恋姫英雄譚 鎮魂の修羅24 |
拠点・桃香、愛紗、鈴々
ここは、桃香の執務室
桃香「・・・・・う〜〜〜〜ん」
ここで終始、この部屋の主が頭を悩ませていた
桃香「う〜〜〜ん、う〜〜〜ん・・・・・」
元々ない思考をフルに使い、頭を回転させる
桃香「う〜〜〜ん、む〜〜〜ん、ふぅ〜〜〜ん・・・・・」
もはや唸り声と言ってもいいくらいの声が、執務室全体に響き渡る
桃香「う〜〜〜ん、どうしたらいいんだろう・・・・・」
悩み疲れたのか、桃香は机に突っ伏してしまう
バンッ!
鈴々「お姉ちゃ〜〜ん、新しい竹簡持って来たのだ〜♪」
愛紗「こら、鈴々!開ける前に扉を叩くようにと何度も・・・・・」
と、まるでタイミングを見計らったかのように義姉妹が乱入してくる
愛紗「って桃香様!!執務中に居眠りなど、何を考えておいでですか!!?」
鈴々「あ〜〜、お姉ちゃん居眠りしてるのだ、い〜〜けないんだ♪」
桃香「あ、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん!!?これは違うの!!」
愛紗「何が違うと言うのですか!!?どう考えても居眠りのそれではありませんか!!」
桃香「本当に違うんだって〜!!私は考え事をしていただけで!!」
愛紗「ほほう、ではどのような考え事をしていたのか、根掘り葉掘りしっかり説明していただけますか?」
桃香「う、分かったよ・・・・・実は、朱里ちゃんと雛里ちゃんが・・・・・」
そして、桃香は一刀との同盟で伏龍と鳳雛に指摘された事を話した
愛紗「・・・・・そのような事が」
鈴々「・・・・・・・・・・」
桃香「ねぇ、私どうすればいいのかな?私は一刀さんと同盟を結びたいけど、二人の言う事も何となく分かるし・・・・・愛紗ちゃんと鈴々ちゃんはどう思う?」
愛紗「・・・・・正直な所、私も回答に困りかねます」
鈴々「鈴々も暴れたいけど、お兄ちゃんの言ってることも分からなくないのだ・・・・・」
桃香「私は、これからどうすればいいのかな?そんなに一刀さんと同盟を結んじゃいけないのかな?・・・・・」
愛紗「・・・・・桃香様の本心はどちらなのですか?」
鈴々「そうなのだ、鈴々達はお姉ちゃんが決めた事なら一緒に行くのだ」
愛紗「はい、それが家臣というものです」
桃香「本当にありがとう・・・・・でも、私にも分からないの、自分がどうしたいか・・・・・」
二者択一、命を与えられた人間が生き続ける中で避けては通れない分かれ道、まさに岐路である
どちらに進んでも何かを失う、どちらに進んでも一つの幸福が逃げていく、それが桃香の悩みに拍車をかける
そんな桃香の様子を見るに堪えなくなったのか、愛紗が口を開く
愛紗「・・・・・参考になればよろしいのですが、私の考えでよろしければ」
桃香「なになに!?この際何でもいいよ、愛紗ちゃんの考えを聞かせて!」
愛紗「では、僭越ながら・・・・・私もどちらかと言うと朱里と雛里の考えに賛同します」
桃香「ええ!?どうして!?愛紗ちゃんも一刀さんと同盟を結びたくないの!?」
愛紗「別にそうは申しておりません!・・・・・ただ、これまであのお方と付き合ってきた期間がありますが、あのお方のやろうとしている事は余りにも無茶が過ぎます」
鈴々「うん、人を一人も殺さないなんて、無茶もいいところなのだ、正直鈴々もお兄ちゃんのやり方に付いていける自信が無いのだ」
愛紗「はい、あのお方はこれまで戦場でも一人も人を殺さず、なおかつご自身も生き残ってきましたが、それはただ単に運が良かっただけなのです」
鈴々「うん、普通だったらとっくに死んでいてもおかしくないのだ・・・・・」
桃香「でも、一刀さんは一人でも多くの人達に幸せになって欲しくてやっていただけで・・・・・」
愛紗「それが無茶だと言うのです!」
鈴々「そうなのだ!鈴々達が幸せに出来るのは精々身内だけなのだ!敵も幸せになって欲しいなんて、おかしいのだ!」
桃香「・・・・・・・・・・」
かつて桃香もお互い殺し合わずに済む世の中を夢見ていた
しかし、実際に世に出てみれば官匪の横行、野盗の跋扈が蔓延している有様で、気が付いてみれば自分もその殺し合いの中に身を投じていた
一刀との同盟で共に漢王朝を再興する道を選び、その結果これまで自分を信じてくれて来た者達を斬り捨てるか、同盟を結ばず一刀と完全に袂を分かつか
今の桃香は理想と現実の板挟みに会い、身動きが取れなくなった状態だった
愛紗「・・・・・分かりました、では私からあのお方のお心を窺って来ます」
桃香「え、どういうこと?何をするの?」
愛紗「あのお方に直接、桃香様の現状をお伝えするのです」
鈴々「そうなのだ、お姉ちゃんはこんなに悩んでいるのをお兄ちゃんに知ってもらうのだ」
桃香「ええ!?だって、そんなことをしたら!」
愛紗「何を迷う事があると言うんですか!?」
鈴々「腹を割って話し合わないと、お兄ちゃんには伝わらないのだ!」
桃香「あちょっ!!愛紗ちゃん、鈴々ちゃん!!」
そして、不甲斐ない姉を見かねたのか、二人は部屋を出て行った
桃香「・・・・・・・・・・」
執務室に一人取り残される桃香
情けなさと申し訳なさに押し潰されそうになる
要するに、自分は怖いのだ、誰かに拒絶される事が
同盟を結べば、少なからず内部からの反感を買い、下手をすれば朱里と雛里、最悪の場合義姉妹の契りを結んだ愛紗と鈴々が自分から離れていくかもしれない
そして同盟を結ばなければ、確実に一刀とはこれまで通りやっていける筈も無い
本当なら、こういった事は自分の口から一刀に直接言わなければならないのに
桃香「私、本当にどうすればいいんだろう・・・・・」
梨晏「へぇ〜〜〜、劉備ちゃんって、そんなにそそっかしいんだ〜♪」
華雄「ふむ、ある意味董卓様以上だな」
美花「そうなんですよ、でもそこが桃香様の魅力でもあるんですけどね♪」
一刀「はは、桃香らしいな」
下?城東屋にて、一刀、梨晏、華雄は美花の入れてくれたお茶に舌鼓を打っていた
そこに
愛紗「一刀様、お休み中申し訳ありませんが、折り入ってお話があります」
鈴々「鈴々達の話を聞いて欲しいのだ」
一刀「どうしたんだ、改まって」
愛紗「はい・・・・・他の皆様は、ご退席いただけますか?」
鈴々「うん、鈴々達はお兄ちゃんだけと話したいのだ」
梨晏「え〜、私達だけ除け者〜!?」
華雄「ふむ、察するに同盟に関する話か」
美花「では、誠に申し訳ありませんが、華雄様と太史慈様は・・・・・」
一刀「いや別にいい、同盟もそうなんだろうけど、愛紗と鈴々が話したいのは、桃香に関してだろ」
愛紗「ええ、なぜ!?」
鈴々「どうして分かるのだ!?」
一刀「そりゃあな、二人がそんなに深刻そうにするのは、大抵桃香絡みだからな」
梨晏「へぇ〜、一刀ってば関羽と張飛のこと、よく分かってるんだ〜♪」
華雄「ふむ、まるで孫乾殿から聞いた桃園の契りを共に誓った仲のようだぞ」
一刀「そんな大層なものじゃない、前に付き合ってた期間が長かっただけだよ」
愛紗「それでは、単刀直入に言わせて頂きます・・・・・桃香様は、一刀様と同盟を結ぶかどうかお悩みになっています」
鈴々「うん、朱里と雛里が・・・・・」
そして、二人は朱里と雛里が言っていた事を説明した
一刀「・・・・・なるほどな・・・・・頭が良いはずなのに、乱世は防ぐことが出来るとなんであの二人は気付かないんだ」
愛紗「一刀様、お言葉ですが、私も乱世を防ぐなど世迷言だと思います」
鈴々「そうなのだ、お兄ちゃんはこの大陸の事を分かってないのだ」
一刀「それこそ違うぞ、そんなものは只の固定概念だ・・・・・それに、俺がこの大陸の事を分かっていないと言ったけど、俺はおそらく現状誰よりもこの大陸の事を理解している」
愛紗「なんですって!?」
一刀「俺は、これからこの大陸がどんな歴史を辿るのか、その結果どんな結末を迎えるのか・・・・・そして、そうなる原因を知っている」
鈴々「え?」
一刀「愛紗や鈴々、そしてその他の多くの者達によって次々と戦端が開かれる・・・・・その後は、偶発的な衝突、無計画な戦線の拡大、戦力の遂次投入、瞬く間に拡大する戦火、巻き込まれる村人達・・・・・考えたくもない」
愛紗「それは・・・・・しかし、それは仕方のない事です!!たとえどのような結果になったとしても、それを受け止め前に進む、それが私達の掲げる正義なのです!!」
鈴々「そうなのだ!!鈴々達には鈴々達の正義があるのだ!!いくらお兄ちゃんでも、鈴々達の正義をとやかく言って欲しくないのだ!!」
一刀「はあ!!?正義だって!!?」
この『正義』という言葉に、一刀は眉間に皺を寄せ明らかな怒りの表情を見せた
一刀「おいおい、二人は正義なんてものが本当にあるとでも思ったのか!!?」
愛紗「え!!?」
鈴々「どういう事なのだ!!?」
一刀「俺から言わせてもらえば、正義だの悪だのと言う言葉は、手前勝手な言い訳、責任転嫁だ!!」
十字軍遠征における虐殺、魔女狩り、スペインによるインカ帝国の崩壊、秀吉の朝鮮出兵、アメリカのネイティブ・アメリカン殲滅、旧日本政府によるアイヌ民族滅亡、ナチスのホロコースト、広島長崎への原爆投下、アメリカ同時多発テロ事件、イラク空爆
有史以来、幾度となく繰り返されてきた残虐行為の数々、人間の歴史の闇とも言えるそんな行為の多くは『正義』の名の下に行われてきた
そう、自分の正義を頑なに信じている人間こそが、最も残虐になれるのである
なぜなら、どれだけ残虐なことをしようとも、彼らにとってその行いは『正しい事』だからだ
しかし、実際に正義なんてものは、それぞれの共同体、個人ごとに変わるものである
かつての連合国には連合国の正義があり、枢軸国には枢軸国の正義があった
キリスト教にはキリスト教の正義があり、イスラム教にはイスラム教の正義がある、立場が変われば正義もまた変わるのだ
そして、勝利した方だけが正義を高らかに主張し敗者を一方的な悪とする事が出来る
一刀にとって、彼女達の言動は客観性を持たない正義であり、単なる思考停止に過ぎない
勝てば官軍、負ければ賊軍と言う言葉があるが、それは逆に言えば勝者の理屈の一方的な押し付けである
昔と比べれば遥かにましとなった現代でさえも、世界の片隅で正義という名の思考停止の下に、多くの人々が殺されている事を忘れてはならないのだ
一刀「俺はそんなもの信じちゃいない、正義なんかで世の中を正す事が出来ない事は、もう分かりきっているからだ!!」
愛紗「では、一刀様は何を信じて戦って来たのですか!!?」
鈴々「そうなのだ!!正義が無かったら、何が悪い事かもわからないのだ!!」
一刀「俺が信じるのは平和だけだ、戦乱や争いによって齎される太平なんて、ほんの一瞬のものなんだよ、平和こそが人々の争いを諌めこの世を正すことが出来る唯一の手段だからだ!!愛紗や鈴々は、自分達こそがその平和を乱す厄介者だと言う事に気付いていないんだよ!!そういった考え方を捨て去らない限りな!!」
愛紗「・・・・・・・・・・」
鈴々「・・・・・・・・・・」
どうにも得心がいかなく、悩ましい顔つきになる二人だったが、一刀は更なる追い打ちをかける
一刀「愛紗、鈴々・・・・・お前達は、これから先何人殺すつもりだ?」
愛紗「え?」
一刀「いったい何人殺せば、お前達は満足するんだ?」
愛紗「そんな!!?私達は!!」
鈴々「鈴々達は、そんな・・・・・」
一刀「二人にとっては、目的達成の為の少ない犠牲に見えるんだろうけど、奪われた人達にとっては、それが全てなんだぞ・・・・・そして、愛紗と鈴々に殺された人々の家族、肉親、友達にとって二人は只の憎しみの対象でしかないんだ、敵味方問わずな」
愛紗「・・・・・・・・・・」
鈴々「・・・・・・・・・・」
一刀「二人は、その人達に対して、しっかりとした形で責任を取れるんだな?男手を無くし、収入源を無くした人達を保護し、その人達の面倒を一生をかけて見ると言うんだな?」
愛紗「そ、そのようなこと!!?」
鈴々「そんなの無理なのだ!!」
一刀「だったら最初から戦争なんて起こすべきじゃない、それが責任を取ると言う事なんだよ・・・・・それともなんだ?二人は殺した人達やその肉親にどう報いるつもりなんだ?自分達の大義の為に死んだ名誉が報酬か?後々に二人が出世すればそれが礼になるとでも思ったのか?そんなものは只の自己満足だ!!」
愛紗「そんな、私達は人を殺すのが目的ではなく・・・・・」
鈴々「鈴々達だって、平和な世の中を・・・・・」
一刀「二人は、もっと自分達の行いとそれにより生み出される結果を考えるべきだ、後先考えずに突っ走る人間に訪れるのは・・・・・破滅だけなんだよ」
愛紗「・・・・・・・・・・」
鈴々「・・・・・・・・・・」
完全に言い負かされた
二人は悩ましくも渋い表情のまま、東屋を後にしたのだった
美花「・・・・・一刀様の言いたい事も分かるんですけどね」
華雄「ああ、北郷もあの二人の事を思って言っているんだがな」
梨晏「そうだね・・・・・でもね一刀、年長者として一つ言わせてほしい事があるな」
一刀「なんだ?」
梨晏「一刀は、正義なんて信じていないって言っていたけど、それも立派な正義の一つなんだよ」
華雄「そうだな、人が何かをするうえで、常に正義は付きまとうものだ」
美花「はい、一刀様だってご自身の行いを正しい事と信じてこれまでやって来たのでしょう、それが正義じゃなかったら何だと言うのですか?」
一刀「・・・・・・・・・・」
こちらもまた一つ、言い負かされたのだった
桃香「・・・・・・・・・・」
城の柱の陰で、今の会話を聞いている者がいた
桃香「(・・・・・・・・・)」
頭の中が真っ白になり、朦朧として何も考えることが出来ずにいた
その時
雷々「あ〜、桃香様だ〜」
電々「何をしているんですか〜?」
桃香「え、あ!?雷々ちゃん、電々ちゃん!?」
後ろを振り返ると、桃饅やら果物やら、いろんなお菓子を持った麋二姉妹がいた
雷々「こんな所でどうしたんですか〜?」
電々「かくれんぼですか〜?」
桃香「あ、うん!愛紗ちゃんと鈴々ちゃんと一緒にかくれんぼをしてるの!」
清々しいまでの誤魔化しぶりだが
雷々「あそうなんですか〜♪雷々達もやりたいです〜♪」
電々「一緒に遊ぼ〜♪」
このアホっ子姉妹には効果覿面だった
桃香「ちょっと待って!そのお菓子はどうするの!?」
電々「あそうだね、まずはこれを届けないと美花お姉ちゃんに怒られちゃうよ〜」
雷々「桃香様また後で遊ぼうね〜♪」
桃香「あははぁ〜・・・・・」
こんなにも純粋な子達を騙すみたいな形になってしまって、桃香は良心がチクチクと痛んでいた
そして、とぼとぼとその場を後にしたのだった
拠点・朱里、雛里
朱里「雛里ちゃん、ここをどう思う?」
雛里「うん、きっとここと関係しているんだと思う」
伏龍と鳳雛の執務室、ここで二人は一刀から渡された同盟資料の精査をしていた
二人が最初に示した感想は
雛里「・・・・・凄いよこれ、よく考えられているよ」
朱里「うん、これだけの内容なら私達が不利になる事は絶対にないよ」
資料の中身を見て感嘆の声を上げる二人
今まで見た事も聞いた事も無い政策がてんこ盛りで、まさに宝の書物と言っても過言ではなかった
具体的かつ緻密に描かれ、実施による利点、同時に欠点も記されていて、その解決法も記載されていた
例えば、楽市制導入、通行税廃止による利点と欠点
利点は、経済の活性化と円滑化
欠点は、治安の悪化
経済活性化と治安維持を同時に進行する為の政策
幽州での北郷隊の活動とその成果
関所をいかにして減らし、コストを抑えるか
それによって生み出される利益
物凄く具体的かつ分かり易く記載されている為、本気で取り組めば本当に実現可能なのではと思えてきてしまう
のだが
雛里「でも、この政策は・・・・・」
朱里「うん、これは太平の世でこそ真の効果を発揮するものだよ・・・・・」
非常に残念な事だが、一刀の発案する政策は全て平和な世でこそ役に立つものばかりである
雛里「今この政策を敷いたとしても・・・・・」
朱里「うん、今後いろんな所で不利になっちゃうよ・・・・・」
もうすぐ乱世が来ると踏んでいる二人にとって、この政策の早期実施は自殺行為に等しい
特に関所の軽減は、敵の進行を阻止する上で絶対にやってはならない事である
朱里「惜しい、惜し過ぎるよ・・・・・」
雛里「うん、今がしっかりとした太平の世なら、この案はすぐにでも取り入れられるのに・・・・・」
状況が状況なら諸手を上げて喜ぶ所だが、180°正反対の状況ではその効果も180°違うものとなってしまう
手の中の宝を、まさに宝の持ち腐れとしか言えない事に伏龍と鳳雛は本当に残念だった
その時
コンコン
朱里「あ、はい」
雛里「どちら様でしょうか?」
一刀「俺だけど、入っていいか?」
朱里「はわわ!!?みみみみ御遣いしゃま!!?」
雛里「あわわ、どどどどどうぞでしゅ!」
ノックの習慣は桃香が幽州から持って来たため二人も知っていたが、相手がその発案者とは思っていなかったため、二人はテンパる
一刀「どうだ、内容は頭に入れてくれたか?」
朱里「あはい、もう少しで終わります・・・・・」
雛里「・・・・・・・・・・」
一刀「そうか、早くしてくれよ、早く精査を終わらせたいからな・・・・・徐福の出発がもう少し遅かった良かったのにな、そうすればこの政策を効率良く広める事が出来たのに」
そう、一刀が青州を素通りした理由はこれである
自分一人で全てを回っていては効率が悪過ぎる為、別の州の人間に自分の政策を理解してもらい政策普及の手伝いをしてもらおうと思ったからである
朱里「・・・・・御遣い様、申し訳ありませんが、今の私達に御遣い様の政策を取り入れる事は、到底できそうにありません」
雛里「はい、お言葉ですが、御遣い様の政策は今の時勢には余りに不向きです」
一刀「一体何の根拠があって言ってるんだ?」
朱里「根拠も何も明白です!」
雛里「はい、この内容を受け入れる諸侯は今は何処にも居ません」
一刀「おいおい、実際に俺は冀州と同盟を結んでいるんだぞ・・・・・もしかして俺が袁紹と同盟を結んだ事を疑っているのか?だったら同盟調印書を見せてやるよ」
懐から、一枚の紙を取り出す
そこには結んだ同盟の内容と、袁紹直筆のサインと印があった
朱里「・・・・・確かに、これは紛れも無く袁紹さんのものです・・・・・しかし、このようなものは意味を成しません!」
雛里「はい、向こうからすれば、このようなものはただの紙切れに過ぎません、いくらでも破棄する事は可能なのです」
一刀「そんな事は分かっている、そうさせない為に、この同盟を価値あるものにする為に俺はこうして普及の努力をしているんだ、そして最終的にはこの大陸全てにこの循環を作っていき安定させるんだ」
そう、一刀はこの大陸を経済によって立て直そうとしているのである
莫大な金の流れを作り出し、物流を加速させ、物価の安定化を図る
その為には流通の仕組みの改善、街道の整備、治安の確保などやらねばならない事は山ほどある
その最も邪魔になるのが、関所と通行税である
それに、なにも関所を全て潰してしまえと言っている訳ではない
治安維持を図る上で、関所の重要性は一刀も理解している
要はバランスである、どこに幾つ関所を設けるかを見極める事もこの同盟とシステム構築のきもである
朱里「しかし、どんなに莫大なお金を得た所で、その殆どが宮廷の宦官の手に渡るのでは、意味がありません!」
雛里「はい、あの人達の欲望には限りがありません、一つの欲を満たしても、更に増長するのは目に見えています」
一刀「だろうな、だから今回俺が洛陽に赴いて、宦官達に今回の同盟を説明するんだ、そして自分達のこれまでの行いを猛省させる、空丹様にも協力を仰いでな」
朱里「御遣い様、それは不可能です・・・・・どんなに説明したところで、今の宦官達の頭の中には、自分の欲望を満たす事しかありません・・・・・」
雛里「それに聞いた話によりますと、帝は政の一切を宦官に任せきりにしている様子です・・・・・そのような状況では、例え帝と言えども宦官達の広言には、耳を貸さざるを得ません」
一刀「確かに、今の空丹様に宦官達の行動を抑制する権限も実力も無いだろうな・・・・・だったら俺が代わりにやる、もし俺の言葉に宦官達が耳を貸さなかったら・・・・・」
朱里「宦官達を、粛清するのですか?」
一刀「まさか、俺がそんな野蛮な事を何より嫌っているのは知っているだろ、幽州でもかつては賄賂や横領に走る不穏な輩が少なからず居たさ、そいつらにはしっかりとした証拠を押さえ俺の部隊が秘密裏に捕まえて白蓮の前に突出し法に則って然るべき罰を与えたよ、その後幽州はその資料に書いてある通りになった、漢王朝にだって同じ事が言えると思わないか?」
朱里「そのような生易しいものではありません!」
雛里「はい、規模が違います、階級など様々な利権が絡んでくる以上、御遣い様の行いは全て失敗に終わるのは明白です」
一刀「おいおい、やってもいないのに容易く決めつけるな」
朱里「分かりきっているから進言しているんです!」
雛里「はい、今の漢王朝を内側から再興する事は、もはや天変地異が起こったとしても不可能なのです」
一刀「それは人事を尽くした者が言う台詞だぞ・・・・・なら二人は、桃香の何処に引かれたんだ?桃香が中山靖王、劉勝の末裔だからか?それとも桃香の仁徳に引かれたのか?」
朱里「それは・・・・・どちらかというと後者です」
雛里「はい、確かに桃香様の血統も人が集まる要因なんですが、重要なのはその人物そのものとその人がもたらす結果ですから」
一刀「だったらなんで、二人は桃香と共に漢王朝を再興しようとしないんだ?」
朱里「え!?」
雛里「そ、それは・・・・・」
一刀「桃香は、遠縁ではあるけど漢の血縁者だ、その大元の帝や劉協様に危機が訪れようとしているのに、何で二人は何もしないんだ?その優れた頭は飾りなのか?」
朱里「・・・・・今の私達には、出来る事はありません」
雛里「はい、ここまで腐敗してしまった漢王朝を正す力など持ち合わせていないんです」
一刀「どうしてそんな投げやりなんだ!?どうしてやる前から諦めるんだ!?」
朱里「仕方のない事です!今の私達にはそのような力も、地位も、名声も無いのですから!」
雛里「その通りです、ですから私達は桃香様のお考えに賛同し、乱世で力を得てこの大陸を正していこうと思ったのです、桃香様の理想を理解し、その実現の為に協力して下さっている方は少なくないのです」
朱里「はい、桃香様のお考えに多くの人が共感しているのもまた事実なのです!」
一刀「おいおい、まさか二人は、より多くの人間の支持を得ていれば、あとは何をしてもいいとか思っているのか!!?」
そんなものは、集団心理によって動く暴徒の理屈である
そういった者達が求めるのは常に自分達の利のみ、そんな身勝手な人間には辟易するしかないのだが、時にはそんな人間達の意見がまかり通ってしまう時がある
自分達の利を求め、恐怖や衝動に煽られ、理性ではなく熱狂とパニックによって動く者達
彼らにとって自分達の信じる道が正しいか否かはもはや関係が無いのだ
そして、大勢を決するのも正しさではなく、どれだけ多くの人間の支持を得ているか、という一点のみ
ホロコーストを引き起こしたナチスの台頭も、大量破壊兵器が見つからなかったイラク空爆も、今になって見直しが進められている郵政民営化も、イギリスのEU脱退も、ごく一部の権力者が独断で決めたものでは無く、全て民主的に多くの人々によって支持され、選択された結果なのである
このように、万雷の拍手の中で取り決められたものが、常に正しいと思ったら大間違いなのだ
一刀「諸葛亮と?統は、その優れた知恵をどうしてより良い事に使わないんだ!!?どうして悪用する事ばかりに心血を注ぐんだ!!?」
朱里「あ、悪用だなんて心外もいいところです!!」
雛里「はい、御遣い様の言動は余りにも的を射ていません」
朱里「その通りです!!向かい来る乱世に備える事の何が悪用と言うのですか!!?」
一刀「乱世なんて来ない、俺が止める!!」
朱里「そのようなものは夢物語です!!」
雛里「はい、どんなに人事を尽くしたとしても、そこは人の英知を超えた領域なんです」
一刀「それが固定概念なんだよ・・・・・もういい分かった、そこまで俺の言う事が信じられないなら、結果で証明するのみだ」
朱里「この身命を賭けても構いません、御遣い様の思惑は間違いなく破綻します」
雛里「いずれその思想が愚かしいものだったと気付くでしょう」
そして、一刀はその目に更なる力を宿し、二人の部屋を出て行った
美花「あっ、一刀様!?」
その時、扉越しで美花と擦れ違った
美花「・・・・・朱里様、雛里様、何かあったのですか?一刀様とお話をしていたのですか?」
朱里「あ、美花さん・・・・・少しお話をしていた所です」
雛里「はい、同盟に付いて少々」
美花「少々ではないでしょう、一刀様、とても怖い顔をされていましたよ、一体何があったのですか?」
朱里「・・・・・それは」
雛里「実は・・・・・」
そして、伏龍と鳳雛は今現在行った一刀とのやり取りを話した
美花「なるほど、そんな事が・・・・・一刀様らしいですね」
朱里「・・・・・美花さん、どうしてあのお方は、あそこまで頑なになれるのでしょう?」
雛里「はい、正直申しまして、あの思想は危険です」
美花「それはお互い様ですよ、朱里様と雛里様だって武力で平和な世を築こうと思っていますでしょ」
朱里「だって、これから先乱世が来るのは分かりきっているんですよ!」
雛里「はい、なのにあのお方はそれに逆行するばかりで、順応力が無いとしか言いようがありません」
美花「では、お二人は今回の同盟内容は全て却下すると言う事ですか?」
朱里「それは・・・・・こちらにも有益なものがあるのは否定しませんが・・・・・」
雛里「はい、長い目で見れば私達の力になる内容も多くあるのは否めません・・・・・」
美花「では、まずはそこから始めてみてはいかがでしょう、相手の事を否定してばかりでは太平の世は遠のく一方だと私は思いますよ」
朱里「・・・・・・・・・・」
雛里「・・・・・・・・・・」
そしてその後、二人はさらに深く資料の精査をし、今後の交渉に望みを繋いでいくのであった
説明 | ||
徐州拠点(パート1) | ||
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一刀の自分の考えの押し付けに過ぎない、よいしょしかしない信者と読者にゃ分からない分かるはずもない(禁玉⇒金球) うん・・・正義と悪・・・分かりやすい括りかもしれないけど・・・正義の敵って言うのはまた違う正義っていうのが大体だからね〜・・・太史慈も言ってたけど一刀のやってることも一種の正義だからな・・・守ることと戦うことジレンマは終わらない(555)(スターダスト) yuukiさん、お久しぶりです、こちらも暇を見つけてはキーボードを叩いているんですが、どうにも進みが悪いんです、そのように自分の作品を待ち遠しいと思ってくれてコメントしてくれる人がいるのは嬉しいのでなるべく早く仕上げます、早ければ来週中にでも投稿させていただきますので(Seigou) 続きはまだでしょうか?(yuuki) うわお、クラスターさん!?お久しぶりです、ここ暫くクラスターさんのコメントが途切れていましたから寂しかったんですよ、クラスターさんの為になるコメント大歓迎です♪(Seigou) 平和を齎す為の方法論を論議していた筈が、それが諍いの種になるのでは本末転倒も良い所だ…。ドイツもコイツも直情的なのばっかりで、所謂「大人」が居ないって事なのか…。黄忠か厳顔でも居たのだったら、もう少し穏便に話も進んだろうにな…。(クラスター・ジャドウ) Jack Tlamさんへ、まさにその通りなんでしょうね、まずは相手の言う事にも耳を傾けなければならないのですが、この場合傾けた瞬間に乱世を肯定する事になってしまいますから、世界平和を目指す一刀からすれば武力絡みの解決法は到底受け入れられないんですよね、ここが民主化された平和な現代日本の教育を受けた現代人の感覚とでもいうべきでしょうか(Seigou) 「平和は力では達成されない。それは理解によってのみ達成される」。まず誰よりも固定観念に縛られている一刀の言葉は届き難いものだと思います。各人の立場や信条、手法に思いを馳せ、理解しようと努めるべきでしょう。相手を受け入れる態度を示せば、自然と相手に自分の意見を聞いてもらえ易くなるものです。人間関係の鉄則……なんですが、まだ若いですからねえ。(Jack Tlam) 未奈兎さんへ、そうですね、美花がいなければ詰んでいたんじゃないでしょうか?(Seigou) 乱世とは、国によって何かを奪われた者達の復讐劇みたいな一面がありますからね。その辺りについては、この外史の生まれであるが故に民が抱く国への恨み辛みに囲まれて育ってきた臥龍鳳雛の方が一刀より深く理解できている様です。結局のところ、一刀の最大の敵は朝廷に巣食う佞臣でも、歴史に名を残す英雄でもなく、国に恨みを抱く億万の民なのかもしれません。(h995) 桃香はどんな決断をするんだろうな〜決裂かな^^;(nao) 一歩引いてみてる美花がいなければギスギスする一方だったな今回(未奈兎) |
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