寂しがりやな覇王と御使いの兄 改訂版 40話
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桂花「満寵と牛金いるかしら」

 

満寵「これは荀ケ様。このような場所にお越しいただき光栄です。この度はどのようなご用件でしょうか」

 

桂花「悪いのだけど、親衛隊すべてを集めてもらえるかしら」

 

華琳一向が洛陽に到着してすぐに、桂花は最悪の事態に備えて行動を開始する。その行動の一手として、曹家親衛隊であり一刀の生存を知る満寵、牛金の下を訪ねていた。

以前より緩和されてるとはいえ、男嫌いで通っている桂花が親衛隊の駐屯所を訪ねた事と、桂花からただならぬ気配を感じとった満寵は、すぐに牛金や駐屯する親衛隊すべてに集合の命を出す。

 

桂花「全員集まったわね。聞いているとは思うけど、私達は勅命を受けて洛陽へと向かうわ。けれど、忌々しい事に、洛陽にはまだ十常侍が健在している」

 

曹家にとって、十常侍は不倶戴天の敵。親衛隊も仲間を殺された恨みを抱え、洛陽へ赴く経緯を聞いている親衛隊の表情は強張る。

 

桂花「十常侍の目的は私達を洛陽に誘き出し、諸侯に勅命を出して華琳様を葬ること。それが証拠に、荊州の劉表・益州の劉焉・冀州の袁紹、幽州の劉備、そして・・・南陽の袁術の下に使者が向かったそうよ」

 

満寵「まさか…十常侍の狙いは・・・曹操様に朝敵の汚名を被せ、諸侯に連合を組ませて曹操様を・・・討つ」

 

桂花「恐らく満寵の考えた通りになる可能性が高い。華琳様と姉妹同然の間柄である袁術も、十常侍が何か手を打ってるはずだから、私達の味方に動いてくれる見込みは少ないのよ」

 

心優しい美羽ならば、朝敵に味方としたと謗りを受けようが、華琳の窮地に駆けつけるだろう。しかし、美羽個人ならともかく、領民を人質に取られれば、個人の感情よりも住民の安全を選ばざるを得ない。楔を打つ使者が美羽の下へ向かったと桂花は考えている

 

満寵「私達がいま出来る事は要害である”水関”と”虎牢関”の防備を万全にする事・・・ですか」

 

桂花「親衛隊を二手に別ける。牛金は華琳様の護衛、満寵は水関に向い防備を固めなさい。ただし、慎重に行動するように。十常侍に口実を与えてはダメよ」

 

満寵・牛金「御意」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『冀州』

 

 

 

張讓「これはこれは袁紹様。お久しぶりにございます」

 

麗羽「張讓さんですか。私こう見えても忙しいので、早く要件をいってくださるかしら」

 

十常侍筆頭であり、霊帝に我が父と呼ばれた張讓自ら冀州へと赴いていた。張讓と面会している麗羽からは、自分とまともに話す気がないのがはっきりと感じ取れる。いま本題に入っても、まともに耳に入れないだろうと判断した張譲は、本題とは別の話題を切り出す

 

張讓「確か、袁紹様は陳留の城主である曹操と、たいへん仲が良いと噂で聞いておりますぞ」

 

麗羽「んな!?だ〜〜れがあんなちんちくりんな小娘と仲がいいものですか!」

 

(調べさせた通り、袁紹と曹操の仲が悪い。予定通り食いついてきよったか)

 

張讓「噂話も当てにならないものですな。噂とは違い、曹操とは仲が悪いという事ですかな」

 

麗羽「さっきからそう言ってるではありませんか、そんな事も解りませんの?」

 

心底馬鹿にするような視線を浴び、張譲は苛立ちを隠しながらも、麗羽が自分の話題に食いついてきた事にニヤリと

 

張讓「この爺には”頭脳明晰””容姿端麗”でおられる袁紹様の考えを、儂のような無能が理解するのは難しゅうございます」

 

麗羽「まぁ、仕方ないですわね。な・に・せ、これも名門・袁家の棟梁たる私の頭脳が良すぎるのが原因なのですから。おーほっほっほっほ!」

 

張譲「そんな袁紹様にお願いがありましてな。陳留の曹操が突如大軍を率いてる洛陽へと攻め込んできたのです。帝には手を出してはいないのですが、自ら丞相と名乗り都を破壊せんと行動をしております」

 

袁紹「なぁ〜〜〜〜〜んですってええええ!あのくるくる小娘、とうとう本性をむき出しにしましたわね!この名門袁家の棟梁たる私が天誅を下してさしあげますわ!顔良さん!文醜さん!いますぐ兵の用意しなさい」

 

張譲がすべて言い終わる前に、袁紹は自らの腹心だる顔良、文醜に軍備を整えるように命を下す。その命に対し、袁家の良心である顔良から反対の声があがる

 

斗詩「でも麗羽様、相手は華琳さんですよ?もし暴政を敷いているのならば、話し合いを持ちかけてみはどうでしょうか」

 

麗羽「甘いですわね顔良さん。たとえ旧知であろうと、帝や洛陽に乱暴を働いてるのならば、それを討ち洛陽を開放するだけですわ」

 

華琳が洛陽へ向かったのは事実ではあるが、帝や洛陽の民に乱暴する華琳の姿を想像する事が出来ず、顔良はなんとか麗羽を諌めようと続けるが、張譲の言を信用した麗羽の説得は失敗に終わる

 

猪々子「斗詩〜こうなった麗羽様はもう止まらないから諦めようぜ」

 

斗詩「諦めようって・・・文ちゃんはそれでいいの?このままじゃ、あの世で一刀さんに顔向け出来ないよ?」

 

猪々子「それはそうだけどさ…やる気になった麗羽様を止められるのは、それこそ兄貴だけだぜ?あたい達が言って考え直すなら既に言ってるって」

 

斗詩「それはそうだけど…腹くくるしかないかな…麗羽様は見捨てられないし」

 

麗羽「そこの2人!早く準備なさい。それと、諸侯に逆賊を共に討つように書簡を送りなさい」

 

斗詩「それは美羽さまにもですか?」

 

麗羽「もちろん。仮に、華琳さんに味方などすれば、美羽さんであろうと容赦はしないと内容を付け加えなさい。まぁ、美羽さんが私に逆らうなどありませんね。オーホッホッホ!」

 

袁紹を上手く誘導し、曹操討伐に名乗りをあげさせる事に成功した張譲は、我が策成功したりと内心ほくそ笑む。

後は袁紹を筆頭とする連合が曹操を討つのを待つのみ。張譲達の魔の手はゆっくりと華琳へと向かっていく

 

 

南陽

 

美羽「麗羽姉さまからの書簡か…物凄く嫌な事が書いてある気がするのじゃが…見ないとダメかの?」

 

七乃「十中八九……と言いますか、”あの”麗羽様からの書簡ですから、間違い無く厄介事が書かれてるはずですね〜見ないで燃やしちゃいましょうか♪」

 

従姉妹とはいえ、美羽と麗羽は関わりを持たずに生活を送っている。その従姉妹からの突然の書簡・・・七乃が毒付くのも仕方ないといえる

 

亞莎「流石に見ないで燃やすのは不味いかと・・・これが我が国に関わる外交書簡ならば、後でどんな難癖つけられるか解りませんし」

 

七乃「ん〜確かに”あの”麗羽様ですから、その可能性はおおいにありえますね。なんで書簡を読んでないんだと、麗羽様自ら乗り込んできて、嫌がる美羽様を縛りあげ・・・ハァハァ」

 

紫苑「な、七乃ちゃん落ち着いて!そ、それで美羽様、書簡にはなんて書いてあるのですか?」

 

妄想の世界に旅立った七乃に若干引き気味になりながらも、紫苑に促される形で書簡に目を通す。

読み始めてからすぐに顔が険しくなり、読み終えた頃には怒りで書簡を持つ手が震えていた

 

美羽「紫苑、亞莎・・・これを見るのじゃ」

 

紫苑「拝見いたします…………美羽様、これは・・・」

 

亞莎「はぅ!!本当に一大事の内容が書かれてました!」

 

書簡を受け取った二人はすぐさま内容を読み進めると、紫苑は美羽同様に険しい顔に、亞莎は書かれている内容に驚き平常心を保てずに慌てふためいてしまう。紫苑はそんな亞莎を落ち着かせつつ、正気に戻った七乃に書簡を手渡すが、七乃はそれを確認せずに兵士に焼却処分するように言い渡してしまった

 

七乃「さて、これからどう行動するべきか、話し合わないといけませんね」

 

美羽「内容を見ておらぬのに、書いてある内容が解るのかえ?」

 

七乃「もちろんですよ〜書かれてる内容を要約しますと」

 

・華琳さんが洛陽で暴れてる

・朝廷から救援の使者が来た

・みんなで悪者華琳さんを倒しちゃえ〜♪

・華琳さんを倒したら、私が洛陽を護りますわ!邪魔したらダメだゾ☆

・美羽さんも参戦しないとお仕置きしちゃうぞ(*゚▽゚)ノ

 

 

七乃「と書かれてと予想します」

 

美羽「間違ってはないのじゃが…そのまとめ方はどうかと思うのじゃ・・・」

 

七乃「ダメですか?」

 

美羽「ダメと言うわけでもないのじゃが…それよりも、どうして書簡を見ずに内容を言い当てる事が出来たのかえ」

 

七乃「それは〜女の勘です♪」

 

実の所は女の勘ではなく、密かに放っておいた間者から、華琳が洛陽入りしたことや、十常侍筆頭の張譲が冀州へ向かった事を掴んでいた。それゆにえ、今回の一件は七乃にとって、予想しやすい出来事の範囲内なのだ。そんな七乃の返答を聞き、美羽は追求する事をしなかった。七乃がはぐらかす時は、何があってもその内容を口にすることはしない。

長い主従関係から、それを把握している美羽は聞き出すことをすんなりと諦める

 

 

美羽「話しを本題に戻すぞ。妾達は華琳姉さま側に就くか、麗羽姉さま側に就くか選ばないといけない。本音を言えば、華琳姉さまに味方したいのじゃが・・・」

 

紫苑「袁紹さんは、現状の勢力で一番兵力を抱えております。洛陽へ向かう軍とは別に、南陽へ軍を繰り出す可能性が高い。そうなれば、南陽の民は無事では済まない。それを心配しておいでですね」

 

亞莎「私達だけならともかく、民に被害が出るのは避けたいですが・・・袁紹さんに味方するのも躊躇います」

 

 

内部に孫家という火種を抱えている事情から、袁紹を敵に回すのは得策ではない。しかし、『利』ではなく『情』の部分では華琳に味方したいと誰もが思っているものの、どちらに味方するかを下す決定権は美羽にあり、どちらの側になろうと、自分達は主君を護るだけと自分の心に言い聞かす

 

七乃「まぁ、返答の時間もある程度もらえた事ですし、美羽様は城下を散歩してみてはいかがですか?城の中に居るよりか、思考が纏まりやすいと思いますよ」

 

美羽「七乃がそう言うならば・・・少し行って来るのじゃ」

 

護身用の武器を腰に携えて、政庁から退出する。その場に残った亞莎からは重苦しい雰囲気が、亞莎とは対照的に七乃はいつも通りニコニコと笑顔を浮かべ、慌てる様子は一切なかった

 

亞莎「七乃さんはどうしてそんな落ち着いてるのですか?もしかしたら、曹操さんと戦う事になるかもしれないのに」

 

紫苑「大丈夫よ亞莎ちゃん。そうならないために、七乃ちゃんは美羽さまを散歩に行くように誘導してましたもの」

 

仕官して間もない亞莎はぽかんとしているが、付き合いの長い紫苑には、七乃の思惑がすべてばれていた。もちろん、みんなの母親だからだとか、年齢を重ねているから読み取れる・・・なんて事は絶対に口にしない。

 

七乃「訳は後で解りますから、私達はすぐに動ける準備を進めましょう〜!ちなみに、亞莎ちゃんが心配している孫家の方も心配はいりませんからね♪」

 

 

なぜ自分が心配している事と、不安に思っている事が解ったのか・・・

そして、なぜそこまで断言できるのか・・・

 

一つだけ解る事は、この人を敵に回してはいけないという事だけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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