パズルのかけら。
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アカデミーの廊下を何となく下を向いて歩いていて。

パズルのピースがひとつ、ぽつんと落ちているのを見つけた。

 

きっと、生徒の誰かが落としたのだろう。少し大振りなパズルのピースの落とし主は、おそらく低学年の生徒なのだろうか。

しゃがみ込むようにパズルを拾うと、裏返っていたピースの表には、青空と思われる雲の一部が見えた。

 

完成したら、どんな青空なんだろうか。

 

じっとピースを眺めてみる。このピースの持ち主の子供は、今頃悲しんでいるだろうか。

大事なパズルのかけらが無くなっては、このパズルはずっと完成する事が出来ないんだもんな。

 

 

 

 

パズルのかけら

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「イルカ先生、なーにやってるんですか?」

 

廊下にしゃがみ込んだままボーッとパズルのかけらを眺めていたオレの頭上に、突然声が降り注いだ。

低めで良い声なのに、若干間延びした特徴的な口調。最近、良く耳にするようになった声。

 

「あ、あああ、カカシ先生!」

 

オレは慌てて顔を上げた。

予想よりも近い場所に、カカシ先生の口当てと額当てで覆われた顔があった。

カカシ先生が猫背だからか、前屈みになってオレを覗き込んでいたのだ。

その手には書類を持っている。おそらく、ナルト達の報告書を提出する為にここに足を運んできたのだろう。

 

「あの、パズルのピースが落ちてたんで、拾っているところだったんです」

 

わたわたとそう答えると、カカシ先生は顔の中で唯一見えている右目を少しだけ細めた。

笑ったのか、訝しんだのか、いまいち読めない。

 

「そんなもの、大事そうに見てたんですか?」

 

大事そう…そんな風に見えたのか。まぁ、じっと眺めていたからそう見えて当然だろう。

 

「ええ、ピースが無くなったら、持ち主の子供は悲しいんじゃないかなって。もう、パズルは完成しないですもんね」

 

オレの答えに、細まっていたカカシ先生の目が更に細くなった。

今度はハッキリと訝しんでいるのがわかる。オレ、なにか素っ頓狂な答えでも言ったんだろうか。

 

「へえ、イルカ先生はそんな風に考えるんですか。オレなんて、あーなーんか落ちてるなーくらいのもんですヨ」

 

大げさに両手をやれやれ、と言いたい風に振って見せながら、カカシ先生は肩をゆすった。

その様子に、オレは苦笑を返す。

 

「まぁ、そうなんですけどね。なんとなく、気になってしまって」

 

本当になんとなくなのだ。なんとなく気になって、なんとなく拾って、なんとなく思いを馳せただけなのだ。

 

まだ目新しいパズルのピース。それに印刷されていた、目の覚めるような青の空。

無くした子は、泣いていないだろうか。

今もその子は、このかけらを必死で探しているのだろうか。

 

オレは手の中のかけらを、ギュッと握り込んだ。後で、生徒達に聞いてみよう。ひょっとしたら持ち主が見つかるかもしれない。

 

「オレもかけらをなくしたんです」

 

突然、おどけた口調でカカシ先生がそう言った。その顔を見やると、相変わらず表情はわからなかった。

 

「はぁ」

 

どう答えて良いのか解らず、曖昧な返事を返してみる。カカシ先生の目が細まった。

 

「イルカ先生、見つけてくれますか?」

 

なんのかけらを…そう問いかけようとして、その言葉をオレは飲み込んだ。カカシ先生が、すっとオレに近づいたからだ。

呼吸がかかりそうに近い距離。ちょっと戸惑いながらも、平静を保つ。

 

「ずっと子供の頃から、オレのパズルは完成しないんです。何かが欠けているんです。でも、それが何だかわからないんだ」

 

カカシ先生の顔をじっと覗き込む。今度は、彼が切なそうな表情をしているのだろうとわかった。

彼の言う"パズルのピース"とは、おそらく何か深い心の傷や、悩みの事なんだろう。

 

心の中の何かが欠けているような気持ち。

理由の解らない焦燥感。

 

探しても探しても見つからない、パズルのかけら。カカシ先生は、それを探しているのだろうか。

 

「ええ、一緒に探しましょう」

 

オレは出来るだけ気軽な口調で答えた。それから、にこっと笑ってみせる。

カカシ先生は一瞬きょとんとした風だったが、ふ、と口布が動いた。

ああ、笑ったんだな。今のは、ハッキリとわかった。カカシ先生が笑っている。

 

こういう時の何とも言えないもやもやとした気持ちは、共有する人間がいると、一気に気持ちが軽くなるものなのだ。

アカデミーで何年か先生をしていて、何となく気付いた。

 

子供も大人も一緒だ。自分ではコントロールできない感情を持っている。

子供は何とかして表現しようとするけど、大人は仕舞い込もうとするから、たちが悪いのだ。

カカシ先生は、特に仕舞い込んでしまうタイプなのだろう。

 

ふと、オレもカカシ先生とほんの少し気持ちを共有出来て、嬉しく思っている事に気付いた。

ひょうひょうとしてつかみ所の無いカカシ先生が、オレに感情の一部を見せてくれている。凄く嬉しい事だ。

 

「カカシ先生、報告書を提出するんですよね。一緒に行きましょう」

 

ね、と促すと、カカシ先生の背筋が一瞬だけ伸びてまたいつもの猫背に戻った。すこし、目をしばたかせている。

 

「あーはい。えーとその、行きましょうか」

 

ポリポリと頬を掻くさまは、なんとなく子供っぽい。何だか可愛く思えてしまう。

 

「かけら探しも、頑張りましょうね」

 

笑顔でそう告げると、カカシ先生の目がすうっと細められた。ああ、笑顔をオレに向けてくれているんだ。

 

(---凄く良い笑顔なんだろうな、口布と額当てをしているのが勿体ないな)

 

オレはボンヤリとそんな事を思った。

本当に、カカシ先生の笑顔が見たいと思ったのだ。

 

「空、綺麗ですよね」

 

不意に、廊下の窓から見える青空を眺めながらカカシ先生がオレにそう声をかけてきた。その声は、心なしか少しウキウキとした雰囲気を醸している。

 

「そうですね」

 

笑み声でそう返し、カカシ先生と肩を並べて廊下を歩き始める。

今まででは考えられない位近いその距離が少しくすぐったく感じられて、オレは彼に気付かれないようにくすくすと笑った。

 

 

 

*** end * 2008/12/07

説明
NARUTOの、カカシ先生とイルカ先生でほのぼの。
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