Ballistic Trauma 第2話
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第2話「Vanzandt」

 

辺りを漆黒に染める夜の中、輝く宝石を敷き詰めたように鮮やかな色彩を誇示する大都市[Stella]。

その人間の知恵と科学と技術の結晶の中にあって、ひと際高く聳え立つビルがある。

地上77階立て、全面マジックミラー張りのシンプルで高級感のあるその建物―

その最上階の一室に[男]はいた。

[社長室]というプレートが付けられたその部屋で[男]は電気も点けず、外から差し込む明かりだけで電話をしていた。

いや、正確には[電話を受けていた]。

 

「―わかった、至急準備にかかろう。」

そう返事をした時、男が耳にしている受話器の向こうが沈黙した―

「―ん?どうし―」

そこまで言いかけた時、受話器の向こうで―

「―会長…?」

その呟くような言葉を聞いた時、[男]は[嫌な予感]がした。

 

僅かな沈黙の後、[男]の[嫌な予感]は的中する―

 

 

[出来れば死ぬまで聞きたくなかった名前―]

 

 

なるべく平静を装い[男]は答えた。

「…結果は保証しないが、期待に添うよう努力すると伝えてくれ。」

そう言って最後の注文に返事をした後、電話を切った―

 

―正確には切ったのか、切れたのかは憶えていない。

[男]の思考は暫く停止していた。

 

「0点の答えだな―」

そう言って俯き、苦笑を浮かべる。

 

本来、[男]の仕える[会長]は[曖昧]な返事など決して許さない。

[出来るか否か]それが全てなのだ。

[いつも]であれば[男]の首を切っていたであろう。

しかし、今回はそれはなかった―

 

「[会長]も結果は期待せずか―」

 

窓の外に輝く宝石を見ながら、[男]は大きく溜息をついた。

暫く窓の外を見つめた後、意を決したかのように[男]は再び受話器を取る。

そして、[内線]ボタンを押す。

 

僅かの呼び出し音の後、向こうから声が聞こえる。

「―はい、こちらオペレータールーム。」

 

「シエラか、ヴァンザントだ―。」

 

「あ、社長!お疲れ様です。」

おっとりとした、耳障りの良い声が返ってくるが、今はそれも心地良くは感じなかった。

 

「すまないが、[Acheron]のセキュリティを解除してくれ。」

 

そう伝えると、受話器の向こうの[シエラ]と呼ばれたオペレーターが激しく動揺したのが伝わって来た。

「―あ、[Acheron]をですか!?」

 

「―そうだ[Acheron]だ。」

 

シエラの声のトーンが下がる。

「―まさか、[Inferno]を開放なさるおつもりでは―?」

 

「…そういう事態になった。シエラ、[Acheron]のセキュリティを―」

 

いつもは温厚であるはずのシエラが初めて食い下がる。

「恐れ入りますが、[Acheron]は決して開放してはならないのでは―」

 

「くどい![会長]の命令だ!」

冷静沈着を売りにしているはずのヴァンザントが思わず声を荒げた。

彼がしまったと思った時には声を発してしまった後だった。

 

一瞬の沈黙の後、受話器から声が聞こえる。

「―も、申し訳ありません…私…。」

シエラが嗚咽混じりの声で謝る。

 

「―いや、私の方こそすまない、君が悪い訳ではないのに…。」

自分自身の苛立ちをシエラにぶつけてしまった罪悪感がヴァンザントを襲う。

 

そして、自分自身を落ち着かせるように一呼吸した後、いつもの口調でヴァンザントは口を開いた。

「シエラ、頼む。セキュリティを―」

 

鼻をすする音が聞こえた後、受話器の向こうからシエラの声が返ってきた。

「ぐすっ…はい、それでは…、セキュリティのパスをお願い致します―」

 

目を瞑り、大きく息を吸い込んで早さを増す心臓の鼓動を抑えながらヴァンザントは答えた。

 

 

「[Charon]―」

 

説明
遂に動き出した歯車。
決して開けてはならない「アケローン」の扉。
そしてその先にある「インフェルノ」とは!?
物語が動き始める第2話!
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