戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ二十
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戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ二十

 

 

「甲府の町を案内してあげるね、聖刀お兄ちゃん♪」

 

 躑躅ヶ崎館での大評定が行われた次の日。

 大休止の一日目に、薫と聖刀のデートが葵の企画で始められた。

 

「ははは♪よろしくね、薫ちゃん♪」

 

 躑躅ヶ崎館の大御門の前で薫が聖刀の手を握り、嬉しそうに顔を見上げる。

 そんな薫の笑顔が可愛くて、聖刀も自然と優しい笑顔になった。

 聖刀は今日のデートで薫の事を良く知ろうと心に決めていて、極自然に薫の手を握り返す。

 

「あ………えへへ♪」

 

 昨日は一方的に抱き付いていたが今日は聖刀からも手を握り返してきた事で、薫は聖刀に受け容れて貰えたと理解し、顔が緩んで目の前が急に明るくなった気がした。

 

「あ♪狸狐ちゃんも聖刀お兄ちゃんの手を握ろうよ♪」

 

 薫が後ろに控えていた狸狐へ振り向いて声を掛ける。

 今日のデートには狸狐が随伴し後で葵達に報告する事になっていて、緊張していた所に突然声を掛けられてあたふたしてしまった。

 

「い、いえ!今日の私は居ない者と思って…」

「そんなの寂しいよ。狸狐ちゃんは聖刀お兄ちゃんの奥さんなんだから♪」

 

 薫は一度聖刀の手を離し、狸狐と聖刀の手を握らせてからその反対の手を握った。

 

「えへへ♪」

 

 屈託無く微笑む薫に狸狐はどう接したら良いのか戸惑うが、直ぐに聖刀が望んでいるのは何か考え、自分がすべき行動を取る為に気持ちを奮い立たせた。

 

「薫さま、ありがとうございます♪」

 

 日の本での聖刀の妻筆頭として、聖刀が薫を妻に迎えると決めた以上は少しでも早く打ち解けねばと笑顔を見せる。

 

「『さま』じゃなくて、『ちゃん』で呼んでほしいな………」

「ええっ!?」

 

 拗ねた様に薫に言われて狸狐は返答に窮した。

 これまで人の事をちゃん付けで呼んだ事が無い狸狐にとって、途轍もなく高いハードルだ。

 

(いやっ!私はあの日、聖刀さまの為に過去を捨て生まれ変わると誓ったのだ!)

 

 笑顔を作った時以上に己を奮い立たせ拳を握り締める。

 

「か…かかか……」

「狸狐♪」

 

 聖刀の呼ぶ声にはっとなって見上げると、そこには仮面越しでも判る自分の愛する優しい笑顔が在った。

 その笑顔で力みが抜けて穏やかな気持ちで薫を見る事が出来た。

 

「薫ちゃん♪」

「はい♪狸狐ちゃん♪」

 

 口にすると照れくささ以上に薫への親近感を覚え、詩乃やひよ子達ゴットヴェイドー隊で共に過ごしてきた仲間とも、葵、悠季、白百合、桐琴といった同じ聖刀の妻達とも違う、何か甘やかな感情が芽生えた。

 

「さあ、聖刀お兄ちゃん♪狸狐ちゃん♪出発しよう♪」

 

 薫に引かれて聖刀と狸狐は甲府の町に足取りも軽く向かったのだった。

 

 

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 薫と聖刀と狸狐が躑躅ヶ崎館を出発した頃、館の中では祉狼を中心にひと騒動が起きていた。

 

「昨日の勝負は余の勝ちであろう!だから今日は余が主様と逢い引きをするのじゃ!するったらするのじゃあ!」

 

 畳に転がって手足をバタバタさせている姿はとても征夷大将軍とは思えない駄々の捏ね方だ。

 尤も、ゴロツキから金を巻き上げる様な将軍さまなので、型破りという面から見れば一葉らしいのかも知れない。

 

「公方さま!みっともない事をなさいますな!祉狼どのも笑っておいでですぞ!」

 

 幽も呆れて、まるで母親の様に一葉を叱り付ける。

 

「あははは♪いや、一葉のこんな姿も可愛いんじゃないか♪」

「祉狼どの!公方さまを甘やかさないで下さいませ!」

「お、おう……すまん、幽……」

 

「何だか幽さんがおっかあで、お頭がおっとうで、一葉さまが私の妹みたい………懐かしいなぁ♪」

 

 この遣り取りを見ていたひよ子が感想を呟くと大半の者が成程と納得している。

 しかし、そうも言っていられないのが一葉の妹の双葉だ。

 姉のだらしない姿を皆に見られ、恥ずかしさに身の縮む思いで幽に加勢し一緒に一葉を嗜める。

 

「お姉様!今日は甲斐の皆さんと交流し、親交を深めると決めたのですよ!征夷大将軍として率先していただかなければ困ります!」

 

 妹の双葉に怒られて、さすがに一葉も大人しく反省………する筈が無かった。

 

「うむ!双葉の言う事は尤もじゃ。ではひとつ皆の親交を深める為の余興を余が提案しよう。」

「余興………ですか?」

 

 一葉は答える代わりに立ち上がって祉狼の手を握る。

 

「その余興とは………………………鬼ごっこじゃっ♪」

 

 宣言と同時に走り出し、祉狼を連れて部屋から飛び出して行ってしまった。

 

『『『……………………………え?』』』

 

 唐突過ぎる出来事に部屋に居た全員が目を点にして呆然と見送る。

 

「…………………お姉様っ!」

「公方さまっ!」

 

 双葉と幽が我に返って立ち上がった時には、既に足音も聞こえなくなってからだ。

 

「まあ、待て双葉。幽。」

 

 二人を止めたのは落ち着き払った久遠だった。

 

「一葉が余興と言ったのだ。では我らは存分に楽しもうではないか♪」

「そうよねえ♪一葉さまも鬼ごっこって言ってたし、鬼に掠われた祉狼を取り戻す演習も兼ねるって事にすればいいんじゃない♪」

 

 美空も久遠に賛同した。

 二人はニヤリと笑い膝を叩いて立ち上がる。

 

「では早速光璃にこの事を伝えねばな♪後、ここに居ない者にも疾く伝えよ!」

 

『『『御意っ!』』』

 

 久遠の号令で部屋に居た者達が一斉に動き出した。

 

 

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 一方、一葉と祉狼は躑躅ヶ崎館も抜け出して甲府の町をのんびりと歩いていた。

 

「一葉。鬼ごっこと言っていたが…」

「はっはっはっ♪面白い趣向であろう♪」

「そうは思うが、俺達の居場所は直ぐに伝わると思うぞ。」

「は?」

「小波!」

「はっ!お側に!」

 

 呼ばれた小波が瞬時に姿を現し、たまたま見ていた通行人を驚かせた。

 

「向こうも小波に句伝無量で居場所は聞くだろう。」

「その事ですが、ご主人さま。久遠さまより伝言がございます。規範として御家流の使用は禁止。逃走範囲は躑躅ヶ崎館を中心に半径一里。私には審判をする様に申しつかりました」

 

 小波の話を聞いて一葉は声を上げて笑い出した。

 

「はははははは♪さすが久遠じゃ♪遊びという物を心得ておる♪」

 

「それと、今日の鬼ごっこはご主人さまが鬼に掠われた時の演習とするそうですので、ご主人さまは逃走に手を貸してはいけないとのお達しです。」

「なんと!余の方が鬼か!普通は捕まえる方が鬼であろう!」

「それはその…………申し訳ありません…………」

「いや、小波が謝る事じゃないだろ♪しかし、俺は手助け出来ないのか…………」

 

 祉狼が残念そうに言うので、一葉は嬉しくなって祉狼の頭を抱き締めブンブン振り回す。

 

「主様は余と愛の逃避行をしてくれるのじゃな♪余は嬉しいぞ♪」

「いや、俺の国ではこれに似た訓練を定期的にしていてな。久しぶりだから楽しみだったんだが……」

「そ、そうか…………」

 

 一葉はイジケたが小波はその訓練に興味が惹かれた様で、ウズウズしながら祉狼の顔を見ていた。

 

「以前、小波に思春伯母さんと明命伯母さんの事を教えなかったかな?」

「甘興覇様と周幼平様ですね。お二人共隠行術の達人と教えていただきました♪」

「その二人を中心に行われる訓練で、密偵側と防御側に分かれて敵側を捕縛するっていう………」

 

 ここで祉狼は遠い目をした。

 

「建前で行われるんだ……………」

 

「建前………ですか?」

「思春伯母さんと明命伯母さんは必ず密偵側で参加するんで、防御側がいつも一方的に捕縛されて終わるのが常なんだ…………」

「は………はぁ…………」

「最近は烈夏姉さんと藍華姉さんが防御側に加わってくれるから力は拮抗してきたんだが、それでも勝てた事が無くって…………」

「あ、あの………聖刀さまは参加されていらっしゃらないのですか?」

「ははは………しているよ………必ず防御側で…………」

 

 初めて見る祉狼の力無い笑いが真実だと告げている。

 小波は思春と明命の実力が神の領域の様に感じて血の気が引いた。

 

「しかもこの訓練の真の恐怖はこの先に在る………」

 

 祉狼の真剣な顔に小波は息を呑む。

 

「思春伯母さんと明命伯母さんに捕まった者は、顔に特殊な墨で落書きをされて数日間を過ごさねばならないと言う罰を喰らうんだ!」

 

「ら、落書きですか?」

「ほほう♪面白い話じゃの♪」

 

 復活した一葉が笑って会話に戻ってきた。

 

「面白いか…………確かに『猪医者』とか『周りをよく見ろ』とか『修行不足』とか書かれて妹にはよく笑われたよ…………」

「中々に辛辣な伯母上じゃの♪しかし、主様よ。墨には厄を祓う力が有ると言われておっての。それも伯母上から愛の篭った忠告であろう♪」

 

 一葉はドヤ顔で『良い事言った』という顔をしていたが、祉狼の表情は晴れない。

 

「聖刀兄さんの『女人近寄るべからず』とか昴の『変態』って言うのもそうなんだろうか?」

「………………た、多分………きっと………そうである様な気がしないでもない様な………」

 

 一葉が視線を泳がせてどう誤魔化そうか考え出した時、小波が久遠から連絡を受けた。

 

「ご主人さま。久遠さまより今の話を聞いて考えが変わったそうです。ご主人さまも追っ手を捕縛して良いと仰っておられます。」

「そうかっ♪」

「久遠は話が判るの♪主様、追っ手を片っ端から捕らえてやろうぞ♪」

「おうっ♪一葉♪」

 

 盛り上がる祉狼と一葉を見て、小波は本当にこれで良いのかと冷や汗が出てきた。

 

「あれ?祉狼と一葉ちゃんと小波ちゃん?三人だけでどうしたの?」

 

 聖刀と薫と狸狐が偶然祉狼達と出会したのだった。

 

 

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「甲府の町を遊び場にされるのは困る。」

 

 話を聞いた光璃は頬を膨らませて怒っている様だ。

 

「まあ、そう言うな、光璃♪これで祉狼が活躍すれば、甲府の民が祉狼を身近に思ってくれるであろう♪」

「そうなれば嬉しいけど…………」

 

 場所を評定の間に移して全員が集合していた。

 

「光璃さま♪ここは御婚礼を祝う無礼講という事で、良人殿のお披露目としては如何でしょう♪」

 

 それは一二三の提案だった。

 いつもの様に微笑みを絶やさず飄々とした態度だ。

 そんな一二三に春日が笑って賛同する。

 

「はっはっはっはっ♪御屋形様♪一二三の言に拙も同意でござる♪まあ、正直に申し上げますれば、良人殿は拳闘の使い手と聞き及びまして、是非手合わせしてみたく♪」

「うん♪許す♪祉狼は強いよ♪」

「おやおや♪早速惚気られてしまいましたな♪あっはっはっはっはっ♪」

 

 武田衆の大半は春日と共に声を上げて笑っていたが、粉雪と心は祉狼を心配して表情を曇らせている。

 そんな彼女らを武田以外の者達は後でどんな顔をするのかと内心苦笑していた。

 

「では、武田の先鋒は春日だな。ならば織田は…」

 

「殿っ!森一家は勝手にやらせてもらうぞっ!」

 

 桐琴が気迫の篭もった声を上げる。

 しかし、その顔は満面の笑顔であり、この遊びを楽しむ気満々である事が誰の目にも判った。

 

「クソガキ!各務!行くぞっ♪」

「おうよっ♪」

「はい。」

 

 桐琴に合わせて小夜叉は意気揚々と、雹子は静かに立ち上がり評定の間を出て行ってしまった。

 その様子を見てひよ子が詩乃へ耳打ちする。

 

「(ねえ、詩乃ちゃん。雹子さんがお頭に手を上げれると思う?)」

「(あの方の事ですから祉狼さまに捕縛される為に行くのでしょう。)」

 

 声の届いたゴットヴェイドー隊の面々は『だよねー』という顔をして頷き合っていた。

 

「ふむ、では改めて我が織田衆からは………壬月♪お前が行け♪」

「はっ♪」

 

 いきなりの鬼柴田投入に織田勢からどよめきが上がる。

 

「殿っ!壬月さまが先鋒じゃ直ぐに終わっちゃうじゃないですか!」

 

 和奏が立ち上がって抗議するのを、久遠は笑って答える。

 

「壬月が勝ったら、次は壬月に挑めば良かろう。ああ、それからスバル隊はスバル隊で先鋒を出せ。」

「えっ!?」

 

 和奏が昴に情けない顔で振り返った。

 どうやら壬月相手では勝てる気がしないという事らしい。

 

「あの、久遠さま。ひとりずつじゃないと駄目ですか?」

「んん?何だ。お前は自分の嫁達の力を見くびっているのではないか?」

「いえ、普通に一対一の手合わせならば送り出します。ですが、今回は孫呉の『人狩り』を祉狼から聞いてその形式を取られると変更されたのですよね。」

「『人狩り』?…………お前は大勢で一葉と祉狼を追い立てろと言うのか。」

「え?と………久遠さまは大きな勘違いをされていますよ。孫呉の『人狩り』は思春さまと明命さまをを狩るんじゃなくて、お二人が我々を狩るんです。」

 

『『『!?』』』

 

「これは皇帝陛下から直接教えて頂いたのですが、この訓練の初めの頃は孫呉の武将数名と兵十数名で挑まれていたそうです。結果はいつも一方的にお二人が勝ち。次第に三国を巻き込んで規模が大きくなり、気が付けば二対百……まあ、一時期お二人の姫が幼い頃は加わり四人五人になったそうですが、私が最後に参加した時は二対二百で見事に負けました。」

 

「それは………何とも凄まじい話だが………祉狼は狩られる側だろう?」

 

「いえ、祉狼の母上の二刃さまがお二人と同じ貧にゅ…………え???と………とにかく仲が良いので、祉狼は結構手解きを受けているんです。普段は患者を探し出す時に気配の察知を活用してますが、『人狩り』の時は気配を見事に消して見せるんです。思春さまと明命さまだからこそそれでも気配を察知できますが、本気で隠れんぼをしようとした時の祉狼は私では見付けられませんよ。」

 

 久遠と結菜ですら知らなかった良人の秘技を知り、評定の間は静まり返ってしまった。

 

「…………デアルカ。判った。スバル隊の采配は沙綾に任せる。好きに動け………そうだ、光璃。夕霧はスバル隊で良いか?」

「問題ない。夕霧、頑張って♪」

「はいでやがります♪姉上♪」

 

 夕霧は笑顔で答えると武田の席からスバル隊の席へ移動し、昴の横に座った。

 

「さて、美空。お前はどうする?」

「祉狼の強さは一乗谷で思い知ってるわよ。長尾衆を率いて現場で私が指揮を執るわ。」

「成程、臨機応変という訳か。」

 

 美空が不敵に笑っている所から、既に戦略を組み立てていると思われる。

 

「好きにするがいい♪我らは我らのやり方で行く。詩乃、雫、采配せよ!」

「「はっ!」」

 

 久遠に指揮を任された二人は立ち上がってゴットヴェイドー隊へ振り返る。

 

「我ら織田勢は久遠さまの基本方針で行きます。先ずひよ、ころ、梅さん、松さん、竹さんの五人は祉狼さまと一葉さまの居場所を探し、見付け次第壬月さまと本陣への報告をしてください!」

「決して分散せず、必ず五人で探索してください!梅さん、松さん、竹さん、ひよところの護衛も兼ねていますから宜しくお願いしますね!」

「うん、詩乃ちゃん♪雫ちゃん♪」

「本気になったお頭かぁ…………怖いような、見てみたいような………?」

「「「ひよさん!ころさん!あなた達は必ず、この蒲生三姉妹が守ってみせますわ♪おーーーほっほっほっほっほっ♪」」」

 

「それでは殿。行って参ります。五人共!出陣だっ!」

 

「「「「「はいっ」」」」」

 

 壬月を先頭に織田勢の第一陣が出発して行った。

 それを見送ってから春日も立ち上がる。

 

「では御屋形様。拙も出陣いたします。」

「春日。兎々と湖衣も連れて行って。」

「畏まりました。兎々、湖衣、行くぞ!」

「はいなのらっ!」

「はい!一二三ちゃん、御屋形様の補佐は任せます!」

 

 湖衣の言葉に一二三は笑って頷き出発した。

 

「さて、私達も出るわよ!」

 

 美空が立ち上がると長尾勢もそれに続く。

 

「うふふふふふ♪祉狼さまぁ、どこに居ても貞子が必ず見付けて差し上げますよぉ?うふふふふふふふ♪」

「初めて貞子のこれが役に立つ。」

「いや、松葉…………普通に怖いっすよ………あれ?秋子さんはあんまり乗り気じゃ無いっすね?」

「当たり前でしょう…………公方さま狩りだなんて寿命が縮む思いですよ………」

「隠れんぼっすよ♪まあ、祉狼くんの実力を考えたらかなり厳しい勝負っすけど、そこは御大将の采配に期待するっす♪」

「ふふふ♪任せなさい♪」

 

 空、名月、愛菜が出陣する美空達に手を振って送り出す。

 

「「美空お姉さま!がんばって♪」」

「御大将!留守はこの越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続にお任せあれ!どーん♪」

 

 そんな空達を萌え萌えしながら眺める昴の頭を沙綾が小突く。

 

「ほれ、儂らも行くのじゃろう!さっさと立たんか!」

「は?い…………はぁ………相手が祉狼なんて全然萌えが無くてやる気が起きないわ…………」

「しょうがない奴じゃのぉ………(勝てたら皆で褒美をくれてやるから気張らんか?)」

 

 沙綾が昴の耳に息を吹き掛けながら甘く囁く。

 

「みんなでご褒美……………やる気が出てきたぁああああああっ!さあっ♪行きましょう、みんなっ♪」

 

『『『おーーーーっ♪』』』

 

 和奏達は沙綾が昴に何を囁いたか察してはいるが、特に気にせず外へと飛び出して行く。

 

「さて、祉狼と一葉がどう出るか♪我らは楽しみに待つとしようか♪」

「私は祉狼がどこに居るかは判らないけど、何をしているかは想像がつくわよ♪」

 

 結菜がそう言うと評定の間に残った面々は驚いた顔で結菜を見た。

 

「ほう、結菜。聞かせてくれ♪」

「決まってるじゃない♪祉狼の事だから今頃は………」

 

 

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「ゴットヴェイドーーーーーーーーーッ!!元気にっ!なれぇえええええええええええっ!!!」

 

 祉狼は通行人から病魔の気配を感じる度に治療をしていた。

 それは結菜が予想した通りで、野次馬が集まり、話を聞き付けた病人、怪我人も集まりだし、しかも薫が祉狼を光璃の良人になった人物だと説明したから益々人が集まって来る。

 

「おおおっ!頭痛が消えましたっ♪ありがとうございます!ありがとうございます!」

「ははは♪別に礼なんか要らない♪その代わり、他に病人や怪我人が居たら教えてくれ♪」

 

 そんな遣り取りを一葉は自慢気に眺め、聖刀と薫と狸狐も茶屋の縁台に座り饅頭を食べながら微笑んで見ていた。

 ただひとり、小波だけがこれから来るであろう対戦相手を気にしてオロオロしている。

 

「小波ちゃんもこっちに来てお饅頭たべようよ♪」

「えっ!?わ、私もですか!?」

 

 薫に呼ばれて、もうどうしたら良いのか判らなくなって完全にパニック状態だ。

 

「小波は審判を仰せ付かったのだから、祉狼さまをそこまで心配したら不公平になってしまうぞ♪」

 

 薫と打ち解けた狸狐もすっかり観戦モードに入っていて、右手に湯呑み、左手に饅頭を持って、薫と一緒に聖刀を左右から挟む様に寄り添っている。

 

「主様よ♪どうやら治療は一時中断じゃ♪」

「ん?………………ああ♪そういえば隠密戦の訓練をするんだったな♪俺は隠れるから一葉は打ち合わせ通りに頼む♪」

「うむ♪任せよ♪」

 

 一葉は実に楽しそうに笑って通りの真ん中に進み出た。

 

「これから少々ひと暴れするから、見ていたいのならば余から大きく離れておれ!」

 

 野次馬達は薫から一葉が幕府の偉い人と伝えられていて、素直に言う事を聞いて一葉から距離を取った。

 野次馬達は一葉の気さくな人柄に親近感覚えて好意的だ。しかし、一葉が将軍様本人だと知ったら野次馬達は腰を抜かす事だろう。

 

「あれ?御屋形様の旦那様がいなくなったよ?」

 

 野次馬の中に居た男の子の言葉で、人々は祉狼が姿を消している事に初めて気が付いた。

 本職である小波は流石にその瞬間も捉えていたが、その隠行術の見事さに舌を巻いている。

 

〈ご主人さまっ!その様な事が出来るなら教えてくださっても………〉

〈普段は使う必要が無いからな…………医者が姿を隠したら患者さんが困るだろう?〉

〈それは………………確かにそうですが…………〉

 

 小波は祉狼が自分と同じ技を使える事が嬉しく、それを教えて貰えなかった事を拗ねているのだが、祉狼が全く気付いていないのはもうお約束だ。

 そうしている間に最初の対戦相手が通りの向こうから現れる。

 

「これはまた………最初からとんでもないのが来よった………」

 

 桐琴、小夜叉、雹子の姿を見て一葉の顔が曇る。

 負けるつもりは無いが、森一家の戦い方は自分も野性を刺激されて切っ先を止める事が出来なくなるのが判るのだ。

 

(まあ、いざとなったら主様も居るから大丈夫じゃろ。)

 

 などと剣呑な事を考えていたが、三人から殺気が感じられないので一葉も警戒を解いた。

 

「どうした?余を捕らえるのではないのか?」

「はっ!ワシと公方がやり合えばそんなモンでは済まんのは判りきっておるわ!ここは祉狼とワシの旦那の顔を立ててやる。」

「ふむ。では何故…………さてはお主っ!」

「おうよっ♪ここで待っておれば向こうから喧嘩を売って来るのじゃ♪こんな面白い事を独り占めなどさせられるか♪」

「小夜叉も同じか?」

「あったりめぇだろ♪越後を出てから鬼が全然居ねえから退屈してたのに、母が昨日はひとりで面白えことしてたらしいじゃねぇか!だから今日は俺もこっちで暴れさせてもらうぜ♪」

 

 小夜叉もやる気満々なので一葉は溜息を吐くと小さく笑って頷いた。

 

「元々は鬼ごっこのつもりだったしの♪鬼三佐とその娘が鬼役ならば打って付けじゃろう♪春日は昨日、桐琴と約束をしておったから譲るが、それ以外は早い者勝ちじゃぞ♪」

「元よりそのつもりよっ♪」

「へっ♪オレがそいつ以外の全部独り占めだぜ♪」

 

「まったく♪桐琴と小夜叉らしいね♪」

 

 聖刀が三人の会話に笑いながら割り込んだ。

 

「あれ?父じゃねぇか。いつから居たんだよ。」

「最初からそこの縁台に座ってたよ♪周りに被害が出ない様、僕が防いであげるから思いっきりやっていいよ♪」

「おっ♪さっすが母の見込んだ男だぜ♪話が判ってらあ♪」

「なんじゃ、聖刀。クソガキに甘いではないか。」

「小夜叉は僕にとって初めての娘だからね♪もうお嫁に行っちゃってるけど、少しでも父親らしい事をしたいんだ♪」

 

 そう言って聖刀は小夜叉の頭を撫でた。

 不意を突かれたとは言え小夜叉は聖刀の挙動に何の反応も出来なかった事に驚き、改めて聖刀の強さを認識する。

 

「ガ、ガキ扱いすんじゃねぇよ…………」

 

 そう言って口を尖らせながらも、顔を赤くして満更でもない無い様である。

 その様子を微笑んで見ていた一葉が、新たに強い凰羅を感じて顔を引き締めた。

 

「桐琴。小夜叉。どうやらお出ましじゃぞ……………雹子は何処へ行った?」

 

 気が付けば雹子の姿が見当たらない。

 一葉が辺りを見回すと、ドサリと音がした。

 

「きゃっ!」

「ひっ!」

 

 小さな悲鳴を上げた薫と狸狐の後ろ、縁台の陰に荒縄で縛られ気を失った雹子が倒れている。

 

「これ………祉狼お兄ちゃんがやったの………?」

「恐らく…………あ〜、恍惚としちゃって鬼兵庫の見る影もないなぁ………」

 

 狸狐の言う通り、雹子は実に幸せそうな顔で夢の中を漂っている。

 そうしている間に春日、湖衣、兎々が現れた。

 地の利と湖衣の御家流『金神千里』で一葉の居場所を特定して駆け付けたのだ。

 御家流は使用禁止と久遠が言っていたが、まだ湖衣の金神千里は公表しておらず、攻撃技では無いので少々ズルと思いつつも使用したのだった。

 

「見付けましたぞ、公方様!………おや?桐琴殿ももう来てお出ででござったか………」

 

 春日は桐琴に先を越されたと思ったが、直ぐに桐琴の闘志が自分に向けられている事で事態を理解する。

 

「成程、桐琴殿は鬼になり申したか♪」

「ワシは『鬼三佐』と呼ばれておるからな♪鬼ごっこなら鬼役が似合っておろうさ♪」

 

 桐琴が昨日の約束の為にそうしたのだと春日も理解し、敢えて余計な事を口にしない。

 

「では、馬場美濃守春日信房!鬼退治をさせていただくっ♪でぃやぁああああああああっ!」

 

 裂帛の気合を込めて春日は槍を電光の速さで繰り出した。

 

ガキィイイイイイイイイン!

「がっはっはっはっはっ♪やはり歯応えの在る奴じゃ♪おらおらおらおらぁああああああっ!!」

 

 桐琴も嬉々として蜻蛉止まらずを振り回す。

 野次馬達はその応酬の激しさに我が身の危険を感じて更に遠巻きになった。

 

「春日様と互角とは………流石、森三左衛門殿………」

「そんなことないのら、湖衣っ!春日さまの方が強いに決まってるのらっ!」

 

 兎々が春日の闘いを一心不乱に見入って言い返す。

 

「湖衣っ!なんか反論はないのらっ!?……………湖衣?」

 

 振り向いた先に湖衣の姿は無かった。

 

「湖衣?………ろこにいったのら?……………」

 

 一二三ならいざ知らず、湖衣が何も言わずに姿を消すなどあり得ず、兎々は不思議に思って辺りを見回す。

 

ドサリ

 

 またしても薫と狸狐の座る縁台の陰に湖衣が縛られて置かれた。

 

「兎々ちゃん!湖衣ちゃんはこっちに来たよ!」

「薫さまっ!?なんれ薫さまが?いつの間にいらっしゃったのら?」

「初めから居たんだけど…………それよりも湖衣ちゃんの顔に………」

 

 兎々が素早く薫の下に走り寄り湖衣を確認すると、気を失った顔に『ズルは良くない』と書かれていた。

 

「ズル?」

 

 狸狐が首を捻ると薫が苦笑いをする。

 

「多分、湖衣ちゃんが御家流を使ってここを突き止めた事を言ってると思う。」

「そんな御家流を使えるんだ………それを祉狼さまが見抜ける事も恐ろしい………」

「祉狼って御屋形様の良人になったあいつなのら!?」

「兎々ちゃん、祉狼お兄ちゃんをあいつなんて言っちゃダメだよ。」

「う?………れも、兎々はまら認めてないのら………」

 

 それは大好きな光璃を取られたく無いという想いからだと判るが、今後の武田家の為にも納得させなければと薫は考え始めた。

 その時、壬月と蒲生三姉妹、美空と長尾衆が駆け付けて来る。

 

「待ちくたびれたぜっ♪誰が相手だあ♪掛かってこいや!おらぁああああああああああっ!」

 

 桐琴と春日が闘っており、小夜叉が気炎を吐いている事から状況を把握した壬月と美空は顔を見合わせる。

 

「如何致しますか、美空様。」

「そうねぇ…………柘榴、行く?」

「小夜叉の相手は海津城で懲りたっす…………」

 

 その時の結果は引き分けだったのだが、小夜叉のしつこさに辟易していた。

 

「それじゃあ、貞子は……………って!貞子が居ないじゃない!」

「さっき路地裏に入って行った。」

「松葉!見てたんなら止めなさいよっ!」

「秋子が追いかけて行ったから大丈夫…」

 

ドサドサッ!

 

 三度目となると薫と狸狐も慣れてきた。

 冷静に振り返って確認すると、案の定貞子と秋子が縛られて転がされている。

 

「この二人も幸せそうな顔をしてるけど、祉狼お兄ちゃんは何をしたのかな?」

「聖刀さまならご存知だと思うので、後で訊いてみましょう。」

 

 貞子と秋子の顔には『猫背を直す努力をする事』と書かれていた。

 祉狼だから肩凝りを治すアドバイスが書かれたが、思春と明命ならば巨乳の二人に対し容赦の無い罵詈雑言が書かれていたに違いない。

 

「おい!いつまで待たせんだよ!そっちから来ねえならこっちから行くぞ!」

 

 言うが早いか、小夜叉は人間無骨を横凪に振った。

 

ガシィッ!

「少しは成長したかと思っていたが、短気は直っておらんな。」

 

 受け止めたのは壬月の金剛罰斧だ。

 御家流は使っていないので本来の大きさなのだが、それでもまともな人間が扱える大きさではない。

 それを壬月は軽々と扱い小夜叉の攻撃をあしらっていた。

 

「壬月の姉ちゃんと殺り合うのも久しぶりだなあっ♪おらおらおらぁあああっ♪」

「旦那を貰っても小夜叉は小夜叉と言う事か………まあ、相手になってやるか♪」

 

 小夜叉と壬月の闘いから少し離れた所では一葉と柘榴の闘いも始まっていた。

 

「どぉうりゃぁあああああああああああああああっ!!」

「甘いわっ!」

バキッ!

「きゅぅ……」

 

 と、思ったらもう終わってしまった。

 一葉は柘榴の脳天に峰打ちの寸止めをしたのだが、大業物大般若長光に乗せた氣のみで叩き伏せたのだ。

 

「さて♪次は順番で行けば松葉が相手かの♪」

「そうね♪松葉、一葉さまの相手をって!また居ないっ!?」

 

 さっきまで立っていた場所に松葉の姿は見えず、貞子秋子と同じ運命を辿ったのか、と思いきや、松葉はちゃっかり薫、狸狐と一緒に縁台でお茶を啜っていた。

 

「松葉っ!なにやってるのよっ!!」

「あ〜、御大将。松葉は祉狼くんに捕まったので。後、よろしく。」

 

 松葉は頬の『低血圧には肉、魚、大豆が良いぞ』と書かれた場所を指差して、頷いてから再びお茶を啜る。

 

「…………捕まったのなら仕方が無いわね…………もう!祉狼ったら何で私を捕まえに来ないのよっ!」

「美空…………お前の目的はそっちか…………」

「そうよ!捕まったフリをしてそのまま祉狼と………いえ、何でもないわよ、一葉さま♪ああ、そうだ♪蒲生三姉妹も来てたのだからそっちに譲りましょう♪」

 

 誤魔化そうと視線を巡らせるが、今度は松、竹、梅の姿が無い。

 

「御大将。蒲生の三人ならここで寝てる。」

 

 松葉が指差した先で三人は縛られているが赤い顔をして、

 

「「「あぁん?ハニー?こんな場所でいけませんわぁ?」」」

 

 と、寝言を言いながら身体を捩っている。

 

「ちょっと羨ましい………」

 

 松葉は指を咥えて蒲生三姉妹を見下ろし、美空は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

「ああ!もうこうなったら一葉さまを倒して祉狼を力尽くで奪い取ってやるわっ!」

「ほほう♪大した自信じゃの♪余もさっさと済ませて主様との逢引を楽しみたいのじゃ♪」

 

 一葉は大般若長光を中段に構えて美空を牽制する。

 対する美空も、愛刀『姫鶴一文字』を抜いて((鋒|きっさき))を向ける。

 

 

「あいや待たれいっ!!」

 

 

 突然聞こえたその声は、茶屋の屋根の上からだ。

 美空と一葉、薫と狸狐と松葉、そして野次馬全員が見上げた先には、

 

 猿の着ぐるみを着た綾那が蜻蛉切りを持って仁王立ちしていた。

 

「その勝負!美空さまに代わって、この『御猿アヤナー』がお相手するのですっ!」

 

「「「………………………」」」

「わあ♪可愛い♪」

「うん♪綾那、可愛い♪」

 

 美空と一葉と狸狐は無表情になり、薫と松葉は目を輝かせ、野次馬はざわめき出す。

 すると何処からともなく、昴の歌声が流れてきた。

 

「迫る〜 ザビエル!

 鬼の軍団

 日の本狙う黒い影

 みんなの平和を守るため!」

「殺るです!殺るです♪殺ってやるですっ♪」

「「真っ赤なおしり〜♪

 アヤナー ジャンプ!

 アヤナー キック!

 御猿アヤナー 御猿アヤナー

 アヤナー♪ アヤナー♪」」

 

 後半は綾那も歌って踊りだした。

 因みに『ジャンプ』『キック』という単語を教えたのは勿論昴だ

 

『御猿アヤナー本多忠勝は着ぐるみを着た武士である!

 鬼を生み出すザビエルは、世界の破滅を目論む悪魔である!

 御猿アヤナーは日の本の未来の為にザビエルと戦うのだ!』

 

 昴は地和を真似て司会のお姉さん役で拡声器とマイクを持って現れた。

 因みにこの拡声器は真桜から貰った物だ。

 

「ちょっと、煩悩………何なのよソレは…………」

 

 美空は呆れながらも突っ込んだ。

 

「本当ならこんな時は華蝶連者の出番なんだけど、仮面がまだ眠ったままなもので。」

「全然意味が判んないわよっ!!」

「詳しい事は後で祉狼に聞いてください♪」

 

 美空は二条館での華蝶連者隊の活躍は聞いているが、本国での活動内容はまだ聞いていなかった。

 昴は気にせず拡声器を口に当てて司会に戻る。

 

『さあ、御猿アヤナー♪一葉さまに取り憑いた鬼をやっつけるのよっ!観客のみんな!御猿アヤナーに応援して♪御猿アヤナー!!』

 

 観客と呼ばれた野次馬は、ざわつくだけで御猿アヤナーの名前を呼ばない。

 しかし、そんな中で数名の声が上がる。

 

「「「「「「「「「御猿アヤナーーーー♪」」」」」」」」」

『ありがとーーー♪でも、まだ声が小さいなあ♪もう一回♪』

 

 声を上げたのは鞠、夢、雀、熊、雛、犬子、和奏、桃子、小百合だ。

 つまりサクラである。

 

『『『御猿アヤナーーーーー!!』』』

 

 今度は八咫烏隊の幼女五十人も参加した。

 

『まだまだっ♪もう一回♪』

 

『『『御猿アヤナーーーーーーーー!!』』』

 

 サクラに引かれて野次馬達からも遂に声が上がり出す。

 

『『『御猿アヤナーーーーーーーーーーーーーーー!!』』』

 

 声援に応えて御猿アヤナーが屋根から飛び降りる。

 

「とうっ!なのです!」

 

 一葉の前に降り立った御猿アヤナーは蜻蛉切りを構えて一葉と対峙した。

 

「一葉さま!いざ尋常に勝負なのです!」

「……………やりにくいのぉ……………まあ、良い♪相手になるぞ、御猿アヤナー♪」

 

 苦笑しながらもノリの良い一葉だった。

 

「ふにゃぁあああああああああああっ!!」

「えやぁああああああああああああっ!!」

 

 御猿アヤナーと一葉は気合と共に同時に動いて刃を交える。

 数合打ち合うが力はほぼ互角。

 しかし次第に一葉の方がジリジリと押し始めた。

 

「さすが一葉さま………お強いのです!」

「剣豪将軍などと呼ばれている以上は無様な戦いは見せられんからの♪」

 

『御猿アヤナーが押されているわ!でも大丈夫♪御猿アヤナーには心強い味方がいるの!スバル隊!突撃ぃーーーーーー♪』

『『『わぁああああああああああああああああああああああ♪』』』

 

「な、なんじゃとっ!?」

 

 八咫烏隊を含めた六十人近い幼女が素手で怒涛の如く一葉に押し寄せる。

 無邪気に抱きついて来る幼女に手を上げる訳にもいかず、一葉は幼女の波に攫われて通りの向こうへ運ばれて行ってしまった。

 

「…………一葉さま居なくなっちゃったのです…………」

 

 御猿アヤナーも呆気に取られてポツンと通りの真ん中に佇んでいる。

 

『悪い鬼は滅び去った!ありがとう、御猿アヤナー!ありがとう、幼女達♪これにて本日の公演……もとい、演習は終了で〜す♪甲府のみなさ〜ん、応援ありがとうございました♪でも、本物の鬼を見付けたら直ぐに逃げて報告しましょう!武田の御館様が直ぐに救援を出してくれますからね♪それでは、みなさん、またお会いしましょうね♪さようなら〜〜〜〜♪』

 

 昴は御猿アヤナーの手を引き、何度もお辞儀をしてから薫と狸狐の居る茶屋へと引っ込んだ。

 

「昴、少し強引すぎる幕引きじゃないかな?」

 

 店内では聖刀が珍しく不満気な顔で立っていた。

 どうやらヒーローショーとしての出来に納得が行かない様だ。

 

「お言葉ですが、聖刀さま。あれくらいしないと、いつまで経ってもこの鬼ごっこは終わりませんよ。薫さまだってもっと聖刀さまとお話がしたいでしょうに。」

「おっと…これは痛い所を突かれたな♪」

 

「う〜〜〜、でも綾那はもっと一葉さまと勝負したかったですよ………」

 

 綾那は着ぐるみのフード状になっている頭だけ外して不満そうに唇を尖らせている。

 

「一葉さまは躑躅ヶ崎館にお連れしたから、向こうでもう一度挑んでみましょう♪」

「おお!なるほど♪それは良い考えなのです♪あれ?お母さんと小夜叉も寝てるですか?」

 

 綾那の言う通り、桐琴と小夜叉、そして春日と壬月、ついでに兎々も店の中に寝かされていた。

 御猿アヤナーショーの間に祉狼が眠らせたのだ。

 桐琴には『酒を控えましょう』、小夜叉は『無理は禁物』、春日は『健康』と花丸付きで、壬月は『塗り薬に慣れましょう』、兎々は『だぢづでどの練習をしよう』と書かれている。

 

「祉狼!鬼ごっこは終わりよ!出てきなさい!」

 

 言われて祉狼は小波と一緒に天井裏から降りてきた。

 

「もう終わりなのか………残念だ………」

「果たしてこれは鬼ごっこと呼べる物だったのでしょうか…………」

 

 小波が自信喪失して項垂れている。

 

「ま、まあ、それよりも小波ちゃんは詩乃ちゃん達に連絡して、この寝かされた人達を運ぶ手配を…」

「そ、そうですね!判りました!」

 

 小波が句伝無量で連絡を取り始めると、昴は薫に頭を下げた。

 

「それでは薫さま。お騒がせしましたが…」

「あ!昴ちゃんは夕霧ちゃんの旦那さんになったんだから、薫は義妹になったんだよ♪」

「あ………それじゃあ、私も薫ちゃんって呼ぶね♪この後、聖刀さまと楽しんで来て♪」

「うん♪」

 

 ここで昴はふと気が付いた。

 

(あれ?薫ちゃんは夕霧ちゃんの妹………って事は、薫ちゃんは見た目が光璃さまに似てるけど幼女!?でも私の魂が萌えなかったのは?……………う〜〜〜ん、もしかして、先には聖刀さまの事を好きになっていたからなのかしら?)

 

 昴は悩みながら春日の隣で眠る兎々を抱き上げる。

 

「あれ?兎々ちゃんを連れてくの?」

「一葉さまを捕まえて、鬼ごっこを終わらせたからご褒美に♪」

 

「そんな話は出とらんかったわっ!!」

スパーーーーーン!

 

 突然現れた沙綾がハリセンで昴の頭をひっ叩いた。

 

「さ、沙綾どの………何も叩くことはないでやがりますよ……」

 

 沙耶の横には夕霧も立っている。

 

「此奴は目を離すと幼い娘の尻を追いかける奴じゃぞ!いい加減に気付け!」

「いや、なんとなくそうだろうなとは気付いているでやがりますよ。それだから夕霧のことも好きになってくれたのだし…………」

「甘い!この茶屋の団子並みに甘いわ!此奴にはガミガミ言うくらいで丁度良いんじゃ!」

バシバシ!

「沙綾さん、お尻叩かないでぇ♪」

「沙綾さま、綾那は早く躑躅ヶ崎館に戻りたいのです。そのらりるれろもどうせ躑躅ヶ崎館に行くからいいじゃないです?」

 

 綾那は既に小夜叉を背負い蜻蛉切りと人間無骨を持って準備万端だ。

 

「ああもう!どいつもこいつも好き勝手しおって!」

 

 沙綾は昴の尻をハリセンでバシバシ叩きながら茶屋を出て躑躅ヶ崎館へと向かったのだった。

 一方、祉狼は美空に首を掴まれてガクガク揺さぶられている。

 

「ちょっと、祉狼!なんで私だけ攫わないのよ!!」

「い、いや、長尾の当主を人前で攫うのは今後の威信に関わると思って…」

「え?………じゃあ、私の為を想ってくれたって事?」

「それは当たり前だろう♪」

「も、もう♪そういう事は早く言いなさいよね?あ♪お団子とお茶をちょうだい♪うふふ♪祉狼、迎えが来るまでここでゆっくりしましょうね♪」

 

 美空は一転、上機嫌で縁台に座り祉狼にしなだれ掛かって甘え出す。

 

「ふっふっふ♪これぞ正に漁夫の利よね♪あ、ここは私達が居るから大丈夫よ♪折角の逢引なんだから楽しんでいる来なさいよ、薫♪」

 

 美空にも言われて薫は聖刀と狸狐の顔を見る。

 

「それじゃあ行こう♪」

 

 薫は聖刀と狸狐の手を握って立ち上がった。

 

 

-6ページ-

 

 

「鞠は蹴鞠がいいと思うの♪」

 

 再び躑躅ヶ崎館の評定の間に集い午後から何をするか決める際に、駿府屋形奪還の総大将となる鞠に決めて貰おうという事になった。

 

「それはもしや、二条館でされていた天の国の蹴鞠ですかな?」

 

 幽が少々警戒して問い掛けるが、鞠は笑って否定する。

 

「あれも面白かったけど、今日は普通の蹴鞠なの♪」

「左様でございますか♪いやいや、午前中は殺伐とした物になりましたから、午後は優雅な遊びに興じるのはようございますな♪」

「花のように美しい女子が揃っておるじゃ。たまには良人殿に花を愛でる機会を作るのは良い事じゃ♪」

 

 四鶴の一言が彼女達に新たな争いの火種を与えてしまった。

 

「流石に全員でとはいかぬから、最初は十六人で始め、落とした者は交代でどうだ?」

 

 久遠の提案に異を唱える者はおらず、次にチーム分けとなった。

 武田衆、長尾衆はそのまま、足利衆は一葉、双葉、幽に加えて眞琴と市が加わる。

 松平衆は歌夜、綾那、小波を戻す。

 問題はやはり織田衆で、スバル隊、天主教組、尾張組甲、尾張組乙に分ける事となった。

 各チームから二人ずつ出し、蹴鞠を落とした回数の一番少ないチームが勝ちとルールを単純にする。

 

「鞠さまを一番手として、二番手は誰にするのじゃ?」

「夕霧ちゃんがいいと思いま〜す♪」

 

 沙綾の問いに雛が手を上げる。

 その顔には夕霧ともっと打ち解けたいという想いと、夕霧の鞠に対する罪悪感を早く払拭してあげたいという想いが現れていた。

 そんなスバル隊を笑顔で見守り、光璃は粉雪と心を送り出す。

 美空は蹴鞠ならと空と名月に先鋒を任せた。

 一葉は眞琴と市に任せる。自分もそうだが幽と双葉が先に入っては交代せずに終わってしまうのが目に見えていたからだ。

 松平衆からは歌夜と綾那のゴールデンコンビ復活の様な組合せ。

 天主教組はエーリカと雫が選ばれた。

 織田組甲はひよ子と雪菜、織田組乙から麦穂と詩乃。

 

「それじゃあ、始めるの♪」

 

 最初に鞠が蹴り上げ、夕霧に回す。

 

「夕霧は蹴鞠が得意ではないでやがりますが………頑張るでやがりますよ!それっ!」

「夕霧さまには馬術では敵わないけど………蹴鞠ならあたいでも負けないんだぜ!ここ!」

「はい、こなちゃん♪それ♪空さま♪」

「はい!………っと、名月!」

「はいですの♪蹴鞠ならこの北条名月景虎にお任せですわ♪はい!眞琴さま♪」

「わ!わわわ!と、と………それ!市!行ったよ!」

「まこっちゃん、慌てすぎ♪……はい!歌夜♪」

「はい♪それ♪綾那………って、まだそのお猿の格好してるの!?」

「うらやましいですか?歌夜♪」

「別に羨ましくはって、蹴鞠が落ちるわよっ!」

「大丈夫ですよぉ………にゃっと!エーリカ、行ったですよ♪」

「はい♪っと、それ♪雫さん♪」

「は、はい!エーリカさん、お上手ですねぇ。」

「これも母から手解きを♪」

「私ももっと鍛錬しなきゃ……あ!ひよ!すいません!」

「大丈夫!それ!雪菜さん!お願いします!」

「任せるだよ♪そ〜れ♪麦穂さん、行っただよ♪」

「はい♪詩乃ちゃん、動かなくて大丈夫よ♪」

「あ、ありがとうございます!はい!鞠さん!」

「詩乃もかなり上達したの♪」

 

 取り敢えず、一巡二巡と大きなミスも無く全員が蹴鞠を繋いで行く。

 

「如何ですかな、祉狼さま♪」

「みんな楽しそうで良いな♪」

 

 四鶴の問いに祉狼は笑顔で答える。

 その目には妹や従姉妹と遊んだ日々が重なって見えていた。

 

「いえいえ、そうでは御座いません。鞠を蹴る女子の脚、裾から見える太腿や揺れる乳房などを見て何か感じませぬか♪」

「ん?別に病魔や怪我は見えないが………」

 

 祉狼の反応は四鶴にも予測済みだ。

 だからこそ、四鶴は祉狼を目覚めさせようとこの話題を振ったのだった。

 

「その様に医者としての心構えは立派で御座いますが、ここは男として見る鍛錬をなさいませ♪」

「男として?」

「例えば、ほれ。昴を見てみなされ。」

 

 四鶴が指した先では、昴が萌え萌えしながら鞠、夕霧、綾那、空、名月を見ていた。

 

「あの様に女子を愛でるのも、良人には必要なのですぞ♪」

「愛でるのか………難しいな………」

「何も難しい事は御座いません。例えば歌夜の弾む胸を見て夜の事を思い出されてみなされ♪」

 

「あーーーーっ!歌夜!なんで受けそこねるですかっ!」

 

 綾那に怒られる歌夜は胸を両手で押さえ、真っ赤な顔で身を捩っていた。

 四鶴と祉狼の会話がしっかり聞こえていたのだ。

 

「ご、ごめんね、綾那………小波、交代………」

「はっ!お任せを!」

 

 歌夜が下がって小波が入り、蹴鞠は再開された。

 しかし、祉狼の嫁達は祉狼と四鶴の会話が気になってそれどころでは無い。

 

「ほれ、あの雫の白魚の様な細い脚は如何ですかな♪鞠を蹴る時に裾が翻って…」

 

「ひゃあっ!」

「雫!す、すみません!」

 

 エーリカの蹴った鞠を受けようとしていた雫がスカートを押さえて踞ったので、鞠が頭に直撃してしまった。

 

「もう、何をなさってますの、雫さん。せっかく四鶴さまが雫さんの魅力をハニーに語っておられましたのに!」

「だって、梅さん!あんな事を言われたら恥ずかしいですよぉ………」

「この場は女の戦場ですわよ!四鶴さまの援護を活用できないなんて策士官兵衛の名が泣きますわ!」

「今は名でなく私自身が泣きたい気分ですぅ………」

「見ていてくださいまし♪この蒲生忠三郎梅賦秀が見事ハニーの愛の視線を手に入れてみせますわ♪おーーーーっほっほっほっほっ♪」

 

 高笑いをした梅がわざとスカートの裾を跳ね上げる様に鞠を高く蹴り上げた。

 

「ふふふ♪今のでハニーはわたくしに釘付けですわっ♪」

 

「しろー、美衣もあそびたいにゃ……」

「ははは♪次は入れて貰おうな、美衣♪」

 

 美衣が祉狼の膝の上に乗って視界を遮っていた為に見ていなかった。

 

「そ、そんな…………ハニィ???!」

「梅ちゃん、はしたないよぉ………それにあんなに高く上げちゃって…………い、勢いを殺すために仕方なくだからね!仕方なく………♪」

 

 ひよ子が言い訳をしながら片膝を上げて鞠を受け止める。

 その際に薄桃色の下着が祉狼にしっかり見える角度を取っていた。

 

「そう言うひよちゃんもしたたかだなや…………ほい!」

 

 ひよ子から回って来た鞠を雪菜が小さな動作で蹴って麦穂へ回す。

 

「雪菜さんもお上手ですね♪」

「小さい頃はひとりでずっと鞠ばっかり蹴ってたで…………」

「そ、それは………」

 

 雪菜の暗い過去を聞いて麦穂が少々動揺する。

 

「祉狼さま、麦穂の胸の揺れ具合など実に艶めかしいですぞ♪」

「っ!?」

 

 更に四鶴の追い打ちを喰らって、麦穂も胸を押さえて足が止まってしまった。

 

「し、四鶴さまっ!」

「おお♪美衣の為にわざと外すとは、麦穂は優しいのぉ♪」

「良かったな、美衣♪麦穂にお礼をするんだぞ♪」

「え………ええ……はい、美衣ちゃん…」

「むぎほ♪ありがとうなのにゃ♪」

 

 美衣の笑顔に麦穂も自然と笑顔になり、四鶴のセクハラも水に流そうと決めて祉狼の下へ移動する。

 

「麦穂は良いお母さんになるな♪俺も麦穂に子供が出来る様に努力するからな♪」

「えっ!?………は、はい♪」

 

 思いがけず祉狼にそんな事を言われて、麦穂はこの後ずっとニヤケたままだった。

 蹴鞠の方は夕霧がミスをして犬子と交代していた。

 

「よーーーし!この犬子が華麗な脚捌きとこのお尻とおっぱいで昴さまを誘惑しちゃうもんね♪」

 

 犬子はいつもの幅に余裕の有る短い袴では無く、ピッチリとしたスパッツの様な袴を履いていた。

 

「おお?!犬子ってば攻めるねぇ?♪」

「えへへぇ♪ありがとう、雛ちゃん♪でも、実はころちゃんに分けてもらったんだ?♪」

「へぇ?、それを作り直したんだ?。ころちゃんのより色っぽいね?♪」

「そ、そうかな?」

「うん♪それなら昴ちゃんも大喜びだよ♪」

「そう?そうだよね♪昴さまを悩殺しちゃうわん♪」

 

 犬子は張り切って飛び出し、足を高く上げて鞠を蹴り上げた。

 

『『『ぶふっ!』』』

「え………犬子ちゃん?」

 

 しかし、その姿に女性陣の殆どが驚いて咽せ、昴も我が目を疑った。

 

「あれ?何か予想の反応と違うような………」

 

 

「犬子ちゃんっ!破れてる!お股の所が破れてるよおっ!!」

 

 

 ひよ子の必死な叫びに犬子は顔が青ざめていく。

 信じられない、信じたくないと思いつつ自分の股間に恐る恐る手を伸ばす。

 

「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 顔を真っ赤にして泣きながら股間を隠し、雛の所へ駆け戻る

 

「雛ちゃぁあああんっ!!何で教えてくれなかったのぉおおおっ!!」

「え??だから『攻めるねぇ』って言ったのにぃ。犬子がそう作り直したと思ったから雛は『色っぽいね』って言ったんだよ?」

「こんな風に作り直すって!雛ちゃんは犬子こと痴女だと思ってるのっ!?」

「え?」

 

「………………………雛ちゃん…………その『え?』は『何でそんな当たり前のこと聞くの』って『え?』だよね……………」

 

 犬子の凰羅が明らかに変わったのを雛は感じ取ってジリジリと距離を取り始める。

 

「ひぃ???なぁ???ちゃぁああああああああんっ!!」

「犬子が本気で怒ったぁーーーーっ!!」

 

 犬子が野犬の様に飛び掛かると雛はいつもの御家流で瞬時に避ける。

 犬子は鋭い嗅覚で雛を追い続け、そのまま庭から出て行ってしまった。

 

「犬子の奴、完全にキレちまった…………」

「あんな丸出しで町に出たら、ほんまに痴女やんけ………」

 

 和奏と熊が呆然と見送り呟いた。

 久遠は頭を抱え溜息を吐いてから昴を睨む。

 

「おい、昴。行って連れ戻して来い。嫁の管理はお前の仕事であろうが。」

「それなら大丈夫ですよ♪」

 

 昴は暢気に答えて雛と犬子の飛び出して行った先を見る。

 

「栄子さん、ご苦労さま♪」

 

 そこには気絶した雛と犬子を両脇に抱えた栄子が立っていた。

 

「いえいえ?♪犬子ちゃんのこの姿を町の連中なんかに見せてあげるもんですか♪」

 

「ほう。蒼燕瞬歩を使っている時の雛を捕まえるか。噂通りの腕と言う訳だな。」

 

「お褒めに与り恐悦至極♪それでは昴さま、わたくしは犬子ちゃんに袴を履かせてきますわ♪」

「よろしくね♪」

 

 栄子が下がって館の中に消えると、美空が昴を睨んだ。

 

「ちょっと、煩悩。本当にあいつの手綱を緩めるんじゃないわよ。」

「大丈夫ですって♪栄子さんはスバル隊のみんなを絶対に裏切らないですから♪鞠ちゃんの駿府屋形を取り戻すのに、心強い戦力ですよ♪ね、鞠ちゃん♪」

 

 昴がウィンクして見せると、鞠は笑顔で大きく頷いた。

 

「うんなのっ♪」

 

 そうして大きく腕を天に突き上げ、この場の一同に向かい声を上げる。

 

「蹴鞠でみんな仲良くなるのっ♪再開だよーーーーっ♪」

 

 

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 聖刀と狸狐は薫に連れられ、馬で甲府の町の外まで来ていた。

 

「ねえ、薫ちゃん。どこまで行くの?」

「もうすぐだよ♪」

 

 狸狐の質問に薫は茶目っ気たっぷりに笑顔で答える。

 

「あ、見えてきた♪ほら、あそこ♪」

 

 薫の指した先の山の中に湯気が上がっていた。

 

「煙………じゃなくて、湯気?」

「うん♪あそこには武田家の隠し湯があるの♪お姉ちゃんには許可をもらってるから入っても大丈夫だよ♪」

「隠し湯って………お風呂に入るの!?」

 

「うん♪三人で一緒にね♪」

 

 温泉に入る計画も葵の立案で、葵は光璃と相談し、薫にもよく考えてから温泉に入るか決める様にと言ってあった。

 薫の笑顔を聖刀が真面目な目をして見つめる。

 

「薫ちゃん。君はもう立派な女性であり、武田家当主の妹だ。薫ちゃんが僕とお風呂に入るって事の意味の重大さは判って言ってるのかい?」

 

 薫も真面目な顔になり、馬から降りて居住まいを正す。

 

 

「聖刀お兄ちゃん!好きです!薫をお嫁さんにしてください!」

 

 

 前置き無くはっきりと薫は言い切った。

 判ってはいた事だが狸狐は緊張する。

 自分はこの日の本で聖刀の奥を管理しなければならないのだから、しっかりと薫を見定めなければと。

 

「薫は昨日、光璃お姉ちゃんと話をしました。聖刀お兄ちゃんの素顔には人を魅了する力が有る事も聞きました。確かに薫はその力に惑わされたんだと思う。昨日の夜もお兄ちゃんの事が頭から離れなかったもん。だから、今日は聖刀お兄ちゃんの事を見定めようと思ったの。そうしたら聖刀お兄ちゃん、あの春日と桐琴さんの闘いと小夜叉ちゃんと壬月さんの闘いから町の人達を守っちゃうでしょ♪あんなに自然な身の熟しで剣戟や跳んでくる小石を弾き返すんだもん。あれって守られた人達、絶対に気付いてないよ!聖刀お兄ちゃんも当たり前って顔して………あ、顔は隠してるけど、薫は目を見てたよ!聖刀お兄ちゃんはとっても優しい素敵な人なんだって判ったら、ますます好きになっちゃったよ♪きっとまだまだ薫の知らない聖刀お兄ちゃんの素敵な所が有るに違いないから、薫は聖刀お兄ちゃんとずっと一緒に居たいと思ったんだ♪」

 

 薫はまだまだ語り足りないのだが、聖刀の返事も聞かなければと自制して、じっと聖刀の仮面の奥の瞳を見つめる。

 聖刀も薫の気持ちを真摯に受け止め、誠意を持って応える為に馬から降りて薫の正面に立った。

 

「薫ちゃんが僕の事を好きになってくれるのはとても嬉しいよ♪可愛いし、頭も良いし、観察眼も持ってる♪でもね、僕は何時かこの日の本を後にして生まれ故郷に戻るんだ。お嫁さんになるって事は薫ちゃんもこの日の本を、光璃ちゃんと夕霧ちゃんとも、この甲斐の国の全てから離れる事になるんだ。薫ちゃんは僕を優しいと言ってくれたけど、本当の僕はとても我が侭だよ。一度手に入れたお嫁さんは絶対に手放さないからね。その覚悟は有るかい?」

 

 薫は聖刀の瞳を見続けたまま応える。

 

「その事もお姉ちゃんから言われました…………聖刀お兄ちゃんに嫁ぐ時は武田の名を捨てる覚悟で………狸狐ちゃんの様に全てを捨てる覚悟で添い遂げなさいって……………薫は覚悟が出来たから………もう一度言うね……聖刀お兄ちゃんのお嫁さんにしてください。」

 

 薫は目に涙を溜め、嗚咽しそうになるのを必死に堪えて言い切った。

 

 聖刀は今にも泣き出しそうな薫を抱き締め耳元に囁く。

 

「今から薫ちゃんは僕のお嫁さんだ………辛い決断をさせてごめんね。」

「ふえ……まさと…おにいちゃん………………ぅうっ…………うぇ……」

 

「良いんだよ、何時かこの地を離れるとしても、故郷と家族を捨てる必要は無いんだ。帰って来れなくなっても、心の中にしっかりと刻んでおくと良い。離れるのが悲しいなら声を上げて泣いて良いんだよ。それだけ薫ちゃんが光璃ちゃんと夕霧ちゃん、武田のみんなを愛している証拠なんだから。そんな薫ちゃんを連れ去ろうとする僕はとんでもない悪党だ。でも、もう離さない。薫ちゃんは僕のお嫁さんだからね♪」

 

「お兄ちゃん……おにいちゃん………………おにいちゃ………うぁああああああああああああぁぁぁ!」

 

 薫は遂に堪え切れなくなり、堰を切った様に声を上げて、大粒の涙を流して泣き出した。

 聖刀に縋り、自分も絶対にこの手を離さないと意思を込めて強くしがみ付いた。

 

 狸狐も我が事の様に喜び、貰い泣きをしていた。

 かつての斎藤飛騨守では絶対に考えられない事だが、狸狐自身はその事に全く気付いておらず、ただ素直に感じたまま涙を流すのだった。

 

 

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 翌日の朝。

 大休止二日目の日が昇ろうかという頃に、祉狼は気配を感じて目を覚ました。

 周りはゴットヴェイドー隊の面々が所狭しと部屋いっぱいに布団を敷いて寝ている。

 祉狼は起こさない様に気配を消して布団の間を縫い、廊下に出た所で気配を消すのを止めた。

 

「ご主人さま。お目覚めですか?」

「ああ♪おはよう、小波♪起こしてしまったか?」

 

 いつもの様に一瞬で祉狼の前に現れた小波は祉狼の気遣いに感謝して頭を下げる。

 

「おはようございます。いえ、私は目を覚まして護衛の任をしておりました。」

「そうか♪なら一緒に井戸まで顔を洗いに行かないか?」

「私は護衛ですので、いつもお側に控えております♪」

「いや、いつもみたいに姿を隠さずにって意味なんだが………」

「は、はい!喜んで♪」

 

 祉狼は小波と一緒に廊下を歩いて外に在る井戸へ向かった。

 

「武田の人達は朝が早いんだな。」

「そのようですね。甲斐の明六つは日の出前の様です。」

 

 祉狼は目を覚ます切っ掛けになった気配が朝の支度に起き出した人達の物だと気が付いていた。

 自分も朝は早い方だと思っていたが、武田の人達はそれ以上だと知って慢心だったと自分を諌める。

 

「甲斐の人達がどんな生活をしているのか気になるな。」

「ご命令とあらば部下に調べさせますが。」

「いや、こういうのは実際に見る。出来れば体験する方が良いんだ。身体を壊す原因を突き止めたり流行病の病魔の感染源を特定したりするのに役立つから。」

「成程♪」

 

 そんな話をしながら井戸まで来ると武田四天王が揃って出発の準備をしていた。

 

「おはよう♪春日、粉雪、心、兎々♪」

「皆様、おはようございます。」

 

 声を掛けられて春日は屈託無い笑顔で、粉雪はあからさまに動揺して、心は恥ずかしそうにはにかんで、兎々は不機嫌な顔で振り返った。

 

「おはようございます、良人殿♪」

「お、おはようなんだぜ………」

「おはようございます、祉狼さま♪小波さん♪」

「なんの用らっ!?」

「こら!兎々っ!御館様の良人殿に対して無礼であろうっ!」

「ひっ!」

「まあまあ♪俺は顔を洗いに来たんだが、それよりみんなはこれから何処かに行くのか?」

 

 祉狼は兎々を庇って春日に問い掛けた。

 

「今から警邏に出る所でござる。何分甲斐は山国でござるから夜討ち朝駆けを警戒しなければなりませぬゆえ。」

「ふむ、どうだろう。俺と小波も同行して構わないか?出来れば一日の仕事を体験したいんだが。」

「それはまた如何様な理由にございますかな?」

「甲斐の人達が身体を壊す原因を突き止めたり流行病の病魔の感染源を特定したりするのに役立つからだ。それに今思いついたが春日達ともっと打ち解けたいな♪」

「そうでござるか♪それでは断る理由がござらんな♪今から馬を用意するので、その間に顔を洗っていてくだされ♪」

 

 こうして急遽、祉狼と小波の武田家一日体験ツアーが始まった。

 

「馬は本当に一頭でよいのでござるか?」

「はい。私の拙い馬術では遅れて皆様にご迷惑をお掛け致します。自らの足で走った方がまだ追い付けますので。」

 

 小波の馬術は確かに言う通りだが、走る速さなら追い付けるどころか余裕で引き離す事も可能だった。

 

「それじゃあ小波は俺の後ろに乗れば良い♪」

「ええっ!?そんな恐れ多いっ!!私は本当にこの足で構いませんのでっ!」

〈小波。本当は俺だって自分の足で走った方が速い。でもここは武田の人達に合わせてくれ。〉

〈ご主人さま!…………畏まりました。それではご主人さまの後ろに座らせていただきます♪〉

 

 最後は念話なのでつい嬉しいという本音の感情が乗ってしまっていた。

 

「二人乗りれ兎々達に追いつけると思っているのら!?」

「兎々。良人殿はかの錦馬超に馬術を習い、典厩様を負かす程の腕だぞ。」

「そ、そんなにすごいのら!?」

「それに拙と兎々は昨日、あっさりと捕らえられておるではないか。」

「あ、あんなのは卑怯なのら!」

 

「馬鹿もんっ!!常在戦場の心得忘れるべからずっ!!油断を誘うのもまた兵法!!槍を交えていた拙と桐琴殿を捕らえる事が如何に困難か判らぬお主ではあるまいっ!!」

 

「ひっ!」

「まあまあ♪春日、こういうのは理屈じゃないんだ♪兎々、俺は兎々が納得するまで何度でも付き合うからどんどん挑戦して来い♪」

「う〜〜〜〜………」

 

 祉狼に頭を撫でられて子供扱いされている事に不満を言いたいが、言えばまた春日に怒られるので唸る事しか出来ない兎々だった。

 しかし、馬に乗って走り出すと兎々は驚きの目で祉狼を見る。

 それは春日、粉雪、心も同じだった。

 

「確かにこれは…………この目で見て真に納得した。実に見事な手綱捌き♪」

「二人乗りであたいらの前を行くなんて信じられないんだぜ…………」

「(………素敵だなぁ♪……)」

「ん?ここ、今なんか言ったんだぜ?」

「え!?な、何でもないよ!こなちゃん!!」

 

「ふんぎぃいいいい!兎々はまけないのらぁああああああっ!!」

 

 必死に追いかける兎々だが、結局躑躅ヶ崎館に戻るまで一度も祉狼の前に出る事は出来なかった。

 因みに巡回コースは小波が春日から聞いていて、ナビゲーターとして祉狼に随時教えていたので道を外れなかったのだ。

 

「次は何をするんだ?」

「鍛錬でござる♪農作業が有るときは田畑に向かうのですが、もう収穫も終わりましたからな♪」

「春日さま、私は朝ごはんの用意をしてきます。」

 

 心が春日に頭を下げた後、祉狼に微笑んだ。

 

「腕に寄りを掛けてたくさん作りますから♪」

「ああ♪楽しみにしてるよ、心♪」

 

 祉狼に名前を呼ばれた事で嬉しくなった心は、ウキウキと台所へ向かった。

 

「畑仕事もしてみたかったが、収穫が終わってるなら仕方ないな。」

「ご主人さまは畑仕事もなさるのですか?」

 

 小波の質問を春日、粉雪、兎々は不思議に思い耳を傾けた。

 武田では光璃さえも時間が有れば畑に出て鍬を握るからだ。

 

「ご主人さまは皇帝陛下の甥ではありませんか。」

「俺の家が持っている領地は大半が薬草を育てる畑だからな♪人を雇っているが任せっきりという訳にもいかないだろ♪庭にも小さいが野菜を育てる畑が有るし、何より雪蓮伯母さんが人手の足りない農家の手伝いに従姉妹を引っ張り出すから俺と聖刀兄さんと昴も一緒に畑を耕したよ♪」

「その雪蓮様のお名前は?」

「孫策伯符といって…」

 

「江東の小覇王ですかっ!?」

 

「若い頃はそんな渾名で呼ばれていたと聞いた事があるな。」

 

 春日達は孫子の流れを組むかの孫伯符が、風林火山を旗印にする武田と同じだと聞いて目を輝かせた。

 

「俺には父さんと母さんから酒を控えろと怒られている雪蓮伯母さんの印象の方が強いけどな♪」

 

 春日と粉雪は酒には溺れない様に気を付けようと心に誓った。

 一行は庭に回って鍛錬を始める。

 

「華?伯元!兎々と勝負なのら!」

 

 早速先程の約束を果たさせようと兎々が祉狼に戦いを挑む。

 

「ちょっと待つんだぜ、兎々。今日はあたいが先に挑ませてもらうんだぜ!」

「粉雪はおとついも兎々より先に((出|れ))たのら!」

「昨日あたいは蹴鞠しかしてないんだぜ。兎々は昨日旦那と勝負したんだぜ?負けて捕まったけど♪」

「う………それは………」

 

 兎々は見栄を張ってそう粉雪に言っていたので、何もしない内に捕まったとは言えなかった。

 

「そんじゃ旦那!遠慮無く行かせてもらうんだぜ!」

 

 祉狼の強さを既に認めている粉雪は、本当に遠慮無く紅桔梗の突きを繰り出した。

 

「ふんっ!」

 

 突然の攻撃にも祉狼は落ち着いて穂先を避け掌底で横に流し、背中と腕で紅桔梗を押さえ込む。

 

「えっ!?ちょっ!」

 

 更に震脚を粉雪の脚の間に打ち下ろし体を密着させた。

 

「本当なら震脚で足を踏み潰し、槍を折ると同時に頭突きを顔面に叩き込むんだ♪」

 

 粉雪は顔に息の掛かる距離で言われて一昨日の恥ずかしい記憶が蘇った。

 

「ま、負けぇえ!負けを認めるから離れるんだぜっ!」

「このまま離れると尻餅を着くぞ?」

「尻餅くらい大丈夫だからっ!」

 

 真っ赤になって叫ぶので祉狼は慌てて手を放す。

 小波は祉狼が槍の一撃よりも恥じらう女の子の叫びの方に怯むのを見て、祉狼らしいと微笑んだ。

 しかし次の瞬間、小波は信じられない物を目にする。

 それは一昨日も見た赤い布。

 足を開いた状態で尻餅を着いた粉雪と祉狼の間にヒラヒラと舞い落ちた。

 どうやら祉狼の震脚で結び目が解けたらしい。

 

「え?と…………………すまん。」

「うぁああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 粉雪は泣きながらスカートを押さえて地面に座り込む。

 

「一昨日も言ったが、俺は医者だから気にしなくていいんだぞ。」

「おお、成程♪良かったな、粉雪♪」

 

 春日も納得してカラカラ笑い出した。

 

「良くないんだぜぇええええええええっ!!うわぁああああああんっ!!」」

 

 粉雪は堪えきれず泣きながら逃げ出す。

 その時、紅桔梗とパンツもしっかり回収して走り去ったのだが、両手が塞がった所為でミニスカートが翻ってお尻が丸出しになったのを粉雪は後で知ったのだった。

 

「何だあいつは!あの服装で戦場に出るのだからこんな事も覚悟の上であろうがっ!良人殿申し訳ない!粉雪は後できつく叱っておくので、この場は拙に免じて収めては頂けないでござろうか………」

「いや、俺の方こそ………やっぱり恥ずかしかったんだな………後でちゃんとお詫びをしよう。」

 

 冷や汗を流して事の顛末を見ている事しか出来なかった小波は、粉雪が祉狼の嫁になる未来が容易に想像出来、落ち込みながら結菜へ句伝無量で報告するのだった。

 

「兎々。良人殿に挑戦するのであれば順番を譲るが、どうする?」

「わわっ!?と、兎々はもういいのらっ!ひ、ひとりれ鍛錬するのれすよっ!」

「ははは♪良人殿の実力をやっと理解したか♪もっと腕を磨き、自信が付いたら挑むが良かろう♪」

 

(ろんなに((腕|うれ))が上がっても恥ずかしい結果になる気しかしないのら………)

 

 兎々の勘は北郷家御家流の一部とも言うべきラッキースケベ体質を正しく感知していた。

 

(これならまら、((孟興子度|もうこうしろ))の方がマシなのら。)

 

 北郷家の危険は感知出来ても昴のロリコンは出来ないらしい。

 

 

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 その後一時間程鍛錬をして、そろそろ朝食が出来ると言う事で終了となった。

 

「良人殿、これから拙は日課の健康法を行うのですが、宜しければ不適切な所を指摘して頂けないでござろうか?」

「春日の健康法か♪実は春日には病魔が近寄れないでいるのが診えていたから気になっていたんだ♪」

「いや、ただの乾布摩擦でござるよ♪文献には乾いた布で体を擦るとしか書いて無かったので、取り敢えず全身隈無く擦っているのですが…………まあ、口では説明するより見ていただいた方が早うござるな♪」

 

 そう言うと春日は躊躇う事無く上を脱いで、手近に有った木の枝に引っ掛けた。

 

「か、春日さまーーーーーーーっ!!」

 

 兎々が慌てて春日の前に立ち両腕を上げて祉狼から見えない様に壁になる。

 小波も自分では止められないと句伝無量のお守りを渡した全員に助けを求めた。

 

「ん?何だ、兎々?」

「服を着てくらさいっ!」

「何を言っている。これから乾布摩擦をするのだから脱がねば出来んだろう。」

「春日さまは恥ずかしくないのれすかっ!!」

「恥ずかしく無い訳では無いが、良人殿は先程『医者だから気にしない』と仰られたではないか♪だから兎々、お前も脱いで良人殿に教えて貰え。」

 

 春日は兎々のセーラーカラーを掴んで引っ張り上げる。

 兎々が両腕を上げていたのであっさりと脱がされてしまった。

 

「へ?」

 

 下に着ているのがスク水の様な(と言うかスク水にしか見えない)服だったので肌を晒さずに済んだが、このままでは間違い無くこれも脱がされる。

 両腕を上げていればそれだけは避けられると、兎々は咄嗟に判断した。

 

「か、春日さまー!か、返してくらさい!返してくらさいーーー!」

「ははは♪いつも一緒に乾布摩擦をしているではないか♪今更恥ずかしがるな♪」

「春日さまはもっと恥ずかしがってくらさいっ!」

「いつまでも駄々を捏ねてないで早く準備を…」

 

 春日の手が兎々の肩紐に伸びようとした瞬間、兎々の姿が掻き消えた。

 

「おや?今のは………」

 

 

 

 兎々は突然視界が変わって、両腕を上げたまま呆然となった。

 場所はさっきまで居た場所を見下ろせる屋根の上。

 そして、目の前に居るのは。

 

「間一髪だったね〜♪」

「お前は………滝川一益!?」

「雛でいいよ〜♪雛も兎々ちゃんって呼ぶから〜♪」

「た、助けてもらったからそれくらいの礼はするのら…………あ!春日さまはっ!?」

 

 兎々が振り返って庭を見下ろす。

 

 

 

「確か昴殿の嫁御のひとりの滝川一益殿であったな?」

「ああ………急にどうしたんだろう?」

 

「ご、ご主人さま!兎々様に急用との事で雛様が迎えにいらっしゃったのです!」

 

 小波が何とかフォローしようと咄嗟に思い付いた嘘で誤魔化した。

 

「それであれば仕方ないですな。」

「それじゃあ、残った俺達だけで乾布摩擦を始めるか。折角だから小波もやろう♪」

 

「は?……………ええっ!?そ、それはご命令ですかっ!?」

 

「小波はいつもそれだな………じゃあ、命令だ♪乾布摩擦をして健康になれ♪」

 

 祉狼は気を利かせたつもりだが、どう見ても良くてセクハラ。下手をすれば露出プレイの強要である。

 

「ご、ご命令とあらば…………仕方ありません…………」

 

 尤も、小波自身がこの命令で新たな悦びに目覚めかけていたが。

 こうして祉狼と小波も上半身裸になり、三人で乾布摩擦を始めた。

 そこに複数の足音が駆けて来るのが聞こえて来た。

 

「ああっ!」

「どうした、小波?」

「あ、あの…………実は先程………皆様に句伝無量で………」

 

「みんなにも乾布摩擦をしようと呼びかけてくれたのか♪でかしたっ♪」

 

 祉狼の頭を『健康』の二文字が完全に支配していた。

 そんな所へ最初に現れたのは雹子、秋子、貞子の三人。

 

「「「祉狼さまっ!!」」」

 

「来たなっ♪乾布摩擦をしようっ!」

 

「「「はいっ♪」」」

 

 三人は我先にと上を脱ぎ捨てる。

 

「あ、布が無いな………」

「大丈夫ですっ!ちゃんと持って来ましたわっ♪」

 

 雹子が大きな風呂敷包みを翳して見せた。

 

「流石、森一家を支える雹子だ♪気が利くな♪」

「ありがとうございますっ♪祉狼さまっ♪」

 

 雹子ひとりが褒められ、秋子と貞子が対抗心を燃やす。

 

「祉狼さま!乾布摩擦はこうでいいですかっ!?」

「私のやり方も見て下さい!祉狼さまっ!」

 

 秋子と貞子が大きな乳房を揺らして祉狼に見せ付けるので、雹子も負けじと加わった。

 

「おーーー♪やってるっすね♪柘榴も乾布摩擦するっすよーーー♪」

「松葉もする。」

 

 柘榴と松葉も上を脱ぎ乾布摩擦を始めるが、目的は三人と同じで祉狼に体を見せる事だった。

 

 

「ちょっとあんたたちっ!!何やってるのっ!!」

 

 

 そこに美空の怒鳴り声が響いた。

 

 

「乾布摩擦だっ♪♪」

 

 

 しかし、祉狼の自信に満ちた元気な声が返され、美空は圧倒されてたじろいだ。

 

「し、祉狼………乾布摩擦はいいけど…」

「ああっ♪乾布摩擦は健康に良いぞっ♪ほら、美空もやろうっ♪」

 

 祉狼が差し出した手拭いを美空は思わず受け取ってしまう。

 

「え、で、でも………」

「御大将ぉーー♪乾布摩擦っすよ♪乾布摩擦♪やましい事なんてなんっっっにも無いっす♪」

「そ、そう………よね………健康法ですものね………」

 

 あっさりと落ちる美空だった。

 

「皆さん何を……」

 

 今度は詩乃を先頭にゴットヴェイドー隊が駆け付ける。

 しかし、詩乃やひよ子は巨乳軍団に怯んで動きが止まってしまった。

 だが、巨乳の不干は怯む事無く突き進む。

 

「長尾勢ばかりで織田勢は雹子さんだけではないですか!この佐久間不干信栄が加勢致します!」

「不干さん!歌夜もお供いたします!」

「我らも遅れを取れませんわっ!竹っ!梅っ!」

「「はいっ!松お姉さまっ!!」」

 

 次々と参戦して行くのをひよ子はオロオロと見送るしか出来なかった。

 

「ああっ!梅ちゃん達まで行っちゃったよぉ!し、詩乃ちゃん!雫ちゃん!どうしよう!!」

「こ、この場を治めるにも我々だけでは戦力不足です………」

「明らかに大きさで劣ってますからねぇ………」

「そこなのっ!?」

 

 転子がはっと思い付いて雪菜を見た。

 

「雪菜さんならあの中に入っても違和感が無いですよっ!」

「ころちゃん!なに言ってるだっ!えっと…………結菜さんならこの場を何とかしてくれるべ!オラ呼んでくるだっ!!」

 

 顔を真っ赤にした雪菜が物凄い勢いで走って行ってしまった。

 

「…………………逃げられてしまいましたね………」

 

 ポツリと詩乃が呟いた時、一葉、双葉、幽が雪菜と入れ替わる様に現れた。

 

「何やら凄い事になっておるの♪」

「いやはや、これは壮観にございますなぁ♪」

 

 一葉と幽は面白そうに眺めている。

 ひよ子達は双葉が雪菜の様に逃げ出すのではと思ったが、双葉は平然と祉狼に近付いて行った。

 

「旦那さま、これは一体………」

「乾布摩擦という健康法だ♪体が丈夫になるぞ♪双葉もやろう♪」

「まあ♪そうなのですか♪旦那さまが勧めてくださる事を妻のわたくしがしない訳にはまいりません♪」

 

 双葉は早速服を脱ぎだした。

 流石に一葉と幽が慌てて双葉の元へ駆け付ける。

 

「こ、こら双葉!止めんか!」

「双葉様、庭で裸になるなど、はしたないでござるよ!」

「でも、この場には旦那さまと妻であるわたくし達だけですよ♪ね、旦那さま♪」

「ああ♪ほら、一葉と幽もやろう♪」

 

 祉狼が差し出す手拭いを二人も受け取ってしまい、どうした物かと考え込んだ。

 

「あら?双葉様は祉狼の考えに賛同しているのに、正室である一葉さまが躊躇うの?」

「美空!お主!」

「もしかして自信が無いのかしらぁ♪もしかしてもう垂れ始めて…」

「何だとっ!余の胸を見て同じ事が言えるか試してやるわっ!!」

 

 一葉は憤慨して勢い良く前をはだけた。

 

「あ〜〜………簡単に乗せられちゃいましたよ、この人は………まあ、拙者の御家流で警戒しておれば他の男が近付くのを防げますか………」

 

 意を決した幽もゆっくりと上を脱ぎ始める。

 

「ひよ♪ころ♪詩乃♪雫♪あなた達も早く乾布摩擦をいたしましょう♪」

 

 既に上を脱いだ双葉が手を振って四人を呼んだ。

 

「ど、どうしよう………詩乃ちゃん………」

 

 まだ躊躇うひよ子に、双葉が悲しげな目を向ける。

 

「ひよ…………おともだち………」

「わああああっ!は、はい!ひよ子は双葉さまのお友達ですっ!!」

 

 これを出されてはもう逃げ道は無いと、ひよ子は自棄になり上を脱いで吶喊した。

 

「私達も行くしかないよね…………」

「木の葉を隠すは森の中と言いますし………我らが固まっていれば………」

「あの中に入ると却って目立つ様な………」

 

 転子、詩乃、雫も諦めて上を脱ぎ始める。

 

「一体何をしておるのだ?」

「みんな裸………」

 

 ここで遂に久遠と光璃を先頭に織田衆の壬月、麦穂、四鶴、慶、結菜、エーリカと、眞琴と市の二人、ご飯が出来たと呼びに来た心、その心に連れられ戻って来た粉雪と、結菜に連れられた空、名月、愛菜、美衣がやって来た。その中に結菜を呼びに行った雪菜も戻って来ている。

 

 

「乾布摩擦だっ♪」

 

 

 祉狼の言葉に大人達は雪菜から聞いた説明を完全に理解した。

 しかし、子供達はこの光景が不思議でしょうがない。

 

「「美空お姉さま………」」

「く、空!名月!ち、違うのよ!これはその………」

 

「母上…………」

「あ、愛菜!こ、これは乾布摩擦という健康法なのよっ!」

「乾布摩擦……………むむむ………さっきから母上は胸ばかりを揉んでいたご様子……愛菜が聞いていた乾布摩擦とはかなり違う様な………」

 

 こんな時ばかりまともな事を言う愛菜だった。

 しかし、そこに祉狼のフォローが入る。

 

「ははは♪愛菜、乾布摩擦は字の通り乾いた布で体を擦る事が重要で、決まったやり方など無いんだ♪秋子は胸が大きいから擦り残しが無いか気になるんだろう♪」

「そ、そうです!愛菜!父上の言う通りなのよっ!ほほほほほほほ♪」

「おお!そうでしたかっ!流石、父上♪この樋口愛菜兼続、感服仕りましたぞ♪」

「「あの………おとうさま…………美空お姉さまは…………」」

「空、名月。美空は越後の当主だ。当主たる者、威厳を保つ為に自分を磨かねばならない………と、俺の伯母で聖刀兄さんの母、曹孟徳が言っていたぞ♪」

「曹孟徳様が……」

「わたくしたちの大伯母さまになるんですのね………」

 

 空と名月は祉狼の事が知りたくて、今はこの外史の三国志を勉強していた。

 ここと祉狼達の外史との違いを比較する事で、どれだけ祉狼達の外史が素晴らしいかを伝える目的で沙綾が決めた勉強方法である。

 

「あの……真名を教えていただく事はできますか?」

「大伯母さまはどのような方ですの♪」

「ははは♪華琳伯母さんだ♪向こうではもう空と名月も家族だと思っているから、寧ろ真名で呼ばないと悲しまれるぞ♪どんな人かは………そうだな、もう放つ凰羅が桁外れだな♪褒められた時は天国だが、叱られる時はこの世の終わりに思えたな♪」

 

 二人は華琳の恐ろしさを想像してガタガタ震え出した。

 

「曹操の噂をすれば曹操が来るなんて言われてたから、二人も良い子にしないと華琳伯母さんが叱りに来るかも知れないぞ♪」

 

 祉狼の冗談は子供達よりも大人達の方がビビって辺りを見回す程だった。

 

「美衣はそーそーなんか怖くないのにゃ♪」

「おや、そうか?乾布摩擦をして健康でいればきっと叱られないぞ♪」

「かんぷまさつするにゃっ!」

 

 子供騙しだが、祉狼の言い聞かせ方に結菜や麦穂が微笑んだ。

 

「おとうさま!わたしも乾布摩擦をします!」

「わ、わたくしもですわ!」

「無論!この越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続も擦って擦って擦りまくりますぞ!どや♪」

 

 ちびっ子四人がやる気を見せた事で祉狼はご満悦だ。

 しかし、美空と秋子は心穏やかでは無い。

 

「(ちょっと久遠!あの煩悩はここに来ないでしょうね!)」

「(昴さんが愛菜の命の恩人なのは理解していますが、愛菜に何かしたら息の根を止めるまで追い続ける自信が有ります!)」

 

 久遠は詰め寄られて大きく溜息を吐いた。

 

「(そんなに心配なら祉狼と婚約させてしまえ!)」

「ちょ、ちょっと、久遠!?」

 

 結菜が驚いて口を挟んだ。

 子供達と一緒に過ごす事が多くなった結菜はすっかりお母さん気分になっている。

 

「(我はそれでも構わんと承認した!後は結菜に任す!)」

「(丸投げなの!?)」

 

 美空と秋子の期待に満ちた目と、懸命に乾布摩擦をする子供達を見た。

 

(もう!しょうがないわね!)

 

 心を決めた結菜は大きく深呼吸をすると祉狼と子供達の所へ歩いて行く。

 

「祉狼♪私も乾布摩擦するから手拭いをちょうだい♪」

 

 そう言って着物の上を豪快にはだけた。

 

「お、おう………」

 

 結菜の迫力に圧倒されたのは祉狼だけで無く、子供達と久遠や美空も思わずたじろぐ程だった。

 そんな結菜達の陰でエーリカが集団で乾布摩擦をする女性達を呆気に取られて眺めている。

 

「あの………慶さん………これも日の本の『裸の付き合い』なのでしょうか?」

「ええと………エーリカさまはその言葉をどこでお知りになられたのですか?」

「メィストリァと共に小谷へ初めて訪れた時に、久遠さまから教えて頂きました。」

 

 それを聞き付けた市が嬉しそうに会話へ加わった。

 

「あの時のお姉ちゃん、そんな事言ったんだ♪」

「お市様、本来天主教では例え同性であっても肌を晒してはいけないと教わるのですよ……」

「え!?そうなの!?」

「市ぃ………だからちゃんと確認した方がいいって言ったのに………」

 

 市が好意でしてくれた事だと判っているので、そこは笑顔で返しておく。

 

「確かにそうですが………宣教師は現地の文化と折り合いを着けなければ布教など出来ませんので………ですがこの光景は………」

「これは日の本でも相当珍しいです…………甲斐の風習なのでは?」

 

 今度はこれを聞いた粉雪が慌てて否定する。

 

「違うんだぜ!乾布摩擦は春日さまの日課で、あたい達はそれに付き合ってるだけなんだぜ!なあ、ここ!」

「え、ええ!その通りです!兎々ちゃんは率先して春日さまと………あれ?そう言えば兎々ちゃんが居ないですね?」

「兎々ならあそこの屋根の上に居る。」

 

 光璃に言われて目を凝らすと、兎々を発見した。

 

「兎々ちゃん………なんであんな所に………」

「きっと逃げ出して登ったんだぜ♪」

 

 自分の事を棚に上げて粉雪はケラケラ笑って指を差した。

 

「隣に雛ちゃんも居ますね。」

「何をしとるんだ、あいつは?」

 

 麦穂と壬月が雛を見付けると、雛が手を振って応えた。

 

「春日がとても楽しそう♪」

「確かに………あんな春日さま初めて見ました。」

「春日にその気が有るなら、春日も祉狼の嫁にしようと思う。」

「「ええっ!?」」

 

 心と粉雪が驚いて光璃の顔を見る。

 光璃はそんな二人にも微笑んだ。

 

「心と粉雪も♪」

「そんな私は……………って、御屋形様には隠しても仕方有りませんね♪」

「こ、ここっ!ここはあたいが嫁にもらうつもりなんだぜっ!?」

「粉雪は祉狼に責任を取って貰わないの?」

「お、御屋形様ぁああ!」

 

 二度も股間を見られた事は素直に報告しているので、粉雪はまた真っ赤になって光璃に拗ねた顔を向けた。

 

「光璃も乾布摩擦する♪ほら、心と粉雪も♪祉狼が待ってる♪」

「ええっ!?ご飯が冷めちゃいますよっ!」

「冷めたら湯漬けにすればいい♪」

「御屋形様!あたいは………」

 

 粉雪は祉狼に胸まで曝せば、もう全裸を見られたのと変わらなくなるので何とか逃げ出せないか周りを見渡す。

 

「粉雪……………………だめ?」

「え、えっと………それはなんだぜ…………」

「………………だめ?」

 

 光璃が怒られた子犬の様な目で悲しげに見るので、粉雪も折れた。

 

「わかりました………なんだぜ…………」

 

 光璃に連れて行かれながら、粉雪はこの場に居ない湖衣と一二三を心の底から羨んだ。

 

(あいつら絶対こうなる事が判ってて逃げたんだぜぇええええええ!)

 

 四鶴はこの集団乾布摩擦の中で、祉狼が目覚めてくれる事を期待し微笑んで眺めている。

 そして、もうひとり。

 この集団乾布摩擦を心から愉しむ者が居た。

 

「うぉおおおおおおおお!俺は今!猛烈に感動しているぅううううううう!」

 

 それはいつの間にかエーリカから離れて、乾布摩擦をしている女性達の足元を彷徨い歩く宝ャだった。

 

「俺の心の中に見知らぬ単語が湧き上がり!叫ばずにはいられないっ!」

 

 宝ャはさながら、たわわに実った桃園に迷い込んだ旅人の気分だった。

 

 

「パラダイスッ!!」

 

 

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 房都 皇帝執務室

 

 一刀たちは思春と明命から先日行われた対隠密訓練、通称『人狩り』の報告を受けていた。

 

「今回も私と明命の接近に気付けたのは烈夏と藍華だけだな。まったく!今まで聖刀と祉狼に頼りきっていたからこんな体たらくになるのだ!」

「そんな、思春どの、みんな頑張っていましたよ………」

「「「いや、明命…………そう思うなら顔の落書きはもう少し手加減してやってくれ………」」」

 

 今回も明命と思春の書いた落書きは、書かれた者の心を抉る物だった。

 

「それはそれ、これはこれです。」

「いつ鬼とやらがここに現れてもおかしくはない。もっと厳しくしてもいいくらいだ。」

「「「言いたい事は判るけど…………まあ、それは置いといて、そんなに聖刀と祉狼に頼ってたのか?」」」

 

 思春は大きく溜息を吐くと、次には笑顔を見せた。

 

「聖刀は華琳様の息子だけ有って天才だ。あの子と最後にやった訓練では私と明命の二人掛かりで辛勝だったからな♪」

「「「そんなにかっ!」」」

「お前たちに似たのは外見と女たらしな所だけだな。」

「「「うっ!………否定出来ない…………」」」

 

 明命はフォローしようとしたが、思い付かなかったので苦笑いで話題を変える。

 

「祉狼くんも強くなってたんですよ♪私と思春殿で鍛えてあげましたから♪」

「だがあいつは決定的に隠密行動に向いていない。優しすぎるし、感情の起伏が激しすぎる。」

「「「医者なんだから大目に見てやれよ………気配を殺して忍び寄る医者なんて怖すぎる。」」」

「祉狼くんは小さい頃、病気の人の家へ夜中にこっそり忍び込んで治療するんだって言ってましたよ♪奥ゆかしいですね♪」

 

 一刀たちは想像した。

 灯りの消えた部屋に忍び込み、鍼でツボをブスッと…。

 

「「「必殺仕事人かっ!」」」

 

「は?」

「またこいつらが居た国の話だろう。気にするな。」

「そうですか?ならそうします♪でも祉狼くんの話をしていたら昔を思い出しました♪」

「「「そう言えば二人は良く二刃の所に行くもんな。」」」

 

 それが貧乳党の集まりだったのを一刀たちは知っていたが、ここは黙っておく。

 

「祉狼くんにお猫様の格好をさせてたものです♪はうあ?……可愛かったです?♪」

「「「そんな事してたのかよ!祉狼の性格が歪まなくて良かった…………あ、昴は訓練の時どうだったんだ?」」」

 

 一刀たちが『歪む』というキーワードから連想したのは言うまでも無いだろう。

 

「あいつは駄目だな。」

「そうですね。駄目ですね。」

「「「そんなバッサリ………」」」

「奴は父親と一緒で小さな子供ばかり気にして我らの接近にまるで気付かん。」

「まあ、身を挺して小さい子を守ろうとする姿勢だけは認めてあげます。」

「「「それは…………昴だからなあ…………でも、昴も嫁さんが出来たし、成長してるんじゃないか?ほら、士別れて三日なれば刮目して相待すべしって命佐さんも言ってただろ。」」」

 

 この外史では、今も後宮で産婆をしている命佐こと魯粛が亞莎の懐妊中に言った言葉だった。

 

「奴の場合は性癖を拗らせている気しかしないな。」

「昴くんのお嫁さんの雛ちゃんとか、臣下にした栄子ちゃんは気になりますね♪後、祉狼くんのお嫁さんの小波ちゃんも♪見込みが有りそう♪」

「「「その三人は明命の言う通りだな。思春の意見は…………これもそっちの可能性の方が高そうだ…………でも、お嫁さんも成長するから、それに合わせて改善すると思うぞ。」」」

「そうなる事を祈っておくさ…………太白の為にもな。」

 

 一刀たちは聖刀、祉狼、昴の三人の中で昴が一番昔の自分に近いと感じていた。

 勿論、武力は今の昴の方が断然上だが、聖刀と祉狼という才能と比較すると、という意味でだ。

 そして昴も愛した少女が成長しても一生愛し続けると確信している。

 

(((あ、沙綾さんは別か。あの人って冥琳とほぼ同い年だよな。向こうにも音々さんとか朱里達みたいな体質の人間が居るんだな……………でも昴のお嫁さんが全員そうだって事はないだろ♪………………)))

 

 

「「「本当に無いよな!」」」

 

 

-11ページ-

 

 

あとがき

 

 

今回は読まれた通り、原作の幕間劇をインスパイアした内容です。

元々このシリーズもゲームをしている最中に祉狼、聖刀、昴の三人だったらこう返すだろうと思ったのが切っ掛けで、特に武田編はやりたいネタの宝庫でしたw

 

綾那の仮面ライダーのパロディーは、ドラマ『真田丸』で本多忠勝を藤岡弘、さんが演じているのを見た瞬間にやろうと決めていたネタですwww

 

薫って立ち絵では判りづらいですが、かなり背が低い様ですね。

イベントCGの剣丞の手を握る、と言うか指を握るシーンは神剣桜花先生のこだわりらしいので、そこから考えると……………。

 

ラストの思春と明命はマンハント絡みと言うだけではなく、同じCVの桐琴&小夜叉と比較したかったのでw

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

・ 佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

・ 佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

・ 佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

・ 各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

・ 森蘭丸

・ 森坊丸

・ 森力丸

・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)

・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)

・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)

・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)

・ 六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

・ 三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

・ 武田信虎

・ 朝比奈泰能

・ 松平康元

・ フランシスコ・デ・ザビエル

・ 白装束の男

・ 朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

・ 孟獲(子孫) 真名:美以

・ 宝ャ

・ 真田昌輝 通称:零美

・ 伊達輝宗 通称:雪菜

・ 基信丸

・ 戸沢白雲斎(加藤段蔵・飛び加藤) 通称:栄子

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6685727

 

 

次回の投稿はおそらく6月末か7月頭になると思います。

理由は勿論、戦国†恋姫Xをするためですw

 

 

説明
これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三??†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

戦国†恋姫オフィシャルサイト:登場人物ページ
http://nexton-net.jp/sengoku-koihime/03_character.html

戦国†恋姫Xオフィシャルサイト:登場人物ページ
http://baseson.nexton-net.jp/senkoi-x/character/index.html

戦国†恋姫X発売直前!
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コメント
殴って退場さん>北郷ラッキー御家流は認定されたら北郷の血を引く男子は全員隔離……ある意味、黒外史がそうなのかな? 無印は5.5ギガ、Xは10ギガですから期待が高まりますよね!(雷起)
殴って退場さん>一葉のボイスサンプルみたいな感じになりそうですよね。「三千世界!三千世界!三千世界〜〜w」みたいな感じでww 蹴鞠の玉でも鬼が殺せそうですよねwww(雷起)
神木ヒカリさん>一刀のセリフ、実はフラグだったりするのでお楽しみにw(雷起)
ohatiyoさん>はじめまして。コメントありがとうございます。最後まで書ききれる様に頑張りますのでよろしくお願いします。 Xが出るまで買い控えていた人達がいるはずですので、自分も戦国†恋姫の小説がきっと増えると信じています。(雷起)
続きで北郷ラッキー御家流もやがては創設されそうw。あと自分もしばらくは戦国恋姫に夢中になりそうww。 (殴って退場)
もし御家流使っての鬼ごっこしたら間違いなく甲斐一国を焦土化してしまうだろうなw。蹴鞠はやがてはキャプテン翼みたいにとんでもないシュートとか放ちそうw。 (殴って退場)
犬子達は成長しません。昴と栄子が、全力で阻止します。(神木ヒカリ)
戦国†恋姫の小説を探していた所、この作品を見つけました。毎回楽しみです。X発売後に戦国†恋姫の小説が増えてくれればいいな〜(ohatiyo)
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