押忍!番長より 〜 サキと轟 第一話 |
第一話 学帽とはねっ返り
初冬のある日。11月某日。
住宅街を歩く二人の学生の姿があった。一方は体格がよく、長ランに学帽、ボンタンに下駄履きという、今となっては懐かしい出で立ちをしている。
この学生の名は轟金剛。祖父が校長を努める轟高等学校に通い、番を張っている。だが、この男のポリシーは喧嘩嫌い。喧嘩をしない番長として、校内ではちょっとした有名人だった。
隣を歩く、剃りが入ったボウズ刈りの学生は轟の舎弟である。本名は設定されていない可哀想な男である。
二人は話しながら歩いていたが、それはどうも昨夜の格闘技の番組の話のようだった。
「フィニッシュが凄かったよなー。」
「そうそう、左左と来て、フックをフェイクにカウンター誘って、右ストレート叩き込んだんっスよね。」
「えーと、確かこうやってこうやって・・・あれ?難しいな。」
轟はフィニッシュブローを再現しようと拳を振り回すが、どうも上手くいかない。
「同じ腕で違う軌道のパンチを続けざまってのは素人には・・・」
「そらそうだけどよ、えーとジャブジャブフック・・・」
「ジャブ・ショートフック・フックになってるっスね。むしろその方が難しそうな・・・」
「こうか!ジャブジャブフック、右ストレート!」
「あ、あぶな・・・」
右ストレートまで成功した場所がまずかった。轟達から見て右が死角になる曲がり角。その曲がり角から現れた人影にあろうことか右拳が直撃してしまったのだ。
「〜〜〜〜〜っ!」
「ああああああ〜っ!済まん!大丈夫か!」
人影はセーラー服を着た女子高生。金髪のロング、へそ出しに足元まである長いスカート。お世辞にもガラがいいとは言えない容貌だった。むしろ絵に描いたようなスケバンである。この女子高生の名前は如月サキ。通り名を疾風のサキという。この物語の主人公である。
「てめえ!何しやがる!このアタイを疾風のサキと知ってか!」
「本当に悪かった!不幸な事故だ!・・・えっと・・・湿布の?」
「し・っ・ぷ・う・の!ふざけた野郎だ、顔貸しな!」
轟はそんなサキの顔をまじまじと見ると、
「・・・うーん、どっちかと言うと、顔貸すのはお前の方だな。」
そう言って彼女をその肩に担ぎ上げる。
「あんだと・・・あ、おいふざけんな!何しやがる!」
彼女の抵抗もお構い無しに。
「こっからなら俺らの学校は目と鼻の先だ。保健室にいい先生がいる。その顔、手当てしてもらえ。舎弟、お前は俺のカバン家まで頼む。」
「了解っス。」
舎弟はそう言って轟の鞄を持ち、立ち去った。それを見た轟は今来た道を引き返す。
「そ、そんな事はどうでもいいよ!降ろせ、降ろせバカ!」
轟はそんなサキの悪態を無視して歩いた。
そしてサキに背中を叩かれながら、確かにほんの数分で轟高等学校に着いた。
「さ、着いたぞ。それと、叩くのはいいが、肘は勘弁してくれるか?結構痛い。」
「うるさい!とっとと降ろしやがれ!」
罵るサキ。それでも轟は彼女を担いだまま校舎内に入っていった。
「ここだ。」
そして保健室前で立ち止まる。そのドアには”在室中 桜井”と書かれた札が下がっている。それを確認した轟は引き違いのドアを開け、サキが鴨居に頭をぶつけないように姿勢を下げつつ中に入った。
「せんせーい、怪我人でーす。」
轟はそう言うと前屈みになってサキを床に降ろした。保健室の机には、ショートボブの20代半ばだろうか、美しい女性が椅子に座っている。女性の名は桜井マチコ。この学校の校医だ。
「あら、轟君。今日はドッジボール?それともあっちむいてほい?」
(ふん、こいつトドロキってんだ。でも何言ってんだこの女・・・?ドッジボールならまだしもあっちむいてほいで怪我?)
サキはこの女性の言葉に疑問を持った。まあそれは無理も無い。
「いや、俺がこいつを殴っちまって・・・」
「え?轟君が喧嘩?喧嘩はしない主義じゃなかったの?」
「いや、事故です。事故。説明するとめんどくさいんで後。今はこいつ手当てしてやって。」
マチコはその言葉にサキの方へ向き直り、
「そうね。そうしましょう。あら・・・綺麗な顔が台無しじゃない。」
そう言いながら彼女の頬に手を伸ばしたが、
「うるせえな!構うんじゃないよ!」
サキはそう毒づきながら頬に触れようとしたマチコの手を払い除けた。マチコは一瞬固まるが、すぐに笑顔で
「お譲ちゃん・・・大人の言う事は聞くものよ。」
そう言って彼女を諫める言葉を口にした。そのマチコの言葉は穏やかなものの、サキを諫めるどころか本能的にビビらせる迫力を孕んでいた。そして何よりもその笑顔が彼女には怖かった。
(ヤ、ヤバい・・・この人には逆らわない方がよさそうな・・・気がする。多分。)
サキはそう判断し、ここは素直に従う事にした。
「じゃ、俺はこれで・・・」
「待ちな!逃げるんじゃないよ!オマエとはまだ話ついちゃいないんだ!」
サキは部屋を出て行こうとする轟を呼び止めた。
「分かってる。廊下で待ってるだけだ。」
轟はそう言い残し保健室を後にした。
「あなた、お名前は?よかったら教えてくれないかしら?」
「・・・サキ・・・です。」
「そう、いい名前ね。で、サキちゃん、ひょっとして轟君と喧嘩しようとしてない?だったら無駄よ。彼、絶対に買わないから。」
手当てをしながらマチコが言う。
「余計なお世話!・・・です。買わないったって、殴りかかれば買わない訳にはいかないだろ・・・じゃないんですか?」
「ふふふ、そうね、まあやってみなさいな。そうしたら解るから。彼、いわゆる番長なんだけど、この学校の校風はね、暴力絶対禁止。それでも番を張れるっていう事がどういう事か、がね。」
「・・・・」
やがて手当ても済み、ほっぺたに大きなガーゼを貼られたサキが保健室から出て来た。そこには先ほどの言葉通り、轟が待っていた。
「おう、終わったか・・・」
「はっ!」
サキは轟の言葉を待たず、素早い踏み込みから剃刀を挟んだ指で切り付ける。が、轟は一歩も動かず寸前の所でその右手首を左手で掴む。
「なっ!?離しやがれ!」
しかし、まるでコンクリートで固められたように掴まれた右腕は動かない。
「このっ!この!」
残った左腕や足で殴ったり蹴ったりするが、右腕が固定されている状態なので手打ちになってしまい全く利く気配が無い。ぽこぽこと殴られながら、轟は握った左手に少し力を加える。
「ああっ!」
まるで万力で締め付けられたような錯覚を覚えたサキは、その右手から剃刀を落とした。それを見た轟は左手を離し拾い上げた。
「喧嘩はいかん、喧嘩は・・・しかもこんな物まで使ったら洒落にならん。」
轟はそう言いながら、剃刀をぱきん、と人差し指と親指で割った。
「ちきしょう・・・オマエ、ここで番張ってるらしいじゃないか!それで喧嘩しない主義なんて笑わせるよ!そんな腰抜けに番が務まるのかよ!」
サキは右手首を押さえながら叫んだ。
「俺は絶対に手を出さない。だが襲ってきた相手にも手を出させない・・・さっきみたいにな。」
「そんなの、おまえほどの力があれば、ぶちのめせば済む話じゃないか!」
「暴力は何も生まん・・・憎しみ以外はな。暴力に暴力で応えたらいかんのだ。」
感情的にまくし立てるサキに対し、轟はあくまで冷静に諭した。
「ふざけんな!喧嘩売る側にゃ、通用しないよ!」
「だからそういう奴には俺流の勝負方法で白黒つけてもらう事にしている。」
「・・・俺流?」
「まあ、付いてこいや。」
そして轟は踵を返し廊下を歩き出した。サキは怪訝に思いながらもその後をついて行った。
轟が向かった先は体育館だった。
「・・・その服じゃ都合が悪いな。これを貸してやる。そこに更衣室がある。着替えて来い。」
サキは渡された紙袋を持ち、言われるままに更衣室に入ると袋の中身を見た。
「って、なんだよ、これ・・・」
それは、半袖シャツにブルマ。いわゆる体操着だった。
「おい!なんだよこのカッコは・・・!」
サキは叫びながら更衣室を出た。律儀にもちゃんと着替えを済ませて。その声に振り向く轟。その手には直径30cmほどのボールがあった。
「やった事あるだろ?ドッジボールだ。ただし轟流。相手にぶつけてKOして勝利になる。これが俺流の勝負方法だ。」
「な、なんだそりゃ・・・そ、それになんだい・・・その娘は?」
轟の傍らにはいつやって来たのかこの学校の女生徒であろう、髪の毛をアップにした少女が立っていた。
少女の名は青山操。轟の幼馴染でありクラスメートである。
「立会人をやってもらう。名前は操という。」
「青山操です。よろしくね☆」
「・・・フン。」
「あらま。」
そして二人は操を挟んで対峙する。
「準備はいいな?それじゃ取り敢えずお試しって事で、軽く行くぞ。オラァ!」
軽く、とは言っているが彼のポリシーは常に全力、真剣。手加減などされていなかった。いや、彼に手加減などという器用な真似は出来ないと言った方が正しい。
「軽くっておい・・・わあああ!」
直撃。サキは2・3メートルほど弾き飛ばされた。
「うむ、この種目は駄目そうだな。じゃ次は・・・椅子取り・・・は駄目だ。女相手じゃこっちが恥ずかしい。あっちむいてほいは・・・結果的に顔殴る事になるからこれも駄目。よし、次は卓球だ!」
「なんなのよ〜」
「ふーん、見た感じ卓球は普通じゃないか・・・」
サキはちょっと安堵しつつ、そう言いながら何気なく球を手に取ろうとする。しかし、あろう事か掴み損ねた。それは卓球の球としては常識外れに重かったのだ。彼女は改めて適正な力で球を手に取って抗議の声を上げた。
「ちょっと卓球って、見た目は卓球だけど、何、この異常に重い球は!」
そう、この卓球の球は中身が詰まっていた。それは言わば、つるつるのゴルフボールとでも呼ぶべき物だった。
「それも轟流だ。当たり所が悪ければKO必至。」
「おい待て・・・暴力よりタチ悪いんじゃないのか?それ!?」
轟はサキの訴えをスルーしてサービスのモーションに入った。
「行くぞ!オラァ!」
「うわわわ、来た!」
直撃。鳩尾を押さえて苦悶するサキ。
「う、わー・・・どうも運動系はだめみたいよ。轟君。」
うずくまったサキを覗き込むように操は言う。
「うーん、どうもそうみたいだな・・・じゃあ紙相撲で行くか!」
「紙相撲・・・ってなんだ?」
「最近の子供はもうこんな遊び知らないだろうけどな。俺も親父に教わった。こうやって紙の力士を作って、軽く揺れるように作ってある土俵に乗せて、土俵を揺らしてやると・・・・」
「あ、動いてる。」
「な?面白いだろ。お前も力士作ってみろよ。」
「あ、ああ・・・」
でっきるっかな でっきるかな さてさてふふーん
「で、出来たぞ・・・」
「おう、いい出来じゃないか。じゃあそこに置いて・・・八卦よい!」
トントントントントントン・・・・・・パタ。倒れたのは轟の紙力士だった。
「あ、これ得意かも・・・」
「そうか!よし、じゃあこれで勝負だ!」
「勝ったーーーーー!」
「また勝ったーーーーーー!」
・
・
・
・
・
リザルト サキの興が乗り50戦、サキの49勝1敗。
「あはは、なんだいだらしないねえ。まあ、今日の所はこんぐらいで許してやるよ!」
サキはすっかり気を良くし、上から目線になっていた。
「そ、そうか・・・済まないな。」
「じゃあ今日は帰るから、今度会うまでに腕磨いときな!」
サキはそう言い残すと着替えを済ませ、じゃあな、と告げ意気揚々と体育館の出口に向かう。割と単純である。轟はその背中に声を掛ける。
「もう遅いし、気を付けて帰れよ!」
そんなサキの背中を見送りながら操が言う。
「今度会うまで、って、また来るつもりよ。どうやら気に入られたみたいね。轟君。」
「よせやい。」
そう言いながら轟も、何故か彼女の事が気になっていた。
その日の夜、サキの部屋。
(なーんか、うまく乗せられちゃったな・・・でも面白い奴だったな・・・今度・・・また会いに行ってみようかな・・・)
それから数週間後。サキの女子高。終業を告げるベルが鳴る。
「ふー、終わったー。さて、今日はあいつどっちにいるかな。河川敷かな、湖かな。」
いつの間にか轟を探す事が日課になっているサキだった。
つづく
説明 | ||
大都技研のスロット台、押忍!番長より、サキを主人公に据えたお話です。 これそもそもは、私が2chスロサロンのサキスレでの、 実はサキは轟の事が好きでツンデレである というムーブメントに触発され、勢いに任せて書き連ね、スレに投下したSSを加筆、 修正、再編集して自サイトで公開しているものです。 一時小説家になろうにも完全版と呼べる物を投稿していましたが、あそこが二次創作 の扱いを止め、削除されてしまった上、最近手元のデータも失ってしまったため 残ったのはゲームや台本のような台詞の頭にキャラ名がある、小説と言うには いささかみっともない自サイト版だけとなってました。 そしてふと、「完全版、復元しようかな。」とか思ってしまい、書き直しながら 投稿を始めました。 所がこれが結構骨の折れる作業でして、果たして最後までモチベーションは続くのだろうかw |
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