魔術士オーフェン異世界編A〜年下の女の子を前に、鋼の後継は呻く〜
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「時空管理局・・・?一等空尉・・・?」

キリランシェロの頭にクエスチョンマークが浮かび上がりまくる。大陸最高峰の黒魔術士の養成所『牙の塔』において、最エリートクラスのメンバーであり、頭脳も明晰である彼にとって「『局』がつく大陸中の組織をすべて言え」という問いかけに対してすらすらとすべて言い切れる自信があった。しかし―――

(な、なんだその組織!?しかも一等空尉?派遣警察には階級として一等官とかあるけど・・・)

「・・・ね、ねぇキミ?」

タカマチなのはと名乗った少女がこちらにおずおずと話しかけてくるが、とりあえず無視。

(まさか僕は大陸の外に出ちゃったのか!?い、いや、ありえない。今まで大陸の外に出た人間はいないんだし・・・)

「ねぇってば」

「うわっ!」

なのはは思考の海に沈んでいたキリランシェロの肩を叩いて、意識を志向の海から引き揚げることに成功した。

「ねぇ、キミの名前を教えてよ」

「えーと、僕キリランシェロって言うんだけど・・・なのはさん、だっけ?一つ質問してもいいかな?」

「うん。私からもお願いがあるから一つと言わずいくらでもどうぞ?」

「お願い」の部分が気になったが、とりあえず今はスルーして質問をぶつける。

「キエサルヒマ大陸・・・って知ってる?」

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「う〜ん。キエサルヒマ大陸・・・聞いたことないなぁ」

「そっか・・・」

ある程度覚悟していたとはいえ、予想通りの答えが返されて肩を落とすキリランシェロ。

「キリランシェロ君、これから私と一緒に来てくれないかな?」

真面目な表情でなのはがこちらを見つめてくる。

「一緒に・・・ってなのはさんが言ってた時空管理局ってとこ?」

「うん・・・どうかな?」

なのはがキリランシェロの戦闘を見ていたのは偶然ではなかった。30体ほどのガジェットが現れたという報告を受けたなのははただちに急行。そこで目にしたのだ。AMF(アンチ・マジック・フィールド)―――なのはたち魔導師の天敵であるそれを装備したガジェットを苦もなく蹴散らしたキリランシェロの圧倒的な力を。

「まぁいいですよ。どうせ行くあてもありませんし」

そういったキリランシェロの表情にはどこかあきらめが含まれていた。

(アザリーとかコミクロン達が起こす騒動に巻き込まれて慣れていたつもりだったけど・・・これは極め付けだよなぁ。異世界にいるなんてさ)

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なのはとキリランシェロが迎えにきたヘリコプターで移動しているころ(キリランシェロは鉄の塊であるヘリコプターが浮く原理を不思議がっていた)、高町なのはの所属する機動六課の課長・八神はやては会議室のモニターで親友であり、部下である少女が送ってきた黒ずくめの少年が彼女らの敵であるガジェットを蹴散らす映像を見ていた。

「う〜ん・・・」

「いかがでした、主はやて?」

背もたれに体重を預けて渋い顔を浮かべているはやての背後に控えている桃色の髪の少女がはやてに話しかけた。

「シグナム、この子相当なレアスキルの持ち主やで。それに戦闘のセンスも申し分ない」

「確かに。私が見る限り彼は『本当の戦い』を知っていると思います―――命のやり取りをする、本当の戦いを」

シグナムと呼ばれた少女はキリランシェロの映像を感心したように見つめている。

「それやねん」

はやては椅子を回転させてシグナムにピッと人差し指を向ける。

「この子の戦闘能力は間違いなく機動六課でもトップレベルの実力や。せやけどこの子はなのはの報告によると時空漂流者の疑いがある。強い魔力を持つ時空漂流者は―――」

「その能力を封印された上、管理局の監視下に置かれる―――ですね」

「せや。そこでやな、ウチら―――機動六課が本局に何か言われる前にキリランシェロ君をスカウトして保護する。こっちで監視するみたいな体裁を保っとけば本局も何もいわんやろ。その代わりに彼には『ライトニングス』の子達を守ってもらい、『スターズ』の2人を徹底的にしごいてもらう・・・どや?」

ちょっと胸を張って自分の騎士の反応を待ち構える。その騎士はふぅむと呻くだけの反応。その反応に不満だったはやてが口を開く前に内線電話が鳴り、機動六課『ロングアーチ』通信主任のシャリオ・フィニーノ、愛称シャーリーがなのはとキリランシェロが乗ったヘリが帰還したという報告を受ける。

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「ねぇねぇ、どう思う?」

「主語をつけなさいよ主語を。どうせなのはさんが連れてきた子の事でしょ?」

ここは機動六課の憩いの場である自動販売機や観葉植物が窓際に並ぶ休憩室。ここに2人の少女の姿があった。

青髪の少女はスバル・ナガシマ。スバルにつっこんだオレンジ色の髪の少女はティアナ・ランスター。スターズ分隊に所属する2人は副隊長のヴィータとの戦闘訓練を終えた後、シャワーを浴びて一息入れていたところであった。

「結構可愛い感じだったよね〜。なんて言うか、こう、目が素直な感じがさ〜」

彼女らも戦闘訓練終了後、後輩と共に黒ずくめの少年―――キリランシェロの戦闘映像を見ていたのだ。その時からスバルは目をキラキラさせて恋する乙女モードだ・・・

「でもさー、AMFが通じなかったなんて・・・いったいどんな魔法だったんだろ・・・」

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「――という事です」

時空管理局をはじめ、この世界の事を八神はやてと名乗った女性が神妙な顔で続けていた説明を終えてくれた。

「異世界・・・か」

半ば覚悟していたとはいえ、正式に通告されるとやはりショックではある。キリランシェロは背もたれに体を預けた。背もたれがギィッと軋んだ音を立てた。

「僕はもとの世界に帰れるんですか?」

キリランシェロの基本的と言えば基本的な質問に、はやては申し訳なさげな顔をした。

「大陸の名前だけじゃ、検索には時間がかかるかもしれないですね・・・」

「鎖国しているような世界だし、それも仕方ないよなぁ・・・」

天井を見上げて溜息をつくキリランシェロ。

「それで、僕はどうなるんですか?」

自らの処遇について質問すると、はやては次のような事を説明した。

強い魔力を持つ時空漂流者はその能力を封印され、管理局の監視下に置かれて生活すること、しかしキリランシェロの場合、魔力は必要ない、すなわち制限できないのでその場合どうなるかは分からないが、あまりいい状態にはないらないことが予測される―――

「ただし―――もう一つの道があるんです。時空管理局の一員になるという道が。率直に言うわ。キリランシェロ君、ウチら―――機動六課に来てくれんか?」

率直なスカウトの言葉を受け、キリランシェロは意外に思った。もう少し腹の探り合いをしなければならないか、と思っていたからだ。

即答はせずに瞼を閉じ、『塔』の仲間や師の顔を思い浮かべる。鉄面皮の中にもお茶目な一面もある大陸最強の師。教室のリーダーであり、師と同じ鉄面皮であるが優しい一面を持つ兄弟子。放浪癖と天然な一面がある兄弟子。なぜか三つ編みを2つお下げにして白衣を着た人造人間と称したガラクタで自分に挑んでくる兄弟子。恋多き、しかしよく失恋する赤毛の友。そして、キリランシェロ自身が唯一の家族と、姉と慕う2人の女性―――

彼ら、彼女らにもう会えない―――

「すみませんが・・・すこし、考える時間をください」

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機動六課の建物を出たキリランシェロは当てもなくフラフラと街に出た。戦闘服のまま出て行ったので奇異な目で見られているが、そんな事は気にならないほど頭は真っ白だった。だから―――女の子とそれに絡む男の声が聞こえたのはほとんど奇跡だった。

「ちょっと、やめてください、困ります・・・!」

「いいじゃんかよ〜、俺達と遊ぼうぜ!」

声が聞こえてきたのは建物と建物の間にある細い路地の奥の方。耳を澄まさなければ聞こえなかったかもしれないほどだった。

「どこの世界にも似たよーなバカっているんだね・・・」

半ば呆れながらそちらに向けて足を進めると、壁を背に追い込まれた10才くらいの女の子をキリランシェロと同年代の少年達6人が囲んでいた。彼らはキリランシェロに気が付いていないらしく、執拗に女の子の手をとってどこかに連れて行こうとしている。

「お兄ちゃん達がいいとこに連れてってやる―――ごふぅ!?」

とりあえずキリランシェロは自分の目の前にいた少年を黙って蹴倒した。アスファルトと熱いキスを交わした少年は慌てて起き上がるとキリランシェロに向き直った。

「な、なんだてめぇ!やんのか!?」

少年達は女の子からキリランシェロに標的を変えたようで、懐からナイフを取り出して対峙する。

「ま、来るなら来いよ・・・武器持ってるから手加減できないけど」

「ほざけぇぇぇぇ!」

彼らは激高して飛びかかってきた―――

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結果だけ言うと、彼らはキリランシェロの敵ではなかった。2分後には鳩尾を打ち抜かれ、歯を折られ、武装していたスポークで手の甲を貫かれて気絶させられるなど全員が地面に叩き伏せられていた。

女の子はパタパタと土埃を払うこちらを目を丸くして見つめている。

「えーと・・・キミ、大丈夫?」

「あ、は、はいっ!助けてくれてありがとうございます」

ジーッと見つめてくる女の子の視線に耐えきれずこちらから声をかけると、女の子はあわてて頭を下げてきた。

「駄目だよ?キミみたいな子がこんなところを歩いてちゃ」

少女の目線に合わせてしゃがんでメッと人差し指を立てる。魔術士は大多数が性差廃絶主義者だが、キリランシェロは困っている女の子を助けないような少年ではなかった。

「ほら、大通りはすぐそこだからそっちを通りな。気をつけてお家に帰るんだよ」

「あ、あの!」

立ち去ろうとしたキリランシェロの背に、女の子が声をかけて彼の足を止めさせた。

「私、機動六課・『ライトニング』でフルバックを務めているキャロ・ル・ルシエ三等陸士って言います!キリランシェロさんですよね!?」

「・・・そうだけど?」

キリランシェロは声を掛けられてやむなく振り向いた。

(うっ・・・)

そして彼女のあこがれに満ちた、子供独特の邪気のない純粋な瞳がキリランシェロに向けられた。

「私、さっきキリランシェロさんの映像見ました!すっごくかっこよかったです」

「え?そ、そう?」

女性には(主に姉達のせいで)あまりいい印象のないキリランシェロだが、純粋な憧れを向けられて悪い気はしない。別にキリランシェロはロリコンではないのであしからず。

「これから私達と一緒に戦ってくれるんですよね。とっても頼もしいです」

「え・・・?いや、ちょっと待って。僕はまだ入るって決まったわけじゃ―――」

その一言がまずかった。

「え・・・?」

青空のように華やかだったキャロの表情が一変、雨が降り出す寸前の曇り空のような沈んだ表情に変わる。

「キリランシェロさん、私達と一緒に戦ってくれないんですか・・・?」

しまった!と思う頃にはもう遅い。キャロの眼の端にはうっすらと涙が・・・慌ててキリランシェロは言葉を重ねる。

「い、いや、まだ入るって決まったわけじゃないけどね!?そ、そう。考え中なんだよ!」

「本当・・・ですか・・?」

グスグスと涙をぬぐうキャロを見下ろしてキリランシェロは逃げ出そうとさえ思った機動六課に戻らざるを得ない状況に心の中で呻いた。

(なんでいつもいつも、僕を面倒に巻き込むのは女なんだ!?)

説明
第二弾でございます。最後の行にオーフェン本編4巻の名台詞が出て来ますよ。
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