突発!乱の書き逃げ劇場7「冒険者ベル」
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「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

真紅の瞳を持つ少年は今、必死で逃げていた。

背後から追いかけて来るのは鋼鉄の鎧に身を包んだモンスター《アイアンライノス》。

 

怪我をした祖父の為に町を抜け出し、森の中で薬草を探している時に運悪くヴァンデルに見つかってしまったのだ。

ヴァンデルはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら逃げ惑う少年を眺めていて、その背後には数十体のモンスターが控えていた。

 

 

《首狩りの盗人・ボルグス》

配下のモンスターに狩らせた人間の首をコレクションしている事からこの二つ名が付けられた二つ星のヴァンデルである。

 

 

「た、助けて、誰か助けてぇーーー!お爺ちゃーーん!」

『ゲヒャハハハハハ!無駄だ、無駄だ、誰も助けになんか来やしねぇよ。さあ、さっさとその小僧の首を?ぎ取ってしまえ、記念すべき1000個目の首だ」

『グオォォォォォォーーッ!』

 

「はあ、はあ、はあ、だ、誰かぁ…うわっ!」

 

息も絶え絶えだった少年は石に躓いて転んでしまい、遂にアイアンライノスに追い付かれてしまった。

 

『ガアァァァーーーーーッ!』

「うわぁぁーーーーっ、嫌だぁーーーっ、死にたくないよぉーーーー!」

 

咆哮と共にその凶拳が振り下ろされそうになった時、『彼』は現われた。

 

「『天撃の光壁』」

『ガオワァッ!?』

「……え?」

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少年は何時まで待っても痛みが襲って来ないので頭を抱え込んでいた腕を解いて振り向いて見ると其処にはアイアンライノスの攻撃を光の壁で防いでいる一人の青年が居た。

 

「こ、これは?」

「天撃の光壁、光の天力で作った防御壁だ。こいつ等程度の攻撃では罅すら入らん」

「天撃…。お、お兄ちゃんはバスターなの?」

「ああ、俺の名はゼノン。ヴァンデルバスター、ゼノンだ」

「ゼノン……、ヴァンデルバスター…」

 

少年がゼノンを見上げているとボルグスが声を荒げながら配下のモンスター達に命令を下す。

 

『お、おのれぇ、余計な真似をしやがって。おいお前達、奴を先に殺せ!たとえバスターといえども相手はたったの一人だ!』

 

そう叫ぶが、配下のモンスターは一体たりとも動く気配を見せなかった。

 

『な、何をしておるかぁ!早く奴を……』

 

振り向きざまそう命令を下すがボルクスは其処にある光景を見て徐々に顔色を青くし、顔からは冷や汗がダラダラと流れ落ちる。

 

何故ならば……

 

「生憎だが一人じゃ無いんだな〜、これが」

 

槍を肩に担いでいる男、長髪で盾を持っている男、兜を被り銃を構えている男、身の丈ほどもある斧を軽々と持つ巨漢の男。

彼等、ゼノン戦士団の足元にはボルクス配下のモンスターが全滅し、倒れ付していたのである。

 

『な、なじぇ〜〜?そ、そんにゃばきゃな…』

『グギャオォッ!』

 

目の前の光景に怯え、後ずさりをしているボルクスの耳にアイアンライノスの悲鳴が届く。

震えながら振り向くとアイアンライノスの巨体はゼノンの蹴りで自分の足元まで吹き飛ばされていた。

 

『く、くそぉ〜〜。お、起きろ!盾になってオレが逃げる為の隙を作れ!』

『ガ、ガオォッ!?』

 

足元で倒れているアイアンライノスを蹴飛ばし命令するが、あんまりな物言いにアイアンライノスも戸惑う。

作られたモンスターと言えども、ある程度の知能は存在する。

だが、そんな事を目の前に居るバスターが許す筈も無かった。

 

「逃がしはせんぞ、首狩りの盗人・ボルクス!『闇を斬り裂く光の刃。出ろ、エクセリオンブレード!』」

 

その紡がれる言葉によって彼の胸から零れた光は形を成し、一振りの剣へと姿を変える。

これこそがバスターの半身であり、究極の武器でもある《才牙》である。

 

『何をしておるかぁーーーーっ!奴を倒せ!奴を殺せ!オレを助けろぉ〜〜〜っ!』

 

ボルクスに蹴飛ばされながら急かされるアイアンライノスだが、ゼノンから発せられる殺気に二の足を踏んでしまう。

そんな相手にゼノンは必殺技の構えを取る。

 

「せめてもの情け、一撃で仕留めてやる。『ゼノン・ウィンザード』」

 

『え?』

『ガ?』

 

エクセリオンブレードから放たれた奥義によって二体は紙切れの様にたやすく切り裂かれ、気の抜けた一言を残し真っ二つになってこの世を去った。

 

それを少年は憧れの眼差しで見つめていた。

 

『英雄』

 

そう、祖父が寝物語で語ってくれた御伽噺に出て来る英雄像を少年はゼノンに重ねて憧れの眼差しを向けていた。

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「キミ、大丈夫か?怪我は無いか?」

「はあぁ〜〜〜」

「お、おい」

 

呆けている少年の肩を揺するゼノンの下に四人の男達が集まって来る。

 

「やっべえな〜。コイツのキラキラした目、ビィトの目と同じだぞ」

「ええ、無邪気に英雄に憧れる少年の目、と言った所でしょうか」

 

槍を持つ男は頭を掻きながら、盾を持つ男は溜息を吐きながらそう呟く。

 

「す、凄い!あのっ、僕も貴方の様なバスターになれますか?僕もなりたいんです!」

「あちゃーー。やっぱりこいつ、ビィトと同類だ」

 

槍を持つ男が頭を抱えながらそう言うが、ゼノンは少年を冷ややかに見下ろすと否定の言葉を口にする。

 

「無理だ」

「え?な、何でですか?」

「バスターは一時の夢や憧れだけでなれるものじゃない」

「そしてバスターには常に死が付き纏います。私達だって明日には死ぬかもしれません。それがバスターです」

「それにな坊主、お前は俺達の事を凄いといったがそいつはゼノンの言った様に唯の憧れから来た言葉だ。普通の奴らから見たら俺達バスターもヴァンデル同様の化け物なんだよ、事実あちらこちらの街の連中が俺達を見る目には怯えや恐れが見え隠れしている。そんなやつらが俺達に笑顔を向ける時はモンスターを倒した時や食事代などの金を受け取る時だけさ」

 

ゼノン達からバスターには成れないと否定された少年。

だが、一度心の中に灯った炎は消える事無く、逆に激しく燃え始めた。

 

「い、いやだ!」

「無駄だと言った筈だぞ?」

「僕も強くなりたい!あなたの様に強くなってお爺ちゃんや町の皆を守れる男に…バスターになりたい!」

 

そう言い切る少年の瞳にゼノンは遠く離れたアンクルスの里に預けた弟、ビィトと同じ輝きを見た。

自分の様な過酷な運命を歩いて欲しくない、平凡な日々を送ってもらいたいと願う大事な弟。

目の前の少年もビィトとさほど変わらない年齢だろうが、その赤い瞳に宿った炎もビィトと同じ激しさを宿し始めていた。

だが、ビィトにすら許さない事を始めて会ったばかりの少年に許すわけには行かない。

 

「なら君のお爺さんは君が危険な目に会う事を許してくれるのか?モンスターやヴァンデルに挑み、何時死ぬかもしれないと悩み怯える毎日を君はお爺さんに送らせるつもりなのか?」

「え?そ、それは…」

「俺達に家族はいない。だからこそ命を賭ける事が出来るんだ。たとえ今日、または明日にこの命が尽きたとしてもそれは俺達自身の問題。だが君には家族がいるのだろう、君の帰りを待ってくれている家族が」

「は、はい…」

「ならば戦う事は俺達バスターに任せ、その家族を大事にする事を考えるべきだ。それが家族を守る事に繋がるんじゃないか?」

「分かり…ました」

 

ゼノンは笑みを浮かべ、うな垂れながらもそう答えた少年の肩を優しく叩く。

 

「ならば町まで送ろう。その薬草を届けたい人がいるのだろう」

「はい…、お願いします」

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少年を町まで送り届けたゼノン戦士団は元気になった祖父から報酬代わりの一夜の宿と食事を受け、翌朝その町を去って行った。

 

「どうしたんじゃ、ベル?」

 

ゼノン達の姿が見えなくなっても門から離れようとしない孫、ベルに祖父は頭を撫でながら問いただす。

 

「お爺ちゃん、僕…」

「バスターに成りたいのか」

「えっ、何で解るの?」

「かっかっかっ。大事な孫の事じゃ、その位解るわい」

 

祖父はそう笑いながら孫の頭をペチペチと叩く。

 

「どうしても成りたいと言うのならばワシは止めはせん。じゃが、その代わりに覚悟は必要じゃぞ」

「覚悟って死ぬ覚悟の事?」

「勿論、それもある。それ以前に平穏な日常を捨てる覚悟じゃ」

「平穏な日常を…」

「バスターとなってヴァンデルと戦うとはそう言う事じゃ。ベルも見たじゃろう、町の連中が彼等を見る目を。たとえどれ程平和の為に、人々の為に戦おうとも力を持たぬ者達は持つ者達を恐れる。勿論、恐れる事無く彼等を受け入れてくれる者達もおるじゃろう。じゃが、ヴァンデルの暴力という力に虐げられている以上、それがどんな物であろうともやはり力を恐れる者達が大半じゃ」

 

悲しそうにそう語る祖父を見て先程までの住人達を思い出す。

そう、少年の祖父はゼノン戦士団に対して笑顔と感謝を絶やさなかったが、ライオと名乗った男が言った様に町の住民達は皆一様に怪訝さと怯えを隠せないでいた。

 

「じゃからベルがそれでも人の為に、世界を救う為に戦う覚悟があるというのならワシも出来る限りの協力をしよう。じゃが、もしもそれがただの憧れだけじゃった場合は明日にでも骸に変わるぞ」

 

ベルに語り掛ける祖父の目は何時もの優しさとは逆にまるで問い詰めるかの様に厳しい物だった。

だが、一度火が点いた情熱は消える事は無かった。

 

「僕、怖かったんだ、死ぬかと思った。でも諦めかけた時にゼノンさんは僕を助けてくれてその姿がとても眩しかったんだ。確かに切欠は憧れかもしれない、でも僕も成りたいんだ、あんな《英雄》に。この気持ちに嘘は無いよお爺ちゃん」

 

祖父の目は再び柔らかな物に戻り、そう言い切ったベルの頭を掴むと少し乱暴に撫で回す。

 

「わっ、わっ、痛いよお爺ちゃん」

「かっかっかっかっ、これからバスターに成ろうとしている奴がこの程度で痛がっていてどうする」

「うん、僕頑張るよ!」

「その意気じゃ!それになベル、さっきはああ言ったが強くなれば((女子|おなご))達はきっと向こうから寄って来るぞ、より取り見取りじゃ!」

「お爺ちゃん?」

「色々な美女達との出会いに胸が膨らむのう!」

「お爺ちゃんっ!?」

「良いかベルよ!ハァーーレムじゃ!ハアァァァァァレェェェムを目指すのじゃぁぁぁ!」

「お爺ちゃぁーーーーん!」

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少年ベルはその日の内に鑑定所でブランディングの契約を行い、正式にバスターとして歩みだす事になった。

数年後、祖父の死の後に住み慣れた町を旅立ち各地の町や村を救う為に戦い続けた。

 

レベルも22まで上がりもはや一人前であると自信を付けていたが、そんな慢心があの様な自体を引き寄せたのであろう。

 

 

「ぐわあぁぁっ!」

「どうした、バスターさんよ。もう終わりかい?」

 

赤い月の夜に凶悪なヴァンデルが現われる。

そんな噂を聞きつけたベルは、自分が退治してやると打って出たのだが其処に現われたヴァンデルはまだまだ自分の様な"半人前"が相手をして良い相手では無かった。

今、ベルの目の前に居るのは七ッ星のヴァンデル・天空王バロン…否、それとは別の何かであった。

普段着けている仮面を外したその頭にはバロンとは違う別の顔があったのだ。

 

「残念だったな坊主。昨日までなら人間相手でも礼儀正しいオレの可愛い((坊や|ボーイ))、((バロン卿|サー・バロン))が相手だったんだが生憎今夜は極悪非道・傍若無人のオレ、ザンガの出番なんだよ」

「ザ、ザンガ…?」

「まあ、運が悪かったと諦めて……大人しく殺されてくれやっ!」

「がはぁっ!」

 

ザンガはそう叫ぶと倒れていたベルを蹴り上げる。

 

「まだまだぁ!」

「ぐふっ!げほっ!がああっ!」

 

蹴り上げたその体を簡単には死なせない様にと力をセーブしながらまるでお手玉の様に両手で何度も何度も殴り続ける。

 

「ハハハハハーーッ!面白ぇオモチャだぜ、((坊や|ボーイ))はこういう楽しみ方を知らないからな」

「ぐはっ!や、やめ…がほぉ!やめて…た、たすけ…て…」

 

覚悟は決めた筈だった、傷つく事も、戦いの果てに死ぬ事だって。

だが、今までに無い圧倒的な暴力による蹂躙はそんな覚悟をも打ち砕き、命乞いをするまでに彼の心は砕け散ってしまった。

そんなベルにもはや玩具としての価値も無くなったと感じたのか、ザンガは地面へと殴り飛ばした。

 

「がはぁ!」

 

地面に叩き付けられたベルは這いずりながら逃げようとするが、ふとその脳裏に嘗て憧れた英雄の顔が思い浮かんだ。

 

「ゼ、ゼノン…さん。くそぅ、こ、此処で逃げ…たら…でも…」

 

逃げ出したい、でも英雄を諦めたくない、そんな相反する想いがベルの頭の中を交錯する。

 

「ま、この程度じゃどのみち((坊や|ボーイ))にも相手はされなかっただろうな。じゃあ坊主、そろそろお別れだ」

 

だが、そんな事はお構い無しとザンガは右手を掲げると幾つもの冥光球を作り出した。

 

「お前程度にはもったいないが((坊や|ボーイ))御自慢の魔奥義で止めを刺してやるぜ。あばよ、出来損ないのバスターさん。《ミーティアルシャイン》」

 

「うわああぁぁぁーーーーーっ!」

 

ザンガが腕を振り下ろすと共に冥光球は流星の様にベルへと降り注ぎ、彼の体はその爆炎の中へ消えてしまった。

 

「ちっ!やはりこの程度じゃ星を稼ぐ足しにもなりゃしねえ。後星一つ、どんな事をしても手に入れてやるぜ。オレの可愛い((坊や|ボーイ))を八輝星にする為にもな」

 

高笑いをしながらザンガはこの場を去って行く。

そしてヴァンデルバスター・ベル、彼は人知れずこの世界から消え去ったのだった。

 

―◇◆◇―

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「ただいま、神様」

「お帰り、ベル君!怪我はしなかったかい?」

「はい。3階層から下には降りませんでしたから。…もっとも他のファミリアの人からは笑われましたけど」

「それで良いんだよ、他の連中の事なんか気にするな!君は君のペースで強くなっていけば良いんだからね」

「はい神様。後、報酬でジャガ丸くんを買って来ました。今日は奮発して抹茶小豆味です」

「わーーい、有難う!愛してるぜベル君」

 

彼女の名はヘスティア、天界よりこの地上、オラリオに降りて来た神である。

以前は知り合いの神のファミリアに居候させてもらっていたのだが、余りの自堕落振りに遂に追い出されてしまったのだ。

まあ、ボロボロとはいえ一応住処となる場所を譲ってもらったのは幸いと言えるのだろうが。

そんな彼女がバイトから帰って来た時、教会の前に傷だらけの少年が倒れていて彼女は付きっ切りで少年の治療をしているのである。

 

その少年こそがベルであり、眠りによる治療で傷は治りかけていたが黒々としていた髪はザンガを相手にした恐怖からかその色を失い真っ白になっており、またベルという名前以外の記憶も失い、それに伴ってバスター世界で培った戦闘力も激減していた。

だがベルは自分を救ってくれた神ヘスティアの為に((神の恩恵|ファルナ))を受けて彼女のファミリアへと入団したのだ。

 

そしてこの日より数日後、彼は((二人目の英雄|アイズ・ヴァレンシュタイン))に出会うのであった。

 

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(`・ω・)と言う訳で、バスターだったベルがオラリオに転移してくるHANASIでした。

 

ザンガが放ったミーティアルシャインの爆発の影響で次元を超えてしまったというちょっとばかり強引な設定ですね。

バスター世界側の時間設定はビィトがアンクルスへ里帰りしたのと同じ頃で、ベルはゼノン戦士団がベルトーゼによって全滅している事を知りません。

 

・冒険者となったベルは((憧憬一途|リアリス・フレーゼ))によって強くなっていくのでは無く、戦いの中で徐々にバスターの力を取り戻す。

・魔法は手に入れず、二度目のミノタウロスとの戦いの際に天撃の力を取り戻す。

・18階層でのゴライアスとの戦いでバスターとしての記憶と力を完全に取り戻し、バスターレベルも23にレベルアップして才牙に目覚める。

・才牙の属性は炎で形状はエクセリオンブレードに酷似した大剣、名前はファイヤボルト(笑)。

 

もし、書くとしたらアニメ版がベースになるでしょう。

(`・ω・)ノシ<じゃーね、バイバーイ

 

説明
(`・ω・)王じゃ無く、者なのがミソ。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
2006 1952 1
タグ
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 冒険王ビィト 

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