同調率99%の少女(8)
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=== 8 艦娘部勧誘活動2 ===

 

--- 1 展示(2日目以降)

 

 

 

 翌日放課後。初日と同じように那美恵たちは生徒会室から展示用のパネルや資料を運び出し、視聴覚室に持ってきて展示を開始した。なお、2日目からは提督や五月雨は来ないので、ここからは自分たちの力だけで勧誘するしかない。ただ、工廠長であり工作艦明石だけは川内の艤装のメンテや確認のために今後都合が付けば来校すると連絡を受けていた。

 

 2日目は、初日に来た生徒が感想を周りに話してくれたおかげか、見学しに来る生徒が少しだけ多かった。ただお目当ては提督と五月雨、という女子生徒が多く、2日目はいないとわかると見るからに話半分で説明を聞いて帰るか、すぐ帰ってしまうかのどちらかであった。

 

 人が途切れた時間帯。那美恵と三千花が一言ずつ感想を交える。

「なんだかさ、提督と五月雨ちゃん、思った以上に人気だよね。」

「えぇ。まさかいないって答えた瞬間あそこまで露骨にがっかりされて帰られるとは思わなかったわ。」

 二人ともため息を同時につく。

 

 そして視聴覚室が借りられる限界時間に達した。その日は初日より多かったものの、やはり興味を持続させてくれる生徒はおらず、川内の艤装を試してもらうまでに至らなかった。

 顧問の四ツ原阿賀奈は姿を一切見せなかったことに一瞬疑問を持った那美恵たちは、片付けをしている最中に三戸たちに尋ねた。

「四ツ原先生、今日は来なかったけどどうしたんだろ?三戸くんたち、何か聞いてる?」

 仕切りを動かしつつ三戸が首を振った後答えた。

「いえ。何も聞いてないっす。別のクラスでは普通に授業担当で来てたらしいっすよ。」

 

「まぁ先生なんだし、忙しいんでしょう。来ない日だってあるわよ。」と三千花。

「そーだね。」那美恵もすぐに同意した。

 彼女の性格が性格なだけに、来なかろうがそれほど気にするところではない4人であった。

 

 

--

 

 片付けがほとんど終わり、視聴覚室の鍵を締める際、那美恵は妙な視線を感じた。それは視聴覚室のある近くではない、少し離れた階段あたりから感じる。

 

((誰?なに?みょーな視線が……))

 

 その視線の感じるほうに顔を向けると、誰も居ない。いたのだろうが、距離があるのですぐに隠れられたらわからない。それ以上は気にしないでおく那美恵であった。

 

 

 

--

 

 3日目。提督と五月雨がいないが、それでも人は2日目並に来た。ただやはり誰も川内の艤装を試してみたいというところまではいかない生徒ばかりだった。その日は金曜日ということもあり、学生とはいえ花の金曜日を謳歌したい学生が多く、さっと見たらすぐに帰る生徒がほとんどであった。那美恵たちは2日目同様、頭を悩ませていた。

 

「うーん。このままだとまずいね。あたしの見通し甘かったかも。」

「まだ3日目よ。まだ全校生徒の十分の一も来てないわ。」

「この時期で3日間で14分の1もくれば十分すぎると思うな。明日と明後日土日挟んじゃうと話題途切れて一気に人が入らなくなる可能性あると思うの。そうするともう見学者は望めないかも。始める日取り、気にしておくべきだったなぁ〜あたし焦ってたよ。」

 さすがに3日目をすぎると、文化祭でもなんでもない時期の展示、人の興味は1週間が限界だろうと那美恵は判断し、やや焦り始める。それにこの日が終わると、土(午前授業)、日を挟んでしまう。興味が薄れるのが早まる可能性が大きい。

 珍しく弱気な親友の言葉を聞いて、途端に自身も不安になる三千花。

「じゃあどうするの?どうにかしないと。」

 

 那美恵は再びう〜んと悩み始める。そしてふと思いついた表情に切り替わる。

「そだ! 明日は土曜日で、半日ある日でしょ?明日は視聴覚室を飛び出して、実際に艤装を動かすのを見てもらおう!そのほうがみんなの興味をグッと引くかもしれない。」

 親友の考えを聞いた瞬間、三千花は嫌な予感がバリバリした。意を決して続きを聞くことにする。

「……実際に動かすのね。それ、誰が、動かすの?」

 

 三千花の質問を聞いて、那美恵はいやらしい満面の笑みを表して、答えを告げる。

「そりゃあもちろん。……ね!」

 露骨に嫌な顔をして三千花は那美恵に詰め寄って文句を言う。

「あんたが!やりなさいよ!ね!」

「うわぁお!まだ誰がやるって言ってないじゃん!」

「あんたのその顔が私って言ってるようなものよ。私は嫌だからね!?」

 

 親友のマジ嫌がりを目の当たりにして、本当は自分がやるつもりだったのだが親友の勘違いを汲んであげることにし、それを踏まえて那美恵は改めて答えを告げた。

「はいはい。じゃあ私がやるよ〜。ま、どのみちみっちゃんじゃあ艤装同調できただけで動くのとかできないだろうから、あまり良いデモにならないだろうし。」

「本当ね?」

「ホントホント。マジ。けどあたしが艤装つけるのは手伝ってね。」

「まぁ、それくらいなら……」

 那美恵が本当に自分がやるという意志をみせたので協力程度ならと、短い後ろ髪をさらっと撫でながらしぶしぶ三千花は納得した。

 

--

 

 翌日の艤装デモはプールで行うことにした。那美恵と三千花は展示を三戸と和子にひとまず任せ、午後5時過ぎに学年主任の先生に、プールの使用許可を得に行った。消火用の水を張ってはいるが、汚れが残っていて入れないと言う。那美恵は、プールに入るわけではなく、艦娘だから水の上に浮かぶので問題ないと説得する。あまりよくわかっていない学年主任は自己責任ならOKとし、那美恵たちに許可を与えた。

 なお、その後にこの夏の体育の授業のためについでにプール掃除を依頼されてしまった。

 

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--- 2 艤装デモ

 

 

 翌日土曜日になった。

 

 2000年代も70〜80年経った那美恵たちの時代になると、かつて存在した学校の完全週休二日制・学校週五日制度は、学生の学力低下などの問題により見直しがされて久しく、学校によっては一月に1回週休二日、隔週で週休二日制を取るなど、学校ごとに必要単位の調整のために運用が求められ、殆どの学校では完全週休二日制はなくなっていた。那美恵たちの高校は隔週で週休二日制だ。

 毎週土曜日が休みだったのは新しくても40〜50年も前の話で、那美恵たちはおろか、提督や明石たち、下手をすれば校長の学生時代であっても毎週土曜日休みだったというほうがすでに珍しい制度になっていた。

 今現在学生である那美恵たちは何の疑問も不満も持たず、自身の学校に定められた土曜日授業に出席している。

 

 金曜日の夜にSNSの高校のページの案内にて、翌日土曜日に艤装のデモを行うことを那美恵が書き込んでいたので、それを知る生徒はそれなりにいることになった。

 そして土曜日の授業がすべて終わり、那美恵たち生徒会メンバーは視聴覚室組とプール組で分かれてその日は作業することにした。那美恵と三千花はプールに、三戸と和子は視聴覚室の展示およびプールへの案内である。

 

「会長たちいいな〜羨ましいっすよ。プール入りてぇな〜」

「三戸くん、あんな汚い状態のプールに入りたいならどうぞ〜。あたしはその上に浮いて三戸くんを眺めるだけだし〜。」

 三戸がプールに行く那美恵たちを羨ましそうにしてひがむと、当の那美恵はしごく現実的なツッコミをして返した。

 

「三戸くん。デモが終わったらプール掃除するから手伝いに来てね?掃除するときなら水浴び放題だし、水着見放題だよ?」

「よっし!それだけでも十分っす。適当に友人募っていいっすか?掃除するなら人多いほうがいいっしょ?」

「ま、そのへんはてきとーによろしくぅ」

 

 艤装を運び出すのに4人全員でプールまで行った後、三戸と和子は視聴覚室へと戻り、那美恵と三千花はプールの入りうちで見学者を待つことにした。

 

 

--

 

 デモ間近の時間になると、土曜日もお昼をすぎる時間にもかかわらず意外にも今までよりも人が集まってきた。その中には何人か教師もいる。さらにその中には、前日まで顔を見せなかった四ツ原阿賀奈もいた。阿賀奈は那美恵と三千花のところに近寄り、久々に声を掛け合う。

 

「光主さん!中村さん!2日ぶりね。」

「先生!2日間どうされたんですか?少し心配したんですよ〜」

 那美恵が阿賀奈にそう言うと、生徒に心配されるということを頼りにされてると脳内変換したのか、ニンマリした顔で阿賀奈は釈明し始める。

 

「先生ね。この2日間で光主さんたちからお願いされたとおりにもらった資料読んで勉強してきたのよ!」

 マジでこの先生勉強してきたのか、と素直に驚く那美恵と三千花。そして阿賀奈はその場で覚えてきたことをペラペラ披露し始めた。

 さらに那美恵らを驚かせたのは、阿賀奈が披露した知識はまさに大正解で、那美恵が直接的にはノータッチな職業艦娘まわりの運用も説明してきたことだ。那美恵と三千花は先日までの阿賀奈の印象はどこへやら、一気に見直した。

 

「先生さすがですね〜。このあたりのことなんか、2〜3ヶ月艦娘やってるあたしですら知りませんよ!すごいです!」

「ふふ〜ん!先生昔からお勉強得意だったんだから!光主さん、これからはもっと頼っていいのよ〜!」

 

 那美恵が想定したとおり、阿賀奈は自分で見聞きしようとした物事ならば覚えられる人だった。裏を返せば、人の話を聞くことができない、聞いても理解する気がない(本人にそういう意識がないにもかかわらず)質の人なのだ。

 ともあれ正確な知識を得てきた阿賀奈は、那美恵にとって頼るに値する可能性ができた。

 

「先生ね、提督さんに言われた通り、今日はこれから防衛省に行って職業艦娘の試験の申し込みしに行くのよ!その前に光主さんたちのギソーのデモ見ていこうと思って来たの。先生、光主さんたちのカッコいいところしっかり見てあげるからね!」

「先生〜!ありがとうございます!じゃあせっかくなので、あたしが艤装付けるの手伝ってもらえますか?」

 手伝って下さいの一言に満面の笑みを浮かべる阿賀奈。二つ返事で那美恵のお願いを聞き入れた。

 

 

--

 

 艤装のデモをする時間が来た。那美恵は阿賀奈とともにプールサイドに行き、日よけのところに置いていた川内の艤装を装着し始める。那美恵は艤装の各部位の説明を交えながら阿賀奈に装着を手伝ってもらい、ほどなくして装着が完了した。当初手那美恵の艤装の装着を手伝う予定だった三千花は、プールの入り口で見学者の案内をしている。そしてプールサイドには十数人の見学者が各々好きな位置に立ったりしゃがんだりして位置取りした。見学者の準備も万端である。

 

 那美恵は日よけのところから出てきて、見学者に近寄る。まだ同調していないので、艤装の重量がダイレクトにのしかかり歩く速度を遅くする。数歩歩いた後、那美恵は声を張って見学者に挨拶し始めた。

 

「え〜、本日は皆様、艦娘部のデモにお集まり頂いてまことにありがとうございます。あたし、光主那美恵はこの場では生徒会長ではなく、艦娘部部員としてここにおります。今日は生徒会副会長の中村三千花さん、それからこの度艦娘部の顧問になっていただいた四ツ原先生に協力してもらっています。」

 

 那美恵に振られてその場で会釈をする三千花と阿賀奈。それを確認した後、那美恵は挨拶を続けた。

「それでは艦娘について簡単に説明します。といってもここだと熱いしあたしもこういったものを身につけているので、本当にごく簡単にです。」

 

 身につけた艤装を見せつけるように動かしたり、腰や腕を振って重そうな演出をしてウケを狙う那美恵。配布資料に書いてある説明をもっと短くまとめて本当に簡単に、かつ本当に知ってほしい要点だけを那美恵は説明する。まだ同調していないので突っ立っているのはややしんどいが、その表情は見せないようにしている。

 

「それでですね、艦娘になるにはこの艤装との同調が必要になります。これは言い換えると艤装という機械とフィーリング、つまり相性ですね。相性が合うかどうかが大事です。誰もが同調できるわけではないんです。恋愛でもそうですよね〜? 例えばあたしはT君と気が合って付き合いたいと思うのに、まったくそりの合わないA君とあたしが付き合ってしまうようなものです。きっとすぐに別れます(笑)」

 

 身近な喩え話を入れてさらに笑いを誘いつつ、わかり易く説明を続ける。

「で、あたしは本来は軽巡洋艦那珂という艦娘なんですが、ここにある艤装は姉妹艦の川内というものです。あたしは罪な女なので、那珂とも川内とも同調できちゃったんです。けどあたしの心は那珂のもの。誰か川内ともっと気が合う素敵な人はいないかしら!? ということで、先日から展示して皆さんに艦娘のことを知ってもらい、川内になってくれる人を探しているんです。」

 

 途中、両腕で自分を抱きしめてくねくねしたり、一人芝居をはさみながら説明する。するとプールサイドから笑い声が聞こえたり、なるほどと頷く生徒や教師がちらほらいる。つかみはOKだと那美恵は判断する。

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「と言っても、いきなり川内の艤装を試してもらうのはみなさん何があるかわからないし怖いと思うので、今日はあたしが川内の艤装を付けて、艦娘とはどういうことができるのかを、身を持ってみなさんにお見せしたいと思います。それでは中村さん、例のものを。」

 那美恵は三千花を近寄らせ鉄の板を持ってこさせる。同調した後に使う目的だ。三千花は両手で持ってくるが、普通の女子高生にはつらい重さのため、フラフラヨタヨタと足元おぼつかずにようやくといった様子で那美恵の側に到着した。

 

「あたしはいまこうして川内の艤装を身につけていますが、まだ同調していないので、あたしはただのか弱い少女です。ですが、同調すると、とてもすごいことができます。」

 しんどそうに鉄の板を持ってきた三千花を下がらせ、自身は同調を開始する。

 

「では同調始めます。特に見た目は変わらないのであたしを視姦しても意味無いですよ〜」

 ふざけたあと、真顔になって精神を落ち着けて那美恵は同調を完了させる。その直後、那美恵は艦娘川内になった。

 

 

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「……はい。私は今、川内という艦娘になりました。」

 プールサイドからはえぇ〜だのわかんない〜だの声が聞こえる。すでに想定済みの反応なので、那美恵はすぐにわかりやすい実例をする。

「では同調するとどうなるのか、まずはこの鉄の板でご覧頂きたいと思いま〜す。」

 そう言って那美恵は三千花がやっとの思いで持ってきた鉄の板を、ひょいと軽々片手で持ち上げた。その瞬間、プールサイドの見学者の間でおぉ〜!という歓声が一気に響き渡る。そばでひときわ大きな歓声で驚いているのは艦娘部顧問の阿賀奈だ。三千花も水の上を進む以外の、直接的に艦娘化の効果がわかる行為をする那美恵の姿を見たので驚きを隠せないでいる。

「この鉄の板、普通の女子高生な中村さんにはひじょ〜に重かったのですが、川内になったあたしにとっては、ベニヤ板か発泡スチロールのように軽く感じます。」

 その後見学者から鉄の板を持ってもらう人を募り、実際にその鉄の板が重いものであることを証明する。

 

「このように、艦娘になれると、力がひじょ〜にアップします。今のあたしはボクシングや格闘技のチャンピオンよりもきっと強いかなぁって思います。ま、さすがにそこまでは試したことないのでわかりませんけど。ただ日常生活に限ったら、相当持て余すくらいのパワーアップをします。危険なので、艦娘は原則として海の上で深海凄艦と戦う以外のことはしません。それでは艦娘とっておきの、水上航行をしたいと思います。」

 

 艦娘になったあとの注意事項を含めつつ説明を続け、デモンストレーションのメインに移るために、那美恵はプールの水面に足を乗せる。足を漬けるのとは明らかに違う波紋が波立つ。片足が浮くのを確認した後、もう片足を水面に乗せる。これで那美恵の両足はプールに浮いた。

 那美恵自身、もしかすると鎮守府内の水路やプール、もしくは海でしか浮かばない仕組みだったらどうしようと内心不安の気持ちがあったが、なんなく浮くことができたので密かにホッと胸を撫で下ろす。

 

 見学者は那美恵がプールに浮く姿を見た瞬間、さきほどの鉄の板の時よりも大きな歓声を挙げた。明らかに普通の人ではできない行為をやってのけているからだ。

 

「はい。浮きました。こうして水の上で船のように浮くことが、艦娘にとって基本中の基本なんですよ〜。それではこのプールを移動してみたいと思います。」

 そう言って那美恵はプールの端から中央に進む。汚れが浮いたプールの水に波が立ち、汚れがかき分けられる。それはプールサイドから見る人たちでも、水の上を何か異質な存在が進んでいることがはっきりわかる現象だった。プール中央に到達した那美恵は、2〜3言雑談まじりの解説をしながら、今度はプールの上を縦横無尽に移動し始めた。のろのろゆっくり進むときもあれば、ダッシュするかのように急速にスピードを上げてプールの端から端、50mを移動したりと。

 

 そしてひと通りの水上でのパフォーマンスが終わり、元いたプールサイドに戻って上がる頃には、見学者の歓声は拍手を伴って大盛況も大盛況。盛り上がりも最高潮に達していた。

 そして那美恵は同調を切断し、艦娘川内から人間那美恵に戻った。

 

「ふぅ……。とまあ、艦娘になるとこのように水上を移動し、深海凄艦と戦います。実際は専用の銃や腰に付いている魚雷を使って、遠距離から攻撃するので、本当に戦うためには多少訓練は必要です。」

 

 一説明終えて那美恵は阿賀奈と三千花を呼び寄せて艤装を外す。そののち艤装を一旦まとめて側に置き、見学者との質疑応答を設ける。

 

 見学者からは深海凄艦と戦うのは怖くないのか、艦娘になったらどのくらい出勤しないといけないのか、給料は出るのかなど、提督からある程度聞いておいた内容で答えられる範囲の質問が出てきたので、那美恵はそれらに的確に答えていく。

 そして川内の艤装で同調を試してみたい人を募る。那美恵はもちろんのこと、三千花も心臓がキュッと詰まる思いで見学者の挙手を見守る。

 すると、十数人いるうちの、6人が手を挙げて、同調を試してみたいという意思表示をしてきた。中には那美恵と同じクラスのクラスメートもいる。男子も2人おり、様々な反応を見せている。

 

 那美恵と三千花は明石から聞いておいた通り、川内型の艤装のコアとなる腰の背中側に装着する箱状の部位を生徒の腰にベルトとともに当てる。そして三千花はタブレットに入れておいた艤装の同調チェック用のアプリを起動し、川内の艤装を認証させて、電源をつけた。

 那美恵は装着する生徒それぞれに初めて同調する際のコツと注意事項を伝え、万が一同調成功しても驚かないように気をつけさせた。

 

 一人目の女子生徒、同調率24.53%、不合格。

 二人目の女子生徒、同調率54.10%、不合格。

 三人目の男子生徒、同調率41.66%、不合格。

 四人目の女子生徒、同調率73.91%、不合格。

 五人目の男子生徒、同調率 9.15%、不合格。

 六人目の女子生徒、同調率64.64%、不合格。

 

 このような結果となった。一人だけかなりいい線いった73%台の数値を叩き出した女子生徒がいた。その子は那美恵のクラスメートだったが、合格は81%以上なので当然不合格になってしまった。本人はこれで艦娘になれるの!?と興奮気味だったが、合格範囲のパーセンテージを伝えると、がっかりしておとなしくプールサイドの端に戻っていった。

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「え〜、今回勇気を出して同調を試していただいた6名の方は残念ながら同調がうまくいかなかったということになりました。このように、艦娘になるには、艤装との相性が大事なんです。合格圏内になるには精神状態や健康など色々条件もあります。また、もしかしたら別の艦娘の艤装なら、今回の6名も合格できるかもしれません。こういう条件があるので、艦娘は自由に人を増やせないんです。やるぞぉ〜!っていう意欲ある人でも、艤装の同調に成功しないとダメですし、その逆でまったくやる気ないけど、艤装との同調に合格できる人が世の中にはいるかもしれません。」

 

 那美恵は胸に手を当てながら続ける。

「なのであたしとしては、一緒にこの学校で艦娘として戦ってくれる人を見つけて部に入ってほしいんですが、同調を試してもいいっていう人が集まらないことには、調べられないんです。ですからどうか皆さん、協力してください!もちろん仮に同調成功しても強制ではありません!必ずなってもらうことはないので、お気軽というのも変ですけど、試しにきてほしいなっていうのがあたしの素直な思いです。」

 

 思いの丈を見学者にぶつけた後、那美恵は締めた。

「どうか、よろしくお願いします!本日はデモ御覧頂いて本当にありがとうございました!」

 見学者に向けて深々とお辞儀をする那美恵。合わせて三千花と阿賀奈もする。

 見学者からは大きな拍手をもらって、艤装デモは幕を閉じた。

 

 

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 見学者は全員プール施設から出て、日よけのところに那美恵達3人は座りながら雑談している。

「あー、緊張したぁ〜。ドッキドキだったよあたし。」

「なみえ生徒会長なんだからこれくらいなんてことないでしょ?何を今更。」

「いやいや。てきとーに生徒代表やってるときと、あたしがやりたいことのためにやるときの人前での演説は全然ちがうよ。」

 さらりと生徒会長時の本音をさらけ出す那美恵。親友の三千花はそれを逃さない。

 

「あ、今生徒会長は適当って言ったわね?それがあんたの本音かー。」

「テヘ、バレた?」

 那美恵と三千花はイチャイチャする。

 

 そして一緒にいた阿賀奈が今回の感想を口にした。

「今日はおもしろかったよ〜!二人ともご苦労様!先生もものすごくためになったよ! 先生もはやく職業艦娘になって光主さんと一緒に海の上歩きた〜い!」

「アハハ。あたしも期待してますよ、先生!」

 那美恵は普段の軽いしゃべり方を交えて先生である阿賀奈に接する。

 

「じゃあ先生、これから職業艦娘の試験の申し込みしに行くね? あなたたちはもう今日はなにもないんでしょ?」

「はい。あとはあたしたち、○○先生からプール掃除お願いされてるのでそれするだけです。それ終わったら帰りま〜す。」

「そう!お昼も過ぎてるから、休憩挟んでからプール掃除頑張ってね!」

「「はい。」」

 

 そう言って阿賀奈は重そうなお尻を上げて立ち上がり、プールサイドを歩いてプール施設から出て行った。

 

 ふたりきりになったプールサイドの日よけ。那美恵と三千花はお互い素直な感想と展望を語り合う。

「今回はすごく好評だった気がしない?」

「そーだねぇ。結果はアレだったけど実際に生徒に同調試してもらえたし、これで来週も興味を持続させてくれればいいんだけどなぁ。」

「きっと、大丈夫よ。」

「おぉ!?みっちゃんすんげー前向きで優しいぞ!大好き〜」

 三千花から優しい言葉をかけられて、ふざけつつ三千花に抱きつく那美恵。しかしプールサイドは暑い。三千花は2秒以内に那美恵の頭を押して彼女をひっぺがした。

 そしておでこを撫でながら那美恵はこの後の予定を確認した。

 

「そんじゃま、今日のところはこれでよしとしますか!さーてみっちゃん、お昼買いに行こ?」

「えぇ。その前に毛内さんと三戸くんに報告に行かなくちゃね。」

 

 那美恵と三千花は艤装を台車に乗せてプールから運び出し、校舎に戻って視聴覚室へと仕舞いに行った。そののち、書記の二人と合流した那美恵たちはお昼休憩をとった後、依頼されたプール掃除をしに再びプールへと出向くことにした。

 

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--- 3 プール掃除と友人

 

 

 プール掃除に行く途中、三戸は友人を呼びに行くために那美恵たちから一旦別れた。

 那美恵と三千花、そして和子の3人は先にプールへと戻り、機械室の鍵を開け排水口の栓のロックを解除した。ほどなくして機械室の外、プールの地下でズゴォォォという音が聞こえ始める。

 そのまま10数分待つ那美恵達。外はじんわり暑く、そして暇なので機械室の入り口付近の日陰になっているところでボーっと待つ3人。

「そういやさ、三戸くん友人呼びに行くって言ってたけどさ、この時間残ってる生徒なんているのかなぁ?」

「まー、普通に考えていないでしょうね。」

「部活やってる人は残ってますけど、みんな部活動で忙しいですよね。」

 那美恵の素朴な疑問に、三千花と和子は現実的な反応で答える。

「ね!ね!今のうちに着替えておかない?」

「そうね。だけど……ホントに水着着るの?てか水泳の授業なんてまだないから持ってきてないわよ?」

「私もです。普通に体操着でやればいいのでは?」

 那美恵が提案すると三千花と和子に冷静に突っ込む。

「やだなぁ〜二人とも。さすがのあたしもマジで水着着るとかないよ〜。あの場はああ言わないと三戸くんノッてこないでしょ?あと彼地味に人脈広いから、友達連れてくればいいなぁ〜っていう期待も込めてだよ。」

 あっけらかんと言う那美恵。実質、三戸を騙しているが大した問題ではないだろう、三千花はそう思い納得の表情を見せて頷いた。

 

 そして3人はプール備え付けの更衣室に行き、それぞれ着替え始める。

「あ、そだ。あたしはせっかくだから那珂の制服着てやろっかな?これなら濡れても汚しても問題な〜し。ね?みっちゃんも制服着てやらない?」

「やらない。」

 即答する三千花。

「はえーみっちゃん即答かい。いいじゃん別に恥ずかしい思いしないし、ただ服着替えるだけだよ?」

「い、や!」

 チラチラっと制服のスカートを掲げて見せるが、一言ずつ強調して着用すら拒否する三千花の反応に、仕方なしに那美恵は着せるのを諦めた。

「それそもそもあんたの那珂の制服じゃないの!?あたしとサイズ合わないでしょ?」

「ぶー。そんなにサイズ違わないでしょ!」

「少なくとも上はきっつくなると思う。」

「ぐっ、ぬぬぬ。いいよわかったよ。一人で着るよ……。」

 持ってきたバッグに入っていた那珂の替えの制服をそっとしまう那美恵。三千花はやや寂しそうな親友の横顔を見て、服くらいなら付き合ってあげればよかったかなと思ったが、うっかり気を緩めるとしつこい場合があるのでこの場はあえて拒否の態度を貫くことにした。

 結局那美恵は那珂の制服、三千花と和子は体操着という格好でプールサイドに再び姿を表した。

 

 

--

 

 プールサイドに出て半分くらい減ったプールの水を眺めていると、プール施設の入り口から三戸が数人連れて入ってきた。女子1人、男子3人という構成だ。

「おまたせしましたっす、会長。4人集まったっす。」

 そう言って三戸が紹介したのは、同じ1年生の比較的よくつるむ4人だった。那美恵と三千花はよろしくーと挨拶するも、和子だけは違う反応を見せている。

 

「あ……内田さん。」

 彼女がそう呼んだのは、三戸が連れてきた友人の紅一点だ。そう呼ばれた少女は内田流留(ながる)といい、きりっとした目つきにミディアムな髪、中性的な印象を残しつつもいかにも気が強そうな美少女という雰囲気を醸し出している。

 そんな少女は男子たちの先頭に立って姿を現す。

「こんちはー。ってうお!生徒会長いるじゃん!」

 流留は三戸に詰め寄って軽口で抗議し始める。

「おーい三戸くん。2年生いるならいるって教えてよ。しかも生徒会長だし。」

「ゴメンゴメン。別に言わなくても大丈夫かと思ってたよ。」

 軽いノリで三戸が言うと、さほど気にしていないのか、流留や他のメンツもすぐに直前のノリに戻る。

「ま、いいや。来ちゃった以上は手伝うけどさ。さっさと終わらせて皆で遊びに行くよ?」

 

 流留たちが近寄ってきたので那美恵と三千花は挨拶をかわす。しかし和子だけは反応が違う。少しおっかなびっくりな態度で那美恵と三千花の間に移動する。その様子に気づいた那美恵はどうしたのか尋ねた。

「およ?わこちゃん。どしたの?」

「……!あ、その。いいえ。なんでもないです。」

 那美恵は和子の様子をそれ以上気に留めないが、三千花は和子の様子が気になっていた。

 

 

--

 

 プール掃除のために計8人がプールサイドに思い思いのポーズで立つ。那珂の制服を着た那美恵が7人の前に立ち、音頭を取り始める。

「もーすぐ水が引くから、そしたらとりかかるよ。みっちゃんと三戸くんは外の水道の蛇口にホースつけて、水を流す係ね。で、内田さんたちは三戸くんに従ってその側をデッキブラシでおもいっきりゴシゴシと。もーガンガンやっちゃって。三戸くんの持つホースは長いからどんどんプールの先まで進んでいっちゃっていいからね。」

「はい。わかりましたー。」

 やや気だるそうに流留が、続けて他男子生徒たちが真面目に返事をする。そして那美恵は三千花と和子のほうを向いた。

「そんで、あたしとわこちゃんはみっちゃんが水をかけるところひたすらゴシゴシやるよ。みっちゃんのホースのほうが短いから、あたしたちのほうがプールの前のほうを重点的にやります。」

「「はい。」」

 那美恵は三千花から、和子の様子が気になる。どうも内田さんたちと混ぜるな危険ということを聞いており、その意を汲んで三千花・和子・那美恵の3人組になるように構成を指示した。

 まもなくプールの水が完全に引く。各自デッキブラシを持ったり、蛇口にホースを取り付けるなどして準備をする。各自の配置に付く最中、生徒会長である那美恵の格好が気にかける人物がいた。内田流留その人だ。

 

「ねぇ生徒会長。その格好なんですか?」

「ん?これ? これね、艦娘の制服なんだよ。あたし艦娘やってるから。さっきまでここでデモンストレーションしてたんだ。」

「へぇ〜艦娘やってるんですか。」

 やや興味ありげな様子を見せる流留に、なんとなくクるものがあった那美恵はこそっと勧誘してみる。

「ね!ね!内田さん。内田さんは艦娘興味ある?」

「え?艦娘? うーん。よくわかんないし、別にいいや。」

「そっか。」

 那美恵に似た感じで、あっけらかんと答える流留。那美恵はその答え方を気にしつつもその場ではすぐに口を閉じて話題を終わらせた。

 その様子を見ていた三千花は、那美恵を引き寄せて彼女に問いただす。

「なみえ。あの内田って子艦娘に誘わないの?」

「えー。うん。今はね。」

 那美恵の頭は今はプール掃除を済ませることが占めており、今本気の勧誘なぞする気はさらさらない。三千花は親友の考えが何か別にあるのかとなんとなく察し、それ以上気に留めることはしなかった。

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 プールの水が引いたので、8人はプール内に降り立って掃除をし始めた。三千花が水をまくところに那美恵と和子が、三戸が水をまくところに流留たち4人が集まって作業をする。その2つのグループは端と端にいるので距離がある。

 プール掃除を進めながら、三千花と那美恵は和子に、さきほどの態度の理由を聞き出し始める。

「ねぇ毛内さん。さっき内田さんが来た時にあなたビクついてたけど、何かあったの?」

「そーだ。そーそー。どうしたの?」

 三千花と那美恵が尋ねると、和子はやや俯きになり下唇を上唇でグッと抑えて口を真一文字につぐんだ後、口をモゴモゴさせ、チラチラっと流留の方を遠めで見て確認してからゆっくりと口を開いた。

「実は、あの内田さん。1年の女子の間ではあまり評判よくないんです。」

「「評判?」」

 那美恵と三千花がハモって聞き返す。

 

「はい。私は違うクラスなのであくまで噂程度でしか知らないんですけど、よく男子と一緒にいるそうなんです。それだけなら別にいいとは思うんですけど、彼女と同じクラスの女子の話だと、いろんな男子とよくつるんで、周りに男子がいない時間はないってくらいだそうです。どうも色目使ってるからだの、男遊びするその……不良だからだの思われてるそうで、本当のところはわからないですけど、とにかく私達他の女子からすると、印象悪い子、怖い子、評判最悪な子なんです。」

 

 つまりは色恋沙汰で素行が悪い子なのか、と那美恵と三千花は和子の話を聞いて真っ先に思った。さらに和子から話を聞く。

「評判悪くしてる例の一つで、ある女子が密かに思いを寄せてる男子がいるんですが、その男子も例に漏れず内田さんと結構仲良くしちゃう人で、内田さんも見せつけるようにその女子の前でイチャイチャするんです。それを見てたその女子の友達が激怒しちゃって……。」

 まだ恋愛経験のない那美恵も三千花も恋愛が絡む話となると年頃の女の子らしく、和子の話に興味津々で聞き入る。

「え〜、内田さんってその男子と付き合ってるの?」

 那美恵が尋ねると、和子は頭を横に振る。

「いえ。付き合ってるとかそういうわけではないみたいです。ただその子の友達からの話だと、その子の気持ちをどこかで知って、それでもてあそぶようにその男子と仲良くして見せつけてるんだって。内田さんの取り巻きの男子の中にその男子が入るようになったのって、その子が友達に気持ちを打ち明けて相談した後くらいから急になんだそうです。あまりにもタイミングがよすぎるって、勘ぐってるみたいなんだそうです。」

 

 和子でさえ、又聞きでしかない内田流留の恋愛与太話。那美恵は色々妄想しているようでふんふんと聞いているが、三千花は仔細を聞いて一蹴する。

「なにそれ。噂が噂を呼ぶじゃないけど、どこにも確かな要素ないじゃない。くっだらない。」

「でも直接内田さんと関わりがない私みたいな違うクラスの女子は、聞こえてくるそういう話だけでも近寄りたくない、関わりたくない、そういう印象の人なんです。」

 和子に対してではなく、その話自体に対して嫌悪感を三千花は湧き上がらせる。彼女の握るホースの先からは、勢いを増した水流が2〜3m先のプールの底面にビシャビシャと当たっている。

「どういうつもりで男子とつるんでるのか知らないけどさ、誤解を招くことようなことしてる内田さんが悪い。けど、きちんと確認せずに陰で噂するのもどうかと思うわ。それに毛内さんもそんな噂なんかでビクついてたらダメよ?」

「は、はい。それはわかってるんですけど……。」

「まーまー。みっちゃんそーいううわさ話や不真面目な関係やごちゃごちゃしたこと嫌いだもんねぇ。」

 

 那美恵の問いかけに言葉を出さずに三千花は微妙な頷きをし、親友に対して口を開いた。

「なみえだっておんなじようなもんでしょ。純愛至上主義なお調子者さん」

「ぶー!みっちゃんいじわる〜」

 デッキブラシで三千花を突こうとする那美恵にすかさずホースの水で反撃する三千花。

「きゃ!やったなぁ〜」

 

 

--

 

 和子から話を聞いてあれやこれや雑談しつつふざけつつも掃除を続ける3人。もちろん離れたところにいる三戸と流留たちには聞こえないように声のボリュームを下げる配慮をしている。

 

「ねぇなみえ。私さっき内田さんを艦娘に誘わないのって聞いたけど、やっぱ前言撤回。あの子はやめなさい。」

「およ?なんで?」

 那美恵と和子に対し背中を向け、二人とは違う方向にホースで水を巻き始める。二人に顔を見せずにいる三千花の眉間には皺が寄っている。そしてその理由を口にした。

「真意がどうであれ、ああいう良くない噂が立つ子は側にいさせるべきじゃないよ。」

「みっちゃん……。」

「私はなみえがああいう子とつるむのは……よくないと思う。なみえのためにならない。」

 

 三千花の背後でデッキブラシを持った那美恵と和子が黙って立っている。手の動きは止まっていて、掃除という行為をなしていない。

「みっちゃんさ、今自分が矛盾してるのわかってる?」

 那美恵の一言にくるりと体の向きを変えて振り向いた三千花。那美恵は口だけを笑いを含んだ、見透かしたような表情だ。

「今のみっちゃんはさ、みっちゃんが嫌ううわさ話で判断する人、そのものだよ。それになんであたしが内田さんを誘う前提なの?」

「!! いや……私は、あなたからそういう素振りを感じられたから……。」

「だから、なぁに?」

 

 那美恵から心を突くような一言。三千花は親友のその見透かしたような問いかけに怯んだ。その影響で右手に持ったホースの水はゆるやかな水流になっている。しばらくの沈黙のあと、三千花は照れ混じりに口を開いて白状した。

 

「確かに、そうね。私もあの子のうわさ話だけで判断しちゃってる。けどそれを承知で白状するわ。もし内田さんが艦娘部に入ったら、きっと取り巻きの男子も入ろうとするかもしれないし、そうなるとなみえ、あなたの目的が……」

 うつむき加減で言葉が途中で途切れる三千花。口を挟まずに三千花の次の言葉を待つ那美恵と和子。

「その……さ。あんたは孤立して、目的を果たせなくなって、内田さんと大勢の男子のためだけの部活になって、その……万が一にでもなみえが危ない目にあったらどうしようって……思ったのよ。」

 言い終わった三千花の視線は那美恵に向かいまっすぐ差している。2〜3秒の沈黙のあと、それを那美恵の笑い声が打ち破った。

 

「プッ!アハハ〜!みっちゃん!考えすぎぃ! いくらなんでも妄想広げ過ぎだよ〜。フフッ」

 その瞬間三千花は顔を赤らめて怒りながら那美恵に詰め寄る。

「ちょ!笑うことないじゃない!私は万が一のことも考えて心配してあげるのに!!」

「会長、さすがに笑うのはどうかと……」

 せっかく心配してくれた三千花のことを笑う那美恵に対しさすがに気まずく感じた和子は三千花の方を心配げにしてフォローに回った。

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「はーいはい。みっちゃんは優しいね〜そーいう心配してくれるところ、あたし好きだなぁ〜」

「勝手に言ってれば?ふん。」

 真面目に心配していた思いを笑われて三千花はプイッとソッポを向く。

「ゴメンねみっちゃん。心配してくれてありがと。この感謝はホントだよ?」

「会長も副会長も、与太話に影響されて喧嘩しないでください。」

「うん。わかってるよわこちゃん。みっちゃんが本気で怒ってたらあたしも手つけられないくらいだから。ま、でもみっちゃんには悪いけど、わこちゃんから話聞いて、内田さんのことちょっと興味湧いてきたなぁ。」

 

 そう那美恵が言うと、三千花は那美恵をキッと睨みつけた。

「だから怒んないでってば、みっちゃん。あたしもみっちゃんと同じくさ、内田さんをうわさ話だけであれこれ判断したくないんだって。もーちょっと彼女の情報手に入れてから艦娘部に勧誘するかどうかは決めるよ。」

「……なんで内田さんなの?うちら2年だし、ほとんど全く接点ないでしょ?なんでいきなり気になり始めてるのよ?」

 那美恵は腕を組んで冗談半分本気半分で悩む仕草をしてう〜んと唸ってから答えた。

「なんかね、さっき話しかけられたとき、ビビッと来たっていうのかな? 不思議な感じ。……とかなんとかかっこいいこと言っちゃうけど本音はね、せっかく今日会った新しい人だから一人でも多く艦娘のこと見てもらいたいってだけなんだけどね。全然深い意味ないよ。」

 

 三千花は那美恵の言い方に含みがあるのに気づいた。ただ那美恵が良く含ませて語るのをよく知る三千花はそれを頭の片隅に置いておくことにし、一言言うに留める。

「もーいいわ。なみえが誰勧誘しようが私がとやかく言う権利ないし。怒ってるわけじゃないけど、なみえの好きにやってみればいいよ。私はそれを見守るから。」

 事実、三千花の怒りはすでに収まっていた。親友が望んで作った部だから勧誘の方針に口出しはしない、本人の好きなようにやらせてみる、それを陰ながら支えていくことが自分の役目だと再認識している。

 

「わこちゃん、あとで内田さんのお話、知ってる限りでいいから教えてね。とりあえずうわさ話であってもあたしは知っておきたいんだ。お願いね。」

「はぁ。私が知ってることであれば。でもだったら三戸くんから聞いたほうがいいのでは?あの様子見ると、三戸くんも内田さんの取り巻きになってるっぽいですし。」

「まーそれはあるかも。じゃあ、あとで聞いてみよっと。」

 和子の返しを聞いた那美恵はグッとガッツポーズを作って相槌を打った。

「それはいいけどさ、掃除再開しましょうよ。私たちほとんど手止まってるし。」

 三千花の指摘に那美恵と和子はギクリと体をこわばらせる。掃除のカタチをすでになしていないこの現状はさすがにまずい。ブラシを動かし始めた三人あふと三戸たちの方を見ると、水を掛け合ったりデッキブラシでカチャカチャ遊んでいる光景がそこにあった。つまり、8人ともプール掃除なぞすでに放棄状態である。

 

 

--

 

 その後掃除のスピードアップを図った那美恵はプールの前方を終わらせ、長いホースを持つ三戸をプール中央に徐々に進ませてその周りをブラシがけする。

 中央、後方と一通りブラシがけし終わり、プールの汚れ・ゴミは左右の端に集められた。それらを後方から前方に向けて一気に掻いて前方の一箇所にかき集める。

 そこまでするのに30〜40分かかっていた。

 

「ふぃ〜。汚れとれたしゴミ完了〜。さ、三戸くん。このゴミ上げて。」

「えぇ〜俺がするんっすか〜」

「頑張れ男子!」

 那美恵が発破をかけると、流留もそのノリにノッて三戸や他の男子に指図する。

「あたしたちにドロッとした汚いの触らせるつもり〜? さ、○○君たちもはよ!」

 

 促された三戸以外の男子生徒もしぶしぶながらもゴミまとめとプールサイドへ揚げるのに取り掛かり始める。

 その間に那美恵たちはプールサイドへ上がり、ゴミ捨て用のビニール袋を持ってきて、三千花と和子に持たせてそこに男子がまとめあげたゴミを入れさせた。

 

「みんな、お疲れ様〜。内田さんたちもわざわざありがとうね!あなたたち学校にまだ残ってたんだ?」

「○○君の部活終わるの待ってたんです。って言っても一度学校出てお昼みんなで食べてた時に三戸君から連絡もらったもんで。○○君の部活もまだかかりそうだったらちょうどいいねってことで。だからぜーんぜん問題ないですよ。」

 カラッとした素直なしゃべり方の流留の言に那美恵はなるほど、と頷く。

 

「何かお礼したいな。何かごきぼーはある?」

「いいですってそんなの。欲言えばこれから遊ぶお金ほしいな〜とか。もちろん冗談ですけど。」

 流留たちは早く遊びに行きたいのか、那美恵のお礼の提案を本当に断り、足を洗い流したあと早々にプールから出ていった。なお、三戸もついていこうとしたが、展示の片付けもほどほどにプール掃除に来てしまっていたため、 那美恵たちに首根っこを掴まれるかのごとく止められた。

 視聴覚室に戻った4人は展示の片付けの残りを進めた。20分くらいかかった後、展示もようやく片付いていつもどおりの視聴覚室が眼前に広がる。4人は荷物を置いてある生徒会室に行きやっと一息ついた。

 

「さて、じゃあ俺みんな待たせてるんで、帰るっす。じゃあお先に失礼しま〜す。」

 と言って素早く出ていこうとする三戸を那美恵は再び呼び止めた。

「ちょっと待って三戸くん!聞きたいことあるの。内田さんのことなんだけど、来週でいいから彼女のこと三戸くんたち男子の視点からいろいろ教えて欲しいの。いいかな?」

 那美恵の突然のお願いに戸惑う三戸だが、特に断る理由もなかった彼は一言で了承し、生徒会室から出て帰っていった。

 

「これで下準備おっけーかな。」

「ねぇなみえ。ホントに内田さん誘うの……?」

 那美恵の言葉に反応した三千花はさきほどの心配を思い出して確認した。

「心配しないでって。とりあえず情報収集だよ。あとはまぁ、流れ次第かな。」

 那美恵は三千花の気遣いを十分わかっていたが、ピンとキたもの・人に対してはどうしても興味を持ちたくなる性分なのだ。だが今はまだ、親友への配慮の気持ちのほうが優る。

 三千花は親友の物言いにため息をつくしかなかった。

 

「さーて、そろそろ帰ろ? 今日はわこちゃんも一緒に帰れる?」

 気持ちを切り替えて那美恵は帰り支度と帰り道の提案をする。三千花も親友に合わせて気持ちを切り替えて頷いた。

「はい。今日はご一緒できます。」

「よーし。じゃあ三人で帰り甘いもの食べてこー!」

 和子も那美恵の提案を承諾し、すべての用事を済ませた3人は15時に近くなった時間にようやく学校を出ることが出来た。3人ともが持った共通の思いは、長い土曜日だったという感想であった。

 

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--- 4 気になる少女のこと

 

 

 週が明けた月曜日。昼休みの時間帯、那美恵は三千花と一緒に生徒会室で昼食を進めていた。そこにノックをして入ってきた人物が一人。

 生徒会書記の一人、三戸である。

 

「あ、会長、副会長。こんにちはっす。」

 那美恵は一口お茶を飲んで、口に含んだ食べ物を飲み込んだのち三戸に返事をする。三千花は“ん”とだけ発して、箸を持っていない方の手を揚げてそれを返事をする。

「三戸くん。どしたの?」

「会長、内田さんのこと知りたいって先週言ってましたよね?だから伝えに来たっす。」

「あ〜そういやそんなお願いしてたね。今の今まですっかり忘れたよ〜。」

 左掌にげんこつにぎった右手でポンと叩き、わざとらしく思い出した仕草をする。

「今いいっすか?」

「今私達食事中なんだけど?」

 三戸の確認の問いかけにネチッとした言い方で答えたのは三千花だ。眉間にしわを寄せて眼光鋭くして三戸に言い放つ。

「まーまー。あたしは別にいいよ?」

「私が嫌なの。食べてる時にああいう子の話なんて聞きたくない。」

 

 正反対の反応を目の当たりにし、三戸は戸惑いを隠せないでいる。二人の異なる反応を目の当たりにして話していいのかどうか戸惑っている。

「えーと、副会長、なんか内田さんのこと、えらく嫌ってる……ので?」

「まぁね〜。みっちゃんはだらしない人嫌うからねぇ。ホラホラみっちゃん。噂を信じちゃいけないよ〜。ちゃんと男子からも聞いておかないと。意外に良い人かもしれないって。さ、三戸くん。遠慮なく話してくれていいよ。」

「はい。それじゃ……」

 那美恵は三戸から、内田流留のことについて、実際に彼女に接する男子視点での彼女について聞くことにした。なお、那美恵の側にいる三千花は私は聞く気ないですよという意思表示代わりのだんまりを決め込んで黙々と食事を続けている。

 

 

--

 

 三戸が話す、男子視点からの内田流留の素性。それを那美恵はゆっくりと聞き出す。

「じゃあまずは、内田さんのスリーサイズから!」

「……マ、マジで?」

 いきなりとんでもない質問が目の前の少女の口から飛び出してきたので三戸は驚きのあまり聞き返した。三戸のオロオロした様にニンマリとした表情だけで返事を示す那美恵。

「じ、冗談っすよね〜そうっすよね〜! それに俺が知ってたら激烈に大問題だし。」

「ゴ〜メンゴメン。」

 横で那美恵のふざけた質問を聞いてた三千花は、男子にそういうこと聞くなと鋭くツッコんだ。

 

「じゃあ内田さんと男子が一緒につるんでるのはなんで?」

「つるむっつうか、内田さんとは単純に趣味の話が合うんっすよ。だから普通に内田さんに近寄る男は多いっすよ。」

「趣味?」

 那美恵は一言で聞き返す。

「はい。彼女、ゲームも漫画やアニメもスポーツも見るしやるし、とにかく趣味が男っぽいんですよ。だから俺達の話によく首突っ込んでくるんっす。話が合うから楽っていうか、俺達も自然と内田さんを受け入れちゃうんっすよ。で、気がついたら内田さんとこに男子生徒が集まってるっというわけ。」

 

 そういう三戸の答えに少し疑問を持つ那美恵。

「そういうのって別に男っぽいって言わなくない?あたしもみっちゃんもスポーツはもちろん漫画やゲームも少しは見るしやるよ。ね、みっちゃん。」

 那美恵の言葉に三千花は声を出さずにコクリと頷く。三戸はそれの反論を受けていやいやと頭と手を振る。

「いやいや、内容が男が見るような少年漫画やゲームばかりなんっす。例えば会長たち、○○○○っていうゲーム知ってます?××っていう漫画は?」

 そんなのしらん、とばかりに那美恵と三千花は首を横に振る。それらはこの時代の男性の間ではよく知られ、遊ばれている作品である。女性はというと男兄弟のいるのであれば影響されて見るかもしれない、特に女子高生にとってはその程度のものである。

 

「趣味の内容がってことね。なるほどー。それじゃあ男子が話しやすいわけだ。」

「でも、本当にそれだけなの?三戸君たちが彼女と接するのって。」

 三千花が疑問を投げかける。

「あれ〜?みっちゃん実は気になってたんd「うっさい。」

 那美恵が言い終わる前に三千花は一言突っ込んで那美恵をいじけさせた。三千花の質問を受けて三戸はその意図がよくわからず聞き返す。

「ん?どうしたんすか?」

「土曜日ちょっと見ただけだけど、内田さん結構綺麗な子だったでしょ。それでなおかつ趣味が合うなら、絶対言い寄る男子がいそうな気がするの。そういう恋愛がらみでってこと。どう?」

 

 三千花から補足説明を受けて三戸は顎を親指で抑えて考える仕草をして、そののち答えた。

「あー。まぁぶっちゃけみんな内田さん目当てだと思いますよ。いくら話が合って男勝りな感じって言ってもやっぱ女の子相手ですし。普通だったら男同士でくっちゃべってますもん。」

「だから三戸くんも他の男子みたいに内田さんとよく一緒にいるんだぁ〜」

「そういや三戸君が内田さん連れてきたんだよね。ということは集団の中では仲良いほう?」

 見透かしたように那美恵は三戸に一声切り込んでみた。続いて三千花も気になってきたのか、三戸に鋭く切り込む。二人の口撃に対し照れと焦りが混じった表情で顔を赤らめつつ、三戸は二人に弁解した。

「いやいや!俺はただ男の友人にプール掃除のこと話したら、たまたま内田さんが一緒にいたみたいで。まあ俺もそれなりに内田さんと話しますけどぉ!くぁwせdrftgyふじこlp@」

 語尾がモゴモゴとよくわからない言葉を喚いて言い訳とする三戸。焦るその様子を見て那美恵と三千花はクスクスと笑いあう。

「照れちゃって〜三戸くんかわいいな〜」あくまでからかう言い方の那美恵。

「俺はぁ、光主那美恵さんと中村三千花さんが好きなんですよ〜(キリッ)」

 

 三戸もただで済ます気はなく、那美恵と三千花という生徒会のトップ2に反撃を試みた。二人が昼食で使用している机の中央付近に右腰を寄りかけ、わざとらしく目を細めて那美恵と三千花に流し目を送る。

 が、学校でもトップクラスの強者の那美恵とその友人には冗談めいた告白や誂いからかいなんぞ全く通用しないのは明白だった。

 ただ、いきなりフルネームで呼ばれて那美恵と三千花はきょとんとした程度で、再び失笑で一瞬の沈黙を破る。

「ウフフ。はいはい。三戸くんは私達のことが好きなんだよね〜わかってる。わかってるよ〜」

「私達二人同時なんて、三戸君そんなキモの座った人だったんだ(笑)」

 三千花からも自然な笑みがこぼれた。那美恵も三戸も珍しいと感じる、三千花の感情である。三戸は、意図せず結果的につかみはOKな状態だった。

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--

 

「それじゃ次の質問。いい?」

「ふぅ……。はい。いいっすよ。」

 3人共気を取り直す。

 

「内田さんに兄弟姉妹はいるのかな?」

「さぁ〜。少なくとも俺は内田さんの家のこととかはまったく話す機会ないっすからねぇ。俺は、ないっすけど、多分他の連中なら話したことあるやついるんじゃないっすかねぇ。」

「わかったわかった。強調しなくていいからw そこは本人にいずれ聞けばいいことかな。ともかく、内田さんは男子と趣味が似通っていると。そこがポイントなのね。つまり、1年女子が噂してるようなことは男子代表の三戸くんから聞く限りでは見えてこないわけだ。うんうん。なるほど。」

 

 一人で納得した様子の那美恵を見て三戸は女子の噂って?とよくわかっていない表情で聞き返すが、那美恵は女子の間柄のことだからと、三戸に教えなかった。

 那美恵は三千花の方を向いて彼女の反応を待つ。それにすぐに気づいた三千花は音の高い咳払いを軽くして、那美恵に言った。

「なぜ私を見るのよ?」

「いや〜みっちゃんの内田さんへの印象変わったかなぁ〜って。」

「まぁ……男子視点からの彼女を知って多少はね。でも女子視点の内田さんの話が気になるわね。」

「それは言えるね。どこまでいっても男子と女子は分かり合えないところ、あるのかなぁ〜?」

 両手を頬に添えて、偽りの照れ顔をして冗談めかして言う。

 

「……で、なみえがそれを知ってどうするのか教えてよ。それによっては私達の手伝い方も変える必要があるよ。」

 那美恵は三千花の言葉を受け、少し考えるために沈黙する。時間を確認するとすでに12時45分を回っている。そろそろ教室に戻る頃合いである。

「よし。作戦思いついた。三戸くん、男子が知ってるゲームでさ、例えばプレイする人がヒーローやヒロインに変身して戦うゲームで有名なのって何がある?」

 唐突な質問を受けて、三戸は腕を組んでうーんと唸った後、思い出した中でいくつかのゲームのタイトル名を口にしてみる。が、もちろん那美恵と三千花からしてみると何言ってんだこいつと突っ込みたくなるくらいわからない作品ばかりである。が、那美恵にとってはそれは問題ではない。

 

「……っていうくらいっすかね。」

「わかんないけどわかった〜。」

 三戸の挙げた例に素直に感想をいいつつ相槌をうつ那美恵。

「ゲームのことなんて聞いてどうするの?」

 三千花が二人の方を、主に那美恵の方を見て尋ねた。

 

「うん。好きそうなゲームになぞらえてさ、艦娘の展示や艦娘に興味を持ってもらうのってどうかなって思ってさ。」

「ゲームに?」三千花が聞き返した。

「そーそー。どんな形にせよ興味を持ってもらわないと始まらないからさ。」

 那美恵の考えていることに三戸はピンと来た様子。那美恵が説明する内容を聞いてそれは確信を得た。

「そういうことっすか!だったら任せて下さい。なんとか宣伝してみます。内田さん、多分興味持ったらすぐに来ると思いますよ。」

「お、三戸くんやる気ぃ!いいねいいね〜。じゃあ任せたよ。」

 那美恵は三戸にあとは任せたという気持ちを込めたウィンクをする。

 

 その後一通り話し終えた三戸は一足先に生徒会室を出ていった。生徒会室には那美恵と三千花だけが残る。三千花は親友に内田流留を気にかけるその意図を聞きたかった。

「なみえ、この前も聞いたけどさ、なんで内田さんを急にそんなに気にするのよ?」

 時間も時間だったので、弁当箱を片付けつつ、二人は会話をする。

「あの時言ったのはどっちもホントだよ。ビビッと来たのもホントだし、単純に艦娘の展示を見てもらえる人を増やしたいってのも。それに第三者からだけど話を聞く限りだと、影響力高そうな人だから、そういう人を味方につければいいかなって。」

「影響力があるって……彼女は男子だけよ。女子からは噂の限りだと誤解を受けてるから、それを解決して女子にも影響与えるのは私達の手じゃ厳しいよ。人生相談でもないしお悩み相談するわけでもないんだから。」

 生徒会室を出て鍵を締める。そして教室に向けて歩きながら会話を続ける那美恵と三千花。

 

「そりゃああたしも内田さんの誤解を解いてどうのこうのまで面倒見る気はさらさらないよ。そんなことあたし興味ないし。彼女が艦娘に興味を持ってくれれば、それでいいよ。」

「……うん。それでこそなみえだわ。私はてっきりあんたが相当深く内田さんに思い入れてるのかと思ったけど。」

 三千花の自身への評価に那美恵はエヘヘと苦笑した。

 

 そんな親友の様子を見て三千花は密かに別のことも思っていた。

 親友にとって、あの西脇提督が大いに興味を引く存在だというのは理解できた。だからこそ親友は彼をこれからも支えていくのだろう。一方で、内田流留という少女はどうだ?

 親友は彼女に興味を持ち始めている。ビビッとキたといういわゆるフィーリングが本当に合ったとなれば、いずれ西脇提督に対してと同じように彼女に尽くそうとするだろう。一方で興味を完全に失ったら見向きもしない。親友たる光主那美恵はそういう人間なのだ。

 自分は二人をどう間を取り持つべきか。どちらが本当に親友にとって良いことなんだろうか。

 

 那美恵自身もまだ完全に振りきれてないが、三千花もまた、どう振る舞うべきか考えあぐねていた。

 

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--- 5 艦娘になってしまった少女

 

 

 その日、内田流留はいつものように休み時間には同じクラスの仲の良い男子生徒たちと、昨日のテレビがどうの、最近プレイしたゲームはどうの、好きなプロサッカーチームの試合がどうだっただのペチャクチャと話していた。そうして気の置けない男子とおしゃべりをしている時間は、彼女にとっては空気を吸うかのように自然で気楽に過ごせる時間である。

 彼女にとって、同性つまり女子同士のおしゃべりや交流は退屈そのもの、面倒くさい人間関係を考慮しなければいけないので窮屈だった。趣味が合えば話さないこともないが、そんな女子はいた試しがなかったので極力かかわらないようにしている。その点男子生徒は、気軽に趣味のバカ話だけでどこまでも接することできるし、流留を受け入れてくれる。相手がどう思っているかは彼女にとって関係ない。あくまでも自分が楽しくて、自分を受け入れてくれる関係がそこにあればいい。

 

 成績はよくないが身体を動かすこと、スポーツは見るだけでなくやるのも好きで得意な彼女は、部には入っていないが、応援と称して仲の良い男子生徒の助っ人として臨時で入って参加することもしばしばある。趣味の話が合うだけでなく、そうした助けを求めてくる生徒を助けてあげる飾らない素直な行為は、男子生徒たちの心を掴むようになっていた。助けるのはあくまでも気の合う生徒たちである。

 それゆえ男勝りな娘だとかサバサバしてるなどと評価されることがある。が、決して男子そのものの立ち居振る舞いというわけではなく、女であるのでそれなりにオシャレにも興味はあるし、人に不快に思われない程度には身だしなみには気をつける。しかし必要以上のオシャレはしない。そうして取捨選択したオシャレが結果的には他人から見るとセンスが良いという評価をくだされることもある。

 が、あくまで流留としては必要以上の女性らしさを演出したりはしない。

 

 彼女を巡っては女子生徒・男子生徒の間で思いのすれ違いや一悶着があるのだが、流留は気にしないし、そもそもそういうのに疎いので気がつかない。そういう鈍感さが彼女の見えないところで多々問題を起こしているのだが、彼女がそれを知る由もない。

 

 

--

 

 午前の授業が終わりお昼。いつも彼女は仲の良い男子生徒たちと学食に行き、お弁当を買って教室に戻ってきて食べる。教室には他の派閥的なグループもあるが、表面上は互いに気にしていない空気がある。

 

 流留は数人の男子生徒と会話を楽しみながら食事をする。話題はサッカーなどスポーツだ。

「……でさ〜その新しく入った○○選手、あたしは最近注目してるんだよね〜。Aくんはどう?」

「あ〜その選手いいよね。俺は××選手もいいと思うけど。」と男子生徒B。

「俺もその選手に最近注目してるぜ。その人、前は△△っていうチームでMVP取ったんだけど、内田さん知ってる?」

 男子生徒Bはそれなりの反応を返す。一方で同意を求められた男子生徒Aは流留の気をさらに引くために追加情報を教えた。

「えー!?マジで?ねぇねぇ!その試合見たかったなぁ〜」

 流留の反応を見て、これはイケると思ったのか男子生徒Aはさらに情報を口にする。

「俺その試合録画して持ってるからさ、今度内田さんに共有するよ。○○Driveのアカウント持ってる?」

「うん。」

「そしたらそこに動画アップしておくからぜひ見てみてよ。」

「Aくん、ありがとー!」

 流留はきりっとした目を笑みで緩ませてはにかみ、男子生徒Aに礼を言った。男子生徒Aは流留の気を引けたことでBに対してさりげないドヤ顔で誇った。

 昼食を取りながら雑談に興じる流留と男子生徒たち。そんなお昼休みの光景であった。

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--

 

 次の授業が終わり、流留が別のクラスの男子生徒と話そうと教室を出て向かおうとする途中、一人の男子生徒から話しかけられた。違うクラスだが、彼女が接する男子生徒の中ではそれなりに交流のある、三戸基助だ。

 

「あ、内田さん。今いい?」

「ん? あぁ三戸くん? なぁに、どうしたの?」

「うん。実はさ、内田さんに話したいことがあってさ。今時間いい?」

 これから別の男子生徒のところに向かう途中ではあったが、別にその男子生徒と約束を取り付けていたわけでもなく、休み時間を潰せるだけの時間を取れるなら誰でもいいと流留は思っていたため、三戸の話を聞くことにした。

 二人はお互いのクラスの教室から少し離れたところの、階段の向かいの窓際に寄り添って話をすることにした。同じ1年生の生徒はもちろん、たまに上級生も近くを通る場所だが、二人とも気にしない。

 

 

「そういやこの前のプール掃除は手伝ってくれてありがとう。内田さんたちが来てくれたおかげで早く終わったよ。会長たちも喜んでたよ。」

「あ〜。どういたしまして。」

 会話の潤滑油代わりに最初に一言感謝の言葉を述べた後に、三戸は本題を切り出した。

 

「ところでさ、内田さんは艦娘って知ってる?」

「艦娘?ううん。名前は聞いたことあるけど全然わかんない。それがどうしたの?」

「俺さ、会長……立場上は生徒会長としてじゃないけど、とにかく会長が艦娘部というのを作ったから、その宣伝に協力してるんだ。」

 流留は三戸からの誘いの言葉を聞いて、先日プール掃除の時、全員の音頭を取っていた光主那美恵という2年生の先輩のことを思い出した。おかしな格好をしていた人だと。あれはコスプレなのだろうかとその程度しか気にかけてなかったが彼女にしては珍しく、なんとなく気を引かれた同性である。

 

「あ〜もしかしてプール掃除の時にいた変なカッコしてた生徒会長だよね。あの人が?」

「うん。それで勧誘のために展示を見に来てくれる人を増やしてるんだよね。それでもしよかったら内田さんにも艦娘部の展示を見に来てほしいと思ってさ。どうかな?」

 流留は艦娘のことは全然わからないので特段興味があるともないとも言えず答えようがなかったので、うーんと言葉を濁す。よくわからないがなんとなく気にはなるので三戸の更なる説明を聞くことにした。

 

「俺一度会長やその艦娘の人たちのこと見たんだけど、艦娘ってさ、○○っていうゲームみたいに普通の人間がヒロインになって戦う感じなんだ。まさにそのゲームが現実になったようだったよ。すげーとしかもう表現出来なかったもん。」

 一度プレイして前にハマったことがあるゲームの名が出てきたので流留は少し気になった。

「え〜そんなゲームみたいなのが?ホントかな〜?」

「マジマジ。内田さんなら展示見るだけでも絶対楽しめると思うんだよね。どう?放課後視聴覚室で俺たち展示をしてるからさ、もし気になったら来てみてよ。動画もあるし、艦娘が使う装備も展示してるからかなり参考になると思うんだ。」

 三戸とはそれほど熱く話すことはなく、接する多くの男子生徒のうちの一人だったが、曲がりなりにも生徒会に身を置く人物。他の男子生徒よりかは信頼できるとふんだ流留は、その現実離れしたゲームような現実の存在が気になり始めたので、うんと返事をして三戸の話に乗ることにした。

 

「OK!しばらくは放課後毎日展示してるから、いつ来てくれてもいいよ。」

「せっかくだから今日行くよ。どーせいつも○○くんや△△くんたちとしゃべって帰るだけだし、特に用事もないから。あたし手ぶらで行っていいの?何か持ってくものある?」

「いんや。普通に来ていいよ。じゃあよろしく。」

 会話と言いつつも自分のお願いだけしていき、三戸は自分の教室に戻っていった。流留は窓際に一人きりになる。

 

((艦娘かぁ。ま、見るだけ見てみよっと。))

 その後彼女は教室に戻り、残りの休み時間を別の男子生徒と雑談して時間を潰すことにした。

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 放課後、すぐさま教室を出て帰る者、教室に残って雑談し続ける者、部活に行く者と、生徒たちの行動は様々である。那美恵と三千花は艦娘部の展示のため、生徒会室に向かうために教室を出た。1年生である三戸と和子も、お互い違うクラスながら同じように生徒会室へ向かう。

 その頃、1年生の流留は教室に残って数人の男子生徒と雑談をしばらくしていたが、用事があると言って男子生徒の輪の中から一人離脱して、あるところへ足を運んだ。

 

 那美恵たちは4人揃ったところで、先週までと同様にパネルや資料、そして川内の艤装を運び出して視聴覚室へ向かった。土曜日の艤装のデモを行なったおかげか、視聴覚室前には数人がすでに展示の開始を待っている。それを見た那美恵と三千花はひそかに手を合わせて喜びを表し合った。

 展示見学者をひとまず外で待たせ、那美恵たちは急いで展示の設置を始めた。

「いや〜まさかの効果ですよ、みっちゃんさん。」

「ホントよね。百聞は一見にしかずってことね。デモやってよかったじゃない!」

 パネルや資料を並べつつ二人は話す。それを視聴覚室の仕切りを動かしつつ聞いていた三戸が会話に入り込む。

「俺も会長の艤装デモ見たかったなぁ〜会長の麗しい姿を一目見られたらなぁ。」

「私も見たかったです。」

 三戸に続いて和子も実は思うところは同じらしく、希望してくる。そんな書記の二人の様を見て那美恵は苦笑しつつ、二人を慰めつつ提案した。

 

「また近いうちにやったげるから、その時は一緒にね!」

「私と四ツ原先生だけ見る形になって、二人にはなんか申し訳ないことしたわね。」

 三千花は肩をすくめつつ言い、三戸と和子に謝った。

「いえ、気にしないでください。私達は鎮守府で一度しっかり見てますから。」

 そう言って和子は副会長の三千花をフォローする。

「じゃあ次やるときこそみっちゃんに艤装つけて動いてもらおー。」

「……あんた、あの時私に艦娘になってほしくないって言ったの嘘なの?」

「もちろんホントだよ〜。でもちょっと試すだけならいいでしょ?ね?ね?」

 親友のどうしてもやらせたい欲求バリバリの言い方を聞いて、三千花は半分諦めた。一度従ってやってみれば那美恵の気が収まるかもしれない。三千花は肯定とも否定ともつかない曖昧な返事で那美恵の反応を受け流すことにした。

 展示の準備が終わり、その日の展示がスタートした。

 

 

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 先週よりも大盛況っぷりに那美恵たち4人は驚いたが、それぞれ役割を決めていたのでいつもどおり見学者を捌く。そして先週までと違ったのは、艤装の同調を試したいという生徒がいたことだ。その日は結果10数人来て、4人同調を試した。

 いずれの生徒も合格水準の同調率を出せなかったが一人だけ、合格レベルの生徒がいた。

 

 放課後の1時間少々ではあるが、10数人の見学者が来て、それぞれ思い思いに艦娘のことを見聞きして帰っていった。那美恵と三千花による説明も回数を繰り返して慣れてきたのか、わかりやすさと説明のスピードが安定して、誰が聞いてもある程度分かってもらえる口調になっていた。艦娘である那美恵はもちろんのこと、艦娘でない三千花もあたかも自分が艦娘であるかのように熱を込めて説明をする。

 表で案内役をしていた三戸は、日中に流留を誘ったことを思い出していた。彼女は(男)友達が多いし、なんだかんだで都合があって今日は来られなかったのだろうと。会長である那美恵に任せてくださいと大見えきったはいいが、目的の生徒に来てもらえないのは(那美恵も三千花もそんなことは気にしない性格なのは三戸自身もわかってはいたが)少々気まずく感じる。

 展示を締め切る10分前。厳密な時間ではないしその時間に先生が来るわけではないが、一応借りている時間はその時間までなので、生徒会自ら破る訳にはいかない。見学者の大半がいなくなり、視聴覚室付近は静かになった。和子は艤装デモや資料配布の手伝いのため視聴覚室におり、廊下には三戸しかいない。三戸は大きく背伸びをし、自分も視聴覚室に入ってそろそろ展示片付けの準備を手伝おうかと思って扉の方に方向転換したとき、少し離れた階段の辺りから一人の女子生徒が小走りで近づいてきているのに気づいた。

 内田流留である。

 

 流留は少し息を切らしており、三戸の前で胸に手を当てて呼吸を整えた後ようやく口を開いた。

「ゴメンゴメン、遅れて!もう展示終わっちゃった?」

「いいや。ギリギリだけどまだやってるよ。そんな走ってくることないのに。どうしたの?」

 三戸は、小走りではそこまで息切れしないだろうとなんとなく違和感があったので彼女に尋ねてみた。が、流留はちょっとねと言葉を濁すだけで、三戸にそれ以上の説明をしようとしない。三戸もそれ以上は聞く気はなく、すぐに思考を切り替える。

「じゃあ、中見ていく?今なら他の見学する人いないからゆっくりできるよ。」

「OK〜。じゃあ三戸くんも一緒に来て。どうせもう人来ないんでしょ?」

 流留から見学の付き添いをお願いされて、本人的には内心鼻の下が少し伸びた状態な気持ちになって、快く承諾して二人で視聴覚室に入った。

 

 視聴覚室に入った三戸は那美恵たちに声をかけた。

「会長、次の見学者の方っす。」

「こんちはー」と流留。

「こんにちは〜。あ!あなたは確か……内田さんだったよね?」

 那美恵は自分が三戸づてに来るように催促してはいたが、そんな素振りは一切感じさせず、今初めて来てくれたのに気づいたというふうに振る舞う。当然そんな策略なぞ流留が気づくわけがない。

 

「内田さん、艦娘に興味あるの?」那美恵は入って早々の流留に尋ねる。

「うーん。よくわからないんですけど、三戸くんに誘われて、なんだか面白そうだから見るだけみてみようかなって。」

 流留自身の興味のレベルはそう大して変わっていない様子が伺えた。誘われたから来たということは、少なからず揺れ動いたのだろうと那美恵は想像してみる。早速那美恵は流留に直接説明することにした。

「おっけ〜じゃああたしが説明してあげる!」

「よろしくお願いしまーす、会長。」

「内田さ〜ん?今のあたしは生徒会長じゃなくて、艦娘部部員の光主那美恵なんで、そこんところよろしくね〜。」

 流留が何気なく言った会長という言葉を頭をブンブンと振って那美恵は否定する。

「へ?あぁ……はぁ。」

 流留は生徒会長である那美恵のことをほとんど知らなかったので、そのずいぶん砕けた感じに少し戸惑いを隠せない様子を見せて適当な相槌を打った。

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 那美恵が説明し紹介する艦娘の内容に、流留は驚きを隠せないでいた。あっけにとられるその様は、口が半開きになっていた。

「……でね、あたしは隣の鎮守府の天龍って人たちと大きな深海凄艦を倒したんだ。」

 那美恵の説明の後半は彼女の体験談だったが、流留は説明のほとんどが耳を右から左へ素通りして抜けていくような状態に陥っていた。近くにいた三戸の言葉によるとゲームのようなことが現実に起こる仕事場とのことだったが、本当にそんなわけが……と最初こそ疑っていた。しかし那美恵の説明を聞くうちに疑う気も失せるほどの内容が流留の視覚・聴覚などの感覚に飛び込んできた。

 流留は「ホントだったらやってみたいねぇ」などと冗談混じりに軽く考えていたのだが、実際に目の当たりにすると人間の心理的な流れなのか、その気は収縮してしまう。

 

 そんな呆けた様子の流留のことが気になったのか、那美恵は説明を一旦中断して彼女の状態を確認した。

「ねぇ、内田さん?どーしたの?」

「へ!? え? あー、その……なんか現実離れしすぎて頭が真っ白に。」

 流留は左手で頭を抱えるように額を抑えて、戸惑う様子をその場にいた全員に見せている。

「うんうん。わかるよ。最初はそうなるよね〜」

 あっけらかんと言う那美恵に三千花は突っ込んだ。

「あんたは絶対戸惑ってないでしょ。私達もそりゃ驚いたけど、なみえっていう良くも悪くもすごい例がいたから感覚が鈍ってただけでさ。内田さんの反応こそが一般の人の反応よ。」

「いやいや。あたしだって最初は戸惑ったよ〜。そりゃもう脱兎のごとく!だよぉ〜」

 那美恵は冗談とも本当ともつかない言い方で自身の時の経験を語る。三千花は親友の言が、半分はその場の空気を和ませるための冗談だと察していたので必要以上のツッコミは野暮として、一言で終わらせた。

「はいはい。言ってなさいな。」

 

 今の流留にとっては、那美恵と三千花、つまり生徒会長と副会長の妙に親しげなやりとりさえ気にならないほど、ここの展示の内容で受けた衝撃を収められないでいる。この人たちはこんな現実離れした出来事を本気で平気で受け止められているのか。こんなことを本気でこの高校で広めようとしているのか。ありえない。ついていけない。

 流留は今まで、楽しければそれでいいと適当に過ごしてきた。勉強は苦手で成績は並だが、ルックスや運動神経には自信がある。別にそれを笠に着てるわけではないが。彼女の生き方の根底にあるのは日常生活。そしてその延長線上。その生活を崩したくない。いくら艦娘がゲームみたいに振る舞えて楽しく活動できたとしても、日常生活から逸脱した世界に足を踏み入れてまでしたくないと思っている。

 このままこの場にいたら、艦娘にさせられてしまうんだろうか。ふと彼女の脳裏にそんな心配がよぎる。

 

 流留が呆けていると、那美恵は次の説明をし始めた。

「まぁびっくりするのは仕方ないよね。けど現実にこういうことがあって、あたしや内田さんたち、一般人の日常生活を密かに守っている人たちがいるというのだけは、頭の片隅にでも置いておいてもらえると、嬉しいな。」

「はぁ……。はい。それはわかりました。」

「でね。内田さんがもし冷静になった後も艦娘に興味があるなら、一緒に艦娘やってほしいんだ。」

 

 来た。

 

 流留はそう思った。しかし彼女が口を挟む前に那美恵が言葉を続ける。

「でもね、艦娘が装備する艤装っていう機械があるんだけど、艦娘になるには同調っていって、それと相性がよくないと艦娘になれないんだ。だからなりたい!って言っても艦娘になれるわけじゃないし、気が乗らない〜って人が実は相性バッチリで艦娘になる素質あったりと、誰もが必ずなれるわけじゃないの。だからあたしはこの学校で一人でも多くの生徒に同調を試してもらって、艦娘になってもいいって人を探しているんだ。でね、よかったら内田さんにも、同調を試してもらいたいの。どう?」

 誰でもなれるわけではない。流留はその一言で安心感を得た。そしてその安心感は、一つの返事を生み出した。

「まぁ、試すだけなら……。」

 流留のその一言を聞いて那美恵の表情はパァッと明るさを増す。

「よ〜しっ!じゃあ三戸くん、一名様を川内の艤装の間に案内して〜!」

「よろこんで〜」

 那美恵は飲み屋の店員のような軽いノリで三戸に指示を出した。三戸も似たノリで那美恵の指示に従い、流留を案内させた。

 

 

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「内田さん、こっち。こっち来てくれる?」

 三戸を先頭に、流留、その後ろに那美恵と三千花が続く。

 川内の艤装を置いてある視聴覚室の区画は展示の区画より小さめに仕切られており、5〜6人が入るともう限界の広さだ。区画の中央には、机の上に置かれた川内の艤装が静かに佇んでいる。

「さ、これが艦娘が身に付ける、艤装っていう機械だよ。」

 前に出て一言紹介したのは那美恵だ。流留は、そう言って紹介された艤装を見て、現実離れした存在である艦娘のことを、ようやく現実のものとして受け止めようという気になった。

「これが……艦娘の。」

「そ。じゃあ早速つけてみる?」

 コクリと頷いた流留の意思を確認した後、那美恵は川内の艤装のベルトとコア部分の機器を手に取り、流留の腰に手を回して装備させる。近くにいた三千花は少し駆け足で展示の部屋に戻り、艤装のリモート接続用のアプリを入れたタブレットを手にとって再び那美恵達の前に来た。その間、那美恵は流留に注意事項を小声で教える。

「もし同調できちゃったときにはね、……シたときと同じような恥ずかしい気持ちよさを感じちゃうかもしれないから、気をつけようがないけど心構えだけはしっかりね。裏を返せば感じちゃったら、内田さんは同調できたってことだから。自分でも判断つくと思う。」

 生徒会長の口からとんでもない言葉を聞いた流留は思わずそれを大声で復唱しようとした。が、それを那美恵と三千花に全力で制止された。

「オ、○ナ……っ!? フゴッ」

「わーわー!口に出したらいけませーん!」

「ちょ!ちょっと内田さん!男子もいるんだから!!」

 

 そばにいた三戸はポカーンとしている。当然なんのことだかわかっていない。艤装を試させるときは必ず那美恵と三千花の二人が担当していたため、三戸はさきほどの那美恵のノリに乗って入ってきたとはいえ、初めて誰かが艤装を試すその場に立ち会うのだ。

「……わかりました。確かに気をつけようがないですね……。」

 全然まったく関係ないところで恥ずかしい言葉が出てきたことに流留は驚いたがひとまず平静を取り戻し、その後教えられた同調の仕方を頭の中でじっくり何度もシミュレーションし始める。

「同調始めてもよさそうだったら声かけてね。電源はみっちゃんがリモートでオンにするから。そしたら教えたとおりにしてみてね。」

 那美恵が最終確認を含めた説明をした。その後、その場にはしばしの静寂が漂う。

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 流留は教えられたとおりに心を無にして落ち着かせる。心をからっぽにとはいうが易し行うは難しだ、と自身にしては柄にもない高尚な表現を頭の中で反芻していた。からっぽになったと心に思わせて無にしてみることにした。

 心の準備ができた流留は那美恵に合図をした。

「いいですよ。お願いします。」

 流留の言葉を聞いて那美恵は三千花の方を見る。流留の言葉は当然近くにいた三千花の耳にも入っていたので、那美恵と目配せをしたのち、三千花は手に持っていたタブレットのアプリの画面にて、川内の艤装の電源をオンにした。

 

ドクン

 

 流留は腰のあたりから二方向に電撃のようなものがほとばしるのを感じた。一つは頭の先へと、もう一つは下半身を通りすぎて足の指まで。那美恵の言ったとおりの感覚を得た。確かに似ており、気を抜くと高校生にもかかわらず、側に男子がいるにもかかわらず、粗相をしてしまいかねない感じだった。しかし流留はその感覚を必死に我慢する。

 その感覚がようやく収まったと思ったら、次は全身のありとあらゆる関節がギシッと痛み、よろけて片膝立ちになりかける。流留が完全に倒れこむ前にすぐ近くにいた那美恵は彼女の肩口を支えてあげるために近寄った。流留はというと、関節の痛みが収まると頭のてっぺんから踵までを、ひんやりして冷たく細長い鉄の棒を埋め込まれたような不思議な安定感を覚える。

 そして最後、流留の脳裏には突然何かの情景が大量に流れこんできた。

 それは遠い何処かの海、闇夜に照らされる一筋の光の先に向かって自身と仲間が砲撃する一人称視点の光景だったり。

 それは仲間とはぐれて小さな艦と一緒に海を漂う高空からの光景だったり。

 それは仲間が遠く離れた、点々とした光の集合体に向かって砲撃している最中、別の仲間と何かを運ぼうと死に物狂いで波をかき分けて進む第三者視点の光景だったり。

 止めに、あちこち穴ぼこだらけ、炎上している自身の身体を必死に我慢して円運動をしながら応戦するも、敵の放つ恐るべき一撃必殺の52本が次々に襲いかかり、微光射す朝の海のやや濁った海中から見た最期の光景。

 

 どれもこれも、今までの人生で見たことなんてない、ましてやゲームですら見聞きしたこともない、リアルすぎる光景だった。そしてありえないはずなのに、まだ顔も見ぬ、素性も知らぬ少女?たちが側に近寄ってきて親しげに並走する光景が浮かぶ。

 いつかあった過去と未来なのか。脳の記憶保持のキャパシティが限界を超えて頭が爆発しそうになり、流留は耐えられなくなって思わずよろけてしまった。

 その様子は、那美恵から見ても、今よろけた少女がどうなったかを察することが出来た。

 

 内田さんは、川内の艤装との同調に成功した!!

 あたしは、艦娘の艤装とやらに選ばれた!?

 

 タブレットで電子的にその状況をチェックしていた三千花がはっと息を飲む。

「内田さんの、川内の艤装との同調率は88.17%よ。私よりも高いわ。なみえ、これって……」

 数値を聞いて、那美恵は飛び跳ねて喜び、流留と三千花の肩を抱き寄せて更なる喜びを表した。

「うん!! 合格! 内田さんなれるんだよ! 軽巡洋艦艦娘、川内に! やったぁ〜〜!!」

 飛び跳ねて素直に明るく喜びを表す那美恵と、対照的に微笑んで静かに喜んで那美恵を見つめる三千花。そして、そんな二人を複雑な表情で見る流留がいる。まさか自分が艦娘に合格できるとは……。流留はさきほど艦娘の世界のことを知った時以上の衝撃を受けていた。

 そんな彼女の気持ちを落ち着かせる間もなく、那美恵は勧誘の攻勢を強めることにした。

「やっと出会えたよ。うちの学校で、艦娘になれる人に! あたしね、実は言うとプール掃除の時に初めてあなたを見た時に、何かピンと感じるものがあったの。直感ってやつ? 内田さんが今日見学しに来てくれたのは運命だったのかもって今、すごく嬉しいの!」

「はぁ……」

「ね!ね? 内田さん。こうして出会えたのも縁かもだし、あたしと一緒に艦娘やってみよ?」

 那美恵は興奮を抑えきれない様子で流留を艦娘へと誘いかける。珍しく、目の前の少女の様子がどうだとか、観察がままならない状態になっていた。そのため流留の表情が思わしくないことに那美恵は気づかない。

 

 流留は同調率というものに合格という評価を受けて戸惑う。自分が肯定の返事をしてくれると信じて熱い眼差しで見つめる那美恵が側におり、そのさらに横では冷静そうな三千花がいる。流留は妙な威圧感を(勝手に)感じていた。

 押されすぎていて何と言えばいいか混乱しかけたが、ようやく一つの言葉を絞り出した。

「とりあえず、外していいですか?」

「おぉ!?そーだねぇ。コアユニットだけ付けて同調しつづけると疲れが早いって明石さん言ってたし。」

「じゃあまたこっちで電源切ればいいのね?」

「うん。お願いねみっちゃん。」

 那美恵から合図を受けた三千花はタブレットのアプリから艤装の電源をオフにした。流留は今の今まで全身に感じていた妙な感覚がなくなり、元に戻ったのを実感する。元に戻ったはずなのに、身体が重い感じがする。そして同調する前に言われた通り、アノ感覚が下半身にかすかに残って猛烈に恥ずかしい。

 はぁ、と一息ついてベルトを外し、那美恵に艤装のコアの箱を手渡す。

 

 

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「ねぇねぇ?どうかな?艦娘、やってみない?」

 なおも尋ねてくる那美恵に、やや疲れた表情で見上げて流留は言い返してみた。

「それは……生徒会長や上級生として言ってるんですか?」

「えっ!?」

 まさかそんな返し方をしてくるとは思っておらず、那美恵は珍しく素で呆けてしまった。だがすぐにいつもの調子に戻り、言い方を変えて流留を誘う。

「いやいや。あくまでも艦娘部部員としてだよ。もちろん強制じゃないから、あたしからはあくまでも誘うことしか出来ないから、最終的な判断は内田さんに任せるよ。」

 とは言うが、流留にしてみれば、光主那美恵という人は生徒会長としての影響力が強すぎる。そして、思うように増やせない、相性があるという艦娘と艤装の関係、やっと見つけた自分(流留)という存在、きっと彼女はなんとしてでも誘ってくる気がしてならない。

 退屈を凌ぐために適当に楽しさを求めて過ごしてきたが、あくまで日常生活の範囲。ただでさえ、視聴覚室に来る前に自身に似合わぬ心かき乱される出来事があったのに、これ以上壊されたくない。艦娘なんて非常識な世界は、自分には無理だ。

 日常を壊したくなかった流留の心は決まった。

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「ごめんなさい。あたし、無理です!」

 

 

その一言だけ言って、流留は那美恵と三千花をかき分けて、脱兎のごとく視聴覚室を駆け出て行った。

「あ! ちょ! 内田さん!?」

 那美恵の呼びかけも意味をなさず、声はその場に響いただけだった。視聴覚室にはあっけにとられた那美恵達3人、そして廊下には早足で出てきた流留に呆然とする和子が残る。

「せっかく艦娘になれる人見つけたのになぁ〜」

 後頭部を掻きながら流留がいなくなった視聴覚室の区画で宙を見つめる那美恵。驚いた和子も艤装のある区画に入ってくる。

「どうかなさったんですか?内田さん走って出て行っちゃいましたけど?」

 異変を感じたのか、和子がその場にいた3人に訊いてみた。

「うん。内田さん、同調率合格したんだけどね、やりたくないって出て行っちゃったの……。」と那美恵。

「だから言ったでしょ。なみえだけ理想に燃えてやる気みなぎってたって誰もついていけないって。内田さんの言い分わかるわよ。なみえはさ、やっぱ生徒会長としての存在が強すぎるのよ。実際に誘われたらあれが普通の反応よ。」

 と三千花は親友に厳しく諭す。

「え〜……それじゃあ、誰誘ってもあたしにはついてこないってこと? うー……」

「そ、そこまでは言わないけど、もっと違う切り口からの誘い方にしないと。それにさっきのあんた、興奮しすぎて押しすぎだったわよ。ちょっと珍しかったけど。」

 泣きそうな顔になり那美恵は俯いて表情を暗くする。三千花は、親友の那美恵が弱気を見せはじめ本気で凹んでしまったことに焦ったのか、思いやり半分指導半分のフォローをする。が、那美恵の表情は暗く落とされたままだ。

 

 

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 二人の側にいた三戸は、会長に言われたとはいえ、自分が進んで流留を誘ってきたこともあり少々責任を感じていた。艦娘になれる素質があったにもかかわらず結果的に流留は断り、せっかく得られるはずだった艦娘仲間を失ったという事実に今まで見せたことのないショックを受けている那美恵のその様は、さすがの三戸も心苦しかった。

 自分が、内田流留と光主那美恵の橋渡しをするのだ。いや、しなければならないと彼の中には強い決意が湧き上がった。

 

「会長!副会長!俺ちょっと追いかけて内田さんと話してくるっす。任せて下さい!」

 左腕でガッツポーズをして、そばにいる1つ年上の女の子二人を元気づけて三戸は視聴覚室を出ていこうとする。

 

「ちょ!三戸君!?どうするのよ!?」

 反応して呼び止めたのは三千花だ。那美恵はまだ俯いたままでいる。

「内田さんを誘ったのは俺だし、なんとかしてみますよ!」

「違うよ三戸くん。内田さんを誘おうとしたのはあたし。三戸くんを使ってあたしが誘ったんだよ。だから三戸くんはこれ以上何もしてくれなくていいんだよ?」

 那美恵はうつむいたまま涙声で三戸に言う。三戸はこれはますますヤバイ、なんとかせねばと燃える。

「いや。直接交流あるの俺だけだし、俺がなんとかしなくちゃいけないんっすよ。」

 

 妙にやる気にも燃えている三戸の姿を見て、那美恵と三千花、和子は少しだけ彼の見方を変えた。やる気に燃えた三戸は3人の声を聞いても今度は足を止めずに視聴覚室を出て流留を追いかけていった。

 

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--- 6 内田流留という少女

 

 

 視聴覚室出て、小走りで流留は廊下を進んでいた。とくに目的地はない。苦虫を噛み潰したような表情で歩みを進める。彼女がそういう表情をしているのは、何も視聴覚室での出来事のせいだけではなかった。

 

 

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 流留が視聴覚室へと向かう前、彼女はしばしばつるむ男子生徒の一人から呼び出されていた。その男子生徒は吉崎敬大という、同学年の生徒である。彼は性格は明るく、少し適当ですっとぼけたところがあるがそれも良い味を出している人当たりのよい優しい好青年だ。女子から人気がありよく言い寄られている。女子同士の話や"そういう"事に興味はない流留の目から見ても吉崎敬大はイケメン、つまり好い男に見えた。しかし流留にとってはつるんで趣味やバカ話をする男友達の一人でしかなかった。

 それゆえ呼び出されたのも単に暇つぶしの雑談をするだけなのだと思い、全く何も気にせず彼から呼び出された場所へと足取り軽く赴いた。

 吉崎敬大はその場所で天を仰いだり腕を組んでソワソワして流留を待っていた。彼女が来たのがわかると眉間に寄せていたシワを消して表情を柔らかくし、流留に近づいて話しかけた。

 

「や!ながるん。こんなところに呼び出してゴメンな。」

「いいっていいって。それよりもなぁに?なんか面白いことあった?」

 流留は仲の良い男子生徒の一部からは、ながるんというニックネームで呼ばれている。

 流留は雑談か、何か面白い出来事を聞かせてくれるのだと流留は思っていた。一方で吉崎敬大は流留の中性的な声質だが可憐な可愛さを感じる声による言葉を受けて、しばし俯いた後深呼吸をしてじっと流留を見つめた。そしてやや大きめの声で自身が胸のうちに抱えていた言葉をひねり出した。

 

「俺、ながるんのこと好きなんだ。付き合ってくれ!」

「……へっ!?」

 吉崎敬大からの突然の告白。予想だにしていなかった相手の行為と好意。その場には流留の変に裏返った声の一言が響く。

「ちょ、敬大くん!? へっ……じょ、冗談はよしてよ〜。なになぁに?あたしにドッキリ仕掛けてどういうつもりぃ〜!?そこの陰からいつものやつら見てるんでしょ〜?」

 

 突然の告白に流留の思考は混乱する。照れ隠しもあり呼び出された場所の近くにある物陰や木の後ろをわざとらしく見に行くなどして動き回る。その間も吉崎敬大は動かないで突っ立ったままだ。

「ははっ……」

 当然ながらあたりには流留と敬大以外誰もいなかった。さすがの流留もこれは本気の告白だと気づかざるを得なかった。今まで平穏でなんの波もなく過ごしてきた流留の日常に、初めてヒビが入った瞬間であった。

 

「ながるん!」

 吉崎敬大は動きまわる流留の方を向いて呼び止めた。その声に流留の動きは緩やかになり、ようやく立ち止まる。

「……なんで? なんでなの? なんであたしなのよ! さすがのあたしでも知ってるよ。敬大くん、女子に人気あるじゃん! あの子達じゃなくて、なんであたしなのよ!?」

「ながるんは他の女子たちとは違う。俺はながるんがいいんだ。好きなんだ。」

 他の女子達とは違う、普通ならば君だけは特別という意味合いにとれるその言葉は少なからず異性を意識させる効果がある。その一言に流留は違和感を覚えた。それは違和感というよりも、自分があると信じて疑わないものが崩れていく。それへの畏怖の念とも言えた。

 

 流留はあとずさった。その反応を敬大は見て歩幅を合わせて近づいてくる。もう一歩下がる。敬大は2歩近づいてくる。

「やめて。あたしはそういうの望んでない!あたしはみんなと適当に雑談して遊べればそれでいいの!だかr

「だったら馬鹿話して遊ぼうぜ!それは今までと変わらないことを約束する。みんなの前では今までどおりしよう。その上で、俺と付き合ってほしいんだ。ながるん……いや、内田流留さん!!」

「そんなこと言われたら……絶対みんな今までどおりじゃいられなくなるよ……。なんでコクってくるのよ……。」

「今までどおりでいられるって。ここには俺とながるん以外誰もいない。他の奴らにこのことなんて話すわけねぇし誰にも知られずに済むって。」

「そんなの当たり前でしょ。告るのにわざわざ他人に言うやつなんでいないよ。」

 

 さらに口論を続けようとしたその時、さきほど流留が照れ隠しに見渡した物陰よりさらに離れた陰で、物音がした。

 

「誰だ!?」「誰?」

 

 微かに走っていく足音が響いたことに二人とも冷や汗が出る。流留は吉崎敬大に詰め寄った。

「ちょっと敬大くん!本当に誰もいないんでしょうね!?」

「いねぇよホントだよ!」

 敬大は頭をブンブンと横に振ってハッキリと否定する。

 

「なぁ、ながるん。頼むよ。付き合ってくれよ!」

 気を取り直してなおも食い下がる敬大に、流留は再三繰り返して断る。

「だから。あたしはいつもどおりの生活で話の合う人達と馬鹿やれればそれでいいの。誰かと付き合うとか、そういうの求めてないの!あたしの日常に波風立てないでよ!今日の事は忘れてあげるから、あたしに近寄らないで!」

 

 流留はダッシュしてその場を離脱し始める。それを敬大は強い口調で呼び止めた。

「ちょっと待てよながるん! 近寄らないではひでぇだろ。それにどこ行くんだよ?」

「……ゴメン。さすがに言い過ぎた。告ったのは忘れてあげるから、敬大くんも今日のことは忘れて今までどおり振る舞って。それからあたし今日は別の用事あるから、急いでるからもう行くね。」

 

 流留はダッシュほどではないが小走りでその場から離れた。その場には、吉崎敬大がポツンと残されるのみになっていた。

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 視聴覚室から出て思い返しながらあてもなく歩く流留。気づくと別の棟にいた。少し戻って空中通路のところで立ち止まり、手すりによりかかって思いにふける。

 いきなりやってきて自分の日常を壊そうとする、男子生徒からの突然の告白と、艦娘という非日常の世界とも思える存在。そして艦娘になってしまった自分。いや、まだなっていないのか? あくまで資格がある、ということなのだろうか。流留は自身の素質にも混乱していた。

 今日一日で日常が破壊されかねない重しがのしかかってきたことに流留は憂鬱になっていく。

 とりあえず告白は断り、艦娘への誘いも(生徒会長たちの反応を見ずに)断って帰ってきた。今の彼女には、逃げることしかできなかった。

 

 

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 彼女が日常生活にこだわるのには、彼女の人となりに影響を与えた従兄弟たちの事情が関係していた。流留には兄弟姉妹はおらず、一人っ子であったために従兄弟たちがその代わりをして彼女に小さい頃から接していた。流留は従兄弟たちを”にいやん”などと呼びまるで実の兄弟のように接して育つ。かなり歳の差のあったそんな従兄弟たちに接するうちに、流留はおよそ女の子らしい趣味は身につかず代わりに男っぽい趣味が身につき、従兄弟たちと遊ぶ間に負けずとも劣らぬ勇ましい性格になっていった。

 

 そんな気の置けない従兄弟たちとの楽しい日々が続いた。流留は周りが年上だからということもあり、すべてを安心して委ねて、接することができた。常に流留のことを気にかけてくれて、何をしても自分の味方でいてくれる、心から信頼できる存在。だから思う存分やんちゃもした。

 ある種、流留は他人に究極的に依存しやすい質だった。彼女にとって日常生活とは、従兄弟たちとの時間がすべてであった。そんな従兄弟たちとの時間も、小学校高学年の途中までだった。

 

 保健体育で教わった男女の体の違い、そして成長していく自分の体つき。周りからの扱いの変化。かなり年齢差があって年上だった従兄弟たちも成長し、それぞれの道へ進んだこともあり今までどおり接してくれなくなった。従兄弟たちと遊ぶ時間が減り、もともと一人っ子の流留は一人で遊ぶ時間が増えた。

 従兄弟たちとの接し方の結果、小学校の頃から男子生徒と遊ぶようになり(小学生の頃ならば男女問わず遊ぶことは世間的にもそれなりにあろうが)、流留は従兄弟たちの代わりとなる存在の拠り所を同世代の男子に求めた。

 

 完全な代わりとはならないが、同じ男友達ならば同じような日常を取り戻せるだろうと思いあくまでも男友達と接し続けた。とはいえ、趣味や気が合うなら同性の友達でもよかった。しかし小学校低学年〜高学年、そして小学生時代のクラスメートの大半がそのまま揃って入った中学校時代初期まで、固定された交友関係のせいで同性の友達らしい友達ができないいままでいた結果、彼女は実質一人ぼっちとなった。一人ぼっち自体は、彼女にとって大した問題ではない。

 

 流留は中学に上がった時からぐんと成長し、男子のみならず同性でも目を見張る中性的な美少女に変貌した。勉強は得意ではなくむしろ苦手。しかし可愛くて気さく、それを笠に着ず等しく(男)友達に接する。助けを求められればすぐに駆けつける少し世話焼きな性分。そんな彼女が人気者になるのはたやすく、そして人気者に取り巻く環境の常である、アンチな生徒も大勢生まれた。

 中学時代、彼女にとってはそれなりに酸いも甘いもあった充実した時期だった。心身が成長する過程、男友達は思春期まっただ中で流留と接するのを恥ずかしがる者もいたが、基本的には仲良く接してくれた。

 人気を妬んだ女子にいじめられることも少なからずあったが、小さい頃から従兄弟たちの影響を受けてたおかげでやや男勝りに育った流留には、なぜか同性のファンがつき、味方も多かった。

 

 しかしなんとなく足りない感覚が中学校最後の時期まで続いた。

 

 そして高校入学。実家を離れて親戚の家に厄介になり、別の市立の高校に入った。それが今流留がいる高校である。今までの交友関係はリセットされるが、新しい交友関係を作ればその足りないものが補完されるかもしれない。そう信じて高校入学してからすぐに自分の普段の趣味全開で積極的に男子生徒に話しかけ、趣味の合う人を見つけ、雑談したり遊びに行く関係を築き上げていった。

 形は違い、足りないものは補完できなかったがそれでも自分が作ってきた一応の日常。

 

 高校生ともなると誰もが今までとは違う意識が芽生えていた。将来の進路、恋愛感情はより複雑な物になり、本気で一緒にいたいと思う感情。今までの夢絵空事とは違い、具体的な形を伴った将来の夢を追いかける思いや意欲。

 流留は将来のことを真剣に考えたことなく、誰かを好きになるという感情も芽生えなかった。あえて言えば、もはや年末年始でさえ滅多に会わなくなっていた従兄弟のことが好きという程度。友達の男子生徒たちは女である自分と仲良くはしてくれているが、なんとなく違和感があったのでそんな感情を抱くには至らなかった。

 その違和感は、この日流留が当事者になった男子生徒からの告白と、艦娘への誘いでハッキリ彼女も理解した。

 

 みんな成長している。何かに一生懸命になろうとしている。だから精神の真なる部分では幼い流留にはどうしても彼(女)らとは馴染めない一線があったのだ。単なる男友達と思っていた吉崎敬大は単純な友達関係から一歩進もうと迫り、生徒会長たちや三戸は、世界を救うというとんでもない非日常の世界に首を突っ込んで大人たちと一緒に活動している。

 形の上だけでは理解はできるが、流留自身はそれを本気で理解して、受け入れるだけの心の成長ができていなかった。彼女の日常を刻む歯車は、従兄弟たちと接していた小学校高学年の頃の思い出と感情で凝り固まっていて止まったままだったのだ。

 流留は、今の日常でならいくらでも張り切って馬鹿やって熱血やって過ごせる自信はあったが、もう高校生。自分の生き方を真剣に考え、変えなければいけない時期が見え隠れし始めているのにようやく気づいた。

 が、今まで信じていた日常がどうにかなってしまう。そんな恐れが彼女を縛り続ける。

 

 自分はどうすればいいのか。心かき乱された今の状態で、果たして明日から今までどおりの日常生活を送ることができるのだろうか。そんな不安が流留の頭をよぎり続ける。

 

 普通の朝が、遠くへ消えていく。

 

 

 そんな予感がした。

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--

 

「あ、いたいた。内田さん!」

 思いにふけっていた流留の前に現れたのは、さきほど視聴覚室にいた同じ学年で生徒会書記の三戸だった。少し涙目になっていた自分の顔を見られたくなく、反対側を一瞬向いて目を拭いた後、あっけらかんとした様子で三戸の声に反応した。

 

「三戸くん。なに?」

「いや、何じゃなくてさ。さっきの艦娘のこと。」

「あぁ……。いきなり飛び出して行ってゴメン。」

「いやいや。すぐに受け入れてじゃあやりましょうってのは無理だとは、さすがの俺でもわかるよ。それにあの会長、自分がやり手すぎるのイマイチわかってないところあるからさ。まぁ、ついていけないってのもわかる。」

 後頭部をポリポリと掻きながら三戸は照れ混じりに流留をフォローする。三戸は流留の隣にやってきたが、少し距離を開けて同じように手すりに体重をかけて寄りかかった。

「でも驚いたっしょ?あんな世界があるっての。」

「……うん。三戸くんからゲームに似たって聞いた時は、正直話半分だったの。ホントにそんなことありうるわけないって思ってたからさ。けど、あれって現実なんだよね?」

「うん。俺も初めて会長以外の艦娘見て、実際にその人達が演習とはいえ戦う姿を見て驚いたもん。本当にこんな出来事がってさ。あ、そうそう。そこの鎮守府にいる艦娘ってさ、中学生もいるんだ。中にアホっぽいけど可愛い子がいてさ〜」

 いきなり訳の分からない方向に話を進めだす三戸を流留はジト目で見る。その視線に気づいた三戸はコホンと咳払いをして話を元に戻す。

 

「……ともかく。俺らよりも年下の中学生ですら艦娘になって戦えるんだから、きっと内田さんだって大丈夫だと思うんだよね。」

 三戸はそう言って戦いを怖がったと判断した流留を慰める。が、流留の反応は違う。

「ゴメン。そういうことじゃないんだ。実はね、視聴覚室に来る前に……」

 流留は言いかけたがすぐに口をつぐんで止めた。全然関係ない三戸に話すべきことではないし、多分身の上を話されても彼自身困ってしまうだろうとなんとなく気が引けたのだ。頭を振ってセリフをキャンセルする。

「ううん。なんでもない。」

 三戸は?な表情を作って「ふぅん」と言うだけで首をつっこもうとはしなかった。

 

 これまでの人生で、心の中をさらけ出して話せる人なぞ、従兄弟たち以外に流留にはいなかった。そのため三戸には言えない。三戸を納得させられるだけの弁が足りなかった。

「あたしの中でちょっと整理がつかないから。もうちょっと待って、とだけ生徒会長に伝えておいて。」

「へ? あ、うん。わかった。じゃあ正式な回答は保留ってことだね?オーケー。」

 三戸は流留の言い淀む姿が気になり、深く聞こうとはしないでおいた。流留は三戸からの確認にコクリと頷いて、手を振って空中通路のもう半分を進み、その場を離れた。

 三戸も彼女からの一応の返事を聞けたので、「じゃあね」とだけ彼女の背中越しに伝えて視聴覚室へと戻ることにした。

 

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--- 7 幕間:報告

 

 

 視聴覚室の片付けが終わり、那美恵たちは艦娘部顧問の四ツ原阿賀奈を呼びに職員室へと行った。艦娘部顧問が決まって以降は、視聴覚室の借り出しの責任者は艦娘部顧問の名義で行っていたためだ。

 

「はい。ごくろーさま。で、どうどう?なにか進展あった?」

興味ありげに聞いてきた阿賀奈に、那美恵と三千花は嬉しそうに伝える。

「はい!先生聞いて下さい。なんとですねぇ、川内の艤装に同調出来る人ついに現れたんです!」

「えー!?本当?先生もなんだかうれしい〜。それで誰だったの?」

 

 人物の名前を言おうとした那美恵だったが、とたんに表情を暗くする。普段は明るい印象しかないことで学校の誰からも知られている生徒会長である那美恵が暗くしていることに、さすがの阿賀奈も気になった。

「どうしたの?何かあった?先生になんでも言ってご覧なさい?」

 

 阿賀奈は那美恵の隣に居た三千花に目配せをするが、三千花は頭を軽く横に振って那美恵の肩に手を置くだけ。その様子を見て阿賀奈はますます何かあったのだなと察した。那美恵自身が答えるのを待つ。

 

「実は……」

 

 那美恵から、今日のその時の状況を聞いた阿賀奈。彼女が凹む理由を理解した。

「そっか。そういうことだったんだ。うーん。それは残念だけど、彼女にもそれなりに思うところがあるはずだし、多分いきなり言われて混乱してるだけだろうから、そこは気長にね。その辺りは光主さん自身も中村さんもわかってるでしょ?」

 那美恵と三千花はコクリと頷いた。ついでに二人が感じたのは、四ツ原先生がすごく先生らしいことを言ってくれてるという事実への驚きであった。

「先生だってあなた達から話を聞いた時驚いたもん。けど、あなたたちは私にお勉強する時間をくれたでしょ? それで先生はね、やっと心の整理が出来て受け入れることができたんだもん。だから職業艦娘の試験も受けに行こうって意欲が持てたんだし。だから内田さんにも少し時間を与えてあげてね?」

 

「「はい。」」

「よし。よろしいよろしい。」

 自分でも先生らしいことを言って生徒を元気づけている今の様子を誇らしく思い、椅子に座った状態ではあったがふんぞり返って軽くドヤ顔をしてみる。が、那美恵たちは全くなんの問題もなく、スルーする。

 

 ふと、那美恵は阿賀奈が職業艦娘試験を申し込みに行ったことを思い出して聞いてみた。

「そういえば四ツ原先生。職業艦娘の試験ってどうなりました?いつなんです?」

「うん。なんか定期的に行われてるらしくてね、直近では今週末にあるらしいから、その日で申し込んだの。先生のほうは何の問題もないはずだから、あなたたちは勧誘活動頑張ってね。決して無理に誘っちゃダメだよ?」

 

 確かに阿賀奈のほうはもう何の問題もないことがわかっていたので、那美恵たちは安心して返事をすることができた。あとは、自分たちの活動だけだと把握した。

 

「そうそう。このことは先生から提督さんに話しておくね。こういう連絡行為も艦娘部顧問の役目らしいから。」

「はい。お願いできますか?」

「まっかせなさ〜い!」

 

 せっかく一緒になれそうだった艦娘になれる人を一旦は失って、意気消沈する那美恵。今の心境のまま、提督に自分の口から伝えるとおかしな口調で変に心配かけてしまうと思った。自分の巻いた種の出来事だから、弱音は吐きたくない。艦娘のこととはいえ、学校内でのことなので提督に余計な気苦労をかけさせたくない。提督には、正式に揃った○○高校艦娘部部員、川内・那珂 ・神通で揃って報告にしに行きたい。そう那美恵は決意を胸にしていた。

 

--

 

 帰り道、三千花と一緒に帰路についた那美恵は他愛もない話題でおしゃべりをしながらの歩であった。那美恵の口からは、艦娘関連の話題は一切出ない。

 そのあまりにも極端な話題そらしに三千花は僅かに心労を覚える。このオチャラケて明るくて果てしなく強い親友は、その実あまりにも脆い面がある。そのことをわかっていたので、三千花は励ましの言葉をかけようと思って口をそのために動かしかけたが、地雷に踏み込みそうな気がした。こういうとき親友たる自分はあれやこれやと口うるさくせずに、必要なポイントだけでフォローすべきなのだ。

 三千花はすぐにつぐみ、那美恵が出す話題の相槌打ちにその労力を傾けた。

 

 

--

 

 その後、阿賀奈から報告を受けた提督は、秘書艦の五月雨と最近よく代わっている妙高、そして明石にメールを転送し那美恵の高校での状況を伝えておいた。

 

五月雨からのメール

「そうですか。うちの中学とは違ってちょっと大変そうですね・・・那珂さん大丈夫でしょうか?私心配です(>_<)」

 

妙高からのメール

「他人ごとのような言い方で申し訳ないですけれど、なんだか青春という感じですね。那珂さんには暗い印象は似合わないので、無理せず頑張って欲しいですね。」

 

明石からのメール

「私たちはすでに艦娘の世界に飛び込んでるから感覚が麻痺してるのかもしれませんね〜。まさに一般の人の反応って感じです。まぁ気長に待つしかないのではないでしょうかね?」

 

 提督ら鎮守府Aの面々は直接的には外野なので、形の上での心配しか出来ない。

 那美恵たちはもちろんだが、提督たちも、新たな艦娘川内・神通の着任までは、もうしばらく焦らされる羽目になる。

 

説明
 艦娘部のメンバー集めのため、勧誘活動にあけくれる那美恵。生徒会メンバーと協力してアイデアを練り、艦娘の世界を一般人たる生徒や先生に見せて部員になってくれる人=艦娘になってくれる人を求める。
 そんな日々のさなか、那美恵は三戸が連れてきた友人の一人、とある少女と出会うことになる。
 軽巡洋艦那珂の姉妹艦となる少女をめぐるお話です。
---

それは、人間たちの物語。
那珂がうちの鎮守府(仮名:鎮守府Aとしています)に着任した頃の話。
艦これ・艦隊これくしょんの二次創作です。なお、鎮守府Aの物語の世界観では、今より60〜70年後の未来に本当に艦娘の艤装が開発・実用化され、
艦娘に選ばれた少女たちがいたとしたら・・・という想像のもと、話を展開しています。

艦娘(になった少女)たちは実在したらこんな感じなんだ!身近にいそうだな!という感覚を味わっていただきたいため、オリジナルの本名・学校生活・友人関係を作って日常生活をリアルに描いています。
可能な限り原作に近づけていますが、かなり性格の違う艦娘も出てきます。ご了承ください。


なお、本作にはオリジナルの挿絵がついています。
小説ということで普段の私の絵とは描き方を変えているため、見づらいかもしれませんがご了承ください。
ここまでの世界観・人物紹介、一括して読みたい方はぜひ 下記のサイトもご参照いただけると幸いです。
世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing
挿絵原画。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=57550092
鎮守府Aの舞台設定図はこちら。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53702745
Googleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/1JBzoKSKuLH4xyue-UHvoGQuedNoZsWxmJczcXU7-VWI/edit?usp=sharing
好きな形式でダウンロードしていただけます。(すべての挿絵付きです。)
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