飛将†夢想.18
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ガキンッ!!!ビュンッ!!!

 

稽古場に響き渡る鉄撃音。

風を裂く刃。

二本の剣が舞う。

剣を手に持つ呂布と華雄の二人は間合いを取って、

ゆっくり構え直すと再び剣を振るった。

 

呂布と華雄。

彼らはゆうに四時間以上も鍛練を行っていた。

勿論、これは華雄からの申し出である。

 

 

「…そろそろ、休憩をしないか?」

 

 

華雄の放つ斬撃を打ち払い、

彼女の顔を見て言う呂布。

これに対して、

 

 

「もう限界か…?それでも“人中”と畏怖される男か?」

 

 

汗を沢山流し、息も荒れ、肩で呼吸をする華雄が、

自分より先に泣き言を言わせることが出来た、

と勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

 

「…いや、限界はお前だろう?」

 

 

そんな華雄に呂布は目を閉じ、

やれやれ、と溜め息をつく。

華雄と共に四時間以上も動き続けていた呂布は、汗を少しかいてはいるものの、

呼吸も正常に平然としていた。

 

呂布の言葉に華雄は、何をッ、と言って呂布に飛びかかろうとするが、

足が追いついてこず、もつれて倒れてしまう。

これを休憩の合図にしたのか、呂布は剣を鞘に戻し、

倒れて動かない華雄の下へ歩いていくのだった。

 

 

 

 

数日前…

 

呂布の本拠地である上党城に、

公孫賛と関羽が数人の兵と共に現れた。

呂布は直ぐに城に出迎え、席を設ける。

 

 

「…幽州牧殿、御機嫌麗しく」

 

 

「おぉ、呂布。お前も元気そうで何よりだよ」

 

 

呂布と公孫賛はお互い挨拶を交わすと、

設けられた席に座る。

そこに女官が酒を杯に注ぎ、

両者に渡すと公孫賛が呂布を見て口を開いた。

 

 

「呂布、私たちが友好関係になってからまだ日も浅い。私はこれからも仲良くやっていきたいつもりだ」

 

 

「…それは有り難き御言葉。今後とも良き関係を…」

 

 

「しかし、一つ問題がある。私と呂布だけが口上で友好関係を結んだと軍に伝えても、いざ共闘を、という時に将たちが手を組んで闘えるかどうかは判らない。寧ろ、私の所の趙雲は共闘しない確率が高い」

 

 

公孫賛は呂布が礼を言い終える前に、

左手の人差し指を立たせて眉を細めてみせる。

それを見た呂布は酒の入った杯を置いて、公孫賛に尋ねた。

 

 

「…その件に関して、州牧は何かお考えでも?」

 

 

「私の陣営にも関羽、張飛と武闘派が増えてきた。そして、其方は主君を筆頭に大陸屈指の武闘派集団だ。この機会に将たちの交流を深める為、武術大会をしてみないか?」

 

 

「…武術大会、ですか。それは良きお考えかと。関羽、張飛とは私も泗水関で一度手合わせしました。その力は我が将たちに火を着かせましょう」

 

 

「い、いや、火が着くとか、喧嘩させる為の武術大会じゃないからなッ?」

 

 

呂布の言葉に焦る公孫賛。

呂布はそれを見て、ハッハハと笑う。

 

同席していた関羽も、

二人を見ながら笑みを浮かべる。

 

そして、同じく同席していた呂布軍側の将…華雄も笑みを浮かべた。

ただ、その笑みは不敵な笑み。

それも笑顔の関羽を睨むように見ながら。

 

 

 

 

バシャッン!!

 

辺りに飛び散る水。

呂布は水が入っていたであろう、空になった桶を振って最後の一滴まで水を切ると、

そのまま桶を持ったまま横たわる水浸しの華雄の横に座る。

 

 

「…気分はどうだ?」

 

 

「…最悪だ。体調も、扱いも」

 

 

横たわったままの華雄の返答に、

呂布はフッと笑って桶を自分の横に置く。

そして、言葉を続けた。

 

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「…関羽と再戦したい、か。まぁ、確かにあの時は無理矢理あの場から退場させたからな。勝ち負けも着かせず、腹立たしい思いをさせたとは思っている」

 

 

呂布の言葉を聞いた華雄は、

横たわる身体を動かし仰向けになる。

日の光があったのか、その顔に手をやって。

 

 

「今回の武術大会は当に絶好の機会だ。あの時の決着を…」

 

 

「…今のままならば、関羽の武技に適わないな」

 

 

そのままの状態で、目だけ動かし呂布を見る華雄。

暫くして華雄はフッと微笑してみせる。

それに気付いた呂布は疑問顔で彼女を見た。

 

 

「女の話は最後まで聞くものだぞ。決着を着けるのは奴とではない、“あの時の私”とだ。今の私は、お前や仲間を護れる程の力があるのかどうか。私はそれを知りたいんだ」

 

 

日の光を遮っていた手を握って拳を作り、力説する華雄。

その眼光は強く、誰が見ても本心なのであろうと判るものであった。

勿論、呂布もその話を信じる。

 

呂布は暫くして、

隣にいる華雄の髪をくしゃくしゃと撫でると、腰を上げた。

 

 

「…頼りになる言葉だ。だが、関羽には正直勝ちたいのだろう?」

 

 

「なッ…だ、誰が負ける前提だ!!昔の私自身にも勝つッ、関羽にも勝つッ!!お前も倒すッ!!!」

 

 

フフンと笑う呂布に、

華雄は牙を剥いてバンっと背中が爆発したかのように起き上がる。

 

華雄の急な起き上がり方に呂布は一瞬目を見開くが、

直ぐに普段の表情になり華雄を見た。

 

 

「…何故、そうなる」

 

 

「乙女を撫でるかのように、私を撫でたからだ!!!」

 

 

「…何を照れてるんだ」

 

 

「照れていないッ!!!」

 

 

華雄は顔を赤くして吼えるのだった。

 

 

 

それから更に日が経ち…武術大会当日。

 

武術大会の会場、大都市である業城に集まる将兵たち。

そして、呂布軍の政治面を監督する詠の提案により、

業城の経済を潤そうと一般人も観戦出来るようにした結果、業城は稀にみる賑やかさをみせた。

勿論、警備は通常の倍を配備させ、

城門では取り調べを二重にした。

これも詠が提案した他勢力の偵察防止である。

 

こうして、

裏方の力により万全の状態になった業城にて武術大会は開始された。

 

 

「これはまた…凄い賑わいだな…」

 

 

武闘場を見渡せる主催者席に座り、

その観戦で来た人の数を見て圧巻される公孫賛。

その隣に立つ呂布も武闘場一帯を見渡し、微笑する。

 

 

「…出場する将たちも名将ぞろい。血が騒ぎますな」

 

 

「呂布は出なくて良かったのか?」

 

 

「…私が出ては面白くないでしょう?」

 

 

公孫賛の質問に、呂布はフッと笑って答えてみせる。

これに公孫賛は“あぁ、なる程”と言葉に出さずに頷くのだった。

 

暫くして、最初の試合が始まるのか、

武闘場に二人の将が現れる。

 

一人は黒く美しい長い髪を風に靡かせ、

その手には鋭く刃を光らせる堰月刀。

公孫賛の領土から観戦に来たであろう男たち、

女たちがその将の名を叫んで声援を送る。

 

 

「「「関羽様ーッ!!」」」

 

 

関羽。

呂布も一目置く将。

 

彼女は声援を送る者たちに顔を向け、

眩しい笑顔を見せる。

そして、顔を再び前に戻すとその表情を鋭くし、

戦闘状態にした。

 

そして、もう一人。

 

 

「…まるで泗水関だな」

 

 

公孫賛は武闘場に立つ二人を見て、そう呟く。

隣で腕を組み立つ呂布も呟いた。

 

 

「…さぁ、行ってこい」

 

 

武闘場に立つ華雄に対して。

 

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開始を告げる銅鑼の大きな音。

それとほぼ同時に両者は駆ける。

 

 

「うおおおおッ!!!」

 

 

「はああああッ!!!」

 

 

ガキンッと身震いしてしまうほどの大きな金属音。

それを聞いた観戦者たちは息を飲んだ。

これが最初の試合なのか、と心で呟いた。

 

華雄の戦斧を打ち払い、

後方に跳んで距離を取った関羽も心の中で呟く。

 

 

(…泗水関で闘った時よりも格段に強くなっている)

 

 

関羽は知らず知らずに手に持つ堰月刀を強く握りしめていた。

華雄の武技は彼女を本気にさせたのだ。

 

華雄は関羽に向かって走り、斧を降り下ろす。

これに対して関羽は左に回転しながら凶刃を避け、

そのまま遠心力を利用して華雄の右腹を狙う。

 

だが、それを簡単に許す華雄ではない。

地に刺さった斧をそのまま引き、

柄の部分で突くように堰月刀を弾いたのだ。

 

 

「くっ…」

 

 

関羽は気付いた。

 

華雄の闘い方がある男の動きに似ている、と。

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

斧を袈裟懸けに降り下ろして、

そのまま胴回し回転蹴りを放つ華雄。

 

袈裟懸け斬りは堰月刀で弾いて避けるも、

蹴りには反応が遅れ、関羽の胸に強い衝撃が走る。

大きく後退る関羽は足を戻しスッと斧を構える華雄を見た。

 

 

(そうか。やはり、あの動きに、この気迫は…)

 

 

関羽の眼には、

自身が知る中で最強の男の姿が華雄と重なって映る。

 

だが、彼女はそれに対して笑みを浮かべた。

華雄はその笑みに片方の眉を上げ、疑問顔を浮かべた。

 

 

「…此処で昔の私を越えられる機会が得られるとは…感謝」

 

 

関羽はそう呟いて駆け出した。

 

 

 

 

歓声が響き渡る武鬪場。

その裏側にある控え室に呂布が顔を出す。

 

部屋の隅には両膝を抱えて座る華雄の姿が。

 

呂布はそれを見て、フン…と溜息をつくと、

そのまま控え室に入って彼女に歩み寄る。

 

 

「…当初の目的は果たせたではないか」

 

 

華雄と関羽の試合を観ていた呂布は、

彼女の頭にポンと手を置いて話す。

関羽との試合を観て感じた呂布の、本心からの言葉であった。

 

呂布の言葉に華雄は腕に埋めていた顔を少し上げ、

その表情を確認してそれに応える。

 

 

「…それはそうだが……ッ、あああッー!!!」

 

 

華雄はそこまで言うと、

堪えきれなかったのか突然手足をバタバタし始めた。

呂布はそんな華雄に思わずビクッとなる。

華雄は言葉を続けた。

 

 

「悔しい!!悔しすぎる!!目的を果たしたというのに悔しい!!!」

 

 

ガアッーと叫びながら両の手を頭に置いて、

子供のように駄々をこねる華雄。

 

最初は力が均衡し、互いに退かぬ試合だったが、

突然の関羽覚醒。

一瞬にして華雄を圧倒し、

決着の銅鑼の音を武鬪場に響かせた光景を華雄を見つめる呂布が思い出す。

 

当に軍神。

この世界では女として生を受けているが、

関羽は関羽。

 

しかし…

 

 

「…確かな事はある。今日闘っていたお前は確実に泗水関で俺と闘った関羽より強かった。それは断言出来る」

 

 

呂布はそう言って華雄の手を掴んで、

彼女を引き上げる様に上へ引っ張り立たせる。

一瞬浮いて立たされた華雄は、目を丸くして目の前に立つ呂布を見た。

そんな彼女に対して呂布は言葉を続けた。

 

 

「…関羽に負けたからといって恥じる事は一つもない。恥じる時は戦場で助けられる命を助けられなかった時だけでいいさ。その武勇は確実に俺たちの助けになる。此処で腐らず、更なる鍛練を積み、仲間を助ける力となってくれ」

 

 

呂布はそう言って華雄の頬をつたう滴を親指で拭い、

そのまま彼女の肩をポンと叩いて華雄の目の前から去っていく。

 

華雄は頬を赤めながら、

呂布の後ろ姿を見て、

 

 

「…罪な男だな、お前は」

 

 

と、呟いて、

音々音たちが呂布に夢中になる理由を本の少し知るのであった。

 

 

 

拠点フェイズ・華雄編1(終)

説明
拠点フェイズ『武の極み目指して』
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三国志 呂布 恋姫 

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