ジョージ エクソシスト |
ジョージは所有している訳ではなく、不法占拠している。空いている家に勝手に入ったのだ。まあ、その家は、もう何年も誰も住み着かず、管財人も見に来ず、放置されていたから、ジョージが追い出されることはしばらくはなさそうだった。それに、ジョージはその家を綺麗に使っていた。掃除もしたし、メンテナンスもした。門扉が壊れた時は新しい門扉に付け替えさえした。ジョージ曰く、家の正式な所有者から、賃金をもらったっていいぐらいだ。とはいえ家の正式な所有者は、どうやら青森にいるらしい、ということぐらいしか分からない(調べたとのこと)。
幽霊屋敷。ジョージはそう呼んでる。近所の子供たちも噂している。そして実際、出るらしい。ジョージは見たことのある幽霊は三人だと言う。髪の長い、若い女。赤い長靴を履いた男。それから壁だろうが天井だろうが、どこにでも座っているしわくちゃの老人。それ以外は見たことがない。みんな元この家に関係した幽霊だということだけれども、ジョージの主張する霊能力がどこまで本当かなんて分からない。
ついでに言うと、ジョージ自身幽霊みたいなものだ。もちろん、実体はあるけれども、ジョージという名前だってきっと嘘に違いない。そのことをジョージに指摘すると、ジョージは悲しそうに「信じてもらえないなあ」とうそぶく。昔はテレビに出ていたこともあるのだという。その時のビデオだって実家に帰ればあるよと言う。本当かどうかはあやしいもの。
ジョージがなぜこんなところに住んでいるのかと言うと、除霊をするためだと言う。別にこの家の正式の所有者とは関わりはないんだろうと聞くと、ジョージは首を横に振る。いわく言い難い複雑な関わりがあるんだとのこと。実のところ、髪の長い若い女はジョージと過去に深い関係があったのだとという。「彼女だけでも何とか成仏させてやりたいんだ」、なんてことを酔っぱらうとたまに言う。
ジョージは毎日除霊をしている。今のところ効果はないようで、幽霊は相変わらず出現している。幽霊は家を中心に半径五十メートルぐらいなら現れることが出来るよう。付近を通りがかる人をびっくりさせることもある。家の周りで悲鳴が聞こえるたびに、ジョージの除霊は捗っていないことが分かる。そもそも、除霊なんてする気があるのだろうか。
「あるよ。何しろ迷ってしまっているんだからさ、なんとかあの世へ行かせてあげなくちゃ」
幽霊からすりゃ、大きなお世話なのではないか。
夜。家に灯りが点ると、たまにジョージの姿が見える。ジョージは今日も除霊をしているのか。遠くでも分かる、悲しそうな顔。カーテンぐらいつけりゃいいのに。でも、ジョージはそんなことはしない。あるものだけで何とかするよ、と言っていた。「ここに僕のものを加えたら、僕も幽霊屋敷の一員になっちまう」。
そして件の日。朝から不穏な天気。気温はチリチリ上がり続け、蝉はひっきりなしに鳴いている。一雨降ってきてもおかしくない感じだ。
ジョージはその日、朝から除霊を試みていた。ジョージの除霊は火薬除霊というもので、火薬の威力で幽霊を吹き飛ばすらしい。念仏とかじゃあないのか?
「僕ら合理主義エクソシストたちは、要はその場所にある何か、人の五感に感じられたりする何かを発生させている原因がその場所にあると考えています。なのでその場所をクリーニングする。そのための手法には火薬やリフォームや土壌改善が行われます。21世紀のエクソシストに必須の知識は観音経を暗唱できることじゃなくて、建築学とか地質学の知識であることが多いんです」
でもそこで火薬はおかしくはないか。
「火薬というのは一種の謂で……まあその方が字面も派手でよいからね。いかにもゴーストバスターズ的な……アメリカ的除霊方法。言ってみれば製油所のフレアスタックみたいなもんだよ。無害な空気に変えるために、あえて火をつけて燃やすような手法のこと」
たぶん失敗したのだ。昼の12時過ぎ。雨が降っても気温は下がらない。しとしとと音もなく降る雨の中で不思議と何もかも静まりかえっていた。突如、幽霊屋敷が爆発する。火薬の分量を間違えたのだろう。火山弾が飛んでいくように家の天井や破片が飛んでいく中に混ざって、飛んでいくジョージの姿。確かに、それは飛んでいくジョージだった。除霊帽子を被り、除霊マスクを被り、除霊チャッカマンを持ったジョージが、爆発の炎とともに空高く飛んでいき、そのまま戻ってはこなかった。
ジョージは落ちてこなかった。爆風の威力で、どこまでもどこまでも飛ばされて、宇宙空間まで飛ばされてしまったのだろう。なんせ未だに死体は発見されていない。ジョージは飛んでいった。どこまでかは知らないが、とにかく。それがスマートな考え方だ。
幽霊屋敷は粉々になった。延焼しなかったのがせめてもの救いだが、住んでいたはずのジョージのことは誰も記憶していない。当然だ、不法占拠だもの。だからジョージが飛んでいったことは、誰も知らないってことになってる。
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