ふたごぐらし |
ふたごぐらし
***
私はある男の子に恋をした。
一つ年下の強面で、でも少し可愛いところもあって。
一緒にいると気が楽で落ちつくことができた。
そして私は告白をした。
「燈馬君のことが好きなんです…」
「先輩…ごめん。俺は…」
唐突に出会った私に優しい彼は私と友達の関係でいてくれた。
ただ優しいだけじゃなくて良いとこも悪いとこも隠さず見せてくれて
どんどんこの人に惹かれていくのがわかった。
でも彼に好意を寄せていたのは私だけではなかった。
彼の幼馴染の子も私と同じくらい強い気持ちを持っていた。
いえ…私以上に想っていたのだろう。
だから私はこれまでにないくらい強い気持ちを持って告白した。
けれど彼が選んだのは私じゃなく、幼馴染の子だった。
辛かったけれど妙に納得してしまった。だってすごくお似合いだったから。
かといってそんなすぐに気持ちなど切り替えられるはずもない。
どこかから見ていたのか後日、妹が怒りに任せてあの人に襲い掛かりそうに
なったのを私は必死に止めていた。
誰かが悪いわけじゃないのに。でも涙が止まらなかった。
心の弱い私に対して一番泣きたくなったんだ。
***
【姉・志真】
「おはよう、姉さん」
目を開けると微笑みながら優しい声で起こしてくれる妹の祐貴。
一卵性の双子であるからか、見た目はそっくりなんだけど祐貴の方は自信に
溢れているからか私と違ってキラキラして見えた。
「おはよ〜…」
「ごはん食べられる?」
「うん…」
目を軽くこすりながらベッドから起きあがって、食卓テーブルまで足を運んだ。
座ってから置いてある味噌汁に手を伸ばして一口。飲むと体がぽかぽかして
目も冴えてきた。
「どう?」
妹が私に聞いてきたから私は笑顔で返した。
「うん、美味しい」
「そっ、よかった」
それを聞いた祐貴も嬉しそうに笑っていた。今は本当に平和だ。
がんばって告白して振られてから数年。卒業してからは社会の勉強するためって
一人暮らしをしようと私から提案をしたら心配だの何だのって両親にえらく
反対されたっけ。
そこで祐貴が私を庇うようにして、じゃあ祐貴も一緒に住むということを言ったら
渋々だけどお父さんもお母さんも了承してくれた。
ウチはお堅い家系で、すごい大金持ちってほどでもないし地位も高いわけでもない。
それでも相手はちゃんとしないととか。花嫁修業してこいだの。
ちょっと時代遅れの考え方をしている。
今時箱入り娘とか、本人が不憫なだけなのは私も前に告白した彼とその友達と
付き合って思い知らされた。だから、少しでも世間に慣れないと。
とはいっても大人になったら普通になれるかなぁって少しでも期待していたけど
そんな風になれず、今でも優しい職場の人たちに守られる形でバイトをしていた。
ありがたいことは周りの人たちに恵まれたことかな。
「姉さん、また余計なこと考えてない?」
「え?」
途中で祐貴に釘を刺されてドキッとした。
「姉さん、一度考えると周りが見えなくなるくらい集中して神経使うんだから
ほどほどにしてよね」
「ごめん」
まさにその通りだった。
こういうところは全くコントロールができずに、何もしていないのに疲弊することもある。
そんなポンコツの私を見て苦笑しながらも優しい言葉を言ってくれる妹は
天使のように見えた。
祐貴とこういう普通のやりとりが気持ちを落ち着かせてくれる。
そういう点だとあの人と同じかもしれないかな。
食後のお茶を飲んでスッキリした私は先にバイトに出る妹を玄関まで見送ってから
時計を見て、少しだけゆっくりしてから私もバイトの準備をすることにした。
祐貴の仕事は体を動かすことの好きな彼女らしいスポーツクラブでの子供達の指導係。
優しく時には厳しくちょうどいいバランスで教えてくれて周りからの評判は
すごく良いようだ。
一度気になって見にいった時、関わっていた人たちから教えてもらった。
祐貴が褒めてもらえると私まで自分のように嬉しくなったのを思い出した。
私は飲食店で卒業してからずっと働いている、接客はほどんどできないから
主にキッチンの方で仕事をしている。
人数はいつも足りてる状況にあるので多少ミスしてもお互いにフォローしあえて
雰囲気も良い感じだし、そういうところに勤められて良かったと思っている。
挨拶を簡単に済ませて着替えて職場に向かうと、一緒にキッチンで働いてる年下の
男の子と再び挨拶をして簡単に会話をする。
そういえば最近この人とはシフトがよく被ってるような気がするなぁって何となく
思っていた。
そして特にトラブルもなく順調に仕事をして終わらせると一緒に仕事をしていた
男の子から軽い感じのノリで私に話しかけてきた。
「そういえば水沢さんってぇ、付き合ってる人っています?」
「え、え? い、いえ…いませんけど」
「じゃあじゃあ、好きな人っています? もしいなかったらなんですけど…」
あ…。
好きな人っている?
その言葉を聞いて私の頭に過ぎったのは振られたあのこと…ではなく妹の祐貴の顔だった。
そういえば祐貴には私が好きな人ができる前から色々私のためにしてくれていたっけ。
そう一度意識してしまうと振られたあの頃よりもはっきりとした形として好きという
感情が私の中で生まれてきた。
「ごめんなさい…」
「へ?」
「好きな人…います」
「あ、そうか。そうっすよね、水沢さんみたいな綺麗な人で誰もいないってこと
ないっすよね」
「ごめんなさい…」
「謝らなくていいすよ。自分から言ったことなんで。あ、でもこれからも
これまで通り仲良くしましょっ。ねっ」
「ありがとう」
本人は隠しているつもりでも明らかにがっかりしてるのがわかっちゃって
ごめんなさいともう一度だけ心の中で謝った。
あぁ、もしかしたら彼もこんな気持ちだったのかもしれないなと不思議と冷静になって
そう思えたのだった。
***
「姉さん、ただいま〜」
「おかえりなさい〜」
いつもの聞きなれた声、それでもいつもと違うように感じられる。
それは自覚をしてしまったからだろうなぁ。鍋の中を混ぜる動きを止めて
弱火にしてから私は玄関まで小走りで妹のところまで行く。
「今日はどうだった?」
「うん、ばっちり。みんな覚えが早くて教えがいがあるよ〜」
「そう、おつかれさま」
「ありがとう、姉さん」
爽やかに笑う顔が眩しく感じて、つられて私も笑顔で迎えた。
前にカレーが好きだっていってたから久しぶりに作ってみた。
サラダも用意して、お互いの仕事や何かあったことを話しながら食事をする。
何だかこういう普通だけど幸せなことってあるんだなぁって改めて思っていた。
「ねぇ、姉さん。何かあった?」
「え、なんで?」
唐突に聞かれて思い出すも大したことはなかったような。
あ、あれがあったか…。
「今日、職場で告白っぽいのされた」
「え!?」
私がそう言うと間髪いれずに反応する祐貴。びっくりしすぎて少しむせていた。
私のことなんかでこんなに反応してくれるの祐貴しかいないから何だか愛おしい。
「断ったけどね」
「うん…まぁ、よかったけど。なんで?」
取り乱したのが恥ずかしかったのかティッシュの口元隠しながら拭いた後、
ちょっと乗り気じゃない顔をしながらも聞いてきた。
「私には祐貴がいるから」
「…!」
一瞬ドキッとしたのが目を見てすぐにわかった。
私への気持ちも今考えると普通ではなかった。それよりも深い気持ちがあるような…。
でも私は自分のことに全くといっていいほど自信が持てないからただの妄想と
言われたらそれまでだけど…。
「私のせいかな…?」
「ううん、祐貴のせいじゃないよ」
私の方もドキドキしてきた。それから先のことを告げるのはあの時以来だったから。
さらっと言おうと思っていたのに…やっぱりこういうのは慣れないものだ。
私は胸元に手を当てながら真剣な眼差しで祐貴を見た。
「その告白のおかげでね、私気付いたの…。祐貴に感じていた想い」
「姉さん…」
「私、祐貴のこと好きみたい…。もちろん、私の言いたいことわかるよね…?」
「うん…」
「もし祐貴にその気がなかったら返事しなくてもいいから」
私の言葉が止まる直前に祐貴は私の空いていた方の手を握って前のめりになって
私の顔の近くまで顔を寄せてきた。
「私も同じだよ…!」
すごく必死に熱い気持ちが伝わってきて嬉しかった。
「小さい時からずっと、志真のこと大好きだったよ!」
「祐貴…」
初めて…名前で呼んでくれたような気がする。嬉しい…すごく嬉しかった…。
「でも姉妹だし…女同士だし…ずっと言えずにいたんだ…」
「そっか。だからあの時もあんなに辛そうだったんだね…。ごめんね…」
「姉さんが謝ることないよ。私が勝手に思ってただけだから。でも本当に私でいいの?」
「え?」
「だから…さっきも言ったけど、姉妹だし…」
「ふふっ、そんなこと気にしてるの? だって一番大事なのはお互いの気持ちじゃない」
「え…?」
「だって相手が男の人でも…好きじゃなかったら一緒にいる意味ないでしょ?」
そんな私の言葉にきょとんとして黙ってしまう祐貴。
何かおかしなこと言ったかしら?
「…姉さんって時々、大胆なこというよね」
「そう?」
「うん」
自分ではそういうのわからないなぁ。そんなこと思いながらも想いが伝わったことが
今は一番嬉しくて私は笑みを浮かべながら祐貴に言った。
「祐貴、目瞑ってみて」
「え!?」
「いいから」
「う、うん…」
緊張してるのか目を瞑ってから少し汗ばむのが見えて私はちょっとした
悪戯心で祐貴の口元にアレを近づけた。
「はい、あーん」
「あーん…。え!?」
「ちゅーだと思った?」
「そ、そんなことないよ…」
祐貴の好きなカレーを一口分掬って彼女の口に運ばせた。
一度好きな人とこういうことしてみたかったのをちょっと勘違いさせてやってみた。
思ったより可愛い反応を見せてくれて嬉しかった。
「もう…姉さん。今日は絶好調だね」
「そういえば私達双子なのに何で姉さんなの?名前で呼ばないの?」
それは前から不思議に思っていたことだった。確かに生まれる順番とか形式的に
姉、妹というのはあるけど、同じ年なんだし名前で呼び合ってもいいはずなのに。
「ううっ…それは…姉さんに憧れていたから」
「へ?」
自分のどこに憧れる要素があるのかちっともわからなくて素で変な声を出してしまった。
「姉さんは私にとっての理想の女の子だったんだよ。優しくて仕草が可愛らしくて
最初は私もああなりたいってとこから始まって。同じ年くらいの男の子や女の子に
からかわれて泣かされていたのを見てから、護りたいと思うようになったのかな」
「ああ、だからあんなに暴力的に」
思い出して私は小さく笑うと祐貴は顔真っ赤にしていた。
「あれはほら、子供だったから」
「高校生くらいまで続いてたけどね、でも…すごく嬉しいよ」
理由を聞くとなおさら嬉しくなる。それだけ私のことを思ってくれていたのだから。
「姉さんがお姫様で私が王子様的な、そんな風になれたらいいなって小さいながらに
思っていたから、今思うと全然違ったけど」
「ほんとにね…、祐貴だって十分お姫様ってくらい可愛いけどね」
「ごふっごふっ!何を言うの!?」
言ってお茶を啜る祐貴に私がそう言うとすごいむせながら顔赤くしながら
否定してくる。そういう反応するのが可愛いなって思うんだけど。
「そういう一途なところ。私より乙女だな〜って思うけど」
「もう、やめて!くすぐったい!」
「はははっ」
本当に…私はこんなに可愛い妹がいたのにどこを見ていたんだろうって
今更ながら気付いた。
「こんな私だけど、私の傍にずっといてくれる?」
「もちろん。っていうか姉さんの傍以外に居場所あるように思えないし」
「それとこれを機に名前で呼び合ってもいいと思うんだけど」」
「それは無理!ずっと姉さんで通してたのにすぐになんて恥ずかしすぎるって」
「さっき咄嗟に呼んでくれたのになぁ…」
「それは…その…」
「嬉しかったのになぁ…」
わざと拗ねるようにして言うと戸惑い、困る妹の姿が可愛い。
めんどくさい姉の一つ一つに反応してくれるから、すごく可愛い。
数少ない…私が私でいられる場所。これを大事にしたかった。
「あの…姉さん…?」
「ごめんね、無理にとは言わないよ。祐貴のペースでがんばってこ?」
「冗談…とは言ってくれないんだね」
「嬉しかったのは本当だもの。…ふふっ」
「まぁ、喜んでくれたならいいけど…。でもどうして名前呼びに拘るの?」
「えっ、だって恋人同士になったら名前の方が自然じゃない」
「えっ」
「えっ、違った?」
「い、いや…違ってはいないけど」
私が堂々と恋人発言してびっくりしたのか少しの間きょとんとする祐貴。
その後、照れている祐貴に私は隣まで近寄ってから耳元で囁いた。
「今日から一緒に寝て…いい?」
「うん…。いいよ、ねえさ…志真」
「ありがとう」
***
まだキスとかしないけれど、こうやって傍にいて温もりを感じられる距離が
心地良かった。今の私はあの時以上にドキドキして心地良くなれる相手を見つけて
これまでの人生の中で一番幸せな時間を過ごせた。
そっと寄り添って服越しにその愛おしい存在を感じる。
これから二人で幸せになっていこうね、祐貴。
とある休日に二人でだらだらと寝ている時に祐貴の寝顔を見ながら
そう思っていると、私の気持ちに反応して握る手に力が加わっていた。
双子だからなのか、愛し合っているからなのか、その一つ一つの行動に
愛しさと幸せを感じる。
そんな可愛い妹とこの先、未来をずっと一緒に歩んでいきたいと思った。
お終い
説明 | ||
少し前に描いた双子の設定絵のお話。 http://www.tinami.com/view/855225 少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。 |
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