IS ゲッターを継ぐ者 |
「ハロー、あっしは牧師で芸術家でお笑い芸人のぐるぐるメビウス、チャールズというものでゲス?。こちらは娘のアヤ」
「よろしくピース。では毎度毎度の小ネタを一つ」
「超棒読みね」
「いや一体何が始まってるんです!?」
「まあふざけるのはこれくらいで真面目な話をしようか」
キリッと変わるチャールズ。何処にツッコめばいいのだろう。
「チャールズおじさんって、じゃあ君はアヤなの!?」
「やっと思い出したんですか。貴方は」
チャールズ、アヤは光牙が小学生の時に少しだけ隣に住んでいたご近所さん。いじめられていたアヤを光牙が助けて、そこからアヤ、チャールズと仲良くなった。互いに遊んだり、チャールズのしょうもない話を聞いて光牙にだけウケたり、一度だけ食事にも行ったりしたのだが、チャールズの都合で三ヶ月程で引っ越してしまったのだ。
「でも、なんでチャールズおじさんやアヤが……」
光牙には不可解でしかなかった。何故なら二人は……ゲッター世界で出会った人物なのだから。
まさか、と思う。
「お前さんと同じさ。俺達も、突然この世界に来ちまったんだ」
「え、えぇっ!?」
「大丈夫だ。この場にいる人間は事情知ってるから問題はない」
「うん。無問題だよ」
ケンツ達が頷く。いや問題はなくとも疑問大アリである。
「一体、どういうことなんですか?」
「俺とアヤがこの世界に来たのは十年近く前だ。気づいたらこの世界に来てて、原因は不明。戸籍とかもないから路頭に迷ってたんだが、そんな俺達をある人が助けてくれてな」
スマホを取り出し一人の人物を見せるチャールズ。映し出されたのは、白衣を纏っている樽みたいな体型の男性だ。
「こいつの名は如月勇斗(きさらぎ はやと)」
「はやと!?」
「ゲッター2のパイロットとは関係ないからな」
一安心である。
「科学者だった如月はなんでかは知らんが俺達に良くしてくれて、俺とアヤは如月の所で暮らしていた。真面目で人当たりのいい奴でウマが合ってたんだが……。白騎士事件でそれが変わっちまったんだ」
「っ……」
ISが注目を浴びるきっかけとなった白騎士事件。科学者の如月はIS開発に関わり始め、チャールズもそれに参加した。開発を進める中でアヤも検査を受けたのだが、そこでアヤはとんでもない結果――IS適正【S】を叩き出してしまったのだ。
「ISの適性値は持って生まれた素質が一番大きく影響すると言われている。訓練等で上がることもあるけど、Sランクは今でもそんなにいない。それこそヴァルキリーやブリュンヒルデクラスだけだ」
「………………」
ランクだけなら世界最強の五人と肩を並べている。IS操縦者なら舞い上がってしまいそうな内容だが、アヤはちっとも嬉しそうではない。
「……それを如月は利用したんだよ」
チャールズが重く口を開く。アヤを非公式のテストパイロットとして扱い、ISの開発や実験を行った。ランクSをいいことに過酷な実験を行い、人道を無視したのも多くあったという。
「それを警察に言ったりしなかったんですか? そうすれば……」
「出来なかったんだよ。この世界の人間じゃないことを知ってた如月は、それや今までの恩義を盾にして脅してきたんだ」
本来はいない人間と分かれば、どうなるか分からない。娘を救いたくても救えなかったチャールズは、握り拳を振るわせながら語る。チャールズも同様で、如月の下にいるしかなかったという。
如月はその後も実験を繰り返し、やがて『キサラギ研究所』という研究機関を持つまでになった。
そして遂に、ISのあるシステムを完成させる。
「『オーバードライブシステム』。読んで字の如く、普通では無茶な機動をさせる。リミッター解除に似たもんだ。音速に近い超加速とかな」
「でも、そんなことしたらパイロットが……」
「あぁ。当然とんでもない負担がかかる。普通の人間なら耐えきれる訳がない。……だが如月は、その穴を絶対防御で無理矢理塞いだんだ」
ISの基本機能の一つ、絶対防御。エネルギーを大量消費する代わりにパイロットの命を守る。この機能によりパイロットは安全を大きく約束されていて、ISが注目される理由の一つでもある。
「通常、絶対防御は外部からの攻撃からパイロットの命を守る。なら内側、機体の方からも発動するんじゃないかとな」
「それってまさか……!」
無茶な機動の反動を絶対防御で中和し、パイロットの命を守る。それが、オーバードライブシステム。
しかも試作品がアヤのIS、ディープ・アイに搭載されテストも散々行われたという。
「今のアヤの体は実験やオーバードライブの反動によりボロボロだ……。本当なら今すぐでもISから降ろしたい」
「そんなこと、出来る訳ないでしょう」
アヤが呟く。それを知りながら、如月は更に指示を出した。
光牙の存在だ。
「男性操縦者に目をつけたアイツ(如月)は、アヤを学園に送り込んだ。俺が軽々しく話したから悪いんだが、知り合いだったのを利用してデータを取ってこい……ってな」
話した時にはチャールズにも想像出来なかっただろう。最も、光牙は覚えていなかったから意味はなかったが。
「そしてここにいるのも、光牙が倉持技研に行くから追えって言う如月からの指示があったからでな」
「……父さん。そろそろ話してくれませんか?」
「ん?」
「惚けないで下さい。こんなに喋ってしまって……如月所長に知れたらどうするんですか!」
黙っていたアヤがチャールズに詰め寄る。けど手で制しながら、チャールズは宥めるように言った。
「それは心配しなくていい。もうキサラギの指示には従わなくていいんだからな」
「え……?」
「俺だって、何もしてなかった訳じゃない。気づかれないように、実験や不正の証拠を集めてたんだ」
「ケントンさん。実は貴女のことを、私や千冬は知ってたの。チャールズさんからの情報で」
「なっ!」
「ちょいと野暮用があった時にな」
協力者(サキや千冬)に学園でのアヤを見張ってもらい、今回の光牙追跡もサキがアヤの後を追っていた。アヤが学園を、研究所を離れる機会をチャールズはずっと待っていたのだ。それを狙いチャールズも研究所を出て告発、キサラギからアヤを解放するという算段。
「ちなみにボカッたのはアタシね?」
「本当は私の役目だったんだけど……」
倉持技研側、ケンツ達にも千冬を通じて話が通っていて、ヒカルノがアヤを気絶させた、という訳だ。
「……どうして、私に言ってくれなかったんですか? そんなことをしていたのなら……」
「話したらお前は責任を感じてしまうだろう。如月に知れるのを防ぐ為でもあったんだ」
「だからって……」
真実を知ったアヤは震えながら顔を俯かせる。そして涙を溜めた目でチャールズに思いの丈をぶつけた。
「じゃあ私のしてきたことはなんだったんですか!? 何の為に……!」
「アヤ……」
「これじゃあ……なんの意味もないじゃないですか!!」
涙を溢して走り去ってしまうアヤ。誰も止める暇もなく、止めれなかった。救う為でも、ある意味チャールズの行動はアヤを裏切ったことになるから。
「……やっぱ、こうなるよな」
ボリボリと頭をかきチャールズが言う。こうなるのもほぼ分かっていた。だから、情けないと思いながらもチャールズは光牙の方を向く。
「光牙。ちょいと頼まれてくれないか」
「はい……?」
「………………」
倉持技研から飛び出したアヤは、近くの川沿いに体操座りでいた。ひとしきり泣くと、こうやって座り込んでいる。最初はチャールズへの怒りと悲しみしかなかったが、時間が経つにつれその二つは消えていく。
チャールズの行動は、全てアヤを思ってのもの。それは分かる。
でも、理解していても納得できない。それでも、と思ってしまう。受けてきた実験はどれもこれも過酷で、激痛や苦痛に何度心が折れそうになったことだろう。逃げたいとも思った、けどそれをしなかったのはチャールズと“もう一人”のお陰。
母を亡くし、男手一つで育てて守ってくれたチャールズの為になら、どんな実験にも耐えることができた。学園潜入だって、相手が光牙と分かっていつつも、気持ちを押し殺してできていた筈だった。
だから自分を救う為だったとしても、チャールズに怒りをぶつけてしまった。
今まで頑張ってきたのはなんだったのだ。何の為に気持ちを押し殺していたのか。何の為に傷ついていたのか、と。
「父さんの、バカ」
カサッ……。
そう呟いた時だ。背後に気配を感じて振り向き、その者の姿を見たのは。
「……光牙」
「……アヤ」
互いに呼び方が昔のものになっていた。アヤから少し離れた位置に体操座りで光牙は座る。
「………………」
「………………」
だけども二人に会話はない。久しぶりに再会した幼なじみ。何を話せばいいか分からなかったし、話題を持ち合わせている程、光牙もアヤも社交的な人間でないからだ。
「……あのさ、アヤ。チャールズおじさんは」
「分かっていますよ。私の為だっていうのは」
光牙がここに来たのは恐らくと言うか間違いなく、チャールズに言われてだろう。実際そうであり、光牙は口を閉じ、それにアヤは確信する。
「あの人はいつもそう。私がどんな気持ちかも知らないで……」
「アヤ……」
「覚えていますか、光牙。私と貴方が出会った時のこと」
「……うん。思い出したよ」
『か、返して下さい』
『へっ。やーだよー!』
『悔しかったから取り返してみろや!』
『うっ……』
『こいつ泣いてるぜ。だっせぇの』
授業が終わった放課後。クラスの悪ガキがアヤから本を奪っていじめていた。その本はチャールズが買ってくれた大切なもので、取り返せそうとしても悪ガキは仲間に投げて取らせないようにしている。
それを周りの生徒や教師は止めようとしない。いじめのリーダー格の少年は教育委員会に親がいて、下手に庇えば自分達に降りかかるから。
ガラガラ……ピシャン!
『……おい』
『あ? なんだ――からみゅっ!?』
すると、悪ガキの一人が殴り倒された。そうしたのは、学校一の問題児と呼ばれる少年だった。
『げぇっ、滝沢だ!』
『お前よくもオルちゃんを!』
『ギャンギャン言わせてやる!』
取り巻きの悪ガキが一斉に光牙に襲いかかる。
が、
『目だ!』
『れいだ!?』
『耳だ!』
『ふぉぶゅ!?』
『鼻ぁっ!』
『ギャンギャーンッ!?』
喧嘩慣れしている問題児光牙は、あっという間に取り巻き三人を沈める。
『クロくん! シャーニー! サザッキー! こんのぉぉ!』
リーダー少年が怒り殴りかかってくるが、光牙は近くの机にあった教科書(リーダー少年のやつ)をとり、背広をリーダー少年に向け、
『背広シールド』
『いったぁぁぁっ!?』
『からのトドメ』
『びゃん!?』
痛みで悶えるリーダー少年、そこにトドメのビンタ。本も奪い返す。
『ま、ママにも殴られたことないのに……』
『やめてよね。本気でやったら、お前が僕に勝てる訳ないだろ』
『うわ?ん! ママと先生に言いつけてやるー!』
『だぁー! まってぇぇぇぇ!!』
泣き叫びながらリーダー少年が逃げていき、取り巻きも起きて逃げていった。
『一昨日来やがれってんだ!』
『あ、あの……』
『ん? あぁ、これね。はい』
『ありがとうございます……』
おずおずと本を受けとるアヤ。
『あの、大丈夫なんですか。あんなことして』
『ダイジョブダイジョブ。いっつものことだから』
そう言いニカッと笑ってみせる光牙。それにドキリ、と何かをアヤは感じた気がした。
それからは喧嘩のことで光牙は先生に叱られ親に叱られ兄が頭を下げながら庇いしっちゃかめっちゃかだったのだが、ともかくこれが光牙とアヤの出会いだった。
それからは大体、光牙とアヤは一緒にいるようになって、遊んだり、勉強したり、チャールズのバカらしい話を聞いたり、光牙の兄も加わったりとそれはそれは楽しい時間を過ごした。
そして過ごす内に、アヤは光牙のことを意識するようになって、いつも彼のことを考えるようになっていた。学校や親からは問題児扱いされていた光牙だけど、アヤは一緒にいて嬉しかった。心が安らいで、彼の前ではいつも笑顔でいられた。
だからチャールズの都合で引っ越すことになった時は大いに泣いた。嫌がって光牙にしがみつき、意地でも離れないと思って、光牙と暮らすとまで言い出したくらいだ。
『アヤ、おじさんを困らせちゃダメだよ』
『光牙ぁ……』
でも光牙に止められて、渋々と車に乗った。
『僕、絶対にアヤを探して会いに行く! ちょっとのお別れなんて大丈夫だよ!』
『……うん。私も、光牙に会いに行くから。絶対に!』
『約束だよ』
『うん……!』
そう言い光牙とは離ればなれになった。いつか会えると信じて、アヤは光牙のことをずっと思いながら。いつの間にか自分の中で、大きな存在になっていた彼のことを。
「でも光牙、私のこと忘れてましたよね」
「うぐっ! ……申し訳ない」
光牙がこの世界にいると分かった時は、本当に本当に嬉しかった。その分、気持ちを押し殺してチャールズの為にと学園潜入をしてたのだから、チャールズにはまだ許せない部分があったりする。
そしてそれは光牙にも。
「絶対に会いに行くって言ってたのに」
「……マジごめんなさい」
ジトーッと睨むアヤに、光牙はそうとしか言えない。
「大体、私を心配してきたのに、逆に言いくるめられてどうするんですか」
「う……」
「頼まれたからって無理して。そんな柄じゃあないのは分かってるでしょう」
「ぬぐ……」
「常に周りを考えて行動しないといけませんよ。ちっとも変わってないみたいですが」
「ごっはぁ!?」
ここでまさかの心だぁ!心だぁ!心だぁ!の三連コンボ。返ってくるとは思ってもなかった光牙、ハートのライフをゼロにされダウン。
「あ、アヤも変わらないね……」
「貴方もでしょう。ほら、立って下さい」
それでも光牙に手を貸すアヤ。自分でやったのだから、とも言えるが、アヤにとって光牙はやはり特別な人なのだ。
「ありがと。アヤもそういう優しいとこ、おんなじだね」
「やさっ!? あ、貴方という人は……」
そしてこの野郎である。
殴りたいと思ったら手を挙げましょう。
「なんで怒るのさ」
「怒ってません! 貴方が急にそんなこと言うから」
「いや怒ってるじゃん。誉めたのになんでさ」
「そ、それは……」
「???」
頬を赤らめ目を逸らすアヤに、光牙は首を傾げる。
「……貴方のことが……」
意を決して、言おうと思った。
自分の抱いていた気持ち。気付いてしまった本当の気持ちを。
顔を上げ、目の前の彼(光牙)を見る。変わらない顔があって、目と目が合う。
「っ……」
頬を紅潮させて、少し上目遣いになっているアヤに光牙も少しドキッとしてしまう。
互いを、互いだけを見つめ合う。
十秒か一分か二分か。あるいはそれ以上か。
どれだけ経ったか分からない時間があって――アヤが口を開く。
「貴方のことが……好きだからです」
「………………え?」
「キターーーーーーー!!」
「!?」
場違いすぎる絶叫が雰囲気とアヤの気持ちを粉々に粉砕した。
「遂に! 遂にッ!! 我が愛娘が告白を成し遂げた! この瞬間を収められるとは……生きていて良かったぁぁぁ! もう一片の悔いもないぞぉぉぉ!!」
「ちょ、チャールズさん……」
「あ?あ、いいトコロだったのに」
「絶妙なタイミングでまた……」
「CKY。超空気読めないわね」
「と言うかなんで私達もここに……」
茂みの中でビデオカメラを掲げ一人バカみたいに興奮するチャールズ。それにケンツ、ヒカルノ、アミ、リエ、サキが呆れている。
「何を呆れているんだね。俺はとても満足しているのに」
ダメだコイツ。早くなんとかしないと。
「満足してるのは貴方だけですって」
「ム? 娘の恋が成ったんだからそりゃ――」
「父さん」
愛娘に呼ばれチャールズは振り向く。振り向いてしまった。何気無く。
バカなこと言わずに逃げてりゃまだ良かったのかもしれない。
なにせ、振り向いた先には――。
――チャララ?♪
「ドーモ。シゴトニン=デス」
仕事人(アヤ)がいたのだから……。
「……アヤ。どうしたってんだ」
「大丈夫です。今楽にしてあげますから」
「待ちなさい。そのピックやライフルや手刀や糸はなんだ。第一俺はまだ死ぬ予定は」
「一片の悔いもないのでしょう。ならば問題ありません」
「いやそういう意味じゃ。ていうか皆……アレ!?」
『貴方のことは忘れません。by.関わった一同』
「ちょ、皆ァ!?」
「覚悟は決まりましたか?」
「――ハイクを読みなさい」
※都合により、音声のみでお送りします。
――肩! 腰! 背骨!!
――アーーーーッ!!
――聞きなさい、地獄の轟きを!!
――イヤーッ!!
――いずれは我が身……です。
――ノーーーーンッ!!
「……南無阿弥陀仏」
以上、仕事人の風景をお伝えしました。
技研に戻ったケンツは皆と合掌。一人の男を胸に刻んで……。
「……………え?」
忘れていた光牙を。
ずっと川の傍で立ち尽くしていましたとさ。
説明 | ||
第二十二藩士3です。 ……カオスでグダグダですが、それでもよければどうぞ! |
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大丈夫……じゃあありませんね。(剣聖龍・零) これは千冬さんのセンサーに反応しそうな展開…大丈夫だろうか?(mokiti1976-2010) |
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