真・恋姫無双after〜蜀の日常・その14(下)〜
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「う、う〜ん・・・」

円は夢の世界から目覚め、眼をこすろうとした―――しかし手が動かない。しかも二の腕あたりがチクチクする。足首も同様だ。

そう、荒縄で縛られているような。

それを意識した瞬間、円の意識は一気に覚醒した。

「な、なんであたしは縛られてるんだ・・・?」

縛られて転がされている部屋はどうやら物置のようで、暖をとるための薪の山や、漁に使う為の投網が無造作に置かれている。格子がはまった窓からは磯の香りが漂ってきている。部屋の戸の閂が外れる音が響き、開いた戸から顔に傷を持つ左目に眼帯を付けた男が入ってきた。

「目は覚めたか、お姫サン?」

「お、お前は・・・!河賊最大の勢力を持つ『黄帝党』の首領!」

その男は呉の領地内で手配書が配られているほどの悪名高い男で、大都督の亞莎や穏率いる孫呉艦隊が幾度も彼及び指揮下の組織を逮捕するべく戦闘を繰り広げ、部下は逮捕するものの、首領は捕らえることができずじまいだった。

「そうだ。お姫サン、なんであんたがここにいるか思い出したかい?」

「ああ。あたしは城の部屋からいつもみたいに抜け出して・・・」

いつものように城の自室から抜け出した彼女は、将来の婿かもしれない劉永が戦艦の見学をするという情報を得ていたので、流浪の旅から帰ってきて、見学の案内役を任じられていた呂覇に頼んで見学終了後、宿で会う約束をしていたのだが―――

「裏道を通って行ってたら、店があって・・・その商品を眺めていたらいきなり背後から手が出てきて口をふさがれて―――」

「そうだ。あの露店を開いていたやつは俺の部下だよ」

満足げにうなずく首領の男。

「あたしを誘拐してどうするつもりだ?」

もっともな事を円が言うと、首領の男はニヤリと笑う。

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「『孫呉艦隊旗艦・孫長卿を譲渡せよ』・・・とのことです」

手紙を受け取った呂覇たちは建業城に戻り、蓮華たち軍首脳に報告を行っていた。

「まさか姉様も冥琳も穏も亞莎もいない時に動き出すなんて・・・!」

頭を抱える蓮華。雪蓮達は呉領南部の異民族を討つべく出陣しており、不在だった。大都督の亞莎は軍を率いて幽州で発生した烏丸族の反乱を鎮めるため、魏の援軍に派遣している。戦には勝ったが戻ってくるのにかなり時間がかかる。

「いくら非常時とはいえ主力をほぼすべてだしたのは失敗でした・・・」

思春は悔しげに拳を握り、玉座の間に沈黙が広がる。

「蓮華様!紫苑殿をお連れしました!」

玉座の間に入ってきたのは明命。後ろには紫苑がついて来ている。

「紫苑、着いて早々の足労、すまない・・・」

元気なく頭を下げる蓮華。その様子からみて相当ショックだった事が窺える。

「大変なことになりましたわね・・・」

「ああ。早速ですまないが紫苑、貴女の知恵を貸してくれないか?」

蓮華が紫苑を呼んだのは、歴戦の勇士である彼女と同じく戦の経験豊富な祭の意見も合わせて円奪還の作戦を練ろうという狙いがあった。

「今わしの娘と明命の娘が連中の本拠を探っておる。もうしばらくすると帰ってくると思うのじゃが」

「祭さんと明命ちゃんの娘っていうと―――」

「母ちゃん!(母さん!)今帰ったよ!!」

バターン!と騒がしく扉が開かれ、紫苑の話題に上がっていた2人が姿を現した。バタバタと足音高く報告の為に玉座に走り―――

祭の拳骨で地に伏した。

「ぐぉぉぉぉ〜!」

「痛いよ、祭様〜!」

「少しは空気を読まんか!まったく・・・」

地に伏したうち薄紫色の髪の毛の少女は黄廉。祭の戦死した従姉の娘で、自分の養子にしている娘だ。黒髪の方は周欽。明命の養子で元は戦災孤児だった。

「ふふふ・・・蘭、海。あなたたちはいつでも私を和ませてくれるわね」

「ううう・・・」

「蓮華様、ボクたちお笑い専門武将じゃないんですけど・・・」

目に少し涙を浮かべて抗議する2人の姿に場は少し和んだ。

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「連中の根城は、黄河から少し離れた山の中の廃村にあるのを確認しています」

周欽―――海は机の上に敷かれた見取り図を棒で指す。

「この廃村は、我々正規軍に追われた場合を想定して船で逃れるように谷川が流れる川の付近に建てられています。さらに村への入り口はここだけ」

海の棒がコンコンと川と村への道を指す。

「・・・と思ってたけど―――」

黄廉―――蘭が谷を守る様に囲んでいる崖を指さした。

「ここの崖は壁っていうよりも、ちょっと急な感じの坂になっててさ。鹿とかも通ってるみたいなんだ」

「奪還は不可能ではないわけ・・・ですね?」

「その様ですね、紫苑殿」

そこでだが。と祭。

「呉蜀共同での円様奪還の編成を組みたいと思う。力を貸してくれないか」

紫苑の答えは、聞くまでもなかった。

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「・・・(クイクイ)」

部隊から先行して敵の罠がないか確認していた周欽が『危険なし』と判断して草陰に身を伏せている本隊先鋒に手招きして進軍を促す。

円奪還の為に編成されたのは選びに選び抜かれた精鋭兵2千。それを率いるのは―――

「黄廉殿・・・」

「わかっておる、関平殿。者ども、進軍開始じゃ」

蜀の関平と呉の黄廉。青龍偃月刀と多幻双弓というそれぞれ母譲りの武器を携えて立ち上がる。彼女らと共に立ち上がった兵の後ろに―――

「劉永殿、どうぞ」

「うん。ありがとう呂覇さん」

「劉永様、お気を楽に・・・」

劉永の愛馬の手綱を握る呂覇、得物の颶鵬を構える紫苑、そして最年長者に励まされるのは総大将の劉永である。

靖王伝家を腰にさげ、蜀のイメージカラー・緑を基調とした鎧を身にまとった凛々しい姿の若武者はこれが初めての戦―――初陣となる。

劉永率いる部隊は山族たちのねぐらの廃村の裏側の崖を目指して進軍していた。以外にも廃村へ続く山道は整備されており、また一種の城のように櫓があちらこちらに組まれていた。幸いにもその櫓には人が一人もいなかったが。

周欽が罠を確認して部隊が進む。この一連の行動を何度か繰り返しているうちに軍議で黄廉が指摘した崖の上に到着した。

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月明かりに照らされた彼らの眼下には数軒の朽ちかけた家とそれらとは一線を画した比較的大きな一軒の屋敷。その屋敷を指さして周欽が告げる。

「私の調べによりますと、あの屋敷が首領の屋敷―――に見えますが、あの屋敷は・・・ええと、『だみぃ』でほんとの屋敷は―――」

指を屋敷からもとは宿屋だったのかもしれない、船が繋いである川に近い2階建ての木造家屋を指さした。

「あそこです」

「なんで引っかけたのだ!」

ポカリと周欽の頭をはたく呂覇。涙目で「痛いです」と抗議してくる彼女は無視して弓に火矢をつがえている黄廉に目を向けた。

「蘭―――」

「準備はできておるぞ」

こちらは声をかけるまでもなかったようだ。頼もしい声が返ってくる。呂覇は総大将に向き直り、恭しく告げた。

「すべて準備は整いました。あとは殿下の勇ましき号令で兵たちを勇気づけてくださいませ」

劉永は馬上から兵に向かって朗々と告げた。

「聞け!貴様らは天の御遣いの子・劉公寿の率いる天兵である。我は貴様らに孫瑜姫奪還と―――」

鞘から靖王伝家を抜き放ち、月に向かって掲げる。

「生きて再び建業の地を踏むことを命じる!」

そして掲げた靖王伝家を廃村に向かって突き付ける。

「黄廉隊、火矢放てぇー!」

号令と共に放たれた火矢は軌跡を描いて次々と家に突き刺さって燃え上がる。それを合図に先鋒を任された関平と周欽が叫ぶ。

「焼け出された賊どもを殲滅せよ!」

「奴らを一網打尽にする好機だよ!」

『突撃!』

駆けだした2人の戦乙女に遅れまいと雄叫びをあげて兵たちが続く。彼らの瞳には寝床を焼け出されて泡を食って出てきた賊どもが映し出されていた。

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窓から流れ込んできた焦げ臭いにおいで眠っていた孫瑜は目覚めた。

「火事か?いや―――」

外から聞こえてくる罵声、悲鳴に火の不始末による火事ではないと悟った。

「味方が助けにきてくれたみたいだな」

ようやくこのきつい体勢から解放されることに安堵の溜息が出る。しばらくすると、扉の外から鎧の擦れる音が聞こえてきた。

(あたしを助けに来た兵の一人かな?)

彼女を閉じ込めている扉の前にも見張りはいる。見張りの男は自分を助けに来たと思われる人物と戦ったらしいが、勝負は一瞬でついたらしい。閂が外れ、扉が開いてその人物が現れた。

年齢は自分と同じくらいの栗毛の少年だった。彼は中に入ってくると彼女に対して名乗った。

「劉永、字を公寿と申します。あなたは―――」

名乗りながら縄をほどく。彼女は立ち上がると、名乗り返した。

「あたしは孫瑜。字は仲異。真名は円だ・・・劉永、はじめましてだな」

「うん・・・でも初めて会ったのに真名を許可してもよかったの?」

「なにいってんだ。あたしを助けに来てくれたんだしな。真名を授けるに値する男だよ、お前は。しかも―――」

円はスッと劉永に体を密着させると、両腕を彼の首に回して自分の唇を劉永のそれに重ね合わせた。

「あたしの夫になる男だしな」

円は再び、今度は舌を絡めて深く唇を重ねた。閉じられた彼女の瞳には涙が一筋浮かんでいた。それは普段は明るい彼女が誘拐され、救いだされた事に安堵して浮かべた涙であるという事に気がついたのはかなり後になってからである。

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首領の男は混乱する廃村から馬に乗って脱出していた。目指すのは川に繋いである脱出用の船。

船着き場についた彼は目の前の光景に恐怖を覚えずにはいられなかった。

「おや?遅かったな、黄帝党の首領殿」

彼らの商売道具である船が、紙のように千切れて散らかっていたのだ。まるで巨大な爪で切り裂かれたかのように。実行犯は目の前に立ちふさがる茶髪の少女だろう。

「て、てめぇこれをどうやって・・・!?」

「教えてやる必要はないな。我が友に傷つけた貴様には」

少女は懐から片眼鏡を取り出して装着し、戦闘態勢に移行する。その両手には鉤爪の付いた手鋼が。

「船を切り裂いた方法についてだが・・・これから貴様の体に刻みつけてやろう」

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「これで黄帝党は壊滅ですな。これも蜀のご協力があってこそ。感謝の印と言っては何ですが、私の真名・睡蓮(すいれん)を受け取ってくだされ、劉永殿、関平殿、黄忠殿」

建業への帰り道、眠った円を背負った呂覇をはじめ、周欽・黄廉が劉永たちに真名を預けた。紫苑達も真名を彼女らに許可する。朝日が昇り始めている東の空を眩しげに見上げながら劉永は捕虜として連行されている賊達の中で檻車の中で引っかき傷だらけで気絶している首領に何が起こったのだろうと首をかしげていた。

説明
事件解決編です。本来はもっとバトルシーンでも入れようかと考えたのですが・・・
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コメント
さすがと言うべきなのだろうな・・・・・・劉永よw(Poussiere)
いきなり帰すとは大胆な・・・・。これからどうなっていくのか楽しみです(cyber)
・・・黄河というのは河北にある黄河?それなら亞莎の軍が一番近くにいるのに無視?(拾参拾伍拾)
いきなりキスされて劉永もパニックになったでしょうにそれに触れられてないのは残念。円はこれから心境の変化(メロメロにしようとしてメロメロにされていること)に戸惑っていくのか?(XOP)
流石だ劉永!(フィル)
ん?朱莉は?(kanade)
ややこしくなってきたなw(ブックマン)
すげーぜ!主人公属性MAXだぜ!!(motomaru)
一発で円を落とした。・・・流石種馬の系譜と言うべきか(hiro)
最後のが格好いい、が、え・・・片眼鏡で茶髪と言うと・・・呂m(げふんげふん)なのか?! 次作期待(クォーツ)
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