英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜ツァイス発着所〜
翌日、定期船から乗客が降りてくる中にアガットがいた。
「あー、面倒だな……あんな約束しなきゃ良かったぜ。あんときはチビスケに押されてついつい『月末の金曜日』とか言っちまったが……メシを食いに行くために毎月スケジュールを調整するのものなぁ………」
定期船から降りたアガットは溜息を吐いていたが
「……まあ、いいか。あいつには借りもあるしな。」
優しげな雰囲気を纏わせて呟き、ギルドに向かって歩き出した。しかし
「な、何だ……?急に寒気が………???ま、まあいいか………風邪ひいたワケでもねえみてえだし……」
突如、寒気がした事に戸惑った。戸惑ったがアガットだったが気を取り直してギルドに向かった。
〜中央工房・地下実験室〜
一方その頃、エリカとダンはオーバルギアの試作機の調整をしていた。そしてその時ティータが近づいて来た。
「あ……お父さん、お母さん。あの、えっと……」
「やあティータ。今日はゆっくり眠れた?」
「う、うん大丈夫。ぐっすり寝て元気になったよ。で、でも……あの………」
ダンの言葉に頷いたティータは戸惑った表情で何かを言いかけたその時
「このオーバルギアに徹底的にいたぶられて床に這い蹲る赤毛……ああ、目に浮かぶわ……♪」
エリカが笑顔で物騒な言葉を呟いていた。
「お、お母さん!だからね、アガットさんは悪い人じゃなくてぇ………」
「あはは……気にしなくていいよ、ティータ。エリカさんの表現は少し言い方が悪いけど……アガット君がどういうつもりでティータに近づいてるのか、それを確かめたいだけなんだから。」
エリカの様子を見て慌てて弁解しようとしたティータだったが、ダンが優しい笑顔を見せて先を言わせなかった。
「え、えと………(う、うーん………やっぱりお父さんも勘違いしてる気がする………)あのね、もう一度説明するよ。アガットさんはぶっきらぼうで面倒臭がりで、言葉遣いとか乱暴なところもあるけど………ホントは優しくていい人なんだよ!」
「……そ、そうか。それは僕も、いささか心配になってきたな。」
「………………………」
必死に弁解をしたティータだったが、ダンはティータが予想していた答えとは逆の答えをだし、エリカはティータに背を向けて黙り込んでいた。
「……ええっ!?ど、どーして………?何度も説明してるのに………」
その様子を見たティータは不安そうな表情をしていた。そしてその時、エリカは振り向いて、静かな表情で呟いた。
「………そろそろ手配しておこうかしらね。ダン、最終調整は任せます。私は少し出かけてくるわ。」
「………行くんだね、エリカさん。」
「ええ。ここまで聞いておいて黙っているわけにはいかないわ。罪人に死を………!」
真剣な表情のダンに見つめられたエリカは頷いた後、目を妖しく光らせどこかに走り去った。
「ええっ………!?お、お母さんっ!?どこ行くのっ………?ま、待ってよ!」
そしてティータも慌ててエリカを追った。その時ラッセル博士が部屋に入って来たが
「ふごっ………!?」
「お母さん!!」
走り去るエリカに吹っ飛ばされ、さらにその横をティータが走りながら追って行った。
「な、何じゃい……」
「お怪我はありませんか、お義父さん。」
「まあ、なんともないがの。……何を急いどるんじゃ、エリカのヤツは………」
ダンに話しかけられたラッセル博士は立ち上ってダンにエリカの行動を尋ねた。
「ははは……始まるんですよ。例の『実験(テスト)』が……」
「君も、相当親バカじゃのう…………」
笑顔で答えたダンをラッセル博士は呆れた表情で見つめていた。エリカとティータが中央工房を出て少ししたその頃、アガットは約束の夕方の時間まである為、それまでに掲示板の仕事を片付ける為に遊撃士協会に入った。
〜遊撃士協会・ツァイス支部〜
アガットが支部に入ると凄まじい殺気を感じた!
「なっ………!?」
殺気に気付いたアガットはすぐに武器を構えたが、そこにいるのは自分に背を向けた白衣を着た研究者らしき女性だった。
「……………?(いま、スゲェ殺気を感じた気がするが………っつっても、工房の研究者が依頼に来てるだけだよな……気のせいだったか………)」
「あーら、なんてことかしら………そこの赤毛はアガット・クロスナーじゃない。ククク、憐れなものねー。」
殺気の正体が自分の目の前にいる人物ではないと思ったアガットが首を傾げて武器を納めると女性――エリカが振り向いてアガットを挑発し
「………あ?」
エリカに挑発されたアガットはエリカを睨んだ。
「処刑の準備をしているところにノコノコやってくるなんてね。丁度良かったわ……直接伝えておきましょうか。実は貴方にぴったりの死に場所が用意してあるのよ。ささ、中央工房に来なさい。」
「誰だあんた………俺に喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩だなんてとんでもない。……これは依頼よ。遊撃士アガット・クロスナー宛ての依頼。」
アガットに尋ねられたエリカは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「んなワケのわからねえ依頼があるかよ。俺に依頼したいんなら、もう少しまともなヤツを持ってくるんだな。」
「……はあ、困ったわねぇ、こんなに物わかりが悪いだなんて。」
アガットの答えを聞いたエリカは苦笑しながら溜息を吐いた後
「……自分の罪くらい自覚しておきなさいよ………!」
目を妖しく光らせてアガットを睨んだ!
(な、何なんだコイツ………?目がまともじゃねえぞ………)
エリカに睨まれたアガットは戸惑った。
「……いいこと?耳の穴かっぽじって聞きなさい。この依頼はね、オーバルギアと貴方を比較して、機体性能を調べるためのものなの。……つまり、貴方はオーバルギアの改良に貢献するのよ!ふふ、そうすれば貴方の罪も………」
「……何をワケのわかんねぇ事を………いいか、依頼ってのはな、本当に困ってるやつが出すもんだ。……遊撃士は便利屋じゃねぇ。あんたみてえな冷やかしに付き合ってるヒマはねーんだよ。」
エリカの説明を聞いたアガットは溜息を吐いた後、呆れた表情で説明した。しかし
「……………クスッ…………あらあら、恐いのかしら〜?アリシア女王陛下の温情によって王国軍に新たに結成された”特務部”の責任者に任命された”剣帝”に一人で無謀に挑むような男が。」
「………………ぁあ?………ってか、何でアンタが奴の事を知っているんだよ?奴の処遇について知っている奴らは限られているはずなのに………」
エリカの挑発を聞いたアガットはエリカと睨み合い、言い合いを始めたその時、ティータが入って来た。
「ティータ………?」
ティータに気づいたアガットは呆け
「あ、アガットさん………!?それにお母さ………」
ティータは驚いた後、エリカに気付いたが、エリカがティータの前に立ち
「そうそう……もう一つ言っておかなくちゃ………私のティータの半径100セルジュ以内に近づくな!!わかったな、この身の程知らずが!」
アガットを睨んで怒鳴った!
「お、おいちょっと待てや………」
エリカに怒鳴られたアガットは戸惑いながら尋ねようとしたが、エリカは電光石火の速さでティータを連れてどこかに去った。
「お、おいっ………?何だったんだ、あいつ………?それにティータを連れて行きやがったが………まさかあのチビスケ、どっかの危ないヤツに攫われやがったか………!?」
我に返ったアガットはティータが何かの事件に巻き込まれたと思い、血相を変えた。
「その心配はないわ。」
しかしその時、その様子を黙って見守っていたキリカが声をかけた。
「……キリカ、いたのかよ。」
キリカに気づいたアガットは驚いた後、受付に近づいた。
「彼女はエリカ・ラッセル。ティータの母親よ。」
「………母親………?アイツが、ティータの?…………はあっ…………!?」
キリカの説明を聞いたアガットは呆けた後、声を上げて驚いた。
「数週間ほど前かしら、あの子の両親が帰国したのよ。ダン・ラッセル氏とエリカ・ラッセル博士。……多少混乱があったと聞いているけど、事実よ。」
「あ、あんなヤツが…………?そういや、前にあの爺さんよりマッドだって話していたが……」
キリカの話を聞いたアガットはエリカ達が去った方向を見つめて信じられない表情をしていた。
「………取り込み中のようだけど、仕事の話をしてもいいかしら。」
「お、おう…………夕方までは空いてるからな、軽い依頼ならいくつかこなせるぜ。」
「…………ではまず、中央工房からの依頼。新兵器『オーバルギア』試作機の各種実験への協力。」
「オーバル………ギア………オイ、ちょっと待て。その依頼って………」
キリカの説明を聞いたアガットは嫌な予感がして、キリカを見つめた。
「エリカ博士の依頼は正式なものとして受理している。アガット、あなたを指名してね。ちなみに『オーバルギア』各種実験の見学要請の依頼でレンに別の依頼が来ているわ。」
「……チッ、あの女………本気で依頼出してやがったのか………」
「オーバルギアについては私も詳しいことは知らない。エリカ博士の説明では、リベールの導力技術の枠を集めた新兵器ということよ。開発はラッセル家総出で行っているらしい。場所は中央工房みたいね。」
「……新兵器だと………?」
キリカの説明を聞いたアガットは驚いた後、考え込んである事に気付いた。
「おい、今ラッセル家が総出とか言ったか………?もしかして………それにティータも入ってんじゃねえだろうな。」
「……さあ、そこまでは聞いていないけど。あの子、そろそろ見習いを卒業して正式な技師になるという話だからそうなのかもしれない。アガット、何か問題が?」
「……………いや……………(あいつの両親なんざティータのやつから少し聞かされる程度だったが………話しとは全然違うじゃねえか。おまけにどこかイカレてやがるし………)………………(だが、あの女がティータを巻き込んで新兵器の開発なんざやってやがるんだとすると………)………それとさっき、レンにも別口の依頼が来ているって言ってたよな?何であいつにその新兵器とやらの実験の見学要請なんか出したんだ?」
「恐らくだけど、オーバルギア開発に必要な費用を出す”出資者”になって欲しいからだと思うわよ。新しいものを生み出すには何かと入り用だし。ましてや新兵器の開発には莫大な費用が必要でしょうから、”Ms.L”であるレンにその費用を出してもらいたいのじゃないかしら?オーバルギアの開発の為に当てられる費用も限りがあるでしょうけど、”Ms.L”として毎月約1000億ミラを稼いでるレンに”出資者”になってもらえば、少なくても開発費の問題に悩む必要はないしね。」
「チッ、幾ら金を腐る程持っているからってガキに―――それも自分達のガキと親しい関係のガキに金をねだるとか、いい大人がそんな事をする事に恥ずかしくないのかよ………………………キリカ。俺へのその依頼、一旦止めとけ。」
ティータの親でありながら、ティータと友人関係であるレンに開発費を出してもらおうとしている事に思う所があるアガットは舌打ちをした後考え込み、キリカに指示をした。
「保留………という意味かしら?」
「…………ああ。……俺が事情を確かめてくる。勝手に他に回すんじゃねえぞ!」
そしてアガットはティータ達を探して、中央工房に向かい、工房内を探し回ったが2人の姿はなく、一端屋上に上がった。
〜中央工房・屋上〜
「チッ………あいつら、どこ行きやがった………?ティータもエリカとやらも見当たらねえじゃねえか。」
舌打ちをして周囲を見回していたアガットだったが、自分に背を向けている男性――ダンに気付くとダンに近づいた。アガットが近づくとアガットの気配に気づいたダンは背を向けたまま声をかけた。
「やあ……君がアガット君だね?」
「(こいつ、ただの整備士じゃねえな………)……………へっ、そうか………あんたがダンだな。噂は聞いてるぜ、元遊撃士だってな。」
ダンがただものではない事に気付いたアガットは警戒した表情で睨んでいたが、心当たりを思い出すと警戒を解いた。
「ああ、ひょっとして………カシウスさんから聞いたのかな。」
「い、いや……ティータやラッセルのじいさんから少し聞いただけだが…………」
ダンの口から出た意外な人物に若干驚いたアガットは戸惑いの表情で答えた。
「…………ふふっ、それもそうか。」
「(そういや、確かこいつ10年ほど前に遊撃士をやめたって聞いたが………丁度カシウスのオッサンと入れ違いくらいだよな………)…………………………(なら、それほど踏み外したやつだとは思えねえが…………)……あんたら、新兵器を開発してるんだってな。それをティータのやつに手伝わせてるってのは、本当か?」
「ん、ああ…………もう手伝いではなく、正式な参加だけどね。……ティータもこの2年で随分腕を上げた。そろそろ僕が教えられる事も少なくなってきたな…………」
「(チッ、やっぱりそうか………)……お前ら、自分の娘に何させてんだコラ。」
「………ん………?」
アガットに睨まれたダンは何のことかわからず、不思議そうな表情をした。
「仕事で忙しくてなかなか家に帰ってやれねえってのは、まあわかる。あいつは機械いじりとか好きだからな。発明の手伝いをさせるつーのもわかる。……だがな、兵器の開発なんざ娘に触らせるもんじゃねだろ!常識で考えろや、常識で!」
「フフ………」
自分を睨んで説教をするアガットの話を聞き、アガットがティータの為に怒っている事に気づいたダンは突如笑い始めた。
「何笑ってやがる……」
「アガット君……君はティータのことを信頼しているかい?」
「……………は?はぐらかしてんじゃねえよ!お前ら、あいつを巻き込んで………」
「アガット君、君の話は方々から聞いている。しかしこれだけは君の口から聞いておきたくてね。君は機会があるごとに、ティータと行動を共にしていたようだけど………それはティータが頼りなくて放っておけなかったから?それともただの成り行きかい?………君は一体、どういうつもりだったのかな?」
「そ、そんなこと知るかよ。だが…………」
ダンに問いかけられたアガットは戸惑いながら考え込み、そして答えを口にした。
「……あいつには色々と助けられて来たからな。最初のうちは危なっかしくて見てられなくて、守ってるだけのつもりだったが………何のことはねぇ。俺の方が世話になったくらいだ。」
「………………………」
優しげな雰囲気を纏わせて語るアガットをダンは驚いた表情で見つめていた。
「そういう意味では俺はあいつを信頼してるぜ。あんたらの娘は実際、大したヤツだよ。」
「なるほどね………」
「(フン、常識のねえヤツかと心配したが………どうやら………そういう訳でもなさそうだな。)………おい、ティータがその兵器開発に参加してんのには何か理由があんだよな。………話せよ、ダン。」
「ああ、そうだね………まあ、君には伝えておこうか。」
アガットにティータの話を催促されたダンはアガットとすれ違って、アガットに背を向けたままある事を確認した。
「君は”殲滅天使”ユウナと”パテル=マテル”のことを知っているかい?」
「………あ、ああ………あのとんでもねぇ小娘姉妹の妹の方と馬鹿デカイ人形兵器だろ。」
「ティータはね、そのユウナ君のことを友人だと言っていた。……普通に考えれば、そんな話はあるはずがないんだが………」
「いや………知ってるさ………あいつは特に何も言わなかったが……不自然なくらいその話題を避けてたからな。」
「………そうか、なら話は早い。オーバルギア計画は、もともと結社の驚異的な技術力・軍事力に対抗するために始まった計画でね。最終的にはそのパテル=マテルに対抗しうる能力を持つのが目標だ。そして、ティータはこの計画に自分から参加したいと言ってきた。僕もエリカさんも反対したんだが………ティータはユウナ君に関わりたいと言って聞かなかった。これが、自分がユウナ君のためにできる事だからといって………ティータはユウナ君を実際にどうしたいわけじゃないだろう。ただ、オーバルギア計画に参加すれば、ユウナ君の事を考え続けていることになる。届かなくても、会えなくても、繋がっていられるからね。本当に小さな関わりだけど………それが今のあの子にできる最大限の努力なんだろう。」
「…………………あいつ………そんなことを…………(馬鹿なヤツだ………いつの間にか、そんなものを背負いこんでるとはな………)」
ティータが新兵器の開発に関わっている理由を知ったアガットは複雑そうな表情で溜息を吐いた後自分が常に身に着けている石のペンダントを見つめて苦笑した。
「……ティータは今、一人の技師として働いている。エリカさんの判断でね。そこまでの覚悟があるのに、子供扱いする訳にもいかないから。」
「……ダン、もう一つ教えろよ。そのオーバルギアってのはどこにあるんだ?」
「行くのかい?」
「ま、放っとくわけにもいかねえだろ。あいつは放っとくと、また無茶しやがるからな。」
「……そうか。ふふ、お義父さんの言う通りだね。君はなかなか見込みがあると思うよ。」
アガットの話を聞いたダンは頷いた後、笑顔になった。
「な、何の話だ………?お義父さんって………ラッセルのじいさんのことか?」
「これを渡しておこう。」
そして戸惑っているアガットにダンは認証カードを渡した。
「エレベーターでこれを使えば実験場がある地下5階に行ける。ティータもエリカさんもそこにいるだろう。……だが、行くなら覚悟を決めた方がいい。エリカさんも、君のことを試したがっていたからね。」
「フン………そんなのはどうでもいいさ。俺はただ、ティータの実験に付き合ってやるだけだからな。」
ティータ達の元に向かう為にアガットは歩き出したがある事に気づき、立ち止まってダンに訊ねた。
「………ダン、あんたはどうするんだ?実験にはこねえのかよ。」
「心配しなくてもいい。僕も実験には立ち会うよ。……僕もまだ君のことを認めたわけではないからね。」
(だから何なんだよ、その認めるつーのは………)
しかしダンの口から出た意味不明な答えを聞くと呆れた表情で溜息を吐いた。
その後アガットは地下実験場に向かった…………
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