月に一度の沈みがちな日のおはなし |
「はい、すみません…こほん。今日はお休みさせてください…はい、失礼します。」
かたん。通話ボタンを切ってスマホを傍らに置く。
咳払い、わざとらしくなかったかな。仮病を吐くなんて初めてだから先生に怪しまれてないか心配。
キッチンへ向かい、シンクの蛇口を捻ってグラスに水を注ぐ。置き薬の箱を開けて薬を二錠。グラスと一緒にお盆に乗せて、寝室へと向かう。
「会長、お薬飲めますか?お水持ってきましたから。」
「ん…ありがと…」
血の気の薄い顔を浮かべ、会長はベッドから体を起こす。小さな掌で錠剤を口に放り込み、グラス一杯の水で喉を鳴らしながら胃の方へ流し込む。
露に濡れた空のグラスを受け取り盆に置くと、会長がこちらを覗き込んできた。
「西住ちゃんまで、無理して休まなくてもよかったのに。」
困った様な、申し訳無さそうな顔。わたしは首を横に振る。
「会長ほどじゃないけど、こういう時辛いのはわたしも分かりますから。」
「うん…ありがと。」
会長はさっきより少しだけ血の気が戻り、頬にも血色を帯びていた。
「それにしても参っちゃうよねぇ。大して育ちもしないのに、こういうのだけ律儀に毎月あるんだから。」
冗談めいた軽口を吐く会長だけど、自室に戻るなり食事も取らずベッドに突っ伏したままだった昨日からの様子と、今も下腹部を擦る仕草を見ると笑う気にはなれない。
「なにか食事、作りますね。会長ほど凝ったものは出来ませんけど、お粥くらいなら。」
お盆を手に取りキッチンへ、行こうとした所を会長が袖をつかんで引き留める。
「…会長?」
少しだけ言い淀んで、やっと一言。
「…芋雑炊。」
「え?」
「…芋雑炊が良いな。」
ふふ。甘え下手な先輩に、思わず笑みが零れてしまった。甘え下手は人の事言えないけど。
「お芋、ありましたっけ?」
「干し芋刻んで入れちゃえばいーよ。」
「えぇ…おいしいかなぁ。」
「大丈夫ダイジョーブ、やったことあるから。」
「あるんだ…会長みたいに凝った事出来ないから、期待しないで下さいね?」
クスクスと何時もの様に笑う会長に少しだけ安心しながら、わたしは寝室を後にした。
「…何時も頼りっぱなしだなぁ、私。」
「…もっと頼ってくれても、良いのになぁ。」
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