恋姫外史医伝・華陀と一刀 五斗米道の光と影 第25話 |
一刀が比較的穏やかな日常を過ごしている頃、洛陽での医療活動を一区切りした華陀は卑弥呼を連れて再び旅に出ていた。
とある森の中を歩いていた二人は、しばらくして川へとたどり着いた。
「だぁりん。せっかくだから少し休憩していこうではないか」
「そうだな・・・・・ん?」
「どうしただぁりん?」
華陀の視線を追う卑弥呼。
その先、上流の川辺に下半身を水に浸してうつ伏せに倒れている男の姿があった。
急いで男の元へと向かう華陀と卑弥呼。
「しっかりしろ!」
川から男を引き上げ、その顔を確認すると華陀は驚きの声を上げた。
「せ、先輩!?」
「先輩じゃと?」
「ああ。俺の修行時代にお世話になった先輩なんだ。先輩!しっかりしてください!」
「う、うう・・・・・・」
「体が冷え切っている。卑弥呼!火を焚いてくれ!」
「任せておけい!」
・・・・・・
「・・・・・・む」
しばらく後、男は目を覚ました。
「気がつきましたか。先輩」
「・・・・・・華陀?どうしてこんな所に?」
「旅の途中たまたま通りかかっただけです。先輩こそ、いったい何があったんです?」
「それは・・・・・・」
男の言葉は卑弥呼の声にかき消された。
「そこに隠れているのは分かっておる!姿を見せい!!」
森の一角に向かって声を荒げる卑弥呼。
数秒後、黒い外套で頭から足まですっぽり覆った怪しい男が姿を現した。
「その者を渡してもらおうか?」
「何者だ?」
「答える必要は無い。もう一度だけ言う。その男を渡せ」
「断る」
華陀がそう答えた瞬間、黒ずくめの男は華陀に対して何かを投擲した。
「ふん!」
卑弥呼は華陀の前に素早く移動し、投擲された物を片手で弾き飛ばした。
「だぁりんに危害を加える者はだれであろうと許さん!」
怒りの表情を浮かべて構えを取る卑弥呼。
「・・・・・・くっ!」
卑弥呼に気圧されたのか、黒ずくめの男は背を向け逃げ去る。
卑弥呼は後を追わなかった。
もしも奴に仲間がいた場合、自分がここを離れた隙に華陀たちが狙われる可能性があったからである。
「か、彼は一体何者なんだ?」
呆気に取られている男。
「一緒に旅をしてくれている俺の仲間です」
「そ、そうか」
「それよりもあれは・・・・・・」
華陀の視線の先には黒ずくめの男が投擲した物・・・・・・医療に使われる小刀が落ちていた。
「奴は医術の心得のある者なのですか?」
「・・・・・・」
口を噤む男。
「答えてください先輩」
「・・・・・・分かった」
男はゆっくりと、事情を語り始めた・・・・・・
華陀が最終試験を終えてまもなく旅立った後、五斗米道で内部分裂が起きたのだと男は言った。
幹部の一人が一刀の行動もまた患者を救うものであったとし、自分の意見に同調する医師たち、本部に在籍している約一割を連れて本部を出たのである。
その中に自分も混じっていたと男は語った。
その後、一団はとある山中にささやかな住処を作り、彼らは活動を開始した。
掟で禁じられていた安楽死を厳格な使用条件の元で解放し、他の流派の医療技術、あるいは宗教の思想を取り入れ、全く新しい医の形を作ろうと試みたのである。
今までのやり方から変わっていく中で混乱も見られたが、医師たちは自分達、そして患者達の望む医の形を作っていこうと試行錯誤していくのだった。
それから月日は流れ、新たな医療組織として形となってきた頃、あの黄巾の乱が起こった。
このような時にこそ総力を挙げて動くべきだと五斗米道元幹部、現総帥は言い、組織の医師たちは一人でも多くの人間を救うべく各地へと散った。
医師たちは目も覆う惨状の中、医療活動、あるいは安楽死を行い自分の責務を果たしていった。
だが・・・・・・
「その時から、奴はおかしくなっていったんだ」
「奴?」
「張仲景。お前の弟弟子にあたる男だ。才能のある男で教えた事をそれこそ砂に水が染み込んでいくように吸収していった」
「そんな男が・・・・・・おかしくなっていったとは?」
「奴も黄巾の乱の際に人々を救おうと山を下りた一人だったのだが、戻ってきた奴はまるで別人のように荒んでいた。まあ、あの大乱の最中だ。何があったかは想像に難くないが・・・・・・」
「・・・・・・」
「それからしばらくして・・・・・・奴を含めて数人の医師が忽然と姿を消した。俺は総帥の命を受けて奴らの行方を追っていたんだ」
「もしや、先程の黒ずくめの者に関係があるのではないか?」
卑弥呼の言葉に頷く男。
「どうやら奴らは医の力を使って国をよりよい方向へ導いていこうと考えているらしい。だが、問題はそのやり方だ。奴らは自分達が不必要だと思う人間を裏から排除していくつもりらしい」
「それはもう医師じゃない!ただの過激派の集団だ!」
「そのとおりだ。俺もそれを知って、すぐ総帥に知らせなければと先を急いでいたのだが、その途中であの黒ずくめの男に追われて・・・・・・」
「そうだったんですか・・・・・・」
「だぁりん。これは北郷一刀にも知らせておいたほうが良いのでは無いか?」
「確かに」
「北郷だと?華陀。お前北郷一刀の居場所を知っているのか?」
「はい。あいつは今、曹操孟徳の所に・・・・・・」
「・・・・・・そうか。では、そっちの方は任せる。俺も早く戻ってこの事を伝えなければならないからな」
頷く華陀。
「しかし、まだ先程の輩が狙っている可能性が高い。しばらくは行動を共にした方がよかろう」
「そうだな。すまんが頼む」
華陀と卑弥呼に頭を下げる男。
こうして襲撃を警戒しつつ、三人は先を急ぐのだった・・・・・・
どうも、大変お久しぶりのアキナスです。
猛暑も過ぎ、ようやく過ごしやすくなってきてほっとしております。
さて、一刀君の行動は想像以上に外史に影響を与えていたようです。
この事を知ったとき、一刀君はどう動くのでしょうか?
ではまた次回・・・・・・
説明 | ||
思わぬ事態になっていたようです | ||
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コメント | ||
mokiti1976-2010さん:色々と暗躍しそうですよね。この事を知ったら一刀君はどうするつもりなんでしょう?(アキナス) 新たなる不穏の影が…一刀の身にも今まで以上の災難が降りかかりそうですね。(mokiti1976-2010) |
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