「改訂版」真・恋姫無双 〜新外史伝〜 第13話 |
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ――――!!」
宮中に男の怒鳴り声が鳴り響く。
「これは陛下、そんな大声を出しますとお体に障りますぞ」
「張譲様のおっしゃる通りです。また血の脈が乱れ典医を呼ぶ話になりまするぞ」
「な、何を言っている。張譲、趙忠!これが大声を出さずにいられるか!協(劉協)を『天の御遣い』と名乗っている輩に差し出せだと!!何故その様な事をする必要があるのじゃ!!!」
怒鳴っているのは後漢第12代皇帝劉宏で、そしてそれを諫めているのが十常侍筆頭の張譲とナンバー2と言われている趙忠であった。
「陛下、これも漢を守るための事です。残念ながら今の我々には反乱軍を征伐する余裕がありません。ここは陛下、不本意でありますが劉協様を差し出して黄巾党制圧に全力を注がなければなりません」
「ふん!差し出すのであれば協より、弁(劉弁)を差し出した方が良かろう。あれより協が朕の後を継いだ方がまだ良いわ!」
「これは陛下、長女継承は世の習わし。陛下、自らそれを破り王朝に混乱を招くお積りですか?」
「………」
側近とも言える張譲と趙忠に言われると劉宏は返す言葉が無かった。
「それに陛下、これもしばらくの辛抱するだけの事です。何れ黄巾党を打ち破り、国に力を取り戻せば反乱軍を制圧して、再び漢を蘇らすのです」
「ちょっと待て、張譲!それでは反乱軍討伐する際、協の命が無いではないか!!」
「恐らくその時は命を奪われる事になるでしょう。ですがこれも国の為、劉協様には生贄になっていただきます」
「何を言っている、そのような危険な場所に協をやれるか!」
「……では陛下、もし黄巾党と反乱軍が手を結ばれた場合、今の我が軍では抑えきれない可能性が高いですぞ。陛下失礼ながら、これに代わる何か代案はありますか?それに万が一、陛下が崩御して劉弁様が即位した場合、陛下の後ろ盾を失くした劉協様を誰が守ってくださるのか、勿論私たちも劉協様をお守りしますが何分、後宮の事、私たちでは力及ばずの処もありますので……」
「……」
張譲は暗にこのままでは劉協の命が危ないという劉宏に告げる。劉宏も今までの暴飲暴食が祟り、正直自分の命がどこまであるか分からない。自分が生きている間は何皇后の暴走を何とか止めることができるが、自分が死ねば張譲が言う通り何皇后は自分の娘である劉弁の為、そして己の欲望の為に劉協の命を奪う可能性が高い。だが辺境の地とも言える涼州にそれに『天の御遣い』と名乗る男に降嫁させるとは言え、人質同様に娘を送り出すのは余りにも忍びなかった。
「少し考えさせてくれ……」
流石にこの場では結論が出す事ができないので劉宏は二人にそう告げるのがやっとであった。張譲らもその辺はわきまえているのでここでは結論を急がせず、
「では陛下、次の謁見までには回答をお願いします」
と言い残し、部屋を後にした。
「くそ!!……すまぬ協…」
部屋に残された劉宏は悔し紛れの言葉と劉協に対して父親として何もできぬ悔しさを詫びるしか無かった。
この頃、一刀たちは先の戦いの始末に追われていた。
今回の戦いで韓遂が支配していた金城郡を奪取し、そして官軍が置き去っていた食料・武具なども手に入れる事ができた。食糧にあまり余裕がない西涼にとっては大変貴重な物である。
更に官軍撤退後、韓遂に味方していた豪族たちが一刀に降伏を申し出た。
最初、一刀は無条件でこれを受け入れようと考えていたが
「お待ち下さい。一刀様、一度刃を向けた者に対して簡単に許すようでは示しが付きません。ここは何らかの罰を与えるべきでしょう」
進言したのは反乱収束直後に一刀たちに仕官した徐庶と言い、字を元直そして真名を真里であった。元々撃剣の使い手で司馬徽が開いていた水鏡女学院の門下生でもあった。真里は学院でも優秀な人材であったが、以前学院に少数の賊が押し入った時にはその賊を一人で討ち取った事が評判となってしまい、荊州牧の劉表を始め諸豪族の仕官の勧誘が多くなり、また顔立ちが某歌劇団の男役っぽい事もあり学院の女生徒から言い寄られる事が多くなったことから勉学に集中できない状況に嫌気を差した為、師匠である司馬徽に相談した結果、学院に迷惑が掛からぬ様自ら出奔したという経緯の持ち主であった。
そして各地を旅し、自分が仕えたい主を探していたがほとんどの人物が自分の欲望ばかり考えている者ばかりであった。そんな中一刀が反乱を起こした際の檄文
「蒼天唯一の天に有らず、涼州新たな天立つ。民憂う心ある草莽の者今こそ立ち上がれ」
この檄文を見て、一刀がもし官軍を破り、そして本当に檄文の通り民の事を思うのであれば仕えても良いと考えていた。
一刀は官軍を破り、真里は一刀に仕官をする事を理由に面会を求めた。真里はいきなり訪問して断れる事も覚悟していたがあっさり面会できたことに些か驚いていた。
一刀も最初徐庶の名前を聞いて驚いたが、態々自分に面会に来たのであれば断る理由が無い事であっさり面会に応じた。
そしてお互い挨拶もそこそこに真里が話を切り出す。
「北郷一刀様にお聞きしたいことがあります。貴方は檄文では「蒼天唯一の天に有らず、涼州新たな天立つ。民憂う心ある草莽の者今こそ立ち上がれ」と書かれていましたが、貴方はこの先どうするつもりですか?何れは皇帝でも狙うのですか?」
「皇帝ね…正直そこまで考えていなかったな…。まずはこの涼州をどうするか精一杯でまずはそこからだよ。まずは涼州の民を飢えさせない事が第一に考えないとね」
「民を飢えさせないですか…言う事は正しいですが、それができますか貴方に。それか民の支持を得る為の人気取りですか?」
一刀の答えを聞いて真里は特に顔色を変えることなく、敢えて一刀を挑発するかの様に嫌味な台詞を告げる。
「何、好き勝手な事言ってるんだよ!」
「翠お姉ちゃん駄目!」
「お姉さま抑えて!」
傍にいた翠は激高して、今にも真里に殴り掛かろうとも勢いであったが、横にいた璃々や鶸に制止されていた。
「徐庶さんの言い分は分かった。それでは一つ君に聞くけど、ここに来るまでの民の暮らしはどうだった?」
「民の苦しい生活しているのは誰もが分かっていることです、それがどうかしましたか?」
「苦しいのは当然か…でもそれおかしくないか?本来民は国の宝と言ってもいい位だ。その民が何十年と苦しい生活しているのに国は助けもしない。そんな国、民にとって存続する価値ある?それこそ君は疑問に思わなかったの?そして人気取り?それはそう考えたい者はそう考えたらいいと思うよ。やらぬ善よりやる偽善、口で民の為にやりますというより実際にやっている者の方が民の方はやっている者の方を信用する。だけど俺はそんな事よりこの俺たちを救ってくれた馬騰さんやここの民たちの為に尽くしていきたい。ただそれだけだよ」
真里の答えに対して少々辛辣な言葉を述べる一刀。だが一刀の言葉に真里は今まで自分は民の為と言いながら、実際には民の為に自分は何かしてきたのだろうかと心の中で自問自答を行うが、簡単に答えは出ない。
「でもね。徐庶さん、貴女の様な者の才のある人が、民の為に使われねば勿体ないと思う。そしてこのまま貴女が野で遊んでいるのは、多くの人が苦しみから脱する機会がその分遅くなる。だからその才を民の為に使ってくれるのであればその力を貸して欲しい」
一刀の真剣な眼差しの中に人を引き付ける柔らかい笑みを浮かべるのを見て真里は自分との格の違いを見せつけられた状態になっていた。
そして真里は自ら臣下の礼を取り、こうして一刀の配下となった。
話は元に戻るが、降伏した豪族に対して真里が提案したのは
降伏した豪族には家の存続を認め、必要最小限の領地を残して全て没収。そして一刀に協力してきた豪族でも民に対して悪政を働いている豪族の当主に代替わりをさせ、更に各部族に対しても一刀への臣下化を進言した。
これには碧や翠は急激な変化に難色を示したが、真里は
「今まで涼州は部族連合として動いてきましたが、その結果部族単位の利益によって時には離れ、時にはくっ付いたりを繰り返していたため、洛陽は涼州が統一されることが無いと見て今まで侮ってきました。今後このような事を繰りさせない為にも一刀様の元、涼州は一つにならないといけません」
「それで…もしご主人様に刃を向けてくるのであれば、私が命を懸けてでも守ってみせますわ」
真里の真意と紫苑の覚悟を聞いて、碧や翠も覚悟を決めて一気に改革を断行したが、各豪族は一刀の今までの手腕、そして官軍を打ち破り今まで蔑まされてきた涼州に希望を与えくれたという事、そして民の人気の高さもあり大きな混乱も無く、涼州は一刀の元、統一された。
そんな中、涼州武威に孫家から使者が現れた。
先日官軍側に参陣していた孫家から使者が来たことに皆は不審に感じたが、一刀は
「取りあえず会ってみよう」
と言う一言で謁見の運びとなった。
謁見場に現れたのは程普と魯粛の二人であった。
「私は孫文台の家臣、程徳謀。こちらが同じく魯子敬です。先日、朝廷の命とは言えそちらに派兵した事について謹んでお詫び申し上げます」
程普と魯粛は朝廷の命令で不本意ながら出兵したことに一刀たちに対して謝罪の言葉を述べる。
「横から邪魔するよ、私は馬寿成だ。それで孫文台の謝罪は何が目的だ、態々西涼まで謝罪だけで来た訳じゃないだろう。理由を説明しろ」
碧の単刀直入の質問に対して、流石に程普も言葉を弄すれば交渉が拗れると判断してここは素直に一枚目のカードを切る。
「我々の目的はこれからそちら西涼…否、維新軍と盟を結びたい。我々の目的は江東を孫家で治めたいが、何せ地位、兵、領地、金等全てにおいて足りない。それをそちらと手を結んで何れは江東を孫家の物にしたいのです」
「何、言ってやがる。この間まで戦をやって「はい」そうですかと手を結べる訳ないだろう!」
翠の意見に馬一族は顔こそには出さないが内心翠の意見には同感であった。
「これは説明不足で申し訳ありません。ただ簡単に手を結ぶだけではありません、お互いが得になる事も説明させていただきます。ここからはこの魯粛に説明させます」
魯粛は江東の穀物や塩、珍品等を涼州に持ち込み、その代償として西涼の軍馬や珍品等を対価して受け取る交易について説明した。
これを聞いて先程まで険しい顔をしていた翠たちの表情も多少和らぐが、一刀や紫苑、碧、真里などは孫堅の真意がまだ分からないので硬い表情を崩していない。そして魯粛の説明を聞いてようやく一刀が発言する。
「話は聞いて分かりました。ですが、別にこの状況で無理して私たちと手を結ばなくても孫堅さんの力量なら何れ江東は支配できるでしょう。何故この時期に危険な橋を渡ろうとしてまで自分たちと手を結ぼうと考えているのですか?」
現在、漢は当然再び一刀たちを討伐する可能性が高い。何度も討伐に失敗して漢という国が混乱すれば孫堅くらいの実力者ならば何れ兵を上げて、江東くらいなら簡単制圧できる力量はあるはず。だったらその時まで待って手を結んだ方が良いのではないかと一刀は考える。
そんな一刀の質問に程普は罰の悪い表情を浮かべて
「まあ…何と言いますか我が主の『勘』の一言ですな」
程普の言葉に皆、呆れた表情をする。
「勘で済んだら軍師なんていらないわよ」
「だから私たちも大殿には軍師がいらないのではないかと思うくらいその『勘』が優れているので呆れているのですよ、ハハハハ」
真里が程普に嫌味な言葉を投げかけるが程普もさらっとこれを受け流す。
「そのように勘が優れているのであれば何れ会って話をしてみたいな。返事については何せ急な事なので、早い事結論を出して早急に返事するよ」
だが一刀は話が重大な事だけにそう簡単には結論を出す訳には行かない。社交辞令も含めこちらから使者を出して返事する事を告げたが
「そうですか北郷様…我が主に話をしてみたいとご所望ですか、では我が主をお会いになりますか?」
程普は笑みを浮かべながら孫堅との謁見をしようと試みる。
「ちょっとお待ちを、ご主人様は私たちにとって大事な人。まだ味方か敵か分からない地にご主人様を送る訳には行きませんわ」
紫苑の姿や言葉を聞いて、程普は噂の北郷紫苑である事が分かり、少し表情を改め
「奥方様ご心配なさらずとも、北郷様ご自身に江東まで来て欲しいと野暮な事は言いません。我が主は既にこの武威に来ていますので、場所させお貸しいただければすぐにお会いなれます」
程普の言葉を聞いて、一刀や紫苑たちは流石に驚きを隠せなかった。
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約2月半ぶりの投稿になり、遅くなって申し訳ありません。 次回はもう少しペースを上げて投稿したいと思います では第13話どうぞ。 |
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コメント | ||
XOPさん>指摘ありがとうございます。戦いなので逆に違和感なく使ってしまいました(汗)。(殴って退場) ドンパチやって→「ドンパチ」は拳銃の音が語源。火器が存在しないこの世界では違和感を感じる。罰の悪い→ばつ(『場所と都合」が語源なので罰は誤り)(XOP) 鼻癒えるさん>そう来ましたかw。アラフォー紫苑というのも考えましたが、恋姫であまり熟女過ぎるのもどうかという事で敢えて若返りさせてしまいました。(殴って退場) 一話目から読んでいてどうしても誘惑に勝てなかったので書きますが、アラフォー紫苑がとっても読んでみたかった!なんで若返るんだ!歳を重ねたホンモノの熟女として不動の地位が得られたのに??!(鼻癒える) 聖龍さん>しかし蓮華にはその勘の良さが伝わっていないので北斗神拳みたいに一子相伝かもw。(殴って退場) 陸奥守さん>それは否定出来ないかもw。(殴って退場) たっつーさん>しかし姉が脳筋で、まだまだ人手不足なので鶸の苦労が絶えませんがw。(殴って退場) 雷起さん>炎蓮と紫苑の未亡人同士の会談も楽しみにして下さい。(殴って退場) 未奈兎さん>これで劉協が来たら一難去ってまた一難という感じですかねw。(殴って退場) mokiti1976-2010さん >自分でもどんな爆弾を投下させようかと楽しみにしていますw。(殴って退場) 更新、待ってました。もしや孫家の勘は、代々受け継がれてた来た物なのか……(聖龍) 波乱と共に孕んとする女性が増えるという確信がある。(陸奥守) 炎蓮さんが一刀をどう見るか。それと紫苑とどんな会話になるか楽しみです♪(雷起) 劉協がこっちに来るのも波乱の一分になりそうやなぁ(未奈兎) 文台さんとの邂逅…波乱しか起きないような気が。(mokiti1976-2010) |
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