九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = 男女逆転篇 パート参
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男女逆転篇 パート参

 

 

 

 

 

―――旅団本拠地、楽園での騒動が行われているころ。

団長クライシスとNo.3であるデルタの二人は、あることの為に外出していた。

その理由は聞けば誰もが呆れることだが、団長であるクライシスにとってそれは重要なことだった。

 

 

「…ふむ。取りあえずはこの位か」

 

「随分とまぁ多く…」

 

買い物というよりも補給物資の取引のように思える光景を眺め圧巻するデルタ。彼らの目の前にはいくつものコンテナが置かれており、それがクレーンによって輸送機のタウゼントフェスラーに積み込まれていた。

 

「少し長い買い出しとなったが…まぁ、相応のものが手に入ったからよしとするか」

 

「相応の…ねぇ…別にお前が満足してるならいいが…」

 

「不満か?」

 

「いや…まさかこんな事で輸送機使うとは思ってなかった」

 

「仕方あるまい。なにせ、楽園のスタッフ全員に渡すんだ。これくらいにもなる」

 

「…まぁ…な」

 

 

しかし。この時彼らの知らない間に楽園が男女逆転騒ぎになっていたのだが…

何故かこの事を知るのは大分と後になる―――

 

 

 

 

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旅団として活動しているナンバーズメンバーは、基本逃げることはなく戦うことがほとんどだ。

恐怖に臆することなく、むしろそれを糧に立ち向かう。

王道のようなスタイルは基本的な判断た。

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――流石に今の((彼女|・・))たちには無理があった。

   なにせ、今現在彼女たちの後ろを追ってきているのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!??!??!?!?!?!」」」

 

 

 

ガチムチの女(?)が一人、殺人ロボットも真っ青になって逃げだしそうなランニングフォームで彼女たちへと向かい全速力で走って来ていたのだ。

当然、現状まともに戦うことのできない彼女たちにはその見た目も相まって恐れる対象でしかない。というか、それで逃げないほうがおかしい。

 

 

 

という訳で、現在Blaz・刃ペアの面々は謎としか言えない筋肉の塊の人間(?)に追われ、混乱する楽園内を更に混乱した顔で全力逃走していた。

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!??!?!」

 

「ひぃっひぃっひぃっひぃっひぃっひぃっひぃっひぃっ…ふうっ…って違うッ!?」

 

「…!?…!??…!??!?!?…???????」

 

兎も角全力疾走するBlazたち。その後ろではまだ体に慣れていないのか、刃が息切れてして倒れそうだったところを後ろからの恐怖に駆られ無理にでも体に鞭をうって走り続ける。そして、その丁度中間あたりではmiriとガルムが疲労しながらも混乱しているZEROを担いで逃げている。その当人も後ろからの生物が本当に食えるのかと思う姿だったことから逃げていることも含めて混乱していた。

 

 

「な、何なんですかアレ!? もしかして旅団スタッフの誰かですか!?」

 

「大神ッ、大神…さ○らが全力疾走してくるぅぅぅぅぅぅぅぅうう!??!?!?!?」

 

「あ、ダメだ。話聞けないわ」

 

泣きながらFalsigを肩にのせて逃げるBlazに話しを聞くことができないと判断し、他の誰かに聞こうとするが、状況が状況なために聞くこともできず、彼女たちは唯々全力で逃げるしかなかった。

 

「っていうか、本当にアレ誰なんですか?! あんなのウチのスタッフに居ましたっけ!?」

 

「知るかッ! 多分サポートの女の誰かだろうが!!」

 

「サラリと酷いこと言いましたよこのロリ!」

 

 

兎も角今は逃げるだけと逃走を続ける六人。しかし、最初に逃走してからそろそろ十分ということで彼女たちの中でも体力の消耗が目に見えて来た。

一人なにも抱えていない刃はあまり表面にあらわれてないが、ZEROを抱えているmiri、ガルムとFalsigを肩に乗せているBlazの三人は余計な体力を消耗し、既に全身から大量の汗を吹き出している。

単純計算でこのままいけば、彼女たちはあと二十分と経たずにリタイアしてしまうだろう。

 

 

「くそっ…このまま逃げてたらジリ貧だ、どっかで引き離さねぇと!」

 

「どっかって…どこにですか!?」

 

 

現在彼女たちの居るフロアは主にメンバーの部屋やサロンだったりと居住に重視したフロアで、緊急時の設備を除けば後は何もない。しかもその緊急時の設備も現在追われている所為でどんどんと離れて行ってしまい、彼女たちの逃げ道は余計に減らされていた。

 

 

「…エレベーター…けど、時間かかるだろうからな…」

 

「誰かが離れて行くっていうのはどうでしょう」

 

「その場合ぜってーお前が行くっていうよな、刃」

 

「ぎくっ…」

 

見えすぎた考えに前後から睨みつけられる刃。現状で体力に余裕のあるのは誰も担いでいない彼女だけ。Falsigが行くという考えもあるが、本人曰く速く走れないらしく辞退している。

未だ動くことが難しいZEROを抱えているmiriとガルムは逃げるので手一杯なので、残る立候補者は刃を入れてもう一人…

 

「よし。刃、次の角でお前だけ右な。俺たち左へ行くから」

 

「それって僕に死ねって言ってますよね!?」

 

エレベーターがあるのは左。右に行けばもう一度周回することになるので完全に刃が捨て駒になる。しかしここまで誰も担いでいないということから体力に余裕のある彼女が適任であることは確かで、刃を除いた全員が満場一致で彼女を囮にしようと考えていた。

 

「で、ですがもし右に入ったらどうするんですか!?」

 

「心配すんな。そん時は………」

 

「…ちょっと。なんでダンマリなんですか!?」

 

完全にどうやってでも自分を囮にしたいと考えていた彼女たちに怒りを抑えながらも怒鳴る刃。

そうこうしている内に彼女たちが話に出していたエレベーターに通じる分かれ道に近づき、決断を迫られる。このままBlazたちが左に曲がって刃を囮にするか。はたまた刃も曲がっていくのか。いずれにしてもあと数十メートルという間の中で彼女たちの答えが現れる。

 

 

「曲がれよ! 絶対に曲がれよな!!」

 

「誰が曲がるもんですかぁ!!!」

 

「曲がってくれたら俺たち的には嬉しいんだけどなぁ!!」

 

「つーかそろそろ走れよ、ZERO!!!」

 

「……………。」

 

「…珍しく放心状態だぞ」

 

「なんでだぁ!?」

 

 

あと少しで曲がるというのに未だ決まっていない作戦。このまま全員同じところを曲がる。誰もがそう思い、刃のことを場合によっては末代まで恨むと思っていたその刹那。

遂に彼女たちの決断の時になる。

 

 

「くそっ…曲がれぇ!!!!」

 

 

逃げるBlazたち。当然。刃を囮にしてエレベーターへと向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハズだったが…

 

 

 

 

その予想と結果は大きく外れ、若干一名のあまりに予想外過ぎることに対しての驚愕の声が響き渡る。

 

 

 

 

 

「……………え、ちょっ…あれ!?」

 

 

 

 

自分を囮にして逃げようとする刃は、こうなれば道連れとばかりに同じ左の方向へと曲がる。そうすればエレベーターへと通じ、行き止まりとなる。最悪そうする事で自爆を試みたが、目の前に現れた結果というのは彼女の考えとは大きく外れていた。

 

刃は左へと曲がり道連れを行おうとする。しかし、そこには彼女以外は誰もおらず、残る五人全員が当初刃に行かせようとしていた右に曲がったのだ。

つまり。ただ一人左に曲がったのは刃だけ。

残る全員は右に曲がり、もう一度周回するととなった。そうなっては体力が余計に消耗してしまうのではないかと思っていたが、彼女たちがあえて右に曲がったのには理由があった。

 

「多分。追って来てる奴は俺たちを捕まえることが狙いだ。だから周回して体力を消耗させるのよりも行き止まりで捕まえた方が効率がいい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という事で。

刃。予想は大当たりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

筋肉巨人は五人の方ではなく、たった一人の少女に向かい方向転換。

予想通りこうして、刃ただ一人が生贄となるのが決定されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら…地獄で覚えてろよ…」

 

 

「スマン。多分俺たち全員地獄から追い返されるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斯くしてただ一人生贄コース直行となった刃は奇声ともいえる叫び声をあげて逃げ続ける。だが左側はエレベーターだけが先にあり、扉が開くのには最低でも五秒はかかる。たった五秒だけだが、その間に捕まえられる確率はほぼ確実。加えてそこそこトロいエレベーターなので待っている間に捕まってしまうことだって考えられる。

なので。たとえエレベーターがあったとしても行き止まりと殆ど変わりない。

 

 

「恨む…恨むぞコンチクショー!!!!!」

 

一人逃げるハメになってしまった刃は最後のあがきとばかりに全力でエレベーターへと向かう。壁際についてからどうにかして回避することを考えていたが、その回避をどうするのか考えていない状態だったので実質ノープラン。

このまま捕まってしまう事も覚悟していた彼女は捕まったときに思い切り自分を囮にした彼女たちへと恨みを吐き出そうと思い走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその瞬間。彼女の目の前に行き止まり同然に閉まっていたエレベーターの扉が開き、乗っていたメンバーが一斉に飛び出てくる。

 

 

「えっ…アレって…!?」

 

 

中から現れたのは今まで消息がつかめていなかった二百式たち四人。それが一斉にカーゴの中から姿を現し、我先にとばかりに出て来たのだ。

しかし当然刃は彼女たちが誰がどうなっているのかを知らず、一体誰なのかと思いつつも今は後ろから迫ってくる筋肉から逃げるだけだった。

 

 

「ちょっ…誰だか知りませんが逃げてください!?」

 

「なっ…正面からもだと!?」

 

「マジでか…しかもアレってなんだ。筋肉の塊じゃねぇか…」

 

「正面にアレ。後ろからアレ…終わった…」

 

 

 

 

「ッ…オイ、お前! 今すぐ引き返せ!! あそこへは入るな!!」

 

「ッ…?!」

 

二百式が刃に叫び、空のカーゴに入らないようにと注意するが、一目見ては唯のカーゴでしかない状態にどうして入ってはいけないのかと、刃は今までのことから半ばやけくその状態になっており、聞きはしたが受け入れるつもりはなかった。

入ってはいけない事情を知っていた二百式は、それでも向かって行く刃に舌打ちし、無理にでも止めようとするが、体が思うように動かず体力もなかったことから手をひくことだけでもできず、二人は入れ違いになってしまう。

 

 

「なに言ってるんだ…もう…!!」

 

「あっ…あの馬鹿…!?」

 

「チッ…話は聞くものだぞ…!」

 

 

そう。なにもないからと言って絶対に安全であることなどないのだ。

空のカーゴに向かう刃はこれで安全な場所に入れる。そう思っていたのだが、この時既に彼女たちの行動に対しての疑問まで頭が回らなかった。

 

一見何もないカーゴだというのに慌てて出て来た二百式たち。

それはカーゴ内に何かがあるのではなく、カーゴの((近く|・・))に何かがあるからだ。

 

 

 

 

「………えっ」

 

 

 

扉までの距離が三メートルも無くなった時。突然カーゴの中の天井が剥がされ、上から何かが落ちて来た。

最初はそれが生き物であるかさえも疑わしかったが、落ちて来たものの姿を目を凝らしてよく確認するとそれが人であることを判断した。まるで某蛇が雨の中タンカーに着地したかのようなその状態に何故カーゴ内に居なかったのかと不思議に思うが、それを気付いた直後に理解してしまうのは彼女のもう一つの過ちだった。

 

なぜカーゴ内に居なかったのか。どうして上から現れたのか。

実に簡単な答えだ。

 

 

 

 

 

 

カーゴ内に入れてもらえなかった。なにせ、上に居たのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 なぁんで私から逃げるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ク○ス松○に似た何かが物凄い顔と勢いと走りで向かってきていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は再び戻って楽園内。謎の珍事態にBlazたちが見舞われている中で、ラボに籠ってワクチンの作成を行っていた竜神丸たちに一本の通信が入っていた。

 

 

 

『ホンマ、申し訳ないで…』

 

「………。」

 

投影モニターの前では両手を合わせて目いっぱいの謝罪の意志を示すはやての姿があり、その向こう側に立つ竜神丸は哀れみもなにもない無情の顔でその様子を見ており、更にその後ろには呆れて頬を掻く支配人と、改めて不思議がって自身の胸を触るkaitoの姿があった。

どうやらはやてが事の次第を知ったらしく、急いで通信をかけたらしいが、既に彼女が連絡した辞典で騒動は勃発。時すでに遅しということで青ざめた顔で事の現状を聞き、卒倒しかけていた。

 

『まさかシャマルがあんなん作ってたなんて思いもよらんくて…しかもそれがみんなにかかってたなんて知らんかった…マジでゴメンなさい…』

 

「…別に構いませんよ。お陰でちょっとは楽しめましたし」

 

「それに、薬の効果が性別逆転だけっていうのも幸いだしな。それなら時間をかけてワクチンを作れる」

 

『支配人さん…』

 

 

シャマル曰く、単に性別逆転のみが起こる薬なのでそれに対応したワクチンを作成すれば効果を阻害、宿主を失った薬の成分は自然消滅するらしく危険性はないと判断された。

 

「ですが、次からはもう少ししっかりと確認をして下さいよ。でなければ、私たちは貴方たちの検査システムに疑いを持たなければならないんですからね」

 

『あはははは…そうします…』

 

「…で。一応念のために聞くが、ワクチン自体は大丈夫なんだよな」

 

『ええ。シャマルが送った成分表を送りましたし、本人がワクチン製作にそこまで苦労する事はないだろう、って』

 

「そうなのか?」

 

「ええ。ここでならすぐに作れる成分ですから…別に改良して永遠性別逆転もできますよ」

 

「…やるなよ?」

 

「………。」

 

『り…竜神丸さん…?』

 

あながちやりそうで困る二人は目で訴えかけるが、どうにも本人が目を逸らしてしまったので本意を訊くことはできなかった。しかし今はそれよりもワクチンを作るほうが優先であるということで支配人は後ろから急いでワクチンを作るようにと急かせる。

 

「と、とりあえず今はワクチンを急いでくれ…」

 

「…ええ」

 

(なんや…ホンマに心配なってきた…)

 

そこへ薬が撒かれた原因を調査していたディアーリーズとキリヤたち兄弟がラボに入り、自分たちが調べた結果と収穫物であるビンを持って来る。

 

「戻ったぜ。竜神丸、支配人」

 

「おう。三人ともご苦労さん」

 

「やはり空調でばら撒かれてましたね」

 

「ああ。取りあえず今は一部止めてるからこれ以上広がる心配もないと思う。

 …で。ついでにちょっとしたモンも持ってきたぜ」

 

「ちょっとしたモン?」

 

自分たちより後ろを歩いていたディアーリーズを指さし、彼女が持っていたビンのことについて話すと、大方の予想通り支配人は笑みを浮かべていた。

一方の竜神丸はビンに興味があるのかふむ、と小声で呟き考え込んで見つめている。どうやら彼女はまた別のものに気付いたらしい。

 

「実物があるなら、より早くできそうだな」

 

「…まぁデータがある時点でそこまで苦でもないんですが…ね。一応受け取っておきましょうか」

 

「ディア。竜神丸にそのビンを渡してくれ」

 

これで戻れるスピードが早くなったとよろこぶ彼女たちは、その為の鍵の一つであるビンを持つディアーリーズに渡すようにと声をかけた。

 

 

 

その次の瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、分かりました、キリヤ((ちゃん|・・・))!」

 

 

「…は?」

 

 

「え…?」

 

 

「………。」

 

 

『ほえ?』

 

 

 

一瞬。世界が凍り付いたように思えた彼女たち。

自分たちの耳が悪かったのだと思い、もう一度キリヤはディアーリーズに訊ねてみた。

 

 

「…ディア? 今…いや、渡してくれるんだよな…?」

 

「…? ええ。確かに渡しますって((私|・))言いましたよ?」

 

「………。」

 

 

 

 

刹那。その一言によって、彼女たちの間で渦巻いていた空気が崩れ落ち、新しいなにかが打ち立てられた気がしてしまった。今まで立っていた常識という壁に塗られたなにかが、新しくも見たくないというような壁に塗り替えられた瞬間に。

 

 

 

「わ、私…?」

 

「………?? なに言ってるんですか? 私は…」

 

「…お、おいディア。お前なに言ってるんだ…」

 

「………。」

 

 

 

「えっ? なにって…ワタシ………ボク………アレ?」

 

 

 

焦って聞いた支配人の言葉にようやく違和感に気付いたのかディアーリーズは直ぐに自分がおかしいと気づき頭を抱える。汗が額などから滲みだし、脳に頭痛が走った彼女はその痛みに耐えられずに床にへたり込んでしまう。しかも、女のような座り方をしているのだから彼女たちの中にあった恐れが段々と現れてくる。

 

「…なんで…? なんか…わた…僕………!?」

 

 

「お、おい…いくら女体化されることが多いからって…」

 

「………。」

 

何度も女の姿になったことがあるからということで、その経験が体に染み出てるのではないかと思っていたキリヤたちだが、ただ一人、竜神丸だけは彼女の姿を気遣うのではなく調べるような眼で見てなにかを考え込んでいる様子だ。

 

 

「…なるほど」

 

 

「アレッ…アレッ…!? 僕…ワタシ!? 違う…僕は…」

 

「…ディア、お前…本当に大丈夫なのか…!?」

 

「………これってどういう事だ? なんでアイツだけが…」

 

 

「なぁ竜神丸。これって…」

 

「で、しょうね」

 

いち早く気付いたkaitoは横目でディアーリーズの様子を眺めている竜神丸に訊ねる。二人の結論はどうやら同じようで、加えて目の前で慌てふためいている彼女への見方も、同じ無情のような目つきだ。

 

『…なんや、ウチの罪状増えた気ぃするんやけど…』

 

「気にしないでください。貴方の部下へのと慰謝料が増えただけです」

 

『…さいでっか…で。一体なにがどうなってるんや』

 

「極単純な話ですよ。過剰摂取は体の毒…つまり」

 

 

 

 

 

 

 

『―――実は一定の量を超えると精神にまで影響が来ちゃうのよねぇ…』

 

すると、彼女たちの会話を聞いていたのか、はやての後ろから事の元凶であるシャマルが困り顔のまま姿を現す。事の元凶だけあって色々と咎められると思っていたらしいが、状況からそんな事を考えている場合ではないと思って出て来たのだという。

 

「…やはりそうですか」

 

『ええ…みんなが空調によって吸った量はおよそスプーン一杯分。それだけで人体に影響が出て性転換する…だけだった』

 

「けどそれを多く摂取…いや彼女の場合、吸ってしまったためにその影響が人体だけに止まらなくなった、と」

 

『恐らくディア君の吸った量は一杯と半分。でもそれだけならまだ進行は遅いだろうしワクチンだけでなんとかなるわ。でももし進行が進めば…』

 

「最悪精神が転換されて…」

 

「無事、女の子ディアーリーズちゃんの完成…と」

 

『自我が持っているだけでまだ遅い証拠だから早目にワクチンを打てばなんとかなる筈よ』

 

事の原因を起こしたとして自分の罪滅ぼしのように話を続けるシャマル。しかしそれを聞いていた竜神丸の顔はさも興味ありげで、その顔から連想される彼女の考えは一つだけ。

 

「…このままというのも別に面白いですからね。ほおって置くのもいいでしょう」

 

『いやいやいや…流石にそれはアカンやろ、戦力的に…』

 

「別に彼女が居なくても戦力は十分にいますよ」

 

『鬼ですか…』

 

このまま放置して彼女を実験台にする。そう思っていた竜神丸は彼女を隔離して実験を行うための用意を始めようと端末を操作するが、それは出来ないとばかりに再びシャマルが割って入った。しかも、なにかやはりそうだったかという顔で予想していたような表情に竜神丸も眉を寄せた。

 

『…まぁ別にしばらくほおって置くのも勝手だけど…おすすめしないわよ?』

 

「………何かあるんですか?」

 

『…アレ…実は感染型なの。それも空気と接触の両方で』

 

「…え」

 

「………。」

 

『それに今あなたのところの映像から解析させてもらったけど…なんだか彼女の中にウイルスのコロニーが出来ているのよね…』

 

「えっ…オイ、今コロニーって…」

 

 

 

 

刹那。竜神丸は何事もなかったかのように高速で通信を切断。そしてそのまま端末の電源を落とした。

 

「………。」

 

「オイ。お前なんでそんなに高速で電源落としたんだよ」

 

「…いえ。少し端末の調子が悪く…」

 

「嘘つけぇぇぇぇぇ!!!!」

 

あからさまな嘘に突っ込むキリヤたちだが、既に回線は切断され、はやてたちから薬の事について聞くことができなくなってしまった。

気まずい空気というよりも、なにか愉しげな顔をしている竜神丸にキリヤたちは嫌でも彼女とkaitoの考えを予想したが、それは同時に自分たちも危険に晒されているのではないかという反撃の糸もつかめるものだと思っていた。

しかし当然竜神丸はそれを踏まえて考えを持っていたということで、その証拠として彼女は直ぐに行動に移した。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

次の瞬間、地面にへたり込んだディアーリーズに向かい何処からか射出された太いワイヤーが四肢を縛り、更にダメ押しとばかり体にまで巻き付く。全身に巻き付いたワイヤーは彼女から自由を奪うと、先端部分を連結し一本のロープとして形成。完全に彼女を縛る拘束具となる。

 

「ひゃっ!?」

 

「ディアーリーズ!?」

 

 

「安心して下さい。一応隔離はしますから」

 

「か、隔離!?」

 

「ええ。先ほどの話が本当なら、隔離するのは当然のことだと思いますけど?」

 

「…そりゃそうだが…」

 

「…ご安心を。彼女の命は保障しますから

 

 

 

 

―――命、は」

 

「なんか僕、命の危機に晒されてませんかぁ!?」

 

「まさか。命まで取る気はありませんよ。今までもそうでしたでしょ?」

 

「その言葉の裏付けになる結果だったことが一度たりとも思い出す事ができませんッ!!」

 

かくにも、もう既に時間がないことだけは事実。このままではディアーリーズの感染は進行し本当に体も心も女になってしまう。

しかもそれが原因となって他の面々にまで被害が及ぶのであれば、最悪自分たちも女性として第二の生を生きるハメになってしまう。それだけは当然のことながらゴメンだ、ということで竜神丸もそろそろ真面目に作業を始めるかと、指を鳴らした。

 

「……ま。私もこのまま女になるのも嫌ですし、ともかくワクチンを早々に作成しましょう」

 

「助かる。けど真面目に作れよ」

 

「ええ。取りあえずここに居る中で若干一名を除いての分は造りますよ」

 

「それ完全に僕のこと言ってません!?」

 

 

キリヤたちに後ろからジト目で見られる竜神丸だが、当然彼女も真面目だ。

キッチリと全員分のワクチンを作成するということを念頭に置き、大まかな分量と必要な薬品を頭の中に浮かべる。そして、それを直ぐに調合するために投影式のキーボードを出していざ作業にと取り掛かる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゴンッ

 

 

 

 

突如、何か大きなものが((落とされた|・・・・・))ような音が聞こえ、それと同時に辺りが一気に真っ暗になった。非常灯の一つもないラボの中で、いきなり落とされた((電気|・・))にその場に居た全員は暗くなった部屋のなかで、ただ黙り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――落ちましたね。ブレーカー」

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!??!?!?!?!」

 

 

 

ちなみに竜神丸曰く、予備の電源もある筈だが付かなかったという。

 

 

そして。これが原因で、旅団の面々はさらなるトラブルに見舞われてしまうのだった…

 

説明
お久しぶりの男女逆転篇です。
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コメント
…治りませんよ?(ギャグ空間なので)(Blaz)
←ほっといても体内のナノマシンで即効で治る人(okaka)
自分の一人称が僕?(旅の自分は『私と俺』←)(黒鉄 刃)
リクエスト"は"………つまりはCVさえ守っていれば容姿はなんでもいいということである(キリヤ)
…取り合えず今言えるのはアン姉さんは大丈夫。普通に女体化だけ。げんぶさんもリクエストは守ってる(Blaz)
まあ、そうなるな  別にどうなろうが気にせんよ…(Unknown)
デ「おらーい、おらーい、おらーい・・・ストーップ」(そのころデルタはクライシスに全部丸投げされて1人で積み込みの指揮を取らされていた・・・まだまだ出発には程遠いようだ(デルタ)
大神さ○らがげんぶさん、クリス松○がUnknownさん?(朱雀)
…あのさ。この時点で出てないの、多分あとアン姉さんだけだよ?(つまり、大丈夫という保障は無し)(Blaz)
最近の原始人のゴリラが戦国突入して宇宙戦争したみたいな話が一番覚えてる(Blaz)
ディアさんザマァwwwwww(Unknown)
Blaz:猿から人に進化するかと思いきや、まさかのク○ス松○に進化しちゃったというネタが銀魂にあったような無かったような…(竜神丸)
あれ銀魂見て取ったネタだからな。(Blaz)
(クリス松村では…?)(ディアーリーズ)
どうでしょう。答えは………CMの後(Blaz)
取りあえずディアの扱いはコレが普通だ。(Blaz)
さて…どこでしょう。(Blaz)
え。げんぶさん出ましたよ?(Blaz)
なんか本当に皆さんの僕の扱いについて小一時間ほど議論をしたい(ディアーリーズ)
旅ディア、完全な女体化まであと○○秒…(チッチッチッチッ←時計の針の音(竜神丸)
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