おにむす!P
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矢崎が意識を取り戻してから、秋穂は一向に姿を現さなかった。

自身の不覚を矢崎は悔やみ、秋穂に一言謝罪をしたかった。

(でも、あいつが平穏な生活を送るには俺みたいな奴は必要ないのかもな・・・)

怪我のせいか普段の矢崎からは考えられない思考が頭に浮かんだ。

「っくそ…、らしくない」

矢崎は頭を振ると窓の外に目をやる。

特になんて事のない風景が矢崎の心を落ち着かせた。

「俺も感傷的になったもんだ・・・」

 

程なくして、矢崎は退院した。

矢崎は秋穂の家を訪ねたが、家の中はもぬけのからだった。

「愛想つかされたかね…」

唯一の理解者が遠くに行ってしまった気がして、矢崎は少し沈んでいた。

「あの、矢崎雪春さんですか?」

不意に名前を呼ばれ、矢崎は咄嗟に振り向いた。

そこには初老の女性が立っていた。

「…俺になにか?」

少々訝しげに矢崎が尋ねる。

すると女性は一通の封筒を取り出した。

「私、ここの大家です。これを、小向さんから預かっています」

矢崎はそれを受けとり、女性に聞いた。

「あいつは、今どこに?」

愛想をつかされたとしても、一言しっかり別れを告げたい、そんな思いが矢崎をうごかしていた。

「ご存知ないのですか?」

「はい」

女性は顔をしかめると、重々しく口を開いた。

「小向さんは・・・、亡くなりました」

矢崎は後頭部を何かで殴られたような衝撃を感じた。

「どういうことですか!?」

「少し前に、すぐそこの通りで刺されているのが発見されたんです」

「な…」

矢崎の目の前が暗転した。

女性はまだ何事かしゃべっていたが、矢崎の耳には届いてなかった。

 

矢崎は秋穂と最後に会った喫茶店に来ていた。

湯気を立てるコーヒーを前に封筒の口を開いた。

中からは2人の写った写真と手紙が出てきた。

 

 

 

雪春、突然のことで多分驚かしちゃったかな?

これを読んでるころには私は多分いないだろうからさ。

私ね、あのストーカーに刺されてから考えたんだ。

今度は私が雪春を救ってあげようって、相談したかったけど雪春ずっと寝てたから。

怪我自体は大したことなかったんだ、本当だよ?

自分では気づいてないかも知れないけど、雪春の心臓が悪くなってるんだって。

だから、私の健康な心臓を雪春にあげることにしました。

もう気づいてるかな?

お医者さんには口止めしたんだけど、何も言わずにお別れは寂しいから。

私の貯金とか保険全部使っちゃった。

お葬式とかは無理かなぁ、でも雪春が私を忘れてくれなければそれでいいや(笑)

 

私ね、雪春と一緒で本当に楽しかったよ?

でも、あんな事があったら一緒にはいられないよ、お互いに引け目を感じちゃうし、雪春の心が囚われちゃうから。

だから私は1人で逝きます。

雪春は自分の道を進んでください。

あっ、でも人殺しはダメだよ?そんなことしたら心臓を止めちゃうんだから。

 

最後に

本当にありがとう

私は雪春を愛しています

 

 

 

最後の数行が滲んでいた、恐らく涙だろう。

滲んだ文字の上に更に涙が零れ落ち、もう読めなくなっていた。

矢崎は自身の胸に手を当て、顔を伏せた。

(俺と関わっちまったから…、お前を殺したのは俺だよ…)

写真に写った笑顔の2人を見つめ、矢崎は声を出さずに涙を流し続けた。

ちょうどそこで世界がブラックアウトしていった。

 

そして、再び目を開けると自分の娘が手を握り横で寝息を立てていた。

「…昔の夢を見るなんてな」

説明
オリジナルの続き物
この時期に臓器移植ネタはやばいよなぁ
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