英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
〜IBC・最上階・総裁室〜
「え………」
「ベル………!」
女性の登場にロイドは呆けている中エリィは驚きの表情で女性に近づいた。
「おお、帰ってきたか。」
「お父様、ただいま戻りました。ふふっ………エリィ、久しぶりですわね!」
ディーター総裁の言葉に頷いた女性は微笑んだ後、嬉しそうな表情でエリィに抱き付いた。
「ちょ、ちょっと………」
一方女性に抱き付かれたエリィは戸惑った。
「ん〜、2ヵ月ぶりですわね。でも貴女………少し痩せたんじゃなくて?手とか足とかちょっと固くなってよ?」
「ふふ、鍛えているから少し筋肉が付いただけよ。むしろ体重は少し増えたんじゃないかしら。」
「なるほど……言われてみれば筋肉のしなやかさを感じますわね。ふふ、これはこれでなかなかの感触ですわ〜。」
「も、もう………」
女性の言葉を聞いたエリィは恥ずかしそうな表情で溜息を吐いた。
(な、なんか凄い人だな………)
(しかし美人同士が絡むとそれだけで絵になるっつーか。)
(というか、ただの友達同士にはちょっと見えないんですが………)
(クスクス、少なくてもあのお姉さんの方は”ただの友達”の関係で満足していないでしょうね。)
「やれやれ、スキンシップはそのくらいにしたらどうかね?他の客人が呆れてるぞ。」
ロイド達がそれぞれ見守っている中、ディーター総裁は苦笑しながら女性に注意した。
「あ………」
「……あら………」
ディーター総裁に注意された女性はようやくエリィから離れた。
「しょ、紹介するわね。彼女はマリアベル………総裁の娘さんで、私の友人よ。ベル、彼らは私の同僚で、ロイドとランディとティオちゃん、レンちゃんって――――」
「紹介は結構ですわ。自分で検分しますから。」
「え。」
「ふむ………なるほど……」
ロイド達を紹介しようとしたエリィに女性―――マリアベルは制止した後、ロイド達を一人一人見て周った。
「な、なにか……?」
「レン達に何かついているのかしら?」
マリアベルの行動にロイドが苦笑したその時、マリアベルはティオとレンをじっと見つめ
「え……」
「あら……」
「貴女達は合格。ふふ、可愛らしいですわね。」
呆けているティオと目を丸くしているレンに微笑み
「で、貴方達は不合格ですわ。」
そしてロイドとランディを見回して厳しい表情で答えた。
「へ……!?」
「な、何だそりゃ……!?」
マリアベルの口から出た予想外の答えを聞いたロイドとランディはそれぞれ驚いて声をあげた。
「フン、こんなムサ苦しい男どもがわたくしのエリィの側にいるなんて。女神(エイドス)も許さざる所業ですわね。」
「ムサ苦しいって………」
「ちょ、ちょっとベル……」
マリアベルの言葉にロイドが溜息を吐いている中エリィは真剣な表情でマリアベルを睨んで注意しようとした。
「大体、なんですの?そのラフすぎる服装は。せめてスーツくらい着るのが礼儀というものでしょうに。」
「こ、これはその………街中や市外で捜査活動する時はこの方が都合がいいといいますか………」
「言い訳は結構ですわ。まったく、だからわたくしは警察入りなんて反対したのよ。わたくしの事業を手伝ってくれた方が遥かに有意義だったでしょうに…………」
「ああもう、ベルってば!」
ロイドの言い訳を一蹴し、ロイドを睨みながら言うマリアベルにエリィは呆れた表情で声をあげた。一方ディーター総裁は椅子から離れ、ロイド達に近づいた。
「ハッハッハッ。盛り上がっているようだね。うむ、若い者は若い者同士で、親交を暖めてくれたまえ。約束の時間なので私はそろそろ失礼するよ。ベル、後で彼らを端末室に案内してあげたまえ。」
「端末室………どういう事ですの?」
「事情は彼らから聞くといい。それではさらばだ。」
首を傾げているマリアベルにロイド達を見ました後言ったディーター総裁は部屋から去って行った。
「あ………」
「逃げましたね………」
「もう、お父様ったら……」
「うふふ、中々いい性格をしているわね。」
ディーターが去った後エリィは呆け、ティオとマリアベルは呆れ、レンは小悪魔な笑みを浮かべた。
「そ、それじゃあ早速、案内をお願いできれば………」
一方ロイドは苦笑しながらマリアベルを促したが
「まだ話は終わってませんわ!そちらの赤毛の貴方も、そんな派手な格好をして……立派な体格をしているのだからきちんとしたスーツを着なさい!」
マリアベルはロイドを睨んだ後更にランディを睨んだ。
「お、俺ッスか?いや〜、でも俺って根っからの遊び人だしなあ。あ、それにソイツみたいに夜の屋上で同僚のお嬢さんと良い雰囲気になったりしないし。」
「な、なんですって〜!?」
マリアベルに睨まれたランディは苦笑した後、マリアベルの怒りの矛先をロイドに変えた。
「ランディ、お前………!」
「ご、誤解されるようなことを言わないでちょうだい!?」
一方ロイドは驚き、エリィはランディを睨んで注意し
「あながち誤解ではないみたいですけど………エリィさんも随分、元気になったみたいですし。」
「うふふ、そう言えばエリィお姉さんはロイドお兄さんにお礼代わりに”あんな事”をしたって言っていたけど、”あんな事”ってどんな事かしら♪」
「ティ、ティオちゃん、レ、レンちゃん………」
「ああもう、ティオとレンも引っ掻き回さないでくれ!」
ティオとレンの言葉にエリィが頬を赤らめ、ロイドが2人を睨んで注意したその時、マリアベルはロイドの襟を掴みあげ
「フフフ………ロイドさんと言ったかしら………?その辺りの事をもう少し詳しく聞かせてくれないかしら………?わたくしのエリィにどんな破廉恥な事をしたのか……!」
威圧感のある笑顔でロイドを見つめた後、怒りの表情で睨んだ。
「いや、してませんってば!」
マリアベルに睨まれたロイドは苦笑しながら答えたが
「…………………」
「だからエリィも何でそこで黙るんだよ!?」
エリィは頬を赤らめて黙り込み、それを見たロイドは慌てた。その後ロイド達はマリアベルに事情を説明した。
「―――なるほど。事情はわかりましたわ。それで、あなたたちを端末室に案内すればいいのね?」
「ええ、頼めるかしら?」
「無論、エリィの頼みなら言うまでもありませんけど……」
エリィに言われたマリアベルは頷いた後黙ってロイドを睨み
「えっと………誤解は解けたはずでは?」
マリアベルに睨まれたロイドは苦笑しながら尋ねた。
「フン、まあいいでしょう。特務支援課………わたくしもどの程度のものか気になっていましたし。エリィの同僚に相応しいか………貴方に証明していただこうかしら?」
「は、はあ………(何で俺限定なんだろう………?)」
マリアベルに睨まれたロイドは戸惑いながら頷き
(こりゃ、完全に目を付けられちまったなぁ。)
(………ご愁傷様ですね。)
(クスクス、鈍感なロイドお兄さんにはこれぐらいの事はあって当然ね。)
その様子を見ていたランディは興味深そうな表情になり、ティオは静かな表情でロイドを見つめ、レンはからかいの表情をしていた。
「もう………ベル、いいかげんにして。端末室に案内、してくれないの?」
「もちろん案内しますわ。端末室は、IBCビルの地下5階に設置されています。さ、エレベーターに乗りますわよ。」
その後マリアベルと共にエレベーターに向かったロイド達はエレベーターに乗って、地下に降りはじめた。
「しかし……その”銀(イン)”と言ったかしら。結局の所、目的は何なのかしら?」
エレベーターが地下に向かっている最中、マリアベルはロイド達を見回して尋ね
「それは私達にもまだわからないんだけど………」
「そういや、どうだロイド。今回の事件についてそろそろ何か閃かないのか?」
「ああ、そうだな……脅迫状とメールだけど……同じ人間が書いたんじゃないかもしれない。」
「なに……?」
「どういう事ですか………?」
ロイドの話を聞いたランディは目を細め、ティオは尋ねた。
〜エレベーター〜
「ああ、単純な話だよ。イリアさんが受け取った脅迫状は不気味だけど単純な言い回し………俺達が受け取ったメールは古風で挑発的な言い回し……ずいぶん感じが違うと思わないか?」
「……確かに。」
「……メールが来た事に驚いてそこまでは考えていなかったわね。」
「3人ともまだまだねぇ。」
ロイドの推理を聞いたティオは頷き、エリィは溜息を吐き、レンは呆れた表情で呟いた。
「……ふぅん……それで、その事が何を意味しているのかしら?」
一方マリアベルは考え込んだ後ロイドに尋ねた。
「そうですね、色々と可能性はあると思いますが………例えば”銀”に手下がいた場合、そいつにメールを送らせた可能性。もしくは逆に、そう思わせるために”銀”がわざと違いを出した可能性。他にもあるでしょうが……この段階で、これ以上推理を進めるのは逆に危険でしょうね。」
「なるほど……ふむ、面白いですわね。」
「え……」
自分の推理を聞いて呟いたマリアベルの言葉を聞いたロイドが呆けたその時
「ふふ……そろそろ着きますわよ。」
エレベータは地下5階に到着し、ロイド達はマリアベルの案内によって端末室に通された。
〜地下5階〜
「こ、これは……」
「なんつーか……メチャクチャ凄そうな部屋だな。最新技術がてんこ盛りになっているのだけはわかるが……」
「うふふ、さすがエプスタイン財団の最新端末室ね。」
端末室に通されたロイドとランディは今まで見た事のない科学的な風景に驚き、レンは興味ありげな表情で周囲を見回していた。
「エプスタイン財団製の最新情報処理システムですね。リベールの高速巡洋艦にも使われているそうですが……」
「あの有名な”アルセイユ号”ですわね。あれに使われているものと基本的には同じシステムですが………莫大なネットワーク情報に対応すべく、処理容量を数倍に強化していますわ。」
「……すごい………」
ティオとマリアベルの説明を聞いたエリィが驚きの表情で呟いたその時
「マリアベルお嬢様……?」
「お疲れ様です!」
端末の前に座って作業をしていた研究員達がマリアベルに近づいてきた。
「ふふ、お疲れ様。仕事の方は順調かしら?」
「ええ、おかげさまで。例のシミュレーションも順調に行きそうですが……」
「えっと、こちらの方々は?」
マリアベルの言葉に頷いた研究員達はロイド達を見つめて尋ねた。
「クロスベル警察の方々ですわ。実は、ここのメイン端末が外部からハッキングを受けた可能性があるらしいのです。」
「えええっ!?」
「ハッキング!?」
「えっと……ティオ、彼らに一通り説明してもらえるか?」
マリアベルの話を聞いて驚いている研究員達を見たロイドはティオに視線を向けて尋ね
「はい、それでは……」
ティオは専門的な用語を交えながら研究員達に事情を説明した。
「外部からのハッキング………可能性はあったけどまさか本当に起こるなんて………」
「いや、でもあり得ないぜ!ハッキングなんてできる技術者がそう簡単にいるはずが………」
「もし、ハッキングでなければメールを送ったのが貴方たちである可能性が高くなりますわねぇ。うふふ……どちらが”銀”なのかしら?」
ティオの話を聞いて信じられない様子でいる研究員達を見たマリアベルは口元に笑みを浮かべて研究員達に問いかけた。
「そ、そんな滅相もない!」
「僕達が不甲斐ないからハッキングされたんだと思います!」
(な、なんていうか……)
(イリアさんとは違った意味で女王様って感じだよな……)
マリアベルの問いかけに慌てている様子の研究員達の様子を見たロイドとランディはそれぞれ苦笑していた。
「特務支援課の端末にメールが届いたのが、真夜中の3時頃………その時間帯のログはどうなっていますの?」
「は、はい。」
「すぐに調べます。」
マリアベルに言われた研究員達はそれぞれ端末の前に座って作業を始めた。
「……あ、ありました!メールの転送システムがクラッキングされています!」
「やっぱり……」
「これで外部説が確定したってわけだな。」
研究員の報告を聞いたエリィは表情を厳しくし、ランディは頷いた。
「こちらも侵入経路を確認!アクセス元は……駄目だ。ロストしています。」
「どこから入り込まれたかわからないってことですか?」
「ああ、巧妙に痕跡を消されてしまっている。クロスベル市内の何処かなのは間違いないと思うけど………」
「ふむ……やりますわね。」
ロイドの質問に答えた研究員の話を聞いたマリアベルが考え込んだその時
「………端末を一つ、貸してもらっていいですか?」
「え……」
「だ、だが……」
ティオが提案し、それを聞いた研究員達は答えに困ったが
「いいですわ。ティオさんと言ったかしら。好きにいじってしまって。」
「はい、それでは………」
「うふふ、それならレンも端末を一つ貸してもらってもいいかしら?レンも端末の心得はあるから、手伝えると思うし。」
「ええ、構いませんわよ。」
「ありがとう♪」
マリアベルの許可を聞くと一番真ん中の端末が複数ある椅子に座り、レンも続くように空いている端末の席に座った。
「アクセス……エイオンシステム……起動………」
ティオが静かな口調で呟くとティオの頭に付いている装置が赤く光りはじめ
「な……」
「ティオちゃん……!?」
「これは……」
それを見たロイドとエリィ、マリアベルは驚きの表情でティオを見つめた。
「多次元解析によるリアルタイム制御を試行………全端末のログを解析、隠蔽された痕跡の前後における不審なアクセスを全て精査………」
そしてティオが端末を操作し始めると、凄まじいスピードで何かの文字が画面に流れはじめた。
「す、凄い………!?」
「なんだ、この処理能力は!?」
「―――レン達のサポートはティオがその端末から吐き出した不審と思われるログのチェックでいいのよね?」
ティオの処理能力に研究員達が驚いている中レンは端末を操作しながらティオに訊ねた。
「はい。クロスベルの全ターミナルに管理者権限でアクセスをかけますので先程レンさんが言った内容のサポートをお願いします。」
「あ、ああ……」
「任せてくれ……!」
「………エリィ、わかるか?」
ティオ達がそれぞれ凄まじいスピードで端末を動かしている中ロイドはティオ達の行動をエリィに訊ねた。
「う、ううん……流石に付いていけないわ。」
「俺なんか、何をやってんのか理解すらできてねぇんだが……」
「なるほど、ティオさんは”魔導杖(オーバルスタッフ)”の使い手ですのね。導力魔法をノーウェイトで発動するための高速展開技術が使われているそうですが………それを端末のコントロールに利用したのかもしれませんわね。」
ティオ達の行動にロイド達が理解できない中、ただ一人だけ理解できていたマリアベルは納得した様子で頷き、ロイド達に説明した。
「わ、わかるんですか!?」
「ベルは一応、エプスタイン財団で導力工学を学んだ経験があるから……」
「ふふ、といってもかじった程度ですが。」
そしてロイド達がしばらく見守っていると、端末が鳴りはじめた。
「終わったみたいですわね。」
「お………」
マリアベルの言葉を聞いたランディがティオ達を見つめたその時
「……いかがでしたか?」
ティオはレン達に尋ねた。
「レンの方はシロね。お兄さん達の方はどうかしら?」
「こちらの持ち分もシロだ。そっちはどうだ?」
「ビンゴ――ーコイツだ!ジオフロントB区画、『第8制御端末』……ここからアクセスしたらしい!」
「ジオフロント……」
「あの駅前通りの外れにある地下区画からかよ?」
ハッキング元がわかったロイドは考え込み、ランディは目を細めて尋ねた。
「いえ、あの場所はジオフロントA区画になります。ハッキングに使われた端末の所在はジオフロントのB区画……」
「えっと……市北西部の地下にあるエリアみたいだね。」
そして作業を終えたティオはレンと共にロイド達の所に戻った。
「市北西部……住宅街や歓楽街のあたりね。ロイド、どうするの?」
「―――早速、行ってみよう。ジオフロントのゲート管理はたしか市庁舎の管理だったはずだ。鍵が借りられないか受付に問い合わせてみよう。」
「ああ、さっそく行ってみようぜ。」
エリィに尋ねられ、答えたロイドの言葉にランディは頷き
「ふふ……どうやら事件の核心に迫ってきたみたいですわね。」
その様子をマリアベルは口元に笑みを浮かべながら見つめた。
「はい……色々とお世話になりました。」
「ありがとう、ベル。それに研究員の方々も。」
「い、いやあ……」
「僕らより、そのお嬢さんの手柄の方が大きいと思うよ。もう一人のお嬢さんの方も処理能力は僕達より圧倒的に上だったし、世界は広いって事を思い知らされたよ。」
エリィにお礼を言われた研究員達は苦笑した後、ティオとレンに視線を向けた。
「そうだな……お疲れ、ティオ、レン。おかげで助かったよ。」
「ふふっ、お疲れ様。」
「さすがティオすけに小嬢。決めてくれるじゃん。」
「えと、その……大したことじゃありませんし。それにわたし達も一応、特務支援課の一員ですし………」
「うふふ、ティオが慌てているなんて珍しい光景ね♪」
ロイド達に労われて慌てている様子のティオをレンはからかいの表情になって見つめていた。
「ふふ……十分、大したものですわ。どうかしら、ティオさん、レンさん。エリィ共々わたくしの所にリクルートするというのは?」
「え……?」
一方マリアベルは口元に笑みを浮かべた後ティオを勧誘してティオを呆けさせ
「ちょ、ちょっとベル………」
「はは……いきなり引き抜きッスか。」
「えっと、それはさすがに勘弁して欲しいんですけど……」
「クスクス、同僚の目の前でヘッドハンティングをしようとするなんて中々大胆なお姉さんね♪」
マリアベルの行動にエリィはマリアベルを睨み、ランディとロイドは苦笑し、レンは笑顔を浮かべてマリアベルを見つめていた。
「ふふ、冗談ですわ。事件が無事解決したら是非、顛末を教えてください。それと―――お渡ししたセキュリティーカードはそのまま預けておきますわ。最上階とこのフロアならいつでも来れるようにしますから何かあったら訪ねてくださいな。」
「ありがとう、ベル。」
「それでは失礼します。」
その後ロイド達は市庁舎でジオフロントB区画の鍵を借りた後、住宅街にあるジオフロントB区画に入って行った―――――
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