英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
6月29日――――
翌日、トリスタに帰還するリィン達はゼクス中将やラカン達に見送られようとしていた。
〜ゼンダー門〜
「皆さん……お世話になりました。」
「本当に……何てお礼を言ったらいいか。」
「うふふ、ノルドの人達にはたくさんお世話になったのだからこのくらいの恩返しは当たり前よ。」
「ああ、目に見えぬ色々なものを貰ったような気分だ。」
「……………………」
リィン達がそれぞれ感謝の言葉を述べている中、ガイウスは静かな表情で黙って家族を見つめた。
「ふふっ、ありがとう。」
「ガイウスあんちゃん……リィンくんにユーシスくんも…………ふえええっ……」
「ああもうリリ……ベソをかくなって。」
リィン達の感謝の言葉にファトマは微笑み、泣き始めたリリを見たトーマは苦笑しながら慰めていた。
「リリ、トーマも色々とありがとうな。」
「……世話になった。礼を言わせてもらうぞ。」
「リィンさん、ユーシスさん……」
「また休暇の時はこちらへ戻ってくる。トーマ、それまでみんなの事を頼んだぞ。」
「うん、あんちゃん!」
ガイウスの言葉にトーマは力強く頷いた。
「アリサさん、レンさん……ありがとうございました。」
「ふふっ……お菓子とかお洒落のこととか、色々な話ができたわね。」
「お茶や薬のレシピもありがとう。いつか再会する時があれば、今度はレンがお茶を御馳走するわね。」
「ぐすっ……はいっ!」
アリサとレンとの別れを惜しむシーダは涙を見せて力強く頷いた。
「……フフ……」
「ハハ、どうやら実りの多い実習だったようだな。」
子供達の様子をラカンとゼクス中将は微笑ましそうに見守り
「ええ、そうみたいですね。」
ゼクス中将の言葉にサラ教官は頷いた。
「しっかし、シャロンちゃんに会えたのもラッキーじゃが……そちらのサラ教官もベッピンさんで素敵じゃの〜。」
「あら……!もう、お上手ですねぇ♪うーん、もう少し若ければ結構タイプなんだけど……」
グエンに容姿を褒められたサラ教官は嬉しそうな表情をした後真剣な表情でグエンを見つめ
「サ、サラ教官!お祖父様も、お別れの時くらい、真面目にやってください!」
アリサはサラ教官を睨んだ後グエンを睨んだ。
「スマンスマン、ついクセで。―――なあ、アリサや。どうやら少しは何かが掴めたようじゃの?」
「……はい。母様のことはともかく……お祖父様がラインフォルトから離れた理由はわかりました。」
「ほう……?」
アリサの口から出た意外な言葉を聞いたグエンは目を丸くした。
「小さい頃から一緒にいて……お祖父様がどれだけラインフォルトに愛着を持っていたか知っているつもりです。なのにどうして母様に奪われるまま会長の座を明け渡したのか……――――ラインフォルトグループを愛していたからこそだったんですね?」
「……その通りじゃ。この数十年、導力革命を受けて皆に必要なものを造り続けてきた。鉄道や照明、導力車に飛行船、戦車や銃ですら後悔はない。しかし―――5年前に造り上げた”列車砲”だけは話が別じゃった。」
「………………はい………………」
「………………………」
どこか後悔がある様子を見せて呟いたグエンの言葉にアリサは静かに頷き、ゼクス中将は重々しい様子を纏って黙り込んだ。
「中将殿には申し訳ないが……あれはただの”虐殺装置”じゃ。狙える地点が限られている以上、戦術的な性能は無きに等しい。ただ、無辜(むこ)のクロスベル市民を人質に取るだけの大量破壊兵器……共和国軍のクロスベル占領を牽制するだけの戦略的な装置。それ以上でも、以下でもない。」
「……耳に痛い話です。」
「娘が軍から受けた注文とはいえ、その完成に関わった人間としてワシは怖くなってしまった……いつの間に、モノを作る人間としての”魂”を売り渡していたのかとな。だから―――娘の会長就任を機にいったんラインフォルトを離れた。どこで間違ったのかを探るために……何が正しいのかを見極めるためにな。」
「お祖父様……やはり当分の間、お戻りになる気はないんですね。」
グエンの決意を知ったアリサは残念そうな表情をした。
「うむ、お前には悪いがこの5年で更に決意は固まった。娘の采配もそうじゃが、ラインフォルトを取り巻く環境はあまりに大きく変わりすぎている。―――”中”の事は娘に任せた。ワシは”外”からラインフォルトの進むべき道を見極めさせてもらおう。」
「………………」
「……大旦那様……」
グエンの決意を聞いたアリサとシャロンは静かにグエンを見つめた。
「フフ……”トールズ士官学院”はとてもいい環境だと思うぞ。」
「え……」
「様々な立場の仲間達と協力し、共に壁を乗り越えることで……今まで見えていなかった風景が見えてくる可能性もあるじゃろう。今回の一件のようにな。」
「……はい。私も―――お祖父様や母様とは別の視点を持ってみようと思います。ラインフォルトの名を継ぐ者として。―――何よりも、私が私であるために。」
「うむ、よく言った。リィン、ガイウス、ユーシス、それにレンちゃん。どうかこれからも孫娘と仲良くしてやってくれ。」
「ええ―――もちろん。」
「うふふ、レン達に任せて。」
「……喜んで。」
「まあ、いいだろう。」
そしてグエンの頼みにリィン達はそれぞれ力強く頷いた。
「お、お祖父様ったら……」
リィン達に自分の事を頼んだ祖父の過保護にアリサは苦笑したが
「後はそうじゃな……―――ああいう鈍感な者には積極的にアタックをせねば、他の積極的な女性にすぐに取られるかもしれんぞ?」
「なっ!?」
「あら♪」
リィンに視線を向けた後口元に笑みを浮かべて自分を見つめるグエンの言葉を聞いて顔を真っ赤にし、シャロンは目を輝かせた。
「ワシも年じゃし、できれば曾孫を早く見たいのじゃがの〜。」
「うふふ、私もできれば早くアリサお嬢様が産んだお子様のお世話をしたいですわ♪」
そしてグエンはからかいの表情のシャロンと共にリィンに意味ありげな視線を向け
「お、お祖父様ッ!!シャロンッ!!」
(……?何でそこで二人とも俺を見たんだろうな?)
顔を真っ赤にしたアリサが二人を睨んで怒鳴っている中リィンは不思議そうな表情でレン達に訊ねた。
(フフ……それは自分で気付くべきだな。)
(……阿呆が。今の話を聞いた上であんな露骨に視線を向けられていながらわからないとは、相当重症だな。)
(うふふ、ロイドお兄さんやエステルとも並ぶ鈍感さね。)
リィンに尋ねられたガイウスは静かな笑みを浮かべ、ユーシスは呆れ、レンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「しっかし、シャロンちゃんにはもう少し居てもらいたかったのう。どうじゃ、少しだけ残ってワシの面倒を見る気はないかの?」
「ふふっ、申し訳ありません。皆様のお世話がありますので。」
「ガーン!」
シャロンにやんわりと断られたグエンは本気でショックを受けて肩を落とした。
「もう、お祖父様!」
「フフ……―――そろそろ時間だ。ホームに向かうがいいだろう。」
「……はい。中将もお元気で。」
こうして……戦争の勃発を止めたリィン達は無事特別実習を終え、トリスタへと帰還した―――――
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第104話 | ||
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