英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜アクシスピラー第三層・外〜
「クッ……。てめえ……いつの間にそこまでの功夫を……」
「ヴァルター……あんたは確かに天才だ。だが、その才能ゆえにどうしても積み重ねが欠けるんだ。そして功夫とは、愚直なまでの繰り返しの鍛錬で積まれてゆく……。だからこそ格下の俺の拳があんたにも届くんだ。」
エステル達が装甲獣達を掃討し、2人の状況を見守っている中、一対一の戦いで”格下”のジンが自分相手に優勢である事に信じられない思いになっているヴァルターにジンは静かな表情で答えた。
「………………………………。ククク……格下か。ジジイのやつはそうは思ってなかったみたいだぜ?」
「………え……………」
しかし不敵に笑いながら答えたヴァルターの話を聞いたジンは呆けた。
「ジジイは俺に言ったのさ。活人、殺人の理念に関係なく……素質も才能も……てめえの方が俺よりも上だとな。」
「なっ……!?」
「そしてジジイは、より才能のある方に『泰斗流』を継がせるつもりでいた。……それが何を意味するのか鈍いてめぇにも分かるだろうが?」
「だ、だが……。俺があんたよりも格上なんてそんなの冗談もいいところだろう!?それに師父が、キリカの気持ちを無視してそんなことをするはずが……」
ヴァルターの口から語られた驚愕の事実に信じられない思いになったジンは困惑の表情でヴァルターを見つめた。
「……ククク……だからてめぇは目出度いんだよ。流派を継ぐわけでもないのに、師父の娘と一緒になる……。そんなこと……この俺が納得できると思うか?」
「………………………………」
「だから俺は、てめぇとの勝負で継承者を決めるようジジイに要求した。だが、ジジイはこう抜かしやがったのさ。『―――ジンは無意識的にお前に対して遠慮をしている。武術にしても、女にしてもな。お前が今のままでいる限り……あやつの武術は大成せぬだろう』と。」
「…………な………………」
「クク……俺も青かったから余計に納得できなかったわけだ。そしてジジイは、てめぇの代わりに俺と死合うことを申し出て……そして俺は―――ジジイに勝った。」
「………………………………」
「ククク……これが俺とジジイが死合った理由だ。お望み通り答えてやったぜ。」
「………………………………。俺はずっと確かめたかった……。師父がなぜ、あんたとの仕合いに立ち合うように言ったのかを……。ようやく……その答えが見えたよ。」
「……なんだと?」
ヴァルターの話を黙って聞いていたジンだったが、長年の疑問が解けると納得した表情になり、ジンの答えを聞いたヴァルターは眉を顰めた。
「ヴァルター……あんたは勘違いをしている。これは俺も、後でキリカに教えてもらったことなんだが……。あの頃、リュウガ師父は重い病にかかっていたそうだ。悪性の腫瘍だったと聞いている。」
「……な……!」
ジンの口から語られた驚愕の事実を知ったヴァルターは驚きの表情で絶句した。
「だからこそ師父はあんたとの仕合いを申し出た。無論、あんたの武術の姿勢を戒める意味もあっただろうし……未熟な俺に、武術の極みを見せてやるつもりでもあったのだろう。だが、何よりも師父が望んだものは……武術家としての生を一番弟子との戦いの中で全うしたいということだったんだ。」
「………………………………。……クク……なんだそりゃ……。そんな馬鹿な話が…………あるわけねえだろうが……。じゃあ何だ?俺は体よく利用されただけか?そうだとしたら……俺は……」
自身が師匠に望んだ”死合い”を師匠に利用された事を悟ったヴァルターは皮肉気に笑った。
「確かにそれは……身勝手な話なのかもしれん。だが、強さを極めるということは突き詰めれば利己的な行為なんだろう。それが、俺たち武術家に課せられた宿命といえるのかもしれない。だからこそ師父は……あえて己の身勝手さをさらけ出した。そうする事で、あんたや俺に武術の光と闇を指し示すために……」
「………………………………」
「……ヴァルター、構えろ。」
自分の推測を聞いて黙っているヴァルターに拳を構えたジンは静かな表情でヴァルターを見つめて促した。
「なに……?」
「師父とあんたから学び、遊撃士稼業の中で磨いてきた『泰斗』の全てをこの拳に乗せる。そして、修羅となり闇に堕ちた不甲斐ない兄弟子に活を入れてやる。多分それが、あんたの弟弟子として俺ができる最後の役目のはずだ。」
「………………………………。……ケッ…………ずいぶん吹くじゃねえか…………。だったら俺は、結社で磨いた秘技の全てを拳に込めてやる……。『泰斗』の全てを葬るためにな。」
ジンの説明を聞いたヴァルターは舌打ちをした後、拳を構え、そして
「………………………………」
「………………………………」
2人は身体全体に凄まじい闘気を纏って、睨み合った!
「はあああああああっ……!」
「こおおおおおおおっ……!」
2人がさらに気を練り始めると、空気が大きく震え
(す、すごい……)
(このままだと片方は……)
2人の様子をエステル達は驚きながらも見守っていた。
「おおおおおおおおっ!」
「らあああああああっ!」
そして2人の攻撃が同時に交差し
「………………………………」
「………………………………」
交差した2人はお互いを背を向けた状態で微動だにしなかった。
「…………くっ………………」
「あ……」
「ジ、ジンさん!?」
しかしジンが地面に膝をつくのを見たエステル達は声を上げた。
「ククク…………仕方ねえやつだ……」
一方ヴァルターはジンの方を振り返り、煙草に火をつけたが
「……それだけの功夫を宝の持ち腐れにしてたとはな……。クク……ジジイの言うことが…………ようやく分かったぜ……。……ふぅ……美味ぇ……。本当に……タバコが………………美味ぇ…………」
ヴァルターの手から煙草が落ちると、ヴァルターは地面に倒れて気絶した!
「も、もしかして……」
「うん……ジンさんの勝ちみたいだね。」
二人の戦いがジンの勝利である事を悟ったエステル達はジンにかけよった。
「やったね、ジン。」
「いや〜、あんなとんでもない奴に勝つなんて、さすがですな。」
「これでお前と奴との因縁に決着がついたな。」
「うんうん!まさか、このとんでもない男に真剣勝負で勝っちゃうなんて!」
ソフィとケビン、リオンの祝福の言葉に頷いたエステルは明るい表情でジンを見つめた。
「……いや………」
一方ジンは静かに首を横に振った後立ち上がった。
「勝てたのは、俺が『泰斗流』を背負っていたからに過ぎんさ。もしあいつが『泰斗』の正当な使い手としてこの勝負に臨んでいたら……倒れていたのは多分、俺の方だっただろう。」
「も〜、そんなことないってば。それよりジンさん……ケガとかしてるんじゃない?」
「手当、しておきましょうか?」
「いや……大丈夫だ。……ヴァルターのやつもしばらくは目を覚まさんだろうし、このまま放っておいていいだろう。今はとにかく上を目指すぞ。」
「……うん!」
「それじゃあ奥にある端末を操作しましょう。」
そしてエステル達が端末を操作する為に端末に近づこうとしたその時、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた!
ククク……この時を待っていたぞ……
「へ……」
「!!」
「今の声は……!」
「やはり貴様もこの浮遊都市にいたか……姿を現せ、バルバトス!!」
声を聞いたエステルは呆け、ヨシュアとソフィは武器を構えて周囲を警戒し、リオンが声を上げたその時ヴァルターの傍にバルバトスが現れた!
「バルバトス……!」
「!奴が話にあったバルバトスっちゅう奴か………!とんでもない邪気を纏っている奴やな……!」
バルバトスを睨むソフィの言葉を聞いたケビンは武器を構えてバルバトスを警戒していた。
「こんな所にまで現れるなんて、しつこい男ね〜!まさかあんたも”輝く環(オーリオール)”を手に入れる為にこの浮遊都市に来たの!?」
「ククク……”輝く環(オーリオール)”?そんなものに興味はない。俺が求めるのは俺の”糧”となる”強者”との戦い!成長し、怒りと憎しみに満ちた貴様らを倒す事で我が飢えを満たさせてもらうぞ……!」
エステルに睨まれたバルバトスは凶悪な笑みを浮かべてエステル達を見回した後斧を構えて気絶しているヴァルターに視線を向けた。
「!?ヴァルターに何をするつもりだ!?」
「怒りと憎しみに満ちた僕達を倒す………――――!!バルバトス、まさか貴様……!」
バルバトスの行動を見たジンは血相を変え、バルバトスの言動と今の状況を重ね合わせてバルバトスが何をしようとしているのか察したリオンがバルバトスを睨んだその時!
「―――俺と闘う資格を失った貴様はこの俺の為に死ね。」
バルバトスが斧をヴァルターに叩き込むとヴァルターは一瞬ビクンと体を震わせた後2度と動かなくなり、
やがてヴァルターから大量の血があふれ出始め、瞬く間にヴァルターの周りは血の海になった!
「ヴァルター――――――ッ!!」
「なんちゅうことを………!」
「あ、あ、あんた…………何をやってんのよおおおっ!」
それを見たジンは声を上げ、ケビンは真剣な表情で声を上げ、一瞬呆けたエステルは怒りの表情でバルバトスを睨んだ。
「そうだ、その目だ!成長した貴様らが怒り、そして憎しむ……そんな貴様らを俺は待ち望んでいた!それでこそ殺しがいがあるというもの!」
「僕達に自分に対する怒りや憎しみを抱かせる為だけに貴方は僕達の仲間のジンさんと縁があるヴァルターを殺したのか………!」
「………ッ……!」
「貴方だけは絶対に許さない……!」
凶悪な笑みを浮かべて声を上げたバルバトスの話を聞いたヨシュアやジン、ソフィはバルバトスを怒りの表情で睨み
「―――これ以上貴様の犠牲になる者達を無くす為にも貴様をここで討つ。この浮遊都市が貴様の墓場だ。今度こそ死ね、バルバトス……!」
リオンは冷静な様子で武器を構えてエステル達と共にバルバトスとの戦闘を開始した!
と言う訳で皆さんが忘れたと思っていた(?)頃にまさかのバルバトス戦です!(ホント、原作並みにしつこすぎる……)なお、さすがにSC篇でのバルバトス戦はこれで最後です(ぇ)
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