SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガールACT:45 |
コスプレ談義で盛り上がる耕介と亜郎にしびれを切らして夕美が言った。
「あんたらなあ、あたしの“衣装合わせ”より、肝心の救出手順はどないするつもりなんや」
「おお、それそれ。いや、いたってシンプルやでえ。パーッと跳んでギャッと捕まえてビャーッと降りて…」
「ちょっと待ちいな。そ、そんな単純な」
「いや」とほづみが割り込む。「それくらい単純なほうがいいんだよ。それなら現場を取り囲んでる人達も何がなんだか解らないうちに片付いてしまうだろうし」
「せやけど、これだけの事件やで。中継してへん時でもどっかのテレビ局がビデオ回してるんとちゃうのん。」
「そうですよ」亜郎が両手に怪しげな衣装をかかえこんだまま夕美に同意した。「しかも今の超高精彩VTRの解像度はばかにできませんよ。一瞬でも写ればかなりのことが解析可能です」
「そうか、ビデオか…うーん。メディア部の部長がそう言うんなら他の手を考えないとダメかなあ。」
「せやからこそ特製コスチュームで変身…いや、変装すんねや。それに、他にも手を考えたーる」
「特製………」夕美はハッとなった。
「…ちょ、ちょーっと待て。うっかりしとった…この衣装の山、一体どないしたんや。」
「どないってお前。これだけのもんが洋服屋に売ってると思うか?オーダーに決まってるやないか」耕介は誇らしげに言ったものである。
「おおおおおおおおおおおおお、オーダーやとお?!!」
夕美は反射的に耕介のえりがみをひっつかんでいた。
家事があるからとクラブ活動もせず、学校帰りではたとえ家とは反対方向のスーパーへ遠回りしてでも毎日の惣菜から生活用品に至るまで、一円でも安い店を…と探すのを常とし、まだ花もはじらう16歳の女子高校生でありながら、流行りの服や靴にも背を向けてすっかり安サラリーマンの主婦以外の何者でもない経済的生活に忍従する日々。
そんな辛抱で鍛えた夕美の堪忍袋の緒も、父親の浪費癖と無神経さにたやすく切れようとしていた。
「い、い、いったい一着なんぼすんねんな」
「はっはっは。それは口が裂けても言えんな」
「ほんなら今ここで裂いたるわ???!!」
言うなり夕美は耕介の口角を対角線上に思い切り引っ張った。
本来ならぎゃあ??という所が“ふゃは???”という間抜けな悲鳴が上がる。
「いはい、いはい、く、くひがしゃけう、はんわに、しゃけう?!!」
「………先生、だからよしなさいって言ったじゃないですか。」と、ほづみ。
「あれーっ。ほづみくぅん?あたしはてっきりあんたも共犯やと思とったわー」
夕美は痛みにもがく耕介の口をエキスパンダーのように引っ張りながら皮肉たっぷりに言った。
「まあそれぞれの製作時にいろいろと意見は述べさせて頂いたけど、それをここへ持ってきたら絶対夕美ちゃんの逆鱗に触れるから見せるべきではな、あぐうううっ!!」
ほづみがくの字に身体を折って吹っ飛んだ。耕介の口を引っ張ったまま放った夕美のするどいキックが、ほづみの腹に突き刺ささったのである。
「そ・こ・は・…止めるとこやろぉ???!!な・ん・で……止ぉめへんかったんやぁあああああああ????!!」
「ゆ、ゆ夕美さん。い、いまは許してあげて」
消え入りそうな声で止めに入った亜郎だったが、当人の姿は車の陰に隠れて見えなかった。
「なんやと、この同類!!あんたもこのロクデナシどもと心中したいかああああっっっ」
「ひいいい?」
恐怖で腰を抜かした亜郎はうかつにも夕美の真ん前に転がり出てしまい、燃えさかる怒りの視線に真っ向から身を曝す羽目になった。
余談だが、亜郎は老人になってからのちにこの経験を振り返り「自分は若い頃に本物の般若を見た」と述懐し、そのつど恐ろしさに身震いしたという。
「ちちち、ちがいます、違いますよ。それより、こ、こうしてる間も」亜郎が半泣きになりながら夕美を説得にかかった時だった。
ずずううううう?????????んんんん……
誰かが大きな声で「危ない」と叫ぶのと地面が揺れるのにほとんど差はなかった。クレーンか建材か、巨大な何かの部品が地上へ落下したのである。
一時は落ち着きを取り戻したかのようだった事故現場のあたりは再び騒然となった。
「な……なに…!?」
「ほ、ほらあ。いわんこっちゃない。クレーンやビルの崩壊が進んでいるんですよ。早くしないと、上に閉じ込められている人も…」…泡を吹いている夕美さんのお父さんも死んでしまう…という言葉はかろうじて飲み込んだ。
「うん…そやな」
「じゃあ、ど…どれにします?」
気を取り直してにわかスタイリストに戻る亜郎。「どれもすごく可愛くてカッコよ」そこで夕美の大きな眼がぎろり、と上目の三白眼で睨んだので亜郎は暑い陽射しの照りつける初夏にも関わらず、再び凍り付いた。
「とにかく露出度のすくないやつ、出して」夕美の脳裏には昨夜見た『スクランブル・ユーミン』のフィギュアの悩ましげなレオタード系コスチュームを連想したからだ。
コスプレだとかサンバだとか、世の中には平気で真っ昼間からトンデモナイ恰好をする人がいるもんだと思っていたが、まさか自分がするはめになろうとは。
だが、断じてあの露出度はありえない。
「ゑ?。」と不平を見事なハモりで漏らす耕介と亜郎。
夕美は思わず彼らを見やったが、もう腹を立てるよりも呆れはてての事であった。
「…ちぇっ、しゃあないなあ、ほんならやっぱしガイアマンしかないかいなあ」
裂かれかけた口をものともせず、耕介はコーディネートに余念がない。
「でも先生、トランクに変身後のガイア3の衣装はありませんでしたが」
「なにゆうてんねん、変身後のバトルモードやったらゴツ過ぎて男か女か判らへんやないか。変身前の隊員服+ミニスカやからええんや」
「でもそれじゃ顔は丸出しで」
「ふ。そこんとこは抜かりないわい」とトランクの奥のほうをまさぐって樹脂製の丸いモノを取り出した。
「え、隊員のコマンドヘルメットまであるんですか」
「そらそうや。これがあってこそのガイアマンやんけ」
「なんでもええから早よしぃな!」
耕介はぶうぶう不平を漏らしながらも手はテキパキと衣装を揃えていった。なるほど、実用には程遠そうな薄手で小振りなヘルメットだが、顔が隠れるくらいの大型のバイザーが付いている。色は明るいブルーだがミラーコーティングが施してあるので直接顔を見られることはなさそうである。
〈ACT:46へ続く〉
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すんげーはげみになりますよってに…
(作者:羽場秋都 拝)
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フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ?つ!!”なヒロインになる…お話、連載その45。 | ||
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