IS ゲッターを継ぐ者
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「滝沢君」

 

「は、はい……」

 

「何か言うことはあるかい?」

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

 

「……ありません」

 

「ならば、歯を食い縛りたまえ」

 

 

 

 

 

 

 ――スカァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

 

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!??」

 

 

 イイ笑顔のケンツより、処刑宣告を受け入れた光牙。下された処刑という名の一撃に、絶叫しのたうち回る。

 

 

「あ、あれは痛いわね……」

 

「本気ですよ、完全に……」

 

「ワシの次元防壁でも防げんわい」

 

「あっ、頭にッ! 頭ン中にドリルテンペストがぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ようはめっちゃくちゃ痛い訳である。痛がる光牙にアミやリエ、引山は御愁傷様……と手を合わせる。身を持って知っているから。

 

 何故こうなったのか説明せねばなるまい。

 

 修理の為にベーオを調べた、まではよかった。だがベーオの戦闘記録を観てケンツが静かに怒り……冒頭のシーンに至る。

 

 竜馬達にしごかれ、ゲッターパイロットとなった光牙をも痛みで悶えさせたのは、ケンツの手により繰り出された一撃。

 煙を放ち光を纏うその名は……。

 

 

「手刀奥義が一つ。一の技『ギガサンダーチョップ』」

 

「ダッサい名前じゃの」

 

「名前に反しておそろしいけどね……」

 

 

 そう言い震えるのは、ISスーツの上から白衣を纏ったへんtもとい女性『篝火ヒカルノ』。第二研究所所長だ。

 

 半端ない自由人の彼女やぶっとんでる引山でさえ、ケンツの手≪ゴッドハンド≫には敵わない。

 

 なんでも倉持技研で最強らしく、働いている全員が心に刻み込んでいる……らしい。

 

 

「機体に無茶をさせすぎだ! あんなことしてたら機体がもたないし可哀想でしかない。君はあの変態機動で満足してるかもしれないが、機体が壊れたら元も子もないだろう! 乗り手ならもっと機体のことを考えなさい!!」

 

「は、はぃぃ……」

 

「最近の子は全く、ISをおもちゃか何かだと思ってるんだからもう!」

 

 

 ガミガミガミガミくどくどくどくど……。

 

 

 お父さんの雷とお母さんの説教をミックスしたような有無を言わさないお叱りに、光牙は縮こまり正座で頷くしか出来ない。

 

 結局、約二時間お叱りは続きまして。

 

 

「……今回はこれ位にしとくけど、本当に気を付けること。冗談抜きで死んでたかもしれないんだから」

 

「……はい」

 

 

 結論から言うと、ベーオは既に限界を越えていたのだ。

 

 ゲッター世界での最終決戦でボロボロになり、直したといっても騙し騙し。授業や模擬戦での度重なる運用。そしてメカザウルス、異世界でのインベーダーにメタルインセクターといった強敵との戦いが決め手となった。

 

 炉心はガタガタ。装甲は全身の殆どが壊れ、内部機構もオイルが詰まったり焼き付いてたりでメチャクチャ。中枢と武器が辛うじて無事なだけ。飛行すらままならない状態で、光牙を巻き込んで壊れててもおかしくない状態だったという。

 

 

「ベーオが、そんな」

 

「正直ここまで保ったのが奇跡じゃ。機体に救われたようじゃの」

 

 

 唯一無二の相棒。幾多の戦いを共に潜り抜けてきた愛機、ゲッターロボベーオ。

 

 無理はさせまいとを考えていたつもりだったが、それはベーオあってこそのこと。

 

 ベーオが守っていてくれたからだったのだ。

 

 

「まさに愛機としての役割を果たしていたんだ。この機体は」

 

「……ベーオ」

 

 

 引山のケンツの言葉に、光牙は恐る恐るベーオへと手を伸ばし、ひび割れた装甲に触れる。

 

 ひんやりと伝わる鉄の感触。けどその奥から、自分と一緒に戦ってきてくれた相棒の熱――眠れる意思とも言うべきものがあるような気がした。

 

 込み上げてくる、懺悔の感謝の気持ち。

 

 

「ベーオ……ごめん」

 

 

 そう言うのが精一杯だった。

 

 

「は?いはい。この子は私らがちゃんと見るから」

 

「アミ、リエ。滝沢君をお願いしていいかな」

 

「はい」「オッケー」

 

「だははは! 調べまくるぞ?!」

 

 

 暗くなってた雰囲気を、ヒカルノが手を叩いて切り替えさせ、ケンツは光牙のフォローを頼む。引山はまあ……あれとして。

 

 ベーオを本格的に調査するので光牙はアミとリエに連れられていく。

 

 

「なんで川に?」

 

「釣りよ。釣り」

 

 

 いやなんで釣りなのだと言いたいが、とりあえず受け取った竿を研究所近くに流れる川に垂らす光牙。

 

 気持ちが落ち着いてくると、はぁぁ?と大きく息を吐いた。

 

 

「情けないです……。ベーオがあんなになるまで気づかないなんて」

 

 

 相棒であるベーオを光牙は強く、自分のなかでは一番と言っていい程思っていた。その分ショックが大きい。

 

 

「まあまあ滝沢君。そんなに落ち込まないで」

 

「お父さんや篝火所長達の腕は確かですから。……引山博士も」

 

 

 どうやらアミとリエも引山のハチャメチャぶりには参っているようだ。

 

 

「でも相棒をあんなにして、倉持さんに怒られても仕方ないですよ」

 

「まあそれはあるわね。お父さんはISの使いようにはうるさいから」

 

「どうして倉持さんはISの開発に?」

 

「お父さんも最初、ISを見た時は乗りたいと思ってた。でも性質で乗れない。それでも諦めきれなくて、ISに関わって平和とか、災害救助とかに役立てたいんだって」

 

「PICやシールド、絶対防御にコアやソフトウェアに量子化技術。上げたらきりがないから」

 

 

 別にISという形に集中させる必要はなく、得た技術を他のことにも転用すれば道が広がる。ISの可能性を信じているのだ。だから機体をボロボロにした光牙にチョップをしたのも分からなくはない。

 

 

「……PICってなんでしたっけ」

 

「いやそこ!? ていうか知らないときますか!?」

 

「パッシブ・イナーシャル・キャンセラーの略で、全部のISはこれでH・K・T、浮遊・加速・停止をしてるの」

 

「あ、あれですか」

 

 

 このバカっぷりには思わず父のチョップが分かったアミ、リエであった。

 

 

「それにしても……光牙君。IS学園という天国の感想とかない?」

 

「はい?」

 

「だってぇ、周りは女の子だらけなんて思春期男子からすればウハウハじゃん。天国かユートピアかエリシオンよ」

 

「……地獄でディストピアでカオスの間違いじゃないんですか? どっかのラノベじゃあるまいんだし」

 

 

 それを言ったら終わりである。

 

 空気読めないこと言ったからか、アミとリエの方にばかり魚がヒットする。

 

 

「あ、また来ました」

 

「私も?」

 

「……餌だけ食われてる」

 

 

 自分の両隣だけヒットし魚籠に魚が入ってくのに光牙は「うぐぐ」と唸る。竿を揺らしたりして誘ってみるがちっとも食いつく気配がない。自分だけ置いてきぼりな感じがして面白くない訳で、何かないかと考え……閃いた。

 

 

「あれだ」

 

 

 そう言い近くに落ちていた木の棒を拾う光牙。アミから借りたナイフで先端を尖らせ出来たのは……。

 

 

「手モリ?」

 

「直で狙います」

 

 

 竿で無理なら直で。サバイバルかと言いたい。

 

 

「いやその理屈はないんじゃ……」

 

「やってみなきゃ分からないです。……そこっ! サーモンストライク!」

 

 

 謎技を叫んで手モリ投擲。びしゅーん!と空を裂いて水面に突き刺さり、突き立つモリ。

 

 光牙は濡れるのも気にせず、ばっしゃばっしゃと川を歩いていきモリを回収しに行く。

 

 

「いや流石にモリじゃ……」

 

「遠いし、木だし……」

 

 確かに二人の言う通り。思わず苦笑するしかないが、

 

 

「とったどーーー!!」

 

「「ウッソォ!?」」

 

 

 やっちまいましたコイツ。

 

 光牙の掲げる木の手モリ、その先に……確かに魚が貫かれていた。

 

 

「ほ、本当にやった……」

 

「K・M・G……これ、マジで現実?」

 

「やっぱ竿よりコッチだな。よっしゃ、取りまくるぞー!」

 

 

 唖然とするアミとリエ、それを他所に光牙はモリ投げては抜き、投げては抜き。計十五匹の川魚を仕留めたのだった。

 

 

「そのモリテクニックは誰かから教わったの?」

 

「師匠の中に無人島で遭難した人が五人いまして。その人達からです」

 

 

 

 

 

「……それで魚をとってきたと」

 

「木のモリでとはやるのー! ワシなら面倒くさいから元素分断砲ぶちこんで水素と酸素に分けてやるところを」

 

「冗談でも止めて下さい博士」

 

「と言うか後でモリ調べさせてちょ。あの川の魚捕ってきたとか、めっちゃ気になるんだけど」

 

 

 まあ魚は夕飯になるそうなのでさておき。

 

 

「ベーオの調査は一通り終わったから、修理についてだね」

 

 

 第一研究所の所長であるケンツがそう切り出す。ケンツ、引山、ヒカルノ。それに光牙とアミとリエを加えた釣り組を加えた六人がケンツの仕事部屋に集まっていた。

 

 

「結論から言うと、装甲から内部機器、関節といったほぼ全てのダメージが酷い。中途半端に直しても意味はいとみた。……滝沢君の変態機動を含めるとね」

「うぐ」

 

「じゃがのー。データを見る限りじゃと、あの機体ではいずれ追いつかんくなっとたと思うわ」

 

「だから、今回の機会に乗じて改修したらどうかって考えてね」

 

「ベーオを改修?」

 

 

 思わず聞き返した光牙に、ケンツはうん、と頷く。

 

 

「これからもベーオを使うことを考えて、使っていけるように」

 

「これからも、ベーオを……」

 

 

 唯一無二の相棒。壊れたそいつを、光牙は直してやりたい。答えを出すまでに、そんなに悩まなかった。改修への不安、危惧は少しあれど、悩むより進む。自分で考えて自分で選んだ結果を、目の前の人達を信じたいと思いながら、光牙はケンツ達に頭を下げた。

 

 

 

「倉持さん。改修をお願いします。ベーオをもう一度、飛べるようにしてやって下さい」

 

「分かった。任せておいてくれ!」

 

 

 光牙から伝わってきたベーオへの気持ちを理解し、ケンツは頷いて胸を軽く叩いた。任せろ、と言わんばかりに。

 

 

「案外話分かるじゃないの」

 

「よっしゃあ! では早速次元連結システムを」

 

「搭載しないで下さい……」

 

 

 危うくベーオがゲテモノ化するのを防ぐと、ケンツはさて、と仕切り直す。

 

 

「実は滝沢君。君に話があるんだが」

 

「話?」

「ここの外の人からの話でね」

 

 

 そう言うケンツの表情は初めて見る真剣なもので、周りも然り。それで光牙は察した。その話には何かあると。重大なものだと。運命さえも左右するのではないかと。

 

 

「……はい。こちらは大丈夫です。では、お願いします」

 

 

 内線を使い何処かに電話するケンツ。間もなくして出入口の開き、誰かが入ってきた。

 

 

「え、二葉先生?」

 

「こんにちは。滝沢君」

 

「………………」

 

「ケントン? え、え?」

 

 

 現れたのはサキにアヤであった。知っている人物に、大事な話というキーワードが噛み合わず、混乱してしまう光牙。

 

 

「やれやれ。お前さん、忘れてるのかい」

 

「え……」

 

 

 そこに聞こえてきた声。男の声だ。それを聞いた瞬間、光牙の中で何かが反応する。光牙の中の中、奥底から聞こえてくる声と合わさる。

 

 

(この声を、知ってる?)

 

 

 ピタリ、と一致。確か聞いたのは自分が小学生の時。近所に住んでいた少女。その側にいた長身の男で、確か……。

 

 

「よう。久しぶり、光牙」

 

「あっ、あーーーー!! 貴方は!?」

 

 

 アヤの後ろから現れたオールバックの男性を見た瞬間、光牙は全て思い出し、叫んだ。

 

 

 

「隣に住んでた牧師で芸術家でお笑い芸人のチャールズおじさん!!」

 

「「「は?」」」

 

「HAHAHA☆ その通りさ」

 

 

 ……覚え方はかなりアレであったが。

 

説明
二十二話その二です。
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コメント
感想ありがとうございます。そんなしたらエンペラーモドキになっちゃうじゃないですかヤダー。(剣聖龍・零)
いっそ、次元連結システムを搭載してしまえば無敵になるんじゃないかと思ってしまった今日この頃。(mokiti1976-2010)
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