英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
エリゼの救出に成功したリィン達は既に日も暮れていた為、エリゼを第三学生寮に泊める事にした。夕食の際はリィンとエリゼの昔話に花を咲かせ、そしてそれぞれ自室で休み始めている中、レンはエリゼが泊まっている部屋を訊ねた。
〜夜・第三学生寮〜
「エリゼお姉さん、ちょっといいかしら?」
「え……その声は……レンさん?はい、構いません。」
「―――失礼するわね。」
エリゼの許可を聞いたレンは扉を開けてエリゼが泊まっている部屋に入り、扉を閉めた。
「レンさん、改めてお礼を言わせてください。今日は本当にありがとうございました……」
「うふふ、大した事はしていないから、別にお礼なんていいわよ。――――それよりもエリゼお姉さんにお話があってね。大丈夫かしら?」
「?はい、私でよろしければお聞きしますが……」
レンの問いかけに不思議そうな表情で頷いたエリゼは返事をした。
「そう。それじゃあ早速聞かせてもらうけどリィンお兄さんも言っていたように、リィンお兄さんとエリゼお姉さんは血が繋がっていない家族なのよね?」
「………はい、それが何か?」
レンの確認の言葉を聞いて一瞬複雑そうな表情を見せたエリゼは気を取り直して続きを促した。
「ふふっ、それじゃあやっぱりエリゼお姉さんもレンと”同じ”なのね。」
「え………それはどういう事でしょうか……?」
「レンの家族はね……レンの双子の妹を除いて、”全員レンとの血の繋がりがないの。”」
「………え…………ぜ、”全員”と言う事はレンさんのご両親も………」
レンの口から出た驚愕の話に一瞬呆けたエリゼはある事を察して不安そうな表情でレンを見つめた。
「ええ、勿論血の繋がりはないわ。だけどみんな、レンとレンの双子の妹の事を血が繋がった本当の家族のように接して大切にしてくれているわ。――――エリゼお姉さん達”シュバルツァー家”がリィンお兄さんを家族に迎え入れたようにね。」
「………………その、レンさんは御自分の事を”私と一緒”と仰いましたがそれはどういう意味なんでしょうか……?先程のレンさんのお話ですと一緒なのは私ではなく兄様だと思うのですが………」
レンの説明を静かな表情で聞いていたエリゼはある事が気になり、不思議そうな表情で訊ねた。
「うふふ、それは勿論”義理の兄に恋している妹”という意味に決まっているじゃない♪」
「!!!え、えっと………何の事でしょうか……?」
そして小悪魔な笑みを浮かべるレンにリィンへの秘めたる想いを言い当てられたエリゼは顔を真っ赤にして驚いた後すぐにレンから視線を逸らして誤魔化そうとしたが
「クスクス、そんなに必死になってリィンお兄さんに恋している事を隠さなくてもいいじゃない♪エリゼお姉さんがリィンお兄さんが大好きな事は”そういう事”に関して超鈍感なリィンお兄さんを除けば、みんな、気づいているもの♪」
「………………えっと………その…………私って、そんなにわかりやすかったのですか……………?」
レンの指摘を聞くと石化したかのように固まり、我に返ると頬を赤らめてレンに問いかけた。
「ええ、残念ながらね。で、レンがエリゼお姉さんを今夜訊ねた理由はエリゼお姉さんの恋を叶えるお手伝いをする為よ。」
「え………」
自分の目的を聞いたエリゼが呆けている中レンは話を続けた。
「―――レンの兄妹の上には、お姉さんと二人のお兄さんがいてね。そのお姉さん―――エステルと下のお兄さん―――ヨシュアは血が繋がっていない姉弟なんだけど……実はその二人、周りのみんなからも祝福されている立派な恋人同士なの。」
「そう……なのですか………その………お二人は義理の家族の間柄だったのですから、恋人同士になるまでには色々と障害があったのではないでしょうか?」
レンの話を聞いてレンの話に出てきた二人の事を内心羨ましく思ったエリゼは複雑そうな表情で訊ねた。
「障害があった事は否定しないけど、あの二人の場合事情が特殊だから他の義理の兄妹の恋愛事情とは比較できないわ。まあ、そんな事よりもその二人は恋人同士になるまである意味エリゼお姉さんとリィンお兄さんの”逆”みたいな状態だったの。」
「え……私と兄様の”逆”、ですか?それは一体どういう意味なのでしょうか?」
「うふふ、エステルにとって弟のヨシュアはお姉さんであるエステルにずっと前から恋していたのだけど、肝心のエステルはヨシュアの想いに気づかない鈍感お姉さんでずっとヨシュアをただの”弟”扱いしていたの。―――リィンお兄さんとエリゼお姉さんの性別が”逆”みたいな状態でしょう?」
「え、ええ……その……弟の方はどのようにして御自分の恋を叶えたのでしょうか……?」
レンの話に頷いたエリゼは話に出てきた二人の恋の行方が気になり、続きを訊ねた。
「二人のお仕事は遊撃士でね。二人は正遊撃士になる為に遊撃士の見習いである準遊撃士だった頃に王国中のギルドを回って、色んな依頼を解決して修業していたの。で、その修業の最中にエステルの方もようやくヨシュアに恋するようになって、その後紆余曲折があって二人はめでたく互いの初恋を叶えて恋人同士になったのよ♪」
「は、はあ…………(その紆余曲折の内容が気になるのですが……)………そのお二人の話とレンさんが義理の兄に恋しているという話にどう繋が――――あ。もしかしてレンさんはそのヨシュアさんという方の事を………」
肝心な所をぼやかしたレンの説明に冷や汗をかいたエリゼはレンの話に出てきた二人の話とレンの恋がどう関係あるのか疑問に思ったが、すぐに気づいて気まずそうな表情でレンを見つめた。
「うふふ、今の話を聞けば普通はそう思うでしょうけど、残念ながらレンが恋していた義理の兄はヨシュアじゃないわ。」
「え………?―――!あ………そう言えばレンさんは先程お兄様が二人いると仰っていましたから、もしかしてもう一人の……?」
「正解♪もう一人のお兄さん―――ルークお兄様は結構年が離れているけど、とっても素敵なお兄様でね。ルークお兄様のお陰で、レンは今の家族―――ブライト家の一員になって、幸せになれたの。」
「………もしかして、その事でレンさんはそのお兄様の事を……?」
レンが恋をした切っ掛けを察したエリゼはレンに訊ねた。
「ふふっ、あくまで理由の内の一つよ。レンがお兄様の事を大好きなのは他にもたくさん理由があるしね。―――最も、レンは告白する事もできずに失恋しちゃったけどね。」
「え。」
レンの答えを聞いたエリゼは呆け
「ティアお姉様って言って、お兄様の昔からの知り合いで歌が得意で、とっても美人さんでスタイルも完璧という、レンよりも遥かに素敵なレディなの。そしてその人は昔からお兄様の事が大好きで、お兄様もその人の事が大好きと相思相愛の間柄なのだけど色々と複雑な理由があって二人は今まで付き合う事はできなかったの。で、その複雑な理由も解決して二人はめでたく結婚を前提とした恋人同士になって、二人が相思相愛だって知っていたレンも二人に迷惑をかけない為に二人が恋人同士になった事を祝福して、想いを告げる事なく静かに身を引いたの。」
「……………レンさん……………」
レンの失恋した理由を知り、将来自分もレンのようになる可能性が高い事を悟っていたエリゼは辛そうな表情でレンを見つめた。
「ふふっ、そんな顔をしないで。二人の事はレンも心から祝福しているし、例え失恋してもレンとお兄様が”家族”である事は変わらないもの。――――それよりも今はエリゼお姉さんの事よ。エリゼお姉さんはレンと違って、まだ自分の恋を叶えられる機会がある事はわかるわよね?リィンお兄さんはまだ誰とも付き合っていないのだから。」
「………………そんな事を急に言われても………兄様に告白する勇気なんて私にはありませんし…………それに例え告白したとしても、兄様は私をずっと”妹”として見てきたのですから断られるのはわかりきっていますし…………」
レンに自分の事を指摘されたエリゼは表情を不安そうにして顔を俯かせた。
「うふふ、だったらエステルに一人の男として見て欲しい為に大胆な行動をしたヨシュアの時みたいに自分は”妹”じゃなくて”一人のレディ”として見て欲しいと伝える大胆な行動をすればいいのよ♪」
「え…………ヨシュアさんという方は先程話に出てきた義理の姉の方への想いを実らせた方ですよね?ヨシュアさんはどういう行動をされたのでしょうか………?」
「クスクス、それはね………――――キスよ。勿論頬とかじゃなくて、唇同士のね。ちなみにそのキスはヨシュアは当然として、エステルにとってもファーストキスだったのよ♪その事もあってさすがの鈍感エステルもヨシュアの事を意識し始めて、最後はヨシュアの事を大好きになったの♪」
「キ、キスですか………確かにそれは凄い大胆な行動ですね………―――って、まさか私にヨシュアさんと同じ事をしろと仰るおつもりなのですか!?」
レンの話を聞いて頬を赤らめていたエリゼだったが、すぐにレンが言いたい事を察し、驚きの表情で訊ねた。
「クスクス、甘いわね。レンはキスよりももっと凄い事をエリゼお姉さんにしてもらう為にさっきリィンお兄さんの部屋を訪ねてリィンお兄さんにある事をしたの。」
「え……兄様に一体何をされたのでしょうか?」
「今日のあの甲冑との戦いで使った謎の力でリィンお兄さんは大分疲労しているように見えたから、疲労回復用の紅茶と称して、リィンお兄さんに媚薬を混ぜた紅茶を飲んでもらったの。」
「ええっ!?び、媚薬!?」
「うふふ、その媚薬の効果は普通の媚薬よりも性欲を高める効果が高すぎるあまり、レディを見れば、”誰でも襲い掛かる”程の飲んだ本人の性欲を高ぶらせる凄い薬なの♪―――――ここまで言えば、レンがエリゼお姉さんに何をして欲しいのかわかるでしょう?」
「ま、まさか………私に兄様に襲われて操を奪われて、それを理由に兄様に私を恋人にして欲しいと迫れと………?」
レンに答えを促されたエリゼは顔を真っ赤にして訊ねた。
「正解♪ちなみに寮にいる他の人達は今日のディナー後に呑んだ紅茶に入っていた遅行性の睡眠薬の影響で今頃夢の中よ♪リィンお兄さんを除いて睡眠薬を呑んでいないのはシャロンお姉さんとレンだけど、シャロンお姉さんは1階の管理人室で寝泊まりしているし、勿論レンはエリゼお姉さんの”初めて”を盗み聞くような趣味の悪い事をしない為にもこの部屋で待っているわ。」
「…………………」
レンの口から次々に出た驚愕の事実にエリゼは顔を真っ赤にして固まり
「さすがの超鈍感リィンお兄さんも妹と思っていたレディに処女(ヴァージン)まで捧げられたら、エリゼお姉さんが兄の自分に対して恋している事がわかるでしょう?大好きなリィンお兄さんに処女(ヴァージン)を捧げて、かつリィンお兄さんへの恋心を知ってもらえ、止めには今まで大切にしていた妹の処女(ヴァージン)を奪ってしまったという罪悪感によってエリゼお姉さんとの結婚を真剣に考えてくれるというまさに一石三鳥の策でしょう?」
「そ、そんな事、絶対にできません!そんな間違っている方法を取ってまで恋を叶えたいと思いませんし、だ、第一もしその事が原因で私が身籠ってしまったら、大問題ではありませんか!」
説明を終えたレンに問いかけられると顔を真っ赤にして反論した。
「うふふ、妊娠の可能性みたいな”初歩的な問題”に対する対処はとっくに考えているわよ。――――はい。これを今飲んで。」
エリゼの反論を小悪魔な笑みを浮かべて聞いていたレンはエリゼに何かのドリンク剤を手渡した。
「これは………?」
「ただの避妊薬よ。」
「ひ、ひに……っ!?」
手渡されたドリンク剤の効果を知ったエリゼは顔を真っ赤にして驚き
「その避妊薬は飲んでから10分すれば効果が出てくるわ。今この場で飲んでリィンお兄さんの部屋を訪ねて、襲われたリィンお兄さんに処女(ヴァージン)を奪われるまでには十分な時間でしょう?」
「睡眠薬や媚薬といい、その避妊薬といい、レンさんは学生で……それも私よりも年下の方ですのにどうしてそのような物を所持しておられるのですか……?」
「それはヒ・ミ・ツ、よ♪」
エリゼの疑問にレンは笑顔で誤魔化し、レンの答えを聞いたエリゼは冷や汗をかいた。
「うふふ、それよりも早くこの薬を飲んでリィンお兄さんの所に向かわなくてもいいの?リィンお兄さん、媚薬の効果で今頃苦しんでいると思うわよ?」
「そ、それは………そ、それでも今の兄様の所に行けません!」
「何で?長年想い続けて心の中では諦めていたリィンお兄さんへの恋心を実らせる千載一遇のチャンスなのよ?」
「薬で兄様を興奮させて、既成事実を作って恋人になるように迫るなんて……そんなやり方、間違っています……私はともかく兄様の事ですから、正気に戻った後絶対後悔されるに決まっています……」
レンの問いかけを聞いたエリゼは複雑そうな表情で答えた後辛そうな表情になった。
「そう……ここまで言ってもエリゼお姉さんにそのつもりがないのなら、仕方ないわね………――――エリゼお姉さんの恋のお手伝いは諦めてアリサお姉さんの恋のお手伝いをする為に”こういう時の事を想定して”、睡眠薬を飲ませなかったアリサお姉さんに今の話をしてきて、リィンお兄さんの部屋に向かうように説得するしかないわね。」
「え………ど、どうしてそこでアリサさんが出てくるのでしょうか……?」
疲れた表情で溜息を吐いて呟いたレンの言葉を聞いて呆けたエリゼは戸惑いの表情でレンを見つめて問いかけた。
「うふふ、アリサお姉さんもリィンお兄さんに恋していてね。この間の特別実習の場所は”ノルド高原”に住んでいるノルドの民達の集落のお家に泊まったのだけど……用意されたレン達の宿泊用のお家は一つしかなくてね。その時は”仕切り”を作って男女別に寝たのだけど……深夜にアリサお姉さんが起きてね。その時にアリサお姉さん、眠っているリィンお兄さんの唇にキスをしたの♪」
「!!??」
小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの話を聞いたエリゼは驚愕のあまり目を見開き
「それとね?入学式のZ組専用のオリエンテーションの時にリィンお兄さん達はサラお姉さんが仕掛けた落とし穴に落とされたのだけど………その時に近くにいたアリサお姉さんを助けようとして、穴から落ちた時に”幸運”にもリィンお兄さんがアリサお姉さんのクッションになって、その時にアリサお姉さんのバストにリィンお兄さんの顔が埋まっちゃったの♪」
「!!!!!!!!!…………に・い・さ・ま〜〜〜〜!?」
更なる驚愕の事実を知り、目を見開いた後身体を震わせながら膨大な威圧を纏って微笑んでリィンの顔を思い浮かべていた。
「うふふ……ねえ、エリゼお姉さん。リィンお兄さんって鈍感どころか、レディの心を射止める事を無自覚でやっちゃう性質の悪い”たらし”な人なんでしょう?」
「そ、それは………………」
リィンの事を最もよく知っていて、リィンの性格等も熟知しているエリゼはレンの指摘に対して反論できず、答えを濁し
「そんな”たらし”で鈍感なリィンお兄さんの事だから、将来無自覚で自分に対して恋心を抱くレディを増やしてハーレムを作ると思わない?」
「……………………」
レンの予想を聞き、その光景を思い浮かべたエリゼは実際に”ありえてもおかしくない”と思い、黙り込んだ。
「しかもリィンお兄さんはエリゼお姉さん達――――”シュバルツァー家”に遠慮して家から出ようとしていて、エリゼお姉さんはその事に反対なのでしょう?だったら、エリゼお姉さんがリィンお兄さんと”本物の家族”――――”夫婦”になって、リィンお兄さんを繋ぎ留めればいいのじゃないかしら。ほら、男って、放っておいたらどこに行くかわからないから、女が男を繋ぎ止めておくって話はよく聞く話じゃない。」
「それは………………」
「それにリィンお兄さんって”貴族”のエリゼお姉さんのお兄さんなんだから当然”貴族”でしょう?”平民”が複数の女性と結婚するなんて話は中々聞かないけど、”貴族”は”妾”なんて存在があるから複数の女性との結婚はわりとよくある話でしょう?将来”複数の女性と結婚する可能性が高い”と考えられるリィンお兄さんの”妻”の中の一人になる……そうなれば、リィンお兄さんはエリゼお姉さんとは別にできた好きなレディとも結婚できるから、エリゼお姉さんが”間違っている”と思う方法でリィンお兄さんと結ばれても問題ないでしょう?」
「私が兄様の妻の一人…………」
レンの話を聞いて思わず自分がリィンの妻になった光景を思い浮かべたエリゼは呆け
「それにエリゼお姉さんはレンの提案を”間違っている”って言っているけど、エリゼお姉さんは他のレディ達と違ってリィンお兄さんの”妹”―――つまり、”よほどの事”がない限り”家族”としてしか見てもらえない致命的な”ハンデ”を抱えているんだから、恋愛事に関して超鈍感なリィンお兄さん相手に”妹”という”殻”を破るにはそのくらいの大胆な事はしないとリィンお兄さんはエリゼお姉さんの恋心をわかってくれないと思うわよ?実際リィンお兄さんのように恋愛関係に関して鈍感だったエステルも今まで”弟”と思っていたヨシュアにキスをされた事で、ヨシュアが自分の事を”姉”じゃなくて一人のレディとして見ていた事を自覚したもの。」
「………………」
レンの指摘を聞くと反論する事なくレンの話を聞き続けた。
「それともしリィンお兄さんが他のレディと実際に結ばれた時にこうは思わない?(『私が一番最初に兄様と出会って、兄様の傍にずっといて、兄様の事を一番良く知っているのに、どうして私じゃなくて昔からの知り合いでもない赤の他人に兄様が奪われてなくちゃならないの!兄妹の間柄とはいえ、血が繋がっている訳でもないのにどうして兄様の傍にずっとい続け、兄様を想い続けていた女性の私は兄様の妻になれないの!?』)って。」
「っ!!………………」
そしてレンはエリゼに近づいてエリゼの耳に小声で囁き、レンに未来の自分の本音になると思われる未来の自分の想いを言い当てられたエリゼは息を呑んだ後黙り込んで顔を俯かせ
(うふふ………さて、”成功”するかしらね?)
エリゼの様子をレンは意味ありげな笑みを浮かべて見守っていた。
「……………レンさん………その…………本当に今、兄様以外の他の方達は眠りについておられるのですか…………?」
僅かな間黙り込んでいたエリゼは顔を上げてレンを見つめて訊ねた。
「ええ。さっき全員の部屋を回って確認してきたけど、みんな、ベッドの中でぐっすり眠っていたわ。もしエリゼお姉さんがリィンお兄さんの所に向かうのだったら、レンはこの後すぐにアリサお姉さんを訊ねて何らかの方法で睡眠薬を飲んでもらって、レン自身はこの部屋でエリゼお姉さんからの朗報を期待して待っているつもりよ。」
「………そう、ですか…………」
レンの答えを聞いたエリゼは手渡されたドリンク剤を見つめた後決意の表情になってドリンク剤の蓋を開けて中身を飲み始めた。
「んくっ……んくっ………ふぅ…………」
「うふふ、それを飲んだという事は覚悟は決まったのね?」
エリゼがドリンク剤を飲み終えるとレンは小悪魔な笑みを浮かべて問いかけ
「……………はい。その………レンさん、兄様への想いが叶うことは無いと諦めていた私の為に色々として頂いた事といい、迷っていた私の背中を押してくださった事といい、本当にありがとうございます………」
「お礼なんていらないわ。レンはレンでは叶える事ができなかったエリゼお姉さんの恋を叶えてあげたいと思って、勝手にお節介をしただけよ。今はレンの事よりも今も苦しんでいるリィンお兄さんを楽にしてあげる為に、リィンお兄さんの所に行ってあげて。」
「……はい……それでは、行ってきます……!」
レンに促されたエリゼはレンに頭を下げた後部屋から出てリィンの私室へと向かった。
「…………うふふ、さすがは”教授”の暗示だけあってコピーでも十分効果はあったわね。後は”リィンお兄さんにかけた暗示”の効果もちゃんとあったかどうか、後でエリゼお姉さんに確認しておかないとね。」
エリゼが部屋から出た後エリゼとの会話の最中で自身に秘められている”グノーシス”の力で自分の記憶の中にあるかつての敵――――”身喰らう蛇”の”蛇の使徒”の第三柱―――”白面”ゲオルグ・ワイスマンの能力の一つである暗示をエリゼに使った結果、効果があった事にレンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
(うふふ、エリゼお姉さん。いくつか嘘をついてごめんね♪エステルがヨシュアを意識したのはキスの件じゃないし、アリサお姉さんも”みんなのように”遅行性の睡眠薬入りの紅茶を飲んでいたから今もベッドの中で眠っているし、リィンお兄さんに飲ませた媚薬も実はそんなに強力なものじゃなくて、リィンお兄さんがエリゼお姉さんが襲い掛かる本当の原因はレンの暗示によるものよ♪でも、長年想い続けていながらも諦めていたリィンお兄さんへの恋が叶うから、そんな細かい事はどうでもいいでしょう?)
そしてレンが小悪魔な笑みを浮かべて扉を見つめてエリゼの顔を思い浮かべたその時扉がノックされた。
「あら?……もしかしてシャロンお姉さんかしら?」
「はい。今、部屋に入っても構わないでしょうか?」
「ええ、いいわよ。」
「――――失礼します。」
レンが入室の許可を出すとシャロンが部屋に入って来た。
………え〜、今回のお話で気づいたと思いますがレンちゃんはコピーしたワイスマンの暗示を試す為にリィンとエリゼを(汗)ちなみにレンちゃんは後にこの暗示をとんでもない事に使っちゃいます(具体的には碧並びに閃UのED内容が大幅に改変されてしまう程の影響です(オイッ!))なお、久々にもなる18禁展開の話はいつものようにシルフェニアの18禁版に投稿してありますので興味がある方はそちらで読んでください。……あれ?おかしいな……テイルズは全年齢対象なのに、何で18禁展開になってしまったんだ………というか暗示で人を操るとか主人公のやる事じゃねぇ(汗)
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第109話 | ||
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