恋姫の下書きっぽいもの 『荊州争奪戦・その一』 |
赤壁の会戦。有名なこの戦いで曹操は船を全て失い、襄陽と江陵に最低限の戦力を残して中原に引き返す事となる。
そして天の時を得、関羽・張飛を従えた周瑜は北を目指し快進撃……とはいかなかった。
「ええい、もう半年だぞ!高々江陵一つに何時迄手こずっている!関羽!張飛!貴様等はそれでも万人の将か!こうしている間にも刻一刻と襄陽が堅牢になっていくんだぞ!」
「美周郎殿、そう申されるなら貴公の兵にもっと上等な装備を揃えて貰いたい。あんな軽装(注1)で攻城戦は流石に無理があるぞ(桃香様の命令とはいえ何でこんな小娘の下につかねばならないんだ、クソ)」
「もう少しで牛金を打ち取れたのに曹仁の奴が必死で突っ込んできたから奪い返されちゃったのだ。総大将があんな事したから敵兵の士気が凄く上がっているのだ。敵ながら天晴なのだ(愛紗、周瑜殿は二世大尉の凄い人なのだ。もっと敬意を払わないと駄目なのだ)」
「あまり激しく攻めては肝心の襄陽を取る前に息切れしてしまう。ここは一旦休息を取るべきではないか?(鈴々、お前は相変わらず士大夫にビビりすぎだ。もっと雑草の誇りを持って噛み付け)」
「桃香お姉ちゃんの南郡攻略が終われば援軍が来るのだ。急がば回れなのだ(愛紗は士大夫に噛み付きすぎなのだ。そんなんだから田豫も陳羣も逃げちゃったのだ)」
「ええい、言い訳はいい!兎に角とっとと落とせ!(貴様等が劉備の南郡攻略の時間稼ぎをしてるのは見え見えなんだよ!)」
曹仁はその後更に半年も耐え、しかもその間に襄陽を要塞に変えてしまう。これにより、荊州の境界線は襄陽/江陵で固定される事となった。
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周瑜が力づくで江陵を落とした少し後。荊南四郡のとある城で。
「あ〜、久し振りに自分の領土が手に入ったよ!徐州を逃げ出してから十何年ぶりだろう、もう新野に間借りしてた時みたいに肩の狭い思いをしなくて済むんだ!仲間も随分増えたし、やっと私の時代が来たね!」
「桃香様、伸び伸びしてる所すみませんが良い知らせと悪い知らせが来てますよ」
「……朱里ちゃんって空気読んでくれないよね。まあいいけどさ、それじゃ悪い知らせから聞かせてよ」
「孫家御令嬢の孫尚香様が桃香様を随分慕っているそうでして、是非桃香様の元で学ばれたいとか」
「え、ホント?いや〜照れるな〜、それなら大人として恥ずかしくない振る舞いをしなきゃね!」
「ええ、彼女の前では言葉一つ動作一つに最大限の注意を払って下さい、間違いなく隠密として来るでしょうから。生理周期や厠の回数まで孫権に知られてると考えていいかと」
「……つまり息苦しい新野時代に逆戻りって事だね、けど厠は流石にその、考えすぎじゃ……」
「私ならそこまで調べさせます。何が弱みになるか解りませんからね、情報は大事です(注2)」
「私は部下の黒過ぎる一面を知ってドン引きだけどね。まあそれはそれとして良い知らせを教えてちょうだい」
「江陵の周瑜が出征準備を始めてます。狙いは恐らく益州でしょう」
「ちょ、最悪の展開じゃない!朱里ちゃんの隆中策は益州が不可欠でしょ、何のんびりしてるの!このままじゃ荊南に閉じ込められちゃうよ!」
「大丈夫ですよ、孫権から密使が来てますから。ほらあの人、色々世話してくれた魯粛殿ですよ」
「???え〜と、呉が益州を狙ってるんだよね?何でそれなのに孫権さんから密使が来るの?」
「周瑜の天下なんて誰も望んじゃいないんですよ」
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(※「包」とは魯粛の英雄譚の真名。口調は適当)
某日深夜の江陵城、城壁にて物思いに沈む若き大都督が居た。
「明日はいよいよ益州征伐か……益州を落としたら間違いなく西涼の韓遂が接触してくるだろう、そうすれば涼益荊揚からの四州同時攻撃が可能になる。雪蓮、もう少しだ。もう少しでお前が夢見た中原に手が届く。そうすれば、今度こそ「今度こそ、何ですかねぇ?」包殿!?」
「今度こそ、孫策殿の遺児に跡を継がせる?それとも、いっその事己が孫策殿の遺志を受け継いで呉を背負って立つ?ひゃわわ、不穏ですねぇいけませんねぇ?これは反逆の意思アリアリですねぇ?」
「……冗談にしては悪趣味に過ぎるぞ、私は蓮華様に背くつもりは毛頭無い。我が友孫伯符の遺言でもある」
「そうそれ、それがいけないんですよぉ、何かにつけて孫策孫策孫策!駄目ですよぉ、あの自尊心と劣等感の塊な蓮華様の前でそんなこと言っちゃぁ!そんなんだから走狗煮られる事になるんですよぉ?」
「走狗?馬鹿を言え、まだ曹操という巨大な狡兎がいるんだぞ、天下二分の大計を行える狗が私以外にいる訳が「ああ、それがそもそも間違ってるんですよぉ」……何だと?」
「一つ、益州は別天地です。険しい山で荊州と切り離され、長江も白帝城(永安)までしか伸びていない。荊州と揚州は長江で密接に繋がってますが、荊州と益州は細く長く険しい夷陵でしか?がってません。四州同時攻撃は魅力的ですが、実現性に乏しいんですよ」
「それは憂うべき所ではある。だが、私ならば不可能ではない」
「二つ、蓮華様の立場を考えていない。確かに貴方ならば出来るかもしれない、けど成功されたら蓮華様が困るんですよ。孫家は君主じゃありません、貴方と張昭殿が支持したから辛うじて揚州豪族の上に立てているんです。そんな危うい状態で荊州大都督の貴方が益州まで獲ったら貴方の権限が蓮華様を超えてしまう、下手したら呉が割れちゃうんですよ」
「しかし、これしかない!荊揚二州だけでは地力が足りん、せめてもう一州無ければ中原は狙えないんだ!それが出来るのは私だ……け……?いや待てよ、孫尚香様、関羽、張飛、荊南四郡、そうかおまえの狙いは!」
「もうそこに辿りついちゃいますか、流石ですねぇ。そう三つめ、劉備という劇薬を使わない手はありません。益州に押し込んで曹操を牽制して貰うんですよ、天下二分に比べたら地味ですがその分安全で堅実、いうなれば中庸です。そういう訳でお二人さん、お願いしますねぇ」
魯粛の言葉に呼ばれ、二つの人影が現れる。獲物は蛇矛に青龍偃月刀、振るうは万人の将。
「魯粛殿、孫権殿と我が主との間に結ばれし約定に違いは無かろうな?」
「ええ、益州は劉備殿にお譲り致しますよ。その代わり、益州を獲ったら荊南は私達に返還して頂きますよ?」
「心配は無用なのだ、約束は必ず守るのだ」
正史における周瑜の最期は、ただ『病死』したとあるのみである。病に伏せた期間、病の症状等の記述は一切無い。大都督は、『遺言』により魯粛が継いだ。
(注1):呉の兵は基本的に軽装、というか裸。何故なら重装で長江に落ちたら死ぬから。当然馬や攻城兵器もあまり積めないので呉は陸の上ではかなり弱い。
(注2)とあるCIA長官だかFBI長官だかは大統領の当日のウンコの色まで把握していたらしいです。
後書き:すっごい端折ったのにこんだけ長くなってしまった……
説明 | ||
英雄譚にて曹仁・魯粛・糜芳と必要なキャストが大体揃ってきたんで、 赤壁後の荊州争奪戦を恋姫でザックリとやってみる。 赤壁後から濡須口の会戦までをやる予定。 |
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