英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版
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〜アクシスピラー・屋上〜

 

「や、やった……!」

「何とか退ける事ができたようね……!」

「ヘッ……見たか!」

地面に跪いているレーヴェを見てレーヴェが戦闘不能になった事を悟ったエステルとアーシアは明るい表情をし、アガットは勝ち誇った笑みを浮かべ

「はあ、はあ……」

「フ〜……これで”執行者”は全員無力化したな。」

「ああ……後は”教授”だけだね。」

ステラは戦闘の疲労によって息を切らせ、ルークとレイスは安堵の表情で呟いた。

「……なかなかやるが、俺の修羅を止めるほどではない。」

しかしその時戦闘不能になっていたはずのレーヴェは立ち上がった!

 

「ど、どうして……!?」

「所詮、お前たち遊撃士は人を守るだけの存在だ。『理』に至りもしなければ『修羅』に届く道理はない。小手調べはここまで―――そろそろ全力で潰してやろう。」

「くっ………」

「……だったら、レーヴェ。ここから先は僕1人で挑ませてもらうよ。」

レーヴェの言葉を聞いたエステルが唇を噛みしめたその時ヨシュアがその場にいる全員が驚く言葉を口にした。

「ほう……」

「ヨ、ヨシュア……!?」

「大丈夫、エステル。確かにレーヴェは強すぎるけど、それでもレーヴェにもダメージは効いている。あとは……僕にやらせてほしい。」

「ヘッ、本当なら俺も落とし前を付けたいところだが……。仕方ねえ、お前にだったら譲ってやってもいいぜ。その代わり……絶対に負けるんじゃねえぞ!」

「はい、必ず。」

アガットの激励の言葉に頷いたヨシュアはレーヴェに近づき、エステル達は二人の戦いを見守る為に後ろに退いた。

「フフ、確かに今の戦闘で俺の機動力は幾らか落ちている。その一点においてのみ、勝機があるかもしれないが……それでも勝率は限りなく低いぞ?」

「……分かってる。姉さんが救い、教授が繕い、父さんが解き放ち、そして今、エステルと共にあるこの魂……。遊撃士としての心得と”漆黒の牙”としての技……その全てをもって……”剣帝”に挑ませてもらう!!」

レーヴェの指摘に静かな表情で頷いたヨシュアは決意の表情で双剣を構え

「いいだろう……来い……”漆黒の牙”!」

対するレーヴェも剣を構え、二人は一騎打ちを開始した!

 

二人の戦いはほぼ互角で一進一退の攻防だったが、その攻防の途中、ヨシュアがレーヴェに一閃を喰らわせる事に成功した。

「フフ……やるな。……ならばこちらも全開で行かせてもらうぞ。」

「!!!」

そしてレーヴェは周囲の空気を震わせるほどの凄まじい闘気を纏い、一気に間合いをつめてヨシュアに一閃を喰らわせた!そこからの攻防はレーヴェが圧倒的でヨシュアは防御するのに精一杯だった。

「くっ……!」

レーヴェの攻撃を受けたヨシュアは双剣越しに伝わる凄まじい衝撃に表情を歪めた。

「………………………………。……ねえ、レーヴェ。1つだけ答えて欲しいんだ。どうして教授に協力してこんなことをしているのか……」

「!!」

ヨシュアが静かな表情で問いかけるとレーヴェは顔色を変えた。

「前に……カリン姉さんの復讐が目的じゃないって言ったよね。『この世に問いかけるため』……それは一体……どういう意味なの?」

「………………………………。……大したことじゃない。人という存在の可能性を試してみたくなっただけだ。」

「人の可能性……」

レーヴェの真意が理解できないヨシュアは呆けた表情をした。

「時代の流れ、国家の論理、価値観と倫理観の変化……。とにかく人という存在は大きなものに翻弄されがちだ。そして時に、その狭間に落ちて身動きの取れぬまま消えていく……。俺たちのハーメル村のように。」

「!!」

「この都市に関しても同じことだ。かつて人は、こうした天上都市で満ち足りた日々を送っていたという。だが、”大崩壊”と時を同じくして人は楽園を捨て地上へと落ち延びた。そして都市は封印され……人々はその存在を忘れてしまった。まるで都合が悪いものを忘れ去ろうとするかのようにな……」

「………………………………」

「真実というものは容易く隠蔽され、人は信じたい現実のみを受け入れる。それが人の弱さであり、限界だ。だが”輝く環”はその圧倒的な力と存在感をもって人に真実を突きつけるだろう。国家という後ろ盾を失った時、自分たちがいかに無力であるか……自分たちの便利な生活がどれだけ脆弱なものであったか……。そう……自己欺瞞によって見えなくされていた全てをな。」

「それを……それを皆に思い知らせるのがレーヴェの目的ってこと……?」

レーヴェの真意をようやく悟ったヨシュアは真剣な表情でレーヴェに問いかけた。

 

「そうだ。欺瞞を抱える限り、人は同じことを繰り返すだろう。第2、第3のハーメルの悲劇がこれからも起こり続けるだろう。何人ものカリンが死ぬだろう。俺は―――それを防ぐために”身喰らう蛇”に身を投じた。そのためには……修羅と化しても悔いはない。」

「………………………………。それこそ……欺瞞じゃないか。」

「…………なに?」

不敵な笑みを浮かべて答えたレーヴェだったが、ヨシュアが自分自身の決意を正面から否定した事に目を細めた。

「僕も弱い人間だから……レーヴェの言葉は胸に痛いよ。でも……人は大きなものの前で無力であるだけの存在じゃない。10年前のあの日……僕を救ってくれた姉さんのように。」

「…………ッ……………」

「ヨシュア………」

ヨシュアの話にレーヴェが僅かに驚いている中、ステラは優し気な微笑みを浮かべていた。

「そのことにレーヴェが気付いていないはずがないんだ。あんなにも姉さんを大切に想っていたレーヴェが……。だったら……やっぱりそれは欺瞞だと思う。」

「…………クッ………………」

ヨシュアの正論に返せないレーヴェは唇を噛みしめた後、鍔迫り合いの状態でヨシュアを後ろに押し返して、自分も一端後退した。

 

「カリンは特別だ!あんな人間がそう簡単にいてたまるものか!だからこそ―――人は試されなくてはならない!弱さと欺瞞という罪を贖(あがな)うことができるのかを!カリンの犠牲に値するのかを!」

「だったら―――それは僕が証明してみせる!姉さんを犠牲にして生き延びた弱くて、嘘つきなこの僕が……。エステルたちと出会うことで自分の進むべき道を見つけられた!レーヴェのいるここまで辿り着くことができた!人は―――人の間にある限りただ無力なだけの存在じゃない!」

レーヴェの叫びに反論するようにヨシュアは決意の表情で叫んだ。

「!!!」

そしてヨシュアの言葉にレーヴェが驚いたその時、ヨシュアは一気に間合いを詰めて、連続で突きの攻撃をした後、最後に凄まじい一撃でレーヴェの剣を弾き飛ばした!

「あ……」

「はあっ……はあっ…………はあっ……はあっ……」

剣を弾き飛ばされたレーヴェは呆けた表情で、弾き飛ばされた手を見つめ、ヨシュアは疲労を隠せない様子で息を切らせていた。

 

「や、やった……」

「ヘッ……勝負アリ、だな。」

「歴史に残ってもおかしくない一騎打ちだったね……」

「ああ……まさかヨシュアが一人で”剣帝”に勝つなんてな……ハハ、いつの間にかとんでもないスピードで成長したな……」

「ヨシュア……」

一方戦いの様子を見守っていたエステルは呆け、アガットは口元に笑みを浮かべ、レイスとルーク、ステラは静かな笑みを浮かべていた。

「ふうっ……はあっ…………ふうっ……ふうっ……」

「俺に生じた一点の隙に全ての力を叩きこんだか……。まったく……呆れたヤツだ。」

「はあ……はあ……。……ダメ……かな……?」

先程の自分の戦いに呆れた様子で語るレーヴェにヨシュアは息を切らせながら訊ねた。

「フッ……。”剣帝”が剣を落とされたのではどんな言い訳も通用しないだろう。素直に負けを認めるしかなさそうだ。」

「…………あ………………」

「やったああああっ!」

そして苦笑しながら自身の敗北をレーヴェが認めたその時エステル達がヨシュアに駆け寄った。

 

「凄い!凄いよヨシュア!あの”剣帝”に勝ったんだよ!しかも……剣だけを弾くなんて!」

「そうでもしない限り……万に一つの勝ち目もなかったからね。なるべく相手を傷付けずに無力化することを優先する……。父さんに教わった遊撃士の心得が役に立ったよ。」

はしゃいでいる様子のエステルにヨシュアは立ち上がって苦笑しながら答えた。

「そっか……」

「なるほどな……。”教授”に仕込まれた技術と”剣聖”から教わった心得……その2つを使いこなせば俺が敗れるのも道理か……」

「レーヴェ……」

「………………………………。俺は人という存在を試すために”身喰らう蛇”に協力していた。その答えの一つを出した以上、もはや協力する義理はなくなった。そろそろ……抜ける頃合いかもしれないな。」

「あ……!」

レーヴェの口から出た答えを聞き、レーヴェが結社を抜ける事を悟ったヨシュアはいきなりレーヴェに抱きついた。

「良かった……本当に良かった!……レーヴェが……レーヴェが戻って来てくれた!」

「お、おい……」

「フフ………」

嬉しそうな表情のヨシュアに抱きつかれたレーヴェが戸惑っている様子をステラは微笑ましそうに見守っていた。

 

「父さんに引き取られてからもずっと気にかかっていたんだ……。……声や顔は思い出せるけど誰なのかぜんぜん思い出せなくて……。やっと思い出せたと思ったら……敵として立ち塞がっていて……。……ずっと……不安だったんだ……」

「そうか……」

「あ、あの〜……」

(フフ、あれが素のヨシュアなのでしょうね。)

(ハハ、あんなヨシュア、今まで見たことがないな。)

(ふふっ、今のヨシュアを見たらみんな、驚くだろうね。)

(やれやれ……。マセてても、まだまだ甘えたい盛りのガキってところか。)

(そ、そうなのかなぁ?)

仲間達がヨシュアを微笑ましく見守っている中、苦笑しながらヨシュアを見つめているアガットの小声を聞いたエステルは首を傾げた。

 

「ご、ごめんエステル……何だかはしゃいじゃって……。まだ何も解決してないのに……」

するとその時エステル達に気づいたヨシュアはレーヴェから離れてエステル達に謝罪した。

「ヨシュア……。もう、そんなことでいちいち謝らなくていいわよ。久しぶりの仲直りなんでしょ?いっぱいお兄さんに甘えなくちゃ!」

「あ、甘えるって……」

「フフ……。エステル・ブライト。……お前には感謝しなくてはな。」

「ふえっ……!?」

レーヴェの口から出た予想外の言葉に驚いたエステルはレーヴェを見つめた。

「ユウナといい、こいつといい……。俺には出来なかったことを軽々とやってのけたのだから。そして、様々な者たちを導いてここまで辿り着いた……フフ……本当におかしな娘だ。」

「な、なんか全然、感謝されてる気がしないんですけど……」

呆れ半分の様子で感心しているレーヴェをエステルはジト目で睨んだ。

 

「ルーク・ブライト。八葉の剣とお前自身が編み出す独自の剣を使いこなすお前の力量……なかなかのものだ。さすがは”焔の剣聖”と言った所か。」

「ハハ……それと一つ訂正しとくぜ。八葉一刀流じゃない方の剣技――――”アルバート流”はちゃんとした流派の剣技で、師匠もちゃんといるぜ。」

「”アルバート流”……聞いた事がない剣技だが、お前のその剣技を考えればその師匠とやらも凄まじい使い手であるのであろうな。」

「ああ……俺の自慢の師匠だぜ。」

レーヴェの言葉を聞いたルークは自身の最大の強敵であり、同時に尊敬する師匠でもあった人物を懐かしそうな表情で思い出しながら答えた。

「レイシス王子殿下……あのリシャール大佐ですら不可能であった”剣聖”カシウス・ブライトに届いたという話……他国に対する畏怖として誇張された噂だと今まで思っていたが、どうやら”リベールの若獅子”は真実だったようだな。」

「フフ、私の剣は”結社”の”執行者”の中でもトップクラスの使い手である”剣帝”のお眼鏡にかなったかな?」

「フ……機会があれば万全の状態で手合わせを願いたいと思っている。」

「ハハ、それは光栄な話だね。」

レーヴェの自分に対する高評価を聞いたレイスは微笑みを浮かべて答えた。

「アガット・クロスナー。竜気をまといし必殺の重剣技、なかなかどうして大したものだ。フフ……少しは前に進めたようじゃないか?」

「お、おう……。って、したり顔で分かったような口利いてんじゃねえっての!オッサンそっくりだぞ、あんた!」

レーヴェに評価されたアガットは頷いた後表情を引き攣らせてレーヴェに指摘した。

「フ………剣聖に似ているとは光栄だ。………それと………………」

「え、えっと……私の顔に何かついているのかしら?(不味いわね……気づかれたかしら……?)」

目を細めたレーヴェに視線を向けられたアーシアは内心冷や汗をかいてレーヴェに問いかけた。

 

「いや………アーシア・アークといったな。ルフィナというお前と同じ法剣とボウガン使いの女を知っているか?」

「………ええ。短い間だけど、お世話になった先輩よ。私は事情があって、すぐに騎士団から去ってしまったけど……」

「フ………元星杯騎士か。数年程前にある一件でやり合った事がある。その時は見事に出し抜かれたが、いまだ創建でいるのか?」

「…………いえ。騎士団時代の仲間達の便りによると、彼女は事故で亡くなったとの事よ。4年くらい前の事よ。」

「そうか……惜しい女を亡くしたものだ。しかし……実際に戦っていて気づいたが、お前はルフィナとよく似た戦い方をしているな。」

「え、えっと……偶然だと思うわよ……?法剣もボウガンも騎士団に伝わっている武器だし。」

(誰の事なんだろう……?)

レーヴェとアーシアの会話を聞いていたエステルは二人が誰の事を話しているのか気になり、首を傾げた。

「…………………ステラ・プレイスと言ったか。――――改めて訊ねる。お前は一体何者だ?何故俺の幼馴染を名乗り、俺とヨシュア、そして亡きカリンしか知らない話を知っている。」

「レーヴェ…………」

ステラを見つめて問いかけるレーヴェをヨシュアは複雑そうな表情で見守り

「…………………………今は答える事はできないわ。でも……今回の件が解決したら、この仮面を外して私の素顔を顕わにして、貴方の疑問にも全て答える事を約束するわ。」

「…………そうか。」

ステラの答えを聞いたレーヴェは頷いた後静かな表情でステラを見つめていた。

 

「そういえば……どうしてレーヴェはここにいたの?まさか、この魔法陣みたいなのが”輝く環”ってことはないわよね?」

「いや、これは単なる光学術式だ。”根源区画”より送られた力を“奇蹟”に変換するためのな……」

「!!!」

「”根源区画”……そこに”輝く環”があるんだね?」

自身の疑問に答えたレーヴェの答えを聞いたエステルは目を見開き、ヨシュアは真剣な表情で問いかけた。

「ああ……。この”中枢塔”はいわば、”環”の力を都市全域に伝えるためのアンテナ兼トランスミッターにあたる。その直接的な影響範囲はおよそ半径1000セルジュ。端末である”ゴスペル”を中継すればリベールはおろか、大陸全土にも影響を及ぼすことができるそうだ。」

「と、とんでもないわね……。それじゃあ、異変を止めるには”根源区画”にある”輝く環”をどうにかする必要があるのよね?」

「そういうことだ。だが、”環”はそう簡単にどうにかできる代物ではない。アーティファクトの一種らしいが、自律的に思考する機能を備え、異物や敵対者を容赦なく排除する。1200年前、”環”を異次元に封印したリベール王家の始祖もさぞかし苦労させられたそうだ。そしてお前たちは、その苦労に加えて”白面”も相手にしなくてはならない。」

エステルの疑問に答えたレーヴェは静かな表情でエステル達に警告した。

 

「!!」

「……当然、そうなるだろうね。でも、レーヴェが協力してくれたら教授にだって対抗できる気がする。」

「こいつめ……。俺が付いて来るのを当然のようにアテにしてるな?」

「へへ……」

そして苦笑しているレーヴェに見つめられたヨシュアが口元に笑みを浮かべたその時!

「フフ……仲直りしたようで結構だ。しかし少々、打ち解けすぎではないかな?」

「ガッ……」

何とワイスマンが転移術で現れた後杖から電撃を放って、レーヴェに命中させてレーヴェをふっ飛ばした!

 

「あ……」

「「レーヴェ……!」」

それを見たエステルは呆け、ヨシュアとステラはレーヴェに駆け寄った。

「フフ……ご機嫌よう。見事、試練を乗り越えてここまで辿り着いたようだが……。こういうルール違反は感心しないな。」

「な、なにがルール違反よ!あたしたちは正々堂々と執行者たちと戦ったわ!そしてヨシュアは……レーヴェとの勝負に勝った!変な言いがかりを付けてるんじゃないわよ!」

ワイスマンの指摘に対してエステルは怒りの表情で反論した。

「フフ、まだまだ今回の計画の主旨に気付いてないようだね。結社に属する者は皆、それぞれ何らかの形で”盟主”から力を授かっている。そのような存在が君たちに協力してしまったら正確な実験は期待できないだろう?」

「じ、実験……?」

「……まさか……。僕たちがここに来たことすら計画の一部だったというのか!?」

「フフ……幾分、私の趣味は入っているがね。少なくとも計画の主旨の半分を占めているのは間違いない。」

「”福音計画”………”輝く環”を手に入れるだけの計画ではなかったのね………」

ヨシュアの指摘に怪しげな笑みを浮かべて答えたワイスマンの答えを聞いたアーシアは厳しい表情でワイスマンを睨んだ。

 

「クク……全ては”盟主”の意図によるもの。その意味では、ヨシュア。君も実験の精度を狂わす要素だ。非常に申し訳ないが……そろそろ私の人形に戻ってもらうよ。」

「!!!」

ワイスマンの言葉にヨシュアが驚いたその時、ワイスマンは指を鳴らした。するとヨシュアの肩に描かれてある”結社”の刺青が反応した。

「ぐっ……!」

「「ヨシュア!?」」

呻いているヨシュアを見たエステルとステラが心配そうな表情で叫んだその時

「………………………………」

ヨシュアはその場から消え、双剣を構えた状態でワイスマンの傍に移動した!

 

「………………………………」

「!!!」

「そ、そんな……」

「な――――」

「野郎…………!」

「そう来たか……!」

「この時の為に敢えてヨシュアを自由にさせていたのね……!」

何の感情もないヨシュアの瞳を見たエステルとステラは表情を青褪めさせ、ルークは絶句し、アガットとレイス、アーシアは怒りの表情でワイスマンを睨んだ。

「ヨシュア……嘘だよね……。ねえ……こっちに戻って来てよ……」

「………………………………」

悲痛そうな表情で尋ねるエステルの言葉にヨシュアは何も返さず、感情のない目でエステルを睨んでいた。

「お願いだから……そんな目をしないでよおおっ!」

「フフ、無駄なことは止めたまえ。かつて私は、壊れたヨシュアの心を修復するために”絶対暗示”による術式を組み込んだ。その時に刻んだ『聖痕(スティグマ)』がいまだ彼の深層意識に眠っていてね。その影響力は大きく、働きかければたやすく身体制御を奪い取ってしまう。」

「……そんな…………」

「ああ、ちなみにヨシュアの肩にある紋章は刺青ではなくてね。私が埋め込んだ『聖痕』に対するヨシュアのイメージが現出したものだ。フフ……記憶が戻ったのと同時に現れたから彼もさぞかし不安に思っただろうね。」

「………………………………。……嘘、だったんだ。ヨシュアを散々苦しめた挙句に自由にしてやるって言っておいて……。それすらも……嘘だったんだ……」

「別に嘘は言っていないさ。君と共にヨシュアがこんな所まで来さえしなければ私もここまでしなかっただろう。クク……全ては君たちが選んだ道というわけだ。」

「っ……ふざけんじゃないわよ!あんたなんかにあたしたちの歩いてきた道をとやかく言われたくなんかない!ヨシュアを操ったからって今更へこんだりするもんですか!あんたなんかぶっ飛ばして絶対にヨシュアを取り戻すんだから!」

「フフ……そう来なくては。だが、私もこれから外せない大切な用事があってね。”根源区画”で待っているから是非とも訪ねてきてくれたまえ。」

ヨシュアを正気に戻す為にワイスマンと戦おうとしたエステル達だったが、ワイスマンは転移術を発動させてヨシュアと共にその場から消えた。

 

「ああっ……!」

「クッ……不味いな……どうすれば、”根源区画”って所に行けるんだ?」

ワイスマンとヨシュアが消えるのを見たエステルは悲痛そうな表情をし、ルークは二人の元に辿り着く方法を考え込んでいた。

「……奥にある……大型エレベーターを使え……」

その時倒れていたレーヴェが苦しそうな様子で答えた。

「レーヴェ……!よかった、無事だったんだ!奥にあるエレベーターって……」

「まさか……あの大きなプレート!?」

レーヴェが無事だった事にエステルが安堵している中、何かに気づいたアーシアがエレベーターと思われる大きなプレートを見つめて声を上げた。

「”環”が眠る”根源区画”に…………降りることができるはずだ……。急げ……もう時間がない……」

「わ、分かった!」

「それ以上しゃべらないで!傷に響くわ!今、傷を治療するわ!」

エステル達がエレベーターに向かおうとし、ステラがレーヴェの治療を開始しようとしたその時2体の大型の人形兵器達が道を阻むかのようにエステル達の前に着地した!

 

「チッ……アルセイユを撃墜した……!」

「”トロイメライ=ドラギオン”……。ワイスマンめ……俺の機体以外にも用意していたのか……」

新たな敵の登場にアガットは舌打ちをし、レーヴェは悔しそうな表情で呟いた。

「さすがに簡単に通してくれなさそうだね………」

「くっ………何とかして切り抜けないと………」

攻撃の構えをした人形兵器達をレイスが警戒している中唇を噛みしめたエステルが呟いたその時!

「―――いや、ここは我々が引き受けよう。」

なんとユリア大尉率いるアルセイユの仲間達、そしてカプア一家のジョゼット、キール、ドルンが駆けつけた!

 

「ユリアさん、ミュラーさん!それにみんなも………」

「ど、どうしてこんな所に……?」

「ふふ、アルセイユの修理がそろそろ完成しそうなのでね!」

「動けるものを集めた上で加勢しに来たというわけだ!」

「わしはオマケじゃが……こりゃ、凄い所にきたのう!」

「フフン、言っとくけどボクたちも忘れないでよね!」

「ま、山猫号の修理もそろそろ終わる頃合いだからな。」

「お前さんたちの様子をちょいと見に来たってわけさ。」

「そっか………」

仲間達の心強い援軍にエステルは明るい表情をした。

 

「ここは私達に任せて!」

「お前達はさっさと先に進め……!」

「みんな……ありがとう!」

ソフィとリオンの激励を受けたエステルは明るい表情で仲間達に感謝し

「行け……!エステル・ブライト……!……その輝きをもってヨシュアを取り戻すがいい……!」

「エステルさん……闇に堕ちてしまったヨシュアを一度は光の世界に連れ戻すことができた貴女なら、必ずヨシュアを取り戻す事ができます……!ヨシュアの事……どうかお願いします!」

「……うんっ!!」

レーヴェとステラの激励の言葉に力強く頷いた。

 

「行くぞ、みんな!」

「二手に分かれて撃破する!」

「おおっ!」

そしてユリア大尉とミュラー少佐の号令に力強く頷いた仲間達は人形兵器達との戦闘を開始し、仲間達が戦闘をしている隙にエステル達はエレベーターに乗って、下に向かった。下に向かっている最中、屋上でも現れた機械人形”トロイメライ=ドラギオン”が襲い掛かって来たが協力して倒し、やがて”根源区画”に到着した。

 

〜根源区画〜

 

「な、何とか……終点まで辿り着けたわね。ここが……”根源区画”なのかな?」

「ええ……圧倒的な力が奥の方から流れている………どうやら間違いなさそうね………」

「つまり”輝く環”がこの先にあるってことか……」

「それにヨシュアも………」

「当然”白面”も待ち構えているでしょうね。」

「間違いなく厳しい戦いになるだろうね。」

エステルの疑問に答えたアーシアは仲間達と共に奥へと続く通路を見つめた。

「………………………………。……多分、これが最後の戦いになると思う。”輝く環”を何とかして異変を食い止めるためにも……。あの”白面”からヨシュアを取り戻すためにも……。みんな……最後の力をあたしに貸して!」

「任せておけ!」

「言われるまでもねえ!」

「ああ……及ばずながら!」

「全力で力を貸すわ!」

エステルの号令にルーク達は力強く頷いた。

 

そしてエステル達は先を進み、”輝く環”の元へと向かった――――

 

 

説明
第104話
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