マイ「艦これ」「みほちん」:第16話(改2.7)<巡回(鎮守府内)> |
(君は本当に単なる艦娘なのか?)
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マイ「艦これ」「みほちん」
:第16話(改2.7)<巡回(鎮守府内)>
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祥高さんは用箋(ようせん)ばさみを手に報告する。
「司令を昼食後に基地内ご案内、次いで鎮守府近郊を視察する予定です」
「忙しいねぇ」
島風が口を挟む。
その口調に祥高さんも苦笑する。
寛代は相変わらず無表情だった。とはいえ彼女の場合、常に無線を傍受しているようにも見えるが。
私は秘書艦に応える。
「すぐに省の役人が来るから、ちょうど良い機会だな」
「そうなの?」
また島風。
私は説明する。
「もうすぐ、上のお役人や他の鎮守府から人が来るんだ。案内する私が基地を知らなければ恥ずかしいだろう?」
「そうね」
連装砲を抱っこした彼女は言った。
「でも、ここ狭いから。きっと、あっと言う間だよ」
(あっという間か)
その口調に島風らしさが感じられた。
私たちは席を立った。
執務室へ戻った私は、隣の控え室で軽く身支度を整えた。
「……まあ、こうなるよな」
改めて壁の鏡で自分を見た私は思わずぼやく。
「司令が作業服で巡回とは、なんとも間抜けな印象だ」
だが制服が無い。
「この期に及んでセーラー服を着たら単なる変態だ」
司令が『女装好きオジサン』と勘違いされても困る。
ちょっと意気消沈した私は執務室に戻る。自席に居た祥高さんが顔を上げた。
「そろそろ参りましょうか?」
「ああ」
彼女は私の作業服姿を見ても表情ひとつ変えなかった。幸か不幸か秘書艦は司令の服装や表面的なことは、あまり拘(こだわ)らないらしい。
しかし立ち上がった彼女は私を見て、こう言った。
「司令。作業帽は、ございませんでしたか?」
「えっと、確かあったが」
実は帽子があることは知っていた。基本的に私も服装には頓着しない性質(たち)だが、さすがに帽子は被る気がしなかったのだ。
それを察したのか彼女は、ちらりと外を見て言った。
「山陰の夏は日差しが強いです。お出掛けの際は帽子を被られた方が宜しいかと」
「ああ、そうか」
なるほど心配してくれたのか。秘書艦に念を押されたら仕方がない。私は控え室に戻ると作業帽を被った。
(これで完全に作業員だ)
私は腹を括(くく)った。
「待たせたね」
戻った私を見ても彼女は表情を変えない。秘書艦の鏡だ。
祥高さんはメモ帳を手に言う。
「ではまず構内に参りましょう」
「うむ」
私たちは本館を出た。
すれ違う艦娘たちは誰もが不思議そうな表情を見せつつ敬礼する。私は軽く手を上げながら秘書艦の後に続いた。
本館の中庭で彼女は振り返る。ここから見上げる赤レンガの建物は堂々としていた。
祥高さんは言う。
「この本館に執務室や食堂があります。また艦娘の宿所は別棟になります」
「なるほど」
私は考える。
(ここに所属する艦娘たちと私は、この期間どれだけ交流出来るだろうか?)
指揮官として、やり難い点。
1)絶対的火力を持つ兵器=『艦娘』。
2)外見は普通の人間にしか見えない。
3)その性格や挙動は普通の少女。
4)艤装を付けて、やっと兵士と分かる。
軍の組織だから『上官の命令は絶対』として押さえ付けることも可能。
今も散見する『ブラック鎮守府』も知っている。
だが深海棲艦という敵が居る。
ムヤミに彼女たちの反感を買えば未来が無くなる。人類には艦娘以外、敵に対抗する術(すべ)がないのだ。
だから近年、海軍省や軍令部はブラック度が目に余る拠点に『監査』や『指導』を入れると聞く。
それに不思議なのは艦娘たちが現れるのは、わが国の帝国海軍に限定されていることだ。これには諸説あるが結論は、まだ出ていない。
(男性兵士を相手にしている方が気楽だよな)
私は、つくづくそう思った。
秘書艦が振り返った。
「どうかしましたか?」
まずい。
私は帽子を軽く持ち上げて誤魔化す。
「あ、いや。艦娘だけの部隊って、やっぱりまだ慣れないなぁ」
すると彼女はメモ帳を傾けながら軽く頷(うなづ)く。
「はい分かります。着任する指揮官の皆さん、同じように仰いますから」
「やっぱり?」
そうなんだと思いつつ悩んでばかりも居られない。現実は目の前にある。
(私は軍人であり司令官という重責を拝命したのだから一生懸命応えるべきだ)
謙虚に反省した。
それからは意欲的に祥高さんと一緒に工廠や艦娘の宿所、入渠施設などを確認して回った。
率直な印象は『噂通り小さい』。
一区切りつくと秘書艦は言った。
「この先は埠頭で仕切られた鎮守府専用の港湾部です」
少し行くと説明通りの青い日本海の見える埠頭に着いた。
海を眺めながら私は感想を述べた。
「ここは艦娘専用だから他所の鎮守府よりも小さいな」
「はい。ですから艦娘たちは、この埠頭だけではなく倉庫や専用の桟橋から出撃することも多いです」
それは他の艦娘が居る鎮守府でも同様だ。ここの埠頭は一般の船舶用だから最低限のモノがあれば十分なのだ。
「ここは起重機もないんだな」
振り返りつつ私は確認した。そういえば鎮守府必須の大規模な入渠ドックもない。
私は腕を組んだ。
「ここは埋立地で良かったのかも」
「はい?」
祥高さんが不思議そうな顔をする。
私は説明する。
「今朝、陸軍の憲兵さんに送って貰ったんだが彼、ここが鎮守府だと知らないんだ。それに、もし市街地に近かったら、いろいろ面倒だろう」
すると彼女は微笑んだ。
「はい。仰る通り地元でも、この辺りは釣り人以外、ほとんど来ません。軍機保持の観点からも理想的ですね」
「謎の施設に女学生。怪しい学校と勘違いされそうだな……魔法学校みたいな」
冗談交じりに言うと秘書艦は少し真面目な表情に変わる。
「実は、その鎮守府っぽくない現状を逆手に取って諜報部隊に特化する計画もありますが」
「え?」
まさか嘘から真(まこと)か。
彼女は説明を続ける。
「そもそも、ここが設置された背景は日本海側の護りという目的と」
ここで秘書艦は周りを気にして声音を下げる。
「舞鶴や佐世保といった他の鎮守府への睨みを利かせる側面もあります」
「……」
これには言葉が出なかった。
ふと寛代の姿が思い浮かぶ。もしかして彼女も、その一翼を担っているのか?
(ここは想像以上に重要な拠点を目指しているのでは)
しかし祥高さんは微笑んで言った。
「今のことは頭の片隅に留めて置いて下さい。では次に参りましょう」
短い髪をサラサラなびかせ彼女は歩き始める。その後姿を見ながら私は改めて思った。
(君は本当に単なる秘書艦なのか?)
結局、島風が予想した通り鎮守府内の巡回は短時間で終わりそうだ。
特徴的なことは男子禁制部分が普通の鎮守府より多いことか。
(艦娘専用部隊だけに……まぁ、そこは直ぐ慣れるだろう)
私は楽観視し始めていた。今さら悩んでも始まらない。
また徐々に私にも慣れたのだろう。すれ違う艦娘たちも敬礼ではなく会釈や手を振る者も現れ始めた。
(何だか調子が狂うな)
この反応には秘書艦も驚いたようだ。ただ私も敢えて彼女たちを咎(とが)めなかった。
やがて祥高さんは言った。
「内部は、ほぼ宜しいでしょうか?」
「そうだね」
腕時計を見ると僅か1時間ちょっとで鎮守府内の巡回は終わった。
私は言った。
「基本的な設備の配置は、どこの鎮守府も同じものだな」
彼女も微笑む。
「はい。むしろ、その方が宜しいですね」
「……」
その姿に私は一瞬、考えた。
この秘書艦の達観した姿勢。普通の艦娘とは違った雰囲気。
私が帽子を取ると薄っすらと汗をかいていた。
「確かに山陰の陽射しは強いな」
帽子があって正解だ。メモ帳を丸めながら彼女は言った。
「いったん執務室へ戻りましょうか」
「あぁ」
私たちは本館の二階へと戻った。
私が席に座ると祥高さんは説明を始める。
「一休みした後で今度は軍用車に乗って鎮守府近郊の確認に出かけます」
「うむ」
それから鳳翔さんにお願いして、お茶を持って来て貰った。数分と経たず扉が叩かれた。
「失礼します」
落ち着いた表情の鳳翔さんにはホッとする。
この対応の速さは小さい鎮守府ならではだ。最初は戸惑うが慣れてくれば、むしろこの方が良い。
配膳しながら鳳翔さんは言った。
「今日は日差しが強いですね」
「そうだね」
つくづく彼女は癒し系だ。こんな艦娘ばかりだったら気も楽なンだが。
15分ほど休憩してから鎮守府本館の横にある車庫へ向かった。
緑色の髪のメロンこと軽巡洋艦「夕張」と補佐の駆逐艦娘たちが敬礼してお出迎え。
これから行くのは私と祥高さん、それに青葉さんと……どういうわけか駆逐艦の寛代だ。
朝のゴタゴタ疲れもあるだろうに彼女は自分から申し出たそうだ。もちろん寛代に来て貰う事は非常時の通信役として重宝するだろう。
(また寝過ごさないか?)
無表情の彼女を見ながら不安を覚える。
運転は青葉さん。
「取材だけでなく軍用車の運転もこなすとは器用だな」
彼女は、やや恥ずかしそうに説明する。
「えぇ、取材記者ってのは自力であちこち走り回りますから」
「なるほど」
車を運転する艦娘は珍しい。
車内は助手席に秘書艦、私は後部座席に座っている。隣は寛代。
(青葉さん以外、あまり喋らなさそうな艦娘だな)
「では行きますね」
青葉さんの一声で車は緩やかに建物を出る。
ちなみに彼女も巡回に立候補したようだ。
(さすが好奇心旺盛だな)
ネタ作りには積極的だ。
夕張たちに見送られた軍用車は鎮守府の敷地を出る。
広い埋立地から幹線道路目指して走り始めた。
(車内は静かだ)
いろんな意味で。
夏の穏やかな日本海を見ながら過去に思いを馳せる私。
(十数年前、この一帯は海だった)
ボンヤリと今朝、憲兵さんと交わしたやり取りを思い出す。
「司令官は、ここのご出身なんですよね?」
早速、青葉さんが突っ込んで来る。
「あぁ」
そういえば運転席の青葉さんは必然的に大声になる。
彼女は、もともと芯のある声だ。多少の風切り音も気にならない。
「司令の実家は、この近くですか?」
「いや、港のほうだが。学生の頃は夏になると友人に誘われて授業をサボって海水浴に来ていたな」
「海水浴ですか? ここで」
不思議そうな表情の青葉さん。なるほど、ここが埋立地だという認識しか無いよな。
私は説明した。
「ここは、もともと遠浅の海水浴場だったんだ。それを埋め立てて鎮守府にした……そりゃ大変な大工事だったらしい」
「はぁ」
そこでようやく美保鎮守府が埋立地だ、という事実を思い出したらしい。恥ずかしさを隠すように彼女は言った。
「Y沢議員……えっとぉ、本人か父君だったか忘れましたが、かなり尽力したらしいですね」
「Y沢」
ここで何故か秘書艦と寛代が反応した。
「確か地元選出の代議士だな」
私も思い出した。
再び青葉さんが切り返す。
「司令、ご存知ですか?」
「あぁ、余り芳しい噂は無いが地元の代議士だからな。意識はするさ」
「なるほどぉ」
何か言いかけた彼女を遮(さえぎ)るように私は続けた。
「最初ここに着てビックリしたよ。計画は知っていたが現地は初めてだったから」
「あ、埋立地のことですね?」
彼女は明るく反応する。
「海が陸になってたら誰でも驚きますね」
「あぁ、このご時世に良くこんな大工事が出来たものだよ」
「ホンとは工場とか企業誘致したかったらしいです」
「だろうな」
青葉さんの口調が記者っぽくなってきた。そこは基礎情報として知ってるのだろう。
「今でも釣りは出来ますし鎮守府が誘致されたのも必然でしょうね」
「あ? そうかな」
私は彼女の言った『必然』という単語が妙に引っかかった。まさか鎮守府を誘致する為だけに埋め立てしたわけじゃないだろう。
青葉さんは言った。
「こんな広い土地……私たちが来なかったら宝の持ち腐れでしたね」
「そうだね」
確かに美保鎮守府が埋立地、全てを使っているわけじゃない。ほんの一部だ。だから、まだ大半の土地が更地のまま海風に曝(さら)されている。それは艦娘でも勿体ないと感じるのか。
「実際ここは他所の鎮守府と違って平坦地で艦娘にも使い易いんですよ」
その言葉に隣の寛代も、しきりに頷(うなづ)いていた。
「そうか?」
(これは実際に使っている艦娘らしい意見だな)
しばらく走ると松の防砂林が見える。そこを抜けると大きな幹線道路に出る。
私は言ってみた。
「これが滑走路へ転用出来たら便利だが」
「いやぁ蛇行しているからムリでしょう」
青葉さんは率直な意見を言う。
「松林もありますし」
さすが彼女は反応が早い。
「そうか。今朝みたいな攻撃があったら、どうかと思ったが」
「市内へ向かうと陸軍の滑走路もありますが、今回はどうだったか聞いてません」
そして青葉さんの突っ込み。
「司令、何かご意見が?」
「いや、今朝の攻撃が気になってね」
「そうですねぇ。確かに敵が地上を狙うのは珍しいです」
それを聞いて私は考えた。
(これだけ基地が密集していれば、地方の町でも敵は重要拠点と勘違いするのだろうか?)
いろいろ気になることは多い。私は頭の後ろに手を組んで座席に、もたれ掛かった。
ふと視線を感じて隣を見ると寛代が不思議そうに、こちらを見ていた。
思わず反応した。
「下手な考えかな?」
だが相変わらず無表情の駆逐艦だった。
以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほちん」とは
「美保鎮守府:第一部」の略称です。
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鎮守府内の案内を受けた私は続けて郊外へ。司令には今朝の攻撃の疑問が浮かぶ。 |
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