英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
その後アルト通りに到着したリィン達はエリオットの実家が近くにあると聞き、実家にいるエリオットの姉に挨拶する為にエリオットの家に入った。
〜アルト通り・クレイグ家〜
「うわ〜、久しぶり……」
実家に戻ったエリオットは懐かしそうな表情をした。
「ここがエリオットの家か……」
「中々良いお家ね。」
「あら、お客さんかしら〜……はいはい、ただいま〜……」
エリオットやマキアス、レンの声に気付いたのか、のんびりした声が聞こえ、2階から女性が降りてきた。
「ふふ、お待たせしまし……えっ――――」
リィン達に微笑んだ女性は呆け
(この女性は……)
(……エリオットにそっくり。)
(うふふ、エリオットお兄さんに髪が伸びて成長すれば、瓜二つになるのじゃないかしら♪)
女性の容姿がエリオットと非常に似ている事にリィンとフィーが目を丸くしている中、レンはからかいの表情で呟いた。
「(ちょっとレン、それってどういう意味……?)え、えっと……―――ただいま、姉さん。」
「……………………エリ、オット…………?」
エリオットに微笑まれた女性は呆けた後エリオットに駆け寄ってエリオットを強く抱きしめた!
「―――エリオット!」
「わわっ!?」
女性に抱きしめられたエリオットは驚き
「ほう……」
その様子をラウラは興味ありげな表情で見守っていた。
「まあまあ、本当にエリオットだわ!まさかこんなに早く会える日がくるなんて……!ああっ女神様!心から感謝します……!」
「ちょ、ちょっと姉さん!みんなが見てるってば〜!」
(はは……随分と姉弟仲がいいみたいだ。)
(……確かに羨ましいくらいだな……)
嬉しそうな表情でエリオットを抱きしめている女性と慌てている様子のエリオットの様子を微笑ましく見守っていたリィン達はその後ソファーに座って互いの自己紹介を始めた。
「―――エリオットの姉のフィオナ・クレイグです。みなさんには、弟がとてもよくしてもらっているそうで……お会いできてとっても嬉しいわ。」
「いえ、こちらこそ。」
「よく気の回るエリオットには何かと助けられている。」
女性―――フィオナに微笑まれたリィンとラウラはそれぞれ答え
「あ、ああそうだな。」
「……マキアス、何だか照れてる?」
「クスクス、フィオナお姉さんって、エリオットお兄さんみたいに美人さんだものね♪」
干照れている様子のマキアスに気付いたフィーは尋ね、レンはからかいの表情で指摘した。
「そ、そういうわけじゃ……!」
「ちょっと、レン!?今、さり気なく僕を女の子扱いしたよね!?」
二人の指摘にマキアスは慌てた様子で答え、エリオットは表情を引き攣らせてレンに指摘した。
「ふふ、リィン君にラウラさん……マキアス君にフィーちゃん、レンちゃんね。手紙に書いていた通り、いいお友達に恵まれたみたい。」
「あはは、うん。そういえば姉さん、今日はピアノ教室の方はいいの?」
フィオナの言葉に我に返って頷いたエリオットは姉の仕事を思い出して尋ねた。
「ええ、今日はちょうどお休みよ。子供たちも来ていないからタイミングがよかったわね。」
「へえ、ご自宅でピアノを教えているんですね。」
「そういえばエリオットも吹奏楽部に入っていたが……実は音楽一家だったりするのか?」
「えっと……あはは。それほどでもないんだけどね。父さんなんて、見るからに縁のなさそうな人だし。」
マキアスの疑問を聞いたエリオットは苦笑しながら答えた。
「ふふ、そうね。たまには家族でのんびり演奏会にでも行きたいけど……お仕事が忙しくて家にも滅多に帰ってこられないもの。」
「……エリオットのお父さんって何をやっている人?」
「え、ええっと……」
「あら、言ってなかったの?」
フィーの質問に対して答えを濁しているエリオットの様子を見たフィオナは目を丸くした。
「……そういえば、あまり聞いた事がはなかったか。」
「何か事情があるのか?」
「いや、そこまで大した話じゃないけど……その……父さんは帝国軍に勤めているんだ。」
「帝国軍……そうだったのか。」
「あはは、ちょっと意外でしょ?」
自分の話を聞いて目を丸くしているマキアスの反応を予想していたエリオットは苦笑したが
「まあ、エリオットお兄さんの容姿や体格を考えたら誰でも意外に思うでしょうね♪」
「いや、僕の容姿や体格と父さんの仕事は関係ないよね!?」
からかいの表情で呟いたレンに疲れた表情で指摘した。
「はは、確かに……って、あれ?軍人で『クレイグ』って聞き覚えがあるような……」
「あっ……も、もしかしてオーラフ・クレイグ……”紅毛(あかげ)のクレイグ”か!?」
リィンの言葉を聞いたある人物を思い出したマキアスは驚きの表情でエリオットを見つめた。
「ふふ、正解よ。」
「……聞いたことあるかも。」
「帝国軍きっての猛将と知られるオーラフ・クレイグ中将……人呼んで”紅毛のクレイグ”。彼の率いる第四機甲師団は、帝国正規軍の中でも最強の打撃力を誇るという。学院への入学にあたって知識として調べたんだが、エリオットの父親だとは……」
「……そういえば第四機甲師団にはナイトハルト教官も所属していたな。」
「うん、一応父さんの関係で以前から付き合いがあるんだ。……まあ、僕と父さんじゃさすがに結びつかないよね。あんまり知られたくはなかったんだけど……」
「エリオット……」
若干暗い雰囲気を纏っているエリオットの様子を見たフィオナは心配そうな表情をした。
(ふむ……)
(……やっぱり、何か事情があるみたいだな。)
(まあ、エリオットお兄さんは帝国軍でも指折りの実力者の息子だから、将来の関係で色々事情があるのでしょうね。)
「え、ええっと……変な空気にしちゃったかな?ごめん、あんまり気にしないで。あ、そうだ……姉さん、このあたりにホテルとかはなかったっけ?手配してもらった場所を探しているんだけど。」
小声で囁き合っているリィン達に見つめられたエリオットは慌てた様子で気を取り直した後、フィオナに尋ねた。
「ええっ……!?ウチに泊まっていかないの!?」
一方エリオット達が実家に泊まると思っていたフィオナは信じられない表情で声を上げ
「う、うん……一応、学院の実習だから。それに、ウチじゃさすがにベッドが足りないでしょ。」
姉の大げさな反応に戸惑いながらエリオットは答えた。
「で、でも……久しぶりに帰ってきたのに……くすん、きっとエリオットもお姉ちゃん離れの年頃なのね。複雑だけど、見守るのがお姉ちゃんの役目よね……」
「ね、姉さんってば……」
(クスクス、フィオナお姉さんだったらセシルお姉さんとお話があってお友達になれるでしょうね♪というかもし知り合ったら間違いなく弟自慢の対決をするでしょうね♪)
悲しそうな表情で自分を見つめるフィオナにエリオットが呆れている中弟に非常に甘いフィオナの性格がセシルと非常に似ている事を悟ったレンは小悪魔な笑みを浮かべてフィオナを見つめ
(どちらかというと姉上のほうがべったりのようだが……)
ラウラは興味ありげな表情でフィオナを見つめた。
「……でも、変ねぇ?このあたりにホテルなんてなかったと思うけど。」
「え……」
「……ないの?」
「もしかして、父さんが住所を間違えたのか……?」
「ふむ、あの優秀そうな御仁がこの程度のミスはしなさそうだが。」
「そうね……」
エリオットの疑問に答えたフィオナの話を聞いたリィン達はそれぞれ戸惑いの表情を見せた。
「ううん、わからないけど……その、よかったら住所を教えてもらえるかしら?」
「あ、はい、これなんですが……」
フィオナに訊ねられたリィンはフィオナに住所が書かれたメモを手渡した。
「あっ、この住所は……もしかして、”遊撃士協会(ブレイサーギルド)”があったところじゃないかしら?」
「あっ……そういえば!」
「遊撃士協会……」
「それは、確かなんですか?」
「ええ、ギルドには知り合いもいたしね。少し前にいなくなってしまったけど…………」
「そ、そうなの!?知らなかった……」
姉の知り合いにギルド関係者がいる事を初めて知ったエリオットは驚いた。
「……ふぅん。ギルドの支部か。」
「確かにギルドの支部なら受付や遊撃士達の仮眠用のベッドが用意されてあるわね。」
一方自分達が泊まる場所が元遊撃士協会支部と知ったフィーは目を丸くし、レンは納得した様子で頷き
「ど、どういう事なんだ?父さんがなぜそんな場所を…………」
マキアスは戸惑いの表情を見せた。
「……とにかく、自分達で確認する必要がありそうだな。エリオット、場所はわかるか?」
「う、うん……家を出て通りに沿って歩けばすぐに着くはずだよ。」
「ふう、本当ならもっとゆっくりして欲しかったけど……今回は仕方ないわね。でも、もしよかったら滞在中の食事くらいはうちで用意させてもらえない?」
「あ、いいかもしれないね!……どうかな、みんな?」
フィオナの提案を聞いたエリオットは明るい表情で頷いてリィン達を見回し
「そうだな、せっかくだし……」
「ああ、お邪魔させてもらうとしよう。」
「わたしも賛成。」
「勿論レンも賛成よ。」
リィン達はそれぞれ賛成の様子で頷いた。
「ふふっ、よかった。じゃあ今日の夕食は腕によりをかけて作らせてもらうわね。みんな、しっかりと頑張ってうんとお腹を減らしてきてね。」
「フフ、夏至祭の他にも一つ楽しみができたか。」
「はは……確かに。―――それじゃあさっそくギルドの方へ行ってみよう。」
「うん、そうだね。」
その後リィン達は元遊撃士協会支部であった建物に向かった。
〜遊撃士協会・ヘイムダル東支部跡〜
「え〜〜っと……うん、やっぱりメモの住所はここで間違いないみたいだよ。」
メモの住所と建物の住所を確認したエリオットはリィン達を見回した。
「まさかギルドの建物だったとはな……おそらく、B班も同じだろう。」
「ここの他にもギルドの建物があるのか?」
「ああ、もともと帝都には支部が二つあってな。1年以上前に撤退したから今では気にする人も少ないが。」
「そうなのか……?私の故郷”レグラム”には今でもギルドの支部があるが。」
リィンの質問に対して答えたマキアスの説明を聞いて不思議に思ったラウラはマキアスに尋ねた。
「ふむ、そうか……今じゃ珍しいとは思うが。」
「でも、撤退したっていう割には妙に新しい建物だな?」
「2年ほど前に大きな火事があってさ。その後に建て直されたんだけど、結局畳まれちゃったんだ。ただ、あの火事については……テロだって噂もあったけどね。」
「それは……物騒な噂だな。」
エリオットの話を聞いたリィンは真剣な表情をした。
「まあ、あくまで噂は噂だが。」
一方マキアスは信じていない様子で呟き
(……アレか……)
(パパが解決した例の事件ね。)
心当たりがあるフィーとレンは小声で呟き
「へ?」
「や、なんでも。」
「レンも何もないわ。」
自分達の小声に気付いたリィン達に見つめられた二人は答えを誤魔化した。
「………………」
一方二人の答えを聞いて黙り込んでいるラウラを見たリィン達は冷や汗をかき
「と、とにかく中に入るか。」
「父さんにもらった鍵が使えるはずだ。」
空気を変える為にリィン達は鍵を使って建物内に入った。
「意外と綺麗に片付いているな……」
「あちこちに何か張られてるみたいだけど……」
建物内に入ったリィンとエリオットはそれぞれ興味ありげな表情で周囲を見回していた。
「管理機関を示しているみたいだな。どうやら現在、この建物は『帝都庁』の管理下にあるようだ。」
「帝都知事がこの場所を用意できたのも、そういうカラクリか……」
「……それで宿泊場所は?」
「1Fは受付カウンターしかないみたいだし……多分、2Fじゃないかな?一旦荷物を置いてから、”実習課題”の確認を始めよう。」
その後リィン達は男子と女子に別れて2Fのそれぞれの仮眠室に荷物を置いた後、テーブルに集まった。
「……仮眠室のベッドまでご丁寧に真新しいものが用意されていたようだ。ホテルじゃあるまいし、どう考えても分不相応だろう……」
「うふふ、細かい事は気にしなくていいじゃない♪」
「あはは、さすがはマキアスのお父さんだよね。」
「まあ、お心遣いに感謝するべきだろう。」
「―――よし、それじゃあ今日の課題を確認するぞ。」
そしてリィン達は封筒を開いて依頼内容を確認した。
「ふむ……帝都となればさすがに様々な依頼があるようだな。」
「ああ……それぞれきちんと事情を確かめる必要があるだろう。」
「僕らA班の担当は”ヴァンクール通り”から東側のエリアだけど……午前中に一通り回ってみた方がいいかもしれないね。」
「賛成。どこに何があるかくらいは把握しておきたいかも。」
「そうね……活動している地域の地形は把握しておかないと不味いし。」
「ああ、依頼をこなしつつ”導力トラム”なんかも使って一通りの街区に行ってみよう。各街区の案内はマキアスとエリオットに任せていいか?」
クラスメイト達の意見に頷いたリィンは帝都の地理に明るいマキアスとエリオットを見つめた。
「ああ、引き受けよう。」
「さすがに広すぎるけど……出来る限りやってみるよ。それと、夕飯は姉さんが用意してくれるみたいだから。」
「ああ、一通り片付けたらもういちど訪ねるか。―――範囲も広いし、さっそく実習活動を開始するぞ。」
「心得た。B班に負けぬよう、精一杯の力を尽くすとしよう。」
その後リィン達は実習課題を片付ける為に行動を開始した――――
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