真・恋姫無双〜薫る空〜8話(黄巾編) |
【華琳】「……………は?」
陳留城内に間の抜けた声が響く。
それは賊の討伐に向かった春蘭、季衣からの報告によって引き起こされたものだった。
二人からの報告は無事、賊の討伐を終え、砦を占拠した。というものだった。
ここまでならば、何の問題も無い。無事に任務を終えたのだから。
だが、この話には続きがあった。
追撃部隊を指揮していた司馬懿が“何故か”呉領土内に無断進入。
そのまま捕虜として連行されたという報告だった。
【桂花】「まさか…春蘭と季衣を差し置いて、馬鹿をやるなんて…そこまで馬鹿だったのかしら…」
【華琳】「頭が痛くなってきたわ…」
【一刀】「も、もしかしたら、国境の位置が分からなくて、たまたまだったのかもしれないぞ…?」
【一同】「………………」
そんな哀しそうな目でみるなよ…。自分でも苦しいフォローだって分かってるんだから…。
【一刀】「でも、どうするんだ?このまま薫をほっておくわけにも行かないだろう」
【華琳】「えぇ…。」
華琳の声はすごく重いものだった。
【秋蘭】「しかし、帝からの勅命も下ってしまったからな…。そちらを優先せねばなるまい」
【一刀】「勅命?」
【華琳】「一刀は知らなかったわね。近頃各地で騒いでいる賊達をその特徴から総称して黄巾党と名づけ、各地の将にその討伐の命を下したのよ。当然私達にもね」
【一刀】「黄巾党…か」
その名を聞き、不意にあの天和の顔が浮かぶ。
彼女は張角と呼ばれていた。張角は俺の知識ではたしか黄巾党・党首だったはず。
あの子がこんな騒ぎを起こしているとは思えない。だけど、可能性はゼロではない…。
【季衣】「でも…薫のことも気になります」
【華琳】「えぇ。でも今は手を出せないわ。この反乱を沈めた後、孫策に使者を送る。…それまでは薫にはがまんしてもらいましょう。いくら江東の小覇王といえど、いきなり捕虜に手を出すことは無いでしょう。」
【桂花】「そう、ですね…。今はそれしかないかと」
皆、やはり薫の事は心配なのだろう。
だが、それでもこの先、覇道を歩もうとする華琳にとっては、この機会を逃すわけには行かない。
【華琳】「ならば、切り替えましょう。今は黄巾党の張角の首をとることを最優先させる。いいわね」
【一同】「はっ」
皆の決意をまとめ、華琳は自分にも言い聞かせるように声を出す。
俺も、今はそうしよう。この先により大きな戦いがあるのだから、今はそれに耐えるしかない。
【桂花】「では、さっそく各地方に間諜を放ちます。敵の拠点が分かり次第、こちらから打って出ましょう」
桂花の言葉を期に、皆が早速動き出す。
各々が与えられた役割をこなしている。だが…
【一刀】「俺は、どうすればいい?」
ただ、俺だけが手持ち無沙汰のようになっていた。
【華琳】「あなたはいつも通りしていなさい。ただし、事が起こればすぐに対応できるようにね。」
【一刀】「いいのか?」
【華琳】「今のあなたに、何かを期待してもよいのかしら?」
薄笑いを浮かべながら華琳は俺に言い放つ。
その言葉に少し無力感を覚えながらも、事実な分頷くしかできなかった。
【一刀】「それもそうだな。」
俺は少し、肩を落としながら、広間を出ようとするが、華琳の「一刀」という声に呼び止められた。
【華琳】「変な事を考えるのはやめなさい。今あなたには何も期待していないけれど、あなたは私達にとって必要なのは変わらないんだから。」
【一刀】「……あはは」
【華琳】「な、なによ」
俺の笑いに華琳が不機嫌そうに顔を赤くする。
【一刀】「いや、ありがとう。華琳。おかげで少し落ち着いたよ」
【華琳】「そう…。なら、いいわ。行きなさい」
【一刀】「あぁ」
そして、俺は今度こそ広間をでた。
【薫】「はぁ…なんでこうなるかなぁ……」
一室にて、つい、ぼやいてしまう。
あの後、散々孫策にぼっこぼこに言いたい放題言われ、挙句の果てに建業まで強制連行されてしまった。
現在はその建業の城内にて軟禁状態である。
まぁ、ご飯はでるし、いきなり死罪って事もないだろうからとりあえず命の心配はしなくてよさそうだけど…
あの兵卒も余計なこと言ってくれたよねぇ〜
まぁ、国境をきちんと把握してなかったあたしも悪いんだけど…
しかし、考えてみればここ最近のあたしってなんだか捕まってばっかりだな…
無意識にまた、ため息をついてしまう。
【??】「ずいぶん落ち込んでいるようだな」
まさにその言葉通りだが、突然の声に驚き、顔を上げてしまう。
視線を向けてみれば、いつからいたのか、扉も開けられ、そこに人が立っていた。
長い黒髪が妙に強い印象を与え、顔立ちなんていかにも頭がいいですといわんばかりの美形だ。
その上胸まで、さっきの二人と引けをとらないほどのものを持っている。
魏ではそれなりだと思っていた自分もさすがにこうも三連発をくらうと少し自信が無くなる。
【??】「まぁ、それはどうでもいいな。いくつか聞きたい事があるので答えてもらえるか?」
【薫】「…………答えられる事なら」
ここで逆らったところでまるで意味はない。
【周瑜】「ふ…。まぁ、いいだろう。まだ名乗っていなかったな。私の名は周瑜、字を公謹という。お前は司馬懿…だったか?」
【薫】「……うん。」
短く返事をする。
何を聞かれるか警戒しているというのもあるが、どうもこの周瑜って奴の目はなんでもかんでも見透かしそうで、気分が悪い。
【周瑜】「まず、国境を越えた理由だが……」
【薫】「孫策から聞いてないの?」
【周瑜】「……一軍を任されるほどの将が国境をしらず、休憩しようとして偶然国境越えをしてしまった…などという馬鹿げた話を信用できると思うか?」
【薫】「………………新米なもので」
事実なだけに否定できず、あらためて他人の言葉で聞くと随分情けない話だ。
【周瑜】「…まぁ、いい。次の質問だ。曹操のところの軍師ということだが――」
【薫】「見習い。」
【周瑜】「いちいち口を挟むな。話が進まん」
周瑜はそういうと、質問を続けた。
曹操は今回の黄巾党の一件についてどう考えている…とか、まぁ、華琳がこの先どこまで力を伸ばすのかが知りたいらしい。
そんな質問が2つか3つほど続く。
当然そんなもの答えられるはずも無く、はじめとは違い会話が成り立つことはなかった。
いい加減お互いイライラし始めた頃に、突然周瑜の後ろの扉。つまりこの部屋の出入り口が開いた。
【孫策】「ちょっと、冥琳〜。まだやってるの?私もういい加減おなかすいたんだけど〜〜」
【薫】「………………。」
【周瑜】「はぁ……」
【孫策】「え、何何?」
【薫】「………っ…あはは」
【孫策】「あっ!捕虜のくせに何笑ってるのよ〜」
【周瑜】「いや、なんでもないさ。いい加減、尋問にもならないのでな、そろそろ切り上げようと思っていた。」
【孫策】「それじゃ、ご飯いきましょ♪…あ、司馬懿ちゃんも来る?」
【薫】「……へ?」
突然の孫策の言葉に拍子抜けする。
【周瑜】「ちょっと、雪蓮!?」
【孫策】「まぁまぁ、いいじゃない。捕虜って言っても別に閉じ込めなきゃいけないわけじゃないし。………まぁ、暴れたりするようなら色々考えないとだけど…」
そんな馬鹿な真似、こんなところで出来るはずがない。
【薫】「え、えと……出てもいいの?」
【周瑜】「はぁ……。主がこう言っているのだ。許すしかないだろう。ただしそのときは必ず誰かをつけさせてもらうぞ。」
【薫】「あ、うん」
というか、それだけでいいのかという感じだ。
君主といっても色々な人間がいるものだと、感心してしまった。
それから、孫策はほらほらと、扉の外からのぞきこむようにこちらを煽る。
周瑜はそれに苦笑いしながらも、ついていく。
あたしもせっかく出てもいいといわれたのだから、こんなところにいる理由はない。
【薫】「なんか、孫策の軍師って疲れそうだね」
【周瑜】「捕虜のお前に言われると心に沁みるよ…」
孫策に言われるがままについていくが、晩御飯を食べるといって連れてこられたのはどうやら中庭のような場所だった。
【薫】「いつもこんなところで食べるの?」
【孫策】「そうね〜、たまにってところかな。お酒とかはここで飲んだほうが全然おいしいのよ」
【薫】「へぇ〜」
とはいっても、あたしはお酒飲めないんだけどね…
飲めないというか、極端に弱いというか…
そんな事を考えているのを読み取られたのか、急に孫策の表情が新しいおもちゃを見つけた子供のような、輝いたものへと変化する。
【孫策】「冥琳!あれもってきて頂戴!」
【周瑜】「………あれを飲むのか?しかし…」
周瑜がこちらを伺うように視線を向けてくる。
嫌な予感が止まりどころを忘れたように体中を駆け巡る。
もはや寒気の域にまで達しそうなそれを悟ってか、周瑜が止めようとするが孫策はまったく譲る気はなさそうだ。
【周瑜】「分かった。持ってくるからおとなしく待っていてくれ…」
【孫策】「やったぁ!だから冥琳って好きよ♪」
【薫】「え、えーと…」
困惑するあたしに、周瑜がその”あれ”というものを取りに行く際、すれ違い様に嫌な言葉を告げていった。
【周瑜】「あきらめてくれ…」
【薫】「………………………。」
冷や汗が止まらない…。
【孫策】「ふふん♪」
孫策とともに卓についていると、しばらくして周瑜があれと呼ばれた、見た目・雰囲気・その他もろもろがいかにもお酒なものを持ってきた。
ちなみに料理は先に誰かに用意させておいたのか、既に並べられていた。
【孫策】「うふふ。これ、南蛮のほうで取れるお酒ですっごい美味しいから、司馬懿ちゃんも飲んでみなさい♪」
【薫】「あ、あの…えと、あたしお酒は…」
そっと周瑜に目配せをする。
だが、その目は哀れみと謝罪の感情が見て取れるほどあふれていた。
しかし、ここで飲まされるわけには行かない。
【薫】「あ!あたし、お腹すいてるから先にご飯たべてもいい!??」
【孫策】「へ?あぁ〜そうね。私もお腹すいてるし、少したべましょうか」
そう言って孫策は目の前の料理に視線を落とし、食事を始める。
【周瑜】「……(うまく避けたが……食事がおわればどうするつもりだ…)」
【薫】「………(…どうしよう…。思いつきで言ってみたけど、この後どうしよおおお!!)」
【孫策】「ん?ふたりとも食べないの?」
【周瑜】「いや、ちゃんと食べているよ」
【薫】「あ、うん。食べる。」
とりあえず、料理を口に運ぶ。
【薫】「美味しい…」
地方が違うためか、陳留にいたときとは少し味付けが違ったが、それでもかなり美味しかった。
【孫策】「…♪」
あたしのそんな反応に満足いったのか、孫策はどこか機嫌がよさそうだった。
一通り食事が進み、そろそろお腹も膨れてきた頃。
【孫策】「んじゃ、はい♪」
当然のように、司馬懿に酒が注がれた器を持っていく雪蓮。
【薫】「ぅ……」
それを素直に受け取るはずも無く、おそらく先ほどの反応からみて司馬懿は酒が飲めないのだろうが、雪蓮にそんなことが関係あるはずもなく。
回避できないと悟ったのか、ついにさきほど顔を合わせたばかりの私にまで司馬懿は涙目を向けてくる。
【周瑜】「……(あきらめてくれ…)」
見ていられず、つい視線を司馬懿からそらしてしまった。
【薫】「ん、んんんうううううううううううううう!!!!!!!」
心の準備ができないまま、次々と口の中に酒を注がれ、声にならない叫びを発する司馬懿。
だが、その声もやがて少しずつ小さくなり、最後には何も出なくなっていた。
【薫】「ぷはぁ………。」
【孫策】「あははは!司馬懿ちゃんいい飲みっぷりじゃない♪私ものもっと……んくっ」
くいっと司馬懿が叫びだした量と同じだけの酒を一気に飲み干す。
【孫策】「んく…ん……ぷはぁ…どう、おいしいでしょ?」
雪蓮は司馬懿に共感を求めてそうたずねるが、その肝心の司馬懿は……
【薫】「…ぅ?……ひゃい〜〜…これおいひいれしゅねぇ〜〜」
【周瑜】「い、一杯で……」
【孫策】「あはははは!この子かわいい〜〜」
【薫】「ふに?……むぐ」
司馬懿を抱きしめるように雪蓮は自分の胸へ引き寄せる。
そのまま雪蓮は次の酒を器に注ぎ、口へ運ぶ。
【薫】「ぅぅ〜〜〜………」
【孫策】「ん?どしたの?」
【薫】「……っ……ひぐっ…ひっ…えっく」
【周瑜&孫策】「え?」
司馬懿の様子がおかしい事に気づき、二人して呆けた声を出すがもう遅かったようだ。
【薫】「ふぇ………ぅわぁぁあああ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!」
【孫策】「え、え、ええ!!」
【周瑜】「な…」
【薫】「ふえぇぇえええ〜〜〜〜ん!!」
突然、司馬懿が泣き出してしまった。
【黄蓋】「な、なんじゃ!」
【陸遜】「ふぇ?どうしました〜〜?」
【孫策】「祭〜、穏〜〜」
【黄蓋】「…………いったいなんなのじゃ…」
【周瑜】「話すと長くなるから、今は待ってください…」
その夜はひたすら司馬懿の泣き声が響き渡り、一晩にして司馬懿仲達の名が建業中に広まった。
あとがき。
みなさん、こんばんわ!
薫がなんと呉に行ってしまいましたね。
さて、ここからどうなる事やら…(’’;
一方、魏のほうではいよいよ黄巾党討伐に動き出したわけですが…
一刀は天和達に対してどういう動きを見せていくのか。
少し黄巾編にしては引っ張りすぎかもしれませんが、もう少しお付き合いください(、、
ではでは、次回9話で(`・ω・´)ノ
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カヲルソラ8話です。 前回中途半端なところでおわっちゃってすみません。 薫の命運は!!といいたいですが思ったより平和に進んでしまいました。 |
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コメント | ||
泣き上戸wwwこれはかわいいw(温泉まんじゅう) 完全に酒に飲まれてましたねw(ブックマン) 泣き上戸って・・・・・みんなおろおろしてるぞ。(いずむ) な、鳴いた、もとい泣いたッ!?!? 薫は泣き上戸なのか・・・・・・それも可愛いな(バカw)www(フィル) Σ( ̄□ ̄::))) どど・・・・どうしたんだ! ん〜ここからの展開は・・・いかに・・・? 愉しみですー^^w(Poussiere) |
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