艦これ エンジニアの提督業3
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「提督」

 今日も書類を整理していると、今日の秘書艦である加賀が口を開いた。

「どうした?」

「何故、こんなにも出撃回数が少ないのですか?」

 俺が着任してから約二週間。その間に出撃したのはたったの四回。以前の前任提督の時は一日に何度も出撃していたみたいで、一ヶ月で軽く百回は超えていたらしい。

「いや、だって……わざわざ自分から命を張るようなことしなくてもいいじゃん」

「……え?」

 自分から死地に足を踏み入れて、危険に身をさらす。そんなことは普通はしない、という俺の考えは加賀さんには理解できないらしい。

「ま、とにかく無理してもいいことにはならないからな」

 なんとなく気まずくなって、すぐに作業に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

「艦隊帰投したぞ?」

 日も少し傾いてきた頃、天龍を旗艦として、吹雪、不知火、摩耶が遠征から帰投した。

「おう、お疲れ様。報告書は後でいいから」

「ああ。先に補給済ませてくるから待っててくれ」

 

 

 

「提督」

 天龍たちを見送った後、また加賀が口を開いた。

「なんだ?」

「遠征も少ないですね」

「出撃が少ないから、そんなに資材減らないし」

 遠征をするにしても大抵補給を少々するだけで、出撃はほとんどしていない。そんな状況で無理に遠征に行くこともあるまい。

「はぁ……それでも提督なんですか?まさか、提督の役目を忘れているわけではありませんよね?」

「艦娘たちを指揮して、深海棲艦を撃退する。それくらいわかってるさ」

「ならば何故」

「はいストップ」

 少しヒートアップしてきた加賀の顔の前に手を突き出す。

「俺も考えなしでいるわけじゃない。後三日。三日だけ待ってくれ。そうしたら本格的に動き出すから」

「………わかりました」

 渋々といった様子で加賀は頷いてくれた。

 

 

 

 その日の夜。俺は工廠に出向いて、一番奥のエリアの電気をつけた。そこにはわけのわからないガラクタと、形になっている艦娘用の装備が入り混じった状態で置かれている。

「……機銃でも作るか」

 

 いつか本格的に出撃する日のために、睡眠時間を割いて艦娘用の装備を作っていた。今の段階では全艦の主砲、駆逐・巡洋艦の魚雷が完成している。

 今回攻略する海域ではそんなに必要ないとは思うが、念のためだ。

「いっちょ気合入れますかね!」

 徹夜覚悟で始めた作業は朝日が昇るまで続けられ、俺はいつの間にか夢の世界へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 海が眠りにつく少し前、秘書艦であった加賀は、早く目が覚めたせいで鎮守府内を歩いていた。何気なく歩きながら頭に浮かんだのは、海のこと。

 

「……変わった人」

 窓から明かりのついている工廠を見て、私はつぶやいた。

 彼は元の世界で一度死に、この世界でまた生きることとなった。実際そんなことはどうでもいいし、私たちがどうこうする話でもない。

 彼は龍田に、艦娘は少し変わった人間であるだけだと言ったらしい。龍田の話だとその言葉に嘘はなく、逆に一種の執念みたいなものを感じたと言っていた。

 実際、彼は変わった人間。一般的には艦娘は兵器とみなされている。そうでない人でも、「少し変わった」人間なんて表現はしない。私はそんな彼に一種の気味悪さを感じてた。

 それは私の気のせいなのかもしれない。でも、あの貼り付けたような表情を、どうしても敬遠してしまう。何か底知れないものを感じて、直感的に遠ざけてしまう。

 

「はぁ……」

 恩知らず、と言われればそれまでだけど、彼の瞳の奥。そこには想像もできない闇が広がっている。多分、今の私にそれを知る覚悟はない。

 

 

 

 

 

 

「提督」

 工廠の前まで来て、私は執務室に入る時と同じように中に入った。でも、返事はない。作業に没頭しているのかと思い、工廠の中を探す。

 

 前任の提督はここをほとんど利用していなかったので、私もここまでゆっくりと見るのは初めて。でも、そこらじゅうにある何かの試作品のようなものや、散乱した部品を見る限り、ここでたくさんの物を作っていることがわかる。

「どこにいるの?」

 工廠全体を見て回ったが、どこにも彼の姿はない。工廠を出ようかという時、

 

 

 

 ガン

 

 

 

 どこからか金属がぶつかる音が聞こえた。その音の出所を探っていくと、工廠の壁………ではなく、上手く偽装された扉があった。

「どうしてこんなところに……?」

 腑に落ちないが、とりあえず扉を開けてみた。そこはさっき見て回った工廠とは全く違い、何もかもが整然と整えられていて、一番奥の棚には、私たち艦娘の使う艤装、しかもどれも新品。その棚の裏では、作っている途中であろう機銃に手を添えたまま寝ている提督がいた。

「提督。起きてください」

 座ったまま寝ているところを起こすのは少々憚られましたが、私はゆっくりと肩を揺すりながら声をかける。

「………」

「提督」

「…メロ………」

 寝ぼけているのでしょうか。何か寝言を言っているようで、眉間にしわが寄っています。

「提督………?」

「……ヤ………スナ」

「………」

 うっすらと、提督の額に汗が浮かび上がり、苦しそうな感じで呼吸を繰り返しています。

「…ヤメロ………コロス…ナ……………オレハ……………ヒト……ゴロ……シ……」

「…っ!?」

 私は思わず揺する手を止め、そっと、彼の頬に手を当てた。

 

 

 

 ちょっと見ただけでもわかるくらい、提督は苦しんでいる。理由はわからない。多分、前の世界が関係しているんでしょうけど、そんなことを考えている余裕が私にはなかった。

 彼が苦しんでいるならば、どうにかしてあげたい。でも私は、泣いている子供の宥め方を知らないように、こんな時にどうしたらいいかわからない。

 

「……オレハ……………ヒト……ゴロ……シ……」

 

 私はただ側にいることしかできず、延々と呪詛のように繰り返される言葉を聞いていた。

 

 

説明
 そろそろ出撃も考えつつ、何やらエンジニアとしての仕事も………
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