英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
〜ノルド高原〜
「凄いな……とんでもない解放感だ。」
「ええ……!まるで風になったみたい!」
「うふふ、馬を走らせる事がこんなにも気持ちよかったなんて、今まで知らなかったわ……!」
「まあ、それは俺達も同じだ。―――しかし馬術部の連中に羨ましがられそうな体験だ。」
馬を走らせているリィン達がそれぞれ雄大な高原に馬を走らせる解放感に浸っている中に呟いたレンの感想に同意したユーシスは口元に笑みを浮かべた。
「ははっ……確かに。」
「フフ……―――オレの故郷は北東に向かった先にある。日没までに何とか辿り着くとしよう。」
「ああ……!」
「行きましょう……!」
その後リィン達は分かれ道に到着した。
「分かれ道に来たけど……」
「こう広いと、方向感覚が曖昧になってくるな。」
「遭難したら洒落にならないわね。」
「ちょっ、レンったら、縁起でもない事を言わないでよ……」
「一応、目印となる地形を教えておこうか。あれが出発地点である”ゼンダー門”だ。あれは”三角岩”……この一帯の中心となっている。」
ノルド高原の広さに若干の不安を抱えているリィン達にガイウスは次々と目印となる物に視線を向けて説明した。
「すごく大きな岩山ね。」
「確かに、いい目印になってくれそうだな。」
「あら、その横に見える人工物みたいな建物は?」
それぞれが岩山に注目している中、建造物を見つけたアリサはガイウスに尋ねた。
「あれは”監視塔”……帝国軍が建てた施設だ。ノルド高原の南東、共和国方面を監視するための施設と聞いている。」
「”共和国”、ね……」
「帝国の東に位置する大国、”カルバード共和国”か。」
「クロスベル方面だけじゃなく、こちらでも繋がっているんだな。」
「ああ、そして――――あちらの山脈の方角にオレの故郷でもある集落がある。」
「なるほど……」
「えっと、地図で確認すると……」
ガイウスの説明を聞いたリィン達はそれぞれ地図を取り出して現在位置を確認した。
「うん、大体の位置関係が掴めてきたような気がするわ。」
「しばらくは地図を片手に慣れる必要がありそうだな。」
「そういえば……あっちに不思議な石柱があるわね?」
それぞれが地図に注目している中既に地図を暗記し終えたレンは周囲を見回して石柱が何本も立っている場所が気になり、ガイウスに尋ねた。
「あ、ホントだ。」
「明らかに人の手で立てられているようだが……」
「この高原には、ああいったものがあちこちに点在していてな。どうやら千年以上前にあった巨大文明の遺跡らしい。」
「巨大文明……」
「ふむ、帝国にも残っている精霊信仰の遺跡のようなものか。」
「うふふ……そうかもしれないわね。」
ガイウスの説明を聞いて考え込んだリィンとユーシスの言葉を聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべて石柱を見つめていた。
「色々興味はあるだそうが、今日は後回しだ。何とか日没までに集落に辿り着かなくてはな。」
「ああ、了解だ。」
「それじゃあ、行きましょうか。」
その後リィン達は馬を走らせて小さな集落に到着した。
〜ノルドの集落〜
「これが……」
「……ガイウスの故郷か。」
「のどかな場所で癒されるわね。」
「……不思議と郷愁に誘われるような光景だな。」
「……確かに。」
集落を見つめたリィン達はそれぞれの思いを抱えた。
「まあ、この場に定住しているわけではないが。夏から秋にかけては北へと移動するのが常だ。」
「なるほど、遊牧民だもんね。」
ガイウスの説明を聞いたアリサは納得した様子で頷いた。
「だからああいう、変わった建物なんだよな?」
「確か名称は”ゲル”だったわよね?」
「ああ、厚手の布でできた移動式の住居でな。――さて、まずはオレの実家に案内しよう。長老などには改めて紹介するとして―――」
そしてリィンとレンの質問に答えたガイウスが行動に移りかけようとしたその時
「あんちゃああああん!」
「わぁ……!」
「か、可愛いっ……!」
3人の子供がガイウスにかけより、幼い少女がガイウスに抱き付いた。
「あんちゃん!ガイウスあんちゃん!」
「ガイウスお兄ちゃん……!……おかえりなさいっ……!」
「ただいま、リリ、シーダ。トーマも、元気そうだな。」
「へへ、あんちゃんこそ。―――おかえり。ガイウスあんちゃん。」
「ああ、ただいまだ。」
ガイウスは久しぶりに会う自分の家族である弟達を優しげな微笑みを浮かべて見回した。
「はは……すごく慕われてるな。」
「ええ……一人っ子には目の毒ね。」
子供達に慕われているガイウスの様子を見たリィンとアリサは微笑ましそうに見つめたが
「うふふ、ちなみにレンは上はお兄さんが二人とお姉さんが一人、下はレンの双子の妹と末の弟の6人兄弟よ♪」
「ええっ!?そこにお父さんとお母さんも数に加えれば8人家族になるじゃない!?」
「ハハ……レンもガイウスのように賑やかな家庭で育ったんだな。」
レンの兄弟の数を知るとアリサは驚き、リィンは微笑ましそうにレンとガイウスを見比べていた。
「………………」
一方家族関係が兄以外は上手くいっていないユーシスは目を伏せて黙り込んだ。
「あ、ひょっとして手紙に書いてあった……?」
その時リィン達に気付いた少年―――トーマは目を丸くし
「ああ、オレと同じクラスの仲間達になる。」
「えっと、初めまして。ガイウスあんちゃんの……じゃなくて、ガイウスの弟のトーマっていいます。こちらは妹のシーダとリリ。」
「は、初めまして……」
「あんちゃんのお友達〜?」
ガイウスの説明を聞いたトーマは妹達と共に自己紹介をし、リィン達を見つめた。
「はは……初めまして、リィンだ。」
「アリサよ、よろしくね。」
「レンよ。ふふっ、みんな可愛いわね。」
「ユーシスだ、よろしく頼む。」
「うわ〜……帝国のヒトって感じだなぁ。」
リィン達が自己紹介をするとトーマは興味ありげな表情でリィン達を見回した。
「フフ……よき友に恵まれたようだな。」
その時民族服を着た男性と女性がガイウスに近づいてきた。
「父さん、母さん。ただいま戻りました。」
「ふふ、お帰りなさい。―――皆さんも初めまして。ガイウスの母、ファトマです。」
「お、お母さんっ!?」
「あら♪レンのママみたいにとっても綺麗で若く見えるわね♪」
ガイウスの母―――ファトマの見た目があまりにも若い事にアリサが驚いている中レンは笑顔を浮かべてファトマと自身の母であるレナの容姿を思い浮かべてファトマと比べ
「ふふっ、お上手ね。」
レンの褒め言葉を聞いたファトマは微笑みながらリィン達を見つめた。
「―――ガイウスの父、ラカン・ウォーゼルだ。よろしく頼む、士官学院の諸君。」
「はい、こちらこそ。」
「よろしくお願いする。」
「さて、客人用の住居を離れに用意しておいた。積もる話もあるだろうがひとまず荷物を置くといい。じきに日も暮れる……我が家で夕餉にしよう。」
その後ラカンに用意してもらった住居に荷物を置いたレン達はウォーゼル家の好意によって夕食をご馳走になり始めた。
〜夜・ウォーゼル家〜
「とっても美味しいわ……」
ウォーゼル家が用意した郷土料理の美味しさを味わうようにレンは口の中に入れた食べ物をゆっくりと噛みしめながら味わい
「これ、どんな風に味付けしてるんですか!?」
アリサは興味ありげな表情でファトマに尋ねた。
「キジ肉を、岩塩と香草で包み焼きしてるの。帝国の方の口には合わないかもしれないけど。」
「とんでもない……どれも凄く美味しいです。この炙った串焼きも味が深くて美味いなぁ……」
謙遜している様子のファトマの言葉に首を横に振って答えたリィンは串焼きを美味しそうに食べた。
「あ、それはカバブっていう羊肉を串焼きにした料理です。」
美味しそうに食べているリィンにトーマは説明し
「……どの品もとても美味しく頂いている。他の地方に行った班に申し訳ないくらいの味だ。」
ユーシスは満足している様子で食事をしていた。
「ふふっ、よかった。」
「……口にあって何よりだ。」
「えへへ、おかーさんのゴハン、だいにんきだねー。」
ノルドの郷土料理を美味しく食べている様子のリィン達にファトマやガイウス、リリは微笑んだ。
「長旅で疲れていたのもあるのだろう。ノルド料理は疲労に効く滋養の高いものが多いからな。」
「なるほど、確かに身体の芯から効いてくるような。」
ラカンの説明を聞いたリィンは納得した様子で頷き
「……あとでレシピを聞いてシャロンにも教えてあげようかしら。」
「あ、レンも聞いてママに教えてあげたいから、後で一緒に聞きましょう、アリサお姉さん。」
興味ありげな表情で考え込んでいるアリサにレンが提案し
「ええ、いいわよ。」
レンの提案にアリサは頷いた。
「あのあの、こちらのお茶も召し上がってくださいっ。ノルドハーブを使った消化にいいお茶でっ……」
「ふふ、ありがとう。」
「ほっとするような懐かしい味ですね……」
その後夕食を終えたリィン達はラカンからノルド高原についての説明を受けていた。
「―――このノルドの地はある意味、とても自由な場所だ。帝国人である君達には新鮮であり、不便でもあるだろう。だが、そんな場所であっても君達と関係がないわけではない。」
「士官学院を創設したドライケルス大帝……ですね。」
「”獅子戦役”においてこの地で挙兵した逸話ですか。」
ラカンの話を聞いたアリサとリィンはそれぞれノルド高原と士官学院の関係を思い出した。
「ああ、ノルドの民の間でも伝承として語り継がれている。そして戦役が終わった後、ノルドの民は、彼の継いだ帝国と長きに渡る友情を誓い合った。その善き関係が、今日に至るまで継いでいるというわけだ。」
「なるほど、ノルドの地は正確には帝国領ではない……」
「共に誓い合った隣人同士というわけですね。」
「……………」
説明を聞いていたユーシスとリィンはそれぞれが頷いている中レンは静かな表情で黙って見守っていた。
「ああ、しかし昨今、”カルバード”という東の大国が高原の南東に進出してきた。東に住む一族などは交流を深めているようだが……どうやら、それが少しばかり緊張をもたらしているようだな。」
「……帝国と共和国は昔ながらの宿敵同士ですから。」
「ここ数年、直接的な戦争こそ起きてないけど政治・経済的な対立はむしろ深まっているわね。」
「つい最近も、クロスベルで大きな事件が起こったようだが……その背景にも、帝国派と共和国派の対立関係があったと聞いている。」
「そうみたいだな………」
「………………」
ノルド高原の現状をリィン達が聞いている中ガイウスは目を伏せて黙って聞いていた。
「まあ、とはいえノルドは双方にとっても辺境の地だ。監視塔なども建っているがさほど心配する必要はないだろう。あまり気にせず”特別実習”に集中するといい。」
「わかりました。」
「何でも実習の課題を用意してくださったとか?」
「ああ、一通り用意してある。今日はもう遅いから明日の朝、改めて渡すつもりだ。それと”実習”の範囲だが……少なくても午前の間は南西部に限るのがいいだろう。」
「南西部というと……」
「今日、レン達が通ってきた場所ね。」
「ああ、ノルドの地は広い。北にも高原は広がっているがまずは南西を回ることにしよう。」
ラカンの話にユーシスが考え込んでいる中レンが答えを口にし、レンの答えに頷いたガイウスはリィン達に提案をした。
「ああ、わかった。」
「そうなると、朝の課題はその範囲の物になるんですね?」
「ああ、その通りだ。―――ガイウス、昼頃には戻ってくるようにしておけ。昼餉の際に残りの課題を渡すとしよう。」
「わかった、父さん。」
「それでは、今日のところはこのくらいで休むといいだろう。遊牧民の朝は早い――――ゆっくり休んで疲れを取るといい。」
その後リィン達は明日に迎えて休む為に自分達用に用意された住居に移動した。
「すまないな、男女別で用意できればよかったんだが。」
「ううん、気にしないで。」
「そうね。紳士なユーシスお兄さんは当然として、鈍感ヘタレなリィンお兄さんがレンとアリサお姉さんに何かしようとするなんて、全然想像できないし♪」
謝罪するガイウスにアリサとレンは寝る場所が男女共用である事を気にしていない事を伝え
「フン……当然だ。」
「えっと……レン?何で俺だけそんな扱いなんだ……?」
レンの指摘にユーシスは鼻を鳴らして頷き、レンに鈍感とヘタレ扱いされたリィンは冷や汗をかいてレンに訊ねた。
「うふふ、リィンお兄さんって、何となくだけどレンが知っている鈍感かつヘタレな男の人達に似ているもの♪」
「なんなんだよ、その意味不明な理由は………」
「フッ……だが、間違ってはいないな。」
「ふふっ、そうね。」
からかいの表情で答えたレンの説明を聞いたリィンが疲れた表情で肩を落としている中ユーシスは口元に笑みを浮かべ、アリサは苦笑していた。
「クスクス………ガイウスお兄さんは当然実家で寝るのでしょう?」
「ああ、妹たちにもせがまれてしまったからな。朝、日の出に合せて起こしに来るが大丈夫か?」
「ええ、何とか。」
「構わず起こしに来るがいい。」
「わかった。それでは良い夢を。」
「ああ、おやすみ。」
そしてガイウスは外に出て自宅に戻った。
「フッ……何と言うか色々と恵まれている男だな。」
ガイウスが去るとユーシスは静かな笑みを浮かべ
「そうね……食事の時にも思ったけど。素敵なご両親に、可愛らしい兄弟たちか……」
「レンの家族のようにまさに”理想の家族”ね。」
「ハハ、そうだろうな。―――明日は早い。俺達もそろそろ休むか。」
アリサやレンの話に同意したリィンはクラスメイト達に休むように促した。
「ああ、異論はないぞ。」
「もうクタクタ……すぐに寝られそうだわ。」
「長時間の列車移動は凄く疲れたものねぇ……」
その後リィン達は長旅で疲れた身体を休め、明日に備える為にも明かりを消した後すぐにベッドに入って眠りについた――――――
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