くまみこ まち恋愛プロデュース
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くまみこ まち恋愛プロデュース

 

 

「まちは、ひびきとよしおの恋のプロデュースをすべきだとボクは思うんだよ」

 

 今日も今日とて熊井神社のお社に引き篭もり。巫女装束姿でだらしなく寝そべって少女漫画雑誌を読んでいるまちにとっておきを提案する。

 巫女のお役目だからお社にいる時間が長いのは仕方ない。とはいえ、まちは人と接しなさ過ぎる。自由にできる時間も結構あるのにまるで出ようとしない。中学生になってから引き篭もり度が更に上がっている。学校以外の外で見かけるのはレアキャラ扱いだ。

クマであるボクが言うのもなんだけど、まちはもっと人間らしく生きた方がいい。人間という動物の特徴である社会性を身に着けた方がいい。そのためのプロデュース提案。

 

「え〜。嫌だよ」

 

 まちは漫画から目を離さずに言葉少なに否定してみせた。興味を示してくれてない。でも、諦めない。ボクにはまちを正しい方向に導く義務がある。保護者みたいなものだから。

 

「まちは少女漫画を愛読している。それって、恋愛に興味があるってことだろ?」

「二次元のならね」

 

 一瞬、心が折れそうになった。

 寝そべって漫画を読みながら二次元を語るまちにヒキニートの面影を見てしまった。このままじゃあ、まちは駄目になってしまう。いや、もう手遅れになりかねない。今すぐ何とかしなきゃ。

 

「リアル恋愛には興味ないの?」

「なくなった」

 

 饒舌に否定しないところがまた怖い。嫌いを正当化する以前に興味を持ってない証拠。引っ込み思案なまちのこと。この間、ひびきに脅されて恋愛が嫌になったっぽい。

 

「イケメン彼氏とかまちは欲しくないの?」

「そんな人、この田舎にはいないし」

 

 とってもドライだ。確かに、過疎化が進んでいるこの村にはイケメンどころか年頃の男さえほとんどいない。14歳のまちと24歳のひびきが比較的同世代扱いされてるような場所だし。そんな状況下でイケメンとかあり得ない。ラブコメに向かない過疎村。

 

「大体、ナツ。もし仮に私に彼氏ができても平気なの?」

「えっ?」

「都会の金髪でロッカーで夢は武道館ライブとか言ってる男が私の彼氏ですとか紹介されて平気なの?」

 

 まちが述べた一、二昔前のチャラ男がまちの彼氏としてボクのところに挨拶にやってきた光景を思い浮かべてみる…………。

 

{ポリシーはロン毛っす。趣味はキメセパタクローっす。武道館ライブ目指してニコ動アップしてるっす。デビューするまでの身の回りの世話はまちに任せるんでよろしこ}

 

「グルルルルルルルルルルルルルルウッ!!!!」

「ナツ、顔怖いから」

「ハッ!?」

 

 まちに指摘されて我に返る。想像の中でボクは金髪チャラ男に37回噛み付いていた。あんな男がまちを弄ぶかと思うと我慢ならない。ボクは悪にでもなる。

 

「ほら。私が悪い男に騙されている光景しか想像できないんでしょ。つまり、そういうこと。リアル恋愛なんて私にとって百害あって一利なしなの。ひびきちゃん、怖かったし」

 

 まちは寝転がって漫画を読みながら、更にポテトチップスを食べ始めた。ここ、神殿で聖なる場所なのに。

 

「いや、だからこそ変な男に騙されないように、今から少しでも、恋愛に、いや、人に慣れておくべきだと思うんだよ。そのための恋愛プロデュースだよ」

 

 実際のところ、ボクはまちがひびきとよしおの恋のキューピットになれるとは思ってない。そんな都合の良い結果は求めてはいない。

 けれど、恋愛プロデューサーとして人と接することに慣れてもらいたい。それが、ヒキニート化を防ぐ第一歩だと思うから。

 まちだって重度な対人恐怖症でコミュ障であることはよく自覚している。知らない人と接すると喋れなくなるし、何でも悪意的に解釈するし、暴力的にさえなる。

 そんな自分を変えたいってまち自身願っている。だから、ボクの言葉を一蹴はできないはずだった。

 

「…………恋愛のプロデュースするにしても。ひびきちゃんは無理。絶対無理」

 

 まちはこれまでとは言い方をちょっと変えてきた。断るのは同じだけど、理由が違う。しかも、何でもない様子を装いながら体をわずかに震わせてる。

 

「どうして? ひびきはよしおのことが好きなんだし。そんなに難しくないとは思うけど」

 

 よしおが鈍すぎて難易度易しくもないのは確かなのだけど。

 

「だって、ひびきちゃん乱暴ですぐに叩くし。脅すし……」

 

 まちはブルっと体を震わせた。確かにタバコ吸いながら迫ってくるひびきはヤンキー、レディースという単語ばかりが思い浮かぶ。コミュ障が相手するにはハードルが高いかもしれない。でも、だからこそだ。

 

「確かに、ひびきは暴力的で口も悪い」

「でしょ。だから、ひびきちゃんの恋愛プロデュースなんて無理だってば」

「でも、別の考え方もできるよ」

 

 安易に諦めようとする無気力な若者代表のまちにお得を教えてあげることにする。

 

「ヤンキーバリバリのひびきと普通に接することができるようになれば。都会の大概の人は全然怖くないと思うんだ。都会人と普通に接することができるよ」

 

 ひびきは10歳年下のまちにタバコ吸いながらガンを飛ばしてくる。言葉は汚いしすぐに暴力をチラつかせて脅してくる。

 まちでなくても仲良くなるには相当に難しい部類の人間。でも、だからこそひびきと仲良く慣れれば、一般の都会人なんて人畜無害で接しやすく思えるはず。

 

「どうのつるぎしか買えないぺーぺーのレベル1に魔王は倒せないのよ」

「それはそうなんだけど。まちはひびきと一緒にし○むらに行って仲良くしてたじゃない」

 

 アニメになったら正式名称が使えなかったある大型衣料品店に一緒に買物に行った時のことを思い出す。

 あの日、し○むらから帰ってきたまちとひびきは間違いなく友達だった。その後のよしおへの告白騒動で関係が出掛ける前に戻っちゃったけど。

 でも、一度はひびきと年齢を越えて友だちになれた。この事実は大きいはず。

 

「奢ってもらえるショッピングに一緒に行った時だけ友達。それって本当に友達なの?」

「まちはもう少し人間関係に夢を持とうよ」

 

 何でこう、悲観的なことだけ理路整然と述べるんだろう。

 まちの対人恐怖症は幼い子どもが知らない人を怖がるのとは次元が違う。接しないことを正当化する理論武装がなされている。

 インターネットとか見てない癖に、引き篭もり正当化の理論とか一通り頭の中にぶちこまれている。どこで情報を仕入れてんだか。

 この手の輩を人と接するように仕向けるのは相当高価なエサが必要となる。まちを動かせるほど美味しそうなものと言えば……。

 

「わかったよ」

「何が?」

「まちがひびきとよしおの仲を取り持ったら…………都会の高校に、行っていいよ」

 

 ボクは再び禁断の扉をまちに見せた。

 

「やるっ! 私、ひびきちゃんとよしおくんの恋愛をプロデュースするからっ!」

 

 現金な現代っ子はようやくボクの提案に乗ってくれた。

 

 

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「えっとね。恋愛っていったら、衝撃的な出会いが必要だと思うの。だから、ひびきちゃんはよしおくんとボーイミーツガールするの」

「色々と言いたいことはあるが……あたしとよしおは生まれた時からずっと知り合いだぞ」

「狭い村だからねえ。子どもが生まれたらみんな知ってるよね」

 

 恋愛プロデューサーまちはボクの後ろで震えながらひびきに涙声で説明している。それに対してひびきは苛立ち120%って感じでまちにガンを飛ばしている。

 けれど、パチンコ屋で仕事があるはずなのにすっ飛んできた。ひびきは意外とまちプロデュースに期待しているっぽい。

まあ、中学生の頃から今まで10年以上こじらせているからなあ。そろそろ年下の少女に頼ってでもくっつきたいだろうね。

 

「と・に・か・く〜っ! ひびきちゃんはよしおくんと運命的な出会いをす・る・のっ!」

 

 睨まれて泣きそうな表情になりながらもまちはプロデュースを止めない。目を逸らさないで必死に声を張り上げる。これが都会の高校許可効果か。ただの憧れかと思っていたけれど結構本気で考えてるっぽい。

 頑張れ、まち。

 ひびきのガン飛ばしを平然と受け流せるようになったら、同世代の都会少女なんて何も怖くないぞ。

 

「いや、今さら運命的な出会いなんて無理だろ。どうやったって……」

 

 ひびきの言っていることは正しい。2人は20年以上前からの知り合い。でも、まちの恋愛知識は少女漫画のみ。しかも、小学生女児が読む漫画雑誌。ボーイミーツガールな出会いこそ全てなのだ。それがなければ連載が始まらないのだっ!!

 おっと、熱く語っている時じゃなかった。

 

「というわけで、ひびきちゃんはよしおくんに出会い頭でぶつかって。それで倒れちゃって文句を付けて引っ叩くことから2人の運命の出会いは始まるんだよ。ね、簡単でしょ」

「まち、それは……」

 

 少女漫画の典型的な出会いにして、学園エヴァでしか見たことがない伝説なファースト・コンタクト。でも、それをひびきにやらせるのは──

 

「ぶつかって、難癖つけて引っ叩けばいいんだな? それなら大の得意だ」

「あっ」

 

 ヤンキーのひびきの心に宿るどす黒い何かに火を点けてしまったようだった。

 指をパキパキ鳴らしてヤバい顔している。ヤンキーの本領発揮って感じ。人殺しそう。

 うん、これはもう結果が見えたね。

 

「お〜い、まち。休憩中のところを悪いんだが、ちょっと巫女の仕事を頼まれて欲しいんだ」

 

 運悪くよしおがこっちにやって来てしまっている。まちの説明を勘違いしているひびきに修正を施す時間さえない。

 

「じゃあ、ちょっと。よしおのハートをゲットする出会いをしてくるぜ」

「ハートをゲットするって……心臓を止めるってことじゃないよね?」

 

 ひびきはボクのツッコミに答えることなく、指を大きな音で鳴らしながらよしおへと近寄っていった。

 

「まち……」

 

 ボクの後ろに隠れたままのまちに告げる。

 

「何?」

「恋愛プロデューサーってのは、適当なことを言っていれば良いんじゃないんだよ」

「そうなの?」

「恋愛は命懸けだからね。ほら……」

 

 前方の2人を見る。

 

「うん? ひびきじゃない…………ぶべらっ!?!?!?」

「よしお〜〜っ!! あたしと素敵なボーイミーツガールしやがれっ!! オラオラオラオラっ!!!!」

「ブボッ!? ブベッ!? ブビっ!? ベキュ〜〜ッ!?」

 

 よしおはこのボーイミーツガールが終わって果たして生きていられるのだろうか?

 

「ナツ。私、今回は上手くいかなかったけど。次は上手く行くように頑張るから。絶対、都会の高校に行けるように頑張るからっ! よしおくんの尊い犠牲は無駄にしないから」

 

 いつになく前向きなまちに、ボクは心が温かくなるのを感じていた。

 

「よしぉ〜〜〜〜〜っ!! これであたしと運命の出会いだな。オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

「ひびきが何を言ってるのか全然わかん………ギャアアアアアアアアアアアアアァッ!?」

 

 これは、まちが対人恐怖症とコミュ障を克服するための果てしない道を描いた物語。

 今日は、その第一歩。

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

説明
ナツはまちに恋愛プロデュースをさせることにしました

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