お姉さま恋慕
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お姉さま恋慕

 

 

一、乃梨子、思う

 

 志摩子さんは、清純であり清廉であり、慈愛に満ちあふれていて、それはもう仏様かマリア様かというような人であって、私にとって誇らしいお姉さまであり、そしてとても大切な人なのである。それなのに、私は最近、志摩子さんに対して邪な考えを持ってしまう。

 志摩子さんの側にいるだけで漂ってくるやさしい香りにめまいを起こし、手を繋げばその指は柔らかさに心臓が高鳴り、そのふっくらとした唇を見つめてその感触を妄想し、ちらりと見える白い胸元に思わず目が釘付けになってしまう。

 志摩子さんといるとどうしようもなくドキドキしっぱなしで、この前も、「髪が乱れているわ」と言われ、少し髪を触れられただけで私はどうかなってしまいそうになった。薔薇の館に来た当初、祐巳さまが祥子さまに髪のリボンを直してもらう度に鼻血を流されているのを見た時は戦慄したものだが、もはや人の事を言っていられない。

 

 

二、放課後の薔薇の館

 

 薔薇の館のぎしぎしという階段を登って二階の会議室の扉を開き、いつものようにごきげんようと言いかけて、私は思わず固まった。

 キラキラと光る夕時の光が差し込む部屋で、テーブルに伏している人影。逆光の中、目を凝らしてよく見ると、それはすやすやと寝息を立てている志摩子さんだった。

 私は少し驚きながらも、大きな音が出ないように後手でゆっくり扉を閉め、そっと近づいて、

「志摩子さん」

 声を掛けてみたが全く反応はなかった。相変わらずすやすやと静かな寝息を立てて眠り続けている。

 どうしようかと思いながら、とりあえず隣の席に腰を下ろし、志摩子さんの顔を改めて覗き込んでみた。そのお顔はとてもこの世のものとは思えぬ神々しいまでの美しさ。

 そんな寝顔をじっと見ていたら、突然、私の耳に悪魔が囁いた。

<よく眠っている、今なら、どこを触ったって大丈夫だぜ>

 いやいやまさか、そんなこと許されないわ。

 悪魔の誘惑を振り払っていたら、反対の耳に天使が囁いた。

<どこでも触るなんてとんでもない。せめて耳の穴に指を入れるぐらいにしなさい>

 おぉい、私変態かよ。

 ……しかし、ちょっと、髪を撫でるくらいなら。だってそれは不純な事ではないし、私達は姉妹だし、この前志摩子さんも私の髪を直してくれたし。

 志摩子さんの髪を見つめ、思わず生唾を飲み込む。志摩子さんが起きないように、そっと、そっと髪を撫でる。触れた瞬間、ああ、なんてふわふわ、そして柔らかくて、あたたかくて。私はそのあまりの感触の良さに悦に浸っていて、しばらく気が付かなかった。志摩子さんの目がぱちくりと開いていたのを。

「あっ」

 目が合って思わず固まる私。一方の志摩子さんは、開いていた目を次第に細めて口角を上げ、うふふ、ふふ、と笑い出した。 「志摩子さん!いつの間に起きてたの?!」

 自分の顔がかあーっと赤くなるのを感じる。

「ごめんなさい、実は初めから起きてたのよ。乃梨子の足音が聞こえたから、狸寝入り」

 そう言って体を起こしながら、ふふ、ふふ、と笑う。

「志摩子さんったら、そんな人を騙すような人だと思いませんでした!」

 あまりの恥ずかしさを処理できずに、志摩子さんに文句をつけてぷいと顔をそむけると、

「乃梨子、怒らないで。謝るから」

 志摩子さんは私の腕をとってゆさゆさと揺すった。謝るからと言いながらも全然謝らずに、ずっと嬉しそうに笑っているので、 「やけに上機嫌」

 私が向き直って不服を言うと、志摩子さんは、

「そう?」

 と、やわらかな笑顔を浮かべながら応えた。

 

 

おしまい。

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マリア様がみてるSS だってそれは不純な事ではないし
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