英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
〜夕方・特務支援課〜
「……帰ったよ。もう、出てきても大丈夫だ。」
「…………………………………」
ユウナが隠れているクローゼットにロイドが声をかけると、涙を流して黙り込んでいるユウナが出て来た。
「あ………」
「ユウナ、さん………」
「………よかったのか?追いかければまだ間に合うと思うけど………」
「……ううん………いいの……ユウナがこの街に来た理由……その一つが無くなったから……だから………これでいいの。それに………多分だけどおねえちゃんが突然遊撃士を休業して、”特務支援課”に出向してきた理由の一つもユウナと同じだと思うわ……」
ロイドに尋ねられたユウナは涙を流しながら答えた後、優しげな微笑みを浮かべた。
「そう、か………」
「……もしかしてレンさんが一人で緊急要請を請けた本当の理由は………」
「あの夫妻と顔をあわせたくなくて、逃げたんだろうな……」
ユウナにヘイワース夫妻と会う意思がない事を知ったロイドは肩を落とし、一人で緊急要請に向かったレンの意図を悟ったティオは複雑そうな表情をし、ランディは疲れた表情で溜息を吐いた。
「そんな………本当にそれでいいの……!?ユウナちゃん、どう考えてもあなたとレンちゃんは………!」
一方幼い頃家族がバラバラになり、その事で辛い思いを抱えていたエリィは和解ができ、また家族一緒に幸せに暮らす事ができるのにそれをしないユウナとレンの行動に納得がいかなく、真剣な表情で指摘しようとしたが
「やめとけや、お嬢。世の中には、真っ当な人間には想像もつかない事情だってある。他人が口出せることじゃねぇ。」
「そ、それは………」
ランディに忠告され、黙り込んだ。
「………わたしも同感です。」
「…………………………………」
「ふふっ……そんな顔をしないで。―――ありがとう、お兄さん。ユウナとおねえちゃんの帰り道を邪魔している幾つもの大きな岩………その一つを取り除いてくれて。」
「そっか………力になれたのなら光栄だよ。」
「ふふっ……盗聴器で今までの会話を聞いていたおねえちゃんも今頃お兄さん達に感謝していると思うわよ。」
「へ………と、盗聴器って……」
「……ちょっと借りるわね。」
ユウナの言葉を聞いたロイドが呆けたその時ユウナはロイドに近づいてロイドが身につけている”ARCUS(アークス)”を調べた。
「―――やっぱり。この戦術オーブメントには盗聴器も仕掛けてあるわ。」
「ええっ!?」
「ロイドさんが持っている”ARCUS(アークス)”に仕掛けてあったという事は……もしかしてわたし達の”ARCUS(アークス)”もですか?」
「間違いなくあるでしょうね。あのおねえちゃんが善意で、しかも何の見返りもなく”Ms.L”としての自分の伝手を活用してまで”ラインフォルトグループ”が開発している新型の戦術オーブメントをお兄さん達にあげる訳ないじゃない。」
「ええっ!?『”Ms.L”としての自分の伝手を活用してまで』って……それって一体どういう事なの!?」
「まさか………」
ティオの疑問に答えたユウナの話からある驚愕の事実が出てきた事に驚いたエリィは信じられない表情でユウナを見つめ、既にレンが”Ms.L”である事を察したティオは信じられない表情をした。
「ふふっ、それは今も盗み聞きしているおねえちゃんが帰ってきたら聞けばいいんじゃないかしら?」
「へ………」
「『今も盗み聞きしている』って事は……まさか今も小嬢はこの会話を聞いているのかよ!?」
ユウナの指摘にロイドは呆け、ランディは信じられない表情で訊ねた。
「ええ、今は起動しているもの。―――おねえちゃん、聞いているんでしょう?」
ランディの疑問に頷いたユウナはロイドの”ARCUS(アークス)”を通してレンに自分のメッセージを伝え始めた。
〜東クロスベル街道〜
「…………………………」
ユウナがロイドの”ARCUS(アークス)”に声をかける少し前、ロイドの”ARCUS(アークス)”に仕掛けた盗聴器でハロルド達が自分達と別れた真実を聞いていたレンは涙を流して顔を俯かせていた。
「―――おねえちゃん、聞いているんでしょう?」
「……っ。」
その時盗聴器からユウナの声が聞こえ、声を聞いたレンは身体を震わせた。
「あの二人の事は……ユウナ達の誤解だったみたいね。ふふっ、何でも叶える事ができるユウナとおねえちゃんがこんな重大な事を誤解するなんて、どっちもらしくないわね。」
「…………………」
「……”影の国”でおねえちゃん達と別れてからずっと考えて、ロイドお兄さん達のお陰でようやくおねえちゃんに言える事ができたけど……それはいつか落ち着いた場所で会う事があった時にいう事にするわ。それと………――――溜まっていた5年分の誕生日(バースデー)プレゼント、ありがとう。プレゼントを貰ったあの時は頭も混乱していたからどんな気持ちになっていたのか自分でもわからなかったけど………今ならわかるわ。おねえちゃんに誕生日プレゼントを貰えた事はとっても嬉しくて幸せだって。ユウナもいつか必ず”おねえちゃんの妹として”お返しに溜まっていた分のおねえちゃんへの誕生日(バースデー)プレゼントをするから、期待して待っていてね。」
「……っ!」
ユウナの優し気な口調での自分へのメッセージを聞いたレンは再び身体を震わせ
「ふふっ………………”ユウナはレンの妹なんだから”、どんなプレゼントをくれるのか、期待させてもらうわよ……………………」
やがて優し気な笑顔を浮かべて涙を流しながら窓から見える外の景色を見つめてユウナを思い浮かべていた。
〜特務支援課〜
「ふふっ………お姉さん達も感謝しているわ。……今日のお礼はいずれ、ちゃんとさせてもらうから……だから……ユウナはこれで失礼するわね。」
レンへのメッセージを終えてロイドに”ARCUS(アークス)”を返したユウナは上品な仕草でロイド達に会釈をした後、去って行った。
「あ………………」
ユウナの行動に呆けたロイドは仲間達と共にユウナがビルから出て行く様子を見守った。
「…………………………………」
「………本当によかったの?追いかけて保護しなくて……」
「ああ……もちろんそれは考えたけど。でも、それは俺達の役目じゃないしな。」
「へぇ……?」
「どうして確信しているんですか………?」
「それは―――」
ティオに尋ねられたロイドが答えかけたその時
「あの〜、ごめんくださーい!」
聞き覚えのある娘の声が聞こえてきた。
「今のは………」
「1階からみたいね。」
声に気付いたロイド達は1階に降りた。
「あら………」
「君達は……」
ロイド達が1階に降りると玄関にエステルとヨシュアがいた。
「えへへ……こんにちは。いきなりゴメンね?連絡も無しに訪ねちゃって………」
「お邪魔かと思ったんですけど至急、確認したいことがあって………少しだけお時間を頂けませんか?」
「それは構わないけど………」
「一体全体、なんの話だよ?」
「”黒の競売会(シュバルツオークション)”の件についてでしょうか……?」
ヨシュアの話を聞いたロイドとランディは不思議そうな表情をし、ティオは尋ねた。
「うーん、あれはちょっと保留中っていうか………そ、それよりも………今日の午後、ロイド君がある人物と一緒に歩いたって目撃情報を聞いたんだけど………」
「ある人物………?」
「………ユウナだよ。」
「………ああ、短い間だけど今日は事情があって彼女と一緒に行動をしていた。」
「っ!!!」
「やっぱり……!」
ロイドがユウナと共に行動していた事を知ったエステルとヨシュアはそれぞれ血相を変えた。
「えっと……もしかしてユウナちゃんって、二人の関係者なのですか?」
二人の様子が気になったエリィは戸惑いの表情で訊ねた。
「ああ……そうなんだ。僕達も数ヵ月ほど、顔を合わせていないけど……でもやっぱり……まだクロスベルにいるんだな。」
「……あ、あはは………」
「エステル……!?」
突然崩れ落ちたエステルに気づいたヨシュアは驚いてエステルを見つめた。
「だ、大丈夫……安心したら気が抜けちゃって……よーし……!こうなったら容赦しないわよ〜!徹底的にマークをかけて絶対にとっ捕まえてやるんだから!」
そして気を取り直して立ち上がって嬉しそうに笑顔を浮かべて声をあげたエステルの言葉を聞いたロイド達は冷や汗をかいた。
「おいおい。あの嬢ちゃんも大人気だな………」
「ヨナといい……凄いモテっぷりですね。」
「えっと……あの子はレンちゃんと違って、遊撃士ではないのよね?」
「うん……遊撃士ではないかな。」
「でも、あたしたちにとっては身内同然の大切な子よ。この半年以上……ずっとあの子を追っていたわ。あの子を捕まえて……一緒の”家族”になるために。」
「か、家族……?」
「それは……深い事情がありそうですね。」
エステルの話が気になったロイドとエリィは真剣な表情をした。
「そりゃあもう……すっごく話が込み入ってまして。………クロスベルに来てからはあたしも一通り知っちゃったし……………………」
「ほら、君がそこでヘコたれてどうするのさ。ヘイワース夫妻の情報も集まったし、あの子の心を開かせるんだろう?」
「う、うん……そうよね!」
「ヘイワース夫妻……ハロルドさんたちのことか?」
二人の会話が気になったロイドは真剣な表情で訊ねた。
「えええっ!?なんでロイド君たちがその名前を知ってるワケ!?あたし達、”影の国”でもロイド君にはそこまで話していないわよ!?」
「いや、それはこちらの台詞なんだけど………」
「……どうやら今日の出来事を一通り説明した方が良さそうね。」
そしてロイド達はヘイワース夫妻から請けた頼み――――コリンの捜索の一連の流れを説明した。
「―――そういうわけで、ちょうど君達と入れ違いでユウナは帰って行ったんだけど………ちょ、エステル!?」
事情を説明し終えたロイドは涙を流し始めているエステルに気づくと驚いた。
「あ………や、やだな………どうしてこんな………うぐっ………ひく……うっ………ああああああっ………!」
「エステル………」
「ご、ごめんねヨシュア………それにロイド君達も………でもあたし………何て言ったらいいのかわからなくて………捨てられたんじゃないって………ちゃんと愛されていたんだって………あの子達がやっと………辛くて哀しくて……優しい真実に………ちゃんと向き合うことができて………うううっ………」
「辛くて哀しくて、優しい真実………」
「ハロルドさん達の話か……」
「―――幾つもの哀しい偶然と誤解があったんだ。その結果………とても過酷な道を歩いてきたあの子達は自分自身を騙すことにしてしまった。ユウナは偽物の両親(パテル=マテル)を作り出す事で……そしてレンは僕達―――”ブライト家”を”本物の家族”と思いこむ事で真実を突き止める事を放棄したんだ。でも……それは無理もない話だった。」
「………なるほど。幼いがゆえに自己防衛か。」
「ですが………それでは前に進めません。それどころか………帰るべき場所にも帰れないし、本当の意味で”今の家族”と”本当の家族”同様に接する事もできない。」
ヨシュアの話を聞き、ユウナとレンの事を察したランディは疲れた表情で溜息を吐き、ティオは辛そうな表情で呟いた。
「うん………だからこそ僕達は、彼女達が真実に向かい合える勇気を持てるよう手助けするつもりだった。調べた限り、真実は哀しかったけれどそこには確かな愛情もあったから……だからきっと……今の彼女達なら乗り越えられると思った。でも………もうその必要はないみたいだね。」
「………ああ。少なくとも彼女は全て理解したみたいだったよ。それにレンもきっと……」
「そうか……ありがとう、ロイド。それに支援課の皆さんも。何てお礼を言ったらいいか………」
ロイドの話を聞いたヨシュアは静かな笑みを浮かべてロイド達に感謝の言葉を述べた。
「はは……気にしないでくれよ。成り行きみたいなものだったし、レンは当然として、ユウナにも世話になったからさ。」
「ふふ……確かにそうね。」
「ぐすっ……―――うん、決めた!」
そして泣き止んだエステルは俯かせていた顔を上げて声をあげた。
「最大の障害が無くなった以上、もう手加減してあげないんだから!見てなさいよ〜ユウナ!このまま外堀を埋め尽くした上で絶対にウチの子にしちゃうからねっ!」
「はは……凄いな。」
「いや〜、なんだか知らんがそれでこそエステルちゃんだぜ。」
「なんというか……眩しすぎます。」
笑顔を浮かべてこれからの事を期待しているエステルをロイド達は微笑ましそうに見守っていた。
「ふふ、意気込みは買うけどね。調子に乗った時のエステルほど恐いものはないからなぁ。」
「―――それに関してはレンも同感ね。エステルに目を付けられたユウナには同情するわ。」
苦笑しているヨシュアの言葉に続くようにレンが支援課のビルに戻ってきて答えた。
「レンちゃん……!」
レンの登場にエリィは驚き
「レン……!」
エステルはレンを強く抱きしめた。
「く、苦しいわね……離してよ。」
エステルに強く抱きしめられたレンはうめき声を上げてエステルから離れようとしたが
「やっとレンが前に進めて本当によかったわ……!ううっ………!」
「……………ああもう、子供みたいにわんわん泣いて………エステルはレンの”お姉ちゃん”なんだから、そんな情けない所を見せないでよ……そんなんじゃあ、いつまでたってもレンはエステルを”お姉ちゃん”って呼ばないし、ユウナが情けないエステルの”家族”になる事を嫌がって、ユウナを”家族”にできないかもしれないわよ。」
エステルが涙ぐんで自分の事で安堵していた事を知ると少しの間黙り込み、エステルを泣き止めさせるためにいつもの調子で指摘し
「うぐっ……人がせっかく気遣っているのに、本当にどこまでも小生意気で素直じゃない妹ね……ユウナの事を素直じゃないっていつも言っているけど、あんたの方がユウナより素直じゃないんじゃないの?」
レンに指摘されたエステルは唸り声をあげてレンから離れた後ジト目でレンを睨んだ。
「ふふっ、ロイドお兄さん達には大きな”貸し”を作ってしまったわね。」
そしてレンは苦笑しながらロイド達を見回し
「ハハ……別に俺達は今回の件を”貸し”だなんて思っていないよ。―――仲間が抱えている”壁”を一緒に乗り越えていく事は仲間として当然の事だし、ヨシュアにも言ったように成り行きで君達の”岩”を取り除いたようなものだから、気にしなくていいよ。それよりも仲間として君の力になれてよかったよ。」
「………あ…………」
レンの答えに対して苦笑しながら答えたロイドはレンの頭を優しくなでて微笑み、ロイドに頭をなでられながら微笑まれたレンは目を丸くして呆け、ロイドの”悪い癖”が出た事にエリィ達は冷や汗をかいた。
「ロイド、あなた………」
「最近飛ばし過ぎなのでは?」
「いや、むしろここは普通に考えて攻略は激ムズの小嬢の攻略まで始めたロイドに感心すべきじゃねぇか?」
「うわ〜……これが”天然たらし”ってやつね〜。まさかいつも人をからかいまくって自分の事を”天才美少女”って豪語しているあのレンが今のロイド君の行動に対して何の反応もしないなんて、正直この目で見ても信じられないわ……」
「エステル……君だけは他人(ひと)の事は言えないよ。」
「ちょっ、何でそこで俺が責められるんだよ!?それとランディ、意味不明だから!」
エリィとティオはジト目でロイドを見つめ、ランディはからかいの表情でロイドを見つめ、エリィ達に見つめられたロイドは慌てた様子で答え、珍しいものを見るかのような目でロイドを見つめるエステルにヨシュアは呆れた表情で指摘した。
「………うふふ、レンはエリィお姉さん達みたいにそう簡単に落ちないわよ♪まあ、もしレンを落とす事ができたら、ロイドお兄さんには世界一の幸せが約束されるから、これからもレンの攻略を頑張る事ね♪」
「ハハ……それともしその時が来れば僕や父さん、エステルが”壁”になるから、今のうちに覚悟しておいた方がいいかもしれないね。」
「ああもう……レンとヨシュアまで状況を悪化させるような事を言わないでくれ!」
更に状況を悪化させるような発言をするレンとヨシュアにロイドは疲れた表情で指摘した。
「アハハ………―――ロイド君、エリィさん、ティオちゃんにランディさんも。改めて、あたしからもお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。」
ロイドの様子を口調しながら見守っていたエステルは気を取り直して頭を深々と下げた。
「エステル………」
「………エステルさん………」
「今後、僕達の力が必要ならいつでも遠慮なく言って欲しい。もうお互い、警察とか遊撃士とかわだかまりなんて無いだろうしね。」
「うんうん!全力で協力させてもらうわ!」
「はは………わかった。いざという時は、本気でアテにさせてもらうよ。」
その後、ロイドとエステル達は東通りにある”龍老飯店”へと向かい、夕食を共にして互いに親睦を深めた。3人の故郷”リベール王国”で起こった『異変』の真相とその顛末………ユウナという少女が属している”結社”という謎の組織について………そして『異変』の後に起こり、ロイドも関わった”影の国”という場所に巻き込まれた出来事………驚きに満ちた様々な情報を聞きながら記念祭4日目の夜は更けていくのだった――――――
今回の話である意味驚いたと思いますがロイドがまさかのレンの攻略を開始しました(汗)ユウナがレンにメッセージを伝えるあたりから流れるBGMは空SCかSCEVOの”絆の在り処”だと思ってください♪なお、今回のこのイベントによってレンとロイド達特務支援課初期メンバー全員のコンビクラフトが解禁され、更にレンとロイドとのリンクレベルは5まで、エリィ達とのリンクレベルは4まで上昇していますww
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