ゆりいろモザイク5〜陽子と綾
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ゆりモザ5(陽子と綾)

 

【陽子】

 

 いつも通りの朝、いつも通りの空、いつも通りの妹と弟たち。

そしていつも通りの友人に囲まれて楽しく、何一つ変わらない日だと思っていた。

だけど、最初の変化を感じたのはアリスの様子からだ。

 

 教室で悩んでいるアリスと話をしているうちに何だか他人事とは思えなくなっていた。

なぜか、話をしている内に頭の中に綾の顔を思い浮かべていたからだったか。

 

 綾とは親友でそれ以上でもそれ以下でもない。

今までは何の疑いもなくそう思っていた。けれどアリスとシノの強い想いを見ていて

あれ?と何か違うなと感じていた。

 その違和感が何なのかアリスの相談を聞くまでわからなかったけど話が終わった後に

私の中にあったのはモヤモヤしたこの変な感覚。

 

 それを確かめたくなって…綾と…二人きりで話をしたくなっていた。

都合が良いことにカレンもアリスもシノも、それぞれが想っている相手と一緒に

帰ることになっていたから、私も綾を誘って一緒に学校を出た。

 

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***

 

 学校からの帰り道、綾と楽しくお喋りしながら歩いているとふとアリスとのやりとりを

思い出していた私は綾のことを意識しているのか、無性に気になっていた。

 

 親友としてずっと見てきて、それに満足していた。はずだった…。

だけど今思うと何か違うなって…何か足りていないと感じていた。

 

「なぁ、綾」

「なに?」

 

 途中で私は進めていた足を止めて、綾を見ながら聞いてみた。

 

「私のことどう思ってる?」

「え…!?」

 

 ざっくりすぎる聞き方に一瞬固まる綾。

顔が真っ赤になってぎこちなくなる表情から出された言葉は。

 

「勉強とか…まぁ色々しっかりしてほしいとこもあるけど」

「いやいや、そうじゃなくてさ!」

 

 いつもなら何気ない返答で流していたかもしれないけれど

アリスの気持ちに押されたからなのか、それとも私が今のままじゃ嫌だったからなのか。

どっちかは今はわからないけど、聞かずにはいられなかった。

 

「綾は…私と…その…どうなりたいわけ…?」

「何で…急に…そんなこと…聞くの…?」

 

「綾!?」

 

 照れくさくなってちょっと視線を外してからすぐに戻すと綾の目から大粒の涙が

溢れ落ちそうになって私はびっくりした。

 

「私がずっと…どんな気持ちで…陽子のこと想っていたと…」

 

 声が徐々に小さくなり、泣きそうになるのをグッと堪えながら私に目で

訴えかけてきたのを見て私は胸を締め付けられるような気持ちだった。

 

 私は最低だ。傷つくのが怖くて本当の自分の気持ちから逃げるようにして

親友として接していたことに気付いた。優しい綾に甘えてちゃんと見ようとしなかった。

 

 小刻みに震える綾の手を握って私はしっかり綾の目を見て優しく告げた。

 

「綾…ごめん」

「…!」

 

 そして綾が何かを言う前に綾の背中に手を回して自分に引き寄せて優しく抱きしめた。

日が傾き空の色が変わる。目に映る夕焼け空が少し滲んで眩しく感じた。

 

「綾…私も綾のこと好きだよ…」

「陽子…?」

 

「ごめんな、遅くなって…。多分、これまでけっこう傷つけてきたかもしれないよな」

「ううん…そんなこと…ない…」

 

 強張っていた綾の体が少しずつ力が抜けていって、声もいつもの綾に戻っていった。

そしてもう一度少しだけ離して視線を合わせた。泣いていたせいか少し赤くなった綾の目。

こんなにも想われていたなんて、私の中で不安や誤魔化していた自分の気持ちなんか

全部吹き飛んで、今は綾に対して愛おしい気持ちでいっぱいになっていた。

 

「ありがとう、綾」

「陽子…ん…」

 

 私の名前だけ呼ぶ綾に、私は胸が破裂しそうになるほど強く高鳴るのを耳にしながら

小さく震える綾の唇に自分のを重ねた。少し汗の混じった匂いと綾の匂い、

綾の柔らかい唇の感触と吐息が濃厚に感じていた。

 

 どれくらいしていたかはわからなかった。まるで時間が止まったかのように

私たちは長い、長いキスを交わしていた。

 

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***

 

「私、怖かったの…。私の気持ちで陽子に引かれて距離を置かれるのが…」

「そんなことないのにな、お互いにそういう気持ちに怯えていたんだ」

 

 私たちは手を繋ぎながら歩きながら話していた。不思議とさっきまで溜まっていた

モヤモヤがすっかりなくなってスッキリした気持ちでいた。

 

「うん…でもね。今でも少し不安なのよ。これまででも居心地良かった陽子との

関係が変わってしまうかもしれないって」

「何も変わらないよ」

 

「え?」

 

 私は綾の手を少し力を込めて握って肩を寄せて顔を近づけた。

 

「少し距離が近づくだけだよ」

「も、もう…。陽子ったら!」

 

「あはは、顔赤くなってかわいいな〜」

「もう!からかわないで!」

 

 ぽこぽこと空いた手で軽く背中を叩いてくる綾。

叩かれても全然痛くなくて、逆に幸せな気持ちがどんどん湧いてくるよう。

 

「でもどうしてこんな急に心境の変化が?」

 

 思い出すようにして不思議がる綾に私はアリスとのことを話した。

 

「ちょっと相談に乗ってたらさ、私の方も思い当たる節があったというか。

気持ちに気付いたというか、少し迷っていたけど」

「今更すぎるわね」

 

「ほんとそれな」

 

 二人で笑い合って空を見ながら何か納得した表情を浮かべる綾。

 

「アリスたちも上手くいってるといいわね」

「大丈夫だろ、あの二人は」

 

 少しお互いの気持ちを確認するだけで後はなるようになるだろう。

私のそんな気持ちを知ってか綾は微笑みながら頷いていた。

 

「それもそうね」

 

 そろそろ手を離してそれぞれの家に帰るところまで来ていた。

その時、ちょっと不安そうに私を見る綾は一言だけ私に聞いてきた。

 

「私たち、ずっと一緒よね…?」

「当たり前だろ」

 

 手を離すことに躊躇しながら聞いてくる綾に、私は綾の額に自分のをこつんと

くっつけながら優しい声でそう告げた。

 

 これまでは親友としての「当たり前」だったけど、今は恋人の言葉として綾に伝えた。

今度は嬉しそうな顔で泣きそうになるのを抑えてこれまで見た中で一番明るい笑顔を

私に向けてくれた。

 

 家への道を一人歩きながら私は別れる直前の綾の言葉がずっと耳に残っていた。

 

『ありがとう』

 

 ただそれだけのありふれた言葉がこそばゆくてたまらなく嬉しかった。

いつも通りの楽しい予定だったけれど、今日はそれ以上の幸せな日となった。

 

「ずっと一緒だよ…」

 

 誰に言うでもなく、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いて私は顔が火照ったまま

家へと向かった。

 多分、そのことで妹や弟に聞かれたりからかわれたりするかもしれない。

だけど私はもう何一つ隠さずにいようと胸を張ってそう思えたのだった。

 

お終い。

 

説明
ゆりモザ2の流れの続きみたいになってしまいました(・。・)
陽子は綾の気持ちに薄々気付きながらもはぐらかしている
ように見える時もあるので、変な常識に縛られてるのかなぁとか
思いながら書いてました。

愛することは自由で好きなようにすればいいのに。
人間の不自由さが描けていればいいなと思いました。

このカップルも好きなのでいつか書きたいとは
思っていましたがやっと書けて楽しかったです(*´∇`*)
しかし普段動かさないキャラなのでキャラ崩壊していないかが
不安なところですね〜(・。・;
少しでも楽しんでもらえたら幸いです。

これは一部加筆修正しているので修正前を見たい方はこちらに↓
http://blog.livedoor.jp/hatunegun/archives/47323310.html
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タグ
きんいろモザイク 百合 猪熊陽子 小路綾 陽綾 キス 恋愛 

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