恋姫外史医伝・華陀と一刀 五斗米道の光と影 第27話 |
「今日は静かだな」
窓から外を眺めつつ、医務室で呟く一刀。
「医者が暇なのは良い事ではありませぬか」
医務室の寝台でごろごろしながら言う星。
「それはその通りだ。しかしここまで暇なのはここに来て以来前例の無かった事だ。何だか不安になってくるな」
「嵐の前の静けさ・・・・・・という奴ですかな?」
「縁起でもない事を」
「不安だと言い出したのは一刀殿の方でしょう?」
「・・・・・・まあな」
「ところで、暇なら一緒に市へでも行きませぬか?」
「暇だとしても早々ここは空けられん。お前と違って仕事中に抜け出すような真似は出来ないんだよ」
「失敬な。それでは私が仕事をサボってばかりのようではありませぬか。今日は昼から非番なだけでサボっている訳ではありませぬ」
「一昨日、仕事中のはずなのに沙和と真桜と一緒に街で買い食いしてたって凪から聞いたな。他には一週間前だったか・・・・・・」
「仕方が無い。貂蝉でも誘って出かけるとしましょう」
寝台から起き上がり、そそくさと医務室から出て行く星。
「・・・・・・時々、あいつの自由さが羨ましくなる」
そう一人ごちる一刀だった・・・・・・
日が暮れ、辺りが暗くなり始める。
そんな時間になっても、一刀の所には患者どころか相談者すら来る事は無かった。
(嵐の前の静けさ・・・・・・という奴ですかな?)
星の言葉が脳裏をよぎる一刀。
「まさか・・・・・・な」
そう口に出しながらも不安を隠せなくなっている一刀。
そんな一刀に追い討ちをかけるように、廊下から二人分の騒がしい足音が聞こえてくる。
「もしかして、重度の急患か?」
椅子から立ち上がり身構える一刀。
直後、大きな音を立てて扉は開かれ、
「一刀殿!実に良い物が手に入りましたぞ!」
「ご主人様に最初に見て欲しくて急いで来ちゃったわん・・・・・・どうかした?ご主人様」
「・・・・・・いや。気にするな」
深刻な考えに至っていた自分を省みて、とても恥ずかしくなった一刀は右手で顔を覆っていた。
しかしそれも一瞬の事で、一刀はすぐに気を取り直した。
「で?良い物ってのは何だ?」
「ふっふっふ・・・・・・これです!」
星、そして貂蝉が取り出したのは蝶を模った一対の仮面だった・・・・・・
「それが?」
「一刀殿には分かりませぬか?この仮面の美しさ、優雅さ。どれをとってもこれ以上無いと言える逸品ですぞ!」
興奮しながら力説する星。
貂蝉も横でうんうんと頷いている。
「はぁ・・・・・・」
「何だか気の無い返事。せっかくこれを着けた所を最初にご主人様に見せてあげようと大急ぎで帰ってきたのに・・・・・・」
頬を膨らませる貂蝉。
「まあ良いではないか貂蝉。これを着けた所を見せれば、一刀殿も己の無関心さを恥じる事になるであろう」
「そうねん♪では・・・・・・」
「「デュワッ!!」」
同時に蝶仮面を身につける二人。
その瞬間、二人の体から光が迸った。
「な、何だ?」
あまりの眩しさに目を閉じる一刀。
数秒後、光が収まり一刀が目を開けると、そこに二人の姿は無かった。
「はーっはっはっは!」
寝台のほうから高らかな笑い声が聞こえてくる。
「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる!我が名は華蝶仮面!混乱の都に美と愛をもたらす、正義の化身なり!」
「華の香りに誘われて、華蝶の定めに導かれ。響く叫びも高らかに、艶美な蝶が、いま舞い降りる!華蝶仮面二号、参上よぉん!」
そこではそれぞれ黄、赤色の蝶仮面を着けた二人が、寝台の上で口上と共に決めポーズを取っていた。
「・・・・・・」
「うふっ。ご主人様ったら、仮面を着けたアタシ達の美しさに見蕩れちゃってるみたいね。華蝶仮面一号?」
「そのようだな。全く美しさとは罪なものよ」
少しの間、口をあんぐり開けて呆気に取られていた一刀だったが、はっと我に返り、冷ややかな口調で言った。
「星、貂蝉。さっさとそこから下りろ」
「今の私は華蝶仮面一号です。一刀殿」
「アタシは華蝶仮面二号よ。ご主人様」
「いいから早く下りろ。でないと・・・・・・」
そこまで一刀が言った所で、二人の乗っていた寝台が嫌な音を立てて壊れた。
二人の体重(特に貂蝉)に耐えられなかったのだろう。
「「・・・・・・」」
さっきまでの勢いは何処へやら、無言になる二人。
「・・・・・・星、貂蝉として弁償するか。それとも華蝶仮面一号、二号として不法侵入並びに器物損壊の現行犯でしょっぴかれるか・・・・・・どうする?」
「「すいませんでした」」
仁王立ちで冷たい視線を投げかける一刀に対し、深々と頭を下げて謝る華蝶仮面一号、二号だったとさ・・・・・・
「というか、何なんだそのノリは?仮面の呪いか?」
壊れてしまった寝台の後片付けをした後、一刀は二人に聞いた。
「呪いとは失礼な。何故か分かりませぬが、この仮面をつけた途端、体に力が漲り、燃えるような正義感が溢れてきたのです!」
「その結果が、医務室の大事な寝台の破壊か」
「・・・・・・」
気まずそうに黙り込む星。
「まあまあ。ご主人様。寝台の弁償は勿論させてもらうし、今度からはこういう事が無いように気をつけるから今回は許して。ね?」
「今度からって・・・・・・今度何をするつもりだ」
「決まっているではありませんか!正義の味方として悪人を倒し、街の平和を守るのです!」
「警邏の仕事がやりたいなら華琳に頼め」
「そうではなく!弱きを助け強きをくじく!そんな人々の希望となりたいのです!」
「・・・・・・ようするにヒーローになりたい訳だ」
ぽつりと呟いた後、一刀は星と貂蝉に向けて言った。
「そうか。ま、好きにすればいい。ただ、警邏の人間達の仕事の邪魔になるようなら止めさせるから。その辺ちゃんと考えてやれよ」
「任せておいて♪」
ウインクしながら答える貂蝉。
「さて、弁償は当然してもらうとして、まず代わりの寝台を持ってこないとな」
「分かってるわん。とりあえず別の所から借りてくるから、ちょっと待ってて♪」
そう言って出て行く星と貂蝉。
しばらくして、寝台を持って医務室に現れた星と貂蝉は手早く寝台をセッティングした。
「では一刀殿。私達はこれで」
「ご苦労さん」
「あ、そういえば星ちゃん。ご主人様に渡す物があったんじゃないの?」
「む・・・・・・しかし、この状況で渡すのは流石に・・・・・・」
罰が悪そうに一刀を見る星。
「何だ?何を渡すって?」
「いえ。そのう・・・・・・」
「ほら、星ちゃん」
珍しく歯切れの悪い星だったが、うらめしそうに貂蝉を見ながらおずおずとある物を一刀に差し出した。
それは青色の・・・・・・蝶仮面だった。
「・・・・・・」
「いえ、決して怒らせるつもりはなく」
「ご主人様に似合うんじゃないかって買って来たの。星ちゃんは怒らせるつもりじゃなくて、ただご主人様にプレゼントしたかっただけ」
「・・・・・・」
じーっと差し出された蝶仮面と星を交互に見る一刀。
星の方は緊張で体が震えている。
「ふぅ・・・・・・」
一刀は一息つくと、差し出された蝶仮面をゆっくりと受け取った。
「ありがとうよ」
「・・・・・・え?」
目をぱちくりさせる星。
「俺が怒ったのは注意したのに退かず、寝台を壊した事に関してだ。仮面を着けたお前達はともかく、別に仮面自体に恨みはないからな。ありがたく貰っておこう・・・・・・着けるかどうかは別問題だがな」
「そ、そうですか」
思わずほっとする星。
「それじゃあ用も済んだし、アタシはこれで。ご主人様、今日はごめんなさい」
「も、申し訳ありませんでした」
「ああ。今度から気をつけろよ」
一刀に向かって頭を下げた後、二人は医務室を出て行った。
残された一刀はとりあえず蝶仮面を机の中にしまいつつ、
「嵐は去った・・・・・・か」
大きなため息をついたのであった。
しかし
本当の嵐はこれからやってくると言う事を
一刀はまだ知らない・・・・・・
どうも、アキナスです。
出ましたね、華蝶仮面。
しかも一刀が仮面を持ったという事は・・・・・・
ではまた次回・・・・・・
説明 | ||
一刀に近付く運命の刻・・・・・・ | ||
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コメント | ||
黄昏☆ハリマエさん:まあ・・・・・・(アキナス) 未奈兎さん:それで済めば良いのですが・・・・・・(アキナス) ひとこと言えるなら武装錬金が絶対入ってるあのデザイン・・・特に趣味が(黄昏☆ハリマエ) さりげ天然なところもあるし顔隠しに使いそう(未奈兎) mokiti1976-2010さん:無い・・・・・・とは言い切れませんな(アキナス) つまり一刀が華蝶仮面v3に…なるわけないか。(mokiti1976-2010) 有効活用(意味深)ww(心は永遠の中学二年生) 心は永遠の中学二年生さん:どう答えたらいいものか・・・・・・とりあえず仮面の有効活用はする予定です(アキナス) よっしゃ遅めの昼休み!今日は遅めでよかったぜ!「この仮面が無ければ即死だった・・・」ですね、わかります!!(心は永遠の中学二年生) |
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