チートでチートな三国志・そして恋姫†無双
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第62話 実体験

 

 

 

 

 

「さて、これから私たちが知らなければならないことは、大まかに言えば“どういう経緯で、ただ病人を治していただけの天和さんたちがあれほど大きな組織を作って反乱を起こすまでになったのか”ということになります。我々も黄巾族の残党から様々な話は聞いていますが、やはり最大の当事者である天和さんの話が聞きたい。これから第二第三の犠牲者を出さないようにするためにも重要なことです。もちろん、今後の身の振り方を考える意味でも。」

 

「椿さん、私たちはなぜ“治療”の技術だけであれほどの集団になることができたのか、ということも知りたいのですが……。」

 

「それに関しては、天和さんの話が終わった後で私たちから説明します。もうほぼ全容はつかんでいますし、そこまで難しい話ではないですから。」

 

まず椿がまとめてくれたが、そこに紫苑から質問が入った。この支配構造は単純な話だけになかなか見抜くのは難しいところだから仕方ないだろう。

 

 

「行く先々で、治しても、治しても、病人はいっこうに減りません。それに、治せる人だけではありません。手遅れで治らない病人もいます。大半の病人には家族をはじめとしたつきあいのある人がいますから、治れば感謝されますが、治らなければ悲しみがうまれ、それは私たちに“怒り”という感情でぶつけられます。最初に『厳しい』・『おそらく無理だろう』と言っていても、『隣の母親は治せたのに、どうして僕の母さんは治せないんだ』というような怒りの言葉を受けたのは一度や二度ではありません。

 

治せないのは私のせいなのか、私が無力なのが悪いのか、そもそも、病気の原因となる食糧事情や衛生環境の悪化は私のせいなのか。政治がおかしいのではないか、漢のやっていることが間違いなのではないか、水晶さんが言ったとおり、そういう考えが私の中にも芽生えていました。

 

そんなとき、“治療団”を組織したらどうか、と言ってくれた人たちがいました。波才、程遠志、という二人です。利益優先でなければいい、そう思って了承しましたが、今考えればあれがすべての始まりだったと思います。順調に治療団として活動を続けていたころ、私たちの行動に感銘を受けたという男が現れました。左慈と名乗ったその人物は、自分は道士で、人の病気を治す水を作ることができる、と言い、私たちの活動に感銘を受けたので是非一緒にやらせてほしい、と言ってきたのです。

 

水だけで病気を治せるはずがない、と思いましたが、確かに軽い病気は水だけで治ってしまったので、了承しないわけにはいきませんでした。すると、水で病気の選別をして、治らない人から金をとって私が治せばばよいのではないか、誰が最初に言い出したかはわかりませんが、そう言ってきました。私は断固反対しましたが、すると地和と人和の二人を人質に取って、反抗は許さないと言ってきたのです。

 

私は7日に一度、二人に会う以外は部屋で祈るだけの日々を過ごすようになりました。外の状況は全くわかりませんでした。しかしあるとき、病人を治せ、と波才に言われました。包帯で目を隠された病人が数日に一人、私の部屋まで波才の手でつれてこられました。私は、これが良いことなのか悪いことなのかもわかりませんでしたが、兎にも角にも治し続けました。

 

それからしばらくたったころ、夜に髪を縛って私とはわからないように袋に入れて移動され、一刀さんたちに助けられるまであそこにいました。

 

私から話せることは以上です。」

 

 

天和の話は俺の予想の上をいっていた。下でもいいけど……。『ならば私はどうすれば良かったのか』と、必ず聞かれるに決まっているはずで、それに対する答えは『侠客を集めて団体を組織する』というものだったのだが、それをして黄巾族になってしまったのではもう手の打ちようがない。要するに人を見る目がないのだからどうにかできる話ではなかったのだ。

 

「なんというか、本当に救いようがないですね……。」

 

「一刀さんは、一芸に秀でた者を大切にしますし、それもあって助けにいったわけですか、しかしそういう人は本当に“一芸”以外はなにもできないのですね……。」

 

水晶と藍里は呆れているのか、それとも諦めたのか。ただ、裏を返せば人畜無害だともいえるのかもしれない。

 

 

「そうなりますね……。ただ、これで全容はほぼ解明できました。一つ一つ、皆さんにもわかるように説明していきましょう。“病気を治す”ただそれだけのことで全土に飛び火するほどの反乱をどうやって引き起こしたのか、それをきちんと理解してください。

 

 

まず前提として理解してほしいのは、病気を治すには3つの方法がある、ということです。」

 

「3つ? 聖水と天和さんによる治療の2つではないのですか?」

 

「はい。1つは、“うすい”聖水。2つめは“濃い”聖水。そして天和さんによる治療です。

 

うすい聖水は信者ならば誰でも無料で手に入れられます。軽い栄養剤のようなものとでもいうべきでしょうか、飲めば力がわき、病気も治ることがある。

 

実体験として“元気になれる”のならば、信じやすくなるとは思いませんか?

 

そして、信仰心の高い人と寄付の多い人、そして任意の人物には“濃い”聖水を渡します。

 

薄いものよりも効果が強力なだけですが、手に入れるには帰依するか、お金を寄付するか、偶然選ばれるのを待つしかありません。

 

ここで注意すべきなのは“偶然選ばれる”ということです。つまり、長い期間ただ祈り続けた人だけがもらえるのでは、自分が選ばれるのに何十年かかるのかまったくわかりません。一方、寄付が多いからもらえるというだけでは、貧しい人の心をつかむことはできません。しかし、偶然選ばれることがあるのでは、自分ももらえるかもしれない、という希望が生まれる。

 

もちろん、病気のなかには“聖水”をいくら飲んでも治らない人はいます。その人たちの中で、信仰心のとても強い人だけが教主自らの治療を受けることができる。

 

これを受ければ病気は確実に治りますから、より信じるようになります。

 

構造としてはこれだけです。」

 

 

「朱里、“これだけ”と言うが、もしも治らない人がいたらどうなるのだ? 教主自らの治療で治らないことがもしあれば面目丸つぶれだぞ?」

 

朱里が概略を説明すると、ある意味当たり前の疑問が星から出た。

 

「それはあり得ません。なぜならば、教主が治せない病気を端的に言うなら“急性疾患”です。つまり、二段階の聖水を得る前に死んでいますから問題にはならないのです。」

 

「なぜそれが問題にならないのですか?」

 

「信者全員が聖水を飲んで何らかの効果があることを実感できている。仮に5万人としようか。その中に100人、病気が治らず死んだ人がいる。

 

4万9900人と100人の話、鴻鵠ならどちらを信じる? それに、治らない人には“信仰心が足りないから”という殺し文句をあげればいいだけだ。」

 

「しかし一刀さん、病気を治す、ということからどうやって漢の批判、反乱軍へ持って行くのですか? その肝心の所がまだではありませんか」

 

焔耶、キミはこれまで天和の話からちゃんと聞いていたのか……?

 

「今の焔耶さんと同じ疑問を持っている人はいますか? いたら挙手をお願いします」

 

椿が半ば呆れつつ聞くと、鈴々の手が上がった。これは、他に手があがらないことをひとまずほっとすべきところだろうか。

 

「わかりました。では紫苑さん、焔耶さんたちの疑問に答えてあげてもらえますか?」

 

「私がですか? わかりました……。要するに、病気になるのは衛生環境が悪かったり食事がないのが原因であり、それを正すには世直しをして政治を変えるしかない、さあ反乱を起こそう、ということなのですよね?」

 

紫苑は理解していて一安心だった。

 

「その通りです。それにしても、これからは学問もないと話にならない時代でしょうから、毎日、朝夕に焔耶さんと鈴々さんは霧雨さんに論語と孫子あたりから勉強させたほうが良いかもしれませんね……。」

 

「勉強は嫌なのだ……。」

 

「それが何の役に立つ、とはとても言えぬのが辛い……。私たちが圧勝を続けてきたのは学問と知力による軍師どのたちが大きな理由だからな……。」

 

「ところでもう一つ。そもそも、なぜ“治療”が実際に行われているということに気づけたのですかな? そちらのほうは今ひとつ理解できぬのじゃが……。」

 

桔梗からの質問は、黄巾族の実態を知る最後の問いだった。

 

 

「治療そのものが完全な詐欺ならば、そもそも人はついてきません。つまり、本当のことを言葉で塗り固めて大きくしたから信じる人があれだけ出たのです。嘘を言葉で塗り固めても中身は空っぽですから反論されれば一蹴されてしまう。」

 

「あとは、治療する力が水にあることを知ったからかな。ただ水を配るだけよりも、教主や幹部から直接治療されて治ったほうがより信じる人は増えると思ったんだ。」

 

「なるほど……。ところで、天和たちの処分はどうするのですか?」

 

「その前に一つだけ教えてください。私たちは本来ならどうすべきだったのか、これからどうなるにせよ、それだけは知っておきたいんです。」

 

「まずは憎むべき対象を見定めることです。

 

漢に怒りを抱くのは、半分正しくて半分間違いなのですが、すべてを漢のせいにしてしまう人は天和さんを含めて残念ながらとても多い。

 

税金が高い、治安の維持が保てない、これらは確かに漢の落ち度です。あるいは私利私欲で腐敗した洛陽もそうですね。

 

ですが、食糧難に陥るのはそれだけが原因ですか? 違いますよね。虫や気温で作物が不作になるのが最大の原因です。そして、残念ながら皇帝がどれだけすばらしい政策をとっても、それを完全に防ぐことはできません。逆に、皇帝が阿呆で洛陽が堕落していても、天候によっては虫も少ない豊作の年はあるでしょう?

 

治安にしてもそうです。取り締まらない漢が悪いのですか? 一番悪いのは村を襲う賊でしょう? 犯罪者がいることが一番の問題なのです。

 

しかし、残念ながら大半の人はそれに気づかないし、因果関係の全くないものを関連づけさせようとすることも多いです。不作なのは政治が悪いからだ、とかね。

 

無茶苦茶としか言いようがありません。

 

そういう歪んだものの見方を正すことがまず最初にすべきことでしょう。」

 

ホント、水晶は身も蓋もない言い方をする。似たようなことは考えていたけど、ここまで明確に言語化できるかは怪しい。

説明
第5章 “貞観の治
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コメント
というより、「知る」権利がそもそもないわけですが、今から1800年ほど前の時代ですから仕方ないのでしょう。 途中送信失礼しました(山縣 理明)
未奈兎様> 今の時代はインターネット、特にSNSが発展して、テレビや新聞の情報が正しいか、というところにきていますが、この時代は新聞さえありませんからね・・・。(山縣 理明)
この時代気軽に調べる環境もないしなぁ(未奈兎)
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