桐琴相手だから通じたのであって、次の対戦相手には通用しない。

 

「うふふふふふふふ♪はじめまして、兎々ちゃぁ〜ん♪」

「うわっ!びっくりしたのらっ!い、いつの間に現れたのらっ!?」

 

 昴が突然兎々の目の前、息が掛かるくらい近くに現れた。

 兎々だけでは無く、女性陣全員が昴の動きを捉えられなかったが、武田側の者以外は『昴だから』で納得していた。

 

「気にしない、気にしない♪私の名前は孟興子度♪通称は昴って言うのよ♪よろしくね、兎々ちゃん♪」

「兎々の通称を気安く呼ぶななのらっ!((孟興子度|もうこうしろ))っ!」

「え?投降しろ?」

「お前の名前を呼んらのらっ!もうこうしろっ!」

「投降したらどうされちゃうのかしら♪とっても興味が有るけど、そうもいかないのよ♪」

「兎々は投降しろなんて言ってないのらっ!もうこうしろって言ったのらっ!」

「投降は出来ないけど、お友達にはなりましょう♪兎々ちゃんにお土産も用意したのよ♪」

「らから通称を呼ぶな……………」

 

 昴は肩に掛けた麻袋からお土産を取り出すと、兎々の動きが止まった。

 

「兎々ちゃんはこれが大好きなのよねぇ〜♪も・も♪」

 

 昴が取り出したのは丸々と大きく、甘い香りを放つ完熟した桃だった。

 兎々の大好物が桃だという情報は飛び加藤こと栄子が教えた情報だ。

 

「な、なんれ冬も近いのに桃があるのら………」

 

 桃は夏の果物だ。

 現代では品種改良で晩秋に実をつける物も有るが、この時代では普通手に入らない。

 実はこの桃も栄子が堺まで走って買ってきた物だったりする。

 夏の果物とは言え、突然変異で晩秋に実をつける木も有るのだ。

 そんな桃の情報を手に入れ仕入れる堺の商人、恐るべき商魂である。

 

「難しい事は考えなくても良いのよ♪兎々ちゃんの目の前に今、桃が有るのよ♪今から剥いてあげるわねぇ♪」

 

 昴は下心丸出しの笑顔を浮かべて桃の皮を指で綺麗に剥いていく。

 果汁をたっぷりと含んだ実から放たれる芳香を嗅いだ兎々の目は桃に釘付けだ。

 小刀で一口サイズに切り、兎々の口に近づける。

 

「はい、兎々ちゃん♪あ〜〜ん♪」

「あ〜〜〜………って!らめなのら!兎々は誘惑になんか屈しないのらっ!!」

「兎々ちゃんと仲良くなるのがいけない事なの?ダメなら夕霧ちゃんと薫ちゃんがダメって言うわよ♪」

「れも………れも…………春日さまにもうこうしろには気を付けろって言われたのら…………」

 

 人間として実に正しい意見である。

 

「武田の御館様にも言われた?」

「お、御館様には言われてないのら………」

 

 この会話の間も昴は指で摘んだ桃の実をゆっくり左右に動かし、兎々がそれに合わせてフラフラと付いてくる姿を楽しんでいた。

 

「でしょう♪これから力を合わせて鬼退治をするんだから、仲良くなるのは良い事なのよ♪」

「そ、そう…………なのら?…………」

「ええ、そうよ♪はい♪」

 

 昴が兎々の口に桃の実を咥えさせた。

 

「あむ…………っーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 兎々は桃も美味しさに目を輝かせる。

 

「むぐ!むぐ!むぐ!むぐ!むぐ!………………………ごくっ!……………っはぁあああああぁぁぁ♪おいしいのらぁ〜〜〜〜〜♪……………」

 

 桃の味に陶酔しきった兎々はもうふにゃふにゃになっていた。

 

「ふふふ♪これで私達はもうお友達ね♪さあ、どんどん食べて♪あ〜〜〜ん♪」

「あ………あ〜〜ん♪」

 

 やっている事が栄子と美以の時とまるで変わっていない。

 完全に幼女誘拐犯の手口である。

 

「おお♪あの気難しい兎々とあっと言う間に仲良くなったでやがりますよ♪流石は夕霧が見込んだ方でやがります♪」

「え………え〜と………夕霧ちゃんはそう思うんだ…………」

 

 薫が少々引き吊った笑顔で冷や汗を掻いていた。

 桃を食べる兎々の姿は可愛いと思うが、何か釈然としない。

 そしてその理由が大手門の奥から現れた。

 

「馬鹿もんっ!!兎々っ!貴様は手合わせをして相手の実力を測るのが役目であろうがっ!!」

 

「ひっ!んぐっ!!」

 

 怒鳴られた兎々は驚いて桃を喉に詰まらせた。

 

「ああっ!兎々ちゃん!落ち着いてっ!」

 

 昴は慌てて兎々の背中を叩いて桃を吐き出させる。

 

「春日、そう目くじらを立てるなでやがる。兎々も言った通り戦わずして勝つのは戦の極意でやがるよ♪用意を周到にして行うは策でやがる。昴どのが一枚も二枚も上手だと実力が測れたでやがろう♪」

「典厩さま…………確かにそういう見方も有りますな………」

 

 現れたのは長いくせっ毛をポニーテールに纏めた長身で筋肉も付いたガッシリとした女性だ。

 

「まあ、説教は後にして、挨拶をするでやがるよ、春日♪」

「おお、これはとんだご無礼を仕った。」

 

 春日は久遠達に向き直り頭を下げる。

 

「拙は武田家にて侍大将を務める、馬場美濃守信房。通称を春日と申します。」

 

「ほう♪貴様が『不死身の鬼美濃』か♪今からひとつ、鬼同士で死合おうではないか♪」

 

 桐琴の萎えていた心に再び炎が燃え上がった。

 

「はっはっは♪興味はござるが、それは後日にお願いするでござるよ♪公方さまを始め、御当主の方々をいつまでも大手門の前でお待たせしては、当家の恥でござるからな♪」

「はっ、食えねぇ奴じゃ………まあ良い。後日、必ず死合うて貰うぞ♪」

「その時は全力を以てお相手いたそう♪では、皆様。我らが御館様がお待ちでござる。」

 

 こうして、やっと躑躅ヶ崎館の中に入る事が出来たのだった。

 

 

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 夕霧と薫を始め武田の人間は全員報告が有ると言って居なくなり、客間に通された一行は最初身分に合わせて部屋割りをされていたのを話し合う事が有る為に襖を外して部屋を全て繋げてしまった。

 

「では先ず、狸狐、葵、悠季、白百合、桐琴。お前達に聖刀から話がある。これは全員に関わる事なので注視せよ。」

 

 久遠の言葉に聖刀が立ち上がり、思い思いの格好で座っている五人の妻の顔を見る。その後ろを他の者が囲むように座っていた。

 

「いやあ、薫ちゃんに素顔を見られちゃったよ♪」

 

『『『『えっ!?』』』』

 

 狸狐達だけではなく、初耳の者が声を合わせて我が耳を疑った。

 唯ひとり、桐琴だけは可笑しそうに笑っている。

 不安顔でオロオロする狸狐と葵を悠季と白百合が落ち着かせてから、詳しい状況が説明された。

 

「なんじゃ、つまらん。てっきり押し倒されて馬乗りで咥え込まれたのかと期待したではないか。」

「と、桐琴さん!あなたは聖刀さまが寝取られても良いと仰るんですかっ!?」

 

 拍子抜けした顔でとんでもない事を言う桐琴に葵が腹を立てて怒鳴った。

 

「あの小娘がそこまでしておればここでの話が簡単だったと言うだけじゃ、葵♪聖刀の国に行けば百人からの妻がおるんじゃ。今更ひとり増えた所で気にはせんだろ。」

「ちょ、ちょっと待って下さい!桐琴さんは薫さまが聖刀さまの妻となる事を前提に話していませんか!?」

「当たり前じゃ。聖刀の素顔を見るなど切っ掛けに過ぎん。興味を持って知れば知る程惹かれる相手なのはワシらが一番良く知っておる事だろうが。」

「そ、それは…………その通りですが………」

 

 葵には自分から聖刀を好きになったという自負がある。

 そして、桐琴の言う通りだと、それだけ聖刀が素晴らしい男性なのだという思いもある。

 ならば薫が自分と同じ位聖刀を好きになるのは時間の問題だと葵も気が付いてしまった。

 

「判りました。久遠お姉さまは我らに薫さまを受け入れる心構えをしておくようにと仰られるのですね。」

「うむ。武田大膳太夫がどの様な決断を下すかで変わってくるとは思うが………美空と沙綾はどう見る?」

「は?何で私に訊くのよ!」

「それは我ら越後が一番武田とやり合っていて、行動が読めるからじゃ、美空さま。」

 

 沙綾に呆れた様に言われて、美空は口を尖らせる。

 

「判ってるわよ、そんな事!私が言いたいのは心情の話よ!」

「そんな美空さまの心情を省いて冷静に考えると、晴信どのは薫どのを聖刀さまの嫁に出すでしょう」

「ほう、意外だな。我はてっきり聖刀から遠ざけると言うかと思ったぞ。」

「久遠さまがそう思われたのは武田家の結束の強さからじゃろう。聖刀さまがいずれは天の国に返られる。その時に薫どのが連れて行かれるのは困ると。」

「うむ、その通りだ。」

「じゃが………これは聖刀さまを必ずお国に返すと約束された久遠さまには申し訳ないのじゃが、聖刀さまをお国に返す手段がまだ見つかっておりませぬ。ザビエルの張った結界が最大の障害じゃと聞き及んでおりますが、ザビエルを討ち果たしたとして本当に結界は消えるのか。消えたとしても外史を越える術を見つけ出せるのか。見つけるにしてもどれだけ時間がかかるのか。以上を踏まえた場合、武田は聖刀さま、祉狼さま、昴の三人と子を成しておけば天人の血を一番有する家となりましょう。」

「デアルカ。………武田は戦後の力関係までも視野に入れると………」

 

 沙綾の読みに久遠は真剣な顔で頷く。

 詩乃、雫、幽、悠季も同じ様に熟考し始めた。

 

「まあ、これは後付けの言い訳みたいな物じゃがな♪晴信どのが初めから夕霧どのを昴の嫁、薫どのを聖刀さまの嫁にしようなどと考えていたとは思えんしの♪」

「それもそうだな。では結局、大膳太夫は妹の恋心を優先すると言う事か♪」

「いかにも♪」

 

 難しい話が理解出来なかった熊と雪菜だが、久遠の言った結論は良く判り笑顔をみせた。

 しかし、美空は面白く無さそうに口をへの字に曲げている。

 

「あの自己中で秘密主義のくせして余所の情報をコソコソ嗅ぎ回る性悪女にそんな優しさ有るとは思えないけどね!」

 

 などと憎まれ口まで言い出したので沙綾はニヤリと笑って祉狼に振り向く。

 

「祉狼さま、美空さまはこんな事を言っておりますが、天の国で言う所の『つんでれ』というヤツですのでご容赦下され。」

「ああ♪判っ「はあっ!?何言ってんのっ!?」」

「まあ、祉狼さまがこれから美空さまを調きょ…躾けて下さればこの老いぼれも安心して楽隠居が出来るのですが♪」

「沙綾っ!今何て言おうとしたのよっ!」

「そうだな………必要だと感じたらその都度注意しよう。で、話の途中で悪いが、厠に行ってもいいか?」

「ははは♪誰も祉狼さまを留める者などおりませぬよ♪」

 

 祉狼が立ち上がると小波も護衛の為に付いて行く。

 二人を見送ってから聖刀が沙綾と美空へ申し訳無さそうに笑った。。

 

「ごめんね、話を中断させちゃって。祉狼は翠母さんの言い付けを素直に守っててね♪」

「その真名は錦馬超様でしたな。」

「どの様な言い付けなの?」

 

「『厠に行きたくなったら恥ずかしがらず、直ぐにハッキリと言う事』っててね♪」

 

「………そ、そう……」

「………が、我慢は体に良くないからのぉ……」

 

 美空と沙綾は翠に何が有ったか想像が着いたが、言葉を濁してこの場はやり過ごす事にした。

 

 

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 さて、厠に向かった祉狼と小波は庭に面した長い縁側の廊下を歩いて行く。

 

「済まないな、小波。いつも付き合わせてしまって。」

「いえ、厠は人が無防備になる場所ですので、寝床の次に暗殺を警戒すべき場所です。お気になさらないで下さい。」

 

 武田が暗殺を企てているとは殆ど思っていない。

 小波は北条の風魔とザビエルを警戒しているのだ。

 

(特にあのザビエルという男は普通にご主人様の厠を覗きに来そうな顔をしていた!)

 

「ん?どうした?怖い顔をして。」

「えっ!?あ、な、何でも有りませ…………」

 

 その時、庭の木の陰に人の気配を感じた。

 瞬時に祉狼を庇い、気配の相手を見定める。

 

「薫さま……いえ………………武田大膳太夫様。何故この様な場所に?」

 

 木の陰に居たのは武田大膳太夫光璃晴信だった。

 小波は面識が有る訳では無いが、『武田晴信の妹は影武者を務める事が有る』という情報を手に入れていたので、薫に似ているこの少女を光璃だと判断したのだ。

 

「………光璃じゃないよ………薫だよ………」

 

 木の陰に立つ光璃は覗き込む様に顔を半分だけ出してポソリと否定する。

 本人は薫の真似をしているつもりなのだが、演技力が決定的に不足していた。

 それに対して祉狼が苦笑して応える。

 

「いや、確かに顔は似ているが、骨格や肉付きが違い過ぎるよ♪」

 

 光璃は目を大きく開いて驚いた顔をする。

 

「もうばれた………流石、三河の服部正成………それに華?伯元………噂通りの名医。」

「お、恐れ入ります………」

「薬師如来とか言われるよりは良いが、名医とまで言われるのは面映ゆいな………あ、俺の事は通称の祉狼と呼んでくれ♪」

 

 そう言われた光璃は、突然顔を赤くして熱の籠もった目で祉狼を見つめてきた。

 

「良いの?」

「ああ♪別に構わないよ♪」

「それじゃあ……」

 

 ゆっくりと木の陰から出て来た光璃は丁寧に頭を下げ、改めて祉狼の前に立つ。

 

「私の名前は武田太郎晴信。謹んで真名をお預かりいたします。そして我が真名、光璃を祉狼にお預け致します。」

 

 小波は光璃の様な挨拶を初めて聞いたので不思議に思ったが、祉狼は驚きの表情で光璃を見つめ返した。

 

「それは………もしかして………」

「漢王朝の頃の礼法。…………間違えてない?」

 

 小首を傾げる光璃に、祉狼は真面目な顔で問い掛ける。

 

「その意味も判っているのか?」

「うん…………光璃はその覚悟で言った。」

「そうか…………判った。先に真名を呼ぶ様に言ったのは俺だ。責任は取る。」

「うん♪これからよろしくお願いします。祉狼♪」

 

「ご、ご主人様!?い、今の会話はどういう意味なのですか!?」

 

 小波は自分が何かとんでもない見逃しをしたと勘で理解して慌てた。

 

「小波。俺の居た国で真名は、家族か絶対の信頼を寄せる相手にしか呼ばせないんだ。特に異性へ真名を預けるのは恋人になる事を意味する。そして今、光璃が言ったのは夫婦の誓いの言葉だ。聖刀兄さんが何度もしていたのでよく覚えている。」

「ええっ!?お、おおお、お待ち下さいっ!!私が通称をお教えした時はっ!い、いえっ!そ、そうでは無く!ご主人様は日の本でこれまで多くの方に通称を教えていたでは有りませんかっ!!」

「それは結菜に言われて日の本の常識に合わせたからだ。俺もみんなが気安く接してくれる様になるのでこの通称というのが気に入っている。しかし、久遠と結菜は俺がまだ通称を受け入れていない時に真名を預かって良人となる決断をした。そんな俺が光璃の決意を聞いた以上は無かった事にしてくれとは絶対に言えない!」

 

 小波は祉狼の目を見て、これは絶対に己の意思を曲げない頑固になった時の目だと気付き、泣く泣く句伝無量で助けを求めたのだった。

 

 

-5ページ-

 

 

「やってくれたわね…………光璃っ!!」

「光璃は祉狼に覚悟を示しただけ。連合内の立場目当てで祉狼に近付いた美空よりマシ。」

「なっ!……………こ、この………」

 

 祉狼が厠から戻る時、光璃も一緒に付いて来た。

 そして障子を開けた途端にこの遣り取りである。

 

「まあ、待て。美空よ。光璃に挨拶くらいさせるがよい。」

 

 一葉が美空の外套の襟首を掴んで仔猫の様に引っ張り上げて光璃から引き離した。

 

「一葉さま、お久しぶり。」

「うむ、久方ぶりじゃの、光璃♪」

 

 軽い挨拶だが一葉はむしろその方が嬉しいようだ。

 続いて光璃は久遠の前に正対する。

 

「甲斐、信濃国主、武田太郎光璃晴信。」

「尾張、美濃国主、織田三郎久遠信長だ。」

「江南から京、越前、加賀、越中、能登、越後の戦い、お見事。久遠。」

「そちらも駿河の抑え、苦労。光璃。」

 

 二人はそれだけを語った後、暫く無言で相手の目を鋭い視線で見つめ合っていた。

 張り詰めた糸の様な緊張感に誰もが息を飲んだ。

 

「くくく♪」

「ふふふ♪」

 

 しかし、二人が同時に笑いだした事で緊張感は霧散する。

 

「かなり遠回りな道行で在ったが、最短距離で在った様だな♪」

「光璃もそう思う♪」

 

 美濃と信濃が隣接した地でありながら今まで禄に書状の遣り取りもしていなかったが、これまでの鬼との戦いを経る事で互いに顔を会わせただけで認め合う事が出来たのだと、久遠と光璃は言っているのだ。

 

「祉狼の事は我と結菜の事を手本としたな♪」

「色々考えたけど、あれが一番光璃の気持ちを祉狼に伝えられると思った。」

「デアルカ。我も結菜をあれでだまし討ちしたからな。何も言えん♪」

「でも…………」

 

 光璃が少し困った顔になる。

 

「薫の事は計算外………」

「そうであろうな……………ふむ、夕霧の事は計算の内という事か?」

「うん。一二三なら何も言わなくてもそうすると思ってた。」

 

 光璃は昴に顔だけを向ける。

 

「孟興子度。夕霧を任せる。」

「はい♪必ずや夕霧ちゃんを幸せにしてみせますっ♪あ、私の事は通称の昴で呼んでください♪」

 

「昴ちゃん!通称呼ばせたらあかんのやろっ!」

 

 熊が慌てて立ち上がるが、昴は落ち着いていた。

 

「大丈夫よ、熊ちゃん♪光璃さまだって日の本式で受け取って下さるし、私達の習いに合わせても光璃さまは私の義姉上って意味で家族になりますってなるから♪」

「そうなんか………ごっつ焦ったわ♪」

 

 光璃は少し考えてから微笑みを浮かべる。

 

「それなら光璃は三好義継と………鞠のお姉ちゃん♪」

 

 そう言って鞠に振り向いた。

 

「光璃ちゃん………♪」

「久しぶり、鞠♪」

 

 二人は互いに微笑み合う。

 しかし、直ぐに光璃が顔を曇らせ頭を下げた。

 

「ごめんなさい…………お母さんが迷惑かけて………」

「ううん、それは光璃ちゃんが謝る事じゃないの。鞠が弱かったから信虎おばさんに負けちゃったの。」

「…………でも、直ぐに光璃を頼って欲しかった。」

「それは………」

 

 鞠が光璃を頼らなかったのは朝比奈泰能が光璃を信用出来ないと言って昴と久遠を頼る様に進言したからだ。

 

「あの時駿府から甲斐に向かう道は信虎おばさんも警戒してたと思うの。三河や尾張はあの時ならあり得ないって警戒が薄かったから…………でも、そのお陰で昴に会えたし、こうして光璃ちゃんとも義姉妹にもなれたの♪」

 

 泰能を悪く思われたくなかった鞠は名前を出さず説明した。

 

「うん♪これも運命だったと思う。駿府を取り戻すのに光璃は全面的に協力するから、今日からは頼って。」

「うんなの♪光璃お姉ちゃん♪」

 

 鞠の満面の笑顔に、光璃は抱き締める事で応えた。

 

「光璃、駿府の事は後で詳しく聞くが、薫はどうするのだ?」

「薫とはさっき話し合って………」

 

 鞠を抱き締めていた光璃が、今度は聖刀を見て頭を下げる。

 

「北郷聖刀殿。薫の事をお願いします。」

 

 聖刀も真面目な顔で光璃に頭を下げた。

 

「約束するよ。薫ちゃんは絶対に幸せにする。」

 

 そして顔を上げるといつもの笑顔でこう言った。

 

「光璃ちゃんも祉狼の事を愛してあげてね♪」

「うん。祉狼は想像してたのよりずっと可愛いかった♪一目で好きになった♪」

 

 これを聞いて詩乃は光璃がどれだけ事前に情報を集めていたのか気になった。

 

「あの、光璃さまは祉狼さまの事を何時からお知りになり、どれ位の情報をお持ちなのか。宜しければお教え願えないでしょうか?」

 

 普通ならば絶対に訊けない事だが、ここは祉狼の妻のひとりである事を楯にするつもりだった。

 そして詩乃の意図を察した美空が援護攻撃とばかりに、再び光璃に食って掛かる。

 

「どうせあんたの事だから、歩き巫女だけじゃ無く使える草は全て使って祉狼の事を調べさせたんでしょうね。この粘着質女!」

「別に祉狼の事だけじゃない。天人衆については三人とも情報を集めた。最初に聞こえて来たのは田楽狭間で義元公が久遠に敗れたのは、天人衆が現れ味方をしたからだという噂。光璃はその真偽を確認する為に三ツ者と歩き巫女で調べさせた。判ったのは天人衆が現れたのは義元公が討たれた後であって、あの戦は久遠が雨を好機と捉えて奇襲を成功させた戦略眼の勝利だと判明した。にも関わらず、久遠はその日の内に祉狼を良人に迎えている。噂に信憑性を持たせる為の戦略かと思ったら、祉狼が失われた秘術、((五斗米道|ゴットヴェイドー))の使い手で、民の為に無償で治療をしていると聞いた。その時から光璃は祉狼の事が気になり始めた。」

 

 ここまで一気に詩乃に向かって語り、美空を完全に無視していた。

 

「貂蝉と卑弥呼は同じ日に清洲へ現れていたと後になって判ったけど、その情報が入って直ぐに墨俣の築城と佐久間信盛の命を祉狼が救った事。詩乃を救って狸狐を改心させた事。祉狼と貂蝉と卑弥呼の三人だけで稲葉山城を落とした事が矢継ぎ早に知らされて、光璃は凄くワクワクして天人衆が、特に祉狼が次に何をするのか楽しみなっていた。でも、次にやって来た情報は祉狼が一度に六人も側室を迎えた事だった。驚いてその理由を詳しく調べさせたら、久遠が祉狼を日の本に留まらせる為に取った策だと判って納得した。あの時の光璃は嫉妬してたんだって今なら判る。そして光璃も久遠の策に加わりたいって、祉狼のお嫁さんになりたいって、あの時から考え始めていた。」

 

 正対していた詩乃は勿論、他の者達も驚きに目を剥く。

 光璃は織田の者以外で最初に妻となったエーリカよりも先に祉狼の妻になる事を考え、想い続けて来た事になるからだ。

 

「では………その時に、せめて織田家との同盟を結ばれてもよろしかったのでは………」

「あの時はまだ久遠の力と鬼に対する考えが判らなかった。松平が今川から独立した時期でもあり、下手に動けば武田が駿府に攻め込む準備を始めたと取られる懸念も有った。」

「それは………確かに………」

「久遠が僅かな人数で堺、京、江北に旅をしている間も三ツ者には祉狼の護衛をさせていた。」

 

「えっ!?そうだったのか!?」

 

 これには祉狼まで驚いた。

 そんな気配はまるで感じていなかったので、三ツ者の技量の高さを初めて認識する。

 

「その時に祉狼が鬼を人に戻したと聞いて………光璃は嬉しくて泣いたんだよ、祉狼♪光璃の勘は正しかった。祉狼に早く会いたいって思ったんだよ♪」

「そのお気持ち!判りますっ!」

 

 大きな声で割り込んだのはエーリカだ。

 

「私もあの時はメィストリァとの出会いを神に感謝し、涙が止まりませんでした♪」

 

 十字を切り祈りを捧げるエーリカに、光璃は微笑み掛ける。

 

「でも、その頃からザビエルの活動が活発化してきた。駿府でお母さんにザビエルが接触したのもその頃。気が付いたのはずっと後になってからだったけど…………長久手での出来事は驚きの連続だった。昴が鞠を受け入れ保護したと知った時はなんて度量のある人だと感心した。義元公を直接討った服部小平太と毛利新介を妻にしながら鞠を保護し、確執を持たせず仲良くさせている。光璃にはとても出来ない。」

 

 確かに光璃の言う通りでは有るが、鞠と熊以外の女性陣は複雑な顔を見せていた。

 

「長久手でも祉狼は鬼を人に戻して見せた………桐琴が力丸と名付けた赤ちゃん…………人修羅だと思っていた桐琴の意外な一面。光璃はひとりの武人として桐琴を尊敬する。」

「はっ!よせよせ!あんなのは唯の気まぐれじゃ!」

 

 桐琴は吐き捨てる様に言うが、顔が赤くなっているのを全員が見逃しはしなかった。

 

「そして、葵の行動。」

 

 名を言われて、葵は光璃の瞳を真っ直ぐに捉える。

 

「光璃は最初、走狗を煮るのかと不信に思った。でも、それは今を見れば光璃が見誤っていたと良く判る。家臣の恋心を見抜き、即断するその度量。光璃も見習う。」

「そんな…………ありがとうございます、光璃様……………もしや、薫様を聖刀さまの嫁になる事を許されたのも?」

「うん♪見習った♪」

 

 葵はこんな形で己の決断が恋敵を増やす事になったと知り、とても複雑な気持ちになった。

 

「だけど、判らない事がひとつある。三河はどうする?」

「跡継ぎは妹の康元に決めてあります。久遠姉さまが後見人となって下さると約束を頂きました。」

「そう♪ならば光璃も松平康元を妹として支える事を約束する。薫の事をお願い♪」

「はい♪薫様………いえ、薫さんを葵の妹と思い仲良くさせて頂きます♪」

 

 二人は愛する妹を互いに預け合う事で深い絆が生まれた。

 

「久遠の上洛から、武田ですら掴みきれなかった越前の状況を、見事に打ち破って越後まで取り返した連合軍の力。これで武田家中は連合への参加で纏める事が出来た。特に祉狼が眞琴を鬼になる前に救け、朝倉義景を救い出し、何人もの鬼を人に戻し命を救った事で、光璃が祉狼のお嫁さんになる事も家中の主立った者に認めさせる事が出来た♪」

 

 ここでやっと光璃は美空を見て『どうだ』と胸を張る。

 

「川中島で何度も戦っている最中にそこまでしてたなんて………感心を通り越して呆れたわよ!」

「美空が戦を仕掛けてこなければ、春日山城を鬼に乗っ取られなかったし、光璃はもっと早く祉狼に会えてた。」

「しょうがないでしょ!私は関東管領なのよ!村上に泣き付かれたら出ない訳には行かないのよ!」

「あれが既にザビエルの罠だった。」

「それはっ…………私にだって今ならそれは判るけど…………って!考えてみたら私はザビエルの策にはまって無かったら祉狼に会えてなかったじゃない!」

「…………まさか、祉狼に会う為に越後を危険な目に………」

「そんな訳有る筈無いでしょっ!!」

 

 ジト目の光璃とカマボコ目で怒る美空に一葉が仲裁へ入った。

 

「いい加減にせんか!先に甲斐、駿河の問題を片付けたとしても、鬼が跳梁跋扈しておれば美空にも連合への参加は呼びかけたであろう!光璃も、美空は鬼の事を噂程度にしか知らなかったのじゃ。許してやれ。」

「…………引きこもり。」

「なんですって!私は幕臣として領地を守る事に専念していて領土拡大なんて考えてないだけよっ!!」

 

「やめぇええええええええええええええいっ!!これから駿河を取り戻すと言うのに!こんな所で仲違いをしている場合かっ!!」

 

 一葉の剣幕に美空と光璃は流石に大人しくなった。

 そんな三人に祉狼が笑って声を掛ける。

 

「二人を止めてくれてありがとう、一葉♪そして美空、光璃。過去の経緯が有るのは判るが、俺の奥さんと言ってくれるなら仲良くなる努力をしてくれ♪」

「し、祉狼がそう言うなら………」

「努力する。」

 

 一葉は祉狼に褒められホクホク顔で浮かれ、美空と光璃は祉狼に嫌われないかと内心冷や汗雨を掻いていた。

 

 

「駿河の話が出たから言わせて貰うが、信虎さんは俺に任せて貰えないだろうか?」

 

 

 祉狼の言葉に光璃は絶句し、久遠達の殆どが『またか』と頭を抱えた。

 

「光璃。信虎さんは俺、聖刀兄さん、昴の三人の義母となる人だ。出来れば死んでは欲しくない。それに、話を聞く限り正気に戻ったらザビエルに騙された事への復讐に燃えるんじゃないか?」

 

 祉狼は春日山城の時ただ黙って看取るしか出来なかったが、信虎の性格を聞いて治療がしたいと思ったのだ。

 

「祉狼………光璃達がお母さんを追い出した話をどこまで知ってる?」

「詳しくは知らない。教えてくれ。」

 

 祉狼が真剣な顔で言うので、光璃も居住まいを正して語り出す。

 

「お母さんは昔から戦に明け暮れた人だった。甲斐の統一を成し遂げ信濃に侵攻し始めた頃には、お母さんはまるで戦に取り憑かれているみたいだった。例えば、本来農民である足軽が駆り出されれば、田畑を耕す事が出来ず不作になると訴えても、農民の為に肥えた信濃の土地を手に入れる為に戦をするのだって言って聞き入れず、怒り出すといった具合。このままでは武田が滅びると思った光璃は同盟者である義元公に、お母さんを強制的に隠居させるから受け入れて欲しいってお願いした。こんな事になるなら、親子の情を断ち切って光璃がこの手で引導を渡しておけば良かった………」

 

 祉狼は少し考えてから、光璃に問い掛ける。

 

「信虎さんは昔からそんな屁理屈を言って怒り出す人だったのか?」

「お母さんに仕えた家臣は口々に『昔はこんな人ではなかった』って言って嘆いてた。」

「ふむ、だとするとそれは脳が病魔に冒されている可能性が有るな。」

「それは気が狂れて…………もしかして六角承禎と同じ?」

 

 四鶴に巣食った病魔を倒し、正気に戻した祉狼である。

 信虎が似た様な状態になっている可能性が有ると予想もしていた。

 

「同じかどうかは直接会って、病魔を診なければはっきりとは言えないが、可能性は高いな。」

 

 祉狼は次に鞠の目を見る。

 

「鞠。もし、信虎さんが正気に戻り、己の愚行を恥じて心底謝ったとしたら許せるか?」

「祉狼お兄ちゃん。あの頃の鞠は家臣の信頼を殆ど失ってたの。たまたまそこに信虎おばさんが居たから、信虎おばさんが乗っ取ったけど、信虎おばさんが居なくてもきっと他の誰かが同じ事をしてたと思うの。お母さんは久遠より弱かったから負けた。鞠も弱かったから信虎おばさんに負けた。今度の戦では負ける気は無いけど、祉狼お兄ちゃんが助命するなら、鞠は信虎おばさんの命までは取らないの。」

 

 鞠の言葉で今回の駿河攻めの基本方針が決定した。

 今回の総大将は鞠であり、駿府屋形を取り戻すのが目的なのだから。

 

「ありがとう!鞠♪と言う訳で、久遠!今回は誰が何と言おうと信虎さんを救い出すぞっ!!」

 

 久遠は初め呆れた顔をしていたが、

 

「ぷっ…………くくくっ♪………はぁあーーーっはっはっはっはっはっ♪」

 

 大声出笑いだした。

 

「まったく♪今まで悩んだり落ち込んだりとしておきながら、結局我と出会った頃に戻ったではないか♪」

「え?そ、そうか?」

「良い♪それでこそ我が良人と見込んだ男である♪我らは全力で良人の願いを叶えようではないか♪良いな、皆の者♪」

「余は最初から主様の意向に添うつもりであったぞ♪」

「よく言うわよ。まあ、私も祉狼を支える為なら力を惜しむ気は無いけど♪」

「光璃も祉狼に従う。妻として当然の事!」

「祉狼兄さま!その熱い想いに浅井衆は全力を以て応えますっ!」

 

 主要な当主達は揃って我こそはと奮い立つ。

 

「がぁあっはっはっはっはっはっ♪良く言ったっ!祉狼っ♪長久手の頃よりも言葉に重みが増しておる♪のう、聖刀♪」

「そうだね♪祉狼、本当の敵はザビエルだ。どこかで絶対に狙っているから気を付けるんだよ。」

「ああっ!忠告ありがとうっ!聖刀兄さんっ♪」

 

 盛り上がる祉狼達とは反対に、軍師達は頭を抱えて溜息を吐いていた。

 

「いやはや、季節外れの牡丹が咲き狂っておりますなぁ………」

「躑躅ヶ崎の館に牡丹が咲き………ですか……………全く笑えません…………」

 

 幽の皮肉に詩乃が便乗しても、まるで心が晴れる事は無かった。

 

「さあ!話は決まった!これより大評定を開き、皆に申し伝えるぞっ!!」

 

 久遠の号令に小波が頷き、句伝無量でその旨を伝える。

 

 その陰で光璃は貂蝉と卑弥呼に話し掛けていた。

 

 

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「御旗、盾無も御照覧あれ。本日、この時より、武田太郎光璃晴信は華?伯元祉狼の妻となる事を誓う。」

 

「華?伯元祉狼は武田太郎光璃晴信を妻とする事を、((五斗米道|ゴットヴェイドー))始祖、神農大帝に誓う!」

 

 光璃と祉狼の声が躑躅ヶ崎館の評定の間の隅々まで届く。

 評定の間には武田の家臣団と連合の主だった者全てが埋め尽くしていた。

 武田の家臣団には大評定の最初に駿府の状況が初めて知らされた。

 南から鬼がやって来るのである程度は予測していたが、それが信虎の仕業である事を知って大きなどよめきが起こった。

 光璃が鞠への謝罪として武田が総力を上げて駿府奪還に力を貸すと宣言すると武田家臣団から力強い賛同の声が上がり、躑躅ヶ崎館をビリビリと震わせた。

 続いて光璃は祉狼との婚姻を告げると、こちらは喜びの声で迎えられた。

 光璃が予め春日達に話していたのと、祉狼の功績を噂として甲斐に広めていた事がここで実を結んだ。

 

「ここで更に伝える事がある。」

 

 上段に座る光璃は、隣に祉狼、周囲に久遠、一葉、美空と並び評定の間を見渡す。

 

「貂蝉、卑弥呼、この度のザビエルが起こしている鬼の一件。ザビエルの正体とその真の目的を今一度皆に語って欲しい。」

「了解よぉ?ん、光璃ちゃ?ん♪」

「うむ、任されよう。」

 

 貂蝉と卑弥呼が立ち上がると、見慣れていない武田衆からどよめきが起こる。

 しかし、今度のどよめきには黒王と風雲再起の影響も有り、賞賛の声が多かった。

 

「ザビエルちゃんがポルトガルの宣教師っていうのはカリの姿でぇ、その正体は地獄から来た悪魔って言ったら理解しやすいかしらぁ。」

「奴はポルトガルで鬼を作り出す実験を行ったが、エーリカ達法王庁に追われて日の本に実験場を移したのだ。」

 

 ここまではエーリカがザビエルに操られていたのを解放し、管理者の記憶を封印した為に辻褄を合わせる言い訳だ。

 ここからが伝えるべき真実である。

 

「ザビエルの目的はこの地を全て鬼で埋め尽くし、三千世界に鬼を送り出してあらゆる世界を破壊する事に有る。」

 

 余りのスケールの大きさに人で埋め尽くされた評定の間が静まり返る。

 誰もが知る足利家御家流『三千世界』をキーワードにした事で理解は早かった。

 

「だけどぉ、ザビエルちゃんの計画はまだ初歩の初歩ぉ。この日の本でザビエルちゃんを倒してしまえばいいのよぉ?ん♪」

「その為に吉祥が祉狼ちゃん、聖刀ちゃん、昴ちゃんをこの日の本に送り込み、私と貂蝉が三人の補佐としてやって参ったのだ。」

「なんだけどぉ?、吉祥ちゃんったら何にも教えてくれないまんま、祉狼ちゃん達とわたし達を日の本によこしたのよねぇ?。」

「まったく!悪ふざけにも程が有るわっ!」

 

 二人が愚痴を言い始めたので、神様も自分達と変わらないんだなと誰もが可笑しくなり、クスクスと笑い声まであちこちから聞こえて来た。

 

「もうひとつ!ザビエルはとんでもない目的を持っておるのだっ!」

「こともあろうに祉狼ちゃんを狙ってるのよぉおおおおおおおおっ!!」

 

 これに春日が問い掛ける。

 

「それは良人殿が鬼を人に戻せる方だから当然では?」

 

「彼奴は祉狼ちゃんを稚児として侍らすつもりなのだっ!!」

「しょんな羨まけしからんことっ!絶対に許さないわよぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 これについても初耳だった武田衆は、たった今主君と夫婦の誓いをした少年を奪われてなるものかと奮い立ち、卑弥呼と貂蝉の雄叫びと合わせても声を上げるのだった。

 

 

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 大評定が終わり、大休止明けは三日後と決められ各々の部隊の元へと一度戻って行く。

 その中で光璃は武田四天王の最後のひとりを祉狼達に紹介していた。

 

「私は内藤心昌秀。どうか心と気軽にお呼び下さい、祉狼さま♪」

 

「ああ♪これからよろしく、心♪」

「心は戦で頼れる上にごはんも美味しい。躑躅ヶ崎館の台所は心の城♪」

「ふふふ♪お腹がすいたらいつでも言って下さい♪直ぐにご用意いたしますから♪」

「ありがとう♪その時は是非頼むよ♪」

 

 心にそう返事をして直ぐに聖刀へ振り返る。

 

「聖刀兄さん、心にも料理研究会へ入って貰うのか?」

「甲斐の郷土料理の『ほうとう』ってどんな物なのか是非教えて貰いたいな♪」

 

 心は聖刀を見て『料理の達人である』という歩き巫女の報告が有ったのを思い出した。

 

「あの………出過ぎた申し出を………」

「?…それは心が料理を作ってくれるって言った事か?俺は心の料理が本当に楽しみなんだが………」

 

 祉狼が本気で言っているのは顔を見れば判るが、大陸の宮廷料理と田舎料理を比べられてはガッカリさせてしまうと怖じ気付いた。

 そんな心の気持ちを読み取った聖刀は、どう言ったら心が祉狼の嫁になる方向に持って行けるか考える。

 

「夜の宴に出す料理も心ちゃんが作るのかな?」

「え!?は、はい!量が量ですからひとりでは無いですけど………お口に合うか………」

 

 最後の呟きは聞こえなかった振りをして、聖刀は少し離れた場所で控えている結菜に声を掛ける。

 

「それじゃあ結菜ちゃん♪僕ら料理研究会も手伝わせて貰おう♪武田衆が連合に加わってくれたお礼をしなくちゃ♪」

 

 結菜も聖刀の意図を読み、内心また愛妾の名簿に名前が増えるのかと嘆息しながらも、話を合わせた。

 

「そうね♪研究の成果をここで活かさなきゃ♪良いかしら、心さん♪」

「そ、それは構いませんが………わ、私の事は呼び捨てにしてください。結菜さま!」

「ありがとう、心♪さて、それじゃあ………」

 

 結菜は集まっている中から二人選び出す。

 

「ころ、エーリカ。手伝ってもらえる?」

「はい♪結菜さま♪」

「はい♪私はポルトゥス・カレのお料理を一品ご用意すれば宜しいのですね♪」

 

 西洋の料理まで加わったので、心は今夜の料理は失敗出来ないとますます緊張していく。

 

「でも、その前に軽く何か食べた方がいいかな♪祉狼もお腹が空いただろ♪」

「え?俺は別に…」

 

 祉狼が否定仕掛けた所で小波の句伝無量が聞こえた。

 

〈ご主人さま、心さまは聖刀さまのお料理の腕に萎縮されております。ご主人さまが心さまのお料理をお褒めになれば気鬱も晴れるかと。〉

〈判った!気持ちが鬱げば病魔が寄ってくるからな♪〉

 

「心♪腹が空いたから、早速何か作ってくれるか♪」

 

 心は祉狼が突然態度を変えた事に驚き、更に直ぐ出来る物では本当に質素になってしまうと頭を悩ませる。

 その時、評定の間の外から大きな声が聞こえて来た。

 

「ここぉーーーーっ!腹が減って死にそうなんだぜっ!」

 

「こなちゃん!?」

 

 評定の間に飛び込んで来た粉雪は、まだ多くの連合軍の武将が残っていて驚き、その中に祉狼の顔を見付けて真っ赤になる

 

「丁度良かった♪俺も今から心にご飯を作って貰う所だったんだ♪粉雪も一緒に食べよう♪」

 

 そう言われても粉雪は口をパクパクさせるだけで返事が出来ない。

 パンツはちゃんと履き直しているが、スカートの裾を無意識に押さえてオロオロするばかりだ。

 

「光璃も食べたいからみんなで行こう。」

「お、お館様っ!?」

 

 この時、粉雪は祉狼の横に光璃が居る事に初めて気付く程、祉狼しか見えていなかった。

 その光璃が祉狼の手を取ってスタスタと評定の間を出て行ってしまう。

 粉雪と心も慌てて光璃の後を追い、その更に後ろを聖刀と貂蝉と卑弥呼、祉狼の正室と側室全員と愛妾数人がゆっくりとついて行った。

 

 

 

「光璃は湯漬けがいい。」

 

 光璃が台所の横に在る板の間にちょこんと座り、祉狼もその隣に胡座を掻いた。

 その後ろには久遠、一葉、美空が並んで心に注目している。

 心が作る食事が気になる訳では無く、心本人の事を気にしているのだ。

 

「(小柄だが良い肉付きをしておるの。)」

「(うむ、今までの祉狼の嫁になった者には居なかったな。犬子が成長したらあんな感じか。)」

「(川中島で見た時は地味だと思ったけど、こうして見ると凄く女っぽいわね………戦の時よりも強敵に見えるわ………)」

「(ああいう尻を安産型と言うのであろうな………余ももう少し肉を付けた方が良いかのぉ……)」

「(一葉の尻は充分でかいだろう。)」

「(それ以上大きくなったら祉狼が潰れるわよ!)」

 

 そんな正室達の会話は心の耳には届いて居なかった。

 

「あ、あの………古米に粟や稗を混ぜて炊いた物になりますが………」

「余は気にせぬぞ。油代にも苦労しておったのじゃ、食べ慣れておるわ♪」

「我も以前はそれが当たり前だったから気にせん。」

「禅寺育ちを舐めないでよ♪古米の湯漬けどころか古米すらほとんど入ってない粥で育ったんだからね♪」

 

 実にハングリーな当主達である。

 

「そ、それでは………」

 

 心がお櫃からご飯をよそった茶碗を配って行く。しかし、米を見て匂いを嗅いだ久遠達は訝しんだ。

 

「米を古いと言ったが、昨年の物か?」

「匂いはもっと新しく感じるが、色はもっと古く見える………不思議じゃ……」

「炊き方に工夫をしていますので…………あ!漬け物と梅干し、それにお味噌汁も有りますのでお召し上り下さい!」

 

 心が慌てて用意をしようと振り返ると、結菜達が小皿に漬け物と梅干しを、汁椀に温め直した味噌汁をよそっていた。

 

「ごめんなさい、勝手に。でも、ひとりでは大変でしょう♪」

「い、いえ!ありがとうございます!こちらこそお客様にお手間を取らせてしまって………」

 

 そんな遣り取りを笑顔で眺めていた祉狼と、祉狼を気にしてチラチラと横目で見ていた粉雪にも茶碗が渡される。

 粉雪の茶碗は丼と言った方が良い大きさで粉雪専用の物だ。

 久遠達を始め他の女の子達が自分のより小さく可愛らしいお茶碗を手にしているのを見て、何故か気恥ずかしくなってきた。

 

「はい、祉狼♪」

「ありがとう、結菜♪いただきます!」

 

 祉狼が受け取った茶碗を見た粉雪は驚いた顔をする。

 祉狼は粉雪と同じ大きさの茶碗を手にしていたのだ。

 

「うんっ!うまいっ♪」

 

 一口食べて笑顔で言った後は、モリモリとご飯を食べ始めた。

 

「あ、ありがとうございます♪」

 

 心も祉狼が本心で言っているのはその顔を見れば良く判った。

 粉雪は元気に食べる祉狼を、口を開けて眺めている。

 

「ん?どうした、粉雪?食べないのか?」

「え?…た、食べるぜ!食べるんだぜ!ここのご飯は最高なんだぜ!」

「うん♪噛み締める度に心の食べる人を想う気持ちが伝わって来る♪」

「お♪旦那も判ってるんだぜ♪ここのご飯はお腹だけじゃなく、気持ちまで温かくなるんだぜ♪」

 

 心を褒められて嬉しくなった粉雪は、それだけで祉狼に対する緊張が解けてしまった。

 

「はっはっは♪粉雪も良い食べっぷりじゃないか♪俺の伯母の呂奉先、張翼徳、許緒、それに錦馬超も健啖家で知られていてな♪粉雪もきっと肩を並べるくらい強くなれるぞ♪」

 

 粉雪は箸を止めて祉狼の食べる姿を再び呆然と眺めた。

 

「あたいが………あの錦馬超と………」

 

 呟いた粉雪はニカッと笑うとご飯をそれまで以上にモリモリと食べ始めた。

 そんな二人の食べる姿に、心もすっかり緊張が解けて嬉しそうに眺めている。

 

「「おかわりっ♪」」

 

 同時に出された茶碗を受け取り、心は笑顔でご飯をよそう。

 

「祉狼さまも元気な食べっぷりですね♪男の子はそれくらいの方が良いと思います♪」

「ははは♪最近は氣も体力も沢山使うからご飯の量が増えてな♪」

「たくさん食べてたくさん働くのはいい事だ…………ぜ………」

「そうですね♪たくさん食べて元気に……………」

 

 粉雪と心は周りに居る殆どが祉狼の嫁である事を思い出した。

 

「……氣と……体力を………たくさん使う仕事………なんだぜ………」

「……たくさん食べて元気に……なって…く、ください…………」

 

「おう♪」

 

 祉狼は二人が何を想像しているのかまるで気が付かず、元気に返事をする。

 そんな三人を光璃は微笑んで見守り、湯漬けを食べるのだった。

 

 

-8ページ-

 

 

 一方その頃、昴はスバル隊と共に宿営地の丘まで戻っていた。

 

「おい、昴……………何故此奴がここにおるのじゃ…………」

 

 正確には沙綾に怒られていた。

 地面に正座をした昴は、沙綾に怒りの目で見下ろされてハアハアしており、その隣には栄子が、やはり同じ様に正座をして、同じ様にハアハアしている。

 

「此奴が越後から追放された『飛び加藤』だと判っておるのかっ!!」

 

「ええ、判ってるわ、沙綾さん。でも、聞いて欲しいの!」

「あ゙あ゙っ!?」

 

「栄子は武田からも追放されたのよ!」

 

「だから何でそんな奴がここにおるんじゃっ!!」

 

 沙綾の蹴りが昴の顔面に突き刺さる。

 昴は勿論恍惚とした顔で受け止め、隣の栄子は羨ましそうにそれを見ていた。

 

「なあ、沙綾さん。栄子ってそんなに危険なのか?」

 

 不思議そうに訊くのは、手に串団子を持った和奏だ。

 

「犬子はとってもいい人だと思うなぁ♪」

「(コクコクコク!)」

「お姉ちゃんもそう思うって♪もちろん、雀もそう思うよっ♪」

 

 犬子、烏、雀も手に串団子を持っており、口の周りは餡子やみたらしのタレがたっぷりと付いている。

 

「………………あのな………」

「大丈夫!雛達は栄子さんを完全には信用してないよ?!」

 

 雛、桃子、小百合、夢の四人が胸を張ってドヤ顔をしていた。

 両手を後ろに隠しながら。

 

「ほほう。ならばその後ろ手に持っている物を見せてみい。」

「「「「え?」」」」

 

 途端に四人は目を泳がせ冷や汗を掻き出した。

 小百合の陰から白い布が見え隠れしているのを沙綾は目聡く見付ける。

 

(あれは貞子と松葉も買っておった下着かっ!こやつらには食い気ではなく色気で買収しおったかっ!残って

おるのは小夜叉と綾那じゃが………)

 

 小夜叉を探すと少し離れた木の根元で人間無骨の手入れをしている。

 

「クソッ!次はぜってーぶっ殺す!」

 

(勝負を挑んだが好い様にあしらわれたか………信用はしてない様じゃからまだ良いか……さて、綾那は……)

 

 綾那が何処に行ったか視線を巡らせた時、栄子に鞠と熊が話し掛けていた。

 

「お近付きの印に、鞠さまには京で手に入れました蹴鞠を♪熊さまには…」

「鞠さま!熊さま!其奴の話しなど聞いてはいかん!」

 

「熊さまには名物の平蜘蛛を…」

 

「それは白百合の物じゃろうがっ!!」

 

「おほほほ♪冗談ですよ、沙綾さま♪本当はこちらの茶入でございます♪」

「それは何処で手に入れた。」

「………………………茶入でございます♪」

 

「何処から盗んできよったっ!!」

 

「おほほほほ♪これも冗談ですよ♪ちゃんと堺で買った物です♪[[rb:海松色>みるいろ]]で胴が張っていて丸みを帯びた所なんか、かの[[rb:新田肩衝>にったかたつき]]みたいでしょう♪」

「新田肩衝言うたらおかんとよう喧嘩しとった宗三のおばちゃんが持っとったやつやんけ。そう言や鞠の持っとる刀の左文字もあのおばちゃんが鞠のおかんにあげたモンやないけ?」

「うんなの♪だから宗三左文字って名前になったの♪」

「鞠さまと熊さまが同じく三好宗三様の所蔵していた物をお持ちになられれば、より絆が深まると思ってご用意致しました♪」

 

「その言い方では本物ではないかっ!!」

 

 鞠と熊が喜んでいて、二人も栄子に心を許してしまったので沙綾は仕方なく攻め方を変える事にする。

 

「おい、昴!お主、夕霧の事はどうするつもりじゃ!光璃さまはお許しになったからと気が緩んでおるのではないか?この飛び加藤がお主と共にあると知れば光璃さまは勿論、夕霧とて心変わりするのは間違い無いのじゃぞ!」

「そんな決め付けなくても大丈夫よ♪ちゃんと説明して、説得した上で夕霧ちゃんを迎えるから♪」

 

 昴があまりにも自信満々に言うので、もしかしたら本当に説得してしまうかも知れないと思えてきた。

 

(昴なら有り得るかも………まあ、失敗したとしても加藤が追い出されて、夕霧も祉狼さまに嫁ぐ事になるだけじゃ。昴は加藤に騙されていたと儂が弁護すればお咎めは無いじゃろう…………)

 

「判った。昴の好きにせい。」

「ありがとう♪沙綾さん♪」

 

「但しっ!儂は此奴を懐で飼うのは絶対に反対じゃからな!上の方々にもはっきりそう申し上げるぞ!」

 

 沙綾は栄子に仇敵を見る目で睨み付ける。

 

「ああぁ?そのそんな目で見られたらゾクゾクしちゃうぅ?」

 

 逆効果だった。

 

「何を揉めてるですか?」

 

 沙綾は背後から聞こえた綾那の声に、希望を持って振り返る。

 何しろ綾那は鋭い勘で一二三を『信用できない』と評した程だ。

 

 その勘に期待した…………のだが。

 

「おい、綾那………………………………………なんじゃその格好は…………」

 

「栄子にもらったです♪綾那は一目見て気に入ったですよっ♪」

 

 綾那は猿の着ぐるみを着ていた。

 しかも手には串団子を持ち、口の周りは烏と同じ状態だ。

 

「綾那カワイイの♪」

「あははは♪似合おうとるやんけ♪」

「鞠さま♪熊さま♪はら、ちゃんとお尻が真っ赤なのです♪」

 

 猿の尻が赤いのは雌猿の発情期を表すサインである。

 昴と栄子がそれを見てハアハアしているので、どうやら意図的なデザインらしい。

 

「おい、綾那……………お主はこの女を危険とは思わんのか?例えば一二三の様な。」

「ほへ?栄子は昴さまととてもよく似た感じがするのです♪一二三みたいな味方か敵かよく分からない感じはしないです♪」

 

 綾那の野性の勘が鈍っている訳では無い。

 昴と同じロリコンの匂いを嗅ぎ取っているのだから、寧ろ鋭くなっているくらいだ。

 問題が有るのは勘を判断する感性が、昴の所為で歪んでしまった事だろう。

 

(これはいかん!綾那の勘は公方さまも認めておる。そのままでは飛び加藤が改心したと判断され兼ねん!)

 

 沙綾は栄子を排除する策を必死に考え始めた。

 

 

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 躑躅ヶ崎館の庭に跪く栄子とその後ろに昴達スバル隊が並んだ。

 館の中から光璃を中心に武田衆、美空と長尾衆、一葉、幽、久遠、詩乃、雫、祉狼と聖刀、狸狐、葵、悠季、白百合がお白州よろしく並んで栄子を見下ろしていた。

 

「議論の余地なんか無いわね。斬首よ、斬首!」

 

 バッサリ言い切る美空に柘榴達長尾衆が頷き、春日達武田衆も同意見と声を上げる。

 ただ、夕霧だけは黙って昴を見ていた。

 

「加藤段蔵!拙は貴様に甲斐、信濃に再び現れたなら命は無いと申し渡した筈である!」

 

 春日はきつい口調で浴びせ掛ける。

 栄子は顔を伏せ、黙ったままだ。

 

「長尾美空様は斬首と申されるが武士の情けだ。腹を切る事を許す。介錯はこの美濃守が務めて進ぜよう。」

 

「お待ち下さいっ!」

 

 声を上げたのは昴だ。

 後ろに控えていた昴は栄子を庇い前へ出た。

 

「昴殿!この者は罪人であり、昴殿を謀って近づいた極悪人でござる!目を覚まされよ!」

 

「いいえっ!私は騙されていません!何より私は彼女が『飛び加藤』と呼ばれた忍びである事を承知で家臣として召し抱えたのですからっ!」

 

 昴の言葉を聞いて、沙綾は血の気が引いた。

 折角自分が昴は騙されていると根回しをしたのに、いきなり否定されては昴も処罰されるは免れなくなる。

 

(まだじゃ!どんな形であれ儂が良人とした昴じゃ!絶対に護ってみせる!)

 

「昴!飛び加藤が正体を明かしていたからと言って騙されておらんとは言い切れんぞ!此奴は詐術にも長けておるのじゃ!」

 

 沙綾の声にゆっくりと振り向いた昴は、今まで見せた事の無い穏やかな微笑みをしていた。

 

「沙綾さん、ありがとう♪…………でも、私にも信念があるの。」

 

 昴は壇上となった館に向かって毅然と顔を上げた。

 

 

「罪を憎んで人を憎まずっ!!」

 

 

 大音声で発せられた言葉に祉狼、聖刀、貂蝉、卑弥呼が笑顔になる。

 しかし、この外史の女性達には昴の言っている意味が理解出来なかった。

 

「これは祉狼のご両親!医者王華佗元化様と北郷二刃子盾様のお言葉ですっ!!」

 

 祉狼の両親と聞いて女性陣の目の色が変わった。

 特に光璃が興味を惹かれて体が前に出ているのを春日も気が付く。

 

「昴殿、続きを申されよ。」

 

「ええ。祉狼のご両親も医者なのは、今更皆さんに言うまでも無いでしょう。ですが、医者王さまが黄巾の乱で自ら拳を振るわれた事をご存知でしょうか?医者王さまは黄巾党を『大陸を蝕む病魔』と呼んで成敗されました。されど黄巾党の者を誰ひとり殺める事無く!罰として数ヶ月間膝が曲げられなくするなどして全て赦されました!祉狼もまた、そちらに控える詩乃ちゃんを助ける時に狸狐の手の者を同じ様に罰を与えるのみに留めて赦し、狸狐も聖刀さまが改心させております!」

 

 美空達と光璃達の注目を集めた詩乃と狸狐は無言で頷く。

 狸狐はその時を思い出して顔を赤らめ、お尻をモゾモゾさせていたが。

 

「更に!祉狼のご両親についてお伝えするべきお話が有ります!お二方は戦乱の治まった我が国で、顔を仮面で隠し、名を伏せて、夜な夜な悪人を改心させているのです!小はコソ泥から大は反乱を起こした領主まで!改心した者は全てそれまでの行いを恥じ、罪を償おうと懸命に生きています!自ら名乗らぬお二人を、人々は『見捨てない人』と呼び称えております!私、孟興子度昴もそんなお二人の生き様を尊敬し、見習って栄子に罪を償う機会を与えたのです!」

 

 春日は返答に窮して光璃に指示を仰ぐ。

 その光璃は祉狼に小首を傾げて問い掛ける

 

「………本当?」

「ああ♪父さんと母さんが房都の街に流れて来る悪人を改心させている♪俺もその技を教わり手伝っていた♪黄巾党の話は俺の生まれる前だが、紫苑伯母さん、桔梗伯母さん、焔耶伯母さんから何度も聞いている♪貂蝉と卑弥呼がその場に居たから詳しいぞ♪」

 

 今度は貂蝉と卑弥呼に振り向く。

 

「本当よぉ〜♪あれがわたしと華佗ちゃんの初めての、で・あ・いぃん?」

「うむ♪あれぞ正に運命の出会い♪ひと目で惚れ込んでしまったわ♪がっはっはっはっはっはっ♪」

 

 この状況に美空は頭を悩ませた。

 昴が空、名月、愛菜に手を伸ばす為に、栄子の能力を手に入れたと見ている。

 しかし、今の話で祉狼が昴の決断を歓迎しているのは顔を見なくても判る。

 と言うか、昴が祉狼を味方に着けた段階で勝負は決してしまったのだ。

 ならば、美空が取る道はひとつ。

 

「お義父様とお義母様の教えですもの♪私は勿論賛成よ♪」

 

「手の平返すの早っ!御大将、ついさっき斬首って言ったばっかりじゃないっすか!?」

「柘榴!祉狼さまの素晴らしいお考えが判らないの!?ああ♪祉狼さま♪貞子は祉狼さまのお心とひとつですよぉおおおお?」

「貞子、うざい…………でも、松葉も祉狼の考えに賛成。秋子は?」

 

「え!?わ、私!?も、もちろん祉狼さまに賛成ですよ!…………………ああ……愛菜に何かしようとしたら、その時に首を刎ねちゃえばいいんですよね♪うふふふふふ♪」

 

「秋子さん、怖いっすよ…………」

 

 下心全開とは言え、長尾衆の意見は纏まったのを見て、一番中立の立場に居る一葉が調停役を買って出る。

 

「さて、光璃よ。お主はどうじゃ?」

「祉狼のご両親のお話は素敵♪…………でも、飛び加藤が改心したと覚悟を見せないと信用できない。」

「それは尤もじゃな。口では何とでも言えるしの。」

 

 これまで二心を持って近付く者ばかりを相手にして来た将軍様だ。

 当然、栄子の事も信用していない。

 

「それでしたら、私は栄子に家臣となる為の試験をしました。栄子と出会ったのは海津城で、私が躑躅ヶ崎館に到着するまでにスバル隊みんなが喜ぶ物を買って来る様に言い付け、こうして戻って来たので家臣と認めたのです。あ、因みに兎々ちゃんにあげた桃も栄子が堺から買って来た物です♪」

 

「あの桃は飛び加藤が買ってきたのらっ!?」

 

 終始栄子を睨んでいた兎々が複雑な顔になってオロオロし始めた。

 

「兎々…………桃は美味しかった?」

「お、お館様……………………おいしかったのれす…………」

 

 兎々はしょんぼりしながらも正直に答える。

 

「他には何を買って来たの?」

 

 光璃は栄子に問い掛けた。

 それは栄子が返答出来る所まで許された事を意味する。

 

「はっ!和奏ちゃん、犬子ちゃん、烏ちゃん、雀ちゃん、綾那ちゃんの為に京の獅子屋にて串団子を。雛ちゃん、夢ちゃん、桃子ちゃん、小百合ちゃんの為に堺にて流行りの下着を。鞠さまには京で蹴鞠を。熊さまには堺で茶入を購入致しました。こちら全て領収書も書いて貰っております。おあらためを。」

 

 懐から何枚かの書状を取り出し、昴に渡す。

 昴はこれを誰に渡そうかと見渡した。

 

「それがしが見聞致しましょう。獅子屋の証文などはよく目にしておりますので。」

 

 幽が名乗り出て、書状を受け取り開いてみる。

 

「ふむ、獅子屋の物は店主の筆跡で間違いありませぬ…………おや?」

「どうしたのじゃ、幽?」

「日付が一昨日の物ですが、京からこの躑躅ヶ崎館まで二日とは…………」

「お団子が固くなってしまいますので急いで戻って参りました♪」

 

 普通はどう考えても二日で戻って来れる距離ではない。

 幽は春日がそこを問い詰めるかと思って顔を見たが、春日は黙って口をへの字に結んでいる。

 飛び加藤ならばそれくらいは走れると認めているのだ。

 

「そ、そうでござるか…………では他の物は………ふむ、どれも有名な[[rb:大店>おおだな]]ですな。『猿の被り物』?…………綾那どののあのお姿はそういう意味でござったか♪」

 

 綾那はよっぽど気に入ったと見えてずっと猿の着ぐるみを着たままだった。

 それはさて置き、幽は最後の領収書を見て眉根を寄せる。

 

「はて?この茶入を購入された店だけ聞いた事が有りませんな。」

「そこは小さな店でしたが、どうしても目に入った茶入が気になりまして購入致しました。」

「どの様な茶入か気になりますな。今は熊さまがお持ちに?」

 

「これやで♪」

 

 言われて熊が手に持って掲げた。

 それを見た幽と白百合の目が大きく見開かれる。

 

「ちょ、それはっ!!」

「く、熊さまっ!ちと拝見させてくだされっ!」

 

 二人は慌てて庭に降りて熊の元に駆け寄った。

 

「この胴の張った形、海松色の釉薬の垂れ方………」

「間違い無い………長慶様が宗三殿を倒した時にも見つからなかった新田肩衝じゃ…………血眼になって探したというのに、こうもあっさりと現れるとは…………」

「そんな♪よく似せた贋作でしょう♪でなければあんな値段では買えません♪」

 

 栄子が笑って言うくらいで、領収書に書かれた金額は綾那の猿の着ぐるみと変わらない程度だ。

 因みに正史で秀吉が『似茄子』と『新田肩衝』の二つの茶入を買うのに支払った金額は一万貫、現代だと百億円くらいだと思って頂ければ判りやすいだろう。

 

「いや、我は若い頃に宗三殿が自慢するのにこれを見せられた事が有る。間違いなく同じ物じゃ。」

「どうしてそんな店に在ったのか、想像はいくらでも思い付きますが、大事なのは新田肩衝が今この目の前に在ると言う事……………これは加藤殿の運の良さ故でしょうな。」

 

 数寄者二人に認められて栄子の株が一気に高まった。

 光璃が思案顔になっているのを見て、夕霧が遂に口を開く。

 

「姉上、今日は姉上と祉狼どのが婚儀を済まされた晴れの日でやがります。ここは恩赦として昴どのの家臣と認めてやっては如何でやがりましょう。」

「……………夕霧はそれでいいの?」

「はい。スバル隊には沙綾どのがおりまして、加藤に目を光らせてくれるでやがりましょう。」

「…………夕霧は?」

 

 光璃が再び夕霧の名を口にした。

 一度目と二度目の問い掛けた意味が違うのだが、夕霧は光璃がどういう意図で訊いたのか理解出来なかった。

 いや、思い至りはしたが、まさかと否定したのだ。

 

「馬競争…………夕霧が負けたって聞いた。」

「そ、それは!」

 

 昴はまだ夕霧に賭けに勝った褒美を口にしていなかった。

 夕霧が困った顔で昴を横目で見る。

 

「光璃さま!夕霧ちゃんを私に下さい!」

「許す。夕霧は昴のお嫁さんになって、飛び加藤を監視して♪」

 

 光璃は夕霧を納得させる為にそう付け加えた。大評定の前に語った通り光璃は初めから夕霧を昴に嫁がせるつもりでいたので、栄子の事はダシに使えると踏んで話を進めて行ったのだった。

 

「姉上……………夕霧は…………」

 

 光璃の目を見た夕霧は、姉が自分の恋心に気付いていて後押しをしてくれたのだと悟った。

 

「ありがとうでやがります…………姉上…………」

 

 涙を浮かべて微笑んでから、夕霧は深く頭を下げた。

 光璃も微笑み返してから顔を引き締め、眼下に居る栄子へ沙汰を伝える。

 

「加藤段蔵………その身は昴に預ける。もし義弟の信頼を裏切る事が有ったなら、我が良人の助命が有っても赦される事は無いと肝に銘じよ。」

 

「はっ!武田が御館様のお言葉!しかと刻みました!証として加藤段蔵の名を捨て、これより戸沢白雲斎を名乗り、皆様には通称の栄子をお預け致しまする!」

 

 栄子が平伏して裁きの場は終了となった。

 

「「これにて一件落着っ!」」

 

 貂蝉と卑弥呼が立ち上がって締めの言葉を言うが、理解出来たのは一刀たちから教えて貰っている祉狼、聖刀、昴の三人だけなので、皆反応に困っていた。

 

 

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 夜の宴会は夕霧と昴の婚儀から始まった。

 一日に二回も婚儀が行われて武田の家臣達は戸惑っていたが、一二三と湖衣が説明して回り、全員がめでたい事だと納得して心から光璃と夕霧を祝ったのだった。

 宴会で出された料理もお祝いに華を添え、聖刀の作った焼売とエーリカの作った天ぷらは初めて目にする者に異国の食べ物だと驚きと感動を与え好評を得た。

 

「もっとお酒を持って来なさーーーーーーーーいっ!!」

「御大将ぉおおおお!今夜は飲み明かしましょうねぇええええ!」

「御大将!母上!介抱はこの越後きっての義侠人!この樋口愛菜兼続が務めますので思う存分お飲み下さいっ!どーーん!」

「愛菜……任せた。」

「松葉も落ち着いてないで!貞子さん止めるの手伝うっすよ!」

「ああっ!祉狼さまがっ!愛しの旦那様が武田に寝取られるぅうううう!せめてお側で見守りにぃいいい!」

「だからそれってただの覗きっす!」

 

 荒れる越後勢を放置して久遠達は落ち着き払い食事と酒を静かに楽しんでいた。

 空と名月がどうしようとオロオロしていると、結菜がやって来る。

 

「空ちゃん♪名月ちゃん♪私達と一緒に食べましょう♪」

「え………でもお姉さまが………」

「あんなお姉さま、初めてですわ………」

「今はそっとしておいてあげるのが一番よ♪」

 

 ダメな大人達から隔離して保護する為に宴会場となった部屋の一番離れた場所まで連れて行ってしまった。

 そんな様子をひよ子、転子、詩乃が苦笑いをして眺めている。

 

「美空さま達、越後の人達はまだ慣れてないんだねぇ。」

「気持ちは判るけどねぇ♪」

「ひよもころも以前は祉狼さまに新しいお嫁さんが出来る度にやきもきしていたではないですか、」

「そう言う詩乃ちゃんだって堺から帰った時は三河に逃げたくせに♪」

「あ、あれは………逃げたのではありません。戦略的撤退です。」

「言い方を変えただけで、やってる事は変わんないよぉ………」

 

 そこへ雪菜が話に加わった。

 

「なあひよちゃん、ころちゃん、詩乃ちゃん。みんなが祉狼さのこと好きなんは判るけんど、ヤキモチとか無いのけ?」

「そりゃ有りますよお♪」

「うんうん♪今だって本当は気になるけど………」

「祉狼さまをこの日の本に留める為と思えば我慢出来ますから。」

「それはあれだべ?聖刀さまさお国にお帰りになられる時さ、一緒に帰れねえってあっちの帝に認めてもらう為だんべ?それは結菜さんから聞いただから判んだども………だども、オラはその………」

「良人には自分だけを見て欲しいですよね。」

 

 言い淀んだ雪菜の気持ちを詩乃がズバリと言い当てた。

 

「それは誰もが思っている事ですよ♪ですが祉狼さまのご身分とお立場、ザビエルに狙われている状況。全てを考慮した場合、自分ひとりだけでは祉狼さまをお守り出来ません。その相反する想いの妥協点として、私達は短い時間でも深く祉狼さまと通じ合う事にしたのです!具体的に申しますと深くまぐわ「うわわわわぁああああああああ!具体的に言わなくてもええだよっ!!」」

 

 雪菜は越後から躑躅ヶ崎館までの間に詩乃ともよく話をしていたが、こんな事をストレートに言う事は無かった。

 不思議に思ったが、膳の横に徳利が何本も転がっているのを見てまさかと思い詩乃の顔をよく見ると、前髪に隠れていたので気が付かなかったがかなり酔っ払っているのは間違い無い。

 と、思ったら詩乃は突然目を閉じて寝入ってしまった。

 

「し、詩乃ちゃん!?」

「あ〜、潰れちゃいましたか♪」

「雪菜さん。私達は普段からお酒に逃げている訳じゃ無いんですよ。今日は宴会だから特別です。」

「そ、そうけ?なら安心なんだけんど………」

「それよりも♪雪菜さんも早くお頭と結ばれるといいですね♪」

「ほえ!?ひ、ひよちゃんも相当酔ってるべ!」

「酔ってません!ひよは全然よってませんよぉお!」

「あ〜あ、酔っ払いがこれを言い出したらもう終わりだね。あ、でも酔っ払っているからこそ、本音が出るんですよ♪」

「ころちゃん………」

「結菜さまが雪菜さんの初夜をお決めにならないのは、雪菜さんの気持ちがお判りになっているからだと思いますよ。私としては恋敵が増えると思うとモヤモヤしますけど………それ以上に雪菜さんにはお頭を好きになってもらいたいです♪」

 

 雪菜は自分の気持ちを言い当てられて、胸に痛みが走った。

 

「それじゃあ、私は詩乃ちゃんとひよを部屋に寝かせてきます♪ほら、ひよ!掴まって!」

「あ!オラも手伝うだよ!」

 

 転子がひよ子を、雪菜が詩乃を背負って宴会を中座する。

 

「ころちゃんはお酒、強いんだなや♪」

「野武士の頭を張るには弱みは見せられないと思って鍛えましたから♪でも、実際は川波衆のみんなから呑んじゃダメって止められちゃいましたけどね♪みんな良い人ばっかりなんですよ♪」

 

 転子は知らないが、『((可|か))愛い、((蜂|は))須賀さまを、((仲|な))良く、((見|み))守る衆』である。そんな『かはなみ衆』が転子を悪い虫から守るのは当然で、転子に酒を呑ませて不埒な事をしようと考える奴は袋叩きにしていた程だった。

 

「ゴットヴェイドー隊にも元川波衆のモンが居ただな♪顔さおっかねえけんど、優しい人達ばっかだっただ♪」

「みんなには『顔が怖い』って言わないであげてくださいね♪落ち込むから♪」

 

 二人は彼らの顔を思い出して笑い合う。

 

「でも、お酒に強くなっちゃたから詩乃ちゃんやひよみたいに、お酒に逃げられなくなちゃった………」

「なら、オラとお話すんべ♪何だか今夜は眠れそうにねえだで。」

「はい♪お付き合いします♪」

 

 転子と雪菜は祉狼が今何をしているか、考えない努力をしていたのだった。

 

 

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 では、その頃の祉狼と光璃だが、光璃の寝室で初夜の床入りが始まっていた。

 肌襦袢姿の二人は布団の上に正対して座り、見つめ合っている。

 

「光璃は祉狼のためにいっぱい勉強したけど…………初めてだからどうしたら良いか教えてほしい。」

「判った…………と言っても、人それぞれだからな…………そうだ、先に光璃が勉強した内でしてみたい事をしてみるのはどうだ?」

「………………それなら………」

 

 光璃は立ち上がり、赤い帯を解いた。

 次に濃い桃色の襦袢を肩から落とし下着姿を祉狼に曝す。

 現れた下着は襦袢と同じ色のねこランジェリーだった。

 昼間着ていた服は胸の大きさを隠すデザインになっていた為、判りづらかったが光璃の乳房は結菜と同じくらい在る。

 胸の中央部に開いた猫の顔型の穴から見える谷間が、その大きさを主張していた。

 

「光璃もそれを持っていたのか。」

「待って………まだ準備が終わってない。」

 

 光璃は枕元に置いてあった箱を開けてある物を取り出すと頭に着けた。

 

「……………にゃー。」

 

 着けたのは戦装束の時に着ける兜代わりの角飾りなのだが、幅広なので充分猫耳に見えた。

 四つん這いになり、右手で猫が顔を洗う時の仕草を真似る。

 

「うん♪可愛いな♪」

 

 祉狼の笑顔に満足して、光璃はそのまま祉狼に体を寄せて行く。

 四つん這いの為、下を向いた乳房がたゆんたゆんと揺れていた。

 

「祉狼も脱いで…………祉狼の全てが知りたい。」

 

 光璃は祉狼の帯を解き、肌襦袢を脱がせていった。

 

………………………………

 

………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 祉狼と光璃の初夜と同時に、昴と夕霧の初夜も行われていた。

 昴と夕霧も祉狼と光璃の様に肌襦袢姿になり、布団の上で正対している。

 

「不束者でやがりますが、どうか末永くよろしくお願いするでやがります。」

 

 三つ指を着いた夕霧を昴は喜びを隠さず満面の笑顔で迎えた。

 

「こちらこそよろしくお願いします♪夕霧ちゃん♪さあ、こっちに来て♪」

「は、はいでやがる………」

 

 緊張でガチガチになった夕霧は、立ち上がろうとして見事に足を滑らせた。

 

「ひゃっ!」

「おっと♪」

 

 昴が素早く反応して夕霧の小さな身体を受け止めた。

 図らずも昴の胸に飛び込む形になった夕霧は、抱き締められて顔が真っ赤になる。

 

「あわわわわわ!も、申し訳ないで…」

「大丈夫だよ、夕霧ちゃん♪しばらくはこのままでいましょう♪」

「は……………はいでやがります…………♪」

 

 昴の腕の中で少しだけ緊張が解けると耳に心臓の鼓動が聞こえてきた。

 それは耳に当たる昴の胸から聞こえているのだと気付き、顔を上げて上目遣いで昴を見る。

 

「昴どのの心の臓がドキドキしてるでやがります………」

「うん♪だって大好きな夕霧ちゃんを抱き締めているんだもん♪ドキドキしちゃうよ♪」

「こ、昴どのが夕霧を好きだと言ってくれるでやがりますか!?」

「え!?気付いて無かったの!?私は初めて会った時から夕霧ちゃんの事が大好きなのに!」

「そ、そうだったんでやがりますか…………夕霧はてっきり、昴どのが夕霧の気持ちに気付いて嫁にしてくれたと思っていたでやがりますよ………夕霧はその…恋愛というのをしたことが無かったでやがりますから………」

「と、言う事は、夕霧ちゃんの初恋までもらちゃったのね♪嬉しい♪」

 

 昴は夕霧を更に強く抱き締めると、顔にキスの雨を降らせた。

 

「こ、昴どの♪くすぐったいでやがる♪んっ!」

 

 夕霧の隙を突いて唇を奪う。

 けれど唇だけの優しいキスだ。

 

「…………っはあ!こ、昴どの!こ、これが口吸いでやがりますか!?」

「ええ、そう♪私達の国では『キス』って呼んでるわ♪」

 

 浸透させたのは勿論一刀たちだ。

 

「き、きすでやがりますか………」

「でも今のは軽めのキスよ♪大人のキスは舌を絡め合うのよ♪」

「し、舌をっ!?んぷっ!」

 

 またも唇を奪われ、言った通り昴は舌を入れてきた。

 夕霧は驚きながらも昴の為に口を開いて、入ってきた舌に頑張って自分の舌を絡ませようと試みる。

 しかし、実際には昴に口内を舐め回され、一方的に舌を嬲られるだけだった。

 

「んちゅ、ちゅ、ちゅ、んん♪」

「んんー!ん!ん!んーーーーっ!ぷはぁっ!はぁ!はぁ!はぁ!」

 

 驚きと同時に気持ち良さを覚え、夕霧の目は既に蕩けていた。

 そして下腹部に硬い物が当たっている違和感を覚えて、無意識にそれへ手を伸ばした。

 

「あん♪夕霧ちゃん、それは………」

「………え?これは…………」

 

 夕霧が顔を下に向け、自分が何を掴んでいるのか確認した。

 それは昴の腰の位置に在り、肌襦袢を下から押し上げている物だった。

 

「も、申し訳ないでやがります!あ、当たっていやがりましたから何かと思ってつい…」

 

 慌てて離した手を取って、昴は再び夕霧に握らせた。

 

「そのまま握っててちょうだい♪キスと握られた事で、もう我慢ができなくなっちゃった♪夕霧ちゃんの襦袢を脱がすわよ♪」

「え?え?ええっ!?」

 

 夕霧が戸惑っている間に素早く帯を解き、自分の帯も解く。

 

「夕霧ちゃんの全てをもらっちゃうわね♪」

 

 昴の目が妖しく光って舌舐めずりをした。

 

………………………………

 

………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 その頃、他の昴の嫁達は仲良く露天風呂に入っていた。

 新たに加わった、夕霧とは違うもうひとりも仲間と共に。

 

「う???!夕霧がうらやましいのですぅ???!」

「そう言うなって、綾那♪ここは先輩としてあったかく見守ってやろうじゃんか♪」

「お?、和奏ちんも成長したねえ?。おっぱいは成長してないけど♪」

「そんなの雛だっておんなじじゃないかっ!」

「和奏ってば、そんな事で怒って暴れないでよぉ。」

「武田家のご厚意でお風呂を貸していただいてるのですから静かにするですよ。」

「出たな!このデカ乳一号二号!」

「そんな生意気なおっぱいは雛達が成敗してやるー♪みんな掛かれーーー♪」

『『『おおーーーーーーーーーーー!!』』』

 

 犬子と夢のおっぱいを揉もうと、裸で組んず解れつする幼女達。

 その光景を栄子は涙と鼻血を流しながら、目を血走らせて見入っていた。

 

(我が天国っ!今ここに顕現せりぃいいいいいいいいいいいいいいいっ?)

 

 心の中で絶叫しながらも、表面上は冷静を装い湯船へ向かう。

 

「あらあら♪お風呂で暴れちゃダメですよ♪」

 

 栄子が声を掛けた途端に全員の動きが止まった。

 

「えっ?ど、どうしたの?」

 

「それはこっちの台詞だ!そんなに鼻血と涙を流してどうしたんだよ!栄子!」

 

 鼻血を流しながら冷静な顔で風呂に入ってくる全裸の女。

 普通なら悲鳴を上げて逃げ出す所だ。

 

「えっ?…………あらあら♪実は私とした事が転んで鼻をぶつけてしまいまして♪平静を装っていたのですが涙と鼻血までは止められませんでしたわ♪」

 

「あはははは♪忍びなのにドジだなあ♪」

「綾那は鼻血も出したことないですよ♪」

 

 和奏達は栄子の言葉を信じて大笑いしていた。

 

「びっくりさせちゃったお詫びに、皆さんの背中を流させてもらいますよ♪」

「別にそこまでしなくたっていいって♪」

 

 自然な流れで和奏達の身体に触れると思っていた栄子はガックリと肩を落として泣きそうな顔になる。

 

「な、何だよ?同じスバル隊の仲間になるんだから、そんな侍女みたいな事はしなくていいって!」

「いえ……………私………妹が居たんです……………生きていればきっと皆さんと同じくらいに………」

 

 勿論真っ赤な嘘である。

 だが、直前に見せた幼女に触れられないという悲しみで見せた顔が真実味を与えて彼女達の心を打った。

 

「え、え?と…………ボ、ボク、なんだか急に背中を流して欲しくなってきたなあ。」

「わ、犬子もしてもらっちゃおうかなあ♪」

「それじゃあ雛も………小夜叉はどうする?」

「あ?…………まあ…背中流すくらい別にかまわねえねどよぉ………」

 

 小夜叉は妹の蘭丸と坊丸の顔を思い出して、珍しく情に流された。

 

「それじゃあ鞠は栄子の背中を流してあげるの♪」

「綾那もやるですよ♪最近は歌夜と背中の流しっこしてないからやりたいです♪」

「夢も最近は姉上とお風呂に入ってないですね。ここはひとつ夢の手拭い捌きを見せるですよ♪」

 

「そんな!私の様な者の背中を流していただくなど…」

 

「なに言うてんねや、ワレ♪風呂は裸の付き合いや♪気にしたらあかんで、ワレ♪」

 

 熊は身体を隠さず腰に手を当てて仁王立ちをして見せる。

 女同士の気安さからだが、栄子にとっては最高のご褒美である。

 また鼻血が出そうになるが、気力で押さえ込んだ。

 

「背中を流されるよりもそっちの方が面白そうだ♪」

「先に栄子さんの身体を洗っちゃおーーー♪」

 

 和奏と雛を皮切りに、全員で栄子の身体を洗い出した。

 

「栄子さんもおっぱい大きいねえ♪」

「あぁん♪そんなあ♪おっぱい揉まれたら感じちゃうぅ?」

 

 栄子の反応が昴とそっくりだったので、つい彼女達は悪乗りし始めてしまった。

 

「ここはどうだ♪それそれ♪」

「ああぁあああああん?そ、そこはぁああああ?」

 

 栄子は心の中でまた叫んだ。

 

(我が人生に一片の悔いなぁあああああああああしっ!!)

 

 そんな嬌宴が始まった露天風呂の端で、烏と雀がのんびりと湯に浸かって温まっていた。

 

「ねえ、お姉ちゃん♪栄子さんって楽しくて優しくて、いい人だね♪」

「(コク)」

「またお団子買ってきてくれるって言ってたし、雀大好きーー♪」

「(コクコクコク)」

 

「暢気な奴らじゃな。菓子に釣られおって!いつか掠われてしまわんか心配じゃ!」

 

「あ♪うささんだー♪お帰りなさーい♪」

 

 沙綾は宴会場の騒ぎの所為で遅れて来たのだった。

 

「人の話を聞かんか!」

「え?……でもそれって知らない人から物をもらっちゃダメってことだよね?最初にお団子もらった時はおヌウちゃんが紹介してくれたし、今はもう知らない人じゃないよ?」

「知り合ったからと言って簡単に信用するなと言っておるんじゃ!」

「え?、でもでも!雀はけっこう人を見る目は有るんだよ!八咫烏隊は傭兵だったから、だましてお金を払わないヤツは匂いでわかるんだ?♪」

「…………ふむ、確かに雀はちゃっかりしておるからのう。ならば何故、栄子は信用出来ると思うのじゃ?」

「おヌウちゃんとおんなじ匂いがするからーーー♪」

「(コクコクコク)」

 

 烏にまで肯定されて沙綾は困惑した。

 

(う?む、以前は飛び加藤を見て誰もが怪しいと言っておったのに………武田でも十人中十人が奴は裏切ると言っておったと聞いたしの………武田も追い出されて奴が本当に悔い改めたのか?………いや、油断は出来ん!儂と夕霧で栄子をしっかりと見張らねば、累は昴に直接及ぶのじゃ!)

 

 決意を新たに心に刻み、その注意すべき相手を見る。

 

「ああぁん?そんなトコいじっちゃいやぁ〜〜〜ん?」

 

 沙綾の目には和奏達とじゃれあっている様に見え、そんな姿は以前の栄子からは想像が出来なかった。

 

「………………………あやつ…………本当に何が有ったんじゃ?」

 

 栄子自身は何も変わってはいない。

 要は沙綾を始め、今までは周りが勘違いしていただけなのだ。

 栄子にとって人生の主とは全ての幼女であり、幼女の為ならば長尾も武田もただの駒に過ぎない。

 『何を考えているか判らない』

 それは幼女と仲良くなる事しか考えていないからだ。

 『時折姿を消して怪しい』

 幼女にあげる贈り物を探しに堺や西国まで出かけているか、幼女をストーキングしているからだ。

 『沙綾自身、時々栄子の鋭い視線を感じて、背筋に冷たい物が走る事が有った』

 勿論、沙綾を見て妄想に耽りハアハアしていたからだ。

 今まで栄子はロリコンだとバレない様に行動していた。忍びとして優秀なだけに秘密はバレなかったが、お陰で別の方向で疑われてしまっていたというのが真相だったりする。

 まあ、近い内に栄子がロリコンのドMだと知れ渡るだろう。

 

「あはぁ〜〜〜ん?らめぇ〜〜〜?」

 

 幼女達に寄って集って弄ばれ、悶え悦んでいるのだから。

 

 

-12ページ-

 

 

房都 本城曹魏館 厨房

 

「はい♪お待たせしました、旦那さま♪」

「「「ありがとう、流琉♪手間を掛けさせちゃって、悪いな。」」」

 

 一刀たちは急にある物が食べたくなって流琉の所へやって来た。

 そうして出来上がった物はと言うと。

 

「いえ♪そんなに手間じゃないですよ♪天丼は♪」

 

 一刀たちの前にはサクサクの天ぷらの載った丼と味噌汁、漬け物が並べられていた。

 

「「「それじゃあ、いただきます♪」」」

 

 美味しそうに食べる一刀たちを、流琉は嬉しそうに眺める。

 

「でも、どうして急に天丼だったんですか?」

「「「天ぷらが日本に伝わったのが、丁度聖刀達が居る時代でね♪エーリカちゃんが伝えてるんじゃないかって考えてたら急に食べたくなってさ♪まあ、天丼はずっと後になってから日本人が考えた食べ方だけどね♪」」」

「そうだったんですか♪そんな未来の料理を私が作っているなんて、改めて考えると何だか不思議ですね♪」

 

 一刀たちが出会ったばかりの頃は少女だった流琉も、今では成熟した大人の女性である。

 しかし、一刀たちに向ける笑顔は昔と変わらず優しげで可憐さを失っていない。

 

「「「聖刀もその辺を楽しんでいるんじゃないか?」」」

「聖刀くんならきっとそうですよ♪……………はぁ…早く帰って来てほしいですね………」

 

 そんな笑顔が陰って溜息を吐く。

 

「枦炉と騾螺が寂しがってますし………」

「「「そうだなぁ……………俺たちとしても早く帰って来て後を継いで貰いたいよ………そうしたら、楽隠居して孫の顔を見るのを待つばかりだ♪」

「孫ですかぁ♪……………もしかしたら向こうの狸狐ちゃんとかが先に懐妊しちゃうんじゃ………」

「「「俺たちや二刃の例が有るからそう簡単にはいかないと思うけど、可能性は有るからな。眞琳達の事を考えるとこれ以上は聖刀が嫁を増やさない事を祈るしか無いよ。」」」

 

 この時はまだ薫の事を伝えるメールが届いていなかった。

 

「「「まあ、聖刀よりも先に祉狼か昴に子供が出来る可能性も有る訳だし………」」」

「あっ!それですよ♪」

「「「え?」」」

「二刃ちゃんも孫の顔を見れば落ち着くと思いますよ♪」

「「「成程…………子供好きの二刃だ………孫ともなればそれこそ……………」」」

「どうしました?」

 

 一刀たちの顔が輝いたのに、また曇ってしまった。

 

「「「いや…………そうなったら、二刃もインテリと一緒になって向こうへ行こうとしだすんじゃないかと思えて……………」」」

「そ、それは……………あるかも…………」

 

 流琉にもその光景が想像出来て、苦笑いを浮かべるしか無かった。

 一刀たちは食べかけの天丼を見てある事を思い出した。

 

「「「同じボケを繰り返すのを『天丼』って言うんだっけ………」」」

 

 

 

-13ページ-

 

 

あとがき

 

 

戦国†恋姫X発売まで後約ひと月となりました!

プロモムービーやサンプルボイスや武田信虎や謎の人物まで発表されて期待度が上がりまくってます♪

名月が可愛いぞおおおおおおおおおおおおおお!

 

 

今回の新キャラ

 

武田大膳太夫太郎晴信 通称:光璃

やっと出せました。

顔を会わせる前から祉狼にベタ惚れで殆どストーカーですよねw

自分は顔と口調が恋に似てると思ったのが第一印象でした。

祉狼の嫁で、出会ったその日に初夜を迎えたのはこの子が初めてです。

 

馬場美濃守信房 通称:春日

今回はまだ顔出し程度です。

祉狼とかなり気が合う………と言うか、同じ方向でボケてくれそうで今後が楽しみです。

春日のブラがねこランジェリーに変わってても気が付かない気がしますwww

 

山県三郎兵衛尉源四郎昌景 通称:粉雪

原作でもお姉ちゃんが生きているので、今はまだ成長途中という感じになってます。

桐琴が強すぎるというのも有るんですけどね♪

柘榴の時もそうでしたが、武闘派の女の子が恥じらうギャップ萌が好きなので、ついイジメてしまいますw

 

内藤((修理亮|しゅりのすけ))昌秀 通称:心

ポチャっ子ですね♪見た目も性格も柔らかそうで、正に『武田家のお母さん』ですね♪

粉雪が惚れるのも頷けます♪

Xのプロモムービーで粉雪に山盛りのお肉を笑顔であーんしている姿が可愛いです♪

その溢れる母性愛で祉狼を包み込んでくれると思います♪

 

高坂弾正昌信 通称:兎々

スク水セーラーニーソに舌っ足らずな喋り方の萌チートw

夕霧を落とした昴の次なる攻略目標ですw

CVがてんかわののみさんなので、今回のラストに流琉が登場となりましたw

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

・ 佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

・ 佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

・ 佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

・ 各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

・ 森蘭丸

・ 森坊丸

・ 森力丸

・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)

・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)

・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)

・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)

・ 六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

・ 三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

・ 武田信虎

・ 朝比奈泰能

・ 松平康元

・ フランシスコ・デ・ザビエル

・ 白装束の男

・ 朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

・ 孟獲(子孫) 真名:美以

・ 宝ャ

・ 真田昌輝 通称:零美

・ 伊達輝宗 通称:雪菜

・ 基信丸

・ 戸沢白雲斎(加藤段蔵・飛び加藤) 通称:栄子

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6591104

 

 

さて、次回は薫と鞠を中心にすると思います。

 

 

説明
これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三??†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

戦国†恋姫オフィシャルサイト:登場人物ページ
http://nexton-net.jp/sengoku-koihime/03_character.html

戦国†恋姫Xオフィシャルサイト:登場人物ページ
http://baseson.nexton-net.jp/senkoi-x/character/index.html

新キャラに光璃と武田四天王が登場。
最後に流琉も登場します。
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コメント
神木ヒカリさん>そこはほら、沙綾さんも見た目はロリですがいいお年ですし、ボk…ゲフンゲフン!痴h…ゲフンゲフン!認知s……まあ、そんなのが進行してるんですよ、きっとwww(雷起)
殴って退場さん>昴と栄子なら二人で龍を探し出して倒す事もするでしょう。水着を作る為にwww インテリの事は、それこそ一緒に龍倒して『虚仮の一念岩をも通す』を体現した仲ですからwww(雷起)
匿名希望さん>真・恋姫†無双オフィシャルサイト武将列伝の華佗の紹介を読んでくださいね。正確に表記すると『ゴットヴェイドォー』になるのですがクドイので『ォ』は省きました。(雷起)
沙綾は、何人かの昴の嫁が、栄子は昴と同じ匂いがすると言っている時点で、幼女好きの可能性に気づかなきゃ。(神木ヒカリ)
武田3姉妹はやはり別々に嫁ぐこととなったか。それにもしても昴と栄子のど変態コンビは幼女の為なら不可能な事でも可能にしそうな勢いだなw。そして一刀もやはりインテリの事に一抹の不安を感じてしまったかww。(殴って退場)
ゴットヴェイドーじゃなくてゴッドヴェイドーだと思うんだけどなぁ〜(匿名希望)
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