猫の無限に湧き出す井戸
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 猫の無限に湧き出す井戸が石切のあたりにあるとのこと。見たところ何の変哲もない井戸だが、4の付く日の新月の夜になると出てくるらしい。

 友人とわざわざ見に行った。だいぶ山の方にあって、新興の住宅街のはずれにある。こんなところに猫が出てくるんだったら野良猫が増えて仕方がないのではないか。でも町には野良猫に手を焼いているふうのポスターなどは貼られてない。ガセなのだろうか。

 井戸の前に着く。評判通り蓋がしまっている。蓋を開けると中から猫が出てくるとのこと。いつもは蓋を閉めているから、と友人が言う。猫は増えたりしないのさ。

 私はおそるおそる蓋を開ける。すると中から何かが飛び出してくる。猫だ。一匹じゃきかない。三匹、四匹、十匹……次から次へと出てくる。暗闇なのでみんな同じような猫に見える。

 私はあわてて蓋を閉めようとする。でも閉まらない。中から出てくる猫の圧力で、蓋を閉めることができないのだ。

「どうしよう」

 私は言う。

「朝になれば、猫はみんな消滅する」

 友人はそう断言する。どういうわけか自信があるらしい。

「この猫たちはみんな幽霊で、世界中で死んだ猫の霊がこの井戸の中に詰まっているんだ」

「どうして分かるんだ」

「おれには見えるんだ」

 友人が藪から棒に霊能力の宣言をする。私は信じたくはないが、しかし蓋を押さえたまま一晩中あたふたしているのはいやなので、信じるしかない。手を離した。すると以前に倍した猫が井戸の中からあふれ始める。

「みんな静かだね」

 そうだ。この猫たちは鳴かないのだ。私たちは公園のベンチに座って猫の流れが道を埋め尽くすのを見ている。鳴かない猫の群れが静かに道を流れていく。毛並みが街灯を反射して銀色に見える。それがとてもきれいだ。

「消えなかったらどうするんだ」

 彼に尋ねる。彼はタバコを吹かしてあいまいに笑う。

 

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