飛将†夢想.5 |
張角三姉妹の業城脱出の報告をする兵の言葉が響く。
「そうか。俺らは仕事を十二分に熟した、もう悔いはない」
張姉妹の脱出に安堵した程遠志が微笑すると、
今度は別の伝令兵が慌てて駆けてきた。
「ほ、報告!!味方援軍、敵の攻撃によりほぼ壊滅!!何儀様も敵に投降し…グッ!?」
だが、その伝令兵は報告を最後まで伝える事なく、
前のめりで倒れてしまう。
倒れた伝令兵の背中には深々と刺さる槍が一本。
程遠志はそれを見ると全てを悟ったのか、
舌打ちした後に顔を上げる。
程遠志の目に赤の軍服を着た武将、
夏侯惇の姿が映った。
「夏侯元譲、此処にあり!!賊共、華琳様の名声の贄になること、感謝しながら消えろ!!」
夏侯惇がそう言うと同時に、
曹操隊の兵士が一斉に城壁に駆け登る。
それから直ぐに、
業城に『曹』の旗が立てられたのだった。
「落ちたようやな…」
胡座をかいて『曹』の旗が立つ業城を見つめる張遼。
「とりあえず、此処はこれで終わりってことね」
丁原も業城を見ると張遼の隣で背伸びをして、
そのまま脱力するように下に座り込んだ。
「…勝ち戦。だが、つまらん。弱すぎる」
「いやいや、呂布ちんが強すぎるんやて」
城門を打ち、敵を殴り、払い、ボロボロになった戟を勢いよく大地に突き刺し愚痴を零す呂布に張遼がツッコミを入れる。
丁原はその二人のやり取りを見ながら笑うと、
それに気付いた呂布と張遼も笑うのだった。
そんな三人を遠くから見つめる曹操。
曹操の隣には、褒めの言葉を待ち遠しくニコニコ笑う夏侯惇と、
曹操の心中を悟ったのか心配するように曹操を見つめる夏侯淵がいた。
業城の制圧は自分の部隊がした。
名声も高まったであろう。
だが、曹操の表情は険しいものがあった。
丁原たちを見つめる曹操は、
踵を返すと無言のまま隊を率いて居城に帰るのだった。
それから暫くして、
同じく丁原も隊を率いて上党城へ凱旋する。
上党城に着くと、
討伐軍の勝利を喜んだ民が総出で丁原たちを迎えた。
「お帰りなさい」
そこに城の守備を務めていた張燕が現れ丁原に拝跪する。
丁原は馬から降りると、
「上党の留守番、ご苦労様」
張燕に労いの言葉を伝え、
笑みを浮かべながらその頭を撫でた。
まさか頭を撫でられるとは思ってもおらず、
張燕は顔を真っ赤にして慌てふためく。
と、そこに突然、何儀が飛び出してくる。
「さ、早苗お姉様!?生きてたのですね!!」
「五月雨、お前っ!?」
互いに顔を指差す張燕と何儀。
そんな二人に張遼が尋ねる。
「何や、アンタら知り合いなんか……って、まぁ二人とも黄巾賊やったしなぁ」
張遼の言葉に張燕と何儀は頷き、
続けて何儀が話始める。
「そうなのです、色々お世話になった人でして、先の戦いで死んだと話を聞いて心配………あ、立ち話もなんですから、中で話しませんか?」
「お前が言うな」
張燕はすかさず調子に乗る何儀の頭に拳を振り落とした。
それから、
夜になると城内でお馴染みの祝勝会が行われた。
盃に入った酒を一気に飲み干し爆笑する張遼。
「ハッハハハ!!それで早苗が怒ったんか?」
「そうなんですよぉ、あの時の早苗お姉様の表情といったら、恐ろしくて恐ろしくて…」
「ば、馬鹿ッ、私はそんなに恐い人間ではない!!」
大笑いする張遼に、
何儀は張燕をちらりと見ながら話し、
張燕はその話に異論しようと必死になっていた。
「もぉ、その怖さといったら……私、早苗お姉様と好きな殿方の趣味が一緒で毎回死にそうになるんです。そう、今回だって…」
何儀はやれやれといった動きをした後に、
意地悪そうな顔で張燕を見る。
今回も好きな男性が被っているんじゃないか、
という目で。
それに対して、
張燕は慌てて手を振る。
「なっ!?わ、私はただ呂布殿を武の目標としているだけであって…」
「…まだ私、早苗お姉様に“奉先様が好き”って事一言も言ってませんよ?」
「ッ!!?」
張燕はまんまと何儀の策に掛かった。
張燕は直ぐに自分の口をバッと隠すのだが、
彼女の放った言葉はしっかり張遼・何儀の耳に入り、
二人は張燕を見ながらニヤリと笑う。
一杯食わされた張燕は、
顔を真っ赤にして沈黙した。
その頃、
「今日はお疲れ様、奉先のおかげで丁原軍の名声は急上昇。一躍有名人になっちゃったわ♪」
「…一武将として当たり前のことをしたまでだ」
「一武将は衝車無しで門を開けたりしないわよ」
呂布と丁原は二人で酒を飲みながら話していた。
「…そして、軍の名声を上げたのは俺だけの戦果ではない、お前も努力していた。必死に剣を振るっていた事は気で分かる」
呂布はそう言って盃を空にすると、
丁原の盃と自分の盃に酒を注ぐ。
「ほ、奉先って気を感じる事が出来るの?す、凄いわね…」
それに対して丁原は目を丸くして一瞬固まるが、
暫くしてフフッと笑ってみせる。
と、そこで突然、
何かを思い出した丁原は手をパンッと鳴らして、
呂布に顔を寄せた。
丁原の顔が迫り呂布は思わず軽くビクッと反応するが、
面には出さず丁原に尋ねる。
「…どうした?」
「これからは私の事を朱椰って呼んで」
丁原はビシッと呂布を指差しながら言う。
だが、ポカンとした表情で沈黙してしまう呂布。
それも当然である。
「…前々から気になっていたのだが、何なのだ、その呼び方は?あだ名か何かか?」
呂布はこの世界の事をまだ余り知らない。
彼女らの特別な名の知識が全然無いのだ。
呂布の言葉に丁原はア然となり、
慌てて呂布に説明する。
「奉先、貴方真名の事知らなかったの?確かに死後此処にやって来たとか言ってたけど………ま、真名っていうのは、心を許した親しい者だけが呼ぶことの出来る名前の事よ」
「…ふむ」
「だから、真名を許していない者が勝手に真名で呼んできたら、問答無用で斬り殺されても仕方ない。それくらい重要なものよ」
丁原はそこまで言うと一息つき、
呂布の表情を確認する。
呂布の表情を見て少なからず理解したように取った丁原は言葉を続けた。
「そして、朱椰という名は私の真名。それを貴方に預けるの」
「…朱椰、か」
丁原の言葉に、呂布は一言呟く。
そしてフッと突然微笑すると丁原をチラリと見つめた。
「…それにしても、その真名とやらをどうしたんだ突然?」
「えっ、あ、い、良いじゃない別に。もう、預けても良いかなって思っただけよ」
「…そうか」
「…何か引っ掛かるわね、その言い方。それにさっきも言ったけど、真名を呼ばせる、呼ばせないって結構重大な話であって…」
一向に笑い続ける呂布に、
膨れっ面になりながら説教を始める丁原。
「なんや、なんや…二人して盛り上がってぇ」
「私にも構ってくださいよぉ、奉先様ぁ♪」
「こ、こらっ、五月雨…!!」
そこに張遼たちが間に乱入し、
宴は更に盛り上がりを見せるのだった。
後日、業城陥落を皮切りに討伐軍は黄巾賊の拠点を次々と制圧していき、
最後には鋸鹿に潜伏していた首領・張角とその妹たちを曹操が捕縛し、
ここに黄巾の乱は終結する。
張角を捕縛した曹操は乱の経緯を張角姉妹から聞き出すのだが、
それが旅芸人だった張角姉妹を好いた輩が集まり、
次第に増えた者たちが暴徒化したのが黄巾賊結成の原因だったという。
それを曹操から聞いた丁原たちが呆れて何も言えなかったという事は、言うまでもない。
説明 | ||
業城を攻める官軍。 呂布たちは… 再版してます。。。 作者同一です(´`) |
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三国志 呂布 恋姫 | ||
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